ガンダム二次作   作:ひきがやもとまち

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アンデッドSEED更新です。
前々からアイデアだけあって形にできなかったのが、ようやく少しだけ使えて少しスッキリできました。次に生かしたいと思います。


機動戦士ガンダムSEED UndeadGIRL THE DESTINY 第6話

 C.E.73。先の大戦を痛み分けという形ながらも、なんとか終結させることができた世界は、危ういバランスの上で平衡が保っていた。

 これまでは地球プラント共に、さきの大戦でこうむった巨大すぎるダメージからの回復を先決として、和平の仮面の下ではあったものの互いに手出しすることを避けてきた。

 

 だが今、よどんでいた流れが出口をこじ開けさせるために、混迷と迷走へといたる道が世界に向けて示されようとしている。

 プラントから強奪された3機の新型MS。

 もし、これらの機体が強奪犯たちの『飼い主』のもとへと無事に持ち帰られてしまった時には、今の平和は一気にバランスが崩れ落ちて崩壊してしまう――かもしれない。

 

 その危険性を、危険性の時点で阻止するために所属不明の敵艦を全力で追撃しつづけるザフト軍の新鋭戦艦ミネルバと、シン・アスカたち若き新世代のエースたち。

 極論すれば、針の先ほどの刺激で破裂しかねない現状世界の平和は、事実上彼らの手に委ねられたといっても過言ではなかったかもしれない。それほどの鬼気迫った緊迫した窮状。

 

 

 ――だが、それほどに重大な使命と重すぎる責任とを背負っての追撃でありながら、ミネルバは未だに2隻の敵艦と1度の砲火さえ交えていなかった。

 廃棄された宇宙ゴミや小惑星のたぐいが地球の引力に引かれて形成された『デブリベルト』を真横に通り過ぎる距離にいたって尚、たった1度のMS戦闘すら仕掛けることなく、この宙域まで追跡するだけしかしてこなかったのである。

 

 

 

「厄介なのは、敵の母艦が2隻あること。それが問題になっている点よ」

 

 ミネルバ艦長タリア・グラディスは、3度目の意見具申にきたシン・アスカやルナマリア、それにゲイツRのパイロットたち2人も加えての出撃要請を聞き終えた後、そう口火を切って状況を説明してやっていた。

 

 彼女自身も、全体の状況をあらためて分析して理解する必要性を感じるようになっており、彼らパイロットたちの欲求不満とストレスとを少しでも解消しておく段階に到達したと判断していた故での行動だった。

 またタリア自身も正直フラストレーションを感じない訳でもない。“鬱憤を晴らす前”に同じ被害者たちとして認識を共有しておくことは悪くない。

 

「敵の目的は、アーモリーワンで奪取した3機の新型機を地球まで持ち帰り、無事に帰還を果たすこと。そう見ていい状況でしょうね。

 だから本艦の目的は逆に、あの奪われた3機の奪還、それが不可能なようなら破壊すること。

 それが達成できなければ、ボギーワンかボギーツーの撃沈に成功したところで何の意味もない。・・・・・・そこまでは、分かっているわね?」

「それはッ!――はい・・・。承知しているつもりです」

 

 艦長からの理路整然とした口調での説明に一瞬、敵とのリベンジを望むルナマリアが思わず反抗的な抗弁を口にしそうになったものの、彼女とて「赤」を纏うことを許されたザフトの若きエース。

 相手の語った内容に理があることを認められぬほど、子供でもなければ愚かでもなく、無知な訳では決してない。

 

 タリア艦長とザフト軍上層部、そして更にはプラント評議会までもが今回の一件に神経をとがらせて対応に苦慮しているのは『ユニウス条約』の存在が念頭にあってのことだと、否応なしに理解させられたのである。

 

 

 

 ――《ユニウスセブンの悲劇》を切っ掛けとして本格的な武力衝突へと突入した先の大戦は、プラント側からの停戦申し入れにより、長い協議の末にようやく終戦までこぎ着けることが可能になった。C.E.72年のことである。

 

 その際に、今後の相互理解への努力と終戦のための条件として定められた決まり事として、《ユニウス条約》という約定が地球各国とプラントとの間で交わされ合い、その中の一つに、『各国のMS、MA、戦艦などの保有数に国力に応じた制限を設ける』という条項が記載されることになる。

 

 発案者の名を取って『リンデマン・プラン』と名付けられた、この条項でいうところの「国力」とは、人口やGNPなど幾つかのパラメーターにより算出された数値を基準として兵器を保有していい最大数を定めるものとする。そういう内容の条文だ。

 

 当然ながら宇宙に造られた密閉空間のコロニー国家で新興国でもあるプラントよりも、地球上に浮かぶ大陸を国土として領有している既存の大国の方が、『国力が少ない小国だ』と判定される可能性は天文学的にならざるを得ない。

 

 前大戦初期において、新機軸の機動兵器『MS』を投入することで地球軍を圧倒してのけたザフト軍であるが、大戦終盤に地球側もMSの開発ノウハウを手にした今では『数量』は勝敗を左右する無視できないファクターとなっている。

 極端な話、小さな基地の防衛隊に『何機のMSが回せるか?』と世知辛い計算でやりくりする羽目になりかねないのが、この条約の内容だったのだ。

 

 それでも尚プラント側が条約締結を受け入れたのは、「条約締結の場」として自分たちにとっての悲劇の地を選ばせるという要望が通ったことと、自分たちが有する技術力に絶対の自信あったからこその決断だった。

 

 そうして『ユニウス条約下の戦争で性能を発揮できるMS群』として生み出されたのが、ザクなどの《ニューミレニアム・シリーズ》や、敵に奪われた《セカンド・シリーズ》と名付けられた『装備換装型』や『可変型』などの特殊機構を搭載した新たな新型MSだ。

 

 MSを保有できる数が限られている状況下で、1機の機体が複数の戦場に対応できるよう特化型の局地戦仕様に、装備の換装やボタン一つで変えられれば、拠点防衛に配備された一機のMSだけで複数のレンジに対抗することが出来るだろう。

 その逆に敵は、攻めるべき敵拠点に特化型の局地専用機があることを常に警戒して攻撃隊を編成しなければならない足枷をつけさせることが可能になるのだ。

 

 ・・・・・・だが逆に言えば、兵器の最大保有数で圧倒的に優る地球軍が、可変MSを開発できる技術を手に入れてしまったらどうなるか・・・?

 優位性は一変して、各地で危機的状況に陥らされる拠点が続出するのは避けられない。

 

 そうなる危険性を未然に排除することが今回、ミネルバ隊に与えられていた使命だった。

 ただ敵を倒せばいい、勝てばいい、というものではなく、『敵がMSを持ったまま逃げられたら負けになる』・・・そういうハンディキャップを背負わされた追跡行が今回の航海の内訳だったのだ。

 

 

「仮に、私たちがボギーワンを撃沈できそうな状況に至れたとしても、彼らは無事な味方艦に奪ったMSだけを載せ替えてから、玉砕覚悟で足止めに徹してくるでしょうね。

 そうなればコチラも片手間で相手取って、逃げるもう一隻の追跡も同時並行して行うしかない。

 逆にもう一隻の方から先に落とそうとすれば、ボギーツーが足止めとなってボギーワンが今のまま逃げ続けるだけ」

『・・・・・・』

「二艦とも同じ戦闘の中で撃沈するか拿捕できなければ、追跡そのものが不可能になる危険性が高まりすぎるのよ。

 あの敵“たち”の逃亡を阻止して攻撃するには、味方が要るわ。その当てが得られるまで安易な攻撃をコチラから仕掛けるわけにもいかない。そういう制約が、敵と違って私たちの側には架せられている」

『・・・・・・・・・』

 

 艦長からの説明に、シンたちとしては声がなければ、言葉もない。

 正直、甘く見積もっていたと、シンとしては思わざるを得ないところだった。

 かつての苦い出来事の記憶に苛まれてきた彼の考え方は、『敵より遙かに強い力を持つことで敵に攻撃は無意味だと諦めさせて平和が保たれる』という至極単純なものだった。

 

 “アスハ”や“オーブ”の言うような口先だけの綺麗事ではなにも守れず、相手が撃ってくるなら戦って倒すしかないのが現実の戦争なんだ、と。

 彼自身はずっと、そう思い続けながら念じながら今日までの日々を送り続けてきた過去がある。

 

 だからこそ、たかが『戦艦が一隻増えただけ』で、それほど条件が一変することもあるなど考えたこともなかった。

 コッチの話も聞かずに撃ってくる、身勝手でバカな連中のやる事なんてと思ってきたが、“敵”というのは意外に考えて動いてくる連中だったんだと、ほんの僅かだが敵への評価に上昇修正がくわわってもおかしくない程度には本当に。

 

 そんな意見具申にきた部下の心情変化に頓着した様子もなく、タリア艦長は「そんな状況の中」で自分たちに語って聞かせた理由の部分を、少しだけ明るさのこもった声音で付け加える。

 

「幸い、このコースなら何とか地球とのコンタクトを取られる寸前に到着できる味方艦が二隻だけだけど確保できたと、軍本部から先程ようやく連絡を取ることができたわ。

 “ジュール隊”の《ボルテール》と《ルソー》が援軍に来てくれるそうよ。

 彼らと協力してボギーワンおよびボギーツーを挟撃して撃沈することが、あなた達の次なる任務になるでしょう。

 各々の奮起と活躍に期待するッ」

『り、了解ッ!!』

 

 急に変わった相手からの軍人らしい口調での軍人らしい物言いに、忸怩たるものを全員が感じていたシンたちは一斉に敬礼してブリッジを退室していく。

 不満だった部分は、納得までは無理でも理屈の上で整合性がとれてることだけは理解できたし、どのみち出撃して敵と戦うときは直近に迫っているのだ。

 なら怒りも不満も、敵に対してぶつけるべきもので、味方や同僚や上司に向けるべき感情ではないのだから。

 

 

 

 

 だが数時間後。けっきょく彼らの予定は大きく変わることになる。

 プラント本国から急遽、驚くべき情報がもたらされたからだ。

 

 ミネルバに同乗しているプラント評議会議長デュランダル宛てに届けられた、最優先として指定されているホットライン。それによってもたらされた情報。それは―――

 

 

 

 

 

 

 

「なんだと!? ユニウスセブンが動いている、だって・・・っ!?」

 

 割り当てられていた士官室の一室で、デュランダルから聞かされた報せを聞かされた瞬間。

 カガリ・ユラ・アスハは愕然となり絶句させられることしか出来なくなっていた。

 

「――はい、姫。今し方プラント本国からもたらされた最新情報です。

 いったい何故、そんなことになったのか原因はまだ判明しておりませんが、しかし動いているのです。それもかなりの速度で、もっとも危険な軌道をとって・・・・・・地球へと向かうコースを」

 

 席を立って驚きを口にしただけで、それ以上の言葉を言えなくなってしまった相手に向かい、深刻な口調ではあるが冷静さを失ってはいない落ち着いた声音でデュランダルは説明を続けていく。

 彼の傍らにはタリアも随伴し、上司に負けず劣らずの沈着な態度を保つことはできていたが、だからといって相手の狼狽えざまを笑う気には“残念ながら”なれそうもない。

 

 それほどに驚くべき情報なのである。たとえ相手の少女でなくとも同様の反応をする者はコーディネイターにも少なくはあるまい。

 とても他人事として笑う気には、タリアにはなれない心境にあったのだ。

 

「しかし・・・しかし、いったい何故!? どうしてこんなことに!?」

「それは・・・分かりません。隕石の衝突によるものなのか、なにかの影響で軌道がズレたことが要因か・・・・・・とにかく動いていることだけは確実です。それだけはすでにミネルバでも確認をとることができましたから」

「しかし! ・・・いったい、なぜ・・・あれは百年単位で安定軌道にあると言われていたはずのもので・・・・・・どうして!?」

 

 カガリは突きつけられた現実を拒絶するかのように、同じ言葉を繰り返し続ける。そうすることで現実の危機が去ってくれるなどと思っているわけではなかったが、それでも言わずにはいられなかった。

 

 なぜ――どうして、と。

 そんな言葉を発しても、いくら疑問を口にしようとも。何の役にも立たないという時だと分かっていながら、それでも人は口にせずにはいられないのだ。

 

 なぜ――?と。その答えを仮に教えられる者がいて、正しい答えを聞けさえすれば何かが変わると思ってでもいるかのように・・・・・・。

 

(――いえ、違うか)

 

 不意にタリアは、そこまで考えを進めたときに“その可能性”に思い至り、自分が考えていた思考に修正を加える必要性に気づかされる。

 

 いったい何故、どうしてこんな事に?――それら現在進行形で進んでいる事象が起きてしまった原因について考える思考が、必ずしも無意味ではなく有意義である可能性があることに思い至ったのだ。

 

 もし仮に、この《ユニウスセブン》による地球重力圏への移動が、隕石の衝突かなんらかの自然現象が原因で起きた事故であったなら、今さら『起きてしまった後の事故原因』を知ったところで何か出来るわけもなく、再発を防ぐための教訓とするぐらいの価値しかあるまい。

 

 

 ――ただし。

 これが『事故』でなかったなら話は別になる。

  

 

「落ちたら・・・落ちたらどうなるんだ!? オーブ――いや、地球は!?」

「――あれだけの質量のものです。

 無論プラントの方でも、原因の究明と回避手段の模索に全力を上げておりますが、阻止できなかった時には・・・・・・私などから申し上げずとも、姫には既にお分かりでしょう?」

 

 視界の中でカガリが、小さな背中が凍らさせる姿が目に映る。

 ユニウスセブンを含めたプラント・コロニーの直径は、およそ10キロに及び、そんな代物が地球にいる人々の頭上に落ちてしまったときのことを考えれば当然の反応だった。笑う気にはなれない。

 

 ――だからこそ、それを見たタリアが抱いた懸念は先程より更に強いものとなる。

 

 もし今回の事態が事故ではなく、『なんらかの目的を果たすため』『何者かが意図した結果』として引き起こされた【事件】だったとするならば。

 その「目的」と「攻撃の対象」は、明白すぎるほどに明白な状況で、そう考えた方が辻褄が合う部分が多すぎるのも現在の自分たちが置かれている切迫した現状。

 

 

 偶然にもデブリベルトに浮かんでいた《ユニウスセブン》の軌道が変わり、運悪く地球の重力圏に捕まるまで発見されることなく移動できてしまい、皮肉なことに地球からの核攻撃で崩壊させられたコロニーの亡骸が地球へ向けた弾頭として落下していく形となった――

 

 

 これほどに『都合のいい偶然』が連続して起きたせいでコロニーが地球に落ちそうになってしまった・・・・・・などと考えれるほどタリアの目は節穴になった覚えはない。

 そしてコレが、何者かが何らかの目的のため意図的に行った行動の結果だった場合、その何者かはコロニーを落として『達成したい目標』を阻止されたくはあるまい。

 

 必ずや、妨害しようとする者たちの行動を妨害してくるだろう。

 そうなった時には、このコロニー落下が『事故か?』『事件か?』という起きてしまった出来事の原因についての答えは、万金の値がある宝たり得るだろう。

 人の命という、何者よりも尊い価値がある宝を『奪われるか?』『守り切れるか?』という命題を左右しかねない存在になれるのだから。

 

 

「ついては私は、奪われた新型MS奪還を放棄してでも、この《ミネルバ》にユニウスセブン落下阻止の援軍として向かわせるため特命を出そうと考えているのです」

「!? この船も向かってくれるのか! だ、だがプラントとて今の状況は決して・・・・・・」

「ええ、確かに。本来であれば別働隊を向かわせるべき情勢ではあるのですが・・・・・・現在この中域には《ジュール隊》しか展開可能なザフト軍部隊が存在しない状況になっており、他の部隊を向かわせても位置的に間に合いません。

 さいわい、と言うべきなのか現在地点から位置も近いミネルバを向かわせることが現時点では最善の――と言うより唯一の我らが取り得る道なのです」

 

 具体的に説明してくれるデュランダルの言葉に、カガリは一も二もなく飛びついて大きく首を何度も振って首肯する。

 先日の《アーモリーワン》襲撃と違って、今回の事態は自分たち地球に住んでいる者たちにとってこそ重大事であり、コロニーで暮らす彼らプラント市民たちにとっては正直なところ対岸の火事でしかない問題のはず。

 

 その逆に、奪われた新型の可変型MSの存在は、犯人がおそらく大西洋連邦だろうことを鑑みれば将来的な危機を未然に排除しておくためにも最優先事項のはず。

 それを中途で投げ出してでも地球を救うため手を貸してくれる相手からの好意に、カガリの側が否やを返せる理由などあるわけがない。

 

「―――・・・・・・」

 

 そんな彼女を眺めやりながら、タリアは今し方、自分が思いついたばかりの懸念を口にするわけにはいかない立場に彼女はある。

 地球からの攻撃によって墓標とされたコロニーが地球に落ちようとしている現状が、偶発事ではなく何者かの意図による攻撃である可能性など、それをして『損をしない者たち』が誰であるかを考えれば、地球の一国の代表がいる場所でザフト軍人が口にできる話題では全くなかったから。

 

「私・・・私にも、なにかできることがあるのなら・・・・・・」

 

 そういった事件を悪意的に見る目を備えていない、良く言えば純粋無垢で、悪く言えば外交音痴なカガリだったからこそ、その言葉は心からの正直な想いではあったが・・・・・・一方で、本人自身が誰よりも分かっている発言でもある。

 

 

 今の自分にできることなど、何もない。――という現実をだ。

 

 

 ただでさえ、コーディネイターでもないナチュラルの生まれで、実戦経験があるとはいえコーディネイター用のOS搭載機しか配備されていないザフト軍艦に同乗しているだけの政治家でしかない自分に、いったい何事をなす力があるというのだろう・・・?

 

 己の無力さに打ちひしがれて、自己嫌悪と罪悪感で落ち込むことしか出来なかったカガリだが、意外にもデュランダルは彼女からの力ない言葉に嬉しそうな笑顔を浮かべて相手を見て、

 

「そう言っていただけると助かります、姫。

 実は、お力をお借りしたいことが一つありまして」

「な、なんだ? 私に出来ることがあるなら何でも言ってほしい! 遠慮などせずにっ」

「ありがとうございます。実は姫に、折り入って協力して頂きたいこと――いえ、正確には姫の側から協力を申し出て頂きたい案件があるのです」

「・・・?? どういうことだ? 私には言っている意味がよく・・・」

 

 戸惑うカガリに対してデュランダルは丁寧に、だが要点をまとめて分かりやすく事態を説明する。

 彼はカガリから、オーブ連合首長国の代表主張としての立場で、コロニー落下阻止のため『同盟国プラントへの協力要請をおこなった』という形をとってほしいと言うのである。

 

「オーブからプラントへの協力要請・・・・・・それは私個人から議長に対して、という形でということか?」

「はい、仰るとおりです。実のところ今回の件で、私がもっとも懸念していたのは、その点でして・・・・・・」

 

 多少の苦々しさを込められた口調で言いながら、デュランダルは静かに頭を振る。

 実のところ、たとえ地球に落ちようとしているコロニーを破砕するためとはいえ、ザフト軍の宇宙戦艦と地上でも活動可能な新造戦艦が、軌道上近くまで接近してくるというのは、地球の国家群から見て好ましいことでは全くないのだ。

 

 それに乗じて何を仕掛けてくるか分かったものではなく、その危機感から先制攻撃を受けさせられる危険性すら無いとは言い切れない。そんな危うい立場になる位置にまで自分たちは今、接近しようとしている。

 

 ――だが同盟国であるオーブの代表が、危機を知って急きょ助けを求めたプラント側から派遣された援軍という形でなら、3隻程度までの軍艦なら国際法的に許容範囲に収まることが可能にはなる。

 

 無論それでもなお大西洋連邦やユーラシアなど対プラント強硬主戦派の大国たちは難癖をつけてくるかもしれないが、オーブとて今や一応ながらも独立を回復した主権国家ではあるのだ。権限の範囲内として許される行為ではある。

 それすら認めぬという場合には、さすがに周辺諸国からも彼らに対して非難が寄せられることになるだろう。

 

 ただでさえ、『先の大戦で国防産業理事がプラントに《ジェネシス》発射の口実を与えてしまう非人道行為を断行した主犯だったこと』や、『地球軍本部《JOSH-A》を味方の兵たちごと虐殺して戦意高揚のプロパガンダに利用した一件』など、終戦によって明らかとなったスキャンダルの数々で、非難と糾弾にさらされる立場となっているのが現在の大西洋連邦なのだ。

 

 他国が戦火の傷跡で力を失い、逆に自分たちは『量産型MS』という新たな力を手にしたおかげで戦後の地球では一極体制が築けつつあるとはいえ、未だに非難と追及の声が止んだわけではない。潜在的に不満と恨みが政府に向けて注がれている状況が続いている国。

 

 少なくとも、彼らがプラント併呑の野望を捨てていない限りは、地球各国を糾合した地球連合軍を再結成する必要があり、これらの不満はそれを妨げる要因になりかねない。

 むろん必要があると判断しただけで躊躇いなく平然とやってしまう連中ではあるものの、流石に今の状況でそこまで口出ししてくるとは考えにくかった。

 

 だいいちコロニーが地上に落ちて困るという点では、彼らとて条件は同じなのだ。

 形式を整え、数が少数だけという範囲でなら、向こうとて必要以上のイチャモンをつけてくる余裕は大西洋連邦とてあるわけがない。

 

「正直に申し上げるが、この救援の理由も一つにはオーブからの救援要請を受けた我が国が、できうる限り最大限の支援を行った――という生き証人と実績を求めてのものなのが本当のところでもあるのです。

 それは新型を奪った敵艦の捜索を断念することにも繋がってくる問題でもある。

 ・・・・・・地球に向かって落ちていくコロニーを脇目に、“自分たちから奪われたMSの奪還を優先して見て見ぬフリをした”・・・などと報道されてしまえば、各国の世論はどうなることか・・・・・・と」

「・・・なるほどな。ブルーコスモス辺りが喜びのあまり踊り出しそうな格好のネタを、わざわざ提供してやるべき理由はないわけか」

「彼らなら、それぐらいのことはやる危険性はあります。『アラスカ』の時と同様に、我らプラントが意図的におこなった虐殺だったとして煽るのは、彼らの十八番。

 我が軍の新型MSを強奪した船が、大西洋連邦のものである可能性が高い現状、その程度の備えは必須かと」

 

 デュランダルからの提案と説明に、カガリは落ち着きを取り戻して深く首肯する。

 確かに現在の状況だけを切り取ってみれば、ミネルバを含めたザフト軍艦隊が意図的に地球へとコロニーを落とすため仕組んだ結果こそが、いま陥っている地球の危機という見方も成立することは可能ではあるのだ。

 そうなった時に備え、加害者の立場を押しつけられそうな自分たち自身や身内だけではない、第三者からの証言も多く確保しておきたいという議長からの要請はカガリとしても理解できるものがあり、また『地球プラント間の戦争再開を避けるため』という目的のための行為となれば彼女の側に否やなどあるはずも無い。

 

 ただ、そんなカガリでも議長から次の提案が出されることまでは、まったく想像することは出来なかった。

 

「分かった。スカンジナビア王国を始めとして、オーブが有する全てのコネと外交筋とを使って、今回の件とプラントは無関係であることを訴えかけてもらえるよう働きかけると約束する」

「重ね重ね感謝に堪えません。――つきましては、姫。

 その情報に信憑性を付与するためにも、此度のコロニー落下阻止をザフト軍とオーブ軍との共同戦線という形でおこなう、というのは如何でしょうか? 法的にもより根拠が増す、と私などは思うのですが」

「・・・自国がある地球を守るため、オーブ軍が前面に出て、ザフトが支援した――という形をとるということか? 良い案だとは思うが、今からでは我が軍に援軍として間に合う部隊など一つも―――」

 

 

「いえ、一人だけお貸し頂ければ十分です。それだけでも体裁は整えられる。

 姫の護衛役として同行している最高の戦力―――“アスラン・ザラ”君を一時的にお貸しいただければ、これ以上の力添えは他にない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなコロニーの移動一つで激変してしまった状況の中。

 ザフト軍が名付けたコードネーム『ボギー・ワン』こと《ガーティー・ルー》のバリエーション艦である『ボギー・ツー』こと《ガーティー・Jr》は、僚艦のさらに先に進んでミネルバからの攻撃を任せる位置取りへと陣形を変更させていた。

 

 あるいは、敵の待ち伏せがあったときには最初に攻撃を受けるカナリア艦とも表現できる位置取りになっていたため、この宙域にいる誰よりも現場の状況を直接知ることができる束にあったのだ。

 

 その《ガーティー・Jr》の艦橋に今、艦長であり司令官職も兼任している少女がホットラインで呼び出され、緊急事態――と思しき事態の報告をもたらされ、対処を求められる直後になっていた。

 

 

「地球の軌道上に《ユニウスセブン》が浮かんでるのを見つけたって、本当なの?」

 

 緊急報告を受けてブリッジに入ってきたマユは、副長席シートの背もたれに片手をついて部下に問いを投げかける。

 無重力空間を短い距離だけ回遊した身体を、シートに掴まって停止させたとき、反動で短めの髪先から僅かに水滴が宙に浮かび、ゴツい副長の鼻孔を微かな香気が刺激する。

 

 戦闘が始まるまでの休憩時間をつかって、自分たちの“長”が私室でシャワーを浴びていたところを呼び出してしまったことを、その芳香は証明するものだったが、敢えて副長は気づかなかったフリをする。

 

「ハッ! ユマ様。こちらの観測でも先ほど確認が取れたところです。右上のモニターをご覧ください」

 

 そう言って副長が指し示した天井付近に設置されているモニターのひとつには、黒一色の宇宙空間が映し出されていた。

 画面に映っている、現在地より数千キロ以上彼方の宇宙空間の景色は、無論のこと現実の風景を投影された映像ではなく、各種センサーやコンピューターAIを用いて統合した情報から想定される分析結果をコンピューターグラフィックスで再現されたものでしかない。

 

 このため所々に不自然な箇所や曖昧な部分が多くを占めてるのが、この種の映像としてデフォルトの出来になって久しいのが宇宙進出を果たした後の地球人類にとっての常識だ。

 その点は、新人類を称して優秀さを誇りとするコーディネイターでさえ、質の上下はあっても問題の根本解決にまでは至っていない。

 

 だが、その程度のクオリティでしか再現できていない映像であって尚、その奥の空間には明らかに周囲の闇に包まれた空間とは異質なナニカがあるような気にさせられ、目をすがめて注視せざるを得ないものが、その映像には確かにあった。

 

「でもなんでアレが、こんな宙域に・・・・・・? あの空飛ぶデッカイお墓って、永遠にデブリベルトを彷徨い続けるよう設定された宇宙ピラミッドになったって聞いてたんだけど・・・」

 

 副長から聞かされた報告の内容に、上官はどこかピントが外れた反応を帰してくると小首を傾げ、その愛らしい容姿をいっそう可愛らしい美少女そのものにしてくれていた。

 たまたま見た人々が思わず頬を緩めるか、もしくは趣味趣向によっては鼻の下を伸ばしそうな愛くるしい姿ではあったが・・・・・・実のところ見た目など問題視していられる状況では全くない。

 

 

 ――《ユニウスセブン》は地球とプラントが本格的な武力衝突にいたる切っ掛けになる惨劇が起きた悲劇の地の名であり。

 地球から放たれた一発の核ミサイルによって、住人ごと皆殺しにされて壊滅させられたコロニー、その残骸を記念碑として最低限修復させた先の戦争における悲劇の象徴とも呼べる土地“だった場所”だ。

 

 戦争終結と相互理解の努力とを約して結ばれた『ユニウス条約』の名の由来にもなっている場所で、条約調印そのものも彼の地を式典会場として行われている。

 

 一方的に核兵器を撃ち込まれて民間人を虐殺された側のプラントが、さまざまな問題を残しながらでも犯人側の主犯とも呼ぶべき大西洋連邦とも講和条約に応じたのには、彼らにとっての悲劇の地を条約締結の記念碑として、永遠に保存し続けることを相手国側が受け入れたことが大きく影響していた・・・・・・そのように評されるほどプラント社会にとっては巨大な意味合いをもつ場所。

 

 

 だが、しかし――

 

「しかもアレって、デブリベルトに放流してるはずじゃなかったっけ? 100年単位でフワフワ浮かびながら幽霊みたいにノンビリと」

「へい、そのはずだったんですが・・・・・・どーにも何かあったようでして。隕石にでも追突された影響か、なんかのエネルギーに引っ張られて無理矢理に軌道を変えられちまった結果か・・・・・・原因は今んところ不明ですが、地球の方角に向け動いていることだけは確実です」

 

 年上の部下から真面目くさった言いようで告げられ、上官の少女はむしろ肩をすくめて苦笑するような表情で上向きに相手の顔を見上げて短く返す。

 

「念のため聞くんだけどさ――それ本気で言ってる?

 “偶然にも隕石がユニウスセブンに当たって移動を開始して”、“運悪くレーダー網や警戒の網に引っかからずに地球軌道上まで流れてくるのを誰も気づけず”、“地球の重力に捕まってから察知するのがやっとだった不幸が起きるときは続くものだ~”とか。

 そんな風に、お説教好きで、もっともらしく聞こえるだけの平凡すぎる運命論モドキみたいなの語ってお金取りたがる人達みたいな言い分が、ホントに現実であり得るって・・・・・・キミほんとにそう思って言ってた? 今のって」

「まぁ―――奇跡でも起きれば、ありえなくはないだろう程度の話ではありますが」

 

 皮肉を効かせすぎてドギツさの域にまで達しつつある、年齢でも身長でも下回る上官からの返答に、副長としては相手と同じような態度で同じような反応を返すしかない。

 正直なところ彼もまた、最初に報告を受け取ったときから、その可能性が一番高かろうと考えざるを得ない事態が、今の自分たちが直面している状況なのは理解していた。

 

 ただ、証拠が得られてない状況下で副長が、憶測と推測だけで上官に報告するわけにはいかなかったので、敢えて言い方を選んだだけのこと。

 

 客観的に見れば、“そーいう理由で起きた事態だ”と考えるのが妥当であることぐらい、誰だって考えつく程度の問題だろう。

 ただ、“そーだった場合”に起きうる今後の推移と、生じる事態と規模のせいで、考えたくないし偶然であってほしいと願う人が多い事態だから、そー思う人が多いだけ。

 

「少なくとも、この距離まで近づいちまってますので、既に阻止限界点は超えちまってます。

 完全破壊して無傷で済ませられるか、できなきゃ大ダメージの二択しかない状態になっちまった後のようで」

「壊されたコロニーを質量弾にするためコロニージャックして、地球へのコロニー落としに再利用・・・・・・か」

 

 絶望的とも言える状況を副長の口からあらためて解説され、彼女としては肩をすくめるしかない。

 なまじ復活してから“そーいう人の下”で過ごしてきてしまったせいで、今この時の出来事だけではなく、“その先に起きること”の正確な予測までできるようになってしまってたことが、こういう時には徒になる。どーにも本気でのやる気が出しづらい。

 

 副長も怪訝そうな顔で腕組みしながら唸るしかないほど、厄介な代物と厄介な宙域で遭遇する羽目になってしまった予定表にはない予期せぬ不幸な出会い。

 

 だいぶ年下の上司が言うとおり、あの記念碑コロニーは現在デブリベルトに浮かんでいるはずだったもので、自分たちが先ほど通り過ぎてきた場所のどこかをクラゲのようにプカプカと平和に回遊し続けている。それだけのはずだった代物のはず。

 どう足掻いても、こんな位置にまで地力で移動してこれるとは思えないはずの代物。

 

 だが今、それは確実に望遠モニターにコンピューターグラフィックスで映し出されて、自分たちが乗る艦の遙か前方に馬鹿デカい威容を見せつけてきている。

 何かがあったのだ。それは間違いない。

 

「さしづめ、『スターダスト』ってところかな。新たな戦火をもたらすために地球に落とされる、今の時代を力ずくでも変えさせるための一撃。

 ここまでユニウス運んできた人達がいた時には、万々歳って結果なんだろーね」

「どーにも、向こうさんの中にも『今の平和はイヤだ』って連中が一定数はいるようで」

「これが一部だけでも成功できたら戦争再開だろうしなぁー。また戦争がしたくてしたくて仕方がないコーディネイターが、敵さんにも結構いたってことだねぇ」

 

 気楽そうな口調で応えながら、ユマと名を変えた戦争による犠牲者となっていた少女だったモノは溜息交じりに、そう呟く。

 仮に今回の一件で被害が防げなかった時、隕石衝突かなにかによるコロニーの落下事故として報道されるか、ザフト軍によるコロニー落としの謀略として公式発表されるかで多少の違いはあるとは思うが・・・・・・おそらく結果は変わらない。戦争になる。ほぼ100パーセント確実に、だ。

 

 コロニー落としだったと公表された場合には、当然のように各地でアンチ・コーディネイターの機運と世論が爆発的に増殖するだろう。

 そこをブルーコスモスが扇動して組織に組み込み、組織化していく流れができあがる切っ掛けになる。

 

 先の戦争で、敵国奥深くまで大侵攻する音頭取りをやって、地球に《ジェネシス》を撃ち込まれる大義名分を敵に与えた『大量虐殺の無能政治家』として先代盟主が敗死したことで一時期はテロリスト呼ばわりされてレッテルを貼られていたブルーコスモスだったが、最近は再び勢力を盛り返してきているし、復権も狙っているだろう。

 

 その彼らが、今回の被害を無視するはずもない。

 『ブルーコスモスの栄光再び』を実現するため盛大に利用して、手段も犠牲も選ばなくなるのは目に見えている。

 

 といって、事故だったと報道しても同じことだ。

 今度はプラント内からザラ派の残党などを始めとする過激派や主戦派、講和反対派が息を吹き返すことになる。

 元から戦闘中の混乱で元首が暗殺されて本国でもクーデターが発生し、被害が大きくなりすぎたからこそ「今は講和に応じるしかない」という意見が多数派になることが出来たのがユニウス条約の実情だったのだ。

 

 相手が大きく弱体化したときには、たとえ条約を無視してでも抗戦して占領し、完全に後顧の憂いを絶ってしまう好機と見なすのが外交や戦略での常識でもある。

 内実はどうあれ平和主義を主張しているデュランダルでも、その状況下で出兵と侵攻を止め続けられるのには限界があるだろう。

 

「先行して出させていたニーベルの奴が撮影した画像です。

 どうにも、“光のなかに妙な感じがする”と言ってきてやすが・・・」

 

 やがて第二報がもたらされた。偵察のため先行出撃させていた機体から画像データが送られてきたのだ。

 画像は粗く、距離は遠く、コンピューターによる予測再現が大部分を占めている、薄ボンヤリとした光景の宇宙空間が写っているだけという印象のプリントアウトされた画像写真。

 

 ただ半壊したままの巨大な姿で地球に近づきつつあるコロニーだけが、まるで人類発祥の星に取り憑いた悪霊のように、巨大な亡霊のごときボロボロの禍々しい巨大な姿だけがハッキリと分かるのみ。

 

 無限の闇に覆われた宇宙で、光の点滅は目立ちやすいものではあったが、宇宙戦争で破壊された残骸の中には電源が死に切れていないものも少なくはなく、意外に宇宙空間での光点はそれなりに数がある。その中から特異な一つだけを見分けるのは容易ではない。

 

 だが、『ヒトを辞めたおかげ』で蘇ってから、知能指数と記憶力とが一般人だった頃より遙かに上昇している今の彼女には、同じ情報からでも得られる回答や予測は通常より遙かに多い。

 

「――間違いなく、モビルスーツのマズルフラッシュと、テール・ノズルの光だよ。

 多分、コロニーを運んできた人達が、作業を阻止しろって本国から命令されたザフトの人達が近づいてくるのを察知して、迎撃するために編隊組んで飛び出しちゃったところをニーベル君に視認されちゃったんだと思う」

 

 明快にユマは言ってのけ、年長者であるはずの副長を唸らせる。

 

「あくまで運んできた側の目的は、『阻止されるのを阻止すること』だから、戦闘開始までには少しは時間あるかもだけど・・・・・・」

「なるほど・・・・・・で、どうしやすかい?

 後ろから付きまとってくるストーカー野郎の船でもけしかけてやって、俺等は高みの見物でも決めつけやすか?」

 

 上司の分析に深く頷いて賛同を現しつつ、野卑た口調の副長が語ったのは他人事のような口調での冷徹な戦法。

 現在、自分たちの後方にはアーモリー・ワン強襲時からずっとザフト軍の新鋭戦艦『戦の女神殿』が付きまとっている状態が続いている。

 

 相手側にも、危なくなったら片方が捨て石となって残りを逃がすという自分たち側の作戦方針は伝わっているらしく今日まで禄に戦闘を仕掛けてくることもなく安全な航海を続けることが可能だった訳だが・・・・・・それは同時に、他の味方と挟み撃ちにして挟撃できるタイミングを計り続けていることを意味するものなのは明白なもの。

 

 鬱陶しい限りな相手ではあったが、かといって奪った機体を無事に持ち逃げできている状況下で自ら危険に飛び込むのでは本末転倒というもの。

 敵艦に途中で追いつかれて、向こうから攻撃を仕掛けられる危険性が高いというなら別として、安全圏まで無事に到達できそーな間は放置したまま進むのが妥当な判断。

 

 だが、地球の重力圏が接近しつつある現状での現在地は、敵が自分たちにアプローチを仕掛けられる最終防衛ラインと呼ぶべきもの。

 おそらく他の味方艦も集めれるものは集めた上で、最後の総力戦を仕掛けてくる腹積もりだったのだろう。

 そうなる前に、数の優位が生かせる最後の時間である今の内に罠を仕掛けて、二隻がかりで仕留めてやる―――そういう算段でいたのだが。

 

 予想外の状況変化で作戦はお流れになってしまった上に、予定では大気圏のギリギリ外側で機体受け渡しを行うはずだった『出迎えのバス便』との合流予定ポイントへの道のりまでデカ物で封鎖されてしまったというのが、彼女たちが置かれている現在の状況だった。

 

 副長は逆に、この状況を利用して敵の追っ手をユニウスセブンを落としたがってる奴らにぶつけさせ、自分たちが安全に逃げられるよう活用した方が有効だと考えたのだった。

 それはユニウスセブン落下を阻止できなかったときに失われるであろう人命と被害について、まるで頓着していない様子がありありと浮かんでいる。

 

 彼は・・・いや、彼らはそーいう者達の集団だった。

 自分たちにとって大切なのは『居場所』だけ。

 

 死んで欲しくないと感じているのは同じ居場所にいる『群れの仲間』だけ。

 そして自分たちを招いて居場所を与えてくれた『群れの長』だけが絶対の存在だった。

 

 それ以外の全ての者は、ナチュラルだろうとコーディネイターだろうと・・・・・・正直、どうでもいい存在としか思ったことは一度もない。

 

 だが――

 

 

「・・・ガーティ・ルーのネオ君に緊急通信を開いてッ!

 あと、後ろから来てるミネルバにも国際救難チャンネルかなんか使えばメッセージ届けられるよね? 文章だけ送っといてっ。

 私も出るよ! 総員、第一種戦闘用意!!」

 

 だが「長」の命令が、コロニーを運んできた連中“だけ”の駆除と決定したなら話は別だ。

 長の命令と決定は絶対の法だ。法律なんかより遙かに重要な自分たちだけ限定での絶対ルール。

 それが下された以上、自分たちはただ従うだけだ。

 長の号令のもと、群れの敵を倒すため戦って勝って生き残る、それだけが自分たちの全てにとっての全てなのが彼らだったから。

 

「アッチのヤンキー坊主たちや、ダガー隊に援軍を出させないんですかい!?」

「コーディネイター見たらブッ殺したくて仕方なくなるヤク中パイロットなんか連れてっても、役立つ戦場じゃないでしょ!?

 却って邪魔になるから絶対に出撃させないよう念押しといてね!

 コーディネイター絶対殺すマンの改造人間戦士クンたちは、今回は邪魔!!」

 

 ビシッと指さしながら念を押してMSハンガーへと向かって、無重力空間に身体を浮かせていく少女。

 その背中に今さら制止の言葉などかける気は些かもない副長だったが・・・・・・一応は名目として、『言い訳の理由』ぐらいは聞いておいた方がいいのだろうと思い、その点だけは短い言葉で確認を取る。

 

 

「・・・・・・いいんですかい? 本国からの命令を待ってやらなくて。

 “お嬢”はともかく、ジブのオカマ野郎は祭りを見たら、被害者が出まくって同情票が得られるまでは、放置しとかねぇと気がすまないタイプだと思いますがね・・・」

「別に~。“私たちの上司”ってわけでもないからねー。いいんじゃない? 勝手に不愉快にさせておけば」

 

 軽く言ってのけてから振り向いて、副長が求めてきた『独断行動の理由としての言い訳』を、彼女は可憐な顔立ちにイタズラッ子のような表情を浮かべてあっけらかんと。

 

 

「なにしろ、わたしって子供だからね~。

 最近の子供はなにしでかすか分からない、怖い子達だそうだから仕方な~いってことで♪

 それじゃ☆ 行ってきま~~す。アハッ♡」

 

 

 

つづく

 

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