そりゃ頑張らざるを得ませんよね、普通に生きたら死あるのみの未来しか待ってないですから。
ジェリド・メサって奴を知っているかい? ――良くも悪くも真っ直ぐなだけだったガキの名前だよ。
ティターンズなんて碌でもない組織の表向きな理想を信じて、命令に従い任務を遂行する。 抱いた野心が大きいわりに最期まで一パイロットでしか在れなかった、取るに足らないガンダム作品の登場人物、そのうちの一人。それ以外の何物でもない存在。
・・・ただ、目上から学ぼうとする姿勢だけは好きな奴だったな。
率直に自分を批判して、自分よりも優れた人から教えて欲しいと頭を下げられるところに俺は憧れていたんだと思う。
きっと自分がガキの頃、プライドが邪魔して出来なかったことが出来たからだ。自分が出来ない事を出来る奴は他の奴より上で、凄い奴なんだと思いたいだけのガキ臭い思考。自分もジェリドと同じで取るに足らない凡人の一人だったという証拠。
どんなに努力しても『主役になれる才能はないのだ』とする、何よりも雄弁な証。
だからこそ俺はきっと、ここでこうして今この時を迎えているんだろう――――
「・・・・・・カミーユ、カミーユったら!」
――長旅を終えた友人と再会の握手を交わして、久しぶりに二人で飲みに行く店に女の子がいるかどうかを話している時。
部屋に通ずる曲がり角の向こうから、可愛らしいが甘ったるすぎる女の子の声が聞こえてきたから俺は振り返る。
「・・・・・・」
「カミーユ!」
通路から先に出てきたのは、呼ばれた名前通りにかわいい顔を仏頂面で歪めた生意気そうな少年
続いて出てきてそいつの名前を呼んだのは、今にも泣き出すんじゃないかってぐらいに意志の弱そうな眼をした、少年と同い年ぐらいの少女。
――『刻に選ばれて才能を生まれ持った主人公様』の登場だ。
俺は皮肉気に唇を歪めて自嘲しつつ、【そいつ】の名前を呼ぶまえに二人の会話をもう少しだけ聞いていたい誘惑に駆られ、三秒ほどためらった後で実行する。
「カミーユ! 待ってよ、カミーユってば!」
「言うなよ。カミーユってのが俺だって誰にでもわかってしまうだろ?」
「そんなの、みんな知っているわ! 本人だけが承知してないんじゃない。
――ねえ、宇宙港に何の用があるの?」
「今、ホワイトベースのキャプテンだったブライト艦長の船テンプテーションが港に来ているはずなんだ――――」
少年からの返事を、悪いが俺は最後まで聞いていてやる事ができなくなっていた。・・・“ガキの頃見たアニメ版”でも思った事だが、まさかここまでとはね・・・。ハッキリ言って失笑ものだ。自意識過剰にも程がある。
「待ってよ、カミーユ! どうせ会えやしないわよ!」
誰かが側にいてくれないと一人じゃ立ち続けられないから「一人にしないで欲しい!」と叫んでいるかのような弱々しく縋るようなしゃべり方が、悪い意味で特徴的な少女――ファ・ユイリィが“平凡な、だが俺にとっては重要なセリフ”を言った事を確認し、俺は充分に警戒しながら例の“ブロックワード”を口に出す。
――俺が“ジェリド・メサになるため”の一歩目。
ジェリド・メサになった俺が、“ジェリドとして戦い抜いて生き延びるため”の戦い。
その始まりを告げる狼煙として、俺はコイツを――――ぶっ飛ばしてやる。
「カミーユ? ――女の名前なのに・・・なんだ、男か?」
「!!」
つぶやきが聞こえたのか(聞こえるようにつぶやいてやったのだから当然だが)少年の瞳が大きく見開かれて鋭さを増す。
片手に抱えていた鞄を取り落とし、異常を察知して止めようとしたファ・ユイリィを突き飛ばしてから狂眼を湛えてスタスタとゆっくりこちらに歩み寄る。
「どうしたの、カミーユ? カミーユ!?」
その様はさながら『死ぬ』と言う言葉を聞かされたステラ・ルーシェのようで、その後の行動も含めて彼という人間の人生を決めた今の言葉を『ブロック・ワード』と表現した俺のネーミングセンスは中々のものだったかもなと内心で自画自賛しながら嘲笑の形に唇を歪めて見せる。
「カクリコン中尉の知り合いかな? え? “カミーユ”くん」
敢えて挑発しているのだと分かり易いように、相手の気にしている言葉を続けて言ってやる。
予想通り、そして予定通り相手は幼馴染みのファから「それ以上行ってはダメ!」と言われた、『関係者以外立ち入り禁止』を示すゲートの一歩手前まで来て叫び声を上げ、殴りかかってきてくれた。
・・・しかし、コイツとは別案件だが『幼女戦記』に書いてあった記述に寄るなら戦時下だと、立ち入り禁止区画に軍関係者以外が立ち入ってきた時点で射殺するのが当たり前らしい。
仮にも地球を守るイージスの盾役を自認する、対ジオン残党のためのエリート組織ティターンズの拠点を守備する警備兵が、この距離まで踏み越えられても未だ動けていない。――なるほど、数がいくら多くたってティターンズがエゥーゴ相手に負けるのも道理だと『安心』して、俺はバカ正直に大声で叫び声を上げながら突っ込んできた馬鹿に対応するため体を横に捌く。
「なめるなっ!!」
「お前がなっ!!」
「なにっ!?」
突進しながら全力で繰り出してくる、ただの左ストレート。来るのが解っているなら、避けるのは容易い。わざわざ知ってる事を教えてやるために挑発までしてやったって言うのに学ばないガキだ。
だから生みの親である富野由悠季からアニメ版のお前は『アムロやシャアと同じで死ぬしかない人間』などと評される羽目になる。
「よっ、と」
「うっ!?」
拳を躱しながら右足を前に出して、体勢的に後ろにある相手の左足に引っかけることで転ばせてやり、無重力なのを利用した反動で前に出た俺は低い天井に両手をつけて思い切り伸ばし、無様につんのめって壁に手をつき力ずくで反撃姿勢を取ろうとしている奴の背中に跳び蹴りをくれてやる。
「悔しい気持ちはわかるが・・・無理だなっ!!」
「ぐわぁっ!?」
蹴り飛ばされて無重力ならではの空中散歩をカミーユに強制的体験させてやりながら、着地した俺は『先達たる大人の義務として』経験不足な未熟者に教えを説いてやるのも忘れない。
「動きは悪くなかったが、教科書通りなのがいけなかったな。不意打ちすれば格上相手でも出し抜けた経験でもあったのか?」
揶揄するように言ってやる。
学生としてのカミーユ・ビダンが所属している空手部のキャプテン、メズーン・メックスの制止を振り切って港にやってくる1話目序盤のことを指してやった言葉でもある。
「貴様っ!!」
「やめとけよ、自分から恥を上乗せする趣味がある訳でもないんだろ?
平和的なアマチュア格闘技と、人を殺すための訓練を受けた軍人の戦い方は違うんだってことが、どうして君たち子供には判らないんだ? 今の君じゃ無様を繰り返すだけだぜ?」
「うるさい!」
相変わらず頭に血が上ってる時のコイツには、人の忠告なんか聞く耳持たず・・・か。
「貴様! 俺たちをティターンズと知ってちょっかいを出してきたのか!」
遅ればせながら左右にいたモブティターンズ隊員ザコ二人が介入してきて、痛みに動きを止めていたカミーユに掴みかかって押さえ付けようとする。
無論、それだけで大人しく捕まるほどコイツもプライドが低くて素直な人間じゃあない。全力で暴れるし罵声も上げてくる。
・・・しかし、たかだかアマチュア空手でキャプテンにもなれない程度のガキ一人を相手に全軍から選りすぐった選良を集めたはずの精鋭部隊が数人がかりで未だ抑えきれずか。
つくづく見かけ倒しだな、ティターンズって虚仮威しヤクザの集団は。
「カミーユが男の名前で、なんで悪いんだ! 俺は男だよぉっ!」
数には勝てず取り押さえられて、床に引っ立てられながらカミーユが俺に向かってまだ叫んでいる。
「知ってるよ。さっきからそこにいるガールフレンドがそう呼んでくれてるじゃないか。“カミーユ”ってな。それとも何か? 君は自分が男でカミーユって名前だと叫ばない限り、自分は男として相手にされないという不安にでも怯えているのか?」
「っ!! ――言っていい事と悪い事がある! 俺は――っ!」
「カミーユ君だろ? 知ってるよ、さっきからそう言っている」
「・・・・・・っ」
「で? 俺は君に対してどんな言ってはいけない事を言ったんだ? 初対面の相手から殴りつけられそうになるくらいだから、余程にヒドい事を言ってしまったんだろうな? 俺は」
「く・・・っ。――男に向かって、“なんだ”はないだろう!」
「ああ、そうか。“なんだ”そんなことで俺は殴られそうになってたのか。それは済まなかったなカミーユ君。
気付かないうちに君にとって“言って欲しくない言葉”を言ってしまってたみたいで本当に申し訳なかった。心から謝罪させてもらうよ。本当に申し訳ないカミーユ君。
確かに君は間違いようもなく、『男の子』だったよ」
「・・・っ! 貴様! 貴様貴様貴様ぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「ハハハっ、せいぜい自分のやり方が通じる都合のいいガールフレンドを大事にしてやることだな、青少年」
笑い飛ばしてやりながら、憲兵たちに連行されていくカミーユを見送る俺。
その頃になってようやくやってきて慇懃無礼に敬礼してくるのは、見覚えのある顔。
・・・カミーユを拷問まがいの手法でエゥーゴに走らせる切っ掛けをつくった憲兵か!
「ジェリド中尉ですね? エゥーゴの工作員らしき少年の逮捕拘禁に協力していただきありがとうございます。
先ほどの少年について二、三、お伺いさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「失せろ」
「・・・は? 今なんと・・・」
「失せろって言ってるんだよ! この税金泥棒が! 抵抗できない奴にしか勇敢に対処できない無能は事後処理だけしてればいい! 引っ込んでろ!」
凄んでみせると、さすがは後方勤務で筋肉だけが取り柄の強面MPだ。声だけで顔面蒼白にさせられてるのに、それでも対面と面子だけは保持したがる。
「と、到着が遅れた事は謝罪します。ですが小官にも任務があり、これに協力していただけない場合には相応の対処をさせていただく事にもなりかねません。ご再考を」
「考え直せ・・・か」
つくづくティターンズって連中は腐っているな。心でも体でもなく、ただ戦場勘が。
「よし分かった、考え直してやる。――お前選べ」
「(ホッ・・・)賢明なご判断、ありがとうございます中尉。でしたらこちらで・・・・・・は? 今なんと―――」
間抜けが間抜けな質問で返してくるのを、俺は言葉で答えずに行動で答えに変えてやる事にした。
ブラスターを引き抜いて、間抜けが開けたままにしていた口の中に銃口を突っ込んでやったのである。
「ふゅ、ふゅういどの!? なにふぉ・・・っ!?」
「ティターンズは力だ! 力がなければ敵に敗れて全てを失わされる! エリートだからと敵が遠慮容赦などしてくれる訳がない! その程度も分からん覚悟なき無能がティターンズに居続けるからには選べと言っているんだよ。
言われた事だけやって沈黙し続ける服従か。それとも命がけで己の真を貫きながら生き残れる道を探す戦いの道か。この、どちらかだ。さぁ選べ」
「ひゅ、ひゅういほぉの・・・・・・」
「返事はどうしたぁっ!?」
「ひ、ひえふ・ふぁー! ひょうかいひまひたひゅういほぉの!」
・・・チッ。クズが・・・殺すチャンスを逃されたか・・・。
「もういい、行け」
「は、はいぃぃっ! どうもお騒がせいたしましたねぇ・・・えっへっへ」
「――それから自分にも任務があると言っていたからには、有言実行ぐらいはしろよ? 先ほどの少年がエゥーゴの工作員なのか判然としない時点では軍紀に則り公平に扱うように。
身元調査のファイルをしっかりと読みこなし、自分に都合がいい部分だけを見て独善的な現場の判断で容疑者を犯人と決めつけないこと。・・・判ったな?」
「は、はい。もちろんですよ中尉殿。そこんところは小官共の方でも万全を期しておりますのでご安心を。うぇっへっへ・・・」
ヘコヘコしながら去って行く憲兵の後ろ姿に『望み薄』であることを実感させられ溜息をつく。
「じ、ジェリド・・・」
「ジェリド中尉・・・」
背後から驚いた声で友人たちに声をかけられ頭をかき、さてどのように言い訳したものかと悩まされながら、俺は次のステージへと向かって歩き出す。
次はグリプス内にノーマルスーツで潜入してきていたクワトロ大尉を、ガンダムMkーⅡで撃ち落とそうとするファースト2話目のアムロを模倣する段だ。宇宙じゃなくても宇宙と同じように四次元起動できる人間サイズ相手にバルカン以外がそうそう当たるものでもないのだが、これをやらないとカミーユがティターンズビルから出てこれない。
奴の脱獄に手を貸すのは癪だが、捕まってしまって憲兵の態度を変えることが出来なかった以上は致し方ない。アレでもいないと困る場面はそれなりにはある奴なのだから。
「まったく、試練試練で厳しい人生だな。ジェリド・メサとして生き抜くために戦う人生って奴はよ」
ボヤいてみるが、やるしかない。
ジェリドがエゥーゴに入ってしまってはジェリドではなくなってしまうし、大切な人たちを死なせることなく守り抜く上でもティターンズに居続けなきゃならない理由がある。
――ジェリド・メサとして生まれ変わった俺は、ジェリド・メサとして戦い抜いて、いつかジェリドとして勝利をこの手に掴んでやると誓っているのだから!!
主人公紹介:『転生憑依ジェリド・メサ』
前世では反骨心旺盛だった現代日本の高校生を前世に持つジェリド・メサ。
周囲に反発するだけしかしなかった前世での自分を深く後悔し、また憎悪している。
当初は半端な才能と能力しか持たないジェリドに生まれ変わったことに失望していたが、今ではむしろ自分には合っていたと『幸運』に感謝している。
目的は『ジェリド・メサとしてグリプス戦役を戦い抜いて生き延びること』。
また、『死ななくてもよいはずだった人々を死なせないこと』を第二の目的として、ティターンズに入隊した。
原作と異なりティターンズの実態を既に承知しているため、組織に対する幻想はない。
また、途中経過はどうあろうと『必ず負ける軍隊』としてティターンズを見ているため、属している現在に不満は特に持っていない。
『転生憑依ジェリドに関わる人々』
ライラ・ミラ・ライラ
ジェリドの前世がもっともジェリドに影響を与えたとして、素直に尊敬している人物。
残念ながら今作でも死ぬ人。ジェリドがいないところで死ぬキャラまではどうしようもない。
シェリー・ペイジ
アニメ版準拠の世界観だが、ジェリドが主人公のために出張して登場してくれる。
この人もジェリドがいないところで死ぬので救えない。戦い方を教えてくれる師匠その2役。
カクリコン・カクーラー
大気圏突入時の説得で、『バリュートの展開高度』を出されたことからギリギリ生き延びる。
ただし、続くジャブロー戦を生き抜けるかどうかは本人次第なので予断が許されない人でもある。
マウアー・ファラオ
死ぬか生きるか一番判らない人。ジェリドの努力だけではどうにもならない運命を背負っている悲劇の女性。彼女自身の生きるための意思次第で道が開ける可能性が出てくる人。本作のヒロイン。
ジャブロー戦のハイザック・パイロット
上の命令でジェリドが脱出するまで離脱できなかった悲運のパイロット。
今作だとジェリドが始めから核爆発の件を知っていることと、カミーユを現時点では仕留められないこと。
上官として命令に従っているだけの兵士を無駄死にさせる訳にはいかなかったこと等の理由から生き延びられる。その後の活躍は不明。二度と出ない可能性もある人。
補足説明:
今作のジェリドは凡人です。これからカミーユに嫌と言うほど煮え湯を飲まされながらも感情に流されすぎずに戦い続けて、我慢しなきゃいけない時には我慢するためにも出合い頭では勝利しておく必要性がありました。
要するに、『これから負けっぱなしになるんだから初戦ぐらい勝たせろ』――ですね。
出来るなら『最初と最後だけでも勝利で飾れる男になる』ことを夢見る凡人ジェリド・メサ君がんばる。