ガンダム二次作   作:ひきがやもとまち

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アンデッドSEED更新。
最近ストーリー上で仕方ないとはいえ、政治パートばっかになってて不満だったため、最後に戦闘シーンも書いてから眠りにつきたかった作者の心境です。


機動戦士ガンダムSEED UndeadGIRL THE DESTINY 第8話

 地球への落下軌道に乗せられた《ユニウス・セブン》をめぐる攻防は、終息の時を迎えつつある。

 両軍共に謀ったわけでは全くなかったとはいえ、結果論として連合軍とザフト軍とが挟撃する形でコロニーを強奪したテロリストのMS隊と戦えたことは勝敗を大きく左右する要因とならざるを得ない。

 

 すでにザフト軍から離反したと思しき敵MS隊のあらかたは殲滅し終わり、僅かに生き残った者達も組織だってコロニー破砕作業を妨害できるほどの戦力は残されていない。

 勇猛で巧妙ではあるものの、戦略的には意味のない個人レベルの抵抗を個々に続行しているだけで、破砕作業の妨害という目的には何の役にも立つことなく、なんらの意味なきMS動力炉の爆発光と戦死者の数とを増やしていく。只それだけの作業に成り果てて久しい。

 

 とは言え、この戦いにおけるザフト・連合の両軍の目的はテロリスト部隊の殲滅では端からない。

 地球へと落下しつつある《ユニウス・セブン》を破砕できなければ、敵を殲滅しただけでは作戦は失敗に終わる。

 

 その作戦そのものも、そろそろ終わりを迎えようとしていた。

 

 

『イザーク! さっき渡したので持ってきた《メテオ・ブレイカー》の予備が尽きた! そろそろ俺たち自身もヤバそうだッ!!』

「くっ・・・限界か・・・。巨大過ぎるものは砕いたが、コロニーの破片はまだまだ残っているというのに――後退するッ!!」

 

 

『ユマ様! そろそろ潮時ですッ! ザフトの連中が破砕をやめました、どうやらメテオブレイカーの在庫が切れたみてェで』

「ちぇっ、もう退いちゃったか・・・。もう少し遊んでたかったけど、MS隊だけ残っても意味ない戦場だし、こっちも退くよ。相手より先に撤退!」

 

 

 それぞれの部隊を率いる指揮官達が、それぞれの個性と事情に応じたやり取りを部下と交わし合って作戦の終了と、部隊の撤収をほぼ同時に決定して後退を開始させていく。

 無論のこと、両軍共に正式な承諾を得た上でおこなっていた共同作戦ではない以上、先ほどまで同じ敵と戦っていただけの『別の敵』が、背中を見せて後退していくのを後ろから撃ってはならない道理などあるわけもない。

 

 互いに互いの追撃を警戒し合いながら、先に連合軍側が隊長機と思われるMSを殿にして、一機ずつ部隊を帰投させていくのを確認した直後に、残っていた隊長機が身を翻して撤収していく。

 

「へぇ? ナチュラル共にも、なかなか出来る奴が“アイツ以外”にもいるじゃないか。今回は見逃すしかないとはいえ、次に会ったときが楽しみだな」

 

 敵であるザフト軍の目から見ても、鮮やかな撤退の手際だった。相当に訓練され、実戦の経験も多い部隊のようだ。とてもナチュラルとは思えないほど見事な部隊指揮だった。

 前大戦での熟練兵を多く失った《アラスカの惨劇》を生き延びた、若さに似合わぬ熟練のベテラン兵であるイザークは敵将の手腕を素直に評したのだが、彼の側近役は上官の言葉を素直に受け取ってはくれなかったようである。

 

『とか何とか言って、敵が強い奴だったから地球まで追いかけてくのは辞めてくれよ? 昔と違って機体は《デュエル》じゃないんだからさァ。フェイズシフト付いてないぞ、そのMS』

「するか! そんな短絡的な真似など俺がするとでも思っているのか貴様はっ!?」

『いや、そう言われても。実際に一回やっちゃってるわけだし、あの時と同じで敵追っかけた挙げ句、戻れなくなるのを二度もやりたくなかったからさァ・・・』

「貴様に言われる筋合いはないわッ! 大体その点ではお前も同じだったろうに!」

『・・・・・・まっ、そう言われちまったら、そーなんだけどサ・・・』

 

 肩をすくめてモニターに映る画面を変え、かつて自分たちが強敵を追撃して倒すことに拘るあまり、引力に弾かれて逃れられなくなってしまった青く巨大な星を振り返りながら、ディアッカとしては思わずにはいられない。

 

 ――二度も、死にそーな目にあわなくて済んでよかった・・・・・・と。

 

 

 

 だが一方で、彼らは前大戦を戦い抜いて生き残り、戦局全体を見渡せる視野を持つに至った戦場経験豊富なベテランのエースであり指揮官でもあったが、千里眼の視点を獲得する域に達したというわけではなかった。無論、全知全能の超越者になった者達でもない。

 

 だから彼らには、自分たちの反対側に立ち、反対の視点から自分たちを見ている立場にある者に。

 

「ふ~ん? 追ってこなかったんだ、ちょっとガッカリかな。与えてもらった数値が自慢のコーディネイター貴族のお坊ちゃんたちにしてはヤルヤル♪

 今回は見逃してあげるしかないけど、次あったときは楽しませてほしいなァ~」

 

 と、自分が敵将にはなった言葉を、敵将からも同じように評されていた事実に、彼らは共に気づくことは最後までなかったのだ。

 そこに敵味方に別れて、互いを否定し合い罵り合い見下し合う、戦争という行為の滑稽さの一環が現れていたのかもしれないが・・・・・・そのこともまた、彼ら自身が知る術は死ぬまで得られることは決してない事だった。

 

 

 

 

 

 

 敵対し合う2つの陣営それぞれの指揮官たちが、互いに同じ理由で同じ選択と決断を下していたのと同じ頃。

 彼らの内いずれかに属する友軍の指揮官であり、判断した理由にも同じものを採用しながら、下した決断と選択は両軍の誰とも微妙に異なっていた人物が一人いた。

 

「・・・・・・そろそろ、限界のようね」

 

 タリア・グラディスは艦橋から目視できる光景と、レーダーや各種観測装置からもたらされるデータを基に推測した戦況、その両方を見比べた上で選ぶべき時期がきてしまった――そう判断せざるを得ない事実を受け入れる。

 艦長席のシートを翻し、左右後方に席を用意させていた2人のVIPたちを振り返り、決然とした表情を顔面に貼り付けたまま、最大限感情を感じさせない口調と声音で駆られに向かって“指示”を出す。

 

「こんな状況で申し訳ありませんが、議長がたにはジュール隊の母艦《ボルテール》へお移りして頂きたいのですが?」

「・・・・・・え?」

「艦長・・・・・・?」

 

 突然の要請に、オーブ元首カガリとプラント議長デュランダルの2人は意図が分からず眉を寄せられ、短い単語で艦長に意図の説明を希望する。

 無論タリアは意図について最初から説明する気でいた。

 

「すでにユニウスセブンは阻止限界点を超えて、地球への降下は確実となったと判断せざるを得ません。

 高度から見て、これ以上追い続ければ宇宙用艦艇の《ナスカ級》では、地球の引力から逃れられなくなるでしょう。そうなる前に彼らも、我らも選ばざるを得ません」

「艦長、それは・・・つまり・・・・・・」

「助けられない命を諦め、助けられる命を選ぶしかない時が来た、と言うことです」

 

 冷厳なまでに正しいタリアの分析に、カガリは心に鋭い痛みを感じさせられ、顔を歪めて痛みを露わにさせられる。

 タリアの発言は、ユニウスセブン破砕作業の中止を意味するものだった。

 

 それはコロニーの地球落下は確実と認めることであり、壊しきれなかった破片群による被害は防ぎようがないということでもあり、それらの落下によって再び多くの命が失われる直近の犠牲者たちは『助けない』という道を選ぶと言うことを意味する発言でもあったのだ。

 

 仕方がないのは分かっている。これ以上続けても無駄に危険が増すばかりで犠牲が減るわけではないことも頭では理解しているのだが・・・・・・カガリの弱い心はどうしても、『もう少し続けさえすれば、あるいは――』そう思わずにはいられなかった。

 

 コロニーが落ちていく先に広がるであろう、未来の被害と犠牲者たちの姿を幻視して俯くしかないカガリだったが、彼女の傍らに座す今一人のVIPはもう少し近い未来の危機を見つめていたようである。

 

「それは理解した。遺憾ではあるが、この状況に至ってはやむを得ない措置であることは、アスハ代表も理解して頂けると思う。

 だが、それならば何故、我々だけを他の船へ移す必要があるのかね? 理由を説明してもらいたい」

 

 ハッとなって、カガリは斜め正面に座る艦長の背中へと再び視線を戻させられる。

 そうだ・・・被害者たちのことばかりで頭がいっぱいになってしまい気付くのが遅れたが、艦長の指示は現状への対応と矛盾するものが混じっていた。

 

 このまま破砕作業を継続して《ユニウスセブン》に追随し続ければ、いずれ地球の重力に捕まって脱出できなくなる。だからこそ危険域に達する前に、危険な高度まで下がる前に破砕作業を中止させるべき――それがタリア艦長の決定だったはずである。

 

 安全確保のために作業を中断させた母艦から、乗員を脱出させることに意味などない。

 デュランダルとカガリが疑問を抱くのは当然だったが、自分の艦をよく知るタリアには2人とは別の分析と見方がある。

 

「ミネルバは、これより大気圏に突入して限界まで艦首砲による対象の破砕を行いたいと小官は愚考します。

 幸い本艦は、宇宙戦闘艦とはいえ大気圏内での飛行能力を有しており、地球への降下と大気圏突破が可能なように設計されていますが、純粋な宇宙用艦艇である《ナスカ級》にはそれがありません。

 ですので、ボルテールへの移譲が可能な高度のうちに移動をとお願いしているのです」

「ええっ!? 艦長・・・それは・・・・・・」

「タリア、しかし・・・・・・」

 

 相手から意図の説明を聞かされて、カガリは驚愕して声を上げ、デュランダルは気遣わしげに眉を寄せる。

 政治家としても戦略家としても純朴なカガリは、コロニー落下の被害と無縁なはずのコロニー住人であるタリアの想いに心うたれて、ただ瞳を潤ませるだけだったが、デュランダルの場合はそれだけではない。

 

 そしてそれはタリアも動揺の懸念を抱いた結果だったのだろう。

 「それに・・・」と続けた彼女の発言は、先程のものより苦いものがあった。

 

「今回の一件、我々プラントで暮らす者達にとっても他人事で済ませられる危機とは限りませんから・・・・・・」

「・・・?? 艦長、それは一体どういう・・・」

「プラントのあるコロニーは、地球圏の重力が安定する一帯に建設されている、ということです」

 

 やや遠回しに告げられたタリアからの解説。その情報については無論カガリも承知している。

 プラント・コロニー群は、地球上で迫害された遺伝子調整人類コーディネイターたちが、《L5》と名付けられた宙域に建造した新世代の宇宙植民衛星を始まりとする宇宙国家の本国に当たる。

 宇宙には空気もなければ風もないが、だからと言って同じ場所に延々と同じものが停止し続けられる場所でもなく、初期のコロニー建設者たちは様々な惑星たちの重力が重なり合って安定する『重力均衡地帯』を選んで後に《プラント評議国》の首都となるコロニー群を建設させた。

 

「無いとは思われますが、万が一にも落下した隕石の被害によって地球の自転速度や、最悪の場合は軌道までもを影響を及ぼされた場合、《L5》上に定着されたコロニー群だけが無傷で済むとは思えません。

 可能性は極めて低いでしょうし、どこまで出来るかは分かりませんが、母国で暮らす同胞たちに被害を及ぼさぬためにも、出来るだけの力を持っているならやるのがザフト軍人の義務だと小官は考えます」

 

 言い切られた言葉にカガリは愕然とさせられ、次いで蒼白となっていた。

 先程まで考えていた、ユニウスセブン落下による被害で地球の滅亡――そう思って恐怖に戦慄していた自分の懸念が、あまりに大雑把で内訳が薄っぺらいものでしかなかった事実に今更ながら思い知らされる。

 

 直径1キロの小惑星による落下。50メガトンの爆発力を誇る核爆弾2000個分に当たる衝撃。そんなものが衝突すれば、そこに生きるものは誰も生き残れない、何も残らない。

 

 そして地球は壊滅する・・・・・・その最悪の未来に恐怖して、そうなってしまった場合を思い――そうであるが故に、『そうなった後のこと』を考えるのを辞めてしまっていた自分には赤面するしかない。

 

 そうなのだ・・・・・・たとえユニウスセブン落下を阻止できなくても、世界は続く。それで終わってはくれない。

 その被害によって引き起こされる次の被害が、その次の被害が―――そうやって惨劇は連鎖して、被害を続発させていく行為でもあるのだ。

 

 デュランダル議長やタリア艦長は、その先のことまで考えて懸念している。それなのに地球に生きる自分は、自分たちが住む惑星に迫る“今の危機だけ”しか考えようとはしなかった。

 

 そのことに後ろめたさを強く感じさせられたこと、それが彼女が“その提案”をする大きな理由になっていたもの、その一つ。

 

「私は・・・、この船に残らせてもらえないだろうか・・・? 艦長・・・・・・」

「代表・・・?」

 

 石を飲み込むような声で吐き出された一国の元首からの提案に、デュランダルとタリアはそろって呆気にとられた表情で彼女を見つめさせられる。

 その反応はもっともだと、カガリ自身も分かってはいた。その者一人が失われるだけで国全体が混乱に陥ってしまう為政者は、自分の身を危険にさらしてはならないのだ。

 自分一人が残ったところで、何かの役に立つというものでもない。

 

 なればこそ相手の指示に従うことが正しい対応だと理解してはいるのだが、それでも彼女には地球を守るため命と身体を張ろうとしてくれるミネルバのクルーたちだけに危険な役を押しつけるという行為が、まだ若い為政者見習でしかないカガリには選ぶことがどうしても出来なかった。

 

「本来は地球を守る責務を負ってもいないミネルバが、そこまでしてくれるというのに地球の国々から一人も同行しないなんて・・・・・・許されない。せめて私だけでも一緒に行かせて欲しいのだ・・・」

「・・・お気持ちは分かりますが、しかし為政者の方には果たされる職務というものが――」

「頼む、艦長。・・・それに、アスランがまだ戻ってきていない・・・・・・部下だけを一人残して私だけのこのこと生きてオーブに帰るなんて・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 相手の意思の硬さを見てとって、タリアは反論を諦めたように黙り込む。

 

「代表がそうお望みでしたら、お止めはしませんが・・・」

 

 上役であるデュランダルからも許可されてしまったとあっては、一介の軍人でしかない自分にもはや拒否権はない。吐息一つを吐いて、諦めたように現状を受け入れるしかタリアにとっても道はなくなった。

 

 

 それに――正直に言えばカガリからの提案は、タリアにとって願ったり叶ったりのものではあったのだ。

 

 なにしろユニウスセブンを地球に落下させた犯人たちは、離反した身とはいえ『ザフト軍の兵士たち』であることは、すでに報告によって確認された確定情報なのだから。

 これで自分たちコーディネイターの兵士たちだけが安全圏に引きこもったまま、隕石の地球落着をのんきに見物しているだけで見逃したとなれば、盛大に反プラント感情と主戦論を煽る理由にしかなれる訳もない。

 

 少なくともブルーコスモスなどは徹底的にプロパガンダに利用して、市民たちの恨みと怒りを扇動する口実に根拠として声高に非難してくるのは明白だ。

 その時にためにも、『コレこの通り自分たちザフトも落下阻止のため最善を尽くしました』と実際の行動で示しておく必要が絶対的に存在している状況。

 

 だからこそタリアは志願した。

 また再び戦争が再開され、故郷の自宅でまつ可愛い我が子が戦場にまで引き出されていく未来に続いている可能性など無い方がいいに決まっているのだから。 

 

 その為にも、地球側の有力者が『目撃者の証人』として同行してくれるのは、ありがたい。

 先の戦争の被害により大西洋連邦一極体制にある地球社会で、オーブの発言にどれほどの影響力があるかは微妙ではあったものの、誰一人見ている者がいないのでは言う奴らの独壇場になりかねない。

 

 

 ――もっとも、地球国家の一つで代表を務めるカガリに聞かせていい類いの話ではなかったので、口に出さず黙ってはいた。

 それが結果として相手自身からの頼みという形で実現できるなら、タリアとしては感謝せずにはいられない。少なくとも地球プラント間の外交問題を考えれば、カガリの同道によるマイナス要素ばかりという訳では決してないものではあったから。

 

 それでも尚、タリアが彼女の同行に不満を感じてしまうのは、単に『自分以外の誰かが担って欲しかった』というだけが理由だった。

 必要な状況なのは分かるのだが、出来れば負担を背負うのは自分ではなく、他人にやって欲しい――そう願ってしまうのは人間である以上、仕方のない心理と思ってもらうしかない。

 

「では、議長だけでもボルテールへの移譲をお急ぎを。――アーサー! 議長のために小型艇を用意して、大至急よ!

 然る後に小型艇の発艦を確認後、ミネルバはユニウスセブンを追って地球大気圏内へ突入するっ。総員、衝撃に備えよッ。急げッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す、凄い・・・」

 

 遠くにミネルバから発射された帰還信号を示す光の筋が上がっているのを視界の隅に納めながら、シン・アスカは愛機《インパルス》のコクピットで先程まで展開され続けていた後継に目と心を奪われ続け、陶然としたような呟きを発していた。

 

 僚艦ボルテールから出撃していた二機の《ザク》たち。

 そして議長の計らいで特例として参戦を許されたという『オーブから来たアスハの護衛役』が乗る機体。

 

 彼らが全員が先の大戦時に《ヤキン・ドゥーエ会戦》を生き残ったエースたちであることを、出撃寸前に交わされた会話によって偶然にも知ることになったシンだったが、実際の戦場で見せつけられた彼らの実力は思わず唖然とさせられるものだった。

 

 単純に強いとか、反射速度が速い、といった話ではない。

 あらゆる状況を利用して、戦場に存在する全てを使って最適な行動を選び続けられる行動・・・・・・その手札の豊富さと対応力の高さと柔軟性に、シンは心から瞠目させられずにはいられなかったのだ。

 

 同じ動きをするだけでいい、というなら多分自分にも出来るとは思う。

 だが仮に出来たとして、自分は自主的にやるだろうか? それをせねば勝てないとの判断を受け入れることができるのか? ・・・そう考えると途端に自信が持てなくなってしまうしかない。

 

 明確に目的をもち、その目的達成のため何が必要かを考え、臨機応変に対応する。

 理屈としては当たり前のように感じられるソレを、完璧に実践してみせたのが先程までの戦闘における彼らだった。

 

 シンは、戦いが始まる前に相手の正体――先の大戦でのエースだった『アスラン・ザラ』と同僚のルナマリアとが交わしていた会話を思い出す。

 

『目的は戦闘じゃないぞ!』

『分かってます! けど撃ってくるんだもの。あれをやらなきゃ、作業もできないでしょう!?』

 

 その会話を聞きながら、ルナマリアの意見に心の中で賛同していた自分に彼らと同じ戦い方を選ぶことが可能だったとは、とても思えない。

 全ての敵を倒し尽くして戦闘を終わらせる。それ以外に戦いの終わらせ方を思いつくことが出来ていなかった今の自分が、ヒドく思い上がった未熟者だったように感じられ、シンは内心恥ずかしくなった。

 

 彼が思い描いていたような戦いの終わらせ方は、圧倒的な戦闘力の差によって自らの軍だけが一方的に勝利だけを得られるような、絶対強者と弱者ほど力の差があり、時間制限や他の条件が架されていない場合にのみ可能となる現実の戦闘を、シンは初めて思い知らされていた。

 

 

 ―――気にくわない奴だが、実力だけは認めてやっていいかもしれない―――

 

 

 そうまで思えるほど、彼の中で『アスハの護衛』に対する評価は上がることが出来ていた。

 客観的に見れば大した高評価とは思えないものだったかもしれなかったが、過去の経緯からオーブに対して悪感情を抱いているシンにとっては、精神的な障壁が他人たちより非情に高いものになっていたのでやむを得まい。

 

『シン! 何をしている? 帰還指示だ、帰投するぞ』

「え? あ、ああ・・・分かってる。レイ・・・」

 

 高度が下がってきていることにも気付くことなく唖然としていたらしい自分の機体に、今一人の同僚である少年レイ・ザ・バレルから警告の通信が入れられて、まだ夢現のような気分から抜け出し切れてないながらもシンは機体を翻して母艦への帰投させようとして、そして―――

 

「――っ!? あ、アイツ、何を・・・っ!?」

 

 その挙動の途中で、カメラアイをスイングさせていく中に一機のMSが、未だ一定以上の規模を残しながら落下していくユニウスセブンの破片に、最後に残った《メテオ・ブレイカー》を設置しようと戦場跡となった場所に一機だけ留まり続けている機体を見つけて驚かされることになる。

 

 それは、戦闘のドサクサで特例として出撃を許されていた機体。本来はミネルバの搭載機としてアーモリーワンの防衛部隊に配属されていたであろうノーマルタイプの《ザク・ウォーリア》

 

 即ち――アスラン・ザラに与えられていた機体だった。

 慌ててシンは機体を引き換えさせる。

 

「なにをやってるんですアンタは!? 帰艦命令が出てたでしょう! 死にたいんですか!?」

『君は・・・? ああ、分かっているから大丈夫だ。だから君は早く戻った方がいい。危険だ』

「バカですかアンタは!? 人に危険だから帰れって行った場所に自分は留まるなんて、一緒に吹っ飛ばされるだけですよ! そうなってもいいって言うんですか!?」

『分かっているさ! だがミネルバの艦首砲といっても、外からの攻撃だけでは確実とは言い切れないっ。せめて最後に残っていた、この一本だけでも・・・・・・!!』

「~~~ッ!! ああ、もう!!」

 

 頭を掻きむしりたい衝動に駆られながら、それでもシンには、この「どうしようもない大馬鹿者」のパイロットだけを戦場に置き去りにして、自分だけが安全な場所に見捨てて逃げることは出来なかった。

 

 それでは自分たち家族を戦場に巻き込んで、安全なところから自分たちの理念だけ守って逃げ出したアスハの娘と同類になってしまう。だからイヤだった。

 幸いワンオフ機である《インパルス》は、出力でも推力でも量産型MSより遙かに優れており、ザクでは帰還できなくなる高度からでも帰投することが可能だ。

 もちろん限界はあるが、あと一機分ぐらいは追加で連れ帰れるだけの『力』を今の自分は与えられている。

 

 守るために与えられた強力な力は、守るために戦った仲間のことも守ってやるため使うべきだとシンは思った。だからギリギリまでは付き合ってやることになる。

 

「まったく! ――あなたみたいな人が、なんでオーブになんかっ・・・・・・」

『・・・・・・』

 

 思わず、吐き捨てるように小さく独白せずにはいられない。

 その声が通信機能で相手のコクピットまで聞こえていたのかいなかったのか、無言だけが返事として帰ってきた中では分かりようもない。

 

 先程まで激しい戦闘が繰り広げられ、今では戦場跡となった空間に奇妙なほど緩和した空気が流れたような、そんな錯覚をシンと相手には平等に感じさせられ、

 

 

 ――ビシューンッ!!

 ズバァウンッ!!!

 

 

 突如として降り注いできたビーム光が、至近弾となってメテオブレイカーの周囲に降り注ぎ、シンたち2人だけがいると思われていた空間に流れかけた空気を、爆発光とともに砕けさせる!!

 

『なにっ!?』

 

 機体の視界を上へ上げると、コチラへ向かって高速接近してくる『黒いジン』たちの姿を視認した! 3機編隊で突っ込んできている!

 戦局不利と見てとり、瓦礫の陰に身を隠し、ジッと息を潜めながら敵部隊が撤収するタイミングを待ち続けていた生き残りたちが最後の攻撃を断行してきたのだ!

 

 味方が次々とやられていく中、戦友たちを見殺しにせねばならぬ怒りを押さえつけ、自分たちが勝利できる瞬間が訪れるまで、ひたすらにひたすらにずっと―――その雌伏の怒りを最期の戦場となる場所で全て発散させて散るために!

 死んでいった者達の待つ場所へ、胸を張って行けるために! 只それだけのために!!

 

『うぉぉぉッ! これ以上はやらせん!!』

「あいつらっ、まだ・・・!」

 

 帰還を想定していないとしか思いようのないタイミングでの特攻攻撃!

 それに対して、シンは迎撃のためインパルスにビームサーベルを抜かせて迫りつつある敵部隊に接近される前に打ち落とすため前に出る。

 敵は敵で、五体満足で残っているのは隊長機らしき一機だけで、他の二機は多かれ少なかれ損傷を負っていたが、その程度で彼らの歩みを止める理由にはならない! なる訳が――ないっ!!

 

『最後に残ったコレだけはぁぁぁッ!!』

『我が娘の、この墓標! 落として焼かねば世界は変わら――な、なにぃッ!?』

 

 その瞬間の出来事だった。

 

 ――ガクンッ! 

 

 三機編隊の中で中心に立って突貫しようとしていた隊長機のジンが、急に動きを止めて、超高速で接近中だった機体が宇宙空間で絡み取られたような、奇妙な姿勢で停止を余儀なくさせられる。

 

 見ると、動きの止まったザクの左肩部に追加されていた大型の増加ブースターが機能を停止させ、沈黙してしまっている。

 隊長機に乗っていたパイロットであるサトーは、血走った目つきでザクのモニターで確認させると、ブースターの上部に小さな金属のように光り輝くナニカが絡みついていた。

 

 拡大させると、それは鉤爪のようなパーツだった。太い金属製のワイヤーの先端に取り付けられた鉤爪が、自機の増加ブースターに食い込んで機能を破壊し、そのまま動きそのものを縛り付けていたのである。

 

 そのワイヤーを通して、振動によってサトーの機体に、鉤爪の先にある発射してきた相手の声がコクピットの中に響き渡る。

 

『アッハハハ♪ やっぱり出てきた! 隠れてたッ! 友達がみんな死んでくのを見物しながら、一人だけ自分の信念とか理念とか守り通すため逃げ出すアスハが、やっぱりいたァッ!!』

『っ!? その声――貴様はッ!』

『えぇーいっ!! 一本釣り~~なーんちゃって♪』

 

 けたたましい聞き覚えのある声での笑いを響かせながら、自分たちの作戦を邪魔するため割って入ってきた連合軍と思しき部隊を率いる少女のパイロット。

 彼女はワイヤーと鉤爪で動きを止めた相手を自分がいる高さまで引き上げさせるため、大きくパーツを引っ張ってサトーの機体を自分の元へと引き寄せさせようとする。

 

 無論サトーは、そうはさせじとエンジンを吹かして目的地である、ユニウスセブン最後の巨大な破片に取り付こうとはするものの、如何せん。

 出力を支えるブースターの片割れが機能停止されてしまった状態では、パワーが足りない。

 

『ぐっ! ぐぅおおおおぉぉぉぉっ!!』

『さ、サトー隊長ぉぉぉぉッ!?』

『俺に構うな! 行けッ! 行って必ず地球に落とすのだ! 俺たち皆の死を無駄死にせぬためにも、お前たちがッ!!』

『で、ですが・・・っ隊長!!』

『俺を宇宙の晒し者にする気か!? 行けぇぇぇぇぇッッ!!!』

『~~~ッ!! 我ら2機、突貫します! 隊長、お先にッッ!!』

 

 

 ――バゥッン!

 推進剤を最大限まで吹かすことで、未練を振り切るようにユニウスセブンの破片を守るように立ち塞がっている機体に向かって猛スピードで突進していく黒色のジン部隊。

 その中の一員として、隊長として彼らと共に散ることができる資格を剥奪されたサトーは、その怨嗟を、恨みを、怒りを、死者たちへの嘆きの想いを!!

 

『またしても・・・またしても、貴様か・・・・・・貴様なのか・・・・・・っ』

 

 それら全てを理解しようとしない、目の前に立ち塞がる愚か者の小娘に向かってぶつけるため最期の戦いで燃やし尽くそうとする。

 

『またしても貴様が来て、我らの行く手を遮るか・・・この邪鬼めがァッッ!!』

『いえ~す♪ オッフコース♪ 邪魔なら力ずくで殺して先に行ってみれば~? キミたちはさっきまで、そーいうやり方やってたんでしょう~? おんなじだからそれでいーじゃんッ!!』

『ウォォォォォォォッッ!!!』

 

 バチバチバチィッ!!!

 弾の切れたライフルを捨て、引き抜かれた斬機刀を振るい敵機の実体刃のサーベルと切り結ぶサトーの操る《ジン・ハイマニューバ二型》と、ユマの駆る新型量産機《グリフィン》

 

 どうやら性能的には、ほぼ拮抗しているらしき両者の鍔迫り合いは光の火花を散らし合い、超高温の摩擦熱で周囲の漆黒を焼き切らんと退くことなく、ぶつかり続ける!!

 

『ここで無駄に散った命の嘆き忘れ! 撃った者らと偽りの世界で笑い合う、そんな世界は変わらねばならんのだ! それが何故わからんのだ!? 貴様らはぁぁぁー!!』

『ハァッ! そんなお為ごかしの綺麗事まだ言う気なんだ!? そんなこと本音ではコレッポッチモ信じてないくせに! 大嘘つきの偽善者っぷりはクラインさんところの親玉譲りなのッ!?』

『なん・・・だとっ・・・? 貴様ァッ!!』

 

 思いもかけぬ罵倒をいわれ、思わず激高せずにはいられないサトー。

 自分が、軟弱なクラインの後継者と同類? ――ふざけるな!

 

『奴らに騙され変わってしまったプラントを本来のあるべき姿に戻すためにこそ我らは立ったのだ! 今の偽りの世界に同じ怒りを抱いた仲間たちと共に!!』

『へぇ~? それじゃあキミは仲間たち皆と一緒に、死んだ人達の無念を晴らしてあげるために戦ってるって言うんだ? 友達の仲間たちも、みんな自分と同じ思いを抱いてたから私たちに戦い挑んで、ユニウスセブンも落としたんだって、そー言いたい訳?』

『そうだ! これが貴様らの犯した行為に対して背負うべき償いっ!

 だというのに何故気付かぬ!? なぜ気付くことが出来ぬのだ!?

 貴様らのやった行為に対し、我らコーディネイターにとってパトリック・ザラのとった道こそが唯一正しき結果なのだと、貴様ら加害者たちは何故いつまで経っても気付くことが出来ぬのかァァァッ!?』

 

 今のサトーにとって、相手の言動、相手の言葉、相手の存在そのものが、この場所を穢すものとしか思えなかった。

 無惨に殺されていった死者たちの眠る墓標の地で、何故ここまで挑発的に死んだ者達を罵倒することができるのか? 何故ここまで他者の命と死を笑い飛ばすことができるのか?

 彼には相手のことが全く理解できなかった。理解したいとも思わなかった。

 ただ彼は怒りのまま、正義感の赴くまま、憎むべき邪悪なる邪鬼をこの手で打ち倒し、宇宙を穢す物の怪のような存在を一匹だけでも冥府へ道連れにしてやるため死力を尽くす!!

 

『ハハハハハッ!! また嘘吐いたァ~ッ♪ 思ってもいない嘘吐いて~♪ 誤魔化して~♪ 嘘つき免罪符でお為ごかしの大義メーブンごくろーさまでーす。

 信じてもいない屁理屈なんて、よくそれだけ人に向かって言う気になれるねキミってさぁ』

『おのれぇぇぇ・・・まだ言うか!? 我らの思いと怒りを! 死者たちの涙を想う心を! 貴様はまだ罵倒するのか!? この邪鬼がぁぁぁぁッッ!!』

『とーぜんでしょう!? だってさぁ――!!』

 

 

 

『キミって―――ここで死んだっていう、仲間たちの家族に会ったことあるの?』

 

 

 

 敵から聞こえたその言葉に、サトーは一瞬――ほんの一瞬だけ、意識を奪われ呆然となる。

 

『な・・・に・・・?』

『だ~か~ら~、キミの家族と一緒にユニウスセブンで家族を殺されたって仲間の人達の、死んだ家族って人達とキミ自身は会ったことあるかのか?って聞いてるんだけど?』

『それは――それ、は―――』

『あるんだよねぇ? だって、殺された人達の無念と涙を晴らすために戦ってるんだもん。

 会ったこともないし、話したことすらない、単なる赤の他人の家族たちが殺されただけの恨みとか無念なんて、分かる訳ないもん』

『・・・・・・』

『ただ自分の大事な人達が殺されたのと、同じように殺されたから。

 だから、「自分と同じ思いを抱いたに決まってる」と思っただけ。

 大切な家族を殺された自分と同じように怒ってるから。

 だから、「自分と同じくらい殺された家族を大切に思ってたに決まってる」って信じただけ。

 それだけがキミたちの想いってヤツの全てだったんじゃない? 違う?』

『・・・・・・・・・』

 

 少女からの言葉に、サトーは言い返すことができなかった。

 敵からの言葉に言い返す必要などないと、頭では分かっている。だが今この場所では頭が働いてくれない。思考が追いつかない。

 

 無論のこと、仲間たちの何人かの家族とは生前に会ったことがあり、会話も交わし合っている。いい人たちだと思ったし、嫌な感情を抱かされた者は一人もいなかった。

 

 ―――だが、それだけだ。

 同じ部隊の仲間とは言え、本人ではなく相手の家族とは所詮、赤の他人同士の関係性しかない。

 自宅に帰った後まで、彼らの私生活を見ていた訳もなく、広大なスペースコロニーの片隅と片隅で、たまたま同じ日に同じ場所で同じ相手に同じ殺され方で殺されたから、殺された者達へ生前に抱いていた想いまで『同じ苦しみを味わった自分と同じモノだったに決まっている』・・・・・・そう保証してくれる理由や根拠が、一体どこにあると言うのか?

 

 

『自分以外の他人にとっては、大切な家族が殺されたから恨む想いも、その人のもの。キミのじゃない。

 同じ殺され方で、同じ日に同じ場所で同じように殺された人達の恨みでも、キミの家族を殺された恨みと、他人の家族を殺された恨みは別のもの。

 キミの家族を殺した相手を殺して、キミの恨みを晴らせても、自分の家族を殺された他人たちの恨みは全く晴れない。関係ない。

 他人の家族を殺された恨みを晴らせた時も、キミは全く嬉しくなれない。恨む気持ちは全然減らない。赤の他人の家族を殺された恨みなんか、どーでもいい。

 仲間が仇を討って満足して戦いをやめても、キミの恨みは晴らせてないんだ、ふざけるな。戦え戦え、さっさと戦え。お前らの恨みも家族の思いも関係あるか、キミの恨みだけがキミにとっては重要だ。・・・・・・違うの?』

 

『・・・・・・・・・』

 

『最初から最後まで全部、自分。自分自分自分、自分の愛する家族への思いだけしかない。それがキミの私たちと戦っていた本当の理由。

 自分が会ったこともない、他人にとっては大事な家族が殺されたからって、自分の家族が無事だったなら、せいぜい「可愛そうだね」「哀れだね」で終わりなのが人のココロだよ。

 誰も、赤の他人なんかの仇討ちで命賭けようなんて思えない。

 それが復讐ってものなのに―――“ここで散った命の嘆き”?

 “騙されてプラントは変わった”?

 “我らコーディネイターにとって正しき道”・・・・・・? ――ハハッ!!

 格好いいねぇー! 立派だねぇー! お子様向けの勧善懲悪アニメで人気取りでもしたかったのぉ~~?』

 

 その瞬間、サトーには自分の中でナニカが切れる音を確かに聞いた。

 

『おのれ―――おのれ戯れ言をォォォォっっ!!!』

『はんッ!!』

 

 ――ガキィンッ!!

 強引に力押しで押し切ろうとしたジンを一旦引き離して距離を置き、再び刃を構え尚そうとする敵機に向かい、サトーは体勢を整え直しきる前での決着をつけるため最大出力で機体をぶつけるように直進させていく!!

 

 ―――こうなれば、たとえ自爆してでもコイツだけは!!―――

 

 そこまで悲壮な覚悟を固めるほどの、決意に満ちたサトーの特攻。

 だが彼は、このとき完全に冷静さを放棄して、自分の今いる場所も、高度も、位置も方向も頭から綺麗に消え去ってしまって自分に気付いていない。

 

『我らのこの想い、今度こそナチュラル共にィィィィィッッ!!!』

『ふッ! ウ―――ザイっっ!!』

『うぬおッ!?』

 

 ――ガシーンッ!!と。

 自爆するため、斬機刀を切り払われた勢いのまま、敵に抱きつこうと飛びついた、その瞬間を待ちわびていたかのようなタイミングで、敵MSから足が伸ばされ、コクピットを蹴り飛ばされたサトーの機体は背後へと大きく吹き飛ばされていき・・・・・・そして、二度と戻れない場所へと送られる。

 

 ブースターを失って通常の状態にはない不自然な態勢からの斬撃。すでに射撃武器はなく、接近戦武装一本だけしかなくては致命傷など望むべくもない決死の特攻。

 狙いは最初から見え透いていた。

 

 来ると分かり切っているタイミングで、武器を切り払われる前提での特攻など、ただの体当たりと何も変わらない。

 今の自分自身がおかれている状況下で、自分自身に選ぶことが可能な目的達成のための数少ない選択肢。

 

 

 その選択を―――“選ばされてしまった”時点で、彼の運命は決まっていた。

 自分自身で決めてしまったのだ。―――無駄死にとなって散る運命を。

 

 

 そこは既に、限界高度を超えている位置だったのだ。

 通常の状態であればまだしも、ブースターを片方損失してしまっている今のサトーが乗る《ジン・ハイマニューバ弐型》に、この高さまで吹き飛ばされて元の高さまで戻れる手段などあるわけがない。

 

 通信機からノイズ混じりの中、相手の幼い無邪気な声が、レクイエムのようにも悪魔の嘲笑のようにも聞こえる声で、サトーの耳と心に不快な記憶となって刻みつけられる。

 

 

『キミたちの言ってた理屈が嘘っぱちだった事実を、証明してあげましょうか? わりと簡単なんだよね。

 もし仮に、キミと一緒にユニウスセブンを落とした仲間たちの家族を一人残らず皆殺しさえすれば。

 本当に――“キミの愛する大事な家族だけは生き返れる”って、保証されているのなら――キミは一体どっちの道を選んでたと想う・・・?

 それが答えだよ、オ・ジ・サ・ン♡』

 

 

 その言葉を聞かされ、サトーは激高する。ただ訳も分からぬまま、怒りと憤激の叫び声をコクピットの中で、ただひたすらに喚き散らし続ける。それしかもう・・・彼には何もできなくなった後だったから。

 

『う―――うおぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!』

 

 そんな彼には気付きようもなかったが、赤熱に包まれる彼の機体と同じ高度に、彼と同じくザフト軍のMS2機が手を握り合い、必死に地球の重力から脱出しようとしていたことになど、今の彼が気付くはずもない。気付いたところで意味もない。。

 

『くぅ・・・っ』

『クソっ!? このままじゃ、高度が――ッ!』

 

 なんとかメテオ・ブレイカー発射を最後まで守り抜くことに成功することは出来た代償として、アスランの《ザク》は完全に脱出可能な高度を下回る高さにまで達してしまった後になっていた。

 なんとかシンの《フォース・インパルス》が誇る機動力で脱出を試みてはいるものの、果たして間に合うか否か・・・・・・彼ら自身にも分かりようがない。

 

 そんな彼らの思いに触発された――という訳ではない無論ないのだろうが、シンたちと同じようにサトーもまた、必死に死地から脱出するため、大気圏から元の高さに戻るため愛機の中で死力を尽くしていた。

 

『おのれぇぇぇぇぇッッ!! 開けろっ!開けろッ! 戻れと言っているのが聞こえないのか!? この馬鹿MSめ! 役立たずめ! ガラクタめがァァァッ!!!』

 

 ガンガンガン!と。

 蹴りつけられたときの衝撃で、機体がひしゃげて開かなくなったコクピットハッチに裏側から拳を叩きつけながら、なんとか大気圏を脱して元の戦場まで戻り――――あのクソ忌々しい雌クソガキをぶち殺してやるために!!

 只それだけのためにこそ、サトーは今の危機を生き残り、死地から脱出するため必死に力を振り絞る。

 

 

「クソゥッ! クソぅッ!! あのクソ生意気な雌ガキめ! 殺してやる! 殺してやる!! 殺してやるぞ! 絶対に貴様を殺してやるからなァァァッッ!!

 このクソ餓鬼野郎めがァァァァァァァッ!!!」

 

 

 そう叫んだ瞬間。――既に彼の命の炎は、肉体と共に燃え尽きていた。

 大気圏の超高温によって埋葬される必要すらなく、生きたまま火葬されて綺麗さっぱり焼き殺された彼の怒りと恨みと無念の思いは、誰の耳にも心にも届くことなく、記憶されることもなく。

 

 ただただ、無意味な敗者の叫び声として―――漆黒の宇宙空間に霧散して、ノイズとなって飲み込まれる。それで、終わり。

 

 

 ――いや、そうではない。

 たった一人だけ、彼ら死者たちの無念を、流した涙を聞き取って、彼らの末期の言葉に耳を傾けれる存在が世界でただ一人だけ存在する。

 

 

「ハァァ・・・・・・♡ んッ、あ・・・っ♡♡

 フフ・・・最期だけ、ちょっと気持ちいい恨みだったかな・・・オジ、サン・・・・・・♡♡」

 

 

 『ユマ』、と名付けられた死から蘇った少女の死体だけが、それを可能に出来るようになった存在。その正体。

 

 息を荒げて、頬を紅潮させ、潤んだ瞳の先には、両足を摺り合わされた間に広がる、女性だけがもつ器官が存在する場所がある。

 

 その一帯が・・・・・・僅かに湿り気を帯びてしまっている現状を。

 果たして余人が見れば、如何なる現象が起きた結果だったと“誤解”されるのか・・・・・・残念ながら今の肉体に変化してしまった後の彼女自身には調整しようのない、そんな問題。

 

「・・・・・・ん?」

 

 だがふと、無意識のうちに両足の間に伸ばされそうになっていた片手に違和感を感じ、視線の高さまで持ち上げて、

 

「ちぇ、流石にサイバネティックとはいえ無理し過ぎちゃったか。こりゃオーバーホールに出さなきゃ、艦の整備施設だけじゃ無理だね。結構ヤル相手だったからな~、あのオジサン」

 

 失ってしまったまま、唯一戻っていないままの片腕を、最新型の機械型の義手に変えてから結構な日数が経過した。

 性能の高さもあって生活面では何の不便もないし戦闘もこなせるが、耐久力に関してだけは未だに自分の肉体に追いつけていないことだけは問題点だった。何とか早い内に解決してもらわなければ、今以上の強敵と戦わなければ行けなくなったときに厄介かもしれない。

 

 そんなことを想いながら、今回の任務はコレで全て完全に完了したと思い、未だに大気圏から脱出しようと頑張っているらしいザフト制MS2機の始末は、この高さからでは無理と判断して今度こそ本当に母艦へと戻ろうとした。その時だった。

 

 通信機から聞こえてきた、“その人の叫び声”が聞こえた。―――そんな気がしたのは。

 

 

 

『う、うわぁぁぁぁぁぁぁッッ!?』

「―――えっ!?」

 

 

 ――ボウンッ!!

 地球に向かって落ちていく途上にあったザフト軍機の近くで、なにかの爆発が生じたのが見えたと思った時には、既に2機の機体は重力の枷に囚われて、真っ赤に燃えながら地球へと落下していく赤い点にしか見えなくなってしまっていた後だったが・・・・・・気のせいだろうか?

 

 

「まさか・・・お兄ちゃん・・・・・・だったの? 今のって・・・。

 もしそうなら、そんなことって―――」

 

 

 

つづく

 

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