最近コレばっかり書いてる気がするのが難ですが……そーいう気分なのかな…?
地球が丸みを帯びた地平となって、眼下に広がっている。
その蒼い地平に突き刺さらんと、予想よりも大分小さくなったとはいえ、それでも尚巨大な大小無数の塊が矢となって灼熱しながら進んでいく。
それはサトーたち、《ユニウスセブンの悲劇》で大切な人達を奪われた恨みに心囚われ、復讐を正当なる報いと信じ貫く男たちの信念が成した結果でもあった。
自らは全滅しようとも、必ずや加害者たちに裁きを下してやるのだと、断罪のための生贄となってまで事を成した男たちの憎しみに囚われた魂が、呪いの輝きなって邪悪な光を地上に向けて降り注がせている。
すでに日付は変わっていた。
妙に白々とした朝日によって照らし出された町中は、昨日まで普通に暮らしていた人々の生活を光と共に消し去ってしまった後の時刻になっている。
『世界各地の皆さんへ、繰り返しお伝えします!
《ユニウスセブン》の破砕には成功しましたが、その破片の落下による被害の脅威はいまだ残っており、ユニウスセブン破片落下地点の予測は極めて困難で、地球全域が被災する可能性がありますッ』
半ばまで水に浸かったビルの最上階に設置されている街頭モニターから、遅ればせなアナウンサーの避難勧告が流され続けている。
その光景が映し出されているモニターの眼下では、ビルの二階部分にまで押し寄せてきた津波の水害から逃れるために上階へと人間たちによる大波となって押し寄せていく。
普段は大勢の人々が街路の合間を流れる川を形成している場所には、自然の水が本物の川と化して街の通りを濁流として流れ続けている。
その流れに逆らえなかった者達は、他の瓦礫と同じように『物』となった死体として、上流から下流へと移動し続け、やがて吹き溜まりとなる地点でうずたかく積まれることになるのだろう。
今、一匹の犬が流木のようなコンクリート片に乗って泥水の川を下っていく姿が見えた。
その犬が、伝説にある『カルネアデスの板』と同じ流れを辿って自分だけが生き続ける過程にあったのか、それとも“今から”逸話の再現が行われる場所へ流れていく途中だったのか・・・・・・誰一人知るものはいない。
誰も皆が、自分自身が生き残るため必死になって生にしがみつこうとしているのが人々にとっての現在だったから――
だが、街で暮らす普通の人々を殺すため襲いかかってくる脅威は、自然の災害だけではなかった。
人による、同じ人へもたらされる災害――人災が、二次災害となって生き残った人々へと襲いかかる。
『お、オイ! いまヘリが墜ちなかったか!?』
『待て! あれ見ろアレ! ザフトのMSじゃないのか!?』
混乱に乗じるように炎の中から、巨大なシルエットが人々の前に偉容を現す。
バズーカとマシンガンを両手に持った、人の力では抗いようのない巨人兵として、災害から生き残った人々に更なる絶望と死を振りまくために・・・!!
《ZGMF-1017モビル・ジン》
前大戦初期にザフト軍の主力MSとして開発され、まだMSを持たなかった頃の地球軍にとって最大の脅威と恐れられた存在。
正規軍のものではないのか、やや装備が通常のものと異なる点が見受けられ、パイロットも訓練が行き届いていないらしく動きは緩慢。
今では既に旧式MSとなって久しい機体ではあるものの、ろくな武器も持たずに逃げ惑っているだけの難民たちにとっては死の象徴以外のなにものでもない存在。
そんな《死》そのものが、ゆったりとした動きで片腕を持ち上げながら狙いを定め、手に持っていたバズーカの引き金を引くと、再び大量の死と破壊が被災から生き残った人々の頭上に撃ち放たれる。
おそらくはゲリラが運用する現地改修された機体なのだろう。ろくな戦略目標があっての攻撃とは思えなかったが、めったやたらに周囲の建造物へと撃ちまくりながら都市の中心部を目指して突き進んでいく。
MSからの攻撃に対して現地に派遣されていた地球軍も反撃してはいるものの、彼らは戦争が目的で派遣されてきた部隊ではない。あくまで災害救助のため派遣されてきた者達なのだ。対MS戦闘を想定した装備など持ってきている訳がない。
主に野盗化した難民の群れなどからの防衛を目的として持ってきていた戦車隊が、果敢にもジンを止めるため四方から襲いかかっていくが、戦車でMSに勝てるのなら連合軍は先の大戦であそこまで追い込まれる訳もない。
火力が異なり、装甲の厚さは比較にもならない。
一方的な的にしかなることができず、飛んで火に飛び込んでいく虫の群れのように次々と撃破されていく戦車隊。
そんな中、他の部隊とは異なるルートを辿って敵の死角を掻い潜りながら、ジンへ向かって単機接近していく一輛の連合戦車。
「すまないな軍曹! 始末書書かせるハメになっちまって」
「いえっ! また少佐と一緒に乗れて光栄です」
操縦役を担っている軍服姿の黒人兵士から「少佐」という軍隊内での階級で呼ばれている私服姿の男に指揮されて敵機へと向かっていく奇妙な存在。
他の友軍機たちが正面から、だが機動しやすい道路を使っての正攻法で急速接近撃破を目指そうとしているものの、平凡すぎる戦法は敵にも予測されていた故か有効射程圏内にジンを収められる距離まで近づける前に全て撃破されてしまっていく。
その被害を囮にすることで、ようやく敵機への密かな接近を可能にしているのが彼ら二人乗りの戦車だった。
死んでいく者達には悪いと思うが、こうでもしなければ戦車でMSに勝つことなど出来ないことを、彼は前大戦でイヤと言うほど思い知っている。
「少佐の指揮、後学のためにも今一度拝見させて頂きます」
「茶化すなよ。オレはもう引退した身だぜ? 民間にな」
肩をすくめて操縦席から語りかけてくる現役時代の教え子からの言葉に応えつつ、彼の頭にあるのは別の人間のこと―――別の『女』のこと。
『・・・オレの中でも、ハッキリとした答えがあるわけじゃないんだ。
ただとりあえず、上を見ておこうと思ってね』
『上・・・?』
その女と交わした会話を、今になって不意に思い出す。
たしか、今の職場に就職するため、コーディネイターでさえ2年かかる試験にナチュラルの自分が6年かかってでも受かりたいと思ったのは何でか?――とか聞かれた時のことだ。
『横ばっかり見てると、誰かに嫉妬して自分も欲しくなったりするだろう?
かといって下を見てると、今の自分で助けてあげられる人がいて、彼らに必要とされてりゃ気分はいいが――「もし自分より弱いものがいなかったら?」・・・と思っちまう時がある。
そうなった時、自分はいったい何をやるんだろう、ってな。
だから・・・・・・少しでも上を向いてる自分を確保しとこうと思ってね』
自分は確か、そう答えていたはずだ。
その言葉が格好つけのウソにならずに済んだおかげで、『彼女』が誰よりも上の場所に飛び立っていくのを手伝うことが、ようやく可能になった今がある。
――だからこそ、今ここで邪魔される訳にはいかんのさ!
アイツの打ち上げは、必ず成功させてやらんと約束が守れないんでね!!
その想いという名の信念で、彼は車両を疾駆させる。
大分距離を縮めたが、この位置からではジンの装甲はまだ貫けない。数発分をまとめて叩きつけられるならまだしも、自分の車両一輛だけで撃墜を目指すには、一撃必殺の近距離まで近づいてから発砲しなければ不可能だ!!
「軍曹ッ! 連射間隔をコンマ5秒にセット!」
「そんな!? 無茶です! バレルが保ちませんよ!?」
「かまわん! どうせ一回しか攻撃できる機会はな―――しまった!?」
狙い通りことを進められていたはずだった彼の予測に反して、味方機の攻撃によって足場が崩されたジンの位置が大きく変わってしまったことで、自分たちの存在を予測より早く察知されてしまい、焦りを抱かされる男。
まだ今の距離ではジンを倒せない――どうすれば!?
躊躇いを抱かされながら、この状況下で可能性をつかみ得る手段は一つしかなく、運任せの確率論になってしまうが他にどうしようもない以上、それに賭けるしか道もない。
敵機も体勢を持ち直して、コチラを撃つ狙いも先ほどより正確になってきた。
マシンガンではなく、バズーカを構えてきやがった! 今しか勝てるチャンスはない!!
「軍曹ッ! スモーク散―――なんだとッ!?」
「攻撃っ!? 上っ!」
突如として、自分たちに狙いを定めていた敵MSのバズーカを構えていた右腕が、空から墜ちてきた光の雷に貫かれて弾け飛び、自らの右腕の爆発によって本体までが揺り動かされ、ふたたびバランスを崩してたじろぐジン。
そんな水の中に腰まで浸かり、動きまで阻まれた巨体に向かって空の上から黒いシルエットが降り立ってきて―――落下速度を加えた重量によって踏みつけるッ。
ガァァァッン!!
重苦しいほどに重量級の音が辺り一面に響き渡り、ジンを踏みつけて残された左腕をひしゃげさせる。
戦車より遙かに堅く、重い存在であるMSを相手に、これほどのことを自機の重量だけでやってのけられるものなど、この世には一つしか存在しているはずもない。
MSだ。
ザフト軍のMSジンと同じように、敵対する陣営のMSが空から降り立ち、戦車で挑もうとしていた危険な賭けを肩代わりしてくれる援軍が現れたのである。
その機体は、少佐と呼ばれた連合軍の退役将校には見覚えのない形状をしており、連合軍系の主力モビルスーツであるストライクダガー風の頭部で、接近しつつあったコチラの方へと振り向きながら。
ヴォォン・・・と。
頭部の中央に光る、赤い光点―――モノアイを怪しく輝かせて見つめてきたのだ。
「――ッ!! モノアイだと!? ザフト軍の増援かッ!」
「ええッ!? で、ですが敵味方の識別だと反応は・・・ッ」
驚く彼らだったが、しかしコンピューターに登録されている敵味方識別装置では、目前に降り立った機体は友軍機として登録されており、彼ら両人共が見たことも聞いたこともない形状をもつ異形のMSではあるものの、味方の増援であることだけは確実と思って良いようだった。
やがて敵機のボディの上に降りたった機体は、モノアイを光らせた頭部をコチラに向けながら右手を掲げあげ、
クイッ、クイッ、と。
親指で後方を指ししめすジェスチャーを、彼らに向かって示してくる。
「――? 下がれ、と言うのか? オレたちに・・・いったい何を」
「おそらく、さきほどジンの攻撃で司令部がやられ、指揮系統が機能できない状態に陥っています。
もともと我々は災害救助で派遣されてきた部隊で、防衛司令部だった訳ではありませんでしたし、つまり・・・・・・」
「おいおい、オレに指揮しろってのかよ? こっちは今は民間だってのに、ったく・・・」
頭をボリボリかきながら、だがそれ以外に一刻も早く後を追える道はなさそうだと彼は割り切るしか他に道がなさそうだった。
災害救助センターとしての司令部と、敵からの攻撃を想定した指揮所では前提条件がまったく異なり、目立つ位置にあった建物に設置されていた司令部は指揮官もろともおそらくは全滅させられた今の現地連合軍部隊は、退役している点が大問題とはいえ自分が最高位なのだろう。
コーディネイターと違って、ナチュラルの軍隊である地球軍は、上意下達で上からの命令がないと自分で動くことがほとんど出来ず、動く者がいても大抵は暴走するだけ。
下手な動きをされて「彼女」の邪魔をされる恐れが出るぐらいなら、まだ自分がやった方がマシだった。
「ったく、しょうがねぇ。軍曹、始末書追加分を付き合えよッ」
「了解です少佐! ですが任務後に連れて行ってくださるお約束だった飲み屋が、始末書の後になってしまうのだけは心残りでありますッ」
「言ってろ、アホ」
戦闘が終わり、命の危機が去ったと確信し合えた安堵感故なのだろう。
気楽な口調で軽口をたたき合いながら戦場を離脱して、後方へ下がっていく一輛の連合軍戦車。
その戦車が去って行き、自分たちの手元へは二度と帰ってこなくなった後ろ姿を映し出していたモニターを眺めやりながら、
「・・・行っちゃったね。残念だ、もう届かない・・・」
MSのコクピットに座りながら、彼は倒し損ねた敵の逃げ去る姿を見つめて、感慨深く呟いていた。
一機のMSに設置されている、一つだけのコクピット。
その中で機体を操っている者は当然一人であり、二人では狭くなりすぎる程度のスペースしかない密閉された空間で。
「でも、ボクたちの行為は無駄じゃなかった。一機の敵は逃したけれど、このコーディネイターの敵だけは倒すことが出来るんだから」
だが、聞こえるはずのない2人目の声が同じコクピット内に響き渡る。
衝撃でいくつかの照明やモニターが死んだらしく、薄暗がりに支配されつつある狭苦しい空間の中で、だが操縦席の上には確かに、二つの頭が首をもたげるシルエットが映し出されていた。
無論、如何にコーディネイターといえども伝説にある二つの首をもった真性の化物がごとき肉体をもつことは不可能。
ならば必然的に、町に突然襲いかかってきたジンを動かしていたのは最初から彼ら、二人のパイロットたちによる共同作戦だったということを意味している。
「ボクたちからじゃ手が届かない―――そっちの装置を開いて、ボタンを押して」
「うん、わかってるよ・・・お兄ちゃん」
いや、二人ではない。三人だ。
本来、大の大人がノーマルスーツをまとった姿で動かせるよう設計されているMSのコクピットシートは、生身のまま彼らのような『子供たち』が動かすには縦幅以上に横幅が広く取られすぎている。
コクピット脇のシートに据え付けられている、そのボタンを押せば自分たちごと、悪いナチュラルの使うMSを一機、退治してから死ぬことが出来る。
ザフト軍にとって、プラントにとって、強いMSとパイロットは脅威だ。
自分たちの大事なドウホウを、たくさんたくさん殺そうとする悪いヤツら。
そうなる前に、仲間たちを殺そうとするヤツらを倒して、みんなを守って死んでいけるのは良いことだ。
そう思って、自分たちは決して無駄死にするわけじゃないんだ、みんなのために死ぬんだと思いながら、笑顔で蓋を開いてボタンを押して、それで―――
「「「・・・・・・?」」」
何も起きなかった。
うんともすんとも言わずに、ただボタンが押されただけの状態で何も起きない現状に不審を抱かされて、それで
「!? に、兄ちゃん! アレ! あれッ!!」
「どうした!? いったいなに――ああッ!?」
弟に呼ばれてモニターの一つを見た兄の少年は、自分たちが悪いナチュラルに騙されていたことを知って驚かされることになる。
そこにはコクピット近くの装甲に、小さな実態刃のブレードが突き立てられている光景が映し出されていた。
おそらく電磁系の武装だ。その機能による効果で、自爆装置を無効化させるために放たれていたのだろう。だからボタンを押しても起動してくれなかったのだ。
たぶん最初に右腕を吹き飛ばされた空からの一射を、彼らは味方機の戦車にたいする攻撃を阻止するために撃ってきたものだとばかり考えていた。
だが違ったのだ。本命は、自分たちが追い詰められたときに使う自爆装置をあらかじめ封じ込めた攻撃を悟らせないため、敢えて別の攻撃に意識を逸らさせた。
そのことに気付かされた今、彼らに選べる道は一つしか無い。
一つだけしか、選んでいい道を与えてもらってない彼らには、こうする以外にとるべき道は許されていないのだから―――
「こ・・・この一撃が・・・我らコーディネイターの・・・」
震える手で、それを持ち上げながら、恐怖に染まった表情を彼は浮かべる。
覚悟は決めてある。最初から帰ることは考えてなかった。失敗した時にどうなるかも知ってたし、ここまできたらどうしようもないのは分かってる。
――だが、恐怖を感じる気持ちまで0にするのは難しい。
「わ、悪いナチュラルは、死んだナチュラルだけしか許しちゃいけないって・・・・・・先生が教えてくれたから・・・・・・」
そう、許されないのだ。ナチュラルとは悪だから。
そんな悪のナチュラルに敗れて、生き延びるなんて、優秀なコーディネイターにとっての恥は自分たちには許されない。
彼らのような幼い子供は、戦争で今すぐ戦力として役立たない。
だが、戦力外の子供たちに、中古品の旧式MSを使わせて、ナチュラルの後方支援を担う街やインフラ施設を襲わせれば。
敗れたとしても、敵MSもろとも自爆して道連れにすることができたなら。
ザフト軍は、ナチュラル共との戦争で更に有利になることが出来るだろう。
そんな子供たちの非業の死は、プラント市民たちに義憤の炎を燃やし、新たな炎を燃やす種火となる。
勝つために必要になったんだから、自分たちは必要な犠牲として死ぬべきだった。
そうなる覚悟が、コーディネイターみんなにあるはずだった。あるべきだった。
悪いナチュラルを滅ぼすための、唯一の正しい道をみんなで歩んで勝つために。
これは――自分たちは―――必要だから、死ななきゃいけない。
「創世のヒカリと・・・・・・ならんことを―――」
顔面蒼白になった弟と妹とともに、三人一緒に手に持ったソレを口にする。
――ゴクリッ、と。
なにかを飲み下す小さな音がコクピットに響くのが彼らの鼓膜に聞こえてきた――そう思った次の瞬間には急激に眠気が感じられ、急速に眠くなっていき、意識が闇へと誘われて消えていく。
そして―――彼らの意識が闇の世界から帰ってくることは二度となかった。
もう二度と、未来永劫に。永遠に・・・・・・。
そんな内部で動かしていた者達が、永遠の闇の中へと自ら囚われたことを知るよしもない外側からの景色だけを見下ろしているMSのコクピットにも、パイロットとは異なる別の誰かの声が響いてきていた。
『中尉殿ぉ、よろしいんですか? こんな一般市民の災害救助みたいな作業にMSを使ってしまって。ジブリール氏に怒られませんか?』
「フンっ、知らんな。私の上司は、男のくせにケバい化粧のオカマ野郎に主君替えをした記憶が無いのでね。それ以上のことは知らんよ」
ジンを踏みつけていた地球軍所属らしきモノアイMSのコクピットシートに座りながら、パイロットらしき青年は面倒ごとを押しつけることに成功した戦車の後ろ姿を遠くに見やりつつ、自分を機体ごと運んできた飛行支援ユニットの操縦者に返事の続きを一応付け加えておくことにしておく。
「それに、《ファントムペイン》にはどうせ軍施設への攻撃でもない限りは出動命令は降りんだろう。
そちらの任務は彼らに任せて、市民たちへの人気取りする役目をやる者も必要だ――というのが我らの『姫様』からのご命令だ。
軍人としては上からの命令を無視する訳にも行くまい? 義務だよ義務、仕方がないのさ軍人なのだから」
『はぁ、なるほど。まぁ、正義だの正しさだの義務だの規則だのって代物が、ものは言い様の屁理屈のことだってのは承知しましたが・・・・・・』
「屁理屈と言うな。理論といえ、理論と。もっと高尚な呼び方と表現で。なんか立派そうで良いじゃないか」
あまりにもあまりな言い分と返答に、正規軍の口うるさい上官が耳にすれば怒りのあまり発狂しそうな会話を平然と交わし合いながら。
それでも彼らは彼らなりに、職務に対しては一応の誠実さをもって遂行する気はあるらしく。
「まっ、要するに我ら軍人は、与えられた任務で最善を尽くせば良いと言うことだろう。
『全ては青き“性悪”なる地球のために』な」
『「清浄なる」じゃないんですか?』
部下から確認された上官の失言問題に対する回答はシンプルなものだった。
もっとも、ベストな回答か否かは分からぬ話だが。
「私は『清浄』という言葉は嫌いだ。子供の頃にイヤなことがあったのを思い出させられて、思わず親を階段から突き飛ばしたい衝動に駆られるイメージを持った、謂わばレッテルなのだ。
人に対して『悪い言葉でレッテルを貼ってはいけません』と親や教師から教わったろう? だから私は仮にも所属組織に対して『清浄なる』等というレッテルを口にしないのさ」
『なる・・・・・・ほど』
分かるようで分からないようで、屁理屈であることだけは確実だなと言うことだけは理解できた部下は何も言わず、言っても無駄だと割り切って上官の期待を回収して釣り上げる作業を行うため機体を降下させていく。
《ファントムペイン》とは異なる、だが同じ独立機動群などという怪しげな名称の部隊に配属されている異色の才をもった者達で構成された部隊の一員として、彼らにも宇宙で特別任務を与えられているという別働隊と同じように、異なる任務のため行動を進めていく。
空は陽の光を地上に広くもたらすべき時間になっていたが、巻き上がった砂塵やキノコ雲や大気中にまき散らかれた灼熱のガスなどによって重苦しい灰色の雲に覆われたまま、晴れる気配は一向に見いだせない。
そんな空を縫うようにして、自分と相手の2人だけの空間内だけは明るい別世界を形成しているようなコンビが、別の地区へと移動していく光景の下では、絶望と恐怖に青ざめたまま苦しみに喘いで悲しみに泣き叫んでいる大勢の人々が、同じような行動を同じように行って、同じような叫びと主張を誰かに向かって唱えていた。
空と地上、その両極端な分布こそが、今の世界を端的に現しているものだったかもしれない光景を、だが世界中の人々はほとんど誰も知る者はいないまま―――悲劇と被害だけが世界各地で広がり続けている・・・・・・。
そんな滑稽で悲惨な悲喜劇の舞台とされてしまった地球の惨状を、軌道上から見下ろす視点で全体像をつかむことができる特等席と呼べる場所から目撃することが許された、数少ない地球軍の兵士たちが実在していた。
「うっわ、マジすげぇ・・・」
それら大量殺戮の悲劇を、観客席の立場から目撃することを許された者達の一隻である《ガーティ・ルー》の展望室から地表の光景を見下ろしながら、《エクステンデット》の一人『アウル・ニーダ』は、目を見張って呆然としながら呟いていた。
今ではザフト軍から奪った新型《アビス》の専属パイロットとなっている彼は、女の子みたいに可愛い顔と裏腹に残虐さをもった性格をしてたが、一方で年齢よりも幼い精神の持ち主でもある。
今も彼の声には、純粋に軌道上から落下していく凄まじい光景に見とれている様子しか感じられず、その行為の善悪や被害についてまでは頭にないようだった。
「死ぬの?・・・・・・みんな死ぬの?」
彼の隣で大きく瞳を見開きながら、強化ガラス窓に顔を押しつけるようにして眼下の光景を見下ろしていた同僚の少女で、《ガイア》の専属パイロット『ステラ・ルーシェ』は怯えた子供のように高い声で同じ言葉を、誰かに向かって問い続けている。
――死ぬのかと。みんな死んでしまうのかと。
自らが最も嫌って、最も恐れる、その問いを誰かに向かって延々と――
「くっそォ・・・アイツら! こんな事、またやりやがったのか・・・ッ!!」
その更に隣で悔しそうに拳を掌に殴りつけている少年は、二人の同僚である『スティング・オークレー』同じくザフトから奪取した《カオス》の専属パイロット。
短い髪を逆立てて、刃物みたいに鋭い目つきをした彼は、キツそうな外見と違って面倒見が良く、優しいところもある性格から本気で目前の光景に義憤を感じているようだった。
ヤツらが・・・コーディネイターたちが、またやったのだ。
大量虐殺を、人殺しを、普通に生きている人達が暮らしている街に、コロニーを落として皆殺しにしやがった!!
アイツらの落とした火によって、みんなみんな死んだ! 殺されてしまった!!
スティングは憎しみに奥歯を噛みしめる。
――コーディネイターは悪だ。こんな行為を平気でできてしまえるヤツらは普通の人間じゃない。人の心を持たない宇宙のバケモノ共。
アイツらを生かしておけば、みんなみんな一人残らず一方的に殺される。身勝手でバカな理由で普通に暮らしている人達まで、兵器で殺されてしまうのだ!!
――自分たちが焼かれた街から生き残って改造された時と同じようにッ!!
「やっぱり、また戦争がしたいってことなのかよ!? アイツらはッ!!」
「コロニーが・・・・・・落ちたね」
そんな彼らと同じ旗の下に属して、同じ作戦に従事し、今また同じ艦隊として隊列を組み直しながら、同じ光景を眼下に見下ろしていた《ガーティ・ルー》の姉妹艦として建艦された中型戦艦《ガーティ・ルーjr》の艦橋でも同じような会話が交わされている。
「落下阻止は失敗ですか・・・・・・ユマ様が残党共を全滅させたとはいえ、この一撃で世界は変えられちまいますな、最期までクソ生意気なヤロウ共です」
「半分は敵の助けを借りての成功だったけどね」
「・・・はあ?」
敬愛し、忠誠を誓っている唯一の存在でもある“長”がボソリと呟くように言った返答に、副司令を兼ねた艦長は怪訝そうな声を発するが、それに対する説明はなかった。
相手の少女は、年齢的にはステラたちより年下だったが、地位や階級では格上であり、立場的には《ファントム・ペイン》の指揮官『ネオ・ロアノーク』と同格の身分にある。
スティングやアウルたちより裏面の事情を知ることができる立場と、教えてもらえる上役がいる所属勢力に、彼女はある。
地球へ向かって密かに接近しつつあったデカブツの存在を察知していた連合軍の監視網。
本来ならサイズ的に物理的な発見と排除が可能なはずの地球軌道上の警備艦隊に出されていた待機の指示。
地球への落下による被害で再び再熱することは確実な、コーディネイター憎しの感情論とブルーコスモス支持が高まる未来の風景。
『完璧な守りは敵に死力を尽くさせ、コチラも全力を出さざるを得なくなるからねェ・・・』
嗤いながら指示を出していた大西洋連邦軍を事実上支配している男の言葉を、聞かされている相手の斜め後ろに立っていただけの添え物としてではあったが、確かに耳にしている言葉を彼女は知らされている立場にある。
直接ではない。自分が聞いた訳でもない。だが、聞くことができる相手と自分との個人的な繋がりによって知らされることが許されている情報は、だが流石に他の部下たちにまで言っていい話ではないことぐらいは心得てもいる。
だから彼女は、それ以上何も言わない。
宇宙空間でも飲めるようチューブで吸えるようになっているジュースを、左手で持ち上げながら、右手はダラリと垂らしたままの姿勢で、指揮官席におとなしく座ったまま。
よく見ると、その右手には服の袖から先がなかった。
袖だけがダラリと下がって、ユラユラと揺れているだけで本来あるべき肉の塊が、そこにはなく、中空だけが服の内側に隠されている。
その状態を、光景を、彼女の中だけに創り出させたのと同じ現象が、再び人類自身の手によって再現されてしまうのかもしれない・・・・・・。
そう思っているのかいないのか、彼らの指揮官である少女は、それ以降は何も語らず何も言わず、地表の光景に二度と視線を向けることすらないままに。
ただ、帰投命令だけを下してジュースを飲む。
その姿は、外見年齢相応の少女らしい無邪気で愛らしいものに映っていた。
――袖の先がない、右手のない右腕という一点だけを除くことが出来たなら本当に―――
地球上で何が起きようと、どれほどの被害に見舞われようと、直接的な被災者となる不運からだけは確実な他人事として、客観視点で語ることができる空の上や宇宙空間から見下ろせる特等席にいられた観客たち。
だが、被害を受けた地球の人々と同じように地球上で暮らしながら。
住む家や、家族や、今までの生活を津波によって押し流された者達と同じ地表にありながら。
彼らとは違って、特等席から他人事のような心地でユニウスセブンの落下被害状況を見物することが出来ていた者達が集う場所が今一つだけ存在している。
それは広大な地下シェルターにいち早く避難していた、一部の事情を知る者たちの存在。
地上を離れ、遙か頭上の宇宙空間から地表の光景を見下ろしていた人々とは真逆の位置にある地下深くに隠れ潜んだ者達もまた、宇宙にいる者と同じ観客席から地上の惨劇を見上げる権利を与えられていたというのは、いったい何の皮肉によるものだったか。
『やれやれ、やはり大分やられたな。パルテノンが吹っ飛んでしまったわ』
そんな地下深くに潜んだまま、地上を見上げる必要もなしに地表の状況をリアルタイムで知ることが許された者達の顔が、今一つの地下シェルター内に据え付けられている巨大モニターの一角にズラリと並び。
先日行われた議題の続きを、再度検討するために二度目の会合をロード・ジブリールは、今度は自分の私邸で――ただし、地下に広がる極秘の専用シェルターで通信回線越しに主催していた。
「あんな古くさい建物、なくなったところでなにも変わりはしませんよ。
まっ、観光資源としては多少惜しむ価値があったことは認めますが」
モニターに映る映像の一つで、ギリシャの名高い世界遺産の一つが衝撃波で粉々にされていく光景を見せつけられたことに憤慨してみせたメンバーの一人に、ジブリールは揶揄するように笑ってみせる。
彼としては本心からの言葉ではあった。
ブルーコスモス思想は、天然自然のまま誕生し、機械技術による遺伝子調整を施されていないことを価値あるものとし、『生まれ』を尊しとする思想ではあったが、血統主義ではない。
『古いこと・古くから続いていること』=『価値あるもの』とする古典的な価値観と彼の思想は部分的にしか一致するものではないところが、ブルーコスモス思想の特異な一面であったかもしれない。
『で、どうするのだジブリール。デュランダルの動きは予想よりも早いようだぞ』
『ヤツめ、もう甘い言葉を吐きながら被災した難民どもに、何だかんだと手を出しては人気取りに勤しんできておる。
止めるべき理由もないので、大西洋連邦の小僧にも手の打ちようがないとのことだ』
他のメンバーたちも苦々しげな表情を見せながらも、今回の一件に対するデュランダルの対応の早さは認めざるを得ないようだった。
あまりにも素早く対応され、声明発表を出されてしまったことで付けいる隙が得られず、むしろ市民たちの中には悲劇を防げなかった各国政府の対応のまずさを非難する声と、相対的にプラントの援助に対する好意的な評価とが高まりを増しつつある。
このままでは不味い――皆がそう思うようになっている内心を悠然とワイン片手に確認してから、ジブリールは自らの席でもあるデスクトップのディスプレイに歩み寄ると、一つの操作を片手で行う。
「もう皆様のお手元にも届くかと思われますが・・・・・・《ファントムペイン》がたいへん面白いモノを送ってきてくれまして」
『ほう? ――むっ! これは・・・・・・』
『なんと・・・・・・やれやれ、結局そういうことか・・・・・・』
その操作によって、相手側のモニターでも大きく開かれたであろう映像記録。
画素数が低く、充分な明るさのもとで撮影されたものでないとはいえ、それでもその写真に写っているMSたち―――黒色のザフト軍モビルスーツ《ジン》が、戦闘を開始するより前の時点で、ユニウスセブンに設置された装置やストリングスに巻き付けられたワイヤーのようなものを撮った映像なども含まれているソレ。
それは紛れもなく、今回の一件がザフト軍によって行われたモノだったという、確実な証拠となるものだった。
この際それを行った実行犯たちが、デュランダルの意を受けた者達であったか? ザフト正規軍の兵士たちか? 反乱軍か? ザラ派か? クライン派か? ・・・・・・といった違いは切り捨てていい些事となる。
重要なのは今回の一件が事故ではなく、事件であること。
そして実行した犯人たちが、コーディネイターの兵士たちであること。――この二点だけが重要となる要素だった。
「思いもかけぬ最高のカードです。これを許せる人間など、この世のどこにもいはしない。そしてそれは、このうえなく強き我らの絆ともなることでしょう」
もし彼らがザフト軍の一部過激派で、独断で行っただけの作戦だったとして。
オーブが前大戦で、中立コロニー・ヘリオポリスで連合軍用のMS開発を、『閣僚の一部が独断でやったこと』と説明された時、プラント市民たちの大半はオーブの言い分を受け入れていたか?
地球軍がかつて、ユニウスセブンに核ミサイルを放った時、『ブルーコスモス派の軍の一部が強引にやったこと』と言われたザフト軍は、地球に侵攻してこなかったか? ・・・それが答えだろう。
嘘か真か、真実か虚偽か、誰がやったかやらなかったか―――そういった諸々の問題以上に人々にとって最重要となる判断要素は今も昔も、『信じるか?』『信じないか?』なのだ。
それが真実だと多くの者達が信じれば、嘘でも真実になり、ウソだと信じれば正論は詭弁になる。そーいうものだ、人の心というヤツは。今も大昔も、それは何も変わっていない。
今の状況下で、『今回の一件はコーディネイターの兵士たちによって引き起こされたものだ』という証拠を示しめてしまえば、後はデュランダルが何を言おうと『コーディネイターの議長が仲間をかばっている』『コーディネイターが犯した悪行をコーディネイターが隠すのは当たり前だ』となるのは当然の流れ。
「今度こそヤツらに――コーディネイターの全てに、死を・・・です」
『『・・・・・・・・・・・・』』
取り澄ました表情で語りかけてくるジブリールの言葉に、モニター内に居並ぶ同士たちからは賛成の言葉はない。だが反論の言葉も返ってくることもない。
それは彼らが、この提案が乗るに足る賭けだと認めたことを、多弁よりも雄弁に証明してくれる何よりの証拠でもあった。
―――勝った。
そう思い、万感の想いを胸に抱きジブリールは、片手に持ったワインを掲げ、勝ち誇ったような余裕の笑みで、メンバーの中の一人に悠然とした口調で念のための確認という体で語りかける。
「如何ですかな? バーンシュタット殿。この持ち帰られた映像を見ても、貴方はまだ開戦に反対であると仰られるつもりかな?」
『ええ、無論ですジブリール殿。この映像を見せられたことによって、私の推測は確実となりました』
「・・・なんですと・・・ッ!?」
目を剥いてジブリールは相手の、鉄面皮な動かぬ面を思わず睨み付ける。彼の瞳にギラリと危険な光が浮かんだのは、この瞬間のことだった。
他の者たちも、この意外すぎる異論の出現に意表を突かれたらしく、興味を引かれたのか長老格の人物が一同を代表して、ジブリール以外の最年少メンバーに説明を促す声をかける。
『それは一体どういうことかね? バーンシュタット、私にはこの映像はまごうことなくジブリールの言うとおりのものとしか思えぬのだが』
『仰るとおりです、老。ですが私が問題視しているのは、その点ではありません。もっと別のもの、この機体であるMSそのものが重要なのです』
『と言うと?』
『機体の装備が揃いすぎている。これは、あり得ぬことです』
瞬時に彼の言い分を理解したものは、その場にはいなかった。
無理もない。彼らは所詮、商人であって軍人ではない。戦争で兵士たちが必要な兵器を造って大量に売ることはしても、実際の現場で用いられている兵器事情というものを正確に理解して把握している者は、意外に少ないのが死の商人と呼ぶ者もいる彼らの実情でもあったのだ。
『現在プラント内の政権は、比較的《クライン派》に近しい中立派のカナーバ議長の派閥が握っており、彼女から後継の指名を受けたデュランダルがカナーバ政権のスタッフを引き継いでいる。そんな政情にあると聞き及んでいます。
少なくとも、敗戦を喫したことで失脚した《ザラ派》ではない』
「・・・・・・」
『此度の件での実行犯たちが、デュランダルの意を受けて動いていた者達なのか、彼に反目する国内勢力による独断か、あるいはコントロールを受けてはいたが間に何枚もの幕を挟んだ遠隔的なもので自覚がなかったか―――それは分かりませんが、少なくとも実行犯たちの所属としては現政権に与する者達ではなかった可能性が高いと見るべきでしょう。
裏で繋がっていた者達ならば、これほどユニウスセブンを細かく破砕までする必要はないわけですからな。
“見せるだけ”が目的なら、文字通り防ぐ努力を“して見せてやる”それだけでいいのですから』
「・・・・・・・・・それが、一体なんの理由になると・・・?」
訝しげにジブリールは、不機嫌な口調と表情で問いかける。
相手が語る話は彼も知っていた。
パトリック・ザラは、前大戦時にプラントで市民たちから支持を集めた、強硬主戦論を唱えるタカ派の政治家で、彼に賛同するザフト軍内部の過激な将校や兵士たちによって結成された軍閥《ザラ派》の筆頭としても目される人物だった。
政敵であったシーゲル・クライン議長に失態が続いたことで、相対的に地球への断固とした態度と主戦論を貫く彼に対して支持が高まり、《サイクロプス》の使用などブルーコスモスの非人道行為への怒りと相まって一時期はプラント評議会議長の地位にまで上り詰めたことすらある。
・・・・・・だが、議長就任以降はスキャンダルと失態が続くことになる。
『勢力としてみた場合、現在のザフト軍内部に勢力を残している者達は《ザラ派》の残党といったところでしょう
立場上デュランダルの方針に反する行動を取った者らは処罰せざるを得ない以上、現在のザラ派自体が組織だって今回のような事件を起こしたとは考えにくい。
デュランダル政権下での正規軍を離反した、ザラ派の残党部隊が起こした凶行・・・・・・そのような内実のものだったと推測される』
以前から軍部内で進められていたパナマ攻略作戦の目標地点を独断で変更させ、敵の罠にはまって地上軍の六割を損失させた。
更には、その件での説明と責任を問おうとしたカナーバら議員たちを「反逆罪の容疑」で拘束するように命じて、司法局を動かすことで国家反逆の容疑で逃亡中だった前議長シーゲルを逮捕も取り調べも受けさせることなく問答無用で射殺させる、拘束させたカナーバたちの穴が開いた議員の席を埋めるため、自分の派閥に属する政治家たちを据えさせる人事権の乱用が目立つようになる。
最終的に、敵への復讐心と疑心暗鬼に囚われた彼は、『味方もろとも敵を撃て』と部下に命令し、反対意見を述べてきた側近の一人を自分自身の手で射殺までするに至っていた。
自分に反対する者は全て敵であり反逆者としか扱わず、自分の家来にならぬ者は皆死ねと命じる完全な暴君と化してしまっていた彼の醜態は、彼の最期を目撃していた司令部要員たちによって戦後に広く知られてしまい。
制度を無視して、国家を私物化させるザラ議長に反感を抱いた軍の一部によって解放されたカナーバら中立派の議員らによってプラント本国でクーデターが発生したこともあり、完全に政治勢力としては失脚することになる。
現在も尚、軍部内では多くの支持者を得ていることから無視できぬ勢力を有してはいるものの、プラント政府内での発言力という点では敗残者といって差し支えない立場にまで没落してしまっているのが現在の彼らだった。
『残党軍という組織は、もっと雑然とした編成になるものです。
――これほどに統一された装備と、質の良い同系統のMSだけを人数分そろえられる残党部隊です。
ありえますまい? これほどの高性能な機体と武装を有するザラ派の残党など』
『ジブリール殿が、ファントムペインに奪取を命じられたザフト軍の新型3機と同系統の高性能MSを擁する最新鋭艦の部隊と、互角にやり合うことが可能な性能をもった量産型MSと、《ユニウスセブン》を移動させて落下させるための機材とスタッフ。
それらを用意して横流しをさせ、それをプラント内部の監査機構に気取られることなく行うことが可能な人物』
『――この一件は、戦争を再開させたがっているギルバート・デュランダルの意思が介入して引き起こされたものです。
戦争を、我々からの条約違反の奇襲という形で再開させられることを望み欲しているデュランダル議長の、世界を欲する野心という名の意思が・・・・・・』
つづく