ガンダム二次作   作:ひきがやもとまち

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ようやっと久方ぶりに【転生憑依キラ】が書けたので更新です。
ただ、戦闘シーンまで書ける話じゃなかったのが残念です。


正規版・戦記好きがキラ・ヤマトに憑依転生 第13話

 

 それは原作における《サイレント・ラン》が、ユウキ二尉と細やかかもしれないけど未来を知るボクの介入によって異なるルートを辿った地球行という、小さな改変が起きてから少しだけ経った頃に起きた出来事だった。

 

 アークエンジェルの前方をまた待ち伏せされないよう、念のためボクの――キラ・ヤマトが乗るストライクが先行偵察に出ていたとき、コクピット内に響いてきた警告音の後、モニター上に表示されたアルファベットの羅列が示していたもの。

 

 もう一人の『ファム・ファタール』と出会いの刻――

 

 

「民間船の残骸!? それに、強行偵察型・・・複座のジン!

 なんでこんなところに―――ボクたちは、宇宙の墓場になんか来てないのに・・・ッ!?」

 

 

 《ZGMF-LRR704B》――それは、プラントの歌姫『ラクス・クライン』との出会いを示す数字だったはずのものッ。

 ルートを大きく逸れて、デブリベルトにもアルテミス要塞にも近づくことなく、ユニウスセブンに追悼慰霊の事前調査へ行ってたはずの彼女とは場所もタイミングも合わないはずの地点では、表示されるはずがない機体番号と機種。

 

 思わず混乱させられて叫んでしまったほど意外すぎる表示で呆気にとられていたボクだったけど、それは相手の方でも同様だったらしい。

 何かを探すような動きで民間船の残骸に接近してきている途中でモノアイを動かし、ストライクの存在に初めて気付いたらしく慌てたように《超射程ライフル》の銃口を向けられるのを見せつけられた瞬間ッ。

 

 反射的にボクは、凄まじい恐怖心で身体がすくまされていた・・・ッ!!

 『人殺し』をする事への恐怖が、キラ・ヤマトの肉体を怖がらせずにいられなかったからだ!!

 

 偵察用のMSが単機で、こんな宙域まで出張ってきているはずがない、理由もない。必ずMS隊を搭載している出撃母艦が近くにいるはずだったッ。

 ようやくクルーゼ隊に前後を塞がれる作戦から逃れられた直後なのに、今ここで付近から増援を呼ばれたら元も子もない!

 皮肉にも場所とタイミングが原作から変わっていたことが、僕の判断を迷わせる大きな理由にもなっていた・・・。

 

 もし相手が探してるのが『彼女』だったなら、厄介だけれど“今の時点”で問題はない。――けど違ってたらアウトなんだ・・・!

 

 

 『もしもの時』にはアークエンジェルが落とされて、『みんなが死ぬ』殺される・・・!

 その恐怖心がキラ・ヤマトの肉体にトリガーを引かせるよう激しい衝動に駆られずにはいられない!

 けどッ! ・・・“撃てば人を殺してしまう”という結果への恐怖が同時に襲ってきたことが、“僕”の意識に介入する余地を与えてくれたのも皮肉だったのかもしれない――。

 

「待てッ! 撃つなッ!!

 偵察機がこんなところで何をしているかは知らない。だが君が撃てば、捜索している対象も巻き込むことになるぞ! それでもいいのかッ!?」

『・・・・・・・・・っ』

 

 咄嗟にオープンチャンネルの回線をONにして、引き金を引こうとする以外は金縛りに遭っていた身体の中で唯一動かせた口をついて言葉を発することが出来たのは、ボクにしては上出来な方だったと思う。

 

 それによって示した相手の動揺が、キラ・ヤマトの肉体にも変化を生じさせる。

 金縛りが溶けて、石のように『一つの動作』をする以外に動かなくなっていた身体から強ばりが消えていって、思考に自由意志と余裕が戻る。

 

「武器を捨てて投降の意思を示せ。コクピットを開けて両手を挙げるんだ。大人しくしていれば撃ったりはしない。

 だがもし友軍に連絡を入れようとしたときには危険を避けるため、この宙域全体にミサイル攻撃を断行せざるを得なくなる」

『・・・わかった、降伏する。そちらの指示に従おう。だが、私が捜索している対象は軍属ではなく民間人だ。戦闘に巻き込んでしまった相手を、ザフト軍の名誉のため捜索していた。

 軍人である私の身は仕方ないが、そちらへの人道的対処は守ってもらうぞ?』

「それは君の対応次第だ。もしも周囲の友軍に連絡を入れたと思しき行動が見られたときには、君の仲間たちの無事さえ保証できなくなるしかない」

『・・・・・・承知した。コクピットを開けてから、機体の動力を完全に切ろう。機体の方は自由にしてくれ・・・』

 

 相手のパイロットはこちらの指示通りの行動を取ってハッチを開き、両手を挙げた姿勢で姿をあらわしてくれた。

 渋々といった様子ではあったものの、その様子がボクに彼が守ろうとしている相手が『彼女』であることをボクに確信させてくれる。

 

 自然と口元が「へ」の字にひん曲がってしまいそうになりながら、ボクは彼への問いを重ねていく。

 

「それで、君の探していたという民間人はどこにいるんだ? この宙域はもうすぐ戦場になるかもしれない。

 助けたいと思っているなら、巻き込んでしまう前に救助するためにも、位置を知っているなら教えて欲しい」

『・・・・・・参ったよ。救命ポッドの反応が、この近くから感知されたばかりなんだ。一刻も早く回収してくれるとありがたい。

 まったく、若いのに大した坊やだよ。とてもナチュラルとは思えんほどだ』

 

 肩をすくめながら答えた彼が示した先に光って見えたもの。

 その中身を知っているボクとしては、憮然としながらも原作通りの行動を取るより他に道はなさそうだった。

 

 これがデュランダル議長の言うことになる、運命というものなのかどうかまではボクには分かりようがないことだったけど・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、つくづく君は落とし物を拾うのが好きなようだな」

 

 やっぱりと言うべきか、ソレを持ち帰ってくるしかなかったキラ・ヤマトであるボクに対してナタル少尉から、苦々しさと諦めの混じり合った声で皮肉を言われてしまうのは原作通りを受け入れるしかない。

 

 それでも多少、憮然とした心地になってしまうのは・・・・・・ボクも所詮は感情に振り回される人間の一人ってことなのかなぁ。

 

「・・・仕方ないでしょう。ボクは一応アークエンジェルに乗ってる身ですけど、オーブの市民でもあるんですよ?

 同盟国から救難要請を受けて無視したと分かったら、後でオーブとプラントの国際問題になりかねないんです。立場的にどうしようもありませんよ・・・」

「まっ、そうですな」

 

 折よくオーブ軍所属のユウキ二尉もやってきたお陰で、フォローしてもらえる事ができた。

 癖の強い人だけれど、こういう政治色が強い問題だと彼がいると心強い。

 

「正直ヘリオポリスでの一件があったばかりで、本国政府もプラントからは相当に強く抗議を受けている最中でしょうからな。

 これ以上、“地球連合の盟主国が勝つため”うちの国に揉め事を持ち込まないで頂けると助かるんですがな」

「ユウキ二尉・・・そうは言うがオーブとて歴とした地球の一国なのだ。だからこそヘリオポリス内での本艦と《Xナンバー》開発に協力してくれたはず。今さら・・・・・・」

「まして、一度は救助した民間人を虐殺したとあっては、我らオーブ国だけがプラント市民からの応報に晒されるのは確実でしょうからなぁ。

 既にしてプラントと敵対し、民間人を“核の炎で虐殺した大国”から擁護されたところで火に油を注ぐ役にしか立たんでしょうしね。いや困った困った」

「・・・・・・・・・」

 

 いつも通りのノリと理屈、そしてドギツイ皮肉によってナタル少尉の現実論を論破し、ギョッとした表情と少し青くなった顔色で黙らせながらボクに向かってウィンクしてくる彼。

 悪い人じゃないと思うし、言ってることも間違ってたり悪逆だったりする訳では全くない人でもあるんだけど・・・・・・あまり周囲から好かれる人でもなさそうだと感じさせられる、彼らしい一幕だった。

 

「――コホン。それで、マードック軍曹。まだハッチは開きそうにないのか?」

「いえ、いま解除できましたよ。開けますぜ」

 

 こうして開かれるハッチ。救命ポッドから飛び出してくるピンク色の小さな塊。

 そして・・・・・・ピンク色の歌姫ラクス・クラインと初めての出会い。

 

 正直その後にあったことは、あまり思い出したくもないし考えたくもない。

 

 

 ――ラクス・クラインへの評価は前世でも今生でも、ボクの中では未だに定まっていない善悪定かならない人物として、選ぶべき対応に困っている状態が続いている。

 《クライン派》というザフト軍内部の一部で結成された軍閥勢力を率いて、後の戦い、さらに後の戦いでも大きな役割を果たしていくことになる人だけれど、問題行動も非常に多い人物でもあり、違法行為の数は相当なもの。

 世間的なフワフワしたお姫様のイメージと、内面的な指導者らしい冷徹な面を備えた二面性を使い分けれる政治家らしい人柄と、少女らしい夢見がちな部分。

 

 一方で指導者として具体的に、どーしろこーしろと戦略や政策を示したり指示したことは最後まで一度もなく、クライン派を率いるリーダーという立場さえ、本来のリーダーだった父親のシーゲルさんが謀殺されたことで繰り上げの後継者になっただけでしかなかった。

 

 また政治家の娘ではあっても、本人自身が政治に携わっていたことは数えるほどしかなく、せいぜいがデュランダル議長の死後に一時期だけ政権に参画しただけで、あとはご意見番として議場にいるだけの役割を果たすようになっていただけだった。

 

 政治家ではないし、戦略家でもなく、軍事指導者というわけでもない。

 革命家というほど政治改革を促した訳でもなければ、無謀な戦争を続ける内閣を打倒して新政権を打ち立てるためクーデターやプラント維新で決起した反乱勢力というのとも少しだけ異なる。勝った後に彼女たちが何かを得たという訳では必ずしもない。

 

 強いて言えば、彼女という存在は『思想家』と呼ぶのが一番近いような気がしている。

 

 コーディネイターの根絶によって旧人類社会を維持しようとするブルーコスモスや、新人類コーディネイターだけの社会実現を目指すパトリック・ザラ、それら旧体制すべてを否定して全く新しい『恒久平和の実現』に特化させた新社会を創世しようとしたデュランダル議長。

 

 彼ら全員と異なる三番目の、あるいは四番目の思想を世に提唱した人物が、ラクス・クラインという存在だった。

 

 そんな風に、微妙な立ち位置にい続けることになる彼女だけれど・・・・・・その立場が最も曖昧なものになっていたのは、実は今このときの出会いの時だった事実が、果たしてボクたちにとって凶と出るのか吉となってくれるのか・・・・・・今のボクたちには分かりようがない・・・。

 

 

 本人自身は政治家じゃない。

 けれど、彼女の存在と発言には、政治的に影響力をもっている。

 

 政治家ではなく民間人なのに、政治的影響力を持った民間人という特殊過ぎる立ち位置の少女が、僕たちにもたらす未来は、いったい――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかしまー、クルーゼたちの挟み撃ちされる危機を乗り切ったと思ったら、今度はピンクのお姫様か。悩みの種が尽きませんなぁ、艦長ドノ」

 

 アークエンジェルの艦橋で物思いにふけっていたマリューの背中に向かって、無遠慮な声がかけられるのが聞こえてきた。

 一先ずは振り切った敵艦との距離がある状況で、再度の戦闘状態に陥るとしても時間的猶予はあると判断して、最低限の人員のみを残してクルーたちに休息を取らせていた時でのことだった。

 

 からかうように言ってきたのはフラガ大尉だった。

 当初は反発を覚えさせられていた他人事のような言い方だが、最近では彼女自身も相手のスタイルに慣れてきていたため、肩の力を抜くよう気を遣ってくれているのだと分かる程度には理解できるようになっている。

 

「――あの子も・・・ラクスさんも、このまま月基地へ連れて行くしかないのでしょうね・・・・・・」

「もう他に寄港予定地なんかあったっけ?」

「でも、軍本部に連れて行けば彼女は・・・・・・いくら民間人と言っても彼女は・・・」

「そりゃまぁ、“大歓迎”されるだろうな。

 なんたってクライン議長の娘らしいからな、あのお姫様は。イロイロと利用価値はあるだろうぜ」

 

 皮肉っぽい言い方と表現でムゥが語るのは、先程の身元確認で救助した相手本人の口から直接聞かされた内容にまつわるもの。

 現プラント元首シーゲル・クラインの娘であるラクス・クライン。

 捕虜となった偵察用ジンのパイロットは、なんとか彼女の身分を敵国兵士たちに知られないよう言い繕おうと苦心していたようだったが、本人自身が告げてしまったことを聞かされては観念するより他にない。

 

 確実な証拠と共に素性を知ることになった今のアークエンジェル首脳陣にとって、彼女をこのまま解放するという選択肢は選びようがない。

 反面、しょせんは前線の一軍人であり、成り行きから一艦の艦長という責任者に祭り上げられただけのマリューにとっては、民間人を現地徴用兵として参戦してもらうことまでは許容できても、それ以上まで行うのは正直なところ腰が引けていた。

 

「できれば、そんな目には遭わせたくないんです。民間人の、まだあんな少女を・・・・・・」

 

 自分たちは軍人だ。国家の命令に従って人を殺し、人に人を殺させるのを生業とする者。

 綺麗事を言えるような立場でないことは、彼女自身も承知している。

 キラたち現地徴用兵たちについては、前線の士官として権限の範疇と認識することで私情を抑えることが何とか可能だった。

 

 自分たちの都合で戦争に巻き込んでしまった彼らには、自分も共に戦場に立って戦うことができる。共に死ぬこともできる。

 ・・・もし最悪の場合には、自分が彼らに後ろから恨みで撃たれる覚悟をすることも・・・

 

 だが今回の少女ラクスは違う。

 敵国トップの娘をどう扱うか?というのは完全に政治の領分だからだ。

 

 キラたちと同じように戦争に巻き込む相手でありながら、キラたちと同じように戦場に連れ出すことはまずあり得ない。

 連れて行く先は政争の場であって、政治の世界。

 

 一軍人でしかない自分には住む世界が違う次元での戦場なのである。何かあったときに責任など取りようもない。

 何が起きるか分からず、どこに連れて行かれてどう使われるのかさえ分かりようがない問題に覚悟など出来るわけがなかった。

 

「そう仰るなら、彼らはどうなのです?」

 

 だが、そんなマリューの逡巡は別の者からの視点から見れば、つまらぬ感傷としか思えぬものだったらしい。

 せせら笑うような口調で、ブリッジに入ってきたナタル・バジルールが新たに背後から声をかけてくる。

 

「こうして操艦に協力し、戦場で戦ってきた彼らだって、まだ子供の民間人です。

 キラ・ヤマトや彼らを、やむを得ぬとはいえ戦闘に参加させておいて、あの少女だけは巻き込みたくないとでも?」

「バジルール少尉・・・でも、それは・・・・・・」

「彼女は、クライン議長の娘です。ということは、その時点で既に、ただの民間人ではないと言うことですよ。

 彼女自身にしても敗戦すれば、只では済まぬ身。大した違いはありますまい」

「・・・・・・・・・」

 

 ナタル・バジルールが敢えて細かい違いを省略し、『戦争も政治の一部』だからという理屈で大別した解釈に基づく意見を冷徹な口調で語られてしまえば、マリューには黙り込むことしかできない。

 

 どうやらナタルの発想や考え方には、軍官僚じみた癖があるようだった。

 連合軍の名門軍人家系に生まれ育った故の特徴なのかもしれない。

 

 『自分は一軍人に過ぎない』という立場を強調する場合と、『戦争は政治と無縁でいられない』という理屈で政治色の強い意見を主張することが多々見受けられる。

 その場の状況に応じて、自分に都合のいい理屈の方が正しいことにして使いわける悪癖が染みついているのだ。

 

 とはいえ戦争全体の理屈としてなら、ナタルの言うことにも一理あるのは事実だったので、マリューとしては反論しようがないものを感じさせられて沈黙するしかなかった。

 ・・・・・・なかったのだが。

 

「私としても、今回ばかりは艦長に賛同せざるを得ませんかな。そちらの方が現実的でもあるようですし」

 

 そこへ更なる闖入者の声が割り込んできたことで、今度はナタルが不快そうな表情になって黙り込むことになる。

 フラガ以上に飄々と言うか、ラフ過ぎる言動が目立つオーブ軍士官のことを彼女が苦手に感じていることはブリッジクルーたちにとって公然の秘密となっているのが昨今だ。

 

 決して嫌っている、という訳ではなさそうだったが、好いているわけでは全くないのは確実な相手。

 大体いつどこから急に現れたがるのは、どういう理由と目的によってのことなのか? ナタルとしては問い詰めたい事柄をおおく持っている相手でありながら、どれも個人的に過ぎる疑問ばかりだったため聞けずにいる。そんな相手。

 

「ユウキ二尉・・・・・・あなたの立場としては、また『同盟国の軍人として』相手国議長の娘は無事な返還をお求めのようですな。ですが私ども大西洋連邦としては今度ばかりはお譲りするわけには参りません」

「いえ、私が気にしているのは彼女を月本部に連れて行った方が、面倒になるだけだと思っているだけです。

 現在の地球各国を統べるお偉方に、プラント議長の娘なんていう大層なオモチャを与えたところで使いこなせるとは思えませんし。せいぜい内輪もめの要因になるだけなのでは?」

 

 平然とした口調で、他国たちの支配者層をあげつらってバカにした評価を口にしながら、周囲の者達を唖然とさせて、不敵で不遜なオーブ軍の若き特殊工作員でもある士官は付け加えて語り、

 

「それに彼女は立場が厄介です。確かに彼女はプラント議長の娘ではありますが、父親が落選すれば民間人に戻る身分でもある。民間人を戦争に利用するため、政治に巻き込むのは感心しません」

「そんな理屈、この状況下でなんの意味があると? 我々は戦争をしているのですよ」

「全くです。プラント市民たちも、その理屈で納得してくれるなら問題はないのですけどな」

 

 またしても平然とした口調で語られ、思わぬ言葉にナタルは絶句させられる。

 現在のプラントでは、『講和派』のクライン議長寄りの意見と、『主戦派』のザラ国防委員長寄りの意見とで市民たちの間で世論が割れている。

 だが今回のヘリオポリスでの一件で、おそらく主戦派が勢いを増している事だろう。

 

「この状況下で、講和派のトップであるシーゲル・クライン議長の娘を人質に利用して、交渉カードに使ってしまえばプラント内の世論は完全一致するでしょう。

 挙国一致体制でコーディネイター市民たち全員が、ザフト軍兵士となって地球へ押し寄せてくるわけです。

 『民間人さえ勝利のため利用するナチュラルの非人道性を許すな!』――をスローガンとしてね」

 

 ――もっとも、講和派トップの娘ではなく、主戦派筆頭の息子だったなら話は別だったかもしれないが―――とは敢えて口にしないユウキ二尉。

 変わって言ったのは別のことである。

 

「ですが、こういった問題は上の方々にはご理解頂きづらいことでしょう。一方で貴女方は大西洋連邦に属する軍人であるわけですが・・・・・・どうされます?

 本国の安全な奥深くから指揮棒をふるっているだけの方々に、政治ゲームの玩具をもっていかれます?

 敵国内の国内世論を沸騰させるだけの効果以外には、大して期待できん程度のオモチャだとは思われますがね」

「「「・・・・・・・・・」」」

 

 沈黙がブリッジを満たして、誰からも声を出すものは一人もいない。

 やがて臨時の通信士であるパル伍長から一つの報告がもたらされるのは、しばらく後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《足つき》に接近してくる、三隻の地球軍艦艇を探知しました。

 おそらくは補給を運ぶため、月基地から派遣されてきた艦隊かと」

 

 ヴェサリウスの艦橋でも、部下からの報告が指揮官にもたらされていた。

 先の戦闘における損傷を、航行しながら修復を同時進行でおこなわせる強行軍によって、彼らは一度引き離されていた距離を大きく縮めることに成功していたのである。

 

 発見された救命ポッド回収のため、アークエンジェルが船足を緩めたという事情もあり、そう時間もかかることなく再度の戦闘を仕掛けることになるはずだった。

 その結果を見れば、ラクスの存在と回収がアークエンジェルに戦闘の危機をもたらす原因となっていた―――という悪意的評価も成り立つかもしれない。

 

 だがまぁ、たとえ無視をして進んだ場合でも、時間差があるだけで戦闘自体は遠からず陥るしかなかったろう。

 結局のところ、宇宙の民であるコーディネイターが操る宇宙戦艦と、素人でないとは言え宇宙軍に属する宇宙艦隊のクルーではない者達のゴッタ煮でしかない現状のアークエンジェルでは、最後まで先行リード分を維持し続けてゴールまで辿り着くことは不可能だったから。

 

「本国からの指示で新たに合流することになっている《ラコー》と《ボルト》の隊が、予定より遅れている現状で、このまま見過ごすわけにはいかんな」

「我々から仕掛けるのですか? しかし今の我々は・・・・・・」

 

 隊長からの指示を、アデスは当惑した顔でうかがう。

 今の彼らは、先日までとは別の指示と任務を本国から受け取っていた後だったからである。

 追悼慰霊の準備のため、地球軍の核ミサイルによって悲劇の地と化した《ユニウスセブン》へ視察船で向かったまま消息を絶っていた現プラント議長シーゲルの娘であるラクス・クラインの捜索という任務を、である。

 

 本来なら別の隊が捜索に向かっていたのだが・・・・・・どうやら地球軍との戦闘状態に陥ったらしい。

 最後に残ったジンからの報告を最後に反応が途絶えてしまっていた。おそらく地球軍側も事情を把握して増援を派遣してきたのだろう。

 両者は戦闘を続けながら位置を移動させ、結果的にクルーゼ隊の現在地と近い位置にまで到達していたことが分かっている。

 

 そのため急遽クルーゼたちに、ラクス捜索命令が下されることになり、新たな戦力まで援軍として派遣されることになる。

 単に議長個人の娘だからと言うだけでなく、政治的に利用価値のあるラクスを地球軍側に確保されるのを避ける必要があったのだ。

 

 

「我々は軍人だ。いくらラクス嬢捜索の任務があるとはいえ、たった一人の少女のために、あれを見過ごすというわけにもいくまい。

 ・・・・・・私も後世、歴史家たちに笑われる愚を犯すのは避けたいのだよ」

 

 

 ニヤリと笑みを浮かべながら、クルーゼは嘯く。

 今回の一件と、敵MSがもつ予想以上の性能と威力によって、ヘリオポリスでの失態は免責となるだろう。

 

 ――だが、それだけでは足りない。

 

 平和の歌姫として知られるラクス・クラインは、プラント市民たちから人気がある。

 講和派のクライン政権下にとってはスポークスマンとして支持を支える支柱の一つとなっているほどだ。

 

 そんな彼女が、追悼慰霊のために赴いた先で、戦闘に巻き込まれて死亡したら?

 あるいは、敵艦によって既に確保されており、追い詰められた敵が非常策に訴え出てきたら?

 

 その結末は、少なくとも『身勝手な地球のナチュラル共』によって愛妻を奪われた国防委員長パトリック・ザラにとって、かつての盟友が自分と同じ立場と境遇になることを意味している。

 

 今では袂を分かった旧友が、自分と同じ悲しみを味わうことになるのだ。

 そうなった時―――かつての友情と想いを再び共有して、同じ道を歩むため協力し合える可能性も0ではなかろう。

 

 歪な友情、歪な絆。

 憎しみで結ばれた同盟関係だろうとも、パトリック・ザラはそれでも本心から友との仲直りを望んでいた。

 

 今では政敵となってしまっている、国を二分する勢力の長との友情が復活することを。

 分かたれた道が再び一つになることで、一つになった“プラント国民軍”の力で完全勝利を自分たちにもたらしてくれる力となってくれることを。

 

 彼は本心から望み求め、期待していたのである。

 それを叶えてやることは、クルーゼにとっても目的に近づく大きな助力となることだろう。

 

 

 

「ですが、最後に反応があったと確認された宙域も、この辺りです。

 ラクス嬢が乗っている救命ポッドが付近に漂っている可能性もあり、戦闘に巻き込んでしまう恐れもありますが・・・・・・」

 

「ああ、分かっている。だからこそ仕掛けるのさ。あの増援艦隊が、それを目的に派遣されたものではないという保証はないのだからな。

 私もアスランに、婚約者の亡骸を抱きながら涙の帰国などという悲劇の主役を演じさせたくはないのでね―――」

 

 

 

 

 時間は余り多く残されているとは限らないのが、この肉体。

 

 『ユニウスセブンの悲劇』によって、シーゲル・クラインにより《Nジャマー》で封じ込められてしまった禁断の力、《核エネルギー》

 それを封じた本人自身の判断と決定によって、解除される新兵器の開発が奨励されれば・・・・・・自分が苦しみを耐えながら生きてきた甲斐があったというものだった。

 

 

 

 

 

つづく

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