ガンダム二次作   作:ひきがやもとまち

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再びアンデットで申し訳ない。
他のも書いてんですが、完成まで行けたのがコレしかないのと、内容的に説明急ぐ必要あったので。他も出来るだけ急ぎます。


機動戦士ガンダムSEED UndeadGIRL THE DESTINY 第10話

 適度な明かり以外は暗闇に包まれた、ジブリール邸の地下にある秘密の通信会議場は、突然のざわめきに包まれていた。

 普段であれば、召使いや家人たちにさえ存在を秘匿している秘密の場所は静寂に包まれているのが常であり、遙か遠くに点在している話し相手の秘密会議メンバーたち以外には、屋敷の所有者でもあるロード・ジブリール只一人だけしか存在しないはずの場所。

 

 その場所で今、声と姿だけを情報データとして集められたメンバーたちが各々同士で語り合い、ざわめきを発し。部屋の所有者であるロード・ジブリールは沈黙に包まれている。

 それは珍しい出来事だった。

 集められたメンバー内の中では最年少の若者に分類されるジブリールが、自己陶酔を交えながらの口調で先導的な売り込みや主張を演劇調でおこなって、それを周囲に映し出された老人たちの画像データが静かに見守り、呆れの混じった声音でときに確認を口に出す。

 

 その流れに終始しているのが、この場所で行われるジブリール邸地下の秘密会議室では日常風景だった。

 それは今日とて必ずしも違っていたわけではない。事実として先ほどまでジブリールが多弁で語り、老人たちは聞く側に回っていた―――はずだった。

 

 

 ―――だが、メンバーの一人の後継者と目される男によって、雰囲気は激変することになる。

 

 

(この男・・・・・・よりにもよって、この私の提案にケチをつけるとは・・・・・・ッ!!)

 

 怒りに震える拳を力一杯握りしめることで己を押さえつけながら、ロード・ジブリールは無言のまま、画面の一つに映し出されている一人の男の顔を殺意のこもった眼差しで睨み付けていた。

 

 怒りのあまり、己の感情を抑えつけるのに必死だったからである。

 相手を怒鳴りつけたい衝動を抑えるため、全神経を集中せざるを得なくなり、声を出せる余裕はとっくに無くなっていたからだ。

 

 相手の男――【ロゴス】のメンバーである一人の後継者と目されている人物で、実質的なグループ全体の経営はすでに彼がおこなうになっていたことから特例として参加を許されている中年の人物、【バーンシュタット・マクウィリアムズ】が開陳した内容は、それほどジブリールにとって挑発的極まりないものだった。

 

 彼は今回の一件――《ファントム・ペイン》によるアーモリーワン襲撃に始まり、新型MS奪取と帰還途中に遭遇したザフト離反兵たちによる《ユニウスセブン》落下に至までの流れが、プラント議長ギルバート・デュランダルの策略の一環である可能性が高いことを状況証拠が示していると語ったばかりだった。

 

 その内容は、『プラントへの即時開戦の口実に用いるべき』としたジブリールの主張を、【宇宙のバケモノ共の親玉の手のひらの上だ】と罵倒したのと同意義だった。

 

 自らの主張する『即時開戦』が『プラント議長の計算した結果』でしかなかったとすれば、そういう構図になる。

 現に、まんまと乗せられた事に気づくことが出来なかったブルーコスモス新盟主に対して、メンバー内の幾人かからは嘲笑と侮蔑の混じった視線が送られている。

 

 

 ――この自分が立てた計画が、コーディネイター共に踊らされただけの代物だと!

 ―――このロード・ジブリールが、宇宙のバケモノ共に踊らされただけだったと!!

 

 そういう意味での発言を、したり顔で言ってきたのである。

 この自分に向かって、この若造が!!!

 

 

「・・・・・・つまりバーンシュタット殿は、此度の開戦に反対だと仰られるわけですな・・・?

 それが今日の会議における、貴方の意見であると・・・」

 

 それらの屈辱に怒りと憎しみを掻きたてられながら、ジブリールは言わずもがなの確認をとるフリをしながらも、激発するわけにはいかなかった。

 相手の発言が、《長老》からの質問に答えるという形をとっていたのが、その原因だった。

 画像の一つに写っている、先日に同盟を組んだばかりの老人が真っ赤な顔色になりながらも、沈黙を保っている理由も同じものだろう。

 

 彼としては廃嫡を決めた馬鹿息子の発言を制したいが、立場として長老からの問いかけに答えただけの相手を罵倒するわけにもいかない。

 その怒りと屈辱に“だけ”は、心からの共感を覚えながら唸るような声で確認をとられたヴァールシュタットからの返答は、だが彼らの予測したものとは些か異なる内容でもある。

 

『いえ。開戦そのものには賛同いたします。それについて依存は一切ありませぬ』

「・・・・・・なんですと?」

 

 予想外の返答に、ジブリールは思わずキョトンとさせられてしまった。

 振り上げた拳を振り下ろす寸前に、振り下ろそうとした相手が急に消滅してしまったようなものだ。彼としては拍子抜けさせられた気分にならざるを得ない。

 

 てっきり、敵の手に乗って開戦するなど愚かだから止めろと、例のしたり顔で説教してくるものだとばかり思っていたのだが―――

 

『むしろ此度の一件がデュランダルの裏で手を引いていた結果であったとすれば、彼には明確に地球に対する攻撃の意図があることを意味するもの。

 コチラから攻めさせるため、今回のような大事件を企てるような危険人物だということです。放っておけば次の計画を、その次の計画をと後手後手に回らされるだけのこと。

 ここで開戦を避けようとするのは、目先の平和維持のため独裁者に力を与えて戦渦を広げたがる愚者だけでありましょう』

 

 肩をすくめながら断言する彼の回答に、ジブリールは却って困惑させられるしかない。

 そうだと解っているなら何故、先ほどは自分の意見に反対したのか?

 

『私は、【コチラから先手を取って仕掛ける】という案には反対しただけです。開戦そのものには賛成いたします。

 むしろ彼の議長は、他者と共に天を仰ぐことを拒否しているような計画を企てる御仁です。存在そのものが開戦を望んでいる。

 どのみち開戦は避けられぬ以上、断固として戦うべしとするジブリール氏のご意見は流石としか申しようがありません。

 先代盟主の横死により弱体化した組織を、わずか3年足らずで再建された手腕は、やはり伊達ではなかった』

 

 今更のように手のひら返しで追従されたところで、ジブリールの不機嫌そうな表情は変わりようがなかったものの、微かに釣り上がった唇の端が彼の自己顕示欲の強さとプライドの高さとを雄弁に語っているものでもあったようだ。

 無礼な口を叩いたことには、相応の賠償を後ほど形あるもので払ってもらうのは当然として、ひとまず彼は議長格の老人の意向を汲むことを優先することにしたらしい。

 

『つまり、どういう事なのかね? バーンシュタット』

『はい、長老。我らが今し方まで話し合っていたのは、先日の会合で採用が内定された【例のプラン】を実行するに際して、此度の一件が利用できるというものでした。

 しかし・・・・・・』

 

 再び長老格である杖をついた老人からの問いかけに答えるという体裁で、バールシュタットは己個人の見解と意見を述べながら、苦々しそうに首を振る。

 先日までの作戦実行を決めたときの自分たちと、現状の自分たち全体が置かれている状況が変わりすぎていることが、その仕草をする原因だった。

 

 

 ――彼らが語る【例のプラン】

 それは、《ファントム・ペイン》によるザフト軍の新型強奪で奪取した敵MSを用いることを想定していたものとは異なる、別案としてジブリールから提案されていたプラント完全壊滅計画のことを指している。

 

 各地でブルーコスモスが一斉に反コーディネイター感情を煽るため行動を起こし、民意を扇動された市民からの突き上げを受けた各国政府に地球連合への加盟を再び調印させて大軍勢を結集させ、然る後に地球各国すべての軍に全方面からコロニー国家プラントへの侵攻を開始させることで、数で劣るザフト軍の全部隊を応戦のため戦力分散せざるを得ない戦況へと追い込ませる。

 

 その上で、大西洋連邦軍内でもブルーコスモスへの傾倒が強い者たちだけで編成された奇襲部隊が、地球軍すべての軍を陽動として囮に用いてプラント本国への核ミサイル攻撃を強行させて決着へと強引に持ち込ませてしまう―――

 

 それがジブリールが立案して提案していたセカンドプラン《新地球連合軍によるプラント壊滅のプラン》だった。

 数で勝るナチュラルたちの地球軍が、絶対数で劣るコーディネイターの軍隊ザフトに勝つため、先代盟主ムルタ・アズラエルが途上で失敗したプラント攻撃をさらに拡大させて計画という形に統合させた、力業ではあるが極めて成功率の高い侵攻プラン。

 

 

 ・・・ただ欠点として、数の差で敵軍すべてを全戦線に分散させる必要があることから、地球の全国家に協力させるのが前提条件とならざるを得ないのがネックになってもいた。

 地球各国がザフト軍各拠点へと全軍を向けている最中に、柔らかい脇腹を突かれてしまっては全ての戦線が崩壊しかねない。

 また、全ての力をプラント攻撃に集中させた結果として、鬼の居ぬ間に第三国の軍勢によって首都を奪われ、漁夫の利をとられてしまったのでは愚行の極みと笑われるだけだろう。

 

 ナチュラルという人種全ての優越性を主張しながら、本質的には味方の同族さえ信じることが出来ていない人間不信の色が強いブルーコスモスとしては、『自分たち以外』が本拠地の近くに残っている状態で、怨敵潰しのために全戦力をぶつける決断は出来ない。

 「味方以外の国」が一国でも残っている状況では、一定の戦力を自衛のため本国防衛に残さざるを得ないのだ。

 

 また、地球各国に再び地球連合結成を了承させるにも、頭をひねる必要がある。

 先の大戦時終盤には《ザフト軍による地球軍本部への奇襲》と《未知の大量破壊兵器によるアラスカ虐殺》によって民意を煽ることで可能になっていた状況。

 しかし大戦の終結した後、あの虐殺が《サイクロプス》を用いた地球軍自身による自作自演でしかなかったことを、今の地球市民たちには広く知られるようになっていた。

 

 もともと民衆はともかく各国政府にとって《JOSH-A》での真相とは関係なく、被害を受けたのは大西洋連邦軍とユーラシア連邦軍だけでしかなったことから政治家たちは乗り気ではなかったのが実情だった作戦ではあるのだ。

 

 やたらと真実を求めたがる各国全ての“愚民ども”を感情に走らせられるだけのナニカが必要だった。 

 先々代パトリックと異なり、人気集めの綺麗事を律儀に守って大量破壊兵器を開発させていないギルバート・デュランダルが政権の座についている間に実行すべきと、計画を断行したがるジブリールが、今回の事件を《切っかけ》として飛びつきたがったのは、そういう事情が影響していた既存のプラン。

 

 

『――ですが、此度の被害によってプラント核攻撃奇襲のプランは根底から計算のし直しが必要になったと言わざるを得ません。

 前提条件となる数が変わりすぎてしまった。地球各国が被った被害が巨大すぎました。もはや落下前の軍を基準とする計画は実行不可能でしょう。

 消耗した後の軍では必然的に、攻撃できる範囲と選択肢は狭まります。その状況下で敵迎撃部隊に対処させるため侵攻軍を配置させたのでは、“自軍の隙間はどこか”を相手が把握するのは難しくない』

『・・・・・・ふむ。だが現ザフトの戦力は、高性能ではあっても通常兵器のMSと艦船のみしか確認されておらんのだろう? ならば仮に予測されていたとしても、数の上では対応できる余裕を奪うことができる計算ではなかったか』

『そうですが、此度の被害が裏でデュランダルの手が回っていた結果だったとした場合には疑問視せざる得んでしょうな。

 テロリスト共を裏から動かし、コロニー落としで地球の一般市民を大量虐殺しても平然としていられる人物です。

 侵攻してくる軍人たちを、正面から虐殺可能な大量破壊兵器を密かに造っていない可能性を期待できる人物ではありますまいよ』

『ふーむ・・・・・・』

 

 悩ましげに考え込む長老格を前にしながら、チラリと視線を横に向けたバーンシュタットは、誰にも気づかれないまま心の中だけで密かに嘆息する。

 自分の言葉を聞いていたロード・ジブリールが、不愉快そうな表情を崩さないまま、ただ自分のことを睨んできているだけの効果しか与えられていなかったのを確認したからである。

 

 ――敵将も敵将なら、味方も味方だ――

 

 

 裏の意味として、相手にも当てはまる酷評を敢えて用いたのが先の発言内容だったのだが、残念なことに皮肉を言われた当の本人には気づくこと自体ができなかったらしい。

 相変わらず、他人の言動に『裏』を見いだしたがる割に、裏を込めた暗喩を理解するのは下手な御仁だった。

 

 彼にとって今までにはなった自分の発言は、己が主張を批判するためのものとしか解釈しておらず、罵倒や見下しを込めた嫌味だと感じたことは余りないのだろう。

 そのジブリール自身から、耐えかねたように憎しみのこもった視線で唸り声のような疑問が発せられる。

 

 

「・・・・・・ではバーンシュタット殿は、どうすべきとお考えなのですかな? ご意見を伺いたいものだ」

『丁度こちらの方でも、手の者が面白いものを持ち帰りまして。

 私の娘が“人気取り”に向かわせていただけの部隊だったのですがね、多少は面白みがあるのではと』

 

 質問に答えながら、質問に込められていた「批判屋め」という皮肉の方は無視をして、画面上に映し出された彼の映像は手元にあるらしき何かを操作して画像を切り替えさせたようだった。

 

 

【――パパの名前はアルフォンス・ロッシ。ママの名前はエカテリーナ・ロッシ。二人とも医者だった。

 だけどナチュラルは、パパたちを殺した。コーディネイターだからって】

 

 

 映し出された映像には、どこかの小部屋で撮影されたものらしき、三人の幼い少年少女たちが礼儀正しく机に着席している光景が映し出されていた。

 語っているのは長男らしき真ん中に座っている少年で、背中にある壁には「K」の文字が記された旗が掲げられている。

 

【ナチュラルは野蛮な生き物だ! これから僕たちはMSに乗って仕返しをする。だけど悪いのはナチュラルだ】

 

 台本らしいカンニングペーパーを持ったまま真ん中に座っている少年が、画面の向こう側で聞いているであろう観客たちに向かって大根役者さながらの棒読みの口調で「ハンコウセーメー」を語っていく。

 

 その映像の音声にかぶせるように、隣り合う画面には旧式のMSジンが、ぎこちない動作ながらも町中を闊歩し、炎と破壊をまき散らしながら進軍していく光景が映し出されている。

 

【ナチュラルを殺せ! ブルーコスモスに死を!!】

『ユニウスセブンの落下時に、各地で混乱に乗じて決起したコーディネイターの過激派たちによるテロ攻撃が頻発しているそうでしてな。

 とりあえず、これらを理由にブルーコスモスによる地上ザフト軍基地への攻撃と、基地関係者の家族に対する暗殺などを示唆していただければと。

 軍そのものや基地全体が乗ってくるほど愚かではないでしょうが・・・・・・どこにでも、正しさやら正義やらいう理屈で理論武装して感情に走りたがる己を正当化したがる輩はいるものです』

「・・・・・・面白い」

 

 先までとは調子が変わった声と口調で、ロード・ジブリールは相手の提案に目を輝かせて同意する。

 見た目通りサディスティックな気のある彼だ。自分たちは体面を保ちながら、宇宙のバケモノ共へと一方的に見せしめの私刑を続けさせて挑発していいと言うのであれば、個人的な趣味にも組織の理念とも合致していた。

 

『そちらの方は、よろしくお願いする。

 それと、この映像が送られてきた襲撃の舞台となった街には《DSSD》の技術開発センター保安部長と、新開発された惑星探査ユニットに携わる技術員がいたことが現地部隊に確認されているそうでして』

「DSSD? 連合・プラント・非同盟中立国家群が共同で設立したとかいう、あの組織か・・・」

『その時にシャトル発射を阻止されそうになったDSSDの技術員が、コーディネイターだったそうでしてね。

 まぁだからどうと言うこともないのでしょうが、人種優位を語りながら、勝つためには同族ですら見殺しにて生贄に使い捨てる、“宇宙の特権階級キドリ”を挑発するには役立つこともあるのではと』

「面白い・・・・・・いや、実に面白い限りですな、それは・・・・・・」

 

 ギラリと、色素の薄いジブリールの瞳に妖しい光が瞬きはじめ、赤い舌先がチロリと唇をなめる姿を遠目に見ながら、バーンシュタットは無表情な態度を変えぬまま再び内心でため息をつく。

 

 ――つくづく自分自身にも当てはまる皮肉や嫌味は、理解しないから気にならない御仁だな――

 

 そういう感想を抱かされながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユニウスセブン落下の被害と、その混乱に乗じた地上コーディネイターの過激派たちが各地でテロ攻撃を頻発させ、それらへの対応と被災地への救助支援のためプラントが早急に動いていた頃。

 

 落下したコロニーと共に地球へと降り立つことになったザフト軍の新鋭戦艦ミネルバは、同船していた元首からの計らいもあって同盟国であるオーブ連合首長国へと入港していたが・・・・・・彼らと同じように宇宙から地上へと降り立っていた、プラントからの支援部隊以外の軍事組織が存在していた。

 

 彼らもまた人目を避けるようにして、地図上では所属国とは関係の無い個人所有の無人島に作られていた滑走路へと着陸すると。

 ハッチが開いて、中から人がワラワラとシャトルから出てきて、久方ぶりの地球の空気と重力を満喫するように大きく伸びをしてみせる。

 

「・・・・・・久方ぶりに感じましたが・・・・・・本物の地球の1G重力というものは不思議なものです。

 それのない宇宙空間の方が楽だったにも関わらず、どういう訳だか故郷に帰ってきたかのような開放感を感じてしまう。不思議であります」

「それが、お袋の腹の中にいるときの記憶ってヤツなのかもしれんね。重くても、無くなってみると妙に寂しくて不安になる。そういうもんかもしれん」

 

 シャトルのハッチから出てきた地球軍の軍服をまとった生真面目そうな士官『イアン・リー』が、思わず大きく伸びをしてしまう子供っぽい動作をしている後ろから、黒色の軍服と奇妙な仮面という奇妙な出で立ちの上官が一般論で論評してくれた。

 

 普段であれば、子供向けに垂れ流される教育論モドキとして聞き流しているところであるが、こうして宇宙から帰還した直後に聞かされると妙に実感が伴って聞こえるあたりは不思議であった。

 

 ――まぁ尤も。

 今の自分たち自身が地球にいるという事実と比べれば、然程の不思議さはなかったのかもしれないのだが・・・・・・。

 

「ですが――今更とはいえ宜しかったのでしょうか? 小官たちまで帰還用のシャトルに相席することになってしまって・・・・・・本来なら隊長ご自身と、例の子供たちだけが奪った新型と共に戻るはずの予定だったのでは?」

「・・・・・・本当に今更の話をもちだすね。仕方ないんじゃない? 上から一緒に戻ってこいって命令された、現場の下っ端としてはさ。怖い盟主殿からの命令を無視して違反する勇気あるわけでもないだろ?」

「それはまぁ、そうなのですが・・・・・・」

 

 見た目通り、規律には基本的にうるさいタイプの典型例なイアン・リーは、背後を振り返りながら自分自身の放った先のセリフも思い出し、整合性のつかない現実の難しさに内心で吐息せずにはいられない。

 

 《ガーティ・ルー》におけるナンバー1と2の位置にあった二人の背後から続くように地上へ降り立ってくるのは、二人の少年たちと一人の少女。

 ・・・・・・そして結構な数の、地球軍の軍服をまとっている青年から中年の軍人たちが、短い地球落着までを同乗していた旅の友として共に地球上へと降りたってきてしまった姿だった。

 

 彼らは皆、ガーティ・ルーに乗船していたクルーたち。

 そんな彼らを、流石に総員ではないとはいえ半数以上を引き連れて、奪取した敵新型MSとパイロットたちと共に地球へと降りてくるよう命令したのは、確かに彼らの上役であるロード・ジブリールであって、上からの命令を勝手に現場の判断で無視できる性格の彼ではないのだが。

 

 本来は隊長ご自身と、奪った機体のパイロットたちだけで帰還する予定だったことを知る彼としては、なんとも複雑な心地になれないものを感じさせられ、コメントしづらい立場になってしまっている現状にあった。

 

 おそらくは上の都合という奴があった結果なのだろうとは思うのだが、如何にも軍人らしい軍人という見た目通りの人生を送ってきた彼としては、こういう展開はなかなか慣れることができないのだった。

 

「向こうさんが大所帯でゾロゾロ盛大に帰還しちゃったからねぇ。

 こっちも負けずに数で対抗を――とかやって張り合う問題じゃないと思うんだが・・・・・・お偉いさん同士ってのは見栄の張り合いみたいなもんがあるのかもしれんね」

 

 呆れたような口調で言いながら、呆れた表情を浮かべて無言でいる部下の前で、指先だけで指し示した先にあるものは、自分たちの機に遅れて着陸してくる味方艦からの帰還組たちを満載させたシャトルが滑走路へと降り立っていく。

 

 やがて停止した機のハッチが開くと、中からワラワラと軍服を着崩した姿の人間たちが大勢出てくる出てくる、その数は明らかにネオたちが率いてきた部下の帰還組たちのそれより大人数としか思えない。

 それもそのはずで、一応はメンツを選抜して連れてきた自分たちと異なり、相手の船はクルーたちを全員1人残らず連れ帰ってきているのだから。

 

 そうなったのは相手側なりの理由と事情があるようだったが、自分たちと異なりクルーに換えが効かない者ばかりを用いているのが原因だったのかもしれない。

 ガーティ・ルーが手間暇を承知で《エクステンデッド》をパイロットから外せないのと同じように・・・・・・

 

「・・・・・・ん? あれは・・・」

「子供、ですか? こんな所に?」

 

 視線をシャトルから戻したところで、偶然にも視界に入ってきた滑走路に近づいてくる一台の車を見つけたネオとイアンは、その車から出てきた人物を見て同時に疑問符を呟く。

 その意外性による驚きは、車から出てきた人物を見てさらに大きなものとなる。

 

 

 ドアを開いて滑走路へと降り立ってきたのが―――1人の女の子だったからである。

 

 

 藍色の長い髪と、理知的な風貌をもった、歳の割に大人びた雰囲気の少女だった。おそらくは自分たちが背後に連れている少女と同年代だろう。

 実際には話してみないことには分からないが、外見から見える態度からは物柔らかい言動が似合いそうに感じられた。

 

 場所的に考えてもロゴス関係者の中でさえ要職にある者の一門なのだろうが、それにしても若い。だが一方で、いかにも有能そうな雰囲気が見ただけでも伝わってくる。そんな少女。

 他の者たちとは異なる、黒色の特注とおぼしきデザインの――だが機能性が高くデザインされた黒づくめの軍服をまとった人物。

 その姿を滑走路の先に認めた瞬間

 

 

 ―――ダッ!

 

 

 と、まだ距離のあった二機目のシャトルから弾丸のように飛び出していく、小さな影をネオたちは見た。

 

「イングリッド―――さまッ!!」

「ユマっ!! 無事に帰ってきたのですね!? よかった・・・っ」

 

 飛びつくように抱きついてきた小さな影を、態度や物腰こそ品のいい穏やかさを保ったまま、だが心からの幸福を感じていることが見た者すべてに見ただけで伝わってくるような―――幸福を絵に描いたような姿で受け止める、一人の令嬢がそこに現れていた。

 

 戦争を金儲けのため意図的に利用する死の商人《ロゴス》の印象からは程遠い光景を前にして、さしものネオやイアンたち《ファントム・ペイン》のメンバーたちも唖然とさせられずにはいられない。

 

「大変な任務だったでしょう、元気でしたか? サイバネティックの義手も破損しているみたいですし・・・」

「うん! “ユマ”は元気でーす♪ イングリットも元気そうでよかったぁ~」

 

 満面の笑みを浮かべ合いながら、二心なく嘘偽りも必要ない、見目麗しい少女たち同士の抱擁。

 他者から見れば、あるいは現在進行形で目撃している者たちからは、様々な印象と想像と無関心とを向けられている行動だったが、彼女たち自身にとっては重要な儀式でもあった。

 

 

 ――そう言えば、いつ頃から彼女は自分のことを“私”という一人称で呼ぶようになっていただろう?

 

 

 ふと、イングリットと呼ばれた絵本に出てくるお姫様のような少女は、そう疑問を思う。

 出会ったばかりの頃は・・・あの忌まわしいラボから連れてこられたばかりの彼女は、自分のことを名前で呼んでいたはずだった。

 

 

 「ユ・マ」と。

 

 

 それが“生き返ってから”最初に、彼女が思い出すことができた名前だった。

 そして同時に―――自分と初めて出会ったときに、初めて聞かせてくれた彼女の言葉。

 

 まるで本当に墓場から蘇ってきた死体のように、生気のない感情もないナニカのように。

 ただただ自分たちを殺して奪っていくだけの生者たち全てを、恨み憎んで呪い殺してやりたくて仕方がないような―――非人間的なヒトのカタチをしたナニカにしか見えなかった女の子。

 

 けれど――それは自分も同じだったのかもしれない。

 そうも思う。

 

 自分ではそれほど、気にしていた訳ではなかった。

 自分だけの時は、なにも得たいと思わない自分を気にする必要もなかった。

 

 生きながら死んでいるようだった自分。生まれた時から死んでいたような自分。

 生まれた時から死体のようだった人間は、自分を死人のようだとは思えない。感じられない。

 

 けれど今は――――

 

 

 

「イングリット。部隊は帰還してきたようだな」

「!? ち、父上ッ!」

 

 背後から聞こえてきた、冷徹そうな声の主に慌てて振り返り、襟を正す。

 抱きしめていた相手を背後に従える家臣のように、あるいは背後に庇うべき相手を守るように。

 

 彼女は自分の父親“という事になった男”に、規律正しく、完璧に礼節を保った態度で臣下としての礼を示して『罪を謝していた』

 

「・・・醜態をお見せしました。以後、このようなこと無きよう努めますので、何卒――」

「――成果を出したか?」

「はい、それは無論です。若輩ですが彼女は既に、斯く斯く足る戦果を上げており――」

「なら、いい」

 

 それだけ言って相手の男は、背後に守った少女のおこなった『幾つかの問題行為』に許しを与えることを明言する。

 

「その娘の種族がなんであれ、成果を出す事を求められ兵士となった者なのだろう? ならば成果を出している限り、褒賞が与えられるのは当然。いちいち陳謝は無用だ」

「・・・・・・・・・はっ、失礼をいたしました父上。――いえ、閣下」

 

 そう答え、再び“父”と呼んだ相手に頭を深く下げてみせる、イングリットという名を呼ばれた令嬢。

 そんな彼女の律儀さに対して、臣下の礼を示された側は『形式的な社交』に然したる興味も価値も見出してはいないようで、小さな頷きだけを返して前に出ると、呆然としたまま自分たちの光景を眺めやっていたファントムペインと貴下の独自兵力に視線を投げかけ。

 

「ファントムペイン所属の卿らには、ジブリール氏より通達が届いている。至急、司令部まで帰還した後に新たな任地への配属が決まったとのことだ。

 母艦の調達もすでに出来ているとのことで、氏には一刻も早い帰還を所望する。そう言ってきている。

 そのための直通便は当家で用意したので、まもなく到着する予定だ。

 ――とはいえ、このような事態が起こるのは予定にないアクシデントだった。便の到着はいささか遅れざるを得まい。

 隊の方々には不自由をかけるが、せめてもの詫びとして当方が休憩所を用意させて頂いた。便の到着まではご自由に使って頂きたい」

 

 一斉にファントムペインの面々からは歓声が沸き上がり、「ロゴス万歳!」の叫びが狭い私設空港内に飛び交う羽目になる。

 最初の通達を聞かされた瞬間には意気消沈していた雰囲気はどこへやら、まるで祭りのような空気に変貌してしまった部下たちの混乱を沈めるため、イアン艦長が必死に怒鳴りつける羽目になり、ロアノーク司令は例の如くこういう事態で役に立たない。

 

「休憩所までは、家令に案内させよう。必要なものがあれば、彼女らに命じてほしい。可能な範囲で便宜を図らせる。

 イングリットには私と共に来るように。そこな少女にも関係のあるモノだ、連れてきてしまって構わん。他の者たちは別命あるまで待機せよ。その間は自由でよい」

「はっ、閣下」

 

 キビキビとした動作と返礼で、イングリッドは父と呼んだ男の背後を、まるで家臣のような物腰と位置関係で追随していき、その後ろを年端もいかない少女のようにしか見えない見た目の女の子が護衛か、あるいは幽鬼のように追従していく。

 

 その光景は、どう贔屓目に見ても真っ当な『暖かい家族の肖像』に見えるものでは全くない。主君と家臣と、その護衛といったところがせいぜいだ。

 少しだけ視線をずらし、そんな自分たちの指揮官の姿を部下たちはどう思っているのかと見てみれば、謹厳実直そうな視線と一糸乱れぬ整列で見送っているのみ。

 先までの雑然とした風情はどこへやら、背後で騒いでいる自分の部下たちにも見習わせたいほどに規律ある軍隊以上に統制がとれた、集団としての高い秩序が保たれていることが窺い知れる動きの良さ。

 

 まるで不良少年の集まりのようにしか見えない規律とは無縁そうな混沌と、軍隊以上に厳格な序列意識と規律によって統制されているような秩序ある行動。

 

 彼らがもつ極端すぎる二面性が垣間見えた、その光景にネオは一瞬ブルリと背筋に冷たいものが落ちるのを感じずにはいられなかった。

 なにがどう、という訳ではないが・・・・・・彼らの行動に『非人間性』を感じさせられ、本能的な恐怖を抱かされる。

 

 自分の背後についてきている少年少女たちのように、他者によって人間としての大事な部分を無理矢理に奪われた結果としての非人間性ではなく、ブルーコスモスのように怒りの感情で理性を無くして獣へと落ちることをよしとした非人間的な者達とも異なる。

 

 人々から『バケモノ』と罵られるようになった今の自分たち自身に『誇り』を感じるようになってしまったような・・・・・・そんな、『人間と同類扱いされなくなった喜び』を感じている『自分たちとは根底から異なる者達』

 

 そういう印象を彼らに対して抱かされた最初の一人目が自分であったという事実を、果たしてネオ・ロアノークは自覚する日まで生き続けられることが出来るだろうか・・・?

 

「隊長! 何をやっておられるのですか!? 早くこいつらになんとか言ってやってください! 私程度では収まりがつくのは限界があるのですよ!?」

「あ、ああ、すまない・・・・・・って言うか俺って、そんなに人望あったんだな。なんていうかその・・・ありがとうな?」

「今更その程度のことに気付かれたのですか!? そんなことよりも早く統制を!  奇麗所を前にした特殊任務帰りの部下達の制御は厄介なのですから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《長老会議》の方では、如何なる決定が下されたのでしょう? 地球プラント間での戦い、また始まってしまうのでしょうか」

「良くない状況だ。今後も悪くなる一方だろう」

 

 先を行く背広姿の男の背後に付きしたがうよう歩きながら、イングリットと相手達から呼ばれていた藍色の髪をもつ美しい少女は「父」と呼んだ相手の背中に問いを発し、振り返ることなく歩き続ける父の背中から短い答えだけを得る。

 

 廊下を歩いていく、歩幅の異なる3つの足音だけが長く尾を引く残響のように響いていく、長い長い廊下の一隅。

 その場所を2人の少女と1人の男は縦に並んで歩きながら、その距離と歩みの早さは歩き出した時とほとんど変わらぬまま、ただ無音の中の空間を歩き続けていく。

 

 それは三者にとって、物理的な距離だけではない。互いの精神に広がっている、心の距離を現している景色のように、少なくとも彼女の目には視えていたようだ。

 

「最悪だけは引き延ばすことができたが、一時凌ぎにしかなれん危険性は低くない。

 隕石落下の被害を受けたばかりの窮状で開戦など、常人では狂気の沙汰としか思えんところだが、狂人の目には好機に映るものらしい。

 メリットばかりを視て、デメリットからは目を剃らして平気でいられる精神というのは、羨ましい限りだな。おかげでマトモな他人だけが疲弊させられる」

「開戦、ですか? 現在の地球が置かれた、この状況で・・・?」

 

 前を行く男から投げかけられた意外すぎる言葉によって、自己の思考を一時中断するほどの衝撃を受けさせられた彼女は思わず顔を上げて相手の背を見つめ返していた。

 信じられない言葉であり情報だった。

 たしかに以前から聞かされていたプラント攻撃のためのプランでは、地球各国の再統一が大前提として設定され、そのための口実を何に求めるのかが重要な問題点として討議されている部分だったことは、彼女自身も伝え聞いている。

 

 それを可能にする口実という点では、確かに現状の被害と、その災禍をもたらした者達の素性が有効であることは誰の目にも明らかと言っていい。

 

 

 ・・・・・・だが、そもそも大災害級の被害を受けた直後の被災国が、軍事コロニー1つを戦艦1隻に攻撃されただけの相手国との戦争を開始する―――などという状況を、果たして戦術論や戦略論で考えていい範囲の課題なのだろうか?

 

 最初の攻撃を持ちこたえられてしまえば、後を続けられる体力が残っている状態とは思えない。

 直接会ったことは皆無に近い盟主殿は、一体どういう政戦両略でもって今次大戦を勝ち抜くつもりなのだろう。

 

「お前の懸念は理解できる。だが現状での危機は既に、そこにない。

 あるのはオーブだ。例の島国にザフトの新造戦艦が寄港する運びとなったらしい。

 手の者を介してセイランから連絡があった。

 地球降下中のユニウスセブンに対して破砕作業を最後まで貫徹したザフトの戦艦を、友人であり恩人としてオーブの港に招き入れることを元首殿が許可したとな」

「オーブ・・・ですか。あの島国の」

 

 その名を聞いて、多少ながら不機嫌そうな色がイングリットの秀麗な顔に浮かんだが、別に彼女自身がオーブの国と国民に含むところがあるという訳ではない。

 直接行ったこともなければ、議場などで代表者たちと会談した経験もほとんどない国なのである。

 含むところがあるなし以前に、会ったこともない赤の他人への評価などできるわけがなかった。先入観なら抱けるだろうが、全ては自己の頭の中だけで成立するイメージでしかない。判断基準として用いていいものではまったくなかった。

 

 

(・・・・・・この人が“父”になってから、何年の月日がたっただろう)

 

 ふと、そんな疑問が頭の中で記憶と共に想起する。

 互いに戸籍の上では、完全な親子関係が保証されている間柄の父と娘。

 だが空間的には、ほんの10年ほど前まで赤の他人として生きてきた、見知らぬ他人のナチュラルの男性。

 

 

 ――イングリットは元々、孤児院で育てられていた孤児だった。

 なぜ自分が、そんな場所で育つことになったのか、その経緯は彼女も知らない。

 

 親に捨てられたのか、親を殺されたのか、売られたのか。それとも・・・・・・最初から親など存在しない試験管ベビーとして生み出された生命でしかなかったのが自分なのか――彼女自身には知る術がない。

 

 ただ気付いた時には、孤児院で育てられている孤児だったのだ。それだけが幼い頃の自分が置かれた境遇の全てだった。

 その状況から這い上がるために、幼い子供でしかない時分に出来ることなど一つだけしかない。

 

 できうる限り余裕のある豊かな里親に、自分を子供として引き取ってもらうため、『優秀な養子』として認めてもらうこと。

 それだけが自分に選ぶことが出来る、生き続けるための手段だった。

 

 

 ―――相手にとって役立つ存在であり続けない限り、自分には生きている価値を認めてもらえることはない―――

 

 

 

 それが幼いイングリットの心の中にあった絶対原則だった。

 何故そう思ったのか、何故そう考えるようになったのか、自分でもよくは覚えていない。

 環境が原因だったような気もするが、最初からそう考え続けている子供だった気もする。

 

 ・・・・・・今思えば、なんとも可愛げのない小賢しい幼子だったと、自分自身でさえ思ってしまう考え方をしていたことか・・・。

 

 チラリ――と。

 一瞬だけ背後を振り返って、彼女を見る。

 

 自分と違って、幼く純粋に。

 可愛らしい女の子として育つことができた相手に対して、多少のコンプレックスと複雑な感情がない交ぜになった視線を向けながら一瞬だけ。

 

 

『・・・は・・・い・・・・・・わたしの、ナマエは・・・・・・m・・・ユ・・・ま・・・? で、す・・・・・・ごめんな・・・さい・・・・・・』

 

 

 その始まりの言葉を聞かされた日から今日まで沢山のことがあった。

 彼女と過ごして、変わってきた記憶が今日の自分を形作っている。

 相手と共に歩める世界を築くためなら、彼女は東洋のオニにも、西洋のディービルにもなれる覚悟はとうについている。

 

 そのつもりだった。しかし――

 

「そこで、という訳ではないが、以前より開発を進めていた機体を、お前たちに委ねておく。

 戦局の推移次第ではあるが、必要があると判断すれば使え。父上からの許可は既にとってある」

「――!! これは・・・この機体は・・・!?」

 

 幼い頃に“父となった相手”の後についていった先に聳え立っていた、一つの巨大なMSハンガー。

 通常の機体を収納するにしては、性能面を考慮した保安などの面を考えても厳重すぎる場所の扉がゆっくりと開かれた先に立っていたモノの姿を見上げた瞬間。

 

 イングリットは流石に驚き、背後に護衛としてだけ付いてきたつもりだった少女でさえも、目を大きく見開いて“ソレ”の名を口にせずにはいられないほどに驚愕させられることになる。

 

 今の今まで完全に影のように護衛にだけ徹していた少女の、動き出した死体でしかない存在が、目前に立つ影を見てしまったことで目を見張り、思わず声に出して名を呼ばずにはいられなかった存在。

 

 その忌まわしい存在の名。

 狂気じみた戦争の産物につけられていたモノの名前。

 

 

 

 

「フ・・・・・・リー・・・・・・ダ、ム・・・・・・っ!?」

 

 

 

 

 その通りの名を持つ存在が、今の彼女の目前には屹立していた。

 自分を・・・自分たち家族を殺した戦いに巻き込んだ、白いモビルスーツ!

 

 記憶に焼き付けられた姿と、細部やカラーリングが多少違っていたが、間違いなく自分たちを死なせた原因となったかもしれない『4機いたMSの1機』

 名前の方は後から聞かされたものだが、その特徴的な外観だけは忘れようとして忘れられるモノでは決してない。

 

「僅かだが、違っているな。これは先の大戦末期にアズラエルが敵から譲渡されたNジャマー・キャンセラーに関するデータの一つとして添付されていたモノを、現行の技術を用いて我らが一族が再現した機体だ。

 当時の時点では、技術的に連合製MSとしては再現不可能と判断され、また仮に製造そのものが可能だったとして、操縦者に求められる能力値がナチュラルでは到達できない域であることも判明し、長らく埃をかぶっていた代物でもある」

 

 

 散文的な口調で説明だけを淡々と行っていく父親の解説。

 その説明を聞かされた相手たちが、どう感じ、どう思い、どのような行動をとる“動機”として用いるかは、自身の考えるべき事柄ではないと彼は断じている。

 

 彼が考えるのは、相手がどう受け取るかではなく、どのように受け取ったかに関係なく、相手が選んだ反応という『行動』に対して、自身がどう対処するか?という一点のみ。

 

「言うまでもないが、この機体は“有ってはならぬ機体”だ。非正規の武力集団ならいざ知らず、正規軍が保有しているだけで重大なユニウス条約違反に抵触する。

 これを、そこな娘に預ける。自由に使え。運用責任者はイングリットでよい。

 私には事後報告のみを上げてくれば、父上には伝えておく。補給は約束する。責任も取ろう。

 ―――だが、所属を明かすような部隊運用だけは許されん。その前提で用いるか否かを決めるがいい」

 

 

 

 こうして、争いの連鎖を断ち切るための剣は、自由なる翼を再び空高くへ羽ばたかせる。

 かつて白かった翼は蒼く染まり、その顔に瞬くのは不気味に光る赤い光点。

 

 

 ―――ヴォン・・・・・・と。

 

 

 怪しい輝きを放つモノアイが、眼下で見上げる人間たちを見下すように明滅する。

 その姿は、かつて白かった天使が地の底へと封じられ、嫉妬深き堕天使と化した最高位の天の使徒を彷彿とさせるものが確かにある。

 

 

 だが・・・・・・忘れてはならない。

 『悪魔は人を誘惑する時、まず天使の姿で現れる』――という事実を。

 

 ならば最初から悪魔としての姿で現れた堕天使は、ただ人を騙し終えて、本性を偽る必要がなくなっただけ―――かもしれないのだから・・・・・・

 

 

 

つづく

 

 

 

【今作版でのオリジナル・ロゴス設定】

 

『マクウィリアムズ家』

 

 原作におけるロゴス・メンバーの1人である『ラリー・マクウィリアムズ』の一門として、彼と入れ替わる形で原作介入をはじめたオリジナル一族。

 正確には『分家』であり、先の大戦後の混乱の中で一族内での権力争いが勃発した結果として本家と立場を入れ替わることになった一門、という設定の一族。

 

 他のロゴスにとっての仲間たちは、同じ『ロゴスメンバーによる経済支配維持』という利害一致で協力関係にあり、外部に利権を奪われることには協力して対抗するものの、全体の利益が守られる限り他家の内輪事情にまで干渉する意思も利得もないため、単なる当主一族の交代劇としか思われていない。

 

 思想や目的などは追々語られていくことになるものの、コーディネイターであるイングリットを養子として後継者に迎え入れるなどブルーコスモスとは方針が明らかに対立している。

 また、ジブリールに協力を訳した現当主のロゥナにしても、『孫娘の種族』を知った上でやっているなら額面通りの言い分を信じていい人物ではあるまい。

 

 実のところ彼らの貴下にあるコーディネイターはイングリットだけでなく、多くのコーディネイターを子供の頃からナチュラルとして匿いながら、腹心として育成し続けてきた過去をもち、ユマの率いる部隊も大半の者達がコーディネイター兵士たちで構成されているのが実情。

 

 

 それら長きにわたる準備が完了し、満を持して歴史介入を開始したマクウィリアムズ家の尖兵として、コーディネイターVSコーディネイターの戦いが地球軍側でさえ発生していく流れを形作っていく一族となる―――

 

 

 

『マクウィリアムズ家のコーディネイター部隊』

 

 そもそも何故コーディネイターとして生まれた彼らが、ナチュラルのロゴス家系の一家に庇護されながら育つことになったのか? 

 この理由はジョージ・グレンによってもたらされた遺伝子改造ブームの時代に遡る。

 

 彼が木星探査に出立する寸前に全世界へ向けてゲリラ的に無料公開されたコーディネイター製造技術のノウハウは世界中に混乱をもたらしたが、クルーゼの言うところでは当初の時点で子供をコーディネイターとして誕生させるには多額の費用が必要だったようだ。

 

 その結果、必然的に『闇医者』と『格安だが保証のない違法手術』が横行することになったというオリジナル世界設定。

 また、それらに便乗して手術代を代替わりしてくれる『ヤミ金融』が販路を広げることにも繋がっていく。

 

 それでも尚、貧乏人には高い手術費用を捻出するのは難しく、「子供の将来を金で保証できるなら」と、自らの破滅と破産によって子供にだけは輝かしい未来を残そうとした者も一定数以上の数でいたらしい。

 

 彼らはそうやって誕生した、『半端物のコーディネイターモドキ』でしかない者達という設定。

 技術的にも機材の面でも「安い値段相応」のモノしか買うことができなかった親の子供たちは、コーディネイターとしては無能で、ナチュラルから見れば金で能力を買える特権階級のバカ息子としか思われない。

 

 その境遇と環境が、今の彼らを形作っている。

 不良少年じみた言動や仕草は、そういった生まれのストリートチルドレンらしい対応だが反面。

 

 紆余曲折を経て、自分たちが「リーダー」と認めたユマに対しては、上意下達の野生動物じみた群れ社会を構成するようになっている。

 

 家族単位で構成される狼の群れは、軍隊以上の階級社会と序列の世界。

 長を頂点とする、明文化されていない絶対遵守の法と断罪によって成り立っている、自然に生まれた組織社会。

 

 群れ単位でのチームワークや、狩りの際の集団戦法などでも似た部分をもたせる予定。

 

 

 

 モデルとして考えたのは、『新撰組』

 それに「るろうに剣心」のイメージから、狼の群れのような特徴を付与させた組織。

 

 ただし、司馬遼太郎先生の『燃えよ剣』基準での新撰組ではありますが。

 (どーせフィクションだし二次創作だし。厳密さを求めることに意味は0。

  こだわりには敬意を感じるけど)

 

 機体色が『蒼い』のは、そういう理由。

 エース機であるリーダーだけでなく、全MSが同色なのが特徴です。

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