かぐや様は演じない~仮面を被ったかぐや姫~   作:燃月

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【第03話】☆早坂愛は説き伏せたい①

 四宮家使用人――早坂愛。

 

 四宮グループ幹部の娘であり、幼少の頃より英才教育を施された生粋のメイド。

 ただし、メイドと一口に言っても、掃除、料理、洗濯といった雑用に類する家事を担当することはほとんどなく、役職で言えば近侍(ヴァレット)にあたり彼女が仕えるのは“四宮かぐや”ただ一人のみ。

 

 つまり、“四宮かぐや専属”の、かぐやのためだけに宛がわれた存在と言えた。

 

 身の回りの支度や着替えの手伝いなどの業務の他にも、近侍(ヴァレット)という役職上、かぐやに付き従うことが義務付けられている。

 かぐやの意向で傍を離れることはあるものの、基本的には直ぐに駆け付けられる範囲で待機するのが大原則。

 それは屋敷の中にいる時だけでなく、外出時も含めてであり、それこそ学園内にいる時も例外ではない。ただ、二人の関係は極秘であるため、早坂は(いち)秀知院生徒に扮して、かぐやの警護にあっていた。

 

 大雑把に言ってしまえば、早坂の職務は、『四六時中かぐやのサポートをすること』である。

 

 

 更には――使用人の中で一番の古株である彼女は、四宮別邸の統括業務も担っており、他の使用人の取り纏めも任されていた。

 屋敷の清掃チェック、料理長との打ち合わせ、来賓への対応などなど――その仕事内容は多岐に渡り多忙を極める訳であるが、主人であるかぐやからの要望は、出来うる限り叶えるよう厳命されているため、かぐやの思い付き次第で仕事内容はどこまでも増えていく。そう――それはもう際限もなく…………。

 

 それもひとえに、早坂自身の能力が秀でており、卓越した幅広いスキルを所持しているが故。

 どんな無茶振りであっても、的確な対処ができてしまう――悲しいかな、それが仇となり、注文内容がエスカレートしていくという悪循環が起こっているのだ。

 

 仕事を手早く終わらせると、その穴埋めのように仕事が増えていくという悪夢!

 

 それはさて置き、そういった積み重ねにより、かぐやからは全幅の信頼を寄せられていた。

 

 主人であるかぐやとは同い年ということもあり、2歳までは共に育てられ、その後かぐやが本邸に移されたため、数年の離別期間経てはいるが、7歳の折に再会を果たし、その折に正式な主従関係を結んでいる。

 

 初等部の頃から現在に至るまで、ずっと(かたわ)らで主人を支え続ける従者。

 

 はたから見ればワガママなお嬢様に振り回される小間使い、それこそ劣悪な主従関係を絵に描いたような感じではあるが、その実、そこに身分の差といった隔たりはなく、気心のしれた姉妹のような関係を築いている。或いは、同性の幼馴染といったところだろうか。

 

 深い絆で結ばれた家族以上に最も近しい存在――四宮かぐやに忠誠を誓う優秀なメイド、それが早坂愛なのである!

 

 

 そんな彼女は、今日も今日とてかぐやからの要望に応え、とある調査を終え、その結果の報告に向かう途中であったのだが――

 

 

(さてと。あとはかぐや様に報告を済ませるだけ…………なんだけど…………)

 

 

 

 ――今まさに!

 

 

 

(やめておきましょうか)

 

 

 職務放棄しようとしていた!!

 

 

 

 

(はぁでも……『詳細は掴めませんでした』って事で簡単に納得してくれるような方じゃないんですね。あー絶対小言、言ってきそう)

 

 小馬鹿にした態度でマウントを取ってくる主人の姿が脳裏に過り、早坂の表情が歪む。 

 

(とういか、私の能力を低く見られるのも癪だし……はぁ割り切るしかないか)

 

 渋々といった様子ではあるものの、どうにか自身の中で折り合いをつけ、歩みを再開させる。調度品が等間隔に設置された長い廊下を、楚々とした足取りで歩いていく早坂であった。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

「かぐや様。失礼致します」

「あら、どうかしたの?」

「数日前に頼まれていた件の報告に伺ったのですが」

「えーと何か頼んでいたかしら?」

「………………白銀会長の様子を探ってこいと仰っていたじゃないですか」

 

 主人であるかぐやから調べてくるよう要請されていたのは――ここ最近の昼休み、生徒会室に顔を出さない白銀の動向調査。

 大抵の場合、白銀は昼食後の昼休みには生徒会室で雑務を行う。

 

 クラスが違うかぐやにしてみれば、放課後以外では、この昼休みが顔を合わせることができる数少ない貴重な時間なのであった。

 それがここ数日全く顔を出さないものだから、かぐやは気が気でなかったのである!

 

「あーそう言えば、そんなこと頼んだかしらね」

 

 だが当然、そんな素振りは一切みせることなく、心理学の専門書を読み進めるのに集中し、素っ気ない口調でそう答えるのがかぐやクオリティー!

 

 

「………………そうですか。読書の邪魔をしてもいけませんし、また折を見て報告に参ります。では」

「待ちなさい」

「はい?」

「折角調べてきてくれたのだから、聞いておこうかしら。丁度切りのいいところまで読み終えたところですし」

 

 が、実際はこの女、気になってに気になって仕方がない!

 寧ろ、この報告をずっと待ち続けており、読んでいた専門書の内容なんて全く頭に入っていなかった。

 

「…………」

 

 ここでいちいちかぐやの建前に突っ込みをいれていては話が進まないと判断を下した早坂は、出かかった言葉を飲み込み、さっさと報告を済ませることにした。

 

 

 が、調べ上げた詳細を全てそのまま報告するような真似はしない。

 

人気(ひとけ)のない資材室で、書記ちゃんと一緒に演劇の練習をしていました――なんて、言えるわけがない)

 

「どうやら、部活連にも参加している部長の方から直々に依頼を受けたようで、今はその依頼の準備の為、クラスメイトの方と一緒に準備に取り掛かっている感じでみたいですね」

 

「多忙な会長に余計な仕事頼むなんて」

「まぁ白銀会長にしか頼めない重要な案件のようですし、致し方ないのではないかと」

 

 嘘はついていない。

 事実を歪曲させた言い回しで、曲解するよう仕向けたが、断じて虚偽の報告は行っていない!

 

 やましい行為がなかったであろうとはいえ、年頃の男女が密室で二人きり、そんなことをありのまま伝えたら、主人であるかぐやが余計な勘繰りを入れかねない。猜疑心を助長するような情報を提供するべきではなく、無用な憂い事を背負わせないよう配慮するのも、優秀なメイドとしての責務なのである!

 

 

(まぁ実際問題、真剣に演技の練習に取り組んでいるみたいだし、あの二人の間に色恋はあり得ないでしょう。なんか書記ちゃん日に日にやつれていっているし…………演技指導している方が疲労困憊になっていく状況が少し解せないけど、書記ちゃんの生態は理解しようとするだけ無駄か)

 

 早坂が情報を探り出したタイミングは、二人が特訓を始めて数日が経過した段階。

 白銀の初期の惨状については、あずかり知るところではない。

 近い将来、その身をもって味わうことになるが――それはまた別の話。

 

 

(さてと、これで報告を切り上げたいところだけど、遅かれ早かれ会長がロミオ役に抜擢された事実は明るみになる――あぁこれほっといたら、後々絶対面倒になるヤツだ)

 

 言うなればこれは時限爆弾。適切な処理をしなければ、爆発は必定!

 

(会長がロミオ役を引き受けようとしている件は伝えておかないとマズいか。厄介なことを言いだしそうだし、私への負担が半端ない)

 

 そして爆心地から近ければ近いほど被害が大きくなるのは明白!

 

(ならここは……書記ちゃんのことは絶対に悟られないように……)

 

 故に対象(フジワラ)――俗称『劇薬が詰め込まれた歩く火薬庫』の情報の隠蔽は必須!

 

(話が(こじ)れる前に手を打っておかないと)

 

 だが猶予はある!

 であればこそ、まだ対処は可能ということ!

 

(よし。全力で言い包めよう!)

 

 

 

 四宮かぐやに忠誠を誓う優秀なメイドは、即決即断で保身に走った。

 

 

 

(ただ伝えるにしても、これは順序が大事――)

 

「そういえばかぐや様。演劇部の部長さんがお困りのようですよ?」

望月(もちづき)先輩が?」

「はい――ほら、前にジュリエット役のオファーを蹴ったじゃないですか。代役探しに難航しているとか。引き受けてあげたらどうです?」

「嫌よ。あれは正式に断ったはずでしょ」

 

 (にべ)も無くかぐやは突っぱねる。

 

「なんで誰とも知れない相手と恋人役を演じないといけないの、そんなの御免だわ」

 

 そう! かぐやは知らない! ロミオ役に白銀が抜擢されていることを!

 そして白銀も知らない! かぐやがジュリエット役を辞退していることを!

 

 前提としてかぐやは、白銀はロミオ役を絶対に『引き受けない』と思っていた。だからこそ、演劇の中のお芝居だとしても、白銀以外の男と恋愛関係を演じるなんて許容できなかった。

 

 対し白銀は、かぐやがジュリエット役を絶対に『引き受ける』と思っていた。だからこそ、演劇の中のお芝居だとしても、自分以外の男とかぐやが恋愛関係を演じるなんて許容できなかったのである。

 

 結果だけを見れば、噛み合わない二人ではあるが、理論展開は非常に似通っており、その実互いのことを想い合っているからこその()れ違いと言えよう。

 

 

 

 

 恋愛とは()れ違ってなお(こす)れ合い、だからこそ燃え上がる――。

 

 

 

 

 




 早坂さんは主人に忠誠を誓う優秀なメイドです! はい、復唱。

 アニメのアホの子化したかぐや様がお可愛いこと!
 早くこっちでもアホの子化しなくては(使命感)
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