主人公視点です。今回は原作と少し合流しようと思います。オリキャラもいるので違和感があったらごめんなさい。
2025年3月29日に改正と追加をしました。
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私は母親であるヴェルエールと何日か過ごした。ヴェルエールはこの世界の知識の他に歌を教えてくれた。その何日かで私はヴェルエールを母親だと認識できるようになった。
「ユニークスキル『詠歌者』を持っているなら歌が好きなのだろう。記憶が曖昧になる前もよく歌っていた。忘れているものもあるかもしれないし、この際教える。分かったな。リンネ」
「はい。お母様。頑張ります」
今世での私の名前はリンネというらしい。お母様が生まれてすぐに名づけてくれたそうだ。この世界では名前持ちが重要であるという話だが、私には実感がない。
また、お母様は私が真似をし、歌っている様子を見て、歌を聞かせてくれた。一緒に歌うこともあり、私は心が温かくなった。お母様と指導者のおかげでこの世界のことを大体知ることができた。お母様は私を見て、簡単に騙されやすい世界でもあると真剣そうな顔で言っていた。
「お母様。この世界は気をつけないといけないことがたくさんあるの?」
「そうだ。...この世界は弱肉強食だ。弱い者は強い者に従わないといけなくなる。最悪の場合は奴隷や兵器といった扱いをされることもある。だからこそ強くなければならないんだ」
「でも...私はあまり戦うことができないと思います。私の持っているスキルはどちらかというと、攻撃に役立つものだとは思えなくて......」
「それならやってみるか」
お母様の言葉で私はこの世界で生きることに不安を覚えていた。最初の頃は異世界転生となると、少し心が踊っていた。しかし、今は違った。竜であるお母様が厳しい口調で言い、私はこの世界が前世の世界とは違う環境であると実感した。特に召喚者の話は私の心臓を凍らせた。
召喚者は30人以上の魔法使いが何日もの儀式を行い、異世界から呼び出した存在であり、召喚主に逆らえないように魔法で魂に呪いを刻まれるそうだ。同じ異世界人としてはあまり他人事に感じられなかった。異世界人は次元を超える時に様々なスキルと魔素を手に入れることが多く、強い分類になるらしい。だからこそ優位に立てるようにする必要があると分かる。だが、私の持っているスキルはサポート系のものばかりだ。戦うことがあったら私は不利である。もしもの時のことを考えていると、お母様が私に提案してきた。
私がお母様の言葉で固まっている間にお母様は私の体よりも一回り大きな魔鉱石を指差した。
「この魔鉱石を壊せ」
「えっ。でも私には攻撃手段がないです。どういうことができるのかもまだ良く分かっていません...」
「......例えばだ。使えるスキルのうちに『生造者』があるな。これは使い方によっては攻撃にもなる。魔鉱石を作り出し、それを攻撃として放てば攻撃になるだろう。『指導者』もサポートするはずだ」
「...やってみます!」
私が躊躇し、下を向いていると、お母様は私の前まで歩き、肩に手を置いた。顔を上げると、お母様は少し考える素振りを見せた後、使用例を出してくれた。私は頷き、魔鉱石の前に立った。
(指導者さん。魔鉱石を尖ったような形状にして、あの魔鉱石まで飛ばしてください)
『了解しました。魔鉱石の形状を記憶にある氷柱に近い形で製造します』
私が指導者さんに声をかけると、指導者さんは返事をしながら私の近くに氷柱のような形の魔鉱石を作り出し、目の前の魔鉱石にぶつけた。すると、魔鉱石と魔鉱石がぶつかり、欠片が飛び散った。私の方にも飛んで来たが、ぶつかり合う音で身構えてしまい、欠片を避けられず、私は目を瞑るしかなかった。
「...無事だな」
「えっ。あっ。はい。大丈夫...です」
石の欠片が体に当たることを覚悟していたが、痛みは一切なく、お母様の声が聞こえてきた。近くから聞こえるお母様の声に驚きながら目を開けると、私の前には硝子のように透明な壁があり、隣にはお母様が立っていた。壁の近くには石が大量に落ちていて、お母様が助けてくれたと分かった。
「攻撃手段はあると分かったなら次は結界を教えよう。さっきのようなこともあるからな」
「ありがとうございます。...たださっきの攻撃を私がやったという認識にならないです。指導者さんが全部やってくれたというような気がして....」
「そうか。....ならこうしようか」
お母様は結界を教えてくれると言ったが、私は先程の違和感の解決を優先させた。結界はとてもありがたいが、実感がない状態で攻撃するというのは危険である。色々なことを覚えていきたいという焦りがあるが、地道にやっていく必要がある。お母様は私の話を聞き、無言で考える素振りを見せた。少し時間が経つと、片手を上げ、空中に小さな杖が現れた。私の持てるくらいのサイズであり、杖の先には菱形の水晶が輝いていた。
「これは杖ですよね」
「ああ。異世界の中には魔法を使う際に杖を使うものだと言っている者がいたからな。それと、この世界の人間も魔法を使う時に杖を使う者がいるしな。これでイメージを掴もう。杖から魔法を放つというイメージがあれば集中しやすいし、自分が魔法を使っているという実感が出てくるだろう」
「...ありがとうございます。やってみます」
「次はその杖を使い、あの結界を再現するところから始めるぞ」
お母様から渡された杖を掲げていると、杖から光が放たれたように見えた。おそらく魔鉱石の光が反射したのだろうが、私にはその光が暖かく感じ、杖を抱きしめるように持った。私の返事を聞き、お母様は私の頭を撫で、結界について教えた。結界を修得した後は火や水、風、地の魔法を教えてくれた。
「簡単なものから魔素を大量に使うものまで教えたが、簡単なものを使う方がいい。魔素を大量に使うものはすぐに魔素を消費することに繋がるし、効率も悪い。慣れてきてから練習するんだ。それと、強いと逆に狙われやすくなる。なるべく隠すべきだ」
「分かりました。奥の手みたいに残しておきます」
「...ただ信頼できそうなのがいたら相談してみるのも悪くない。この世界は利用しようとする者がいれば親切心で協力する者もいる。ちゃんと見るんだぞ」
お母様は少し冷たく接していて、厳しい口調で距離を置いている感じがするが、私やこの世界のことはきちんと思っている。お母様に魔法などを教わり、この世界への不安が少し薄れてくると、.ここを出て、外を見たいという気持ちが出てきた。だが、お母様と一緒にいたいという気持ちもあり、洞窟を出なくていいという考えもあった。
私の考えが変わり出していることが気づいたのかどうか知らないが、お母様と出会い、1ヵ月が経とうとした時、お母様から話を切り出された。
「......リンネ。お前に頼みがある」
私はお母様に真っ正面からそう言われ、口を開けた。だが、お母様に頼まれることが初めてであり、喜びもあった。
「いいですよ!何ですか?私にできることなら頑張りますから‼」
私はお母様の頼みがまだ何かも聞かず、すぐに承諾した。何処か興奮したような感じであったが、お母様の言葉ですぐに吹き飛んだ。
「私にはもう時間がない。私の魂は消滅しようとしている」
(えっ...?ねえ。指導者さん。お母様は竜種でしたよね。竜種は世界の最上位種族であって、基本的に不滅の存在だという話ですよね)
『解答します。そうです。竜種とはする精神生命体であり、世界の最上位種族のことであり、消滅したとしても魂を引き継いだ個体が新たに発生します』
お母様の言葉で私の頭の中は真っ白になった。だが、確認しないといけないことがあり、指導者さんに問いかけた。すると、指導者さんは私の記憶の中と同じことを言った。
お母様は竜種であり、不滅の存在でもある。仮に消滅することになっても魂は転生できる。だけど、お母様は先程魂が消滅しようとしていると言っていた。魂そのものが消滅するとしたらお母様は転生できるのでしょうか...?
「....察しているな。魂が消滅するのなら私は二度と転生できないだろう。完全に魂も肉体も全て消滅する」
「そんな......⁉どうしてですか!お母様は強い力を持っていて、魔水晶とかいうものも作っていましたよね!」
お母様は私の思ったことが分かっているらしく、話を続けた。私は声を荒げた。私の体は熱を帯び、心臓が激しく鳴っている。
お母様を見た時に儚げな雰囲気があると思ったが、本当に消滅しそうになっているとは考えなかった。お母様は魔水晶とかいう鉱石を良く作り、私に見せていた。魔水晶について解析してみると、魔鉱石以上に魔素の濃度が高いのが分かった。お母様の魔素という特殊なものにより、魔鉱石とは違うが、お母様の魔素にのみ変化したものであり、お母様は今も大量の魔素があると考えていた。お母様は魔素を抑えていて、本当の魔素量が分からない。私もお母様に言われ、魔素のコントロールを覚えているが、魔素を抑えてもお母様に一発で見破られるくらいに拙いものだ。ただこの辺りの魔物や人を騙すことはできるらしい。
お母様を改めて見ても今の状態が私には分からない。
私の様子を見て、お母様は小さく笑った。私はお母様の様子を見て、頭が少し冷えた。私が深呼吸をし、落ち着かせると、お母様は再び話し出した。
「昔色々あってな。リンネが生まれる前から私はだんだん弱っていたんだ。リンネが生まれてからはさらに人間に近くなり出した。私はもう限界なんだ」
「...助かる方法はないのですか」
「ない。だからこのまま消滅を待つ。...そう思っていたが、考えが変わった」
私は何か方法がないかと縋るように聞くが、お母様は断言した。その言葉がはっきり聞こえ、私は泣きそうになった。お母様の視線に気づき、私は耐えようとした。私の様子に気づいたのかお母様は何も話さなかった。しばらくして、お母様が私に近づく気配がして、私は目を閉じ、体を固くした。だが、お母様は私の頭を撫で、落ち着かせるだけだった。顔を上げると、お母様は微笑みを浮かべ、いつもいた空間の外を指差した。お母様は私を抱え、その方向へと歩き出した。
「この洞窟には私の弟がいてな。私が消えた後は弟にお前のことを任せるつもりだった」
「お母様の...弟ということは私の叔父ですか」
「そうだな。しかも封印されている。国を滅ぼすといったことをしていて、ついに勇者にやられたんだ」
お母様から聞かされる叔父の話に私は色々言いたいことがあった。封印されているという話で叔父が何かやったというのは確実だと思ったが、国を滅ぼすのは駄目である。封印されるのも仕方がないことだろう。
お母様はため息を吐きながら視線を真っ直ぐに向ける。叔父がいる方向を見るお母様の目は不安と心配で曇っているように見えた。
「封印されるようなことばかりして、今は反省させている。これで弟が大人しくなればいいが、難しいだろうな。妹達が世話していたが、暴れるのは何万年経っても変わらない。何かきっかけがあったら変わるかもしれないがな」
「お母様は弟や妹がたくさんいるのですか」
「兄と弟が1人ずつに妹が2人だ」
「大家族ですね」
まだ会ったことのない叔父に私は不安を覚えた。お母様の言葉からして、色々やっていることが分かる。だが、お母様の目には失望の色がなく、優しさもあるように見えた。家族への情なのか叔父が少しでも変わることを期待しているようだ。小さな笑い声が聞こえ、私は肩の力を抜いた。すると、前から小さな光が見えてきた。魔素が大量に集まっているのを感知し、心臓が跳ねたが、お母様は私の背中を撫で、落ち着かせた。
「あいつは魔素が多い。魔素が多いと、魔物は恐れ、近づかなくなる。リンネが身構えたようにな。...だから魔素を少し抑えろ。産まれたばかりの姪が怯えている」
「ひ、酷いですよ!大姉上!」
お母様は私を抱え直すと、前を向き、よく通る声を上げた。声は光のところまで響き、弱々しい声が返ってきた。私にはっきり聞こえるのに覇気のようなものがなく、私が首を傾げている間にお母様は足を進め、広い空間に出た。目に飛び込んできたのは不思議な光を放つ壁みたいなものに包まれた竜が縮こまる姿だった。お母様と違い、体は黒く、鱗は鉄や黒曜石といったもの以上の硬さがあり、ドラゴンという感じがいかにもする。お母様はドラゴンというより、竜という言葉の方が似合っていて、同じ竜種でもそれぞれ違うということが分かった。そういった情報量の多い光景に私はおそらく何とも言えない顔をしているであろう。
お母様は息を大きく吐き、私の頭を撫でた。
「もう分かるだろうが、こいつに怯える必要はない。少し頼らないところのある叔父という認識でいいだろう」
「大姉上!酷すぎます!我も一応頑張っているのだぞ!」
「ヴェルドラ。お前は怒られた時だけやっている。だが、それはその1日だけだ。ずっと続けないと、身につかないからな」
「うっ。うう...。分かりましたよ。大姉上」
厳しい口調のお母様に叔父であるヴェルドラは反論の姿勢を見せていたが、淡々と告げていくお母様の言葉に項垂れていく。ただ正論だと思っている。三日坊主どころではないことをしているヴェルドラ叔父さんに何だか人間味を感じ、私は手を伸ばしてみた。指先が壁に当たり、私はその壁を解析した。
(指導者さん。解析はできましたか?)
『解析によると、ユニークスキル『無限牢獄』だと推測されます。『無限牢獄』とは対象を別空間に閉じ込め、対象の魔素を吸い尽くし、吸い尽くした魔素を外に排出し、対象を朽ち果てさせるものです』
(つまり、この壁の向こうは異空間とかそういうものですか。魔素を出すという一方的なシステムがあるから魔力感知で分かるのですね)
私が指導者さんに尋ねると、指導者さんはヴェルドラ叔父さんの封印の原因を予測した。私にスキルとかの知識なんてないが、指導者さんは詳しく知っているらしい。私は複雑なスキルだという認識しかできなかった。それと、私には『無限牢獄』を解除することはできなさそうだ。お母様は解除できるのだろうが、反省させているという言葉からして、叔父の反省が終わるまではやらないということだと思う。
『時間をかけて、解析をしていけば詳細が分かると思います』
(だけど、お母様は解除する気がないみたいです。勝手に解除しようとしたらお母様に止められますよ...)
「うん?おい。お前。何をしているんだ?」
「はっ、はい!?ちょ、ちょっとふ、封印にさ、触っていました!」
私が『無限牢獄』のことを考え、指導者さんとの会話に集中していると、叔父さんが声をかけてきた。私は心の準備もできず、慌てながら答えた。突然なことであり、威圧のようなのもあり、言葉に詰まってしまった。不審に思われないかと考え、視線を上げ、様子を見ていた。
「ヴェルドラ。もう少し優しく話しかけるようにしなさい。ほとんど初対面のようなものだから緊張しているだろう。それと、娘の名前はここに来た時に教えただろう」
「は、はい。えっと.....リ、リ...」
「リンネだ。全く。忘れるなと言っただろう。お前は名前をはっきり覚えている時とそうでない時がある。それで相手を怒らせ、喧嘩になったこともあったよな。そういうことを防ぐためにも名前はきちんと覚えなさい」
「はい....」
お母様は目を細め、叔父さんを責めるように言葉を募る。誤解もあり、私はお母様を止めようと思ったが、お母様の勢いが強く、口を閉ざした。
お母様の言葉からして、叔父さんと私は会ったことがあるみたいだ。私の名前を忘れている叔父さんを見て、お母様はため息を吐いた。どうやら叔父さんは名前を覚えるのが苦手らしい。お母様の指摘に叔父さんは体を丸めてしまっている。申し訳なさを感じ、私は頭を下げた。
「大姉上。どうしたのですか。1ヵ月くらい前に来て以来、あまり顔を合わせることはなかったはずですが...」
「ああ。すまん。本題をまだ言っていなかったな。リンネの魔素が安定してきたのは分かるだろう。私が与えたスキルも使い熟せてきている。だからそろそろ頃合いかと思い、声をかけたんだ」
「お母様のスキルですか!」
叔父さんの質問を聞き、お母様は一度咳払いをし、ここに来た目的を話し出した。お母様の話はまだ終わっていなかったが、私は初耳だったことを聞き、声を上げてしまった。慌てて自分の手で口を塞いだが、既に遅かった。広い空間に微妙な空気が充満し出していた。お母様は私の反応に首を傾げたが、すぐに納得した表情を向けた。
「そういえばリンネにはまだ説明していなかったな。ヴェルドラ。悪い。リンネは全く事情が分かっていない。だが、時期的にもいいと考えている。だから...頼むな」
「......分かりました。大姉上」
お母様は叔父さんの目を見ながら告げた。叔父さんはお母様に何か言いたげな様子だったが、お母様は背を向けた。私はお母様の肩越しに叔父さんを見た。叔父さんは小さくなってもお母様の方を見ていた。今覚えば私が声を上げた時に叔父さんも何か言っていた気がする。ただ何を言おうとしたのかは分からなかった。
◯
いつもの場所に戻り、私はお母様から自分のスキルのことを教えてもらった。私の持つユニークスキルの内の『詠歌者』と『同調者』は私が自力で得たものだが、『指導者』と『生造者』はお母様のスキルを基に劣化複製し、作り出したスキルだそうだ。正確に言うと、お母様が自身のスキルを劣化させたエクストラスキル『助言者』を渡し、それを私が自力で得た別のユニークスキルと合成され、『指導者』となったらしい。お母様が言うには『指導者』も『生造者』も私の体と馴染んでいて、問題ないそうだ。
「お母様はどうして私にスキルを渡したのですか?」
「...そうだな。この世界はリンネが思うよりもかなり色々あるんだ。この世界のシステムの1つに調停者というのがあってな。この世界の脅威となることで人々を懲らしめ、人々が傲慢にならず、世界が滅びないようにしているんだ」
「なるほど。もしかして、自然環境の破壊とか戦争とかそういうのを防ぐためですか」
「.....正解だ。やはり、どの世界でもそういうのがあるんだな。...人間側にも調停者側が傲慢にならないように勇者がいる。まあ。ヴェルドラを封印したことからも抑止力であることは分かるだろう」
私はお母様のスキルを渡された理由が気になり、質問すると、お母様は考えながらこの世界のことを話し出した。私は前世での人間のやりそうな問題を考え、声に出すと、お母様は一瞬悲しげな表情を浮かべた。小声であったが、隣にいた私には聞こえた。私は何か言おうと思い、口を開いた。だが、その前にお母様が世界のシステムについて話を進めた。お母様は叔父さんのことを例に挙げ、私は納得した。
うっかり国を灰にするという大災害に対応でき、独裁者ができないような仕組みに思える。けど、お母様の言葉の色々にはたくさんの意味が込められているような...。聞いた方がいいのかな。
「きちんとした制度があるのですね。でもお母様は不安そうですよね。何かあったのですか?」
「.....まあ。そうだな。今まではそれでどうにか成り立っていたが、いつまでもそれが続くとは思えない。もしもの時に私の力を残しておいた方がいいと考えたんだ。だが、妹達は少し事情があってな。...片方に肩入れする可能性があると言っておこう。....弟は暴れ者であり、私の力を渡して、さらに被害が広がることもあるだろうから却下だ」
「...つまり、消去法で私になったと」
私の質問にお母様は言葉を濁しながら説明した。濁したことを言及する気はない。たぶん複雑な事情が絡み合っているのだろう。しかし、お母様の言いたいことは何となく察し、まとめた。お母様は私の言葉に頷いた。
「流石に産まれたばかりのお前に任せるのは心配があり、消滅するまでの間は面倒を見ようと思った。だが、産まれたばかり故にお前にも問題があった」
「えっ?私も何か...」
「忘れているだろうが、お前はこことは別の場所で産まれたんだ。私はその場所でお前を育てる気でいたが、お前は高熱を出すようになった」
お母様の顔が歪み、私は身構えながら聞いた。問題があると言われたが、心当たりがなかった。魔法とかの訓練はしっかりやっていたし、お母様もスキルを使えていたと言っていた。私が思い返していると、お母様は声を低くし、話を続けていた。私は一度考えるのを止め、お母様を見た。お母様はずっと思い詰めた表情をしていた。
「高熱って...人間の赤ちゃんの体温調節機能が未熟なために発熱したとか免疫がまだ十分に発達していないからとかではないのですか」
「......似ているが、違うな。お前は魔素量が豊富であり、それに体の方が耐え切れなくなったんだ。今は私が抑えていて、どうにかなっている。その間にお前が成長し、体が魔素量に耐えられるのを待ちたいが、その前に私の消滅が先だ。そうなると、お前はまた高熱を出す日々に戻る。まあ。その解決策については既に考えたがな」
私は高熱という言葉で人間の赤ちゃんを思い浮かべた。今の私は人間でないが、産まれたばかりである。例えとしては近いのではないかと考えた。お母様は少し考えると、私の状態を話し出した。私は自分の掌を見つめてみたが、実感が湧かなかった。私が目を覚ましたあの時にはおそらく既に魔素を制限された後だったのだろう。
私が魔素量を確認していると、影が覆っていた。顔を上げると、お母様が正面まで来て、私の心臓辺りを指差していた。
「...リンネはまだ前世の感覚が残っているのだろうが、生物を構成する要素について忘れていないな」
「はい。確か内側から順に星幽体(アストラルボディ)という魂を覆う最も脆弱な体ながら思考するための演算装置があり、その外側に精神体(スピリチュアルボディ)という力を蓄える基盤で記憶を留めるための記録装置があり、その次に物質体(マテリアルボディ)というこの世界との繋がりを持ち、記録媒体を確かなものにする物体....肉体があるのですよね」
「ああ。さらに詳しく言うと、星幽体の内側に魂があり、そのさらに内側には自己の根源である心核がある。私は魂になり、お前の星幽体と魂の間に入り、魂を星幽体のように覆おうと考えている」
お母様の確認を聞き、私はこの世界での生物の構成要素を思い出した。指導者さんから機械を例にして、再度説明してくれたことである。ただ前世での常識から心臓といった言葉が頭に浮かぶ。
私は声に出し、お母様からの補足を頭に叩き込んだ。繰り返し頭の中に入れ、...お母様の言葉の意味に気づいた。
.......あれ?お母様は魂になるとか言っていたような...。あと、私の中に入って、お母様の魂で私の魂を覆うとか....。はい!?
「えっ!?お母様の魂が星幽体のようにってどういうことですか!?それがどうして解決策になるのですか!」
「説明するから落ち着くんだ。...魂の力は強ければ強いほど魔素のようなエネルギーの質が高くなる。お前は転生という世界を魂だけの状態で渡れるほどに魂の力は強い。だが、その魂の力にお前の星幽体などが保たないのだ。特にお前は色々あって、他と全く違うからな。肉体とかに影響があったのだろう」
私は混乱した頭でお母様の服を掴み、聞いた。お母様は私の頭を撫で、落ち着かせようとしていた。私が深呼吸をすると、お母様は魂のことを説明した。お母様は再び少し暗い表情を浮かべた。何か心当たりがあるらしいが、話せないことを察した。どういった事情があるのかは分からないが、私は深く聞かないことを選んだ。
「お前の星幽体では耐えられないのなら抑えられるものを間に挟むしかない。私なら平気だし、可能だ。何より、お前の体の負担にもならない」
「でもお母様の魂は消滅しそうになっているって言ってましたよね。そんなお母様の魂を星幽体のようにしたらお母様の魂は大変なことになってしまうのでは...」
「それは大丈夫だ。星幽体といった体の構築や維持などをする必要は無くなり、消滅までの時間が延びる。それと、私はこういうことが得意だから心配ない。時期が来たら実行する」
お母様の言葉に私は自分が情けないと思った。だが、お母様の得意という言葉には自信のようなものがあり、私は微笑むお母様に反論できなかった。
「ああ。もし私を知っている者がいたら『詠歌者』を私からもらったと勘違いするだろう。その時は自力で得たと言いなさい」
「.......どうして勘違いされるのですか?」
「...私も似たようなのを持っているからな。だが、私はこれを複製していない」
『詠歌者』のことを話したお母様の顔が少し赤いように見えたが、詳しくは聞かないことにした。その後、お母様にこの話を誰にも話さないようにと言い聞かされた。
それから私はお母様と叔父さんのところを往復するようになった。最初はぎこちない雰囲気であったが、少しずつ会話をし、距離を縮めていた。封印の壁に私が掌をつけると、叔父さんがその近くに爪を乗せた。叔父さんの爪は私の掌よりも大きいが、握手しているようにも感じ、私は微笑みを浮かべた。叔父さんと出会い、1週間が過ぎた頃、叔父さんのところに行くと、叔父さん以外にもいることを感知した。
「お母様。この気配は誰ですか?魔素量がかなりありますよ」
「...ああ。この気配はあのスライムだな。しかもお前と同じ転生者だ」
「えっ?.......スライムの転生者さん?...お母様の知り合いなのですか?」
「まあ。私が一方的に知っているだけだ。お前と同じ魂だけで世界を渡れるくらいに魂の力が強い。あのスライムは『捕食者』というスキルを持っていて、対象を取り込み、捕食し、取り込んだ対象を解析し、そのスキルと魔法を習得することができるんだ」
私はお母様に抱きつくと、お母様は何か知っている素振りを見せた。私がお母様の顔を見ると、何処か遠く見るような目をしていた。だが、私には聞き捨てない言葉を聞き、疑問符を頭から浮かべながら声を上げた。お母様はスライムの転生者について教えてくれた。
お母様はスライムの転生者のことを詳しく知っているみたいだ。それにしても便利なスキルを持った転生者だ。私も少し話をしてみたいな...。
「お前にとっては私やヴェルドラ以外と話すのが初めてだな。ここには話せる奴がいない。会ってみたいだろう」
「はい!会ってみたいです」
「そうだな。...ああ。この辺りだ」
お母様の言葉に私は勢いよく食いついてしまった。私が顔を真っ赤にすると、お母様は私の頭を撫で、微笑んだ。私が正面を見ると、叔父さんが結界に触れるくらいに爪を近づけ、丸い物の手?触角みたいな?一部?に合わせていた。明らかに柔らかそうな流線型の丸い物だが、これがスライムなのだろう。叔父さんもスライムさんも無言である。一体どうしたのだろう。
『解答します。おそらく念話を使い、会話しているのだと考えられます』
(...確かにスライムは口とかあるか分からないし、普通に会話できないよね。私も念話で会話することはできますか?)
『解答します。ユニークスキル『同調者』で共鳴すれば会話に参加することが可能です』
(それなら...お願いします!)
私が叔父さんとスライムさんの様子を見て、悩んでいると、指導者さんが念話のことを話してくれた。私は納得し、指導者さんに念話のことを詳しく聞こうとしたら指導者さんは『同調者』という解決策を教えてくれた。私は持っているスキルが想像以上に使いやすいことに驚きを感じていると、お母様がスライムさんに近づき出した。
何となくお母様が念話を使おうとしていると分かり、すぐに『同調者』を使うことにした。
「...珍しい客人だな」
「うん?誰だ?」
お母様の声が頭の中に聞こえ出し、私はその不思議な感覚にお母様の服を握った。すると、お母様は私の背中を撫で、私の体の向きを変えた。見上げているのか少し斜めになったスライムさんが目に映り、その声もはっきり聞こえた。...口調からして、男性かな?
「ヴェルドラ。良かったな。初めて友達ができたな。ハゲとか言われていたが、良くもそこまで仲良くなれたものだ」
「うむ。我も変わりましたぞ。大姉上」
お母様が微笑みを浮かべると、叔父さんは腰の辺りに手を当て、胸を張った。お母様の言葉を聞き、私は叔父さんに友達が今までいなかったことや叔父さんとスライムさんの会話でハゲとかいう言葉が出ていたことを知った。それと、お母様は随分前から叔父さんとスライムさんの会話が聞こえていたみたいだ。私は聞きたいことがたくさんあったが、それらの言葉は呑み込んだ。でもこれだけは言っておく。
「叔父さん。仲良くなれて良かったですね。スライム?さんと」
「...ああ。小さき者というような格好をつけていたが、ちゃんと親切に対応していたな。それと、スライムで合っている」
私は叔父さんに友達ができたことを祝っていると、お母様も頷いた。お母様はどの辺りから聞いていたのかな。もしかして、最初からだったかもしれないけど、叔父さんはお母様に褒められたことを喜んでいて、全く気にしていない。良いのかな...。
それと、お母様は私がスライムなのかどうか確信を持てないでいることを察し、私に微笑みを浮かべる。そして、お母様はスライムと向き直った。
「後な。スライムは美味いからな」
「へっ?」
お母様の言葉に私は変な声を出してしまった。しかし、スライムさんの方が早く反応した。スライムさんが電話の来た時のような震え方をしていて、私はスライムさんに同情した。どうやらお母様の言葉をはっきり聞いてしまったらしい...。
私は苦笑いを浮かべながらお母様の腕から降りた。
主人公視点ばかりなので次回は視点を変えてみようと思います。