奈良県某所
仏壇の前の1人両手を合わせる少女。
彼女はこれから目的の為に動き出す。
「・・・行ってきます、お母さん」
―――――――――――――――
「鎌倉とーちゃく!」
晴れた日の鎌倉駅に2人の少女の姿。
美濃関学院中東部2年“衛藤 可奈美”と“柳瀬 舞依”。
彼女達は明日行われる折神家の御前試合に参加する美濃関代表としてここに来たのだ。
「来ちゃったね鎌倉!はぁーなんかもうワクワクしてきちゃった!」
「天気もよくて良かったね」
今の鎌倉の空は鎌倉に来た2人を出迎えるからのように晴れている。
「他の学校の子たちももう来てるかな?」
「そうだね、明日の対戦相手もいるかも・・・」
舞依の言葉を聞き可奈美は辺りを見回す。
「それじゃ舞依ちゃん、早く行こう!お屋敷!」
そこで突然可奈美が駆け出し、舞依も慌てて追いかける。
―――――――――――――――
「ひゃあ、おっきい~!」
今可奈美と舞依は大きな門を構えている屋敷の前にいる。
絢爛ではないものの、その造りはまさに武家屋敷と言えるだろう。
「ここが折神家・・・。御刀の管理を国から一任されている由緒あるお家・・・」
門を見上げながら呟くように舞依が言う。
「・・・あれ?」
ふと門の左手を見るともう1人、屋敷を見つめる少女がいる事に気づいた。
向こうも気づいたのか可奈美の方を見る。
「あの制服、平城学館の・・・」
舞依が少女の制服を見て呟くように言う。
深緑を基調としたワンピース型の制服は確かにその学校の物だ。
平城学館、“五箇伝”と呼ばれる刀使育成学校の1つで奈良に所在地を置く。
近年では優秀な刀使を排出し注目されている学校でもある。
「・・・・・・」
すると少女は可奈美と舞依に向かって歩いてきた。
「あっ、こ、こんにちは!えっと・・・あなたも明日の試合にでるの?」
「・・・・・・」
少女は可奈美に目もくれずに横を通り過ぎ立ち去ろうとするが、
キィィィィ―――――――――――――――
『っ!?』
甲高い良く響く音が聞こえ、2人が同時に反応した。
そして平城学館の少女は咄嗟に抜刀の構えを取り、それにつられるかのように可奈美も御刀の柄に手を触れる。
『・・・・・・』
だが平城学館の少女は2人を一瞥した後に構えを解く。そして何事も無かったかのように去っていった。
「どうしたの?」
「んー・・・気のせいかな・・・?」
そして2人もその場を後にしようとした時、
「っと!」
「わっ!」
ずっと御刀を見ていたからか前から来ていた人に気づかずぶつかり尻餅をついてしまった。
「わりぃ、大丈夫か?」
可奈美とぶつかった相手が手を差し伸べる。
可奈美が顔を上げると、そこにいたのは黒い学ランの下に同じく黒いパーカーを着て黒いズボンを履く、前髪が金髪で後ろ髪が黒という変わったヘアスタイルをした可奈美と舞依より少し年上そうな少年がいた。
「いえ、私の方もよそ見してて・・・」
言葉を続けようとしたが突然言葉が詰まった。
可奈美が見た少年の顔、それがかつて何処かであった人物と重なって見えたのだ。
「可奈美ちゃん・・・?」
舞依が様子の可笑しい可奈美を見る。
「あの・・・私と前に会った事ありませんか・・・?」
「・・・いや、初対面だけど・・・?」
少年は可奈美の右手を掴み引き上げる。
「ここにいるって事は明日の御前試合の美濃関代表か?頑張れよ」
「あ・・・」
少年は簡単に激励した後にすぐに立ち去っていった。
―――――――――――――――
「あっぶね・・・もう少しでバレるとこだった・・・」
一方、別れた少年は1人安堵していた。
今自分の事をバラされる訳にはいかない。
何故か。それは自分は・・・
Prrrrrr・・・
そこで少年の携帯に着信が入る。
少年は連絡元の名前を見て、一瞬嫌な顔をするが無視する訳にもいかず電話に出る。
「もしもし?」
〈ハイドーッ!!今どこにいるの!?〉
電話越しでも大声である事が分かる程の声量。しかもまだ年の行っていない少女らしき声だ。
ハイドと呼ばれた少年は思わず顔をしかめ携帯から耳を離す。
「うるせぇな・・・今折神家の前だ、下見も終わったしもう帰るよ」
〈早く帰ってきて~、メイ寂しくて死んじゃうから~・・・〉
「ウサギかお前は・・・」
最後に呆れるように言葉を言った後にすぐに電話を切る。彼女にまともに付き合ってはかなわない。
その後にすぐ溜め息をついた少年は駐車場に止めていた黒いバイクに乗りエンジンをかける。
もうすぐだ、もうすぐ刀使の少女達と、少年・・・“