一人称について
俺→胡桃
オレ→高橋
です。
隣で眠る親友を見て思う。
───多分、オレはもうダメだ。
屋上を目指す道中、胡桃の後ろを走っていたオレは、『かれら』に引っかかれた。曲がり角を飛び出してきた
田中や大野は噛まれて感染していたから、引っかかれただけなら大丈夫。そんな訳が無い。
きっと胡桃は気付いていない。
こいつは生来のヒーロー気質だ。困っているやつがいたら助けずにはいられないし、かといって自分を過大評価しないから全部を助けようだなんてしない。ただ、みんなが最低限納得出来る落とし所を作るのだ。
ただのオタクでしかないオレよりも、ずっと必要な奴だろう。
オレは、そんなことを考えながら生徒手帳に遺言を記す。
作戦の決行は、明後日の明け方だ。それまで、オレの身体がもってくれることを切に祈る。
****
俺と高橋は約束通り一時間交代で見張りをしていた。ときおり近くまで足音が迫るが、鼻や耳はあくまで人間並みらしく登ってくることは無かった。
俺も高橋も一度寝てしまったあとは起こされると目が冴えてしまい、結局一時間しか寝ていない。
俺達はその時間を『かれら』の観察に当てた。物理実験室を確保した時もそうだったが、『かれら』は光や物音に反応しているらしい。それに走ってくることも無さそうだ。この分なら、校門を閉鎖すれば敷地内から『かれら』を駆逐することも可能だろう。希望がもてた。
明日───というか今日にすべきことはなんだろうか。取り敢えずは三階を制圧して、階段を封鎖しなければ。
それと食料と水の確保も急務だろう。やることは沢山ある。
まずは職員室を制圧すべきだろうか、いやいや取り敢えず食堂から食料を取ってこなければ、なんて話し合いながら夜を明かした。
****
「二人とも、おはよう。見張りを押し付けちゃってごめんなさい。本当なら私がやらなきゃいけないのに・・・・・・」
「いやいや、俺達はもうある程度落ち着きましたけど、あの二人はそうも行かないでしょ。心の問題は、腕っ節じゃどうしようもないですから」
「ま、胡桃の言う通りですから、気にしないでください」
女性陣が起きたようだ。眠れたのかは分からないが。
それにしても先生は余程人ができた教師らしい。頼りがいはあまり無いが、こんな状況では精神的な支えになれる大人はありがたい。
それに甘えていられる訳では無いが。
「あの二人はどうですか?」
「あまり、芳しくないわね。丈槍さんはなんとか落ち着いたけど、若狭さんや私と一緒に居ないとパニックになるわ。今は若狭さんと屋上の片付けをしてもらってるの。体を動かしていたほうが気も紛れるでしょうから」
どうやら、丈槍さんの精神状態はあまり良くないらしい。こんな状況では無理もない事だが・・・・・・はやく、落ち着いて欲しいものだ。
「さっきまで胡桃と話し合ってたんですけど、取り敢えず今日の内に三階の安全を確保して、食堂に行くつもりです。いつまでも飯抜きじゃあ心も休まりませんから」
「そう、よね・・・・・・今日は、私が先頭に立つわ。教師として、生徒にやらせるわけには───」
「ダメです」
先生はどうあっても俺たちを矢面に立たせたくないらしい。とても、教師としてはいい人なんだろう。だが───
「私、そんなに頼りないかしら・・・・・・?」
「そりゃあ、まあ」
「あ、あはは・・・・・・はい」
如何せん、頼りない。女性だからというのもあるが、一番は力がないことだ。『かれら』は一撃で頭を潰さないと危ない。シャベルを振り回すのは体力が要る。先生では無理だと言わざるを得ないだろう。
「そ、そう・・・・・・しょぼーん」
良い、先生なのだが。
「先ずは三階の制圧を完了させ、その後学食を目指す。今日の基本方針はこれだが、何か意見はあるか?」
「方針はそれでいいと思うけど、具体的なルートはどうなるの?」
現在、俺、高橋、先生、若狭さん、丈槍さんの五人で話し合いをしている。情報の共有と見落としがないかの確認が目的だ。丈槍さんは若狭さんに抱きついているだけで、話し合いが出来るような状態では無いのだが・・・・・・かと言って、一人だけ外す訳にもいかないので仕方ない。
「先ずはホールに向かって制圧を進めるつもりだ。階段までの安全を確保出来たら、教室の机や椅子を使って階段を封鎖する」
作戦はこうだ。
先ず、2-Aから順に教室の中の『かれら』を排除し、階段を目指す。階段に着いたら素早くバリケードを作り、安全を確保する。
その後物理実験室まで戻り、職員室の制圧を開始する。
職員室の安全を確保出来たら、厨房・学生食堂を制圧する。可能ならば、購買部・図書室も制圧する。
「まあ、無理はしないで行くけどな。ちなみに俺が先頭を行くぜ」
「オレは昨日と同じく胡桃のサポートをする。教室に刺股があったと思うから、オレはあれを使うぞ。先生は周囲の警戒をお願いします」
「・・・・・・仕方ない、のよね。わかりました。先生は戦力にならないでしょうから、大人しく警戒してます」
やはり先生は天然気味というか、一つ一つの動作が可愛らしい人だ。ムスッと膨らめた頬がなんともほんわかさせる。
「何か質問のあるやつは?・・・・・・いないなら、準備出来次第すぐに出発するぞ。『かれら』が登校してこない内に終わらせる」
「了解!」
「ええ」
こうして、あの日から二日目の、長い長い一日が始まった。
セリフの区別が難しい・・・・・・やっぱり長い間書いてないと書き方も忘れますね。まあ、一つも完結させたことないゴミ作者が何言ってんだって話ですが。