IS<インフィニット・ストラトス>閃光ノ蒼キ刃   作:明智ワクナリ

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ここから再スタート!物語は再び動き出すっ!!

とゆーわけで第1話です。どーぞっ!


第1章『三人の入学生《Irregular》』
第1話『騒動の前触れ』


「よう」

「どうも」

 

1時間目の授業が終わって休み時間。クラスメイトたちの非常に熱心な視線でぐったりと机の上で伸びていた弥生の下に来たのは、同じ状況下に立たされている一夏と白兎だった。二人の表情は弥生と同様に疲労の色が滲んでいる。

 

「雅…………だったよな?俺は織斑一夏、これからよろしく頼む」

「僕は桐原白兎です。同じくよろしくお願いします」

「あ、ああ。こちらこそよろしくね。織斑、桐原。それから俺のことは弥生でいいよ」

 

弥生は突っ伏していた体を何とか起こして立ち上がり、2人と力強く握手を交わしていく。

 

「わかりました弥生。僕のことは白兎で構いませんよ」

「俺も一夏でいいぜ。よろしくな弥生」

 

改めて握手を交わす3人は、ホッと安堵の息が漏れる。この地獄のような空間に於いて同性の仲間がいることは奇跡よりもありがたい。おそらくは教師陣もこういった事態を想定して3人を同じクラスにしたのだろう。細やかな気遣いに3人は少なからず感謝した。

 

「にしても、これはちょっと…………」

「あ、ああ………。正直逃げられるなら今すぐ逃げ出したい…………」

 

周りを見渡すと女子たちの視線が突き刺さるように向けられていた。しかも現在休み時間中。当然弥生たちの入学は学園中に知れ渡っているため、男子を一目見ようと廊下は他のクラスや2年3年の生徒たちで埋め尽くされている。更に付け加えると弥生たちはまだ女子の誰とも会話をしていない。嫌われているとか、怖がられているとかではなく単に男に免疫がないだけのようで、周りでは『ねえ、思い切って話しかけてみたら?』『でも、あたし男の人と話したことほとんどないし………』『じゃあ、私が行っちゃおうかなあ』『ちょっと抜け駆けはズルいわよ………!!』と相談する、というよりお互いに牽制し合っている声が時折聞こえる。

仕方ない、と弥生は思った。IS出現後、全世界の男女の均衡は激変した言っても過言ではない。実際ここ十数年で女性の価値はどんどん上がり、対照的に男性の価値は下がっているのだ。そのため、共学化の波に呑まれかけていた女子校は次々に復活し、現在では日本だけでも学校の7割方が女子校だったりする。そしてIS学園は世界で唯一の場所であり、つまりこの学園に在学する学生の100パーセントが女子校の卒業生なのだ。

そんな世の中で、自分たちと同じ立場に突然現れた(イレギュラー)は当然興味の的であり、混沌としたこの教室を作り上げている最大の要因がそれだ。

 

「す、すごいですね………。皆さんの熱意が………」

 

ポーカーフェイス宛らの涼しい微笑を浮かべていた白兎も――弥生の単なる推測に過ぎないが――流石に耐え切れなかったようで少したじろいでいた。弥生も精神的疲労が強く、隣にいる一夏に至ってはすでにグロッキー状態である。

 

「なんていうか、パンダとかコアラになった気分だよ………」

「…………そうだな、こんな状況で笹とかユーカリの葉をのんびり食べてたのか」

「ある意味彼らを尊敬できますね………」

「「ああ」」

 

と、動物園の人気者たちに敬意を表しつつ弥生たちは深い溜息をついた。休み時間は10分程度と一般校とさして変わらない休憩時間だが、弥生たちにはこれまでにないほど長い時間に感じた。これからずっとこの空間で過ごしていかなければならないと思うと、気が滅入るどころの話ではない。

とにかく誰でもいいからこの状況を打開してくれないか!という声にならない叫びを胸の内で叫んでいたその時。

 

「コホンッ。…………すまない、ちょっといいだろうか?」

 

なんともワザとらしい咳払いをしつつ1人の女子が声をかけて来た。待望の救世主が現れたと思った弥生は期待の眼差しで声の主を見てみると、妙に威圧感のある仁王立ちの女子が立っていた。しかし、ポニーテールの女子は不機嫌なのかしかめっ面で、表情から察するにあまり友好的な印象は受けない。腕を組んだその姿は怒っているようにさえ感じる。

 

「箒?」

 

周りの女子たちが突然の出来事に騒然とする中、一夏が気の抜けた声で答えた。

 

(この娘が束さんの妹、か…………)

 

一夏の幼なじみでありISの開発者『篠ノ之束』の妹、篠ノ之箒。彼女は今回の任務の護衛対象となっている1人だ。水花の情報によれば、箒の入学は本人が希望したのではなく政府の意向と聞いている。束と家族という繋がりで数多の組織に狙われる可能性の高い彼女の身の安全を確保するため、あらゆる国家や組織の干渉を許さないこのIS学園への入学が最善策だったらしい。しかし、いくら危険因子を含んでいるとはいえ彼女に対する政府の意向は些か強引ではないだろうか、と弥生は思ったがそんなことは考えても仕方ないことだった。

改めて彼女を見ると、何やらソワソワと落ち着きがなく視線も右往左往していて、見るからに挙動不審だった。第3者の視点から見れば明らかに警察を呼ばれるレベルだが、事情を知っている弥生はなんとなく理解していた。

 

(きっと一夏と話がしたいんだろうな)

 

箒と一夏が別れたのは小学4年生の終わり近く、それから約5年ぶりの再会なのだから積もる話もあるのだろう。不器用オーラ全開の箒が言わんとしていることを察した弥生は、

 

「一夏、俺たちのことは気にしないで話しておいでよ」

 

仕方なく助け舟を出すことにし、ついでに隣にいた白兎にも目配せをしておく。すると弥生の意思が通じたらしく白兎は軽く頷いて、

 

「そうですね。お話があるのなら構いませんよ」

 

と微笑を浮かべながら弥生に賛同した。

 

「2人ともスマン。一夏、廊下までいいか?」

 

弥生たちの気遣いに箒は申し訳なさそうに言うと廊下の方を指さした。少し気恥ずかしいのか頬は紅く染まり、若干俯き加減で一夏の方を見ている。一方、一夏は首を傾げると不思議そうに答えた。

 

「え?なんで廊下なんかに行――――」

「女性の頼み事にNOはNGワードですよ一夏?」

 

が、一夏の声を遮るように白兎が言うと、そのまま妙に迫力のある笑顔で押し黙らせる。

その笑顔に気圧された一夏が「わ、わかった……」と首を振ると、白兎は涼しげな微笑に戻り満足そうに頷いた。

箒は弥生たちにもう一度頭を下げて一夏と廊下に出ると、教室中がちょっとした騒ぎになり始めた。

 

「ねえ、あの2人って知り合いかな?」

「織斑君も名前で呼んでたみたいだし、そうなんじゃない?」

「もしかして恋人関係っ!?」

「そうなの!?でも大丈夫だわ!私にだってまだチャンスはあるんだから!!」

 

こういう所が実に女子校っぽく、自分の立たされている状況を再認識させる。男子が近くにいることを気にもせず、女子たちは様々な憶測を立ててはキャーキャー騒いでいた。

そんな彼女たちを見てさらに気が重くなった弥生は、白兎に「先に戻ってるよ」とだけ言い残して自分の席に腰を下ろした。窓の外を見ればやはり空は晴天。そんな清々しい青空を前に弥生は何度目になるか分からない溜息をつく。

 

(護衛任務の前に俺がダウンしそうだよ………)

 

「おやおや~。もしやみやびんは空に思いを馳せるロマンチストさん?」

「いや、別にそういうわけじゃ………って。えと、君は誰?」

 

隣の席を見ればどこかのんびりとした雰囲気の女子が、なんとも締まりのない笑顔で話しかけて来た。おっとりとした眠たげな瞳は楽しそうに弥生を見ている。

 

「私は布仏本音だよ~。これからおとなりさんだねえ、よろしく~」

 

本音はほんわかと自己紹介をするとえへへ~、と笑った。どうやらのんびりとしているのは見た目だけではないらしく、話す声や動作までのんびりとしている。

 

「えと、よろしく。ところでその『みやびん』って俺のこと?」

「そーだよー。雅君だからみやびん。それでね、おりむーは織斑君できりりんは桐原君なんだー」

「そ、そうなんだ………。とりあえず、これからよろしく布仏さん」

「うん、よろしくね~。………zzzZZ」

 

袖の余った制服をゆったりと振っていると次の瞬間、本音は物凄い勢いで眠り始め、弥生はあまりの唐突な行動に椅子から滑り落ちそうになった。本音は机に突っ伏したまま動かず、弥生は席に座り直して恐る恐る声を掛けてみる。

 

「あ、あのー布仏さん?」

「………zzzZZZ」

「もしも~し」

「うにゅう……古代ベルカ式魔法の絶対障壁は譲れないのら~………」

「…………」

 

弥生の呼びかけに答えることもなく、その上よくわからないことを言っているが、どうやら本当に寝ているらしい。突発的な睡魔に襲われる感覚自体は弥生も幾度となく経験したことはあるが、話が終わった途端に寝るというのは流石に覚えがない。

不思議な雰囲気が印象のマイペースな隣人を見て弥生は思わず苦笑した。一癖も二癖もありそうな女の子とまた知り合いになっちゃったなあ、と思いつつも彼女のおかげで少なからず緊張がほぐれた弥生は、胸の中で感謝しておくことにした。

 

(あれ、そういえば何か忘れてるような…………)

 

ふと弥生が何かを思い出そうとしたとき、

 

パァンッパアァン!!

 

「休み時間は終了だ。とっとと席に着け」

「「はい」」

 

千冬の制裁を受ける一夏たちを見て思い出すのだった。

 

◇◆◇

 

IS学園はIS関連教育をコマ単位で行っているため、他の学校とは違い入学当日から授業が行われる。半年間でISに関する全ての基礎を覚えるのだから当然といえば当然だろう。

という理由から現在は2時間目の最中。内容は1時間目に引き続きISの基礎理論について、平たく言えば授業に入る前の復習のようなものだ。周りのクラスメイトたちは時折頷きながらノートに記入したり、教科書をペラペラ捲ったりと授業風景は一般校と対して変わらない。白兎は少々小難しい顔をしながらも割と話を理解しているらしく、周りと同様にノートへ記入していた。弥生はというとISの基礎から理論、構造やその他もろもろを熟知しているため適当に授業を受けながら周りを観察していた。ちなみに隣の本音は絶賛爆睡中である。

 

(懐かしいなあ。俺も最初は苦労したんだよね)

 

と、昔のことを思い出しながら視線をずらしていくと、何やら蒼い顔で肩を震わせている一夏が目に入った。手が止まっているところを見る限りどうやら行き詰っているらしい。そんな一夏の様子にいち早く気付いたのは授業の進行役である真耶だった。

 

「織斑くん、何かわからないところがありますか?」

「あ、えっと……」

 

一夏はもう一度教科書に目を落とすがかなり苦い表情をしていた。

 

「わからないところがあったら訊いてくださいね。なにせ私は先生ですから」

 

自信あり気に胸を張る真耶。教師になって間もない彼女はどうやら教師魂をたぎらせているらしく、言葉には熱がこもっている。

 

「先生!」

 

そんな真耶の姿に後押しされたのか、一夏は元気よく挙手した。

 

「はい、織斑くん!」

「ほとんど全部わかりません!」

 

まるで時が止まったかのように教室が静寂に包まれた。

そんな中で一夏は言いっ切ったと言わんばかりに清々しい表情をする。

 

「え……。ぜ、全部、ですか………?」

 

熱く燃えていた真耶の教師魂は一瞬で鎮火したらしく、表情は一夏と対照的に戸惑いの色が浮かんだ。予想外の返答で明らかにたじろいでいる真耶を見兼ねたのか、教室の隅に立っていた千冬が前に出る。

 

「織斑。入学前に配布された参考書は読んだか?」

「えと、あの分厚いやつですか?」

「そうだ」

「それなら古い電話帳と間違えて捨てまし―――――」

 

パァンッ!

 

「必読と書いてあっただろうが馬鹿者」

「す、すみません」

「あとで再発行してやるから1週間以内に覚えろ。いいな」

「い、いや、1週間であの厚さは流石に―――――」

「やれと言っているのがわからないのか?」

「…………はい、やります」

 

幸か不幸か早くも現れた悩みの種がこれである。どうやら一夏には自身の置かれている立場というものが理解できていないらしい。今や数多の組織や企業が一夏を狙っている、それこそ世界規模でだ。

確かに半ば強引に入学させられたが――強引という意味では弥生も同じ――、もう少し自身の重要性について認識してもらわないと護衛する側もカバーしきれなくなる。

 

(…………一夏に護衛が必要な理由が少しわかった気がする)

 

どうしたものか、と頭を悩ませていた時、不意に胸の内ポケットに仕舞っていた携帯が震えた。弥生は真耶たちに気付かれぬよう素早く携帯を取り出し、メールの受信BOXを開く。

送り主は武偵高時代の同級生でキンジの幼なじみである星伽白雪からだった。タイトルには『キンちゃんが大変!』とだけ表示されている。

 

(白雪から………?ていうかキンジが大変ってなんだろ?)

 

白雪とはそれなりにメールのやり取りをする仲ではあるが、優等生の鏡である彼女がこの時間にメールを送ってくるのはかなり珍しい。タイトルがキンジという辺りが気になった弥生はそのままメールを開いた。

 

『任務中ごめんねヤッちゃん。でも今すぐ伝えなきゃいけないから送るね!』

 

弥生が任務中と知っていながら送ってくるということは、それだけ急を要する事情があるのだろう。文章を下へスクロールさせていくと、弥生の予想通りそこにはあまり穏やかじゃない文章が続けられていた。

 

『今日の朝キンちゃんが武偵殺しに襲われたらしいの!あ、キンちゃんは無事みたい。私もあとでお見舞いに行ってくるけど…………』

 

どうやら白雪の説明によれば、キンジが自転車で通学していた所を『武偵殺し』と思われる者に襲われ、間一髪で駆けつけた他の武偵に救助されたらしい。怪我などはないらしく現在は授業に出席しているとのことだった。

『武偵殺し』。武偵の車などに爆弾を仕掛けて自由を奪い、遠隔操作型の短機関銃を取り付けた車などで追い回し海へと突き落して殺す。その手口から『武偵殺し』と名付けられた連続殺人犯のことだ。年明けに周知メールが出ていたため、武偵高に通う学生はほとんど知っている。

最近になって犯人が逮捕されたと聞いていたが、どうやら事件解決早々に模倣犯が現れたらしい。

キンジが無事だと聞かされて安堵し、休み時間にでも白雪にお礼のメールでも返しとこうと携帯を閉じかけたが、まだ文章が続いていることに弥生は気付いた。弥生が訝しげにその文章を読んでいくと、そこには驚愕の事実が記されていた。

 

『あとね、犯行に使われた凶器………って言うべきなのか分からないんだけど、今回の武偵殺しは『IS』を使用してたみたいなの。ISは途中で離脱したみたいだから行方不明だけど、探偵科や諜報科の調査によると犯人はまだ東京周辺に潜伏してる可能性が高いんだって。ヤッちゃんも気を付けてね』

 

と、そこで文章は終わっていたが、弥生は携帯を握りしめたまま驚愕の面持ちで画面の文章を見詰め続けた。

武偵殺しは逮捕された。そして次に現れた武偵殺しが模倣犯だというところまでは予想できる。しかし、ISを持ち出しての襲撃は流石に予想の範疇を大幅に超えるというものだ。

 

(………IS…………だって?一体どういう―――――)

 

「――――びくん!聞いてますか雅くん!」

「え…………。あっ、はい!」

 

真耶の呼びかけで現実に引き戻された弥生は素早く携帯を仕舞い返事をした。周りを見れば生徒たちが不思議そうな顔で弥生に注目している。

 

「もう、ボーッとしてちゃダメじゃないですかあ」

「す、すみません」

「気を付けてくださいね?えーと、それじゃあ雅くん。『アラスカ条約』についての説明をお願いできますか?」

「分かりました。えー、アラスカ条約の正式名称はIS運用協定です。この協定はISの軍事転用が可能となった約10年前に定められ、ISの取引などの規制のほか、ISの技術を独占していた日本への情報開示を含めた協定として――――」

 

白雪のメールにあったISについて少々引っかかる部分があったが、今は頭の片隅に置いておくことにした。

一夏の問題、そして武偵殺しと謎のIS。入学初日で大きな問題を抱える羽目になったが、弥生に降りかかる厄介事はこれだけでは終わらない。

 

◇◆◇

 

「…………もうダメだ。死ぬ。死んでしまう」

 

2時間目も終了して休み時間。白雪へのメールを返し終えた弥生が一夏たちの下へ行くと、机の上で一夏が死んでいた。入学からまだ2時間足らずだというのに彼はこの先生きられるのだろうか、とついつい弥生は心配してしまう。

 

「二人ともよくわかるよな。俺には全く理解できん」

「いえ、正直なところ僕もあまり理解できてないんですよ。理解云々より単語を記憶するだけで精一杯です」

 

一夏と白兎は顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。

 

「それにしても弥生はすごいな。さっきの質問俺だったら一生答えられないぜ」

「そういえば弥生はIS工学を勉強してたんですよね。やはり将来は整備か開発の道に?」

「どうだろうね……。今こんな状況になってるわけだし」

 

などと1時間前の休み時間と特に変わりなく男子だけで会話をしている中、ソレはやって来た。

 

「ちょっとそこの方々、よろしくて?」

「「「ん?」」」

 

鮮やかな金髪ときめ細やかな白い肌、透き通った青い瞳の美少女という名の厄介事が。

 

「訊いてますの?お返事もできなくて?」

 

金髪ロールの生徒は見るからにお嬢様オーラ全開で、いわゆる『今どきの女性』そのものだった。

現在の女性たちはISを使用できる、という絶対的な力の差から優遇の差が激しい。というのも国の国防力、つまり軍事力はほぼISに傾いているわけで、それを操るのはもちろん女性である。そしてアラスカ条約によって独自でのISの研究や開発、延いては国家間での取引や軍事利用さえも禁止となっている今、必要となるのはより多くの操縦者だ。その結果、IS操縦者を募るために各国が打ち出したのが女性優遇制度である。この制度によって有事の際の防衛力は強化されたが、代償として世間での男性の立場は益々狭くなり、最終的に現在のような『女=偉い』の構図が出来上がった。

そしてこの目の前にいる金髪の学生こそ、この『女尊男卑社会』で言うところの『今どきの女性』なのだ。

 

「えと、うん。聞こえてるよ」

 

どうにも嫌な予感しかしないが、話しかけられてしまった以上だんまりを決め込むのは無理だと判断した弥生は、嫌々ながらも3人を代表して答えることにした。

 

「全く、聞こえてるなら返事くらいしてくださいな。このわたくしが折角話しかけて差し上げてるのですから、それ相応の対応をするべきでなくて?」

 

どうやら初見での読み通り、この学生は現代社会のソレにかなり染まっていると見受けられる。正直なところ、弥生はこういった手合いの人間はあまり得意ではない。できれば近づきたくない部類の女性だ。

白兎は相変わらず涼しげな微笑を保たせていたが、一夏はどうやら気に入らなかったらしく少し棘のある口調で返した。

 

「悪いな。俺、君が誰だか知らないし」

 

それはおそらく嫌味などではなく本心から言った言葉だろう。しかし目の前に立つ学生はそれが気に入らなかったらしく、目を吊り上げて食い掛かるように続けた。

 

「わたくしを知らないっ!?このセシリア・オルコットを!?イギリス代表候補生であるこのわたくしを!?」

「へえ、セシリアっていうのか」

「どこの国の代表候補生かは知りませんでしたが、イギリスだったんですね」

 

一夏と白兎が皮肉っぽく答えてみせる。その対応に我慢できないと言わんばかりにセシリアは隣に立っていた弥生に詰め寄ってきた。

 

「あなたは知っていますの!?どうなんですの!?」

「うっ……、あ、ああ。知ってるよ。入試1位でイギリス代表候補生のセシリア・オルコットでしょ」

 

血走った眼を向けて詰め寄るセシリアに若干気圧された弥生は、彼女を引きはがしつつ仕方なく答えた。そんな弥生に一夏が意外そうな声を上げた。

 

「弥生。お前知ってるのか?」

「そりゃ知ってるよ。代表候補生だからね」

「僕も先日調べたので名前くらいは憶えていたのですが」

「………そ、そうなんだ」

 

二人が嘘ではなく大真面目に答えているようで、弥生はついつい呆れてしまう。

セシリア・オルコット。イギリスの代表候補生であり、彼女もまた一夏たちと同様に護衛対象であるため、弥生が知っているのは当たり前のことだ。

事前の情報によるとイギリスの名門貴族の娘、つまりはリアルお嬢様なのだ。

高飛車でプライドが高く、それ故に人を見下す。まさに絵に描いたような性格の持ち主だ。

 

「ところでさ、一つ質問いいか?」

「?わたくしですの?ええ、いいですわ。下々のものたちの要求に答えるのも貴族の務め。何でも聞いてくださいな」

「じゃあ聞くけど――――――代表候補生って、何?」

 

その瞬間、その場にいた全員がずっこけ、同時にセシリアから何かが崩れる音がした。

 

「ね、ねえ、一夏。冗談だよね………」

「あなた、本気で言ってますの!?」

「おう、本気だぜ」

「………胸を張って言えることじゃないよ」

「…………ここまで重症とは。さすがに予想できませんでした」

 

ISに関する知識が乏しいのはさっきの授業でよくわかっていた。だがここまでとはさすがの弥生も予想はしておらず驚きを隠せない。セシリアに至ってはこめかみを押さえて「し、信じられませんわ。極東の島国に住む男性とはこれほどまでに知識が乏しいというの?」などと呟いている。

 

「いいかい、一夏。代表候補生っていうのは、国家IS操縦者の候補者として選出されるエリートのことだよ」

「へえ、そうなのか」

「名前から察するに思いつきそうなものですが………」

「そう言われるとそうかもな」

 

うんうんと興味深く頷く一夏を見て、間違いなくこの先が思いやられると弥生は感じた。流石の白兎も隣で引きつった微笑を浮かべ、セシリアといえばいとも簡単に完全復活を遂げていた。

 

「そうですわ!わたくしは選び抜かれたエリート中のエリート!本来であればあなたたちとはこうして言葉を交わすことはおろか、同じ空間を共に過ごすことすら奇跡。………あなたたちにはその幸運がわからなくて?」

「そうなのか?そりゃラッキーだ」

「我々は運に恵まれていたようですよ弥生」

「………二人とも遠回しに辛辣だね」

 

一夏は素で言っているように感じるが、白兎は間違いなくワザと言っている。あの涼しげな微笑が悪魔の微笑みに見えるのは気のせいではないようだ。

そして、案の定セシリアの表情が気に入らなそうに歪む。

 

「馬鹿にしていますわね、このわたくしを。大体、あなたたちISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。男性でISが操縦できると聞いていましたから少しは期待してましたけど、とんだ期待外れですわ。それにあなたも。知識だけは一丁前に揃えてるみたいですけど、あまり調子に乗らない方が身のためでしてよ」

「まあ調子に乗るつもりなんて毛頭ないけど、ご忠告痛み入るよ」

「ふん。わかればよろしいですわ。まあでも?わたくしは優秀ですので、あなた方のような人間にも優しくして差し上げますわ。なにせわたくし、入試で唯一教官を倒したエリートですから」

 

エリートという単語を強調するセシリアは、どうだと言わんばかりに胸を張る。しかし、

 

「教官……?入試のやつなら俺も倒したけど」

「………………は?」

「一応僕も倒してますよ」

「………………え?」

 

一夏と白兎が言ったことが相当ショックだったのか、セシリアは口をパクパクさせている。

 

「わたくしだけと聞きましたが………」

「女子だけ、ってオチじゃないのか?」

「つ、つまりわたくしだけではないと………」

「そういうことになりますね」

 

なんというか色々な意味で壊れそうになっているセシリアは、錆びかけたブリキの玩具のような動きで弥生を見た。

 

「あ、あなたはどうなんですの?あなたも教官を倒したんですの?」

「えっ。あ、いや、俺は倒せてないよ」

 

半泣き状態のセシリアを見て不憫に思った弥生はNOと答えておくことにした。

 

「…………そう、ですわね。教官を倒せる方がそんなにいても困りますし………ってそういう問題ではありませんわ!あなたたちまで教官を――――]

 

―――――――――キーンコーンカーンコーン

 

「っ!こんな時に………!!まだ話は終わってなくってよ!またあとで来ますわっ!」

 

流石は優等生、3時間目のチャイムが鳴った途端早々に退散していく。時間を守るのは良いことだ、と弥生は一人感心しながら自分の席に戻るのだった。

 

◇◆◇

 

セシリアとのいざこざが先延ばしになったことを、喜ぶべきか悲しむべきかと考えている内に3時間目は始まっていた。1,2時間目とは違い教壇に立っていたのは千冬で、真耶はメモ帳を片手に教室の隅から真剣な眼差しで見ている。

 

「それではこの時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明する………予定だったんだが、再来週に行われるクラス対抗戦で出場する代表者を先に決めようと思う」

 

クラス対抗戦。各クラスから代表を選出し、その中で優勝を争うリーグマッチ形式の試合だ。ここで選出される者は今後1年間そのクラスの看板を背負わなければならない。

 

「自薦他薦は問わない。ただし、この試合は各クラスの実力推測を測るものだ。一度決まれば1年間変更はないからそれを考慮するように」

 

ここまでの流れに問題は無かった、しかし。

 

「はいっ。私は雅くんを推薦しますっ!」

「あ、私も賛成です!」

「私は織斑くんが良いと思います!」

「織斑くんに1票!」

「いや、ここは桐原くんが出るべきです!」

「くぅ~。選べないっ!」

 

クラスの数名が弥生たちを推薦したことによって、セシリアの怒りが爆発してしまった。

 

「異議ありですのっ!冗談じゃありませんわ!わざわざこんな極東の島国までISの技術を修練しに来たというのに、物珍しいという理由だけで代表者にされてはいい恥さらしでしてよ!わたくしにそのような屈辱を1年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

とにかく凄い言われ様である。男という立場だけでこの扱いはまさに理不尽そのものだが、男に対する世間の対応とは実際こんなものだ。

 

「実力で行くのならわたくしがクラス代表者になるのは当然のこと。それに引き換え、偶然ISを動かせたというだけの素人に代表など務まるはずがありませんわ!」

 

なんとなく苛立ちを感じたが、弥生は顔に出さなかった。それは二人も感じているようで、一夏の表情は不機嫌、白兎の微笑は怒り3割増しといったところだ。

 

(………我慢だ我慢。ここで暴走したら元も子もないんだから…………)

 

しかしセシリアはそんな弥生の胸中に気付くこともなく続けた。

 

「それにあなた!」

 

しかもよりにもよって弥生を指さす。

 

「えっ?俺?」

「そうですわ!何よりわたくしはあなたの推薦が気に入りませんの!あなたのようなISの知識だけで実力も伴わない者が、わたくしの上に立つなんて絶っっっ対にあり得なくてよ!」

「………………」

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛。あなたにそれがわかりますの?」

 

余程男が推薦されたことに苛立っていたのだろう。実際セシリアの剣幕は周りの女子を若干引かせるくらいだった。しかし先の言葉が弥生の中の何かを切ってしまったことに、セシリアは気付いていない。任務を受けた身とはいえ歳はまだ16歳、感情を完璧にコントロールするにはまだ少しばかり幼いのだ。そして『頭だけの男』というのは弥生の地雷である。それ故に、

 

「イギリスだって変わらないだろ。料理の腕は三流なのにプライドだけは一流なんだから恐れ入るよ」

 

とんでもない爆弾を落としてしまった。

セシリアを取り巻くオーラが一瞬にして凍り付き、クラス全体も妙な静けさに包まれる。そこで我に返った弥生がおそるおそる後ろを向くと、

 

「あっ、あっ、あなた!今わたくしの祖国を侮辱しましたわね!!?」

 

セシリアの怒りのボルテージがMAXになったらしく、顔を真っ赤にしてついに激昂した。

やっちゃった~、と後悔するが今更どうにかなる様子ではない。

 

「決闘ですわっ!」

 

もはや耐え切れないとばかりに机を叩いて宣言するセシリア。決闘ということはつまりIS同士による模擬戦を指すのだろう。だとすれば任務上自分の素性を晒すようなことは避けるべきであり、当然この決闘からは身を引くべきである。しかし、こうまで言われては引き下がるのも癪だと思った弥生は、

 

「ああ、構わないよ。その決闘受けて立つ」

 

申し込みを受けることにした。いくら任務とはいえ、この決闘から身を引けるほど弥生は大人ではない。

 

「ふん。もし手を抜いてわざと負けたりしたら、あなたたち3人ともただでは済まないこと、覚悟しておくことねっ」

「分かってるよ。ねえ一夏、白兎?」

「おう、俺も弥生の味方だ。全力でやってやるぜ」

「なんだかわかりませんが、面白そうですね」

 

全員一致の賛成だった。

 

「さて、話はまとまったな。それでは勝負は1週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。雅とオルコット、それから織斑と桐原は用意をしておくように。それでは授業を始める」

 

弥生たちが席に着くと千冬が授業を再開し、周りの生徒たちもそれに合わせて私語を止める。そしてそんな中で弥生は頭を抱えていた。

 

「……………やってしまった。気を付けてたのに…………」

「仕方ないよみやびん。男の子は時として強大な力に立ち向かわなくてはいけないのだよ~」

 

と本音に励まされ、白兎の方を見ればグッジョブと言わんばかりに親指を立てて笑っていた。

そんな二人を見てさらに頭を抱える弥生は、さっきまで意気揚々と決闘を受けていた人間とは思えないほど惨めな姿だった。

 

◇◆◇

 

『それで、3人目の男はどうでしたか?』

「そうですね……。不審な部分はない、とまでは言い切れないですね」

 

昼休み、校舎の屋上に一人の学生が携帯を片手に話していた。周囲に注意を払い、誰にも聞かれぬよう細心の注意を払いながら。

 

『そうですか。こちらでも調べてはみたんですが、特にこれといった情報は見つかりませんでした。学校のメインサーバーにも探りを入れてみましたが在学は事実でした』

「なるほど。こちらも彼の人物関係を洗ってみたんですが、ダメでしたね」

『この書類が真実か、はたまた偽造か………。いずれにしても注意するべき相手ではありますね』

「ええ」

『ですが。もしこちら側に支障を与えるようであれば、分かっていますね?』

 

学生は空を見上げた。その瞳は狼のように鋭い殺気を帯びている。

 

「その時は実力を行使して排除するつもりです」

『よろしい。では通信を終了。健闘を祈っていますよ―――――PHANTOM(ファントム)

「了解しました。通信終了」

 

ファントムと呼ばれた学生は教室に戻ろうとした時、再び空を見上げた。

果てしなくどこまでも続く空はいつになく青く、そして眩しく感じる。

 

「排除……か。そうならないことを祈ってるぜ、雅弥生」

 

狂気的な笑みを浮かべるファントムは、扉の向こうへと静かに消えていった。




お疲れ様でした!

後半は特に変更なしで行かせてもらいました。改めて読み直してみて、無理に加筆修正する必要ないかなぁ~、と思いましたのでそのままです。
しかしプロローグに続いて第1話まで1万文字を超えるとは流石に予想外でしたね。後半の物語に妙なプレッシャーを感じる…………(笑)。

誤字脱字等ありましたらご報告お願いします!

では、次の機会にお会いしましょう!
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