IS<インフィニット・ストラトス>閃光ノ蒼キ刃   作:明智ワクナリ

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連続投稿させて頂きます。
前回のシリーズを読んでくださった方、長らくお待たせしました。
相変わらずの駄文ですが、スタートです!


第6話『忍び寄る2つの影』

「…………試合開始、確認」

 

関係者席の一角でツインテールの少女が耳に着けた小型のインカムで、周りに聞こえぬよう声を落として状況を報告する。

 

『始まったか。こちらも準備が整う。会場の警備は確認できているな?』

 

インカムの向こうで答えたのは若い女性だった。

 

「勿論、バッチリにゃ~。正面に8人、各門に5人、会場内はざっと数えて40くらいだったね」

「…………警備システム、一部変更を確認。…………でも、計画に支障なし。…………図面、今送った」

『ふむ、確かに受け取った。この程度の誤差なら問題あるまい。準備が整い次第、通信を再開する』

「りょ~か~い」

「…………了解」

 

少女たちの格好は相変わらずで、先日着ていたものとあまり変わらない服装だった。周りの人間が戸惑いの視線を向けるが、少女たちは一向に気にしない。

 

「結局こうなるんだにゃ~。非戦闘員の枠は嫌なのに~」

「…………N(ノワール)、爆撃好きだから。…………今回の作戦、派手なのいらない。…………自重すべき」

「んにゅ~。K(ケイ)は自重し過ぎなんだって~」

「…………そんなことない。…………N(ノワール)が目立ちたいだけ」

「それは無きにしも非ずかな~。注目浴びるのって結構楽しいよ~。周りもドンチャン始めるし」

「…………私、それ迷惑」

 

などと、言葉を挟みつつもK(ケイ)はキーボードを叩き続けている。パソコンの画面には数え切れないほどの文字が不規則に並び、それが高速でスクロールしていく。

K(ケイ)はその文字列を素早く書き換えていき、最後の文字列に差し掛かったところで指を止めた。

 

「…………準備完了」

 

モニターを閉じて軽く伸びをする。すると隣に居たN(ノワール)が缶ジュースをヒョイッとK(ケイ)に渡した。

 

「お疲れ~。うまくいったかにゃ~?」

「…………うん。…………あとは指示を待つだけ」

 

K(ケイ)は小さく頷いてプルタブを空けコクコクと飲む。一方N(ノワール)は豪快にガブガブ飲むと缶を握り潰した。

 

「まったく、ここの連中は呑気なもんだね~。これから何が起こるかも知らないで」

「…………平和、一時の夢。…………崩すのは簡単」

「壊すのが楽しみだにゃ~。どう壊そうか迷っちゃうよ~」

「…………N(ノワール)、顔が怖い。…………作戦前、変質者で捕まる」

 

無表情で静かに突っ込むK(ケイ)。しかしそんなことも気にせずN(ノワール)は笑みを狂気に染める。

周りに居る人間がどんな顔をするのか、どれほどの悲鳴が木霊するのか、そして平穏が崩れ去るその瞬間を想像すると、歓喜に満ち溢れて体の震えが止まらなくなる。

彼女は異常だった。壊す事こそが彼女の生きる糧、それ以外は何も必要としない。

そして、そんなN(ノワール)を平然と見ているK(ケイ)もまた異常なのだ。

 

「にゃははは、そんなドジは踏まないよ~」

「…………連絡、来た」

 

彼女たちのインカムが通信を再開し、再び女性の声が流れる。

 

『準備は整った。あとはタイミングを計るのみだ。お前たち、覚悟は出来ているな?』

「聞くまでもなく準備OKなのにゃ~」

「…………いつでも構わない」

 

女性の問いに2人は当たり前だと言わんばかりに答えた。何一つとして疑問に思わない。

それが少女たちにとっての日常なのだから。

 

◇◆◇

 

2人の試合が開始してから5分、戦況は圧倒的に鈴の方が有利だった。その様子を見ていた本音、セシリア、白兎の表情は険しい。

 

 

「難しいですね。あの攻撃を見極めるのは少し難易度が高そうです」

「確かにそうかも。あの衝撃砲は砲弾が見えない分かなり厄介だね」

「それに、悔しいですが射撃のタイミングも完璧ですわ」

 

鈴のISは「甲龍(シェンロン)」、空間に圧力をかけ、衝撃を砲弾として放つ肩部装備「龍咆」と大型の青龍刀「双天牙月」が特徴的な第3世代型だ。燃費と安定性を重視に設計されており、現在の第3世代機でもトップクラスの稼働時間を叩き出しているらしい。

それに比べると一夏の「白式」は全く逆の機体である。名目上は第4世代と格付けされているが、その実機体は第3世代型。実装された技術によって名目上がそうなっているだけのこと。

攻撃力だけで言うならば白式の方が頭一つ分出ているが、燃費の面で見ると欠陥機としか言えないほどエネルギーを消費する。それ故に今回の試合は機体性能の時点で分が悪いのだ。

鈴の攻撃は一方的なもので、一夏の攻撃をかわしてがら空きになったところを砲撃、確実に白式のシールドエネルギーが削られていく。

 

「こうなってしまうと流石の一夏でも打つ手はなし、ですか」

「残念ですがそうなりますわね」

 

白兎とセシリアが残念そうに呟く。ちなみに弥生はこの場には居合わせていない。試合直前で電話がかかって来たらしく「すぐに戻る」とだけ残して去ってしまった。

視線の先で対峙する一夏と鈴、時間的にもそろそろ決着が着く頃合い、ここが一夏の正念場だろう。

そして両者が動き出したその時だった。

 

ズガアァァァァァンッ!!

 

一夏たちの間を横切るように閃光が走り、凄まじい音と共にアリーナが揺れる。周りからは悲鳴が上がり、急いで立ち上がったセシリアはアリーナの中央を見た。中央には巨大なクレータと煙が舞い上がり、その中心に立つソレを目にしたセシリアは驚愕する。

ソレはおおよそ人間の姿ではなかった。全身を黒い装甲が覆い、両腕は足に届くほど長く頭部は肩と結合されて不格好な姿。そしてむき出しのセンサーライトが不気味に点滅する。

 

全身装甲(フル・スキン)ですって…………!?)

 

本来ISに全身を覆うような装甲は存在しない。というのも防御はシールドエネルギーが基本のため必要としないのだ。しかし、視線の先に居る黒いISは必要としない全身装甲を身に纏っている。

 

「あれは一体っ!?」

「ど、どうなってるの…………」

 

白兎たちも黒いISに気付いたようでそれぞれ驚きの声を上げた。周りは既にパニック状態、至る所で悲鳴が上がり、本音はその状況を見て不安そうにセシリアを見る。

 

「だ、大丈夫ですわ。とにかく避難が先ですの。早く出口まで――――」

 

ウウゥゥゥゥゥゥン―――――

 

突然警報音が鳴り響き、観客席に備え付けられていた防護壁が作動した。おそらく事態に気付いた教師陣が行ったのだろう。セシリアは構わず出口へと本音たちを連れて向かった。アリーナに残された一夏たちが心配だったが、彼女たちの避難が最優先であると判断した結果である。

座席が通路沿いだったのが幸いして、セシリアたちが出口の前に着くのは早かった。観客たちを避難させなければ、と急いでドアに向かうがそこでセシリアは立ち止まる。

 

「そ、そんな…………」

「ん?どうかしましたか?」

 

急に立ち止まったセシリアを見て白兎もドアに近づいた。

 

「っ!一体これはどういうことですか!?」

 

隣で驚愕する白兎。その声に本音が訝しげな表情をする。

 

「…………どうしたの2人とも?早く避難しないと」

「無理ですわ」

 

そこでセシリアが重々しく口を開いた。

 

「セキリュティーのせいでドアがロックされてるんですの」

「えっ!?」

 

ドアのセキリュティーランプが非常時のレッドへと移行している。つまりこのドアは完全にロックされているという事。おそらくはアリーナ全体のドアが同じ状態のはず、そして逃げ道は全て閉ざされた。

 

「で、でもセシリンのブルー・ティアーズならこんなドアも破れるんじゃ―――――」

「それはできませんわ」

 

本音にセシリアが悔しそうに顔を歪めながら答えた。

 

「わたくしのブルー・ティアーズは今定期メンテナンスで預けてしまっていますの。本来ならば今日の午後に受け取る予定でしたけど…………」

 

そういって彼女は左耳を見せる。普段ならそこに待機形態のブルー・ティアーズが収まっていたが、試合出場の予定がなかったセシリアは前倒しでメンテナンスを行っているためここにはない。弥生との試合で機体の損傷率が思ったよりも高く、相次いで不具合が出たことが原因だった。

自分のブルー・ティアーズなら、この程度のドアなど簡単に破れるだろうが、肝心のISが手元にない以上これは使えない。

 

(くっ、完全に閉じ込められましたわ…………!!)

 

◇◆◇

 

一方、関係者席も他の場所と同様パニックに陥っていた。しかし、少女2人組は周りで喚く大人たちをウザったそうに一瞥しながら呑気に座っている。

 

「あーあ。たかが閉じ込められたくらいで何をビクビクする必要があるのかなにゃ~。それにしても、さっきの黒いISってなんだろうね~?全身装甲なんて珍しいもの装備してたけど」

「…………わからない。…………ただ、犯人はあの未確認機。…………セキリュティーに介入して来た」

「にゃるほど~。目的は知らないけど、これでウチ等は袋の鼠ってやつか~。何が目的なのかな~、ウチ等人質にされてたりして~。あははは」

 

先ほどの黒いISが出現し、この場に閉じ込められてから既に5分が経過している。計画通りであれば既に行動を開始しているところだが、状況が状況だけに動くことが出来なかった。K(ケイ)の情報によれば、第3者による外部からのハッキングによって警戒レベルが4に移行しているらしく、おそらくはあの黒いISによるものではないかという見解だった。

 

N(ノワール)K(ケイ)。聞こえているか?』

「おお~バッチシ聞こえてるよ~」

「…………音声、良好」

『ふむ、どうやら無線は生きているようだな。イレギュラーだがこちらでも確認している。未確認機は現在、織斑一夏と凰鈴音と交戦中だ。どうやらあの二人にご執心らしい』

「へえ~、随分と大胆なやつだね~。シールドぶち抜いてその上学園にハッキング、一体どんなお馬鹿さんなんだろ~」

「…………それ、今どうでもいい。…………そんなことより、あのISを有効に扱うべき。…………あの未確認機、暴れてる内に計画遂行可能」

K(ケイ)の言う通りだ。運がいいことに教師陣はあの未確認機に目が向いている。加えて警備の連中と3年の精鋭部隊はシステムクラック中、これ以上の好機はなかろう?』

 

N(ノワール)は再び笑みを浮かべた。

 

「んじゃあウチは計画通りに動いてOKなわけだね~」

『ああ、計画していたステップをいくつか飛ばすことが出来る分、こちらにとっては逆に好都合だ。だが、状況が状況だけに危険が伴う可能性もある。多少なら手荒な手段を使ってもいいが、手早く終わらせろよ?』

「りょ~か~い♪」

『それとK(ケイ)、お前は予定通り学園から離脱してN(ノワール)のサポートを行え』

「…………了解、リーダー」

『では通信を終了する。健闘を祈っているぞ、2人とも』

 

通信を終えたN(ノワール)は待ってましたと言わんばかりに目を輝かせ、詩織の瞳も鋭さが増した。

腰のポーチからサイレンサー付きのファイブセブンを抜き出すと、再び不敵な笑みを浮かべる。

 

「さてさて、任務開始と行くかにゃぁ」

 

◇◆◇

 

一方、弥生は廊下を全速力で走っていた。

 

「一夏たちの状況は!?」

『現在所属不明のISは織斑一夏氏、凰鈴音氏と交戦中っス。今のところアリーナから離脱する動きは見られないっス』

 

非常用のインカムから水花の流暢な声が情報を伝える。

あれから少なくとも10分は経過しているだろう。どうやら謎のISは一夏たちと戦闘を続けているようで、アリーナから時折爆発音が鳴り響いていた。

現在地からアリーナまでの距離はそれほど離れてはない。このまま水花の指示通りに向かえば入り口付近まで容易くたどり着けるだろう。

しかし、弥生の進行方向はアリーナとは全くの逆方向を走っていた。弥生は途中で足を止めると、近くの窓を開け放ってそのまま勢いよく外へ飛び降りる。芝生の上で受け身を取り、素早く体勢を戻して再び走り出した。

 

「全く、久しぶり過ぎて体に響くよ!」

『おやおや、日ごろの運動不足が祟ってるんじゃないんスか?』

「ほんと君は他人事だね!!」

 

こんな時でも全くキャラを崩さない水花に弥生は心底呆れてしまう。

だが、今はそんなことをどうこう言っている暇はない。何故ならつい先ほど校舎から少し離れたIS格納庫の扉が、何者かの手によってこじ開けられたからだ。

一夏たちの護衛が自分に課せられた任務ではあるが、だからといって見過ごすわけにもいかない。もしもこのIS学園からISが強奪されれば一大事だ。いくら訓練機とは言え、使い方さえ間違わなければ十分な脅威になる。何を企んでいるかわ定かではないが、どちらにせよ今この場で動ける自分が行くほかないのだ。

 

『織斑氏と凰氏なら安心してくださいっス。もしもの時は周辺に待機させてる部隊で強制介入するっすよ』

「ああ、頼むよ水花」

 

水花と通信をしている間に目的地付近に到着した弥生は、荒げている呼吸を整え近場にあった倉庫の影に身を隠した。

そこから覗きみるように顔を出して問題の格納庫に目を向ける。水花の報告通り厳重にロックされていた筈の格納庫の扉が破壊されているのが、肉眼でハッキリと捉えた。

ひしゃげた扉を見る限り、実行犯はそこいらの犯罪者とは違うようだ。敵はIS保有者か、もしくは超能力者(ステルス)なのかもしれない。

弥生は付近に敵の姿がないことを確認して、物置の影から格納庫へとゆっくり近づいていく。

周囲に意識を散らすが、敵の気配は微塵も感じない。

何かがおかしい、そう思いながらも扉の一歩手前まで接近することに成功した弥生は、壁に背を着けて懐から拳銃―――ベレッタ90-Two――を抜き出した。

ベレッタを構えたまま己の意識を集中させるべく、ゆっくりと深呼吸をする。だが周囲への警戒も怠らない。何故ならすでに自分は戦場に立っているのだから。こうしている間にも、死角から気付かれぬように自分の命を狙っている敵がいるのかもしれないのだ。

覚悟を決めた弥生は息を押し殺しながら身を屈めて倉庫内へと侵入した。

内部の電源は先の襲撃で落ちているらしく――もしくは侵入者が故意に電源を切断した可能性もある――薄暗いが、予備電源による非常灯は作動していたためかろうじで周りを認識できる。

とはいえ暗闇に目が慣れていないため足元はおぼつかない。弥生は余計な足音を立てず慎重に歩を進めていった。

と、その時近くで物音のが聞こえた。

弥生はとっさに近くの物陰に飛び込み、射撃体勢を整えたまま声の方向に視線をやる。

すると、暗闇に慣れてきた視界がその姿をおぼろげに映し出した。

 

「んにゃ~、なんだってこんなに解除コードが複雑なのかな~。時間がなくなっちゃうよー」

 

見えたのは小柄な少女だった。

はっきりとは見えないものの、全体のシルエットと間延びした甲高い声でなんとか性別だけは認識できる。

何やら打鉄の前で少女は苛立ったような口調で――やる気に無い口調のままだが――何かしらの作業を行っている。手元をペンライトか何かで照らしているようだが、少女が影になってよく見えない。

ただし、先ほどの独り言らしき言葉を聞く限り、少女が何か細工らしき作業を打鉄に行っているのだけはわかった。ぼんやりと見えるシルエットの位置から察するにおそらく胸部に格納されているコアにだ。

周囲に視線を向けてみるがさっきと同様に敵の姿は確認できない。

弥生は屈めていた腰を持ち上げ、少女の方へ気付かれぬように歩み寄っていく。

そして―――

 

「やあ、お嬢さん。こんなところでどうしたのかな?」

「――――――――っ!」

 

あえて自分の存在を晒すかのように声を出した。

少女は驚いたように体を跳ね上げ、その場から駆け出そうとした瞬間、弥生は構えていたベレッタのアンダー部分に設置されているLEDフラッシュライトを点灯させて警告する。

 

「動かない方が身のためだよ。両手足に風穴を開けたくなかったら、ね」

 

口調はいつも通りに穏やかだが、そこから感じられる静かな殺気に少女は足を止めた。

 

「もっとこっちに寄って。あとそのフード、取ってもらえると嬉しいな」

 

少女は抵抗することなく弥生の誘導に従い、フードを取って両手を上げた。

その姿を見た弥生は少なからず驚いた。

目の前にいる少女は自分と同い年か、もしくは年下かもしれない子供だったからだ。

 

「うう……………ひどいよぉ、おにーちゃん。銃なんて向けないでよぉ。ウ、ウチはただ迷子になっただけで」

 

と、少女が瞳を潤ませながらおどおどした声を出した。その姿はとても可憐で、怯える小猫のような愛くるしさと過剰なまでの保護欲を掻き立てられる。人によってはつい助けてしまうかもしれない。

だが弥生は少女に向ける視線を鋭くするだけだった。

関係者以外の立入は厳禁とされるIS学園の、しかも教師や特定の生徒のみが立入を許可されている場所に何の関係もなくその上年端もいかない少女が、どうしたらこんな場所で迷子になるだろうか。

弥生は銃口を向けたまま答えた。

 

「どうせ吐くならもう少しまともな嘘にしたら?基本的に人の話は信じる方だけど、物事には限度ってものがあるんだよ。扉まで破壊して侵入した君が迷子ってことはないだろう?…………君はどこの組織の人間かな?」

 

ベレッタの銃口は突き付けたまま少女に問う。

すると少女は諦めたように溜息をつき、あの愛らしい表情から一転、困ったような笑顔で返した。

 

「あははは……………、やっぱりそーなりますよね~。やっぱこんな演技じゃあ流石に撒けないか~。まあ最初っからわかってたことだけどね。失敗失敗☆」

 

銃口を突き付けられているというのに、少女は緊張一つせずに可愛らしく舌を出して右手で頭を叩いた。

 

「ねえおにーちゃん、どうしてウチが格納庫に侵入したって気付いたのかにゃ~。学園のネットワークも完全に遮断したからセンサーも働いてないはずだよ~」

「お生憎さま、俺には優秀な仲間がいるもんでね。君が侵入した瞬間から俺に情報は届いてた」

 

へえ~、と興味深そうに少女は頷いた。

満足したかのように満面の笑顔で頷く少女、しかしその裏に潜む黒い狂気を感じ取った弥生は背筋に薄ら寒さを感じていた。

 

「今度からはもう少し慎重にやらせてもらうよ~、まあウチの意には反するけどね。というわけでおにーちゃん、その銃下ろしてもらえるかにゃ~?」

「残念だけど下ろせないね。君をこの場で拘束するのが今の俺の仕事なんだ、今度は無いよ」

「そっかー、それじゃあ強硬手段しかない、ねっ!!」

 

少女が身を屈めながらすさまじいスピードで弥生に突っ込み、懐へ潜り込んだ少女はそのまま弥生の腹に蹴りを放った。が、間一髪で反応した弥生はバックステップで後ろに下がり、即座に少女の右肩辺りにベレッタの狙いをつける。

 

(本当は撃ちたくないけど、今はやるしかない…………!!)

 

いくら犯罪者とはいえ少女に銃弾を撃ち込むなどしたくはなかった。だが、そうしてでも少女を取り押さえるのが弥生の使命である。

故に弥生は迷いなく引き金を引いた。

 

パアァンッ!!

 

炸裂音にも似た銃声が倉庫内に響き渡り、撃ち出された銃弾は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

突然の出来事に弥生は一瞬呆然としたが、少女の姿を見て納得する。

こうなることは倉庫内に入る前から仮定していたため、それを見て驚きもしない。そう―――――

 

「危ないにゃ~、展開が少しでも遅れてたら大変なことになってたよ~」

 

この少女がISを所持している可能性など、最初から仮定していたのだから。

右腕の肘から指先にかけて、黄色い装甲にすっぽりと覆われている。

 

「おにーちゃんはあんまり驚かないんだね~。銃弾まで弾き飛ばしたのにさ~」

「…………正直驚いてるよ。部分展開で弾き返すなんて芸当は簡単にできるものじゃない」

 

そう、決して簡単ではない。

瞬時にISを部分展開させて音速を超える鉛玉を弾き返すなど、常人の域を超えた反射能力だ。例え歴戦の兵士が同じことをしようとしても無理に等しいだろう。

それを目の前にいるこの少女は雑作もなくやってのけたのだ。

 

(いよいよもってこれは危ないかな……………)

 

少女にはIS、対するこちらの戦力といえばこのベレッタと周囲に並べられている近接ブレードくらい。ISに対して通常兵器は通用しない。まして拳銃程度の威力では傷一つつけることすら困難だ。

かといって近接ブレードで応戦したところで、今の弥生では負ける確率の方が圧倒的に高いだろう。最強の名を冠する千冬なら生身でも十分に渡り合えるだろうが、残念ながら弥生にそこまでの力量と技術は持ち合わせていない。

故に戦況は弥生の圧倒的不利、まさに絶体絶命である。

しかし、力が及ばないとはいえ犯人をみすみす逃すつもりなど弥生には一切ない。

 

「さ~てそれじゃあおにーちゃん、ラウンド2といこうか~――――――って言いたいとこだけど、今日はも時間切れなのにゃ~」

「時間切れ?」

「そう時間切れ。いや~おにーちゃんは運のいい人だね~。ウチはもっと遊びたかったんだけど、これ以上長居してると怒られちゃうから~。んじゃそういうことでバイニャラ~」

 

そう言って少女は拳銃型のワイヤーフックを天井に向けて撃ち出し、少女の体が空中に舞い上がった。

天上をよく見れば人一人分が抜けられる程度の穴が開いており、おそらくあそこから脱出するつもりだろう。

 

「くっ…………させるか!」

 

弥生は無防備になっている少女にベレッタを向けて発砲した。が、やはり銃弾は右手の装甲に弾かれてしまう。

少女は楽しそうに笑いながら弥生に手を振って来た。

 

「またね~おにーちゃん。今度会ったらまたあそぼ~。まあ――――――生きていられたらの話だけどね♪」

 

少女の意味深な言葉を不審に思った瞬間、()()()()()()を感じた弥生はその場から飛び退いた。

次の瞬間―――――

 

ガギイィィィンッ!!

 

凄まじい勢いで何かが振り落された。

素早く体勢を立て直した弥生が顔を上げると、さっきまで立っていた場所には鋭利な金属――――近接ブレードが突き立てられているのが見えた。

そしてその後ろで不気味に立っている打鉄の姿。

それを見て弥生は表情を強張らせる。

もし一瞬でも反応が遅れていたら串刺しにされているところだった。

 

(くそ、完全な誤算だった……………!)

 

周囲に敵の気配がなかったせいで油断してしまったらしい。長い間前線から身を遠ざけていたとはいえ、伏兵の存在に気付けなかったのはミスだ。

だが同時に疑問が残る。

敵がこのIS学園の所有物であるISを起動できたのか。

しかしこの疑問はある程度の推測で片づけられる。

先程少女が打鉄のコア部分に何かを細工しているのが見えていた。おそらくはコアのセキリュティーシステムを強制的に解除させたのだろう。俄かには信じがたいことだが、実際に打鉄が起動している以上そう仮定するしかない。

だが、弥生の疑問はまだ残っている。

何故このタイミングで敵が行動したのだろうか。

不意を突くのなら少女と会話をしていたあの瞬間がベストだったはず。あの時の弥生は少女が一人だけと認識していたため完全に油断していた。不意を突かれていたら間違いなく対応が遅れていただろう。

敵の狙いが単に時間稼ぎか、もしくは別に目的があるのか。少女が最後に残した言葉から察するに、後者である方が高いような気がする。

 

(けど今はそんなことを考えてる暇はない。どっちが正しいかなんて後で考えればいいんだ。まずは目の前の敵をどうやって無力化するかを――――)

 

とベレッタを打鉄に対して向けた弥生は、ライトで照らされた打鉄を見て思考を停止させた。

いや停止させられた、というべきだろうか。

弥生が呆然と立ち尽くす中、銀灰色にカラーリングされた鋼鉄の武者はゆっくりとブレードを床から引き抜き、切っ先を真っ直ぐ弥生に向けて構えた。

すぐにでも行動しなければ殺される。いつもならば既に行動を起こしているはずだが、今の弥生はただ茫然としていた。

打鉄を映す瞳は驚愕したように見開かれている。

 

「な、なんで……………」

 

ベレッタは構えたまま、しかしその場から動くことが出来ない。

眼前で構える打鉄にはあるものが欠けていた。それこそ必要不可欠なモノだ。

そう――――

 

「なんで、動いてるんだよ……………!?」

 

打鉄の操縦席、そこに収まるべき()()()()()()()()()

信じられない。

弥生の頭の中にはそれしかなかった。

操縦者が無くとも起動できるISは存在してもおかしくはない。だがそれは無人機として設計されているモノに限る。操縦者を必要とするISを無人で起動させるのは不可能だ。

弥生は混乱していた。

故に打鉄の動きを見落としてしまい、気付いた時には間合いに入られ、無人の打鉄はブレードを上段に構えていた。

 

「しまっ――――――」

 

そして機械的な動きで打鉄は振り上げていたブレードを弥生に振り落とした。




完読ありがとうございます。
やっと文章にすることが出来ました。
というわけでどうなる弥生っ!?ここで終わってしまうのか!!?
次回で第1章完結を予定しております。執筆中ですがご期待ください!
ではでは、またの機会に~♪
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