「まったく、何故退院した直後に仕事が2つも入るんでしょうかね」
幻想郷に行ったあの日から一週間がたち詠姫はぶつくさ文句を言いながら何かの手紙を書いていた。
「とは言え病院側は凄く驚いてましたね。まあ、重症患者が散歩に出て帰ってきたら治っていたらそりゃ驚きますか……それは良いですし、すぐ退院になったのも有難いから良かったですが……ほんとタイミング良く弁護の依頼を頼まないで欲しいですよ」
因みに詠姫が受けた2つの仕事はどちらも冤罪事件だったが割と早く片付けることができた。
「と、これで良いですかね」
書き終えた手紙を封筒に入れてそこに例の白紙のカードを追加で入れると封をして自分のポケットに仕舞った。
「取り敢えずあの世界で言われたことは全て書きましたしカードも入れた。後は魔理沙に会ったときに渡しましょうか。魔理沙があちらについてなければこんなことをしなくてもいいのですが……仕方有りませんね」
そう、詠姫が態々手紙に書いていたのは映姫に頼まれた伝言だった。というのも詠姫が知ってる限りは魔理沙は現在は敵側にいるため冷静な反応をされる訳もないので手紙にして渡せば良いと考えたのだ。
「ああ。ついでに古町にもメールでも送りましょうか」
そう言うと詠姫は机の上の携帯を取り
『暫く仕事を休むので古町も久しぶりの休暇を楽しんで下さい』
と言った感じのメールを送った。
「さて『ブーブー』と……反応速すぎですよ古町」
メールを送ってから30秒も経たない内に返信が返って来たことに呆れながらメールを確認する。そこには
『わっかりました!!今更冗談とか言われても休みますから!!』
と言った感じの内容が書かれていた。
「まあ古町にも苦労を掛けてましたからね……さてと、私のもう一人の
詠姫がそう決意を新たにしていると入り口のドアが開いて誰かが入ってきた。
「ただいま……先生・・・・」
「ええ、お帰りなさい……へ?」
入ってきたのは以前流華と一緒に何処かに去った筈の鎌華だった。
鎌華が帰ってきた数日前に時は巻き戻る。
自室で紅茶を飲んでいた流華の元に鎌華がお茶菓子を運んできていた……何故かメイド服で。
「本日のお茶菓子になります・・・・」
「ふふ、メイド服も似合ってますわよ鎌華♪」
「恐縮でございます流華様・・・・」
上機嫌な流華はそう鎌華を誉めるとお茶菓子のアップルパイを口に入れた。
「あら、これってもしかして貴女が作ったのかしら?」
「はい、お口に合いませんでしたか?」
「そんなこと無いですわ。むしろ普段より美味しいぐらいですわ」
「それは……有り難うございます・・・・」
若干照れながら言う鎌華を見ていた流華だったが不意に思い出したかのような質問をする。
「ところで何故敬語を使ってるのかしら?」
「今はメイドなので・・・・。嫌だったらいつも通りにするけど?」
最後は素の話し方で鎌華は言い、それを聞いた流華は苦笑しながら言う。
「別に良いですわ。その話し方も好きですわよ♪」
「面と言われると照れますね・・・・」
顔を赤くしながら呟く鎌華を見ながら流華は思いに吹けていた。
「(ふふ、それにしても1日で調教が終わるなんてのは予想外でしたわね)」
流華が思った調教とは簡単なことだ。鎌華の手を前にして縛り、昔鎌華が居た部屋に放り込み大事に取っておいた鎌華が初めて人を殺した血のついた小さいナイフを持たせ彼女が今まで流華の命令や、流華によって生まれた殺人癖で殺した人達の断末魔を24時間聞かせただけだった。
次の日には鎌華は前に流華の所に居た時の状態……即ち現在のような従順な状態になっていた。
「(しかし……調教が早く終わったのが彼女の影響だとしたら
自分の物を勝手に変革させた詠姫が気にくわないのか無意識の内に紅茶の入ったカップを握り潰していた。
「っ!!流華様大丈夫ですか?」
「ええ、大丈……いえ少し痛みますわね」
大丈夫と言おうとしたのを途中で辞めると流華は手に刺さったカップの破片を抜き取ってから血の出ている右手を鎌華の前に出して言った。
「舐めて綺麗にするのですわ鎌華」
「解りました・・・・。流華様がそう言うなら・・・・」
そう言い終えた鎌華は片膝をついて流華の綺麗な手を持つと血が出ている所を舐めて綺麗にし始めた。
「ふふ♪」
「終わりました流華様・・・・」
舐められている途中ずっと世に言うトリップ状態の流華だったが終わったのが分かると上機嫌な顔になり鎌華を指で手招きして顔の近くまで来させた。
「どうしました?」
「従順なメイドにご褒美ですわ♪」
「どういう……んむっ!?」
不思議そうにしていた鎌華の顔を優しく掴むとその唇に自らの唇を合わせた。世に言う接吻もといキスである。
そしてこの二人にとっては当たり前のことになっているが、あろうことか流華は鎌華の口内に舌を入れた。
それから15秒くらいして漸く二人は接吻を終えた。
「流華・・・・、いきなりは酷いと思うけど?」
「貴女が可愛いのが悪いんですわよ♪いえ、そもそも貴女を美しく作った神様が悪いのですわ」
「か、可愛い言うな・・・・」
顔を真っ赤にした鎌華がメイド服の端を掴みながら顔を背けた。
因みにこの家には他にもメイドが居たのだが、24時間ずっとイチャイチャしているこの二人のせいで全員体が持たずに休暇を申請していたのだった。
「さてと、では鎌華お願いがありますわ」
「何?」
「あの女……北岡詠姫の所に戻って演技をするのですわ」
「先生の所に?」
「あら、記憶は消しきれなかったみたいですわね……まあいいですわ。その通り。演技の内容は無事に帰して貰えたでいいですわ。あの女ならそれで騙せますわ」
「殺した方が早い・・・・。流華……だから殺そ?」
物騒なことを鎌華が上目遣いで言ってきたため流華は思わず笑顔になりかけたがすぐに真面目な顔に戻り言う。
「駄目ですわ。あの女にはとことん絶望して貰わないと……そうですわね後ろから昔の友人に殺されるのがいいシチュエーションですわ♪」
「解った・・・・。私の命は流華の物だから従うさ・・・・」
「いい娘ですわよ鎌華」
そして現在
「つまり……彼女は貴女に特に何もしてこなかったと?」
「ああ・・・・。お茶を飲んだりしてただけ・・・・」
確かに鎌華は嘘自体は言ってないが全部は話さず部分的に教えても問題ない部分だけを話していた。
最後まで聞き終えた詠姫は少し考えてから言った。
「まあ、こうして鎌華が帰ってきたのですから良かったとしましょう」
そう言った詠姫の表情は嬉しそうなのだが満面の笑みというよりは苦笑に近い物だった。
それを不思議に思った鎌華は詠姫に質問した。
「先生……何かあった?」
「どうしてそう思うのですか?」
「表情がいつもと違う・・・・」
「そうですね。まあ、貴女の居ない間に少し有りましてね」
「そうなんだ・・・・。そう言えば怪我はもう大丈夫?」
取り敢えず納得したのか鎌華は軽く言葉を返した後思い出したかのようにそう聞いてきた。
「ええ、大丈夫ですよ。霊夢のお節介な知り合いに治されましたから。そんなことより少しついて来てくれませんか?」
「どこか行くの?」
「ええ。言峰教会に少し用事が有りましてね」
そう言うと詠姫は普段から着ている男装の黒いズボンに白いYシャツの格好に近くに掛けてあった内側白、外側黒のコートを着ると先に外に出て行った。
「先生の癖に生意気だ・・・・。それより……流華のつけた傷を治した愚か者は誰だ?殺すのが面倒になったじゃないか・・・・」
詠姫が出ていくとそんな暴言を言って詠姫が座っていた椅子を隠し持っていたサバイバルナイフで縦に斬りつけると幾分か気分が良くなったのか詠姫に付いていくため外に出た。
言峰教会
「今回は何の用だ北岡詠姫」
「いえ、今日は貴方に用はありませんよ綺礼」
鎌華と共に教会に入ってきた詠姫を見た綺礼は開口一番にそう言い詠姫はそんな綺礼では無く奥の方を見ながら言った。
「神埼士郎に用事が有りましてね」
「奴にか……まあいいだろう。奥に居るから好きにするがいい」
「ありがとうございます綺礼」
そう言って詠姫は足早に奥の方に歩いて行き鎌華もそれに続いて行った。
「あの女……まあ私には関係ないことか」
鎌華を見た綺礼はそう呟き、自分の部屋に戻って行った。
「神埼士郎!」
奥にあった部屋に入ると詠姫は開口一番にそう大きな声で叫んだ。
「北岡詠姫か……何の用だ」
「少し質問を……宜しいですか?」
「手短にしろ。私も忙しいからな」
「すぐ終わりますよ」
部屋の中では椅子に座った神埼士郎がおり、詠姫に気付き振り返ると嫌そうにしながらも話を聞く体制になった。
「では最初に貴方の結局の目的は何ですか?」
「可笑しなことを言うな。貴様らに願いを叶えるチャンスをやってるだけだが?」
士郎がそう言うと詠姫はヤレヤレと言った顔をして言った。
「最近の神様は随分と親切でいて最低みたいですね」
「何?」
詠姫のその言葉を聞くと明らかに士郎の表情が強張った。
それを確認し終えた詠姫は満足したのか入ってきた扉から外に出ていこうとするがその前に士郎に背を向けながら言った。
「貴方のことは既にある方から聞いています。その上で言わせて貰いましょうか……あまり人間を嘗めるな
それを言った詠姫は士郎の返答を待たずに外に出ていきそれに鎌華も付いていった。
「ちっ……どうやら幻想郷のメンバーを気にしすぎて中への対処が遅れたか。まあいい、お前たちがどう足掻いても……嫌、足掻けば足掻くほど私にとっては都合が良い」
そう言った士郎は高笑いをしながら近くの姿見からミラーワールドに入っていった。
「先生さっきの神様って何?」
「鎌華はまだ気にしなくて良いことですよ」
「そう・・・・(先生は流華も私も知らない情報を持っているし殺すのは得策じゃないか・・・・。それなら死なない程度に体のパーツを損失させた方が流華のために成るかな・・・・)」
自然な形で詠姫の後ろに立っている流華は周囲に人が居らず近くに暗い路地裏が在るのを確認すると隠し持ったサバイバルナイフを取り出して詠姫に見えない位置で構えた。
「そう言えば先生・・・・(やるなら……アキレス腱かな・・・・。切っても死にはしなかったはずだし動きを封じれるし・・・・)」
「何ですか?」
「今から良いって言うまで後ろ向かないで・・・・」
「突然どうしました?まあ、良いですけど」
「ありがと先生・・・・」
鎌華はそう言うと容赦なく詠姫のアキレス腱に向かってサバイバルナイフを降り下ろした。
「え?」
だが、気付くと鎌華の背中に何か固いものが当たっていた。それが舗装されたアスファルトの上だと気づくのに数秒かかった。
そして、自分の周りを見ると先程まで持っていた筈のサバイバルナイフが落ちていて詠姫が上から見下ろしていた。
「鎌華、攻撃するなら不意討ちの方が効果的ですよ」
「な、何で分かった?」
「簡単なことですよ。人のことをあれだけボコって起きながら鎌華に何もせずにお茶を飲んできただけ何て話信じるわけが無いでしょう。まあ、怪我をした直後の私には通じたかもしれませんが」
そう言った詠姫の表情は余裕だからなのか微笑が浮かんでいた。が、それは鎌華に対してではなくこうなるように仕向けたと思わしき流華に対しての物だった。
「一回位まぐれで何とかなったからって付け上がるな・・・・」
そう言うと鎌華はもう一本隠し持っていたサバイバルナイフを取り出そうとした。
「おや、良いのですか?」
「何が・・・・」
「盛大に地面に向かって一本背負いしましたからね……音で人が来ると思いますがね」
「ッ!?」
詠姫に言われて初めて気付いたのか取り出そうとしていたサバイバルナイフを仕舞い直し苦々しい顔で詠姫の方を睨み付けた。
「そんなに私を殺したいのでしたら良い場所が在るじゃないですか」
そう言いながら詠姫は懐からカードデッキを取り出してヒラヒラとさせる。
「分かった、私もそれに異存は無い・・・・」
意図が解ったのか鎌華も懐からカードデッキを取り出した。
そして二人は路地裏に移動し割れたガラスの破片に自らのカードデッキを移した。
「変身」
「変身(さて、取り敢えず第一段階はクリアですね。後は……物理的に説得しませんと)」
それぞれゾルダとレイズに変身した二人がミラーワールドに入って行った。
長いので前後編に分けました。