バンドリ!のヤンデレ物を書くよ!   作:大塚ガキ男

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どうも、大塚ガキ男です。
お久し振りの投稿です。
大変お待たせしました。


ピンとはられた弦。からだに巻きつくはへびのはら。こころはすでにかのじょのもの。

「…………」

「…………」

「…………」

 

 固まった。

 ドアを開けたあたしも、その後に続いた市ヶ谷さんも、トイレから出てきた夏輝も。

 全員、固まってしまった。

 両者間の距離は3メートル程。市ヶ谷さんの後ろでドアが閉まったのと同時に、靴箱の上に設置されていた人感センサーの付いたスプレーから柑橘系の良い匂いが漂ってきた。そんな事を言っている場合じゃない。

 3人で固まって固まって、それから夏輝が気まずそうに口を開いた。

 

「ひ、久し振りだな。二人とも」

 

 ブチッ。

 呑気な夏輝の声に、あたしの頭のどこかがキレる音がした。

 

「久し振り、じゃないでしょぉぉぉ! 心配したんだよ!?」

 

 夏輝の胸倉を掴んで、詰め寄る。夏輝は両手を上げて降参の意をあたしに見せた。

 

「悪かったよ。悪かったから。話すから、離してくれよ」

 

 謝る夏輝に、目標を見付ける事に成功した市ヶ谷さんが嬉しそうに近寄っていって、あたしが皺を付けた服を丁寧に直した。

 

「まさか、普通に出歩けてたなんてな。てっきり、縛られたりして身動きが取れないのかと思ってたぜ」

「いや、まさにその通りでさ。つい最近まで鎖で繋がれてたんだよ。ここ数日で、やっとこうして家の中を自由に動けるようにしてもらえたんだ」

「…………え? 動けるんだったら、逃げ出せたんじゃねぇのか?」

「そ、それは」

 

 夏輝からの言葉を聞いた途端、人が変わったように夏輝の襟元を締め上げる市ヶ谷さん。市ヶ谷さんからのツッコミを受けた夏輝は、黙ってしまう。

 いや、何なの。何で黙るの。

 

「は? じゃあ何? 逃げようと思えば簡単に逃げれたのに、夏輝は自分の意思でここに留まったって訳?」

「…………」

「答えてよ!」

「……実は。彩と婚約した」

 

 こんやく。コンヤク。KONYAKU。こん約。

 ……婚約? 

 

「ちょ、ちょま、待てよ。何だよそれ! 婚約ってどういう事だよ!」

 

 怒鳴る市ヶ谷さんの迫力に気圧されて、黙る夏輝。そんな夏輝の肩に手を置き、あたしは優しい声色を努めて語り掛けた。

 

「夏輝」

「は、はい!」

「しっかりと説明して?」

「はい!」

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

「……いや、まぁ、説明されても納得出来る話じゃないんだけどさ。え、何やってんの? 馬鹿じゃないの? いくら彩先輩を欺く為とはいえ、普通超重要な書類に書き込んだり捺印したりする? 大馬鹿じゃん。早くその婚姻届を見付けてビリビリに破かないと」

「手伝うぜ、奥沢さん。あと、ついでに何故か彩さんが持っていた夏輝の印鑑も取り返さなきゃな」

「ふ、二人とも待ってくれ」

「どうしたの」

「どうした?」

「あのな、俺は別に、助けてもらいたかった訳じゃないんだぞ?」

「「……は?」」

 

 夏輝がかつて拘束されていた室内を探し、婚姻届やら印鑑やらを見付け出そうと市ヶ谷さんと意気込んでいたら、夏輝の口から出たのはとんでもない台詞。あたしは、それから市ヶ谷さんは、夏輝に詰め寄った。

 

「な、なな、何言ってんだよ夏輝! 彩先輩は、お前の事をこんな部屋に閉じ込めた犯罪者なんだぞ!? 外に出たくないのかよ!?」

「そうだよ! ストックホルム症候群って知ってる? 犯罪者と長い間行動を共にしたら、その犯罪者に過度な好意的な感情を抱いちゃうやつ。分かる? 夏輝は今冷静だと思っているかもしれないけど、その実冷静な判断が出来てない訳。だから、彩先輩に抱いてるアレソレは全て幻想なの。幻想だから、一刻も早くここから逃げて、普通の生活に戻らなきゃ行けないの」

「だから、そういうのじゃなくて普通に好きになったんだって。大体、有咲も美咲も何でそんな怒ってるんだ? (将来的には)世界レベルのギタリストと人気急上昇中のアイドルバンドのボーカルの電撃結婚だぜ。少しくらい祝ってくれても良いじゃないか」

「……このッ!」

「市ヶ谷さん。落ち着いて」

 

 鈍感と能天気が過ぎる夏輝の言動に、つい手が出そうになった市ヶ谷さんを制する。まだ少しイラついていそうだけど、流石に冷静にはなれたのか、市ヶ谷さんは振り被っていたその拳を収めた。

 

「で、でも!」

「あたしに考えがあります」

「考えって何だよ」

「要するに、彩先輩に取られなければ良いんですよ」

「取られなければって、もう取られちまってるじゃねぇか」

「いいえ、まだ取られていません。取られていないので、二人で、夏輝をこの場でブチ犯しましょう」

「……成る程。先に既成事実ってやつを作ってしまえば、彩先輩はもう手出し出来ないって訳か。良いぜ。本当はベッドの上、夏輝と二人っきりって状況が望ましかったけど、そうこうしてられないもんな。彩先輩が帰ってくる前に事をすませねぇと」

「ふ、二人とも? 何の話をしているんだ……? 目が、目が少し怖いぞ?」

「市ヶ谷さん。夏輝の両手、押さえて下さい」

「おい、私は後かよ」

「発案者はあたしですから」

「…………チッ。ほら、夏輝。動くな」

「おい! 何すんだよ有咲! 幼馴染の身体の自由を奪う奴があるか!」

 

 カーペットの上で組み伏せられ、バンザイの姿勢で、両腕を市ヶ谷さんに乗られて動けなくなってしまった夏輝。普段とは打って変わって、嗜虐心をそそる怯えた表情をしてくれながらジタバタと暴れる夏輝に下腹部の疼きを覚えながらも、夏輝に優しくキスをした。何だか、やたらムラムラする。一度訪れた思春期の性衝動は、簡単には止められない。いや、止まる気もないけれども。

 

「ファーストキスだったんだぞ! 何サラッと奪ってくれてんだよ、美咲!」

 

 ファーストキス。

 夏輝の口から出たその甘美な響きに、あたしは思わず頬を緩めた。夏輝のファーストキスを貰えた事への嬉しさで、割と本気でキレている市ヶ谷さんを尻目に、優しく夏輝に微笑みかけた。

 

「大丈夫。これから、キスかどうか判別も付かないくらいグチャグチャになるから」

「おい! ここ人の家だぞ!? マジでシャレにならねぇって! やめろって! なぁ! おい──」

 

 尋常じゃないあたし達の様子を受けて怖くなってしまったのか、涙目で首を横に振る夏輝。そんな反応をされてしまってはあたしも更に興が乗ってしまうのでやめてほしいんだけど、このムラムラはどちらにせよ止められない。もう一度深〜くキスをして、顔を背けたり身体を捩ったりするのをやめてもらってから行為に及ぼうと舌舐めずりをしたところで。

 部屋の窓が吹き飛んだ。

 室内に散乱する窓ガラスの破片。瞳に入らないように顔を背け、夏輝が怪我をしないように覆い被さって窓ガラスから庇っていると、何者かによって夏輝から引き剥がされた。

 

「痛ッ……!」

「何なんだよ!」

 

 引き剥がされ、床に組み伏せられる。両腕を背中に回させられ、身動きの取れない状態に。頭を動かして、こんな事をしてくれた人物の顔を拝んでやろうと振り向けば、そこにはサングラスを掛けた黒服の女性がいた。

 

「……まさか」

「痛ぇな! はなせって!」

 

 拘束から逃れようと暴れる市ヶ谷さんを尻目に、何かに気付きそうになるが、それよりも先に玄関の方から特徴的な鼻歌が聴こえてきた。

 

「ふん♪ ふふん♪ ふーん♪ ふんふーん──あら? 美咲じゃない! それに、有咲も!」

「こ、こころ。もしかしなくても、これってこころの仕業?」

「うーん……。これって言って良いのかしら?」

「お嬢様。どちらにせよ、もう言い逃れは出来ない状況かと」

「それもそうね! ……そうよ! あたしが考えたの! とっても面白い事になってきたでしょう?」

「前からおもってたけどさ。つるまきさん、すこしくうきをよむってことをおぼえた方がいいとおもうぜ──痛たたたたたた」

 

 悪態を吐いた市ヶ谷さんの腕を黒服が極め、関節をギチギチと軋ませている。痛みのせいか、それとも先程の興奮のせいか、市ヶ谷さんの口の端からは犬みたいに涎がダラダラと垂れていた。

 

「美咲と有咲に限った話じゃないと思うのだけど、みんなはもっと積極的になった方が良いと思うわ! そうじゃないと」

 

 こころはてくてくと歩き出して、立ち上がって黒服に介抱されている夏輝の胴体に抱きついた。

 

「大切な人が、どこかに行ってしまうもの!」

「こ、こころお嬢さん」

 

 先程とは打って変わって、純粋な好意を向けられた夏輝が、どうしていいのか分からずに狼狽える。それだとまるであたしと市ヶ谷さんの愛が歪んでいるみたいだ。……まぁ、自覚はあるけど。

 

「大丈夫だった? あんなに二人に襲われて、とても怖かったでしょう?」

「そりゃ、怖かったのは確かなんだけどさ。いきなり窓から突撃されて、部屋が滅茶苦茶になってるのもまあまあ怖いって言うか」

「まぁ、それは確かに怖いわね! じゃあ、先に向こうに行っててくれるかしら! 怖い事が無くなったら、あたしもすぐに向かうわ」

 

 こころが楽しそうにそう言ってから、黒服達に導かれてドアの向こうへと一人で消えていく夏輝。閉められた部屋のドアの前に黒服が二人、ガードするように立ち塞がったところで、市ヶ谷さんが口を開いた。

 

「……どういうつもりだよ。つるまきさん」

「あたしは、ただ夏輝と幸せになりたいだけよ?」

「……こたえになってねぇ」

「ねぇ、こころ」

「どうしたのかしら? 美咲」

「あたしさ、こころみたいな純粋さを絵に描いたような人が、まさかこんな事をするなんて思わなかったよ」

「あたしも、美咲が夏輝と知り合いだなんて知らなかったわ!」

 

 そりゃまあ、意識して言ってなかったからね。

 夏輝取られたくなさから、こころへ紹介する事を避けていたことを指摘され、思わず目を背けてしまう。こころは笑いながら続けた。

 

「夏輝は、あたしにとって、特別な人なの」

 

 ドアの向こうに消えた夏輝の事を思いながら、こころはうっとりとした様子で虚空を眺め始めた。その瞳は、普段のこころとは違う妖しい輝きを秘めていた。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

「いやいや、何だよ。いきなり現れてお話しましょうだなんて。第一、平日の昼だぞ。学校はどうした」

「抜け出してきたわ!」

「何で?」

「何か、楽しい事が起きそうな気がしたの! 走って学校から出たら、あなたに会えたわ!」

「……不良か」

「? そんなことはないわ。授業に出なくても、その代わりにとても楽しい経験が出来るなら、それはとても良い事じゃないかしら!」

「……その考え方は嫌いじゃないが、中学生の頃からそんな事してちゃあ、俺みたいな素行不良生徒まっしぐら──って、ちょっと待て。その制服、お前高校生か」

「そうよ。あたしは弦巻こころ! 高校一年生! 楽しいことを探しているの!」

「楽しい事、だァ?」

「ええ! あたしは、楽しいことを探しているの!」

「いや、何で二回言ったよ──ってか、そんなの俺に聞くなよ。見るからに楽しくなさそうだろ。俺」

「いいえ、あなたはきっと楽しい人だわ! あたしの直感がそう言ってる!」

「そうかい。生憎、俺は今少しナーバスでな。弦巻のところのお嬢さんがいくら楽しそうにしてても、俺は楽しくなんてなれないね」

「そんなの、やってみないと分からないわ!」

「やってみるって、俺を楽しくさせるってことかよ」

「えぇ。そしたらあたしも楽しくなりそうなの!」

「直感!」

「そうよ!」

「……そりゃ大したもんだ。じゃあな。愉快なお嬢さん。その調子で頑張って楽しいことを探してくれ」

「あなた、夢はあるかしら」

「……何でそんな事を聞くんだよ」

「夢って、楽しいじゃない!」

「はぁ……あるよ。デッケー夢がな」

「聞かせて!」

「一々引っ付かなくても教えるから──俺の夢はな、このギター1本で海を渡る事なんだ」

「…………」

「おい、急に黙るなよ。そんなに変か?」

「……すっっっっごく素敵な夢ね! 凄いわ! とてもいいと思う! あなたって素晴らしいのね!」

「あぁ、関心してたのね」

「じゃあ、一つ提案があるのだけど!」

「提案?」

「その夢に近付く為に、この公園でギターを弾いてくれないかしら! あたしもそれに合わせて歌うわ!」

「成る程、ゲリラライブって訳か。良いぜ。天才ギタリスト、佐渡夏輝様の伝説の一ページに書き記すにはピッタリのイベントだ」

「ありがとう! あたしも負けないように頑張るわ!」

「おう。手始めに二人で笑ってライブを始めてやろうぜ!」

「それは素晴らしい提案だわ! いきましょう!」

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 それは、こころの過去だった。

 あたしも知らないこころと夏輝の出会いのエピソードが、こころの口から楽しそうに語られた。黒服の人達はハンカチで目元を拭いながらこころの話を聞いていた。

 

「楽しいことを探していたら、偶然出会った夏輝。それから夏輝と公園でライブをして、あたし、とっても楽しかったの。それも、いつもの楽しいじゃなくて、こう……胸の奥が、何だか心地良く苦しいの。その感情を味わう為に、何度も何度も夏輝に会いに行ったわ。会いに行けば行くほど、この感情はどんどん大きくなっていって、だんだんと夏輝をあたしだけの物にしたくなったの。夏輝みたいなとっても楽しい人と一緒にいたい女の子は沢山いると思ったから、あたしが独り占めしたくなったの。夏輝が居なくなっちゃったって知った時は、本当に悲しかったわ。少しでも早く夏輝を見つけたかったから、色んな人にお願いして、やっと見付けたと思ったら、彩の家に居て。あたし、心が苦しかったわ。あたしの中で夏輝を独り占めしたいって思いがいつのまにか膨らんでいってて、彩と会わないで、あたしとずっと一緒に居てって。そう思ったの」

「こころが凄い量の言葉を話してる」

「つるまきさんって、こんなひくい声で話せたっけ?」

 

 さっきから何だか舌ったらずな市ヶ谷さんと一緒に、様子のおかしいこころについて話し合っていると、こころがあたしと市ヶ谷さんに語りかけた。

 

「ねぇ、二人とも! 夏輝を諦めてくれないかしら!」

 

 最悪の提案。あたしと、市ヶ谷さん。答えはどちらも同じだった。

 

「嫌だよ」

「無理」

「そう。残念だわ」

 

 言って、本当に残念そうに肩を落とすこころ。その様子を見て、あたしは納得した。

 

「……成る程、こころも夏輝に惚れちゃった訳か」

「惚れるって?」

「夏輝に恋したんでしょ?」

「あたしは、ただ夏輝とずっと一緒に居たいだけよ! 恋とか愛は、まだよく分からないわ!」

「……うん。そうだね。まだ分からないよね。こころは純粋だもんね」

 

 あたしがどこか諦めたような目でこころを見ると、こころがニッコリと笑った。

 

「とにかく、無理なら仕方ないわね!」

「うん。諦めて帰──」

「二人には悪いけれど、夏輝はあたしが貰っていくわ! これも作法なんでしょう?」

「ふざけんな! 弦巻さん、それは許せね痛たたたたたた」

 

 こころに噛み付こうとした市ヶ谷さんの関節を、黒服の人が極める。かくいうあたしも、何か問題発言をするのではないかと背後の黒服の人があたしの手首を一層強く掴んでいるところだった。

 

「こころ、考え直さない?」

「それは無理よ」

 

 こころは笑っていない。

 驚くほど、こころの口から出た声とは思えない程、底冷えする声だった。

 喉が干上がるのと同時に、こころが言葉を続ける。

 

「それに夏輝も、もう二人とは会いたくないんじゃないかしら?」

「どういう事だよ弦巻さん! おい!」

「信じていた人にあんな乱暴をされたら、普通嫌だと思うわ」

「「…………」」

「このままだと二人が可哀想だから、種明かしするわ」

「種明かし?」

「彩の家の玄関に、消臭スプレーがあったでしょ?」

「うん。人を感知してスプレーが噴き出るヤツでしょ?」

「あれ、その物は元からあったんだけど、中身は変えてあるの」

「な、中身?」

「そう。あの匂いを嗅いじゃうと、少しの時間だけ自分の中の衝動が抑えられなくなるの。美咲は夏樹に酷い事しそうになったし、有咲は効き過ぎて今も少し怖いわ。何だかおかしいわね!」

 

 けらけらとあたし達の事を笑うこころ。その言葉を受けて、ようやく自身の身体の異常が腑に落ちた。

 そっか。

 あたしの身体がこんなにも熱く、欲情が止まらないのは──玄関先にあった消臭スプレーの所為だったのか。彩先輩の事だから、プライベートもアイドル(女子力高め)で行っているのかと思っていたけど、その実、こころの策略だったって訳ね。

 ムカつく。

 欲に身を任せて夏輝を犯そうとしたあたしと市ヶ谷さんは、完璧に夏輝を怖がらせてしまった。こうなっては、あたしと市ヶ谷さんがどれだけ説得しようとも耳を傾けてはくれないし、心も許してはくれないはずだ。

 

「こころッ──うぅ」

 

 怒りのあまり(これも、消臭スプレーの所為なのかな)、こころに掴みかかろうとする。が、当然の如く黒服の人達に阻まれて床へと叩き付けられる。

 

「じゃあ、あたしは行くわね! 美咲と有咲は、仲良くここで暮らすというのはどうかしら!」

 

 弾けんばかりの笑顔で、そう提案(命令)するこころ。その言葉で黒服の人達が、あたしと市ヶ谷さんを、夏輝が繋がれていた鎖に繋ぐ。どれだけもがこうとも外れないその鎖は、こころの退室を阻めない。

 

「こころ!」

「弦まきさん!」

「じゃあね。あたしは夏輝と幸せに暮らすわ」

 

 最後までこちらに笑顔を見せたまま、ドアを閉めたこころ。黒服の人達は、自分達で割った窓の修復作業に移り始めた。あたし達には目もくれない。

 突如として現れた4人目のライバル。存在さえ知らなかった4人目は颯爽と夏輝を掻っ攫い、あたし達3人を出し抜いてみせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから。

 マンションから出て、行き先も決めず歩いていた時分。美咲と有咲に犯されそうになった事実を思い出しては、あれは誰が悪かったのかと深く、それでいて変に考えてしまう。気にしていないと言えば嘘になるが、あの後こころお嬢さんと2人がどんな会話をしたのかは気になる。

 勝手に家を出てしまった。派手に窓ガラスを破られてしまったが、彩は大丈夫なのだろうか。彩の心情を察しては、心配とヒヤヒヤが止まらない。次に顔を合わせたら、今度こそ生きてあの部屋から出られないかもしれない。

 隣に視線を移す。

 そこには、当たり前のように隣を歩くこころお嬢さんが笑っていて、丁度俺に話し掛ける所だった。

 

「夏輝! お願いがあるのだけれど!」

「なんだよ、こころお嬢さん」

「あたしのこと、こころって呼んでくれないかしら! 呼んでもらえたら、あたしとっても嬉しいわ!」

「……こころ」

「嬉しいわ! ありがとう!」

「そりゃどーも。でさ、一つ聞きたい事があるんだが」

「──夏輝」

「お、おう」

「あたし以外の女の子の事は考えないでほしいわ」

「な、何で分かったんだ……?」

「夏輝の頭の中にあたし以外の女の子が存在してると思うと、どうにかなってしまいそうだもの。だから、お願い。夏輝。あたし以外の女の子の事なんて、一生頭の中に記憶しないで? 考えないで? 口に出さないで? ……思い出さないで」

 

 こころの両手で頬を挟まれ、強引に目を合わせられる。強い力。恐ろしささえ秘めたその双眸。その瞳が何を意味しているのかを知っていた俺は、黙って首を縦に振るしかなかった。

 周囲の至る所に黒服が隠れていて、俺とこころを中心に包囲網を布いている。

 弦巻こころ。

 彼女とは、とても永い付き合いになりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




段々とサブタイトルが長くなる……。
前回言った通り、分岐エンドです。
こころちゃん、可愛いですよね。

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