「しに……たく……ない」
口から赤い鮮血を吐きこぼしながら少女はそう願った。少女の周りには何かの液体がこぼれており、また割れたガラス片が彼方此方に点在した。
少女は先ほど、自身の出生を知った。否、知ってしまったのだ。自分に充てられている部屋は廊下の声を拾うことが出来る。廊下を歩いていた白衣の二人組が自分の事を話しており、興味を抱き聞いてしまった。
頭のどこかではわかっていた。自分がまっとうな人間ではないと。少女を見る白衣の男らの視線が普通と違う事に気づいていた。でも、目を背けていた。そんな筈はないと。だが、現実は違った。少女は人間ではない。
しかも母体から生まれた生物ですらなかった。少女は試験から生まれた試験管ベビーで白衣の男たちにとっては研究対象でしかなかったのだ。
そのことを知り絶望していた時だった。少女のいる施設に設置されている防犯機能が作動したのだ。侵入者が来たと。その瞬間施設が爆発し、冒頭に至る。
少女は願う。自分の願いが叶うはずがないと分かっていながらも。死にたくない。生きたい。生きたい。自分はまだ何もしていない。
そう願った時だった。少女の近くに謎の魔法陣が展開された。その魔法陣は突如として輝きだし、辺り一帯がまばゆい光に包まれた。
光が収まると魔法陣があった場所には赤い外装に身を包んだ男がいた。
「サーヴァント―アーチャー。召喚に応じ……何だこの状況は!?ちっ」
現れた男は舌打ちを一つすると、付近にいた自身の召喚者と思われる少女を抱きかかえると、何時の間にか右手に持っていた剣で爆発を続ける施設から脱出を図った。
☆☆☆☆☆
「此処までくれば流石に大丈夫か……しかし、この少女の状態が不味いな」
赤い男は自分が抱えた少女に目をやる。腰近くまで伸びている銀色の髪が少女の吐いたと思われる血などで汚れいている。また、着ている服も入院患者が来ているような質素な服を身に纏っていた。
少女は血を吐いていることから内臓に何かしらのダメージを受けているうえに、体のあちこちにガラスの破片が刺さっている。
赤い男は自身のみでは少女を完全に回復させることが出来ないと分かっていながらも、少女に治療を施すことを決意した。少女と赤い男は通常では見ることの出来ないもので結ばれているのだから。
「これで一先ずは平気だ。ただ……どこか安全なところで医者に診てもらう必要があるな」
先ほどまで爆発を続けていた施設に改めて突入し、包帯やら何やらを改修することに成功した。そのおかげで少女の命は繋がった。少女の願った通りに死なずに。
食料などのようなものは満足に回収することが出来なかったが、少女が口にする分だけは確保することが出来た。
それらをしり目に、少女が回復するのを見守ることにした。
暫く男が辺りを警戒していると、少女が身じろぎをした。それに気づくと男は声を掛けた。
「起きたか?」
「……あなた……は?」
かすれた声で少女がしゃべる。先ほどまで爆発していた施設で煙を吸ってしまったからだろう。それに起きたばかりで、頭も回っていないようだ。少女の背中に手を回すとゆっくりを起こした。
「私は……そうだな。君の使い魔のようなものだ」
「わたし……の?」
「ああ。君の右手を見ると良い。それは令呪と呼ばれるものだ」
少女は男に言われたとおりに右手に目をやる。右手には見たことのない紋様が存在していた。赤い鳥が翼を広げているような紋様だった。
「それは私に対する絶対命令権だ。三回しか使えないから、よく考えて使うと良い」
「めいれい……それよりも……ここは?」
「此処は君が倒れていた場所から少し離れた場所だ。君がいたところは少々危険だったからな」
「そう……ですか」
話しているとキュルキュルと可愛らしい音が聞こえた。少女のお腹のようだ。少女も自分のお腹だと気づいたのか、少し顔を赤くしながらお腹を押さえていた。
「詳しい話はあとだな。まずは食事といこうか。なに、直ぐできる」
「……はい」
そういうと男は先ほど尻目にしていた僅かな食材を手に取った。どこからか取り出したフライパンなどで調理すること数分。辺りにおいしそうなにおいが広がってきた。少女には不思議な光景だった。
先ほど男が手にした食材は、普段少女たちに出されていた美味しくない食べ物だった。それでも、生きるために必要だったので我慢して食べていたのだが。それを男が調理するだけで、おいしそうな料理へと変貌を遂げている。
「簡単なものだが」
「……いただきます」
「ああ。料理は逃げんからな急ぐ必要はあるまい」
男は少女がスプーンを手にしたのを見て、再び辺りの警戒に戻った。爆発した施設の中からほかに人が出てくるような気配はないが、万が一に備えてだ。
それに、少女はまだ説明しきってないが、男にとっての契約者だ。ならば守るのは自分の役目。そう考えながら警戒する。
辺りには少女が咀嚼する音と、時々スプーンが器に当たる音だけが響いた。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまだ。さて、説明が途中となってしまったから続きといこう」
「はい。……そもそも私は貴男を呼ぶ術がなかったのですが」
腹が満たことによって頭に酸素が回ったのか、会話がスムーズに行えるように少女はなったようだ。
「ああ、その事だがな。私はどうやらキミの願いによって召喚されたようだ。あの施設で倒れる前に何を願ったのだ?」
「願い……私は……死にたくなかった。神様なんていないと分かっているけど、それでも願わずにいられなかった。だって、私は……」
少女はそこまで口にすると、口を閉ざしてしまった。言いたくないが、恩人だから言うべきなのか。自分の出生を伝えて、男は離れて行かないか。少女はこの短い間だが、男の事を信じることにした。仕方がないことだろう、死が目前に来ていた所を助けてくれたのだから。
「……」
男は何も言わず少女が話すのをただじっと待っている。男には少女の正体が分かっている。男の過去にも似たような少女と出会ったことがある。最もその少女は姉だったのだが。
「私は……人間じゃないんです。人に作られた言うなれば人造人間です」
「そうか……だが、キミはキミだろう。私からすればキミは契約者だ。なれば、そこに人間かどうか等関係あるまい。キミはどうしたいのだ?」
「私は生きたいです。まだ何もできてない。何もしていない。私はあの施設で作られて閉じ込められてました。だけど何時か世界を見てみたいと思ってました。だから……だから私は生きます!」
「ふっ、そうか。ならばここに契約は完了した。私はアーチャークラスのサーヴァントだ。真名は……ん?どういう事だ。聖杯からのバックアップが存在しない」
男は意識を別のところに飛ばした。普段ならばそれで自身の召喚を後押しした存在と繋がることが出来るのだが、今回はそれが出来ないようだ。
「ちっ、厄介な。何かしらのアクシデントが生じているのか。そもそも聖杯戦争で召喚されたわけではない。その時点で疑うべきだったか」
閃の軌跡Ⅱにものすごくハマってた時期に書いたものです。
軌跡で好きなキャラランキングトップ3には入るアルティナをヒロインにしたかった(過去形)