コツコツと泊地鎮守府の廊下に足音が響き渡る。時刻は早朝の為、足音を立てている人物以外の物音はしない。
足音を響かせているのは小柄な少女だ。少女は桜模様の入ったピンク色の着物を上手に着こなしている。艶のある茶色の髪の毛を顔の横に来るように縦ロールにしている。
彼女の名前は春風。かつての大戦時に活躍した船の記憶を所持している少女だ。
少女は執務室と書いてある部屋に入ると、中にもう一つある扉を優しくノックした。
「司令官様、起床の時刻です。春風が参りました」
暫くの間待つが、何一つ物音がしない。彼女は遠慮がちに扉を開け、中へと入った。
中の部屋にはベッドが一つと机と本棚が存在した。一見、知らない人が見ると、執務室との違いが、ベッドだけに見える。しかし、よく見ると本棚の中身が趣味で埋め尽くされているのが分かる。
春風はベッドの上で眠る目的の人物へ目をやる。ベッドで眠っているのは小柄な少年だ。眼を開けているときの眼付きの悪さとはうって変わり、眠っているときは穏やかな感じだ。そのギャップ差にやられる艦娘が多いと青葉から聞いたことを思い出す。
ともかく、この少年を起こさなければ春風の一日は始まらない。何故なら、彼女は彼の嫁さんなのだから。
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世界中に深海棲艦という悪しき存在が跋扈するようになって早半世紀。深海棲艦への対抗策へと作られたのが、かつての大戦時の記憶を所持する少女たち―艦娘だ。
艦娘の装備は人間の手によって作られてはおらず、深海棲艦が登場してから見つかるようになった妖精と呼ばれる存在によってのみ作られている。
それらを用いることで深海棲艦と日夜艦娘は戦っているのだ。
そんな彼女たちに対する世間の目は大きく分けて二種類に分かれる。一つは、世界を守る味方的な見方だ。
彼女たちの行動はどうあれ、人間からすると深海棲艦と戦っている以上は、頼もしき存在だ。そんな彼女たちだからこそ人道的に扱うべきではないかと主張する勢力が多数ある。
その意見とは反対に、艦娘を兵器だと一蹴する勢力もまた存在する。今は深海棲艦に対してその力を向けてはいるが、何時人間に矛先が向くか分からない。なれば、彼女たちは使い潰すものだと彼らは主張する。
それらは世間だけでなく、軍人にまでも作用する。
と言っても、軍人の多くは前者を支持する。やはり、前線で戦わせるとなると、信頼感と呼ぶべきものが生まれるからだろう。
そんな彼女たちへの一つの信頼の証として登場したのが『ケッコンカッコカリ』というシステムだ。
艦娘は現状未だ、人間と呼べるわけではない。そもそも戸籍が存在しないのだから。なので、彼女たちが意思ある存在と言えど、人として扱えないので、軍上では人間として扱おうという考えのもとに作られた。
艦娘の指揮官である提督が信頼のおける、或いは好意を持った艦娘に対してケッコンカッコカリ用の指輪を渡し、艦娘側が了承する事で成立するものだ。
長々となったが、春風もまた彼女の指揮官から手渡され、了承している。
その為彼女は指揮官の嫁さんなのだ。
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「……春か」
「はい、春風です。本日の起床時刻になりましたので、お迎えに上がりました」
「そうか……着替える」
目を覚ました少年は先ほどの穏やかな顔とは打って変わり、既に眼付きの悪い顔になった。というのも、普段から顔つきが悪いが、彼はそれに加え低血圧ときた。
春風は掛けてあった軍服を取ると、甲斐甲斐しく世話をしていく。ゆっくりと着替えをしたので、数分の時間を要した。その数分で彼も覚醒したようで、言葉遣いも普段通りに戻った。
「助かった」
春風を掘り終わった時に書いたものだったような?
春風って何時のイベントだっけな?なんか16春だったような?違うような。