「腹が減った……」
「……お腹がすきました」
そう言って二人は倒れる。
一人は全体的に青い男。もう一人は小柄な女の子だ。
男の方は背に赤い槍を持っている。女の方は武器を持っていないのか、手ぶらな格好のようだ。
「ティナ、飯最後に食べたのっていつだ」
「おとといの朝だったと記憶しています」
「……そうか」
そう言ったきり男は黙ってしまう。空腹のあまり喋れなくなったのだろう。
二人が路でそんな風に倒れていると一つの馬車が通りかかろうとしていた。
「……おいティナ。馬車が通るようだぞ。このままだと俺ら轢かれちまう」
「そのようですね。クラウ=ソラス」
ティナと呼ばれている少女が何かの名前を呼ぶと、先程まで何もなかった空間に一つの物体が姿を現した。
それは黒色の傀儡。機械ゆえに意思を持っていないように見えるが、ティナと呼ばれる少女だけが、彼あるいは彼女と意思を交わすことが出来る。
呼ばれたクラウ=ソラスは男と少女を抱き上げるとバシャの通り道から外れた場所に動かす。
そのおかげで二人は馬車に轢かれる心配は無くなったようだ。
轢かれずに済んだとホッと息を吐く二人。和やかな空気を出そうとしたところに別の人物から声がかかった。
「あの、お二方はどうなされたのですか?」
「んぁ?」
「……」
自分たちに声を掛けてきたと思えず一瞬静寂が訪れる。
「ん?もしかして俺らか?」
「……どうやらその様ですね」
「ええ、私はお二人に声をおかけしました」
そこでやっと二人は自分たちに声を掛けてきた人物に目を向ける。空腹だからか豪いゆっくりとした動きだったが。
「俺たちは見ての通り倒れてるだけだ。なぁ、ティナ」
「はい……マスターと私は此処で空腹で倒れてるだけです」
「まぁ!?お二人はお仲が減って倒れてるのですか。……よろしければお昼一緒にしませんか?」
「本当か!?」
「……本当ですか!?」
うって変わって素早い動きで声を掛けてきた人物に接近する二人。
「ええ、お二人が宜しければですけど」
「俺は問題なし」
「私もです」
「では、馬車の方へどうぞ。今日は天気が良かったので外でお昼を取る予定でしたので」
声を掛けてきた人物は二人とはかけ離れた姿をしていた。
男は旅人な服をしており、少女の方は肌の露出が意外とある格好をしている。
それと比べてその人物、いや少女は真っ赤なドレスで身を包んでいる。明らかに二人とは別次元を生きる人物だろう。
「挨拶が遅くなりました。私、アルフィンと申します」
「俺はクー・フーリン。クーでもフーリンでも構わないし、ランサーとも呼ばれてたりする」
「私はアルティナ・オライオン。クーさんの付き人をしています」
アルフィンが挨拶をしてきたことで自分たちも名を告げてなかったと思いだしたクーとアルティナ。彼らは挨拶をするとアルフィンの付き人と思われる人たちが用意していたテーブルに腰を落ち着ける。
座ってから暫くすると多くの食事がテーブルの上に並べられた。
二人はそれに目を輝かすとアルフィンに礼を言うと急いで手を付け始めた。
★★★★★
「ふぅ~食った食った」
「お腹いっぱいです」
「良かったですわ。満足されたようですね」
「ああ、助かった」
いっぱい食べたことにより元気になったクー。彼は腹を撫でたと思うと、真剣な顔つきになる。
「それで、俺たちに何の用で」
「やっぱりわかりますか?」
「伊達に長生きしている訳じゃねえからな」
「では、簡単に言いますわ。二人とも私の従者をしませんか?」
「あん?」
「はい?」
二人はポカンと間抜けな顔をしてしまう。
「この見た目から分かる通り私、貴族ですの。それで、実力のある方を探していたのですけど……」
「ほう……てことは俺たちの実力がある程度分かったから声を掛けたのか?」
「はい、そうですわ。それで、お引き受けしてくれますか?」
「どうするティナ」
「私はマスターの望むままに」
アルティナはあらかじめ考えていた言葉を口にする。地獄と呼べるレベルの場所から救い出してくれたクー。そんな彼だからこそ付いて行くことにしたのだ。だから、彼がアルフィンに付いて行くなら自分も行く。また、逆もしかりだ。
「そうか……助けてもらった恩もあるし。そろそろ金もなくなってきたしな。よし、その話乗った」
こうしてクーとアルティナはアルフィンに雇われる事となった。
これにより衣食住に困ることのなくなった二人だが、一つだけ間違いを犯していた。
それは、アルフィンがただの貴族ではなかった事だ。
アルフィン、本名をアルフィン・ライゼ・アルノールという。エレボニア帝国の皇女だったのだ。
それをこの場で雇われたばかりのクーたちは知らなかった。
正義の味方と同じく、ヒロインをアルティナにしたかった。