4月―それは桜の開花の時期。胸に期待を秘め新しい学生生活を送る人がいる時期。
そんな4月だが俺はゆっくりと学校へと向かっていた。勿論、隣には学生寮前で合流したゆかりがいる。
「ついに綺凛ちゃんが入学してくるんですね」
「そうだな。今日から本当に
刀藤綺凛―俺が春休みに会いに行き、戦姉妹の契約を結んだ少女。戦姉妹とは下級生と上級生が結ぶことが出来る制度で、上級生が下級生に自身の力を教えることで武偵としての心構えや実力を高めていき、また下級生はそんな上級生の背中を追いかけるというものだ。
簡単な任務なら問題はないのだが、困難な任務の場合信頼できる仲間という存在はとても大事だ。それを作るための制度でもある。
「今日はまず校長のありがたい話を聞くことから始まるのか」
「そうですね。まぁ、それが終われば今日は早く帰れますから」
今日は4月最初の登校日。なので体育館に全校生徒が集まり、校長先生の言葉を聞くのだ。またそれと同時に新任教師の赴任の連絡などもあるのだが、それはそこまで大事な話ではないだろう。
「あ、帰りにでも任務課にでも顔を出してみるか。もしかしたら割の良いやつあるかもしれないし」
任務は任務課という部署から発表される。基本的には早い者勝ちだが、中には例外として指名されている任務もある。まぁ、それらは高難易度のものばかりというものだ。
「なら私も付いて行きますね。もし何か任務を受けるならば私がいたほうが楽ですし」
彼女はふんすと少しドヤ顔をしながら息を吐いた。確かに彼女がいたほうが楽だ。彼女は通信科に所属しておりSランクという優秀な成績を持っている。そんな彼女だから任務を契約する際に専属としている俺は優先して受けることが出来る。その証明として彼女がいると楽なのだ。
その後も下らない話をしながら通学をした。
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キーンコーンカーンコーン
今日の最後のチャイムが校舎に鳴り響いた。これで新学期最初の登校日は終わったのだ。
よし、ゆかりと合流して任務課へ行くか。
バッグに荷物が入っていることを確認すると俺は席を立った。
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武偵高校は学部ごとに校舎が存在する。つまり14個は最低でも校舎があることになる。それに加え
それだけの校舎があるので移動だけでも地味に大変だったりする。本日から強襲科に所属するので強襲科の校舎の一階に存在する任務課に顔を出すのだ。
「お待たせしました」
「俺も今着いたところだよ。大丈夫」
走ってきたゆかりに大丈夫だと声を掛ける。彼女は今日は通信科の校舎にいたので今いるすべての校舎から見ると真ん中にある噴水場へは別々の道でやってきたのだ。
「じゃあ強襲科に行こうか」
「はい」
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ゆかりを連れて校舎の中へ入る。大分うるさい校舎のようで至る所から銃声や怒鳴り声が聞こえる。強襲科は他の学部と比べて難易度が高い任務が回ってくる学部だ。それは所属する生徒が卒業するまでに3%が死亡してしまうというほどだ。
任務課へ入ると受付にいる女性に声を掛ける。
「すみません。今日から此処に転科になった桐生直樹ですけど」
「ああ、桐生さんですね。蘭豹先生から話は聞いています。ランクはAだそうです」
「本当ですか!?」
探偵科に所属していたころはBランクに位置していた俺が強襲科に転科するとAランク。どのような点が判定されたのだろうか。
「すみません、Aな理由ってわかりますか?」
「ええ、聞いています。どうやらあなたの戦闘スタイルに関係するようです。中距離を一番とする武偵は多くがリーダーや指揮官を務めることが多いよう、蘭豹先生曰く『任務の内容を見せてもらったが他の生徒をよくまとめ達成できている』だそうです。この点とこないだの試験で判定されたそうです」
「なるほど、ありがとうございます」
思った以上に俺は先生に評価されていたようだ。ランクがBからAに上がったので受けれる任務も増えたし、もしかしたら指名されるかもしれないな。
「それで、これが現在Aランクまでで受けることが可能な任務一覧ですね」
用紙にびっしりと書かれている任務に目を通す。ふむ……
「やはりというか強襲科はストーカー被害に関する任務が多いですね」
「ええ、最近のストーカーは武器を持っていることも多く、ほかの学部の生徒よりと比べて安全に対処できるという事でストーカー被害の任務が回ってきます」
「なるほど……では、一つこれでも受けてみましょうか」
一番上に書かれていたCランク程度のストーカー被害を選んで用紙に記入する。オペレーター有無の欄にきっちりとゆかりの名前を書く。あとは判子を押すだけだ。
「ゆかり頼む」
「はい……では、私は詳しい任務内容に目を通しておきます。何時頃行きますか?」
「一度お昼をとってからにしよう」
「わかりました」
用紙を受け付けの人に渡すと受理される。あとは任務地に行って聞き込みだ。
☆☆☆☆☆
いつもの食堂でお昼を済ませると、現場へと直行する。
ゆかりからの無線によると被害者は20代後半の会社員の女性らしい。
2週間前から人に見られてるような感じがすると違和感を覚え、1週間ほど前から仕事帰りの時後ろに人がいることに気が付いたらしい。
依頼人からの話によると、そいつは灰色のスエット姿の男のようだ。
典型的なストーカー被害のようだ。問題はこの男が武器を有しているかどうかだ。探偵科にいたときは帯銃こそしてたものの、発砲許可は緊急時以外許されなかった。しかし今は違う。
強襲科では本人の意思で発砲が出来る。最も、撃ったのちに始末書を書くことになるが。
武偵が世間に認められるようになってから、世の中に以前よりも武器が出回るようになった。勿論、表で売っているところなどない。しかし、裏での取引が武偵法が成立する前よりも増えた。それにより、一般人も秘密裏に武器を持っていることがある。
今回はそのケースでなければいいが……
現場付近を歩いて、近所の人から夜の交通量などを調査する。ゆかりにはネットを使っての捜査を頼んである。最近はSNS等で情報が出回っていることがあるので、真偽はともかく意外と情報を集めることが出来る。
夜になり、依頼者が帰る時間となった。
予め依頼者の女性には、自分が近くを見回りをすると伝えてある。
「今日も無事に後をつけているようだな。ゆかり先回りをする。ナビを頼んだ」
「はい。お任せを」
依頼者から少し離れた場所で警護していると、犯人に似た装いの男が後ろを歩いていた。ただ歩いているなら兎も角、時々隠れるようにして後ろを付けてるので、おそらく犯人だろう。
依頼人が十字路で曲がる時に正面から接触を図る。
「少しいいか」
「な、なんだよお前」
相手はいきなり声を掛けられて驚いたのか吃りながら喋る。
「最近、このあたりでストーカー被害にあっているとの情報があってだな。ああ、先に出してなかったが、俺は武偵だ」
ポケットから武偵の証明である、武偵手帳を見せる。これは警察手帳と同様の権限を持っていることの証だ。手帳を見て相手は焦ったのか、回れ右をしようとしていた。
「どうした?いきなり逃げようとして。悪いが、任意で応じてくれると助かるのだが」
「ふ、ふざけるな!?お前になんの権利があって俺とあの人の邪魔をするんだ!?」
「俺とあの人?俺は被害女性からお前に付けられていると聞いたのだがなぁ。どうやら認識に齟齬があるようだ、詳しい話がしたいから近くの交番に来てもらおうか」
その言葉を皮切りに犯人はポケットからナイフを取り出した。
男はナイフを右手に持つと俺に向けてくる。
「いいのか?俺に刃物を向けて公務執行妨害に銃刀法違反も付くぞ?」
「し、知るかよ!お前を此処で殺せばどうにでもなる」
そのまま俺に向かって走りながらナイフを振ってくる。
俺はそれを後ろに下がりながら軽く右に左にと避ける。一応言っておくと、流石に探偵科と言えど、対ナイフ所持者との仮想戦闘の訓練があったのでその訓練の賜物だ。それに教官レベルではないしな。
俺が避けることに苛立ってきたのか、ナイフの振りが大振りになってきた。これならば先ほど以上に避けやすい。相手の大振りを回避するのに合わせて、右足で男の足を払う。
急に足が払われたことにより相手はそのまま倒れる。それだけで済ませずに、俺は相手を俯せにさせその手に手錠を掛けた。相手はジタバタともがいているが、手錠をかけた今どうしようもない。
「ストーカーに付いては後で詳しく聞くとして、取り合えず公務執行妨害により現行犯逮捕とさせてもらう。ゆかり、警察を呼んでくれ」
「はい。お疲れ様です直さん」
「ああ。ゆかりもお疲れさん」
やってきた警察官に犯人を引き渡すと、情報を一緒に伝えておく。これで後日、ストーカーの件について男に尋ねることが出来る。
聞き込みと犯人逮捕とで疲れたので、流石に今日は帰ることにした。
後日談となるのだが、被害者女性を連れて、犯人を尋ねたところ犯人はストーカーを認めた。これで俺は依頼達成となる。
依頼者の女性は俺に金品を報酬として直接渡そうとしてきたが、俺はそれを受け取らない。というか受け取れない。武偵への報酬は所属組織を通して渡される。俺は学生なので、学校を通して報酬を受け取るのだ。
そのことを女性に伝え、今度こそ本当に依頼達成として学校に帰った。