騎士王、異世界での目覚め   作:ドードー

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捜索

ーバハルス帝国首都ー

 

「はぁはぁはぁ…っ」

 

 アルシェは息を切らしながら走る。向かう先は笑う林檎亭、ナザリックの調査の後、解散したフォーサイトは翌日の今日に集まって話し合いをする予定だった。

 

 予定ではもう集まる時間から一時間も過ぎている為、アルシェは先を急いでいる。アルシェ自身こんなに遅れたのは初めてで基本的に時間にルーズな訳でも、ましてや寝坊したなどの理由ではない。事はナザリックの調査の日、家に帰ってから起きた。

 

 

 

 

 

「ただいま…」

 

 扉を開けて帰りを告げる。いつも出迎えてくれる妹達は来ない、昼ならまだしも深夜近い時間帯では仕方ない、もう寝てしまっただろう。

 

(私も今日は流石に疲れた、ただの遺跡調査ならそこまででもなかった。早く寝よう明日も集まるし)

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

 そこへこの家に長年仕えた老執事のジャイムスが顔を出す。

 

「ん…わざわざこんな時間に出迎えはいら………何かあった?」

 

 小さな光源しかなく顔がよく見えなかったが、じきに苦虫を噛み潰したような顔をしているのに気づいた。

 

「申し訳ありません、お嬢様。私ではお止めすることが出来ませんでした」

 

 深く頭を下げ、かすれるような声で謝罪を口にするジャイムスに驚くアルシェ。

 

「なに、どうしたの?父がまたなにか買ったの?はぁ、まったく、でもそれは別に貴方のせいではない。私からも言っ「違います」……え?」

 

「そうではありません。落ち着いて聞いてください」

 

 そんなに酷い内容なのか、ジャイムスは若干目を泳がせながらも決意したようにゆっくりと口を開く。

 

「クーデリカ様とウレイリカ様が……奴隷商に売られました」

 

 

 

 

 

 

 

「………………は?」

 

 思考が停止する、言葉の意味が理解できない。

 

「……え?ちょっと待って、…え?え?」

 

 アルシェは片手で顔を抑えながら言葉を理解しようとする。

 

「お、落ち着いてください、お嬢様」

 

「……………どういうこと、どうしてそんなことに!」

 

 段々と声を荒げるアルシェをなんとか落ち着かせようとジャイムスも焦る。

 

「今回は止められなかったのは、私が至らなかった所為ではあります。ですが今はどうか落ち着いて下さい」

 

 彼の必死な懇願に幾分冷静さを取り戻す。

 

「はぁはぁ…ふぅ………ごめん、取り乱した」

 

 深呼吸をして謝罪を入れる。

 

「いえ、お嬢様にとっては致し方ないことですので」

 

「それで、奴隷の件は父が?」

 

「はい、なんでも少し前に知り合ったという奴隷商を連れてきて、その奴隷商がクーデリカ様とウレイリカ様を見た時に、その見た目をいくらの価値があるなどと言い始め、一時的に買い取ろうと言い出したのです。私はどうかそれだけは、とお止めしたのですが、金ができたら買い戻せばいいなどと奴隷商に言われてしまい、旦那様は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして現在笑う林檎亭に向かっている。

 朝早くに家を出て、奴隷商関係の場所を片っ端から当たっていたのだ。もちろん父にどこの奴隷商なのかと問い詰めたが、返答を渋り答えようとしない。おそらく奴隷商に教えないよう言われているのだろう、奴隷商は金を返せないと分かっている為、二人を返す気は無いのだろう。もしかしたら借金しているところの回し者かもしれない。

 

 そうこうしている間にに約束の時間はとうに過ぎ遅刻することになる。本当であれば約束をすっぽかして妹達の探索に時間を使いたいがそういうわけにもいかず、取り敢えず一度訳を話して探索を続けるつもりだ。

 

 

 

「はぁはぁ…みんなごめん、遅れた」

 

 すでに集まって話をしていた三人はアルシェが来たことに気づく。息を切らしながら謝るアルシェに片手をひらひらさせながら座れと促すヘッケラン。

 

「おっと珍しいな。アルシェが寝坊か?まあ確かに、俺も中々眠れなかったけどな。アルシェは直にあいつの力が見えちまうしな、しょうがないっちゃしょうがないが」

 

 そんな軽口を聞きながらもは一向に座ろうとしないアルシェにヘッケランは怪訝な顔をする。

 

「どうした?」

 

 そんな様子に違和感を感じたのか他の二人も視線を向ける。

 

「ごめん、少しやらなきゃならないことがあるから今日は集まれない、遅れて来てこんなこと言うのもあれだけど許してほしい。後で埋め合わせは必ずする」

 

「ん?何か用事があるのか?」

 

「…………」

 

 ヘッケランがたずねると俯いて黙ってしまう。

 

「あー、言いにくい事なら別にいいぞ。無理に答える必要はないしな」

 

「や、その……、妹達が…奴隷商に売られた」

 

「「は?」」

 

 ヘッケランとイミーナの声が重なり、ロバーデイクも目を見開いて驚いている。

 

「だからこれから探しに行かないといけない」

 

「探すって、何処の奴隷商かわからないのですか?」

 

「奴隷商を知っているのは父だけ、その父も答えようとしない」

 

「本当にクソ野郎だな、一発ぶん殴ってやろうか?」

 

「時間の無駄。それよりそう言う事だから今日は無理、ごめん」

 

 そう言って頭を下げる。

 

「確かにそれならこんなことやってる場合ではありませんね」

 

「ま、しょうがないわね」

 

 そう言いながらイミーナとロバーデイクが椅子から立ち上がる。

 

「へ?」

 

「なに惚けているんですか。探しに行くのでしょう」

 

「え、でも」

 

「どうせアルシェがいないと打ち合わせも出来ないし。手伝うわよ」

 

「昨日の事で迷惑かけたばかり、これ以上迷惑はかけられない」

 

「あの依頼の事はチーム全員の合意の上でしょ。それに助けが必要なんでしょ?大人しく甘えておきなさい。構わないわよねヘッケラン」

 

「構わないぜ。アルシェそう言う事だ今回は頼れ」

 

「…………ん、ありがとう、すごく助かる」

 

「よし。そうと決まればロバーデイクとイミーナも手分けして奴隷商を当たってくれ」

 

 小さく頷くアルシェに満足したのか、二人に軽く指示を出す。

 

「そういえばドールはどうするのですか?呼んでいるのでしょう?」

 

「ああ、だから俺はひとまずドールが来るまでここに居る。ドールに訳を話してそのあと俺も探索に加わる。各自昼になったら此処に集合だ、情報があっても無くてもな」

 

「了解です。では行きましょう」

 

 ヘッケラン以外がある程度奴隷商の集まるところに目星を付けて探索に向かったあと、ヘッケランは一人ドールを待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 帝国首都にいくつかある奴隷市を周りながらアルシェは妹達を探す。ヘッケラン達の協力を得られ心持ちは幾分楽になったものの中々目的の奴隷商は見つからない。今妹達がどうなっているのか考えると焦る気持ちを抑えるのは難しい。

 

「少し話を聞きたい。双子の奴隷を知らない?私を小さくしたような見た目、背丈はこのくらい」

 

 売り物である奴隷達の中に妹がいないか探しながら近くにいた男に話しかける。朝から何十回と繰り返して来た言葉で奴隷商の下っ端と思われる男に聞く。

 

「ん?双子の奴隷?そんなこと言ったって毎日何人見てると思ってる。覚えてねーよ」

 

 素っ気ない返事だがそれでもなお問い詰める。

 

「最近奴隷になったばかりだ。なんでもいい心当たりはないか?多少金も出す」

 

 金を出すと言われ、不本意ながらもアルシェを眺めてそれと似た奴隷がいたか頭を捻る。

 

「あー、見たかもしれねーな」

 

しばらく黙っていたが期待できる返答だった。

 

「ほ、本当?」

 

「お前あれか、あの没落貴族のとこの娘か?」

 

「…そうだ。じゃあ二人のこと知ってるのか?」

 

「ああ、確かウチで扱ってたぜ。小綺麗な双子の奴隷」

 

「…っ!なら私が買い戻す。金もある程度ある。足りなければすぐ集めるから他に売らないでほしい」

 

 反射的に男に詰め寄る。

 

「悪いが、そりゃ無理だ」

 

「な、なんで?金が無いと思ってるのか?金貨150枚くらいであれば出せる」

 

「そういう問題じゃねえんだ。もう買われちまった」

 

「なっ…」

 

(遅かった。すでに買われていたなんて。こうならないように急いでいたのに)

 

 今にも掴みかからんとしていた手は力なくたれ全身から力が抜けていく錯覚を覚える。

 

「………誰?誰が買った?」

 

 まだ諦める訳にはいかないと質問を続ける。

 

「それこそ分からねーな。相手は顔も隠してたし、ちょうど奴隷を店に運ぶ時に話しかけられて売ったんだ。その場で買うなんて余程気に入ったんじゃないか。もしかしたら貴族のお忍びだったのかもな、金も持ってたし」

 

 どんどん嫌な方向に話が転がっていく。もし相手が貴族で妹達を気に入って買ったならただ同額程度の金を積んだだけでは手放さないだろう。

 

「分かった、情報ありがとう」

 

 そう言って力ない手で僅かな金を渡しその場を去る。昼も近くなった為、どうすればいいか考えながら笑う林檎亭に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう、来たか」

 

「なんだ、お前しかいないのか?」

 

 笑う林檎亭に来たドールにヘッケランが応える。

 

「呼んどいて悪いんだが少し急用ができちまってな、他の連中はそれでちょっとな」

 

 それを聞きながら、別に気にしないという風に席に座る。

 

「てっきりお前以外は死んだと思った。まあ別にいいが、それよりよく生きて帰ったな、運がいい」

 

「全くその通りだ。そもそも、お前がもっとしっかり引き止めてくれれば、あんな思いはしなくて済んだんだがな」

 

「だが実際に見なければ納得はしなかっただろう?」

 

「それは認めるが」

 

「会ったのか?」

 

「アンデッドかどうかも怪しい化け物にな」

 

「詳しく聞かせてもらおう」

 

「ああ、と言いたいところだが、さっき言った通り急ぎの用事があってな、またの機会にしてほしい」

 

「そんなに急いでいるのか?なら仕方ない、今度にしよう。だが、集まるのは早めの方がいいぞ、お前達はナザリックからは逃げ出せたがアレから逃げ切ったわけではない」

 

「それは、どういう…」

 

 ドールの言葉に悪寒のような感覚が背筋を流れる。そんな馬鹿なと言う言葉とやっぱりかという予感が入り混じったような状態だった。

 

「お前達が捕まっていないのは、ただ優先順位が低いだけだ。アレがその気になれば直ぐに捕まる。そうならない為の対策と選択肢をやる、選ぶのはお前達だ。だがそれも間に合わなければ意味がない」

 

「それ程のやつか?アレは?」

 

「自分の目で見たはずだが」

 

 一瞬あのアンデッドの顔が浮かぶ。

 

「………分かった、近々集まれるようにしよう。その時は頼む」

 

 ここまで言われてしまえば考えないわけにはいかない。なによりドールの助言なのだ、あの後ではとても無視出来る事ではない。

 

 それを聞きドールは席を立つ、出口に向かいかけた時、ふと思い出したように立ち止まり振り返る。

 

「そうだ、さっきの話とは関係ないんだが伝えておくことがあった」

 

「伝えておくこと?なんだ?」

 

 ドールは考える素振りをしながら。

 

「名前はなんと言ったか、お前の仲間に金髪の娘がいただろう」

 

「ああ、アルシェの事か?」

 

「そうだ、そのアルシェに妹がいるはずなんだが、奴隷として売られていた」

 

「…ッ!何処だ!何処の奴隷商だ!」

 

 まったく関係ないところから、今まさにといった情報に思わず立ち上がる。

 

「慌てるな、私が買い取った。偶然街を歩いていたら見かけてな、妹達に聞いてアルシェの妹だと分かった。そのうち引き取りに来い」

 

「なっ、…いいのか?金を払ったんじゃないのか」

 

「アレに会った以上、変な取引は必要ないだろう。貸し一つだ。」

 

「はは…、そりゃ怖いな。今度は何をやらされるのか」

 

「妹達は私と同じ宿にいる」

 

「分かった。いや今回は助かったぜ礼を言う」

 

 それだけ聞くとドールは再び出口に向かう。一方ヘッケランはアルシェにいい報告が出来そうだと、椅子に深く腰掛けた。

 

 

 

 

「あ、しまった。アルシェの妹が見つかったなら、ドールに待ってて貰えばよかったな」

 

 つい、そうこぼしてしまったのは、ドールが出て行ってしばらく経ってからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼時になり捜索に出ていたフォーサイトの面々は笑う林檎亭に集合する。イミーナ、ロバーデイクの二人も結果は芳しくないようで難しい顔をして帰って来た、最後に来たアルシェも良い結果ではなかったようだ。

 

「私のところは収穫なし、それっぽい奴隷もそういう話もなかったわ」

 

「こちらも同じようなものです」

 

「私のところは情報があった。妹が売られた奴隷商を見つけた」

 

「見つかったんですか!なら後は買い戻すだけですね」

 

 求めていた情報が見つかりロバーデイクは喜びを見せるが、アルシェの表情が暗いままであるのを感じ表情を曇らせる。

 

「何か問題があったんですか?」

 

「…既に買われてた。誰に買われたかは不明、しかも相手は貴族かもしれない」

 

「「………」」

 

 その言葉に二人とも黙ってしまうが、そこへヘッケランが口を挟む。

 

「俺の方でも情報がある。買った人物についてだ」

 

「え?!」

 

 まさかヘッケランが自分のその先の情報を知っているとは思わず、驚いて声を上げる。

 

「誰が買った?」

 

「ドールだ」

 

 

 

「え?」

 

 再び同じ声を上げる。それはあまりにも以外な人物だった。

 

「偶然見かけて話したらお前の妹だと知ったそうだ。アイツと同じ宿にいるらしい、後で引き取りに来いと言っていた。金はいらないらしいが貸し一つだそうだ」

 

やれやれと言いたげな表情で話す。しかし、アルシェからすればそれはとても都合の良い話だった。

 

 妹達の安否が確認でき、それを認識できた事でようやく強張っていた表情も元に戻る。遠のいていた二人の存在が戻って来た気がした。

 

「はぁ……」

 

 安心して気が抜けたのか目の前の机に突っ伏す。

 

「なんというか、面白い巡り合わせね」

 

「まったくです。友好な関係は大事だと、こういうところで感じさせられますね」

 

 突っ伏したアルシェを見ながら残り二人も肩から力を抜く。

 

 

 




この話だけで一話使うとは思わなかった。

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