全然進まなかったんです
一応エタるつもりはありません……更新遅いですが
「あっぶな〜〜、流石に焦った〜ふふっ」
黒いフード付きの外套を被り一人歩く影がある。そのフードからはボブカットの金髪と色白の顔がのぞいていて、その顔にはニンマリとした笑みが貼り付けられている。
彼女の名前はクレマンティーヌ、現在王国から帝国への山脈を越えたところであり、まだしばらくは山道が続きそうだ。
(でもまさか漆黒聖典が動いていたなんて、ほんとかな〜?)
元漆黒聖典であり、現ズーラーノーン12高弟の1人。その肩書きから分かるように一人の戦士としての戦闘能力は高く、彼女とまともに戦える人間は数える程だろう。
彼女がなぜこんな所にいるかというと、その彼女が負ける可能性がある数少ない存在、漆黒聖典が王国で動いているという情報を同業者のカジット・デイル・バダンテールから聞いたのである。本来であればカジットが起こすであろうアンデッド騒動と共に迎え打ってもいいのだが、その準備の時間を考えて今回は大人しく身を引く事にしたのだ。
この判断が正しかったかはともかく、王国ではアンデッド騒ぎは起きていない。実行予定の時期を考えても今の今まで事が起きていないのはおかしい、もしかしたら本当に漆黒聖典が関わっているのかもしれない。
もっとも、この騒ぎがモモンという冒険者によって収められたのをクレマンティーヌは知らない。
(しばらく大人しくしてたから、ちょっと遊びたいよねー)
漆黒聖典を警戒してここしばらく王国の帝国側の山脈の手前付近で大人しくしていたためクレマンティーヌとしてはストレスが溜まっている。少し発散できることを探しているが彼女の好きな事が拷問や殺人となると周りはたまったものではないだろう。
そんな彼女の前に若干新しい家というより小屋に近いような建物が見えてくる。この人が通らないであろう山道の傍にあり日が暮れてきた為か中の蝋燭か暖炉の光が扉の隙間から漏れている。恐らく人がいるのだろう。
「ふふん、ふふふ」
そんな光景に思わず彼女から笑いが漏れる、ちょっとしたオモチャを見つけたような笑みを貼り付けて
「こんばんは〜、誰かいる〜?」
扉の前に立ちノックをしながら声を掛ける。すると扉の向こうで音がしてこちらに近づいてくる、人が居るのは確かなようだ。扉が僅かに開き、家の主が顔を出す。その人物は深くフードを被り口元まで布で隠している、隠れていない目もフードを被っているせいかこちらからは良く見えない。
クレマンティーヌもこんな山道を女一人で歩く自分も怪しいのを理解しているがこの家の主はもっと怪しい、こんな所でいったいなにをしているのか。
「こんな所に客人か、何か用か?」
その姿では顔はもちろん性別すら分からなかったが、その声から女性という事がわかる。
(こんな人目を避けた所にいるなんて、もしかして私たちの同類?)
人前で出来ない事だからこそ、こういった所で禁忌を研究する魔法詠唱者は少なくない、しばらく前まで協力関係だったカジットなんかがそうだ。そういう事からもクレマンティーヌは自分と同じ裏側の人間ではないかと思ったのだ。
「訳あって今山を降りてるんだけど結構暗くなっちゃって〜、一晩お邪魔させてくれないかな〜」
その言葉に相手は考える仕草をするもすぐに了承する。
「まあいいだろう、あいにく何も無いが好きに使うといい」
「ふふっ助かる〜、ありがと」
そう言って開かれた扉の中に入る。
「まだ名前を言ってなかったわね。クレマンティーヌって言うの、よろしくねー」
「私はドールだ」
意外とすんなり入れたのは拍子抜けで部屋の中にも特にこれといったものはない。
ただ眠るだけのために横になれる場所、簡素な机と椅子、それらがただ置いてある部屋で、きな臭いものは見当たらない。
(あらら、何か面白い事がありそうだと思ったんだけどなさそーね。まあそれならそれで…いいけどね)
「どうかしたのか?」
部屋を観察しているのを不思議に思ったのだろう、ドールが質問してきた。
「ん〜、どうもしないよ。それよりちょっと聞きたいんだけど、貴女ってここで何してるわけ?」
ニンマリと笑みを浮かべながら独特の猫撫で声で聞く。
「別にここに用があったわけでは無い、ここよりもっと奥に用がある」
「奥?この山の?」
「ドラゴンが住んでいるらしい」
「へーそれはそれで面白そう、でも…んふふっ、いまは貴女で遊びたい気分なのよね〜」
そう言いながら腰から引き抜いたスティレット右手で弄ぶ。
「…………」
ドールは沈黙しその雰囲気は剣呑なものに変わっていくが、クレマンティーヌはさらに煽るように笑みを深くする。
「私ってさ拷問とか殺人が大好きなの、貴女にはちょっと私に付き合ってくれるだけでいいの、いいでしょ?んふふ」
「……………」
ドールは応えない、腰の後ろにあるであろう片手剣らしき武器に手を添えてただ無言でこちらの様子を伺っている。
「あーら、やるきなの?これでも私、元漆黒聖典第九席次で今はズーラーノーンていう組織にいるの、と言ってもわからないよね〜」
「漆黒聖典?」
「そっ、でも今は関係ないかもね、取り敢えず私はオモチャで遊びたいの、貴女っていうオモチャでね。優しくしてあげるから安心して、ああもちろん…抵抗してもいいよ、んふふっ」
クレマンティーヌは両腕を広げてゆっくりと近づいて行く。右手にはスティレット、足取りはゆったりと余裕を持ち、それでいて獲物を追い詰めるように。それに合わせてドールはじりじりと下がる、表情は分からないものの雰囲気から焦りを感じる。
「んふふ、そんな逃げなくても、きっと楽しいよ……私が…ねっ!」
そんな言葉とともに右手を突き出す。不意打ちでありながらその一撃は手を抜いた攻撃で相手がギリギリ避けられる事を想定した速さだ。
案の定ドールは服に僅かな切れ目を入れられながらも躱す。
「あら、おっしー」
「くっ」
瞬時に突き出したスティレットを逆手持ちに持ち替えそのまま斬りつける。甲高い音が響きドールが咄嗟に防御の為に出した片手剣を弾く、ドールは剣こそ手放さなかったが腕ごと弾かれた為姿勢が崩れる。
「はははっ」
更に左手でスティレットを引き抜きながらドールに斬りかかり、ドールは横に転がってそれを避ける。
ドールは即座に壁を背にして立ち上がり、空いてる方の手を後ろ手で魔法を唱える。
「衝撃波/ショック・ウェーブ」
ドールの背後の脆い壁が打ち砕かれ穴が開く、そこからいち早く外に出るドールにゆらゆらと余裕を見せながらクレマンティーヌが追う。
「ふーん、魔法も少しはかじってるんだ」
(まあ、それだけじゃどうにもならないけどね。でもまだまだ遊べそう、ふふ)
ドールは片手剣を前に突き出しながら森に向けてじりじりと退がる。
「あはっ、追いかけっこ?」
ある程度距離が開くとドールは背を向けて森の中に逃げ出し、クレマンティーヌはそれをしばらく眺める。その背中が見えなくならない程度の距離でクレマンティーヌは走り出す。
「能力向上」
武技によりクレマンティーヌの身体能力が上がり勢いを増しながら追いかける。
ある程度距離を詰めると逃げているドールの前の木に跳び、三角飛びの要領でドールの前に躍り出る。
そこからは近接戦闘、ドールも逃げるのを諦めたのかクレマンティーヌに応戦するが小さい傷が増えていく防戦一方の戦い、それに対してクレマンティーヌは未だに傷はない。
(ふふっんふふっ、やっぱりこれよね、堪らなーい」
相手の攻撃は一向にこちらに届かない、がこちらの攻撃は届く、これこそ実力の差、相手はこちらの攻撃を捌く事で精一杯。
それからしばらくクレマンティーヌは相手が防げるか躱せるギリギリの攻撃で翻弄し、ドールがなんとかそれを捌くという闘いが続く、いや闘いというより狩りに近いだろう。
(中々弄り甲斐のあるオモチャだったね、そろそろ壊しちゃおっ)
実際の実力の4割程度しか使っていなかった力を徐々に引き上げて止めに持っていく。
(ん?)
そこで問題が起きる。5割、6割、7割と引き上げていくのだが致命的な一撃が一向に入らない。攻防自体はこちらが有利に攻め込んでいるのだがそれ以上に攻め込めず、攻撃が入っても軽い傷を残す程度にとどまる。
(おかしい?何かおかしい?)
嫌な予感が頭を掠める、それは僅かな可能性、それでも気のせいにしてスティレットを振るう。
(違う、そんなわけない)
ついには8割の力を出しても若干の優勢から均衡は崩れなかった。
(クソッ!こいつ、こいつまさかっ)
一気に力を解放し全力で背後に回り込む、さらにこれまた全力でスティレットを突き出す。
甲高い音と火花が散りドールが前を向いたまま背中に回した片手剣で防がれたことを知る。そこには今まで逃げ腰だったドールの姿はなく余裕を持って攻撃を防いでいる。
「クソがっ、クソクソクソクソクソクソ」
防がれたのを知るや、そのまま突き刺そうとスティレットを無造作に振るうが全て弾かれる。
ドールは若干強めに弾くと振り向きざまに片手剣で横一線、なんとか身体を逸らしてそれを躱すクレマンティーヌに一歩近づいた上での手刀が襲う。本来であればスティレットなりでガードすればいいのだがそれを受けてはならないとクレマンティーヌの本能か警告を鳴らしている、それに従い地べたにしゃがみ込んだ頭の上を手刀が通り過ぎ背後の木を切り飛ばす。
切り倒すではなく切り飛ばす、その木が決して巨木ではないが小さいわけでもない、そんな木の切り口から上が空を舞うというのは異常だ。
そんな光景に一瞬行動が止まり、そこへドールが切り込む、クレマンティーヌはすでに躱す余裕を失い仕方なく武器で受けるが、その衝撃は抑えられず身体ごと吹っ飛ばされる。
「がっ」
10メートルほど飛ばされ木に叩きつけられ止まる、なんとか身体を起こし体勢を立て直す
(クソがっクソがっ、こいつ今まで私に合わせて戦っていやがった、ふざけやがって!)
「超能力向上」
「超回避」
「水流かs
武技を唱えているとドールが片手剣を投げてくる、慌てて避けるも左肩を僅かに切られ武技を中断される。
「くっ…はぁ…はぁ」
若干息を上げながら見る方向からドールが歩いて来る、その手にあった片手剣は投げてしまったので素手なのだが全く油断出来ない。
こちらに歩いてくるドールの足元が光ったと思ったら姿が見えなくなる。何かの魔法で視界を阻害されたと予測した直後、背後から地面を踏みしめる音が聞こえる。
(まずいっ!)
咄嗟に振り返りながら後ろに跳ぶ、そこにいたドールの振るった腕が守った腕に食い込みながら再び吹っ飛ばされる。
(こいつ一体何っ?転移まで使うなんて)
攻防逆転、先程とは立場が真逆となりこっちは相手の攻撃から逃げようとする事で精一杯。
そうして飛ばされた先に転移で先回りされて守る暇もなく攻撃を受ける。そうして何回か転がされ最後には最初の建物まで戻り壁を背にして座り込んだ。
左腕は折れ、左脚も引きずっている。すでに戦えるだけの状態ではない。
「は…ははっ、自分で…仕掛けておいてこのざま。ここにもこんなバケモノが」
いつもの強気な言葉は出ず、乾いた笑いと自虐的言葉しか出てこない。
そこにドールが歩いてくる、クレマンティーヌの前まで来ると立ち止まり静かに見下ろす、月の逆光で顔も表情も分からない。
「あんたの言いたい事ぐらい分かるよ、噛み付く相手を間違えたって言いたいんでしょ、ふふ…」
クレマンティーヌはドールから足元の地面に視線を移し言葉を続ける。
「認めてやるよ。あんたは強い、少なくとも私よりはね。でもそれだけ…この世界にはあんたみたいなバケモノじみた連中は他にもいるの、ふふ…」
「漆黒聖典か?」
「そうね……まあいいかちょっと教えてあげる、漆黒聖典は法国の作った組織の一つあそこにいるのは本物のバケモノ、あんたでも勝つのは無理」
「だから諦めたのか?」
その言葉に目を見開きドールを睨みつける。
「はあ?何を言ってるの、諦める?アレは人間じゃない競うだけ無駄。ちょっと私より強いだけで何様のつもり、なに?偉そうに説教?はぁ……もういい、ほらさっさと殺せばいいでしょ」
「お前は常に強者でいたかったんだろう?法国のルールに縛られその上自分が絶対勝てない存在がいるのが気に入らなかったんじゃないのか?」
「うるさいっ黙れっ、さっさと殺せって言ってんだよっ殺すぞクソがっ」
ドールはその言葉を軽く流しながら回復ポーションを取り出しクレマンティーヌに差し出しながら言う。
「そこで一つ提案したい、私に力を貸してみないか?」
「はあ?」
クレマンティーヌの口から呆れたような惚けたような、そんな声がこぼれる。
「勧誘のつもり?あれだけ力を見せつけておいて、今更力を貸して欲しい?ふざけるのも大概にしろ」
煽るようなに口を歪めるが目は殺意を込めて睨みつけている。
「殺すには惜しい、そう感じた」
「はっ、笑わせるな力を見せれば従うと?」
「今の私と渡り合えるだけの力を約束しよう」
「…っ」
「明確な上下関係はない、お前はお前のやりたいようにすればいい」
再び目を見開きまくし立てていた言葉が詰まる。そして沈黙したもののようやく言葉を吐き出す。
「そんな保証どこにあるっての?くだらない話はうんざり、さっさと消えろ」
「…………」
ドールは諦めたのか、しゃがみ込むとクレマンティーヌの前にポーションを置くそして立ち上がると
「バハルス帝国の北部にある洞窟、翼竜の洞窟と呼ばれる場所がある。私はそこにいる、気が向いたら足を運べ、歓迎しよう」
そう言ってこの場を後にする。クレマンティーヌはドールが去ったほうを見る事は無かったが、ドールの置いていったポーションを静かに眺めていた。
ーバハルス帝国首都ー
ここは城内の一室。向かい合っているのは城の主であるジルクニフとその配下アインズであり、建前上はそれが正しい。しかしその雰囲気は逆であり、ジルクニフには緊張感が漂いアインズには余裕が感じられる。
「我が帝国に貴族として招いて早々、フェメール伯爵が悪かったな」
「なにたいした事はない、いきなりどこの誰とも分からない奴が貴族になればそういったやっかみごとは出てくるだろう」
(白々しい、じいを使って裏から手を回しておきながら)
ジルクニフとしては言ってやりたい事はあるが、それを言うわけにもいかず適当に返すしかない。
「そう言って貰えると助かるが、皇帝としてはやらなければならない事もある。フェメール伯爵は既に処刑した、これは君に妙な事をしようとする者への見せしめでもある。アインズ、君からは何か要望はあるかな?迷惑をかけたからね多少の事であれば融通するが」
「そうか、そう言って貰えるなら少し話があるんだ。…実は建国しようかと考えている」
「建国?」
斜め上の答えに思わず聞き返す。そもそも建国はアインズと会った時にジルクニフが提案したものである。
「最初に君の下に就くといいながら今更なんだが、協力して貰いたい」
「君という優秀な配下が消えてしまうのは惜しいが、他でもない友である君の願いだ、出来る限り協力しよう」
(建国するなら最初からすればいいものを、一回でも帝国の中に入ったというのは中々痛いな)
「おお、そう言って貰えるかジルクニフ、とても心強い」
「それで具体的にはどう考えているんだ」
「それなのだが、帝国は毎年この時期に王国に攻め込んでいると聞いたんだが」
「ああ、攻め込むと言っても形だけのようなものだ。王国の余力を削るのが目的でね」
「今回の侵攻を私に任せて貰いたい」
「君にかい?」
「侵攻で大きく王国の戦力を削り、エ・ランテルの地を我が所有地だったとしてその地の返却を要求したい」
「んー…」
ジルクニフはアインズの考えを聞き考えを巡らせる。
(初期の頃の予定とはだいぶ寄り道をしたが、結果としては悪くない
)
「王国とは君だけで戦うのかい?」
「私兵も出すだろう、私としては手出しはされたくない。なに負けることはないから安心してくれ、ちょっとした私の力を披露する場と思ってくれればいい、良ければジルクニフも来るといい」
「君の勝利は疑っていないよ。君の力も気になるが行けるかどうかは分からないな。…………いいだろうアインズ、今回の侵攻は君に任せよう、ただあまり追い詰めて交渉の余地が無くならないようにしてくれ」
「そうだな、気をつけるとしよう」
その後、ある程度話を詰めアインズがナザリックに戻る為部屋を出た後ジルクニフは自室に戻りアルトリアとの連絡用のアイテムを取り出す。本来の連絡役であるレイナースがジルクニフの護衛としている為渡されたアイテムである。
「聞こえているだろうか、私だ、ジルクニフだ」
『ん、同盟者か、なにか用か?』
円卓の席で静かに寛いでいたアルトリアはジルクニフからの連絡が入り耳を傾ける。
「確認したい事がある。君はアインズらの戦力を把握出来ているか?」
『アインズ本人の能力は大体分かるが』
「その側近達のは?」
『細かくは分からない。純粋な戦闘能力だけ比べてもピンキリだ』
「ではレイナースはどこまで出来るんだ?アインズら相手に」
『平均以上ぐらいであれば側近相手でも渡り合えるはずだ。そのくらいの力はある』
ジルクニフはしばらく沈黙し考える。そして意を決して、
「………他の四騎士も強く出来ないか?レイナースの様に。なんなら君の配下にしてくれても構わない」
『どうしたんだ。随分と大胆というか開き直ったことを言うな』
「腹を括っただけだ、いつまでも逃げる足を残していても前に進めん。これで君に裏切られたら私の見る目が無かったということだ。私は、帝国は、アルトリア・ペンドラゴンを軸にして生き残る」
『同盟者らしからぬ決断だな。私に帝国を乗っ取られても知らんぞ』
「それは問題ない、そもそも皇帝というのも帝国を存続させる為のパーツの一つに過ぎない、君も私が治める帝国だからこそ興味を持ったのだろう?それにもはやどの国がどうのと言っている場合ではない、私は人類の危機に直面していると思っている」
『壮大だな、確かに実現しかねないのも事実だ。……中々面白い話を聞かせて貰ってからで悪いが、強化は無理だ』
「…っ」
なかなか有効な手段と思っていただけに顔を険しくする。
『私としてはそこまで気にしていなかったんだが、レイナースに使ったアイテムが予想以上の効果を発揮したのでな、希少アイテムでもあり使用を慎重にすることにした、回数に制限もあるしな』
「そうか…、それならば仕方ない。実はアインズが近々建国に向けて動き出す、私としては帝国の戦力を一段階上げておきたかった。最低でもフールーダ程の力が無ければ戦力として数えられないほどの開きがあると考えている。今のところまともに戦えるのは君から借りているレイナースだけだ、これでは余りにもきつい」
『そう聞くとどうしようもないな。私が居なかったらどうするつもりだったんだ?』
「法国や近隣諸国で連合を組むつもりだったさ、それで倒せるかは怪しいが幸いこの国には君が居る、不幸中の幸いだな。まあそれは置いておいて具体的な話をしたい、君以外でキャメロットの戦力を戦場に置きたい場合はどうすればいい?出来ればキャメロットの存在は隠しておきたい」
『手頃な戦力としてはワイバーンだ。あれならレイナースでも容易に扱えてある程度戦力になる、数に限りもない。それ以上の戦力は上位竜なる、こうなるとキャメロットの存在を感知される可能性が高い、私を隠す意味がなくなる』
「兵たちにワイバーンを扱わせることは出来ないか?」
『さてどうだろうな、そこは試してみないと何とも言えない。アレが建国するというのは都合がいいのだろう?私としては表立って戦争になればそちらの方が戦いやすいが』
「無理に戦争がしたい訳じゃないさ。……あまり焦る必要はないか、今回はアインズの力を見ておくだけにしておこう」
『問題は建国後だろう、帝国がアレの国と対等な立場を保つのが課題だな』
「それは正直気にしていない、君がいる以上下手に出る必要はないからね、向こうがいくら此方を下に見ようと無理な要望は突っぱねるさ。まあ対等な立場と友好的な関係はまた別だ、さっきも言った諸国との連合も必要だろう。アインズの建国は此方の足掛かりの一つでもある」
『そう言えばどう建国させるつもりなんだ?帝国から領土を譲るのか?』
「いや王国を攻めて、元はアインズの領土だったとして返還を求めるつもりだ」
『王国を落とすのか』
「一部領土の返還、エ・ランテルを貰う予定だ。私としても落としきられては困る」
『少し聞きたいんだが、連合の同盟国として法国を優先しているように感じるが理由はあれか?』
「諸々理由はあるが一番はスレイン法国という国の性質だな」
『人間至上主義というやつか』
「そうだ。人類最強の大国でありアインズがエ・ランテルで建国した場合の周辺国であり、何よりアインズを排除するために最も動く国だ。いや、おそらくもう動いてはいるだろう」
『ならばもう同盟の準備は出来ているのか?』
「いや、アインズが建国し帝国から離れてからにするつもりだ」
『………なら私を使者として使ってみる気はないか?』
アルトリアを使者として、という意外な申し出に若干困惑する。
「…君が帝国の使者として同盟を?」
『なに、ただの挨拶がわりだ。帝国皇帝の意思を伝えるだけだ、話に聞く法国には興味があってな、ついでに同盟者の言葉を伝えようと。どうだ?』
『しっかりとした会合を前に、悪くないと思うが?』
「……………興味というのは?」
『どうした、不安か?らしくないな、別に同盟者や帝国から興味が移った訳ではないぞ』
「そういう訳ではない」
『ただ純粋にだ、帝国は同盟者を含め優秀な国だと思っている、其れこそ少し前まではフールーダという大魔法詠唱者がいたのだろう?だがその帝国を凌駕する人類最強の大国と謳われる国というのを見てみたくてな、その最強の人類というのも気になるしな』
「少し時間をくれ」
『ああ構わない、私も私で法国に歩みを進める準備をするとしよう』
クレマンティーヌ、書籍とwebの登場時期の差が激し過ぎる