騎士王、異世界での目覚め   作:ドードー

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はい!相変わらずの遅さですね。
申し訳ないです。



護衛2

「そろそろ森沿いの道に差し掛かります。皆注意してください」

 

 道沿いに森が見えてきた所で、ナイルが注意を促す。

 

 あの後、夜明けまで特に問題は起こらず朝を迎えることができた。銀の風のメンバーはいつも通りといった感じで、特に気張った様子もないのでこれが普通なのだろう。

 

 ここまでの道のりが、朗らかと表現できるくらい、今は皆、気を張り詰め森の中を伺いながら歩いている。その足取りは余計な力を入れていないが、いつ何処にでも動ける様な確かな緊張感がある。メンバーに探知に特化した者がいない為、各々でカバーするというやり方なのだろう。

 

 森沿いに入って一時間、ちらほらと森の中に気配を感じる。これが魔狼の群れだろう。おそらく、此方への襲撃のタイミングを計りながら森の中を移動している。この辺りを根城にしているだけあって、手慣れている感じだ。彼らにとっても、定石というのがあるのだろう。

 

 森沿いの道には、森とは反対側に小さな林がある所があり、それによって道が狭まるところがあるらしい。そこが狼達の襲撃ポイントになる事が多く、注意する所だそうだ。流石にこの依頼を何度もこなしている事はある。

だが狼達も馬鹿では無いらしく、続いて同じ手を使ってこなかったりと、知恵を働かせる。そんな人間と獣の攻防がある中、今まで生き延びているのはたいしたものだろう、などと考えていると問題の林が近づいて来た。

 

 

 

 

 

 

 ドールを含め、冒険者たちは荷馬車を囲みながら進む中、より感覚を尖らしている。銀の風のメンバーは、森側に重点を置きつつも、林側の注意も怠らない。

ドールに関しては、正直魔狼程度であれば、不意打ちであっても対応出来てしまう能力がある為、冒険者らしい行動として形だけの警戒態勢だ。

 

 

 森の中で、大きく動く気配を感じたと同時にラミカが叫ぶ。

 

「来るよ!」

 

 探知系ではなくとも察知する、それは経験か、勘か、おそらく両方だろう。メンバー各自が短めの片手剣を引き抜く、両手剣や弓を本来の武器とするナイルやクルドも片手剣だ。

いきなり本来の武器を使わず、取り回しのいい片手剣で状況に対応した後、状況を見て本来の武器み持ち帰る、と言うのが彼らなりの経験からくる対策なのだ。

 

 木々の間の草むらが音を立てて揺れる、少数の魔狼達が森の中から疾走して来て、冒険者達に初撃を喰らわせようと飛びかかる。しかし、その攻撃は軽いもので、無理に致命傷を狙ったものでなく、自分達が反撃された時のリスクを考えた攻撃だ。

 

 大振りをさけた片手剣での牽制の攻撃。

 

「くっ」

 

「はっ」

 

 銀の風のメンバーは危なげなく反撃、これを撃退する。返された狼達はすぐに距離を取り直し、後から出て来た狼達と混ざりながら数を増やして、此方の様子を伺いながらうろつき始める。

 

 

 

 ナイルは、普段との違いを感じていた。狼達が妙に落ち着いている。普段の依頼で遭遇した時は、もっと強引な攻め方だった気がする。それが今日は冷静な様子、というより統率されたような感じを受ける。

 

「ナイルっ!」

 

 そんな風に狼達たちを見回していると、クルドが大きな声で呼ぶので顔を向けると、顎で別な方向を指している。

 

 狼だ。見た限りは狼だ。ただし、大きさが違う、通常の倍はある。おそらく群れのボスだろう、のっそりと森から出てくる姿には、どこか貫禄さえ感じる。あの巨体からの攻撃は受けられない、そんな事を思わせる。なぜ、今までは出てこなかったのか。そんな今は必要ない考えも浮かぶ。

 

 その巨体に睨み付けられたことで我に帰り、慌てて指示を出す。

 

「僕があれの足止めをします。クルドはいつも通り、出来れば此方に援護を多めに頼みます。ラミカとドールさんで群れを片付けて、このまま突破します。ボスを討つ事は考えてないので、最悪撤退も視野に入れてください」

 

「「了解!」」

 

「わかった…」

 

 指示を飛ばすとすぐに3人の返事が来る。今回はドールさんで本当に良かった、いつもと違う状態で、足を引っ張りかねない冒険者なんかと組んだら全滅もあり得る。

 

「オオォォォーーー」

 

 ボスの声に合わせて再び狼達が動きだす。狼達は一人一人に対してジリジリと距離を詰め、各々自分の獲物に攻撃を始める。その数には偏りがあり、他のメンバーは2、3匹で付かず離れずで、消極的な攻めにも関わらず、ドールさんの所には6、7匹で襲いかかっている。おそらく各個撃破狙っているのだろう。

 

 それにしても数が多い、見た限りはせいぜい15、6匹と言ったところだが、まだ森の中に気配がある。この分だと倍はあるかもしれない。それにこいつら頭もいい、元々此処にいた奴らじゃない、多分あのボスが引き連れてきた群れが、ここの縄張りを喰ったんだろう。手強いというよりやり難い、一撃離脱で足止めして1人ずつ潰していく気だ。

 

(それに此方も余裕は無い。クルドも纏わり付かれて、こっちの援護は無理そうだ)

 

 未だ交戦していないが、ボスの巨体はゆっくりと間合いを詰めてくる。周りに気を配れるだけの余裕は無く、武器を両手剣へと持ち替え身構える。

 

 攻撃は唐突、間合いが10メートル切ったかどうかという時に、いきなり走り出した。大柄な身体でありながら、俊敏と例えることのできる速度で接近し、首元を狙って噛み付いてくる。慌てて回避に入り、回避側に反撃の斬撃を入れる。あまり力の乗っていない斬撃な為か、僅かに狼の毛を削るだけにとどまった。

 

(硬い!もはや魔狼とは別物、まともな攻撃だとか擦り傷がせいぜいですね。これはまずい)

 

 ナイルは、今の一撃で状況の悪さを理解した。相手が巨体な為、回避で精一杯になり、上手くカウンターが出来ない。かと言って片手剣では首を落とせないだろう。

 

(やはり時間稼ぎをして皆を待つしかなさそうです)

 

 1人で討つのは無理と考え、足止めに徹する。ボスを足止めしながらもメンバーの様子を確認しなくてはならない。向こうもギリギリなら撤退しなければ、時期に全滅する。

 

 一番気がかりなのはドールさんだ。今回初めて組む為、実力が分からない。今回は狼の数が多いので、彼女が倒れればメンバー全員が危険になる。そう思いながら彼女の様子を確認するも、予想以上に彼女は上手かった。

 

 フェイントやわざと隙を見せて攻撃させ、それをカウンターで倒す。もっとも多い数を相手にしているのに、一番安定して戦えてるかもしれない。一人旅で培ってきた経験なのか、多対一に慣れているといった感じだ。他のメンバーは、いつも通りといった戦いぶり、その様子に少し安心したのがいけなかったのか。

 

 そんな事を考えてる最中、強い衝撃が腹部を襲った、僅かな浮遊感の後背中全体にまたしても衝撃。

 

(しまった…!)

 

 そこでようやく、自分がボスの突進を避け損なったのを知った。

 

「ナイルっ!」

 

「なっ…大丈夫!」

 

 クルドが叫び声とラミカの心配する声が聞こえる。頭から混乱して視界が安定しない。取り敢えず起きなければ、ただそれだけを考えフラつきながらも起き上がる。

 

 視界が安定し、ボスとの距離に余裕がある事が分かる。間に合った、そう思った。

 

「違う!ナイル、右だ!」

 

 クルドの声に、かろうじて目線だけ向ける頃には、今まさに飛びつこうとしている別の狼が目に入った。

 

(死んだか……?)

 

 そんな事を考え終わる前に、飛びかかっていた狼は視界から消えていた。

 

「グギャァァッ」

 

 短い断末魔と共に消えた狼を探すと、地べたに這いつくばっているように見えるが、よく見ると、片手剣が首元に刺さっていて、身体が地面に縫い付けられているようだ。

 

 剣が飛んできた方を見る。

 

「大丈夫か?」

 

 まるでなんでも無いかのように声を掛けてくるドールさんがいた。その声を聞いて、初めて彼女に助けられた事を認識した。

 

(は…?一体彼女は何をしたんだ?)

 

 彼女の攻撃は明らかにおかしい。そもそもナイフ程度ならともかく、片手剣レベルのものを投擲して、あまつさえモンスターごと地面に縫い付けるなど、常人のできることではない。

 

「あ、ああ、お陰様で。ありがとう」

 

 余りの出来事で、少々放心気味だったが、なんとか返事をし、また失態を犯す訳にはいかないと、慌てて剣を持ち直す。身体はまだ痛みが残るが、行動に支障が出るほどではない。剣を構えてボスに向き直るが、今自分を助ける為に武器を投げたせいで、彼女は武器がないことに気づき、慌てて振り返る。

 

「ドールさっ…え?」

 

 しかし、彼女の周りには既に頭の無くなった狼の体が3匹、頭蓋が砕かれたであろう狼がもう2匹、そして自分が振り返った時に丁度、また1匹が蹴りを受けて森の中まで吹っ飛ばされてるところだった。

 

 既に彼女を襲おうとしていた奴らはタジタジだ。他の連中もその様子を見て、手をこまねき始めている。

 

 彼女は、自分の周りの狼が全滅してしまったので、クルドの援護に向かうつもりの様だ。しかしクルドの周りの狼達も彼女が向かうと、唸り声をあげながら後退り始める。どうやら、彼女が仲間を殺すところを見ていた為、勝てないと悟ったのだろう。

 

「グヴゥゥゥ……」

 

 目の前のボスも唸るのみで、さっきまでの積極的な攻めはない。

 

「はっ!」

 

 そうしてる間にも、ラミカが自分にまとわりついていた二匹を倒して三匹目に取り掛かる。

 

「ウオオォォォォォーーー」

 

 唐突にボスが吠え、その声が辺りに響く。すると、今までまとわりつくように群れていた狼達が、ゆっくりと距離を取り始める。獲物を得られず不満げな様子だが、そのまま森の中に消えてしまった。ボスも此方に忌々しげな視線を向けながらも森の中に入って行く。

 

 襲撃も迅速なら、撤退も迅速。おそらく、これ以上の攻めは割りに合わないと判断したのだろう。ボスが吠えてから、ものの30秒程で元の静かな道に戻った。ただし先程とは違い、狼の複数の死骸が転がっているのと、ピリピリとした緊張感はない。

 

「凌いだ…かな?」

 

「ああ、多分。魔狼達は撤退したんじゃないか」

 

 ラミカの呟きにクルドが同意する。この会話を聞いて、大きな安堵感が生まれる。

 

(今回は危なかった、まさかあんなイレギュラーがいるとは)

 

「そう言えば、体は大丈夫なのか?」

 

 狼の死骸ごと地面に刺さった剣を抜きながら、ドールさんが話しかけてくる。

 

「まあ、なかなかキツイ一撃でしたけど、あれだけで動けなくなるほど、やわじゃないですよ。最も致命傷になるはずだった傷も、貴女のお陰で負わなかったですし」

 

 今回は、ほとんど彼女のおかげで、切り抜けられたと言ってもいいだろう。

 

「いやー、それにしてもドールさん凄かったな。なんて言うか、動きのキレが違ったっていうか、無駄な動きが無かったっていうか」

 

「へー、やっぱ凄かったんだー、私自分のとこで精一杯で、見てなかった」

 

「ていうか、片手剣投げて刺せるもんなのか」

 

「アレってなんか、そういう特殊な剣なのかな?」

 

「そういう訳じゃねーだろ」

 

 向こうでは、戦闘が終わった安堵感から、はたまた彼女の戦闘を見た興奮からか、クルドとラミカが会話に花を咲かせている。

 

「はいはい、お喋りはそこまで、まだ任務中だよ。せめて、森沿いを抜けてからにしてくださいね」

 

 危険地帯でお喋りなど、依頼主がルドルグさんだからいいものの、他であれば失態になるだろう。

 

(僕としても、彼女にいろいろ聞きたいけど、依頼をほっぽり出す訳にはいかないからね)

 

「少々派手に動き過ぎたか……」

 

 元の護衛位置に戻る為、歩き出した彼女の呟きを拾えたのは、僕だけだろう。

 

 

 

 

 その後、魔狼による再度襲撃はなく、もう一度野宿した後、次の日には目的地に到着した。

 

 

「いやー、お疲れ様です皆さん。今日までの護衛依頼、有難うございました」

 

 そう言って軽く頭を下げるルドルグ。

 

「ま、僕たちはいつもの事だからね。でも、今回は無事抜けられたのは、ドールさんのおかげかな」

 

「そんなに謙遜することは無いだろう。私もお前達も、依頼を遂行しただけだ」

 

 ナイルは、私の報酬を多くしようという話を出したが、遠慮しておいた、金はそこまで必要ではない。

 

「本当は、今回もうちのメンバーだけで、行くつもりだったので。まさか、あんなでかいボスがいるなんて、予想外でしたし。貴女が居なければ、撤退という選択をしていた可能性は高いですよ」

 

「それは結局、私でなくても4人目がいればよかった、というだけの話だ」

 

 それを聞き、苦笑いを顔に貼り付けながら肩を竦める。

 

「貴女も強情ですね。あんな事の出来る冒険者はそうそういませんよ、新人なら尚更」

 

「はっはっはっ、私としては、また良い冒険者に出会えた機会に感謝したいですな。宜しければまた依頼を受けていただきたい。それでは早々で悪いですが、いろいろとやらなければならない事があるので、私はこれで」

 

 目的地に到着したので商人として仕事があるのだろう、早々に荷馬車を動かして去って行く姿を眺めながらナイルに挨拶する。

 

「世話になった」

 

「いえいえ、此方こそ今回はいい刺激になりました。お互い機会があればまた組みましょう」

 

 手を差し出されたので、その握手に応じてその場で別れる。

 

 

 

 

 

「誘わなくてよかったの?」

 

 王都の街の中に消えていく、彼女の後ろ姿を眺めていると、ラミカが覗き込むようにして話しかけてくる。

 

「まあ、最初の一回ですし、彼女がまた組む気があれば機会はありますよ。実力は申し分ないですが、まだ彼女の事はほとんど分かりません。強いからと言うだけでパーティーに勧誘はあり得ません」

 

「ふ〜ん。私は良いと思ったけどなー」

 

「気持ちは分かりますよ。この三日間で見た限りは、人格も実力も悪くないです。というより、実力は僕たちより数段上だと思いますよ」

 

 ドール、未だシルバーの冒険者だが、実力はゴールド以上は確実。シルバーに甘んじているのは、本人が上げる気がないからだろう。

 

「あ、やっぱり?」

 

「ええ、本人もそこまでして、隠そうとはしてないみたいですが、わざわざ見せびらかすつもりはないようですし。僕たちにとって、彼女は必要かもしれませんが、彼女にとって、僕たちは必要ないかもしれませんね」

 

「悲しい事に、ありえるな」

 

 落胆を通り越して、もはや開き直った口調のクルド、彼はそれ程の差を感じた。その差は経験か、努力か、はたまた才能か。

 

「さて、僕たちも強くならなければなりませんよ。なにせ新しい魔狼の群れが住み着いたんですから、対策しないと、今後あの道の護衛は受けられません」

 

「じゃあさ、じゃあさ、そろそろ武器新調しない」

 

 銀の風のメンバーも、ギルドを目指して歩き出した。

 




急いで書いたので、いろいろアドバイスを貰ったんですけど、直せてる感じはしないですね。

少しずつでも読みやすく出来るように頑張ります。

次の話では原作キャラを出せると思います。

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