ーバハルス帝国首都ー
「おーい、こっちだ」
ヘッケランが奥の席で片手を軽く振りながら入り口にいるドールを呼ぶ。
ここは笑う林檎亭、フォーサイトと別れてからしばらくして、ヘッケランから時間があれば少し付き合ってくれないかと誘われたのだ。
フォーサイトの集まっているテーブルに近づき空いている席に座る。
「悪いな呼び出して」
フォーサイトの四人は食事を終えて一休みといったところだろう、グラスだけをテーブルに残し寛いでいる。
「いや、私も用事があったわけではない。この前言ったとおり、私もいろいろ聞きたいしな」
「そりゃ良かった。なんか食うか?ここの飯は美味いぜ」
「食事はもう済ませた」
「そりゃ残念、アンタの顔を拝めるチャンスかと思ったんだがな」
「それで?私を呼び出した理由は?」
ヘッケランは寛いでいた格好から姿勢を直し、少し声をおとしてドールに質問する。
「それほど大した理由じゃないんだが、いや、アンタが知ってれば結構大事な話なんだ。最近、受けるつもりの依頼があってな、それについての情報があればと思って声を掛けたんだ。アンタ旅をしているって言ってたろ、王国にある遺跡なんだが、何か知らねえか?」
「遺跡?」
「ああ、トブの大森林にあるらしいんだ。依頼の情報ではな」
「ほう、遺跡調査か?」
「まあ、そんなところだ」
「わざわざ私を呼び出すとは、依頼に何か怪しいところでもあるのか?」
「結構報酬がいいんだ。こういうのは疑って掛からねえと、痛い目見るからな。俺らで集めた情報では、そこまで怪しいのはなかったが、用心しといて損はないからな」
「ヘッケランの言うように、依頼自体には罠などはないと思われます。しかし、何故依頼が必要なのか?依頼の目的が分からなかったり、肝心の遺跡がどのようなものかも全く分かりません。だから調査なんでしょうが、それにしても情報が少な過ぎます。記録として残っているものがありません。そこが少々腑に落ちない感じなんですよ」
ヘッケランの隣に座っていたロバーデイクが依頼の不審なところを指摘する。
「出来れば遺跡に関して分かると助かる。いい情報にはそれなりの情報料を出すぜ、安全が金で買えるなら安いもんだ」
「まあ待て、トブの大森林はいいが、森の中から遺跡を探すのか?あの広大な土地を?」
「いや、遺跡の場所は大体分かってる。森の中にある、ナザリック大地下墳墓ってところだ。なんか知らねえか?」
それを聞きドールはゆっくりと背もたれに背を預けしばらく沈黙したのち口を開く
「はぁ、なるほど……ナザリック…か」
ドールは呟くように言うが、その言葉から感情は読み取れない。
「…知ってんのか?」
自然と声をひそめるヘッケラン。
「その前に聞いておきたい。依頼主は?」
「フェメール伯爵」
今まで黙っていたアルシェが答える。
それに合わせてドールがアルシェの方を向き更に質問を重ねる。
「伯爵の独断か?」
「そこまでは分からない。フェメール伯爵の宮廷内の状況はあまり良くないらしい、皇帝にも無下にされているという噂もある」
「まあ、だからこの依頼と何か関係するのかと言われると、そう言いきるだけの理由も根拠もないがな。伯爵がこの遺跡調査に何を求めてるかは不明、金銭的にも困ってないらしいしな、と、そんなところだ」
アルシェの後にヘッケランが情報を補足する。
「他のワーカーにも依頼が出ているのか?」
「ああ、俺らの情報では他の4チームにも話がいったらしい」
ヘッケランは少し体を前に乗り出し情報をねだる。
「そろそろナザリックの情報を教えて欲しいんだが?」
「喋らせておいて悪いが、ナザリックについての情報は、あまり無い」
「おいおい、勿体ぶっといてそれはないだろう」
「まあ聞け、確定事項は教えてやる」
「確定事項?」
「お前達では、現時点でナザリックは攻略不可能という事だ」
黙り込むフォーサイトの面々。
「面と向かってそんなこと言われるとはな。これでも俺たちはワーカーの中じゃ結構優秀なつもりだ。それに攻略は絶対条件じゃない、あくまで調査だからな、無理そうなら撤退する」
怒りの感情を出さずにあくまで冷静にドールに言葉を返す。
「勘違いするなよ、侮辱している訳ではない。ナザリックはそういうところという意味だ」
「だが、具体的な理由も無しにそんな事言われても困るぜ。今しがた、俺等の中では依頼を受ける事に決まったんだが、取りやめるならそれなりの理由が欲しい」
「生憎だが、出せる情報は無い。だが面白い話を聞かせて貰った礼はする」
そう言ってドールは1本の杖を取り出しテーブルの上に置く。
杖は金属製で控えめな装飾が施され鈍く光っている。
「これは?」
「マジックアイテムだ。これには転移魔法が込められている」
「…っ、なんだそりゃ、それが本当ならやべーアイテムだろ、それだけで結構な金になる」
転移魔法はそもそも使い手がいない、第三位階魔法を使える魔法詠唱者であるアルシェですら使えないのだ。
それがアイテムで使えてしまうという事がどれだけの価値があることか嫌でも理解する。そしてそのアイテムの金銭的価値も計り知れないだろう。
「忠告はしておくが、どうせ行くのだろう。なら持っていくといい、貸してやる」
「…いいのか?絶対に返せる保証はないぜ。こんな物渡されるほどの話はしてないと思うしな」
「それとこれも渡しておこう」
杖の隣に一つの指輪を転がす。
こちらも装飾がされており銀に輝いている。
「阻害耐性のアイテムだ。魔法行使に対しての阻害効果を弾く事が出来る。一度、運が良ければ二度使える、使えば砕ける使い捨てアイテムだがな」
「絶対に転移しろって事か?」
「そこまでは言わないが、保険があれば調査も捗るだろう?」
「はぁ、だがいいのか、俺らにこんな投資して?」
「構わない、私としてはそこまでのアイテムではないしな。それに、便利とは言え杖にも回数制限がある、無駄遣いはしない事だ」
「アンタ何者だよ、こんなのぽんと出せる奴普通いないぜ。それにやっぱりアンタもナザリックの情報が欲しいのか?」
「詮索は無しだ。お互い利があるのだから問題ないだろう」
「そりゃまあ、そうだな。そんじゃ有り難く借りておく」
「ではそろそろ私は行く」
そう言ってドールは席を立つ、相変わらず顔も分からないが、フォーサイトからすれば怪しいところが増えただろう。
「話はいいのか?」
「ああ、今回の依頼の話で十分…、なかなか面白い話だった。……そうだ、この依頼後もしかしたら、私からフォーサイトに依頼をするかもしれない。その時はよろしく頼む」
「依頼?まあ報酬次第では受けるが、どんな依頼だ?」
「それは次に会った時だ、それまで生きていればな」
「おっと、流石に縁起でもねえぞ。そう簡単にくたばってやるつもりもねえしな」
「そう願っておこう、ではな」
「おう、またな」
そうしてドールは笑う林檎亭より立ち去るが、フォーサイトの話は続く。
「まったく、怪しいかぎりだ。それでも不思議と不快にならないのはいいな、これからそれなりの付き合いになるかもしれないしな」
「そうね、そこは同意するわ。でもまずはこれでしょ」
そう言ってイミーナがテーブルの上の杖を指す。
「これマジもんだと思うか?」
「普通に考えれば、とても怪しいですがおそらく本物でしょう。何より、一度試せばその性能も分かってしまいます、すぐにバレる嘘をつく意味はないでしょう。彼女はナザリックを知っていたようですし、何か意味があって調べたかったのでしょう。そこへ我々が調査に行くので、アイテムで手助けして後で情報を聞きたい、と言ったところではないでしょうか」
「それでも転移の杖だぜ、そこまでするか?」
「ナザリックの危険性を知っているのでしょう。もしかしたら、彼女自身高位の魔法詠唱者で転移を使える、という可能性もあります、極論ですが」
「なるほど、アルシェより上の可能性があるからな、なくはない程度だが、あり得るかもな。せめてアイツが何者か分かればな、もう少しまともな推測が出来るんだが、まあしょうがない、とりあえず杖の性能は後で確かめておこう。アルシェ、お前が持ってろ、お前なら使えるだろ」
「分かった。とりあえず私が預かる」
「よし、今日はこれで解散にするか。依頼と杖についてはまた後日にしよう」
ーキャメロット城内ー
そこでは剣が打ち合わされ、火花が散り、空間が歪むほどの魔力の圧が削り合う。
アルトリアは余裕ある足運びで悠々と攻める、雰囲気はとは別にそこから繰り出される剣撃は一薙ぎ一薙ぎが空気を裂く、その攻撃をなんとか受け流しながらしのぐレイナース、攻撃のタイミングを計りアルトリアの纏う魔力空間を自身の魔力放出で割り込みながら剣を打ち込む。
互いに打ち合い距離をとれば斬撃を飛ばして攻撃、レイナースが左手から火球を飛ばしながら距離を詰める、アルトリアは魔力を練りこんだ風の結界で火球を防ぎレイナースを待ち受ける。
レイナースが下から切り上げるがアルトリアは左手で剣を受け止め自分の剣を地面に刺したかと思うと空いた右手をレイナースの腹あたりに合わせ魔力放出で吹っ飛ばした、そのまま後ろの壁まで飛び盛大に叩きつけられる。
「ゴハッ」
しかしすぐに立ち上がり態勢を立て直す。
「いい、とりあえずここまでだ」
アルトリアが制しレイナースは臨戦態勢を解く。
「はぁ…ふぅ、それでいかがでしたか?」
現在アルトリアとレイナースはキャメロット城の地下にある広場に来ている、いつもはレイナースの訓練に使われているが、今はレイナースの実力を測るためにレイナースとアルトリアで試合をしていた。
「期待以上だ。この短期間で竜の力をそこまで自分のものに出来るとは、私としては申し分ない。あとは出来る手札は増しておく事だ、特に魔法関係は出来る事が格段に増えている筈だ。転移は戦闘中でも技として使えるようにしておけ、だが相手の背後に転移するだけだとすぐ読まれるからな、安易な使い方はやめろ」
「ありがとうございます。転移自体はもう出来るので、もう少し練習すれば戦闘中に使えるようになるかと」
「優秀だな結構な事だ」
「いえ、全てはアルトリア様よりいただいた力によります」
「そんなことはないと思うがな。少なくとも、与えられた力を使いこなすだけの才能はあるだろう。まあいいでは精々励むといい」
そう言って立ち去ろうとするが足を止め、レイナースに歩み寄る。
「そういえば、いい加減渡しておかなければと思っていた。これだ」
虚空に手を入れるとそこから一振りの剣を取り出す。
『聖剣デュランダル』
ユグドラシルのワールドアイテムの一つ、外見は特筆すべきところはなく、見た目は普通の剣で取り回し使い易さは悪くないだろう。
だがその性能は絶対的であり、魔力を喰わせ続ける事で全ステータスを80%上昇効果を持ち、高い攻撃と攻撃を耐えうる防御どちらにも使え、何より高いのはその破壊耐性、たとえ破壊能力を持つワールドアイテムでも破壊されることはない。
魔法が放てるなどの効果が無くとも剣を武器としている者からすれば信頼でき使いやすいだろう。
デュランダルをレイナースの前に突き出す。
「受け取れ」
「は、はい」
レイナースは恐る恐る剣を受け取り持ち手を握ると。
「抜いても?」
「ああ」
ゆっくり引き抜き、一振り。
空気の裂ける音が響き剣先がピタリと止まる。
「変な癖がなくて、使い易そうです。凄い剣ではあるのでしょうが、ある程度手に馴染むまでは分からないですね」
「そこは仕方ないだろう、だが使い始めればすぐに気づく。その剣の名はデュランダル、魔力を与える事で使い手の能力を上げる効果があり、バランスも良く強力な破壊耐性を持つ、切れ味が落ちることはない」
「なっ、切れ味が落ちないっ、それはまた、能力上昇というのも気になりますが、よろしいんですか、そのような貴重な物を私などに」
「ここで剣を使えるのは私と貴様だけだ、使わずに腐らせておくよりはいいだろう。その剣ももう持たないだろう、早々にデュランダルで慣らしておけ。今の貴様の力とデュランダルがあれば、岩など容易く両断できるだろう」
レイナースが使っている剣はすでに3本目、最初の剣は竜の因子を得た彼女の力に耐えきれず、軽く打ち合っただけで砕けたのだ。
よってランクの低い剣を与え、使わせていたがそれももう持ちそうにない。
「…………ありがとうございます、デュランダル必ず使いこなしてみせます」
岩を切れると聞き、目を見開き驚きながらもそう答える。
「驚くのも分からないでもないが、ここキャメロットは、外の世界と比べれば頑丈な物しかない。自分の力の変化を認識しているつもりだろうが、そこには大きなズレがある事を自覚しておけ。貴様は自分が思っているより強くなっている。いずれ鎧も用意しておく、今のところはそれだけだ。ああそれと、私が渡しておいた連絡用のマジックアイテムを貸してくれ、同盟者と連絡を取りたい」
そう言ってレイナースからマジックアイテムを借り、地下の広場から出て行く。
ワールドアイテムの上昇効果は後からいじるかもしれません
正直何%ですごい効果に見えるのか分からないので
もしかしたら時系列がおかしくなるかもしれません
少し修正させていただきました。
感想でご指摘いただいたナザリックの転移阻害なんですが、自分でも投稿前から気になっていたんですが、あまりいい案が浮かばなかったのでこのようになりました。
正直ご都合主義な感じが否めませんがこれが無いと更にご都合主義になってしまうと思い修正しました。
ネタバレになっている気がしますが元々原作があるのでそこは許してください。
様子見で上昇効果を80%に修正しました