転生してみませんか? 作:RyuRyu(元sonicover)
ドリフェス50連大爆死。どうもRyuRyuです。
さて、後編です。
これで終わればいいんだけれどなぁ。
……終わるかなぁ。
それでは、本編です。
「以上が、これまでのいきさつになります…」
とまあ、昨夜からの経緯を周りを取り囲む裁判官達に説明した訳なんだが。
「……なぁ、俺やっぱちょっと死んできていいか?」
「ダメだよ!とーま君が死んじゃったらつぐみちゃんが悲しむでしょ!」
「いや、だってさそのつぐみに嫌われたんだぞ?つぐみに嫌われた俺に存在価値とかあるのか?いや、無い!」
「……バカじゃないの。そんなこと言って、勝手に死ぬとか言わないで」
「あ、悪い。蘭」
蘭に諌められてからしばらくの沈黙。……え?沈黙?
ちょっと、みんななんか喋って?これって俺を尋問する会なんじゃないの?セガールかなんかなの?
ほらモカも、さっきからずっとニヤニヤしてるけれど、いい加減喋ってみそ?
それに俺、蘭に指示されてかれこれ十数分の正座もそろそろ限界なんですけれど。
「⋯なあ蘭。足痺れて──」
「だめ」
「アッ、ハイ。ゴメンナサイ」
ふぇぇ⋯蘭が怖いよぅ⋯⋯。
小学女児に蔑んだ目で見下されるとか、何その特定の人にしか需要がないシチュ。
そしてまた沈黙。うぅ、四人の視線が痛い。
「にしても、斗真ってホントにつぐみのこと好きだよな」
それまで静観を決めこんでいた様だった巴が妙に居心地の悪い沈黙を破って言う。
「当たり前だろ。兄である俺は妹を一番好きでい続けなければならないんだぞ。……なのに、その妹に嫌われるって……。俺って兄失格だな…。…よし、お兄ちゃんちょっと旅に出てくる」
「だあああっ!もうめんどくさい!ホントに斗真はつぐみのことになるとめんどくさいよな!」
「そんなハッキリ言うなよ巴。泣くぞ?」
そりゃあもう咽び泣くぞ?もうお前らにドン引かれる準備はできてんだからな。
「……ホンットに、そういうところつぐみに似てる」
「……え?」
大泣きするんだからついでに鼻水とか垂らしておいた方がいいよねとか考えていると、蘭が呆れたようにため息混じりにそう言った。
「それって、どういうことだってばよ…」
俺の巫山戯た問いに答えたのは、ずっとニヤニヤしてて喋る気なぞ微塵も無いと思っていたあのモカだった。
「実は、とーま君とまったくおんなじことを考えていたのは、ズバリ、つぐだったのでした〜」
「……いやだから、どういうことだってばよ…」
「つまり、つぐもまた、とーま君と同じく、お兄ちゃんのことが大好きなのです。今日だって、『お兄ちゃんにあんなこと言っちゃった』とか、『お兄ちゃんに謝らなきゃ』とか、ずーっとぶつぶつ言ってたし」
「いや……そんな、まさか……」
「要するに、昨日の夜と、今朝のつぐはすごくすご〜く照れていたので〜す」
「嘘…だろ……?つぐみが…俺の事…す、好き……だと…?い、いや、有り得ない……。だって昨日、大嫌いって……ハサミ投げて…大嫌い……?ああもうダメだ。よし、南極に行こう。宇宙よりも遠い場所に行こう」
「……ねぇ蘭」
「…なに、モカ」
「とーま君って、ひょっとしてめちゃくちゃめんどくさい?」
「なに、今更?」
周りで何か言っているのは放っておいて、南極行くんだからあと三人誰誘おうかなぁ。夕弦でも誘うかなぁ。誰か百万円の封筒落とさないかなぁ。とかいろいろ
……はっ!まさかアイツが百万円拾ったんじゃ……!
「もしもし今すぐ持ち主探すぞどこにいるすぐ行くだから警察には届け出るなよああそうか百万だけじゃ足りないかそうだ俺もバイトして金でも貯めないとなということでオラちょっくらバイト探してくるからまたな」
『え、ちょっと何?早口過ぎて何言ってんのか全くわかんないんだけど。てかバイトって何?アンタまだ小四でしょ?』
「……ああ、いや、ごめん。取り乱した。んで、どうした。なんか用か?」
電話越しに夕弦のため息が聞こえた。なんか俺悪い事したか?……したな。
『はぁ……まぁいいや。とりあえず、今すぐに基地に来て。話はそれから』
「どうした?勉強でも教えて欲しいのか?悪いな。今それ所じゃなくて──」
『いいから来る。わかった?』
「……わかったよ。行けばいいんだろ行けば」
俺が話している途中で遮ってくる辺り、夕弦からの有無を言わせない圧を電話口から感じ、渋々ながら了承した。
電話を切ってさて行こうかと立ち上がると、既に外出の準備を終えた四人が俺のジャンパーとマフラーを持ってスタンバッていた。いやいや、君達も来るの?にしても準備早すぎひん?
▲▽▲▽▲
寒空の下、悴む指先に息を吹きかけながら基地までの道を行く。数日前に降った雪がシャーベット状になって路肩に積み上げられている。正直言って今日は外に出たくなかった。寒いし、引きこもっていたい気分だった。でも前には蘭とモカ、後ろに巴とひまりに挟まれて逃げるにも逃げられない。
まるで護送中の被告人のように歩いていると、基地に行くために作った裏山への入り口にたどり着いた。裏山の斜面には処理されずにそのまま残った雪が真っ白に積り、獣道みたいな道の上には大きさの違う足跡が三つ、基地へと続いていた。
滑る足元に気を付けて基地の扉を開けると、暖房の無い冷え切った室内に夕弦とあこ、それともう一人。
「⋯つぐみ」
言うと、うつむき加減の小さな肩がぴくりと震えて、つぐみがその顔を上げた。
「⋯お兄ちゃん」
弱々しい声がつぐみの口から零れるようにでた。その目は、不安、後悔、様々な色を湛えて気まずそうに俺を直視しようとはしなかった。
──俺だって気まずい。つぐみとここまで口をきかなかったのは初めてだし、前世の俺は一人っ子だったから兄妹ケンカなんてもの自体生まれてこの方一度もなかった。だから、こういう時、どうすればいいのか、どうすれば仲直りする最適解なのかわからない。
でも、前世の俺を引き出してまでわからないというのは現状に対する逃げだというのはわかっている。俺は羽沢斗真だし、つぐみという最愛の妹を持つひとりの兄だ。
ならば、兄として、
「なあ、つぐみ」
俺の声がしんと静まり返ったコンクリート製の小屋の中に吸い込まれ、全員の目が俺に向けられる。呼びかけた事でここに来てから初めてつぐみと目が合った。
「その⋯なんだ。⋯⋯昨日は悪かった。勝手につぐみのアイス食べて、ノックもせずに勝手に部屋に入って。配慮が足りなかった。もっとつぐみの事考えなきゃいけなかった。⋯その、ごめんなさい」
頭を下げて数秒。さっき俺の部屋でも感じた気まずい沈黙が小屋を包む。今、つぐみがどんな顔をしているのか、知りたくもない疑問が脳内を奔った。
「⋯⋯ぷっ。あっはは」
そんな沈黙を切り裂いたのは夕弦だった。
「ちょっ、お姉ちゃん⋯」
場の空気を察したひまりが姉を諫めるように声を上げた。
流石にイラッときた俺も右側の壁際にいる夕弦に非難の視線を送った。
視線に気づいた夕弦は肩を竦めて「てへぺろっ☆」と言わんばかりのウインクと舌出しで俺に謝罪して……してねぇな。おい。つかそれするなら巴にやらせろよ。
俺がさらに強く非難の念を送ったからか、場の空気がよくわからない事になったのか、多分後者だけれど、それを感づいた夕弦は相変わらずケロッとした風に話し出した。
「いや、ごめん。こんなに改まる斗真が珍しくてつい……わかったわよ。だからそんなに睨まないで。……ホントは、つぐみから謝るつもりだったんだけどね」
言いながら、夕弦はつぐみの元へと歩み寄っていく。夕弦が笑った辺りから半身を起こしていた俺は今になって初めて、つぐみが後ろ手に何かを隠し持っているのに気が付いた。
「ほら、つぐみ。次はつぐみの番だよ。斗真に渡したい物があるんでしょ?」
夕弦がつぐみに優しい口調で語りかけ、背中を軽く二度叩く。すると決心がついたのかつぐみの目から不安や後悔の色が無くなった。
「……お兄ちゃん」
「お、おう。なんだ」
さっきまでとは違ってはっきりした声音でしっかりと俺を見据えて言う。
「……ごめんなさいっ!あと、これ!」
つぐみは頭を下げて、両手で箱を差し出してきた。
「……これって」
その箱には見覚えがあった。というか昨日見た。
箱の上にリボンで挟まれたメッセージカードには、昨日の夜に見た、二つの言葉に加えて、もう一つ、色違いのペンで書き記されていた。
「ホントは今朝の渡そうと思ってたんだけど、昨日のことがあって…恥ずかしくて……。それに昨日も…お兄ちゃんにひどいこと言っちゃって……本当に…ごめんなざい」
頭を下げてて表情は見えないけれど、段々と言葉が尻すぼみに、湿り気を持った声色になっていく。
──途端に、俺の中で燻っていた何かがきれいさっぱり無くなった気がした。
俺がこの世界に転生して早八年。つぐみというよく出来た妹を持って早八年。本来いるはずのない羽沢家の長男たる俺は、ここはガルパ本編とは違う世界線だという事である程度割り切ってつぐみの兄をやっていた。
いや、『つぐみの兄』という役を
だから、頭のどこかで「どうせ俺は偽物」という思いがよぎり、その度に自問自答し、その度に自己嫌悪に襲われていた。
それが、昨日のつぐみの「大嫌い」の一言で一層その思いが強まった。もちろん死にたくはなったけれど、それよりも、何より俺の中で「偽物」と開き直ってしまいそうになる自分がどうしようもなく怖かった。
そうしてしまうと、この世界全てがハリボテになってしう様な、そんな気がして、怖かった。
それでも、この世界には、つぐみがいて、両親がいて、夕弦がいて、蘭、巴、ひまり、モカ、商店街のみんながいて。
そういう人達が俺の事を一人の人間、『羽沢斗真』として認識をし、言葉を交わしてくれる。『お兄ちゃん』と慕ってくれる。
──それだけでいいじゃないか。
この世界はこの世界だし、俺は羽沢斗真俺だ。偽物なんかクソ喰らえ。
そう思うと、ずっとつっかえていたものが取れた気がして。
「……ああ。俺こそ、悪かったな」
──情けない兄ちゃんでごめんな。
こうべを垂れるつぐみに自然に手が伸びて頭に触れる。我慢できなくなったつぐみが俺の腰元に飛びついて嗚咽を漏らし出した。
俺はようやく真正面から向き合う事ができそうなつぐみの小さな頭を優しく撫であげるとつぐみは泣き笑いの表情で微笑んでくれた。
妹を持つ兄たる者、「お兄ちゃん」と駆け寄って来れば有無を言わさず受け入れなければならず、助けを求められれば四の五の言わずにアフターケアも含めて最大限の援助をしなければならない。
そして、「大好き」と言われるならば、たとえどんな形であれそれ以上に妹を愛し、兄としての存在を再認識しなければならない。
とある特別な日になら尚更、その意識を強く持たなければならない。
──例えば、それぞれの愛の形を再認識するバレンタインデーとか。
これからよろしくな、つぐみ。
これからよろしくな、この世界。
これからよろしくな、──俺。
寒々しかったコンクリート製の小屋がその時その瞬間暖かく感じたのは、きっと、俺とつぐみの体温だけではないはずだ。
ふぇぇ、終わらなかったよぅ⋯。