転生してみませんか? 作:RyuRyu(元sonicover)
平成最後という文言にありがたみを感じなくなった、どうもRyuRyuです。
そこら中に“平成最後”が溢れかえっているもので、そのうち“令和最初”にも感覚が麻痺する気しかしない今日この頃です。
さて、そんなことは置いておいて。
本編です。長いです。
考えてみた。
もし。もしだ。
つぐみ達がバンドを組まなかったら、どうなるのだろうか。
もしこんな事を前世の俺が2chにスレ立てたりしたら、即炎上、叩かれに叩かれ物理的にも叩かれ、二つの側面からフルボッコにされるだろう。
…生きづらい世の中だった。
本家のガルパ世界なら、Aftergrow結成の発起人はつぐみになっている。
だが、ここはそことは違う世界線。もしかしたらつぐみはピアノすら始めないのかもしれない。
実際問題で、今現在小三のつぐみはまだピアノを始めていない。
最近になって、俺に目標ができた。
ズバリ、Aftergrowのライブをこの目で見る事。
その為に俺に何が出来るか。
一番手っ取り早いのが俺が発起人となってバンドを作ること。言うなればプロデューサーのような事をする。
けれど、それは極力したくない。Aftergrowは五人の絆があってこそのAftergrowなんだから、俺が出る幕は無い、みたいなほとんど綺麗事だけれど、そんな感じ。
次点で、つぐみにピアノを始めさせる事。
多分、音楽をやっていたからこそつぐみはバンドを組もうと言ったんだと思う。自己流の解釈でそう考えた。
それ以外の方法が思いつかない限り、それが一番だろう。
もちろん、世界線が本家と違う訳だから、中二の時に蘭だけ別のクラスになるとは言い切れないけれど。でもまあ、それはその時に考えるとして。
問題はどうやってつぐみにピアノを始めさせるか。もう本家とは事実が異なった以上、どうやってそう仕向けるかがわからない。
「──という訳なんですけれど、どうしたらいいですかね?」
「うーん。僕に言われても、なんでも知ってる訳じゃないから」
「そうっすか…」
やっぱり使えないな、
「あ、今使えなって思ったでしょ。ねえ」
「ソ、ソンナコトナイデスヨ」
「下手くそか」
はぁ〜と溜息をつく死神さん。気分暗いですよー。天気良いんだからもっと明るく行かなきゃ。ハッピーラッキースマイルイェーイですよ。
「とにかく、何かの拍子につぐみちゃんがピアノやりたいって言うかもしれないし、もうちょっと様子見てみたら?ほら、バタフライエフェクトとか言うじゃん?そんな感じでさ、斗真君の言動がもしかしたら巡り巡ってバンド結成まで行きつく可能性だって無い訳じゃないんだからさ」
「……まあ、それもそうかもしれないですけれど」
「それにさ、ここは本物とは違う世界なんだから、君が起こした行動が今後どう影響していくのか楽しみにするのもまた一興なんじゃない?」
「そういうもんですかねえ」
「そういうもんだよ。ほら、こころ様が呼んでるよ」
「はいはい。今行きますよーっと」
盛る夏と書いて盛夏のある日。俺はいつものようにこころの家に遊びに来ている。学年も一つ上がって、特に何か変わった所と言われたら何も無いけれど、週二、三でこころの家に遊びに行くのが習慣化されているくらい。こころも、
「どったのこころ」
「斗真も一緒に遊ぶのよ!何をしようかしら」
「俺はあんまし動きたく無いなぁ。暑いし」
「それはイヤよ。あたし鬼ごっこしたいわ!」
真夏の太陽にも負けないくらいの光り輝く笑顔を振りまくこころ。その笑顔とアスリート並の運動神経で同学年男子相手にドロケイで無双するのをこの前たまたま公園で見た。それはそれは恐ろしかった。ひょっとしたらルパン逮捕も夢じゃないレベル。銭形のとっつぁん、頑張れよ。
「それ俺がずっと追いかける事になるんだけどいいの?」
いや、良くない(反語)。
「こういう日は涼しい部屋の中でまったりするのがいいんだよ。ほら、ニクスだってバテてるだろ」
いつもはこころと走り回っても息一つ切らす所を見ないあのニクスでさえこの暑さでへばってんだ。俺が動いたりしたら干からびたミミズみたいになっちゃう。
「そういうものかしら」
「そういうものなんだよ。ほら、早く部屋戻ろうぜ」
「わかったわ!それじゃあ、屋敷の中で鬼ごっこしましょう!」
「わかってないし結局走ってんだよなぁ」
まあ分かってたけれどね!……はぁ。
▲▽▲▽▲
翌日。
暑いからお外に出たくないと自室に引きこもってた俺に母さんの帰りにダッツ買ってきていいからの一言で見事に吊り出されて、つぐみを道連れに近くのショッピングモールに買い出しに出かけた帰り。茹だるような炎天下の中、家までの道を歩いていた。
「…暑い」
「暑いね…」
「暑いな…」
「暑いよ…」
「暑いの…」
「暑いわ…」
「……もうやめようぜ。暑いがゲシュタルト崩壊してくる」
「お兄ちゃんが言い出したんじゃん……」
「そうか…?そうだったっけ…?そうだったかぁ」
「そうだったんだよぉ」
……もう駄目だこの二人。
いやでもそれほどまでに暑い。今朝の天気予報ではここ十年で最高だとか。つか何回記録更新してんだよ。何なの?ボジョレーヌーボーかなんかなの?
頭の先から足の裏まで、まるで全身の毛穴から汗が止まらない感覚がさっきから続いていて大変に気持ちが悪い。この暑さでいつもおしゃべり好きなおばちゃん達や威勢のいいかけ声で賑わう商店街も今日は人もまばらだ。
「あ〜、お兄ちゃん見て〜。沙綾ちゃんだ〜」
「沙綾だぁ?こんな暑いのに外に出てる訳ないだろ…」
ああ、ついにつぐみがおかしくなったか。これはいけない。早くコンビニでダッツ買って帰らなければ。
「ち〜が〜う〜よ〜。ほら、あそこ〜」
「そんな訳な……いたわ」
つぐみに裾を引っ張られて見た先は、住宅地の隙間に作られた小さな公園。そのベンチに一人、シャンパンピンクの髪の毛を黄色のシュシュで一つにまとめた少女が座っていた。誰であろう、やまぶきベーカリーの長女、ドラムガールの山吹沙綾である。
しかし沙綾の表情がどこか暗い。いつもは周りにいつも笑顔を振りまく快活な娘なのに。
それにこの公園は一人で来るには商店街から遠すぎるし、この暑さの中にわざわざ遠出するのは少し引っかかる所がある。あ、それは俺らもでしたね。
とにかく、ずっとこの場所にじっとしていれば熱中症にもなりかねない。沙綾を見つけていくらか冴えた頭でそう考えた俺は隣で「ぐへ〜」とダレてるつぐみを引きずって沙綾の元へと歩み寄った。
「沙綾」
「っ!…ああ。つぐみに斗真君」
俺達が声をかけるまで気づいていなかったのかびっくりした様に顔を上げて、俺達だと分かると、安心した表情に変わった。
何かあったか聞く前に言っておくべき事が一つ。
「ダメじゃないか。こんな暑い日に外に出るなんて。熱中症になったらどうする?」
ニュアンスは咎める感じではなく、できるだけ優しく、諭す様に注意をする。
「あぅ……ごめんなさい…」
「別に謝る事は無いさ…ほら、温いけどこれで水分補給しな」
沙綾は若干ナーバスになっている様なので、怖がらせない様に軽く頭をポンポンと叩くと、やっぱり沙綾の髪の毛が日光で熱を持っていた。多分結構な間、外に出てたんだろう。
我が家の補充のために幾つか買ったスポーツドリンクから一本買い物袋から取り出して沙綾に渡した。沙綾も喉が乾いていたのか、ごくごくと一気に半分くらいまで飲んでくれた。
「落ち着いた?」
「うん。ありがとう」
「どういたしまして。…にしても暑いな。どっか涼しいとこでも行くか。ここにいたらマジでぶっ倒れそうだ」
軽く伸びをして、
「確かすぐそこにコンビニあったろ。つぐみー沙綾ー、とりあえずそこ行こうぜー」
「お〜」
俺の間延びしたかけ声につぐみの間延びした応えが帰ってきた。沙綾はというと、
「お、おー?」
状況が読み込めずにとりあえずつぐみに合わせて間延びした返事をした。コテンと首傾げながらのそれはマジカワユス。
▲▽▲▽▲
公園から歩いて数分の所にお目当てのコンビニはあった。ありがたい事にイートインスペースがあったのでつぐみと沙綾にアイスと冷たい飲み物を買い与えて、しばらく休憩する事にした。
四人掛けのテーブルに座ってつぐみが沙綾の暗い気分を晴らそうと話しかけている中、俺は少し離れた所でスマホを取り出してある人に電話をかけた。
『──もしもし、斗真君?』
「あ、千紘さん。ちょっといいですか?」
沙綾の母親の千紘さんはすぐに電話に出てくれた。
『いいけど…どうかした?』
言葉では平静を装っているつもりなのだろうが、電話口から伝わる息遣いが切羽詰まった印象を与えた。
「えーと、俺とつぐみで今沙綾を預かっ──」
『そこに沙綾がいるの!?どこ!どこにいるの!?』
娘の名前を聞いた途端に声を荒らげる千紘さん。やっぱりそうだったのね。
「ちょっと、落ち着いてください。特に熱中症にもなってないですし、今はつぐみと一緒にアイス食べてます」
『そう…よかったぁ……』
多分、電話の向こうで千紘さんがヘナヘナと崩れ落ちたんだろう。トサッと何かが落ちるような音がした。
「あの、何かあったんですか?」
聞くと、千紘さんは申し訳なさそうに話し始めた。
『…今日、夫は仕込みの調達で夕方まで家を空けてて、純は保育園でいないから私と沙綾と紗南で水族館でも行こうかって話していたんだけど、紗南が夏風邪ひいちゃて⋯あの子とても楽しみにしていたみたいで、私が紗南の面倒で目を離さないでいたらわたしだけでも行くって家を飛び出して⋯⋯』
「それは⋯なんというか、大変でしたね。紗南ちゃんは大丈夫ですか?」
訳を話す千紘さんの声がどこか疲れたように感じて同情の言葉が口をついた。
『ええ…。今は熱も治まってぐっすり寝ているわ。…ダメね、私。二人の面倒もまともに見れなくて……ゴホッゴホッ』
千紘さんの身体が弱いのは商店街の人の周知の事実だし、何なら俺は前世の頃から知っていた。
それなのに夫の亘史さんとパン屋を切り盛りし、三人の子供を立派に育て上げるのは自分の体調との兼ね合いでとても難しいと思うけれど、それをこなしてしまう千紘さんはそれだけで尊敬できる素晴らしい人だ。
それでも、人間必ず失敗するもので、たまたまそれが今日だったというだけ。当人はそれを気にするだろうけれど、俺はそうは思わない。
「そんな弱気にならないで下さいよ。そんな事無いですって。千紘さんは凄い人だって知ってますし、今日はたまたま沙綾が
『…そうね、そうさせてもらうわ。ありがとう、斗真君。励ましてくれたんでしょ?』
「い、いや俺はただ思った事を言っただけで…」
『ふふっ、どうだろうな〜』
「……そんなに元気なら心配して損しましたよ」
『やっぱり心配してたんだ』
「と、とにかく。紗南ちゃんが良くなるまで沙綾はこっちで預かりますね。何なら純も夕方保育園まで迎えに行きますけど」
『ええ。沙綾をお願いできるかしら。純は大丈夫よ。そこまで斗真君に任せっきりにするのも悪いし、夫に連絡して帰りがけに迎えに行かせるわ』
「わかりました」
その後一言二言交わして電話を切る。最後の方は千紘さんは完全に元気を取り戻した様で一安心した。
スマホをポケットに仕舞うと、それを見たつぐみがお兄ちゃん、と声をかけてきた。
「ん、どうしたつぐみ」
「沙綾ちゃんね、迷子になったみたいなの。ここがどこだかわからないって」
「ま、そりゃそうだろうな」
何せ沙綾のいた公園は駅へ行く道からは大きく逸れている。大方、一人息巻いて飛び出したは良いものの、駅の場所がわからずに彷徨っていたらあの公園に辿り着いたんだろう。そう考えると、俺達が通りかかってよかった。あのままだったら確実に沙綾は熱中症で倒れて紗南ちゃんよりも遥かに危険な状態になる所だった。つぐみのファインプレーだな。
「さてと、沙綾」
呼ぶと、沙綾の目には不安と少しの怯えの色が浮かんでいた。賢くて聡明な沙綾の事だ。俺の電話相手もわかってて、自分の犯した罪もしっかり理解しているだろう。寧ろ今日みたいに一時の感情で行動する方が珍しい。よほど水族館が楽しみだったのかが読み取れる。
「今、千紘さんと連絡を取った。凄く心配してた」
「……うん」
単調な俺の物言いに沙綾はバツが悪そうに視線を下に向ける。
「でも怒ってはいなかった」
「……え?」
てっきりそうなると予想していたのか、うっすらその目に涙を浮かべて眼前に立つ俺を仰ぎ見る。
沙綾の隣に座って、しっかりと目を見て、言う。
「寂しかったんだろ」
瞬間、沙綾の目が大きく見開かれる。図星か、あるいは無意識にそう思っていたのが形となって顕現したか。多分後者。
「解るぞ、沙綾の気持ち。俺も一番上だからな。そんな事もあったさ」
「そうなの?お兄ちゃん」
沙綾の前に座ったつぐみがそう聞いてきた。
「ああ、もちろん。長男長女の宿命だよ」
「しゅくめー?」
「そう、宿命。避けられない運命の事」
『お兄ちゃんなんだからしっかりしなさい』、『お姉ちゃんなんだから我慢しなさい』。
ニュアンスは変われど、弟妹を持つ長男長女が必ずと言っていい程一度は親に言われるこの言葉。世界レベルでの長男長女あるあると言っても過言ではないだろう。
弟妹が生まれると、それまで何事も構ってくれた両親が構ってくれなくなる。それでも構って欲しいと駄々をこねるとその言葉を言われる。俺だってつぐみが生まれて急に塩対応になった両親に言われた事がある。ただガンプラ買って欲しかっただけなのに。なんだか都合のいい言い訳にしか聞こえなくなってきた。
「でもな、沙綾。それを乗り越えてこそ立派なお姉ちゃんになるんだよ」
「立派な…お姉ちゃん…」
「そ。立派なお姉ちゃん」
「斗真君は、立派なお兄ちゃんなの?」
「…どうだろうな。自分で立派って言える程立派じゃないかもな」
苦笑いでそう答えると、斜向かいのつぐみが「そんな事ないよ!」と声を上げた。
「お兄ちゃんは、私の大好きな、立派なお兄ちゃんだよ!」
……。
ぶわっ。
「え!?お兄ちゃんどうしたの急に泣きだして!」
「ごめんねぇ。あまりにつぐみが嬉しい事言ってくれるからぁ…ありがとうねぇ〜つぐみぃ〜」
数分後。
「とにかく、沙綾が立派なお姉ちゃんになるには避けては通れない壁なんだよ」
目をごしごし鼻をチーンとかんで続ける。
「だから、今それを乗り越えようとしている沙綾はちゃんとお姉ちゃんやってる訳だ」
沙綾はこの歳で他人を慮って行動するとても聡明な娘だ。公園をキャッキャと喧しく駆けずり回ってた前世の俺とは大違いどころか比べるのも
「『寂しい』なんて今のうちさ。なら今も楽しもうぜ。そのうち無くなってしまう方が寂しいんだからさ」
まあ、物は考えようだ。一つの物に対する考え方など十人十色を遥かに超える。あくまでそのうちの一つを俺は提案したまでに過ぎない。
「今を楽しむ…。……うん、…うん。そうだね。それがいいかも」
自分で放った言葉を噛み締める様に二度、頷くと、沙綾はカラッとした笑顔でそう言ってみせた。
やっぱり沙綾にはその笑顔が一番似合う。
「おう。そうしろそうしろ。ただ、その前に一つやらなくてはならない事があるんだが、分かるかな?」
逆説部分で沙綾の注意を引き、教師然たる口調で問いかける。
「はいっ」
「はい沙綾」
「…お母さんに謝る」
「はい正解、よくできましたっと。しっかり謝るんだぞ」
元気よく「はいっ」と答える沙綾を見て、とりあえずはこの問題は解決と見ていいだろう。
一段落ついた所で俺もアイスを買って三人とだべりながらちまちまと食べた。結構長居しているけれど、他に誰も客いないからいいよね。
……さてさてさーて。
「どうする?帰る?」
アイスも食べ終えて、手持ち無沙汰な俺達。冷房がガンガンに効いている店内もいい加減寒くなってきた。かと言って外に出るのも嫌だ。あらやだ矛盾。
「荷物もあるし、帰ろうよお兄ちゃん」
「そうだな。帰るか」
床に置いた荷物をひっつかんで立ち上がると、後ろからつぐみと沙綾がとことこと付いて来た。
店員のやる気のない挨拶を背に自動ドアが開くと同時に湿った熱気がむわっと身体を包んだ。
「⋯⋯やっぱりもうちょい中にいようぜ」
「⋯うん。そうだね」
15話でした。
ちなみに作者はハーゲンかダッツかと言われたらダッツ派です。抹茶が好きです。