転生してみませんか? 作:RyuRyu(元sonicover)
エッチな平成生まれ、どうもRyuRyuです。
読者の皆々様はこの十連休をどうお過ごしでしょうかね。
ちなみに作者は寝ます。ただひたすらに寝ます。ゴロゴロします。お外に出たくない。なんなら布団からも出たくない。
おっと、つい本心が。いけませんね。休日はだらけてしまう。
それでいいじゃないか。本編です。
「……っと、こんなもんか」
呟いて、ヘッドホンを耳から外して首にかける。肩にかけたストラップを外して、そっとラックに立てかける。
昨日の夜に磨き上げた流線型のボディが部屋の照明に反射して白く光る。
──ついに買ったぜ。
先週、つぐみと沙綾とSPACEでライブを見たその日のうちに俺とつぐみは母さんにそれぞれギターとキーボードを、沙綾は千紘さんにドラムセットをねだった。両親は喜んでつぐみにキーボードを買い与え、俺には初心者という事でギターやら教本やらが詰まったスターターキットみたいなものを密林でポチってくれた。
それで届いたのがつい三日前。ネットで買った安物だけど、それでも梱包を開けた瞬間は何て言えばいいのか。……そう、彼女の言葉を借りるなら、「キラキラドキドキ」した。ああ、ランダムスターを初めて見た香澄ってこんな気持ちだったのかなぁ、としみじみしながらも、早く弾きこなせるようになりたいと腹の底から湧き出てくる高揚感を抑えきれなかった。
それから三日間、積みゲーの処理もそっちのけで教本片手に自室でコードの練習に費やした結果、簡単な曲はたどたどしくも弾くことができた。
時計を見れば、時刻はもうすぐ夕方の六時を指し示そうとしている。一時くらいに昼食を食べたから、かれこれ四、五時間はずっとギターを手に持っていた事になる。
「お兄ちゃーん、そろそろ行くってよー」
「おー、りょーかーい。今行くわー」
ドア越しにつぐみが呼びかけてきた。つぐみもここ数日は楽譜片手にキーボードを弾く毎日で、両親は近い内に俺とつぐみを音楽教室に通わせるとこの前言っていた。両親としても、今まで特に何かに熱中する事が無かった俺達兄妹が初めてと言っていいくらいに見つけた趣味という事で音楽を始めると言った俺達にそれこそ諸手を挙げるようにいろいろと買い与えてくれたりした。
階下のリビングにつぐみと降りると、母さんが店仕舞いを終えた父さんと夕方のワイドショーを見ていた。
「あ、斗真。大分まともになってきたじゃない」
そもそも楽器を弾く目的で建てられた家ではないから、防音対策がそこまでされていない俺の部屋は──まあつぐみの部屋もなんだけど、割と音が漏れやすい。だからというか、両親は俺達の練習する音をBGMに家事やら新聞読んだりやらするようで、こうやって感想を言ってくる。小っ恥ずかしいけれど、そうやって言ってくれる人がいるのが少し嬉しい。
「…そう。まあありがと」
照れ隠しに素っ気なさげに言う俺を見て、両親に加えてつぐみまでニヨニヨしだす。なんだこれ、普通に恥ずいわ。
「……今日たぬき屋行くんだろ。早く行こうぜ」
足早に玄関に向かう俺にはいはい、とニヨニヨ顔で後をついて行くマイファミリー。ああ、なんか背中がムズムズするぅ!
「まあ、つぐみも始めた時よりかは上手くなってんじゃねぇの?」
「そ、そうかな……。えへへ…」
照れ臭そうに頬を掻きながらお好み焼きをもそもそと食べるつぐみはめちゃんこ可愛いです。あ、やけどしないように気をつけてね。
毎月恒例のたぬき屋での親睦会。商店街の役員が今後の方針などを酒を飲みお好み焼きを喰らいながら愚痴混じりに語り合う、大人達にとってなくてはならないのかどうか知らないけれど、そんな感じの集まり。まあ父さんがこの前そんな事を言っていたからそうなんだろう。その時に父さんが妻の愚痴も言えると言っていたのを母さんに聞かれて夕飯抜きになったのは別の話。母さんも似たような事を一昨日言っていたからどっちもどっちな気がする。
ともあれ、会長の巴パパの音頭によって始まった今月のどんちゃん騒ぎ。俺、つぐみ、巴、あこ、沙綾、はぐみの子供組は一つのテーブルでもんじゃ焼きをつついていた。
話題は夏休みの宿題の話から音楽の話へ。専ら俺とつぐみと沙綾が体験したライブの日についてで持ちきりだ。
「それでね!凄かったんだよ!なんかこう、ぶわーって来る感じで!」
「うん!なんだか、どどーん!みたいな!」
あの音の凄まじさを感覚的にでしか言い表せていない二人、ちなみに前者がつぐみで後者が沙綾である。うん、まあ気持ちは分かるよ。俺だって多分どばばばーんとかびゅーんとしか言えないと思うもん。どこぞの氷川妹だよ。るんっ♪ときたってか。
「そういや、沙綾、ドラムセットっていつ届くんだ?」
親睦会もつつがなく進み、巴の作ったお好み焼きを食べながら俺は沙綾にそんな事を聞いてみた。
「明日か明後日だってお母さんが言ってた」
「そうなんだ!楽しみだね沙綾ちゃん!」
ギターやキーボードはそこまで置き場所には困らないけれど、沙綾が注文したドラムセットはそれなりに場所を取るし、他と比べて費用もかさむ。そういうわけで家族会議の結果、電子ドラムを購入する事になったという。これで沙綾もドラムガールへの道を歩み出すと考えると……。なんだろう、感慨深いなぁ。
「そうかー沙綾がドラムを始めるのか。アタシも負けてらんないな」
自分で作ったお好み焼きの出来に満足気に頬張る巴が、沙綾の言葉を聞いてそう呟いた。
「そっか、今年から巴も太鼓叩くんだっけな」
毎年八月末に行われる町内会の夏祭りのメインの催しの一つとして商店街有志による和太鼓演舞の演目に出演するのが宇田川家の慣わしみたいになっていて、ついに今年から巴も演舞に参戦する事となった。
「ああ!楽しみにしててくれよな!」
自信たっぷりにそう言う巴を見て、小三のくせになんだこのイケメン度合いはとか思いつつ、やっぱり巴は巴だなという素直な感想を持って俺は頷いた。
「えー、縁もたけなわですが、商店街から、いや町内会から、いや行政の方から先日重要な通知がありましたので、ここで初出ししたいと思いまーす」
親睦会という名の飲み会も終わりに近づき大人達はシメのビールを、子供組はあこの持ってきたSwitchで楽しく大乱闘していた時、真っ赤な顔の巴パパが立ち上がって声高らかにそう言った。そもそもビールってシメに飲むものだっけか?俺未成年だから知らんけど。それと俺は64の時からカービィ一択です。あの驚異の落下死亡回避率。大好き。かわいいし。
「えー、来年度からですね。隣町の羽丘女子学園が共学になる事が決定したそうです」
どうせ酒が無くなったとかいう酔っ払いの戯れ言だろうと高を括り、巴のガノンドロフをピコピコハンマーでぶっ飛ばした時だった。
その宣言に大人達は今言うことかみたいな表情を浮かべながらもそれぞれの反応を見せていた。
もちろん俺も今言う事かとは思った。めっちゃ思った。けれど、次第にその言葉の意味を理解してくると、驚愕以外の感情がでてこなかった。思わず操作を止めてしまった隙にはぐみのアイスクライマーにぶっ飛ばされたけど、そんな事は今どうでもいい。
羽丘が共学化だと…?
何そのバンドリss展開。違う世界線とはいえご都合すぎてちょっと言葉が出てきません。
さらに得意気に話す巴パパによると、同じ地区に女子高は二つもいらないだろという事になって両校の校長と理事長による綿密な話し合いの結果、じゃんけんに負けた羽丘が共学化する流れになったとか。
……いや、俺だって思ったよ?マップ画面見て「これ近くね?」とは思ったよ?思ったけどさぁ…そんなんでいいのかよ。そんな簡単に変わっちゃっていいのかよ。下手したらバンドリの世界が根底から覆らないか?つか、綿密な話し合いどこいった。もっと話し合えよ。
……にしてもホントにこれから先どうなるのかが全く分からなくなった。…はっ!果たしてこれもシュタインズ・ゲートの選択なのか……!?
エル・プサイ・コングルゥ。
△▼△▼△
週末。思い思いの水着を着てキャッキャと騒ぐつぐみ達を横目に俺はゆらゆらと揺蕩う水面に釣り糸を垂らしていた。
家から車で二、三時間くらいのキャンプ場。毎年訪れるこのキャンプ場だけど、今年はいつにも増して暑い気がする。伊達に毎週のように記録更新するだけある。今日だって八月の下旬に差し掛かっているのにも関わらずまたなんかの記録を更新したらしい。
これも地球温暖化の影響なのかと思いつつ、二酸化炭素排出削減の為にリア充は速やかに爆発してくれないかと川の上流の方でキャッキャウフフしてるカップルを見ながらそんな事を考えていると、クーラーボックスを抱えて誰かが俺の隣に座った。
「やあ斗真君。釣れてるかい?」
その声に俺は答えず、黙って傍らに置いてあったバケツを指さした。バケツの中には、ここ二時間で釣り上げたアユが二匹窮屈そうに泳いでいる。声の主はそれを見てははは、と苦笑い。わかってますよ。どうせそのクーラーボックスの中にうじゃうじゃいるんだろ。
「俺が上流で釣ってたのが悪かったのかな。いやぁ、済まなかったね。何なら夕食の時に何匹か分けてあげるよ」
「⋯⋯何なんですか嫌味ですか気にしないでくださいそれにどうせ焼いたら誰が釣ったものなのかわからなくなるんで大丈夫ですから」
一息で言い切ると、隣ではっはっはと声をあげて笑う蘭パパ。「では、俺も失礼して」と隣で手早く餌を釣り針につけるとピューンと投げた。いつもの袴じゃなくてアウトドアスタイルで釣り竿を持つ姿はとても華道の名門当主とは思えない。もしかしてこの人毎週末海釣りしてない?
水面にプカプカ浮かぶ二つの浮きを黙って眺める事暫し。そういえば、とふと思った事を蘭パパに聞いてみた。
「そう言えば、羽丘が共学化したみたいですね」
「…そうみたいだね」
蘭パパはピクリと眉を動かすと、前を見たまま返してくる。
「……」
「……」
会話が続かない。気まずいとかそういうのではないけれど、比較的口下手の人が集まったらこんな感じになるような沈黙。
かと言って何とかして会話をひねり出そうとか互いにせずにただ目の前の浮きをボーっと見るに落ち着く。
水辺特有の涼しい風が心地いい。未だにピクリとも動かない浮きを見ながら、俺は最近考えていることについて考えを巡らせた。
──俺の、彼女達の進路について。
羽丘の共学化という出来事が今後どういう風に影響を及ぼすのかわからない限り、俺の何気ない言動で大きく改変してしまう可能性もある。
なるようになれ主義の俺だけれど、Aftergrowのライブを見たいという目的において、なるべくガルパ本家の流れに沿うように立ち回れればと思っている。でも、そう思っているだけであって、その中で起きた事でに関しては、まあ、なるようになれ、だ。
もちろんそれぞれの親の教育方針とかでいろいろと変わってしまうのかもしれない。けれどそんなことまで言ったら不確定要素が多すぎて、それこそ未来予知が使える超能力者とかではない限りどうにかしようとしてもどうにもならないのは目に見えている。
仮に、つぐみが、蘭が羽丘ではなくて花咲川を選んだら、普通の公立中を選んだら、どうなるんだろう。
そんな益体も無いことを考えてしまう。そんな自分が時々、嫌になる。
「⋯⋯蘭は」
「⋯ん?」
だから、隣で二匹目のアユを釣り上げた蘭パパにこんなことを聞いてしまうのも、そんな言葉が口から出てしまうのも、俺にとっては一抹の嫌悪感しか残らなかった。
「蘭は、どうするんでしょうね」
「……ほう。どう、とは」
蘭パパの興味深そうな、それでいてどこか懐疑的な声音で初めて俺が不躾な事を言ってしまったと自覚した。
「あ、いや。別にそういうのじゃなくて…その……」
「ああ、怒っている訳じゃあないんだよ。そうだね…」
目線は外さぬまま、蘭パパはしばらく考えるような素振りを見せた後、徐に口を開いた。
「蘭の好きなようにさせるかな。君が何を思ってそんな事を言ったのかは知らないけれど、蘭が行きたいと言った所に行かせるつもりだよ。それが羽丘でも、花咲川でも、ね」
△▼△▼△
その日の夜。俺達はテントを抜け出して天体観測に繰り出していた。
見上げれば、東京のくすんだ空では到底お目にかかれない小さな星々がはっきりと目視できるくらいに、夜空のスクリーンいっぱいに映し出されている。
「うわぁ、キレイだね!」
「うん。ホントにキレイ」
「ああ、すごいな。これは」
「ねえねえとーま兄ちゃん、かっこいい星座ってある?」
「ほらほらー、あそこに見えるのがパン座だよー」
「いや、パン座とか無いから。モカ」
「そうだな。…あ、ほら、あれがデネブ、アルタイル。んであそこがベガ。夏の大三角だ」
「何聞きっ齧りのアニソンの歌詞を自慢気に言ってるのよ」
「……なんでお前知ってんだよ」
「べ、別にいいでしょ。たまたまテレビでやってたの見ただけだし」
「へー、ほーん。そーですか」
「……な、何よ」
「いやぁ、べっつにー?」
ムスッとした顔で聞いてくるけど、それ深夜アニメなんだよなぁ。たまたまテレビで見たんだ、へぇ〜。
「ねえお兄ちゃん、織姫様ってどこ?」
「ああ、織姫は確かベガだから、ほら、あれだな」
俺の指さした先を見て「あ!やっと見つけたよ織姫様!」とはしゃぐ。
「あれ、でも彦星様はどこ?」
「そうだねひまり。あれじゃひとりぼっちだね」
「お前らわざとやってないよな!?」
「え、何の事?」
キョトン顔のひまりとつぐみの横で夕弦がにやり。くっ、やはり貴様か!
「……二人して何やってんの?」
俺と夕弦が夜空そっちのけでギャイギャイしているのをその横で蘭が呆れたようにぽつり。いや、俺だって知りたいっす。
それから七人で夜空の星を見上げている事暫し。あこは既に巴の横で寝息を立てている。
「ねえお兄ちゃん」
「ん?どうした」
「沙綾ちゃんにも見せたかったね」
「…」
つぐみの言わんとする事は分かる。なんなら俺も同じ事を思っていたから。
やっぱりなかなかどうして思い出してしまう。あのサイリウムの海を。輝くステージライトを。
「…ああ、そうだな」
△▼△▼△
あれだけ騒がしかったつぐみ達もぐっすり眠る夏の夜。どうにも眠れない俺はこっそり外に出て夜空を眺めていた。日中はあんなに賑やかだった河原も、今は少し遠くでウェイ系リア充の笑い声しか聞こえない。静かな風に言ったけれど、割とうるさかった。
ぼーっと星空を見ていると、ザッザッ、と砂利を踏む音が近づいてきた。音のする方を見ると、ジャージ姿の夕弦がスマホのライトで足元を照らしながらこちらに向かって来ていた。
「……」
「…眠れなかったから。星をまた見に来ただけ」
何も聞いてないのに、ただ見ていただけなのに勝手になんか喋りだした夕弦は隣に座ると、「っああぁー」とよくわかんない声を漏らして寝そべった。いや、あんたオッサンかよ。
「……ねえ斗真」
しばらく二人無言で空を眺めていると、夕弦がどこか真剣味を帯びた声で訊ねてきた。
「ん?」
「斗真はさ、中学校はどうするの?」
「は、お前何言って──」
呆れ混じりに横に寝転がる夕弦を見ると、夕弦はこちらをずっと見つめていた。俺は不安気な色を湛えた夕弦の瞳を見て、二の句が告げなくなってしまい、もう一度、天上に視線を向けた。
「…どうだろうな。まだ一年以上も先の話なんだ、今頃どうこう言っても何も変わんねぇだろ」
「……そう、だね」
フッ、と寂しげな笑みを浮かべて夕弦は起き上がり、膝を抱え込む。少しだけ日に焼けた夕弦の顔が星明かりに照らされる。
「私はね、まだ皆といたい」
そうして始まったのは、夕弦の独白。俺がポカンとする中、夕弦は訥々を話し始める。
「さっきみたいに皆とこうやって星を見たり、川で遊んだり、他愛の無い事で笑い合ったり。もちろんここにいないけど沙綾とかはぐみだったり、こころちゃんとも。基地で遊ぶのも楽しかった。私達だけの秘密基地ってすごくワクワクして、すごくドキドキして。最後に皆と見る夕日はすごくキラキラしてて…、それで私はやっぱり、この時間が大好きなんだなぁって思うの。ううん、大好きなんかじゃ収まりきらない。かけがえのない、ずっと大事にしていかなきゃいけないモノなんだと思う」
そこで一息つくと、夕弦は俺の方に向き直り、微笑んだ。さっきまでの寂しげな笑みではなくて、慈愛に満ちた、小学生だという事を忘れさせる優しい微笑み。
夕弦の独白は尚も続く。
「それでね、その中にはいつも斗真がいるの。いつも斗真が中心で皆は斗真の背中について進んでいくの。少し無愛想だけど、優しくて、カッコよくて、だけどどこか抜けてて、それでいてシスコンな斗真が私は大好き。でもこの大好きはきっと恋愛的な大好きじゃなくて、なんて言ったらいいのかな…。友達として?仲間として?…うん。そう、…親友として、かな。赤ちゃんの時からずっと一緒にいて、他の誰よりも斗真の事を知っていると私は思ってる。けど、それは知っている事だけ。時々斗真がホントに同い年なのか分からなくなるくらいに大人びて見える時があるし、今も斗真が何で悩んでいるのかもわからない。なんでもかんでも斗真の事を知りたいとは思わないけど、それでも私は斗真の事をもっと知りたい。だから私はこれからも斗真の傍で斗真をずっと見ていたいの」
「……親友として、か」
「うん。親友として、ね」
そう言う夕弦の瞳には不安の色は消え、数多もの星の輝きを反射させている。
恐らく、というか確実に夕弦の言った事は嘘偽りの無いありのままの夕弦の本音。傍から見れば告白紛いの親友申請だけど、俺にとってみれば、それはもうある意味では告白と同義な訳で。
「……俺は、お前の事を知りたいとは思わない」
本音に対して返す言葉は、いつだって本音な訳で。
「今、お前が何を思って長々と語ったのかはわからない。わからないし、分かろうとも思わない。でも、お前が俺の親友として俺の傍にいたいって言うのなら、俺は何も言わない。…まあ、俺の事を知りたいだけ知ればいいんじゃねぇの」
そう言うと、夕弦は半口空けて目を丸くする。え、俺何か変な事言ったか?
「…ぷっ。あっははは」
と、今度は声をあげて笑いだす夕弦。もう何が何だかわからない。
「…んだよ」
「いやぁ、なんでも。デレたら可愛いなぁってだけ」
「うっせ」
なんだか吹っ切れたように夕弦が俺を見つめる。
でもなんだろう。いつもみたいに鬱陶しく感じない。それどころかこのやり取りが心地よく感じている自分がいる。なんか変なのに目覚めちゃったのかしら。
「あはは。…私ね、バスケのコーチから神奈川の方のバスケの強い中学校に推薦で行ってみないかって言われたんだ」
「…は?」
突然の夕弦の告白に一瞬固まってしまう。
「でも、私決めた。斗真と一緒の中学に行く。コーチに断って、斗真の傍にいる」
「……そっか」
いろいろ言いたい事もあった。なんで今言うのかとか、なんで俺に言うのかとか。でも、夕弦の決めた事にとやかく言う筋合いは俺には無いと思い、諸々のセリフを押しこんで、ただ肯定の言葉を紡いだ。
「だからさ、これからもよろしくね!親友」
立ち上がって、ニシシと笑って、こちらに手を差し出してくる夕弦。星明かりに照らされた彼女を見て、俺は不覚にも、魅入ってしまった。
「あ、ああ。こちらこそよろしくな。親友」
手を取って立ち上がると夕弦と目線が合う。こんなに夕弦って背高かったっけとも思ったけど、なんだかそれすらも可笑しくなってどちらからともなく二人で笑い合ってしまう。
「さあ、戻るか」
「うん。そうだね」
二人並んで歩く河原道。互いに本音をぶつけ合っても互いの距離感は変わらない。
けれど、変わらないモノもあれば変わっていくモノもある。それが互いの関係なのか、どうなのかは誰も知らない。
空を見上げれば、天の川を挟むようにしてベガとアルタイルが幾光年もの刻を越えた邂逅を喜ぶように燦然と光輝いていた。
18話でした。
あれぇ、なんでだろ。気づけばこんなに長くなっちゃった。おっかしーなー。
…ま、いいや。
という訳で、皆様、令和の時代もこの作品をどうぞよろしくお願いします。
ではまた19話で。