転生してみませんか? 作:RyuRyu(元sonicover)
今一番行きたい場所は京都と北海道、どうもRyuRyuです。
祇園祭りを死ぬまでに一回は見たいんですけれど、盆地特有の暑さで見る前にダウンしかねないかが唯一の懸念材料です。
という事で本編どうぞ。
御茶ノ水駅近くのカフェ。牛込の提案から数十分後、俺と牛込はテラス席で俺はブレンドコーヒーを、牛込は抹茶ラテを飲んでいる。
美味しそうに抹茶ラテを飲む牛込の横には真新しいギターケースが立てかけられていて、その中には牛込があの店で買ったギターが入っている。
俺より店主の方が詳しいという事で結局は店主と牛込の二人で相談をし、俺は引き続き店内を物色していた。
最終的に、牛込は自分前まで使っていたベースと同じモデルの白いギターを購入し、俺の知り合いという事でなんと割引もして貰っていた。
そのお礼という事で今に至るのだけれど、それにしてもこの牛込、よく喋る。
「それでね、その時にりみがね⋯⋯あ、りみって妹なんだけど──」
⋯⋯本当によく喋る。話すのか飲むのかどっちかにしろ。
「私が先にベースを始めた時なんか、りみが私もやる! って可愛くて可愛くて」
「あー、はいはい」
「ちょっと、聞いてるの?」
「聞いてるとも。それで、アコーディオンを擬人化するならどういう設定がいいのかって話だったっけ」
「全然そんな話してないし、そもそもどこから擬人化が出てきた」
「やっぱ出身はイメージ的にスイスとかその辺か⋯⋯?」
「いや、説としてはオーストリアのデミアン説が有力だからその辺りなんじゃない」
「⋯⋯よく知ってんな」
「まあね。オーストリアの他にもドイツとかロシアの説もあって⋯⋯あ、でも、アコーディオンの楽器の種類のルーツは中国だからもしかして中国が正しいのかな⋯⋯ってぇ!」
一頻り蘊蓄を垂れ流したと思ったらいきなりテーブルを叩いた。思ったより痛かったのか手をひらひらさせている。アホか君は。
「聞いてるの!? 話聞いて?」
「や、さっきからずっと妹の話しかしてないじゃん。何、シスコン?」
「シスコンじゃないわよ。ただりみの事を愛しているだけよ」
「それがシスコンなんじゃん」
会話にデジャブを覚えない事も無いが、埒が明かない。
というより、どっちかといったら俺達とシンパシーを感じる。どういう事かと言うと、俺や夕弦や巴と話が合う。
「そういえば」
抹茶ラテを半分くらい飲んだ所で牛込が切り出した。
「羽沢君もギターやってるんだよね」
その質問に俺はさっきアキバで買ったラノベを読んだまま答える。
「まあ、うん」
「いつ始めたの?」
「んーと、小五だったかな」
「へぇ、そうなんだ」
「牛込はどうなんだ。いつからベース始めたんだ」
「えと、りみが小二の時だから小四だっけ」
「思い出すのに妹基準とか……」
かく言う俺もギターを始めた時期をつぐみの歳を基準に覚えている辺り人の事など言えるはずもないのだけれど。
「うっ、いいでしょ別に……」
「まあいいけど」
それきり会話は途絶え、両者の間を沈黙が流れる。俺はコーヒー片手にラノベを読み牛込は抹茶ラテを啜りながら街並みを眺める。
流れる沈黙も気まずくはなく、どちらかと言うと沈黙の中でも過ごしやすく、心地よい類の沈黙。夕弦とつぐみ以来だなこういうの。
牛込がこの沈黙をどう思っているのかは知らないけれど、俺がまったりとしていると、どこからか視線を感じるようになった。チラリと牛込を見るも、牛込は相も変わらず昼下がりの御茶ノ水の街をぼんやりと見ている。
その向こうに視線を遣ると、何人かの通行人が通り過ぎる時に俺達を一瞥していた。
はて、どういう事だろうか。俺か牛込の顔に何か着いていたりするのだろうか。抹茶ラテを口の端に付けたまま呆けた顔で街を見る牛込とか、ネタでしかないのだが。
折角の時間に水を差された様な気持ちになって、今度は俺から話を振ることにした。
「……なあ牛込」
ラノベの文字を追いながら、牛込を呼ぶ。
「ん?」
「……なんでギター始める気になったんだ? ベースやってたのに」
聞くと、牛込は徐にスマホを取り出すと一つの動画を見せてきた。見る限り、ギターの演奏動画か。
広いスタジオにはどれも高そうな音楽器具があって、その中心に人がギターを携えて立っている。
黒を基調とした衣装に黒いマントを羽織い、首にぶら下げているギターは照明に反射してそのボディを艶やかに輝かせている。
その人の表情は仮面を付けているせいで分からないが、体形的に恐らく男性だろう。
そして一言も言葉を発しないまま、その人は演奏を始めた。曲はEGOISTの『名前のない怪物』。演奏者の格好に似合った中二病感全開の歌だ。
メロディーに乗り、ギターを掻き鳴らす姿はさながら怪物のよう。
というより、これって──。
「この人がギター弾いてるの見てかっこいいなぁって思って。私も中学に上がったし、新しい事始めようかなとは思っていたから……って、どうしたの羽沢君。顔赤いよ?」
「……いや、なんでもない。そうかそうか。なるほどねぇ……ちょっとトイレ行ってくる」
「あ……うん。行ってらっしゃい」
牛込に一言告げ、早足でトイレに駆け込む。
ドアを閉めて鍵をかけ、便器に腰掛けると俺は頭を抱えた。
「────っ!」
ああああああああぁぁぁっっっ!!
なんで、ねぇなんで!? どうして牛込がそれを見てんの!? 待ってすげぇ恥ずい! 同級生に黒歴史見られるとか想像以上に恥ずいんですけど! いやまあ確かに投稿した時点で全世界に拡散されたけれどまさかこんなにも早く同級生に見られるとかあまつさえかっこいいって! かっこいいって! それにこれ見てギター始めるとかいいのかよそれで! そんなんでいいのかよ! ああもう恥ずい! 面映い! 忸怩! 穴があったら入りたい!
「……ふぅ」
落ち着け落ち着けモチつけ。深呼吸だ深呼吸。ひっひっふぅ。
……よし。
とにもかくにも、牛込に俺がギターをやっているという事を知ってもらえただけで僥倖だ。何、現在順調に再生数を伸ばしつつある動画のいち視聴者が牛込だったってだけの事だ。俺が恥じる事ではない。そうだよ。ここは「見てくれてありがとう」とキメ顔で言うのが正しいのでは? 違いますね知ってますよ。
火照った顔をどうにか沈め、もう一度深呼吸。多少落ち着いた所で俺はトイレを出て席に戻った。
「あ、おかえり。大丈夫? お腹壊したの?」
「あ、ああ。そんな所だ」
トイレにて羞恥で悶え苦しんでましたとか言えるわけがない。
「そっか。お大事に。でさ、さっきの続きなんだけどさ」
「あ、あーいっけないもうこんな時間だそろそろ俺帰らなきゃー」
「え、あぁ……もうそんな時間なのね」
誤魔化すようにスマホの画面を見ると時刻は帰宅するにはちょうどいい時間になっていた。具体的に言えばプロ野球のナイターが始まる時間。最近は日が経つにつれ陽が長くなっている。
「それじゃあ、帰りましょうか」
「ああ、そうだな」
△▼△▼△
「──で、なんでいんの?」
「いや、最寄り同じじゃん」
「そうだっけ」
「同じ中学でしょうに」
秋葉原駅、山手線のホームで牛込ゆりと再会したのは御茶ノ水のカフェで「じゃあまた休み明けに」と別れの挨拶を交わした十分後の事だった。
これから時間帯は帰宅ラッシュに入るという事で、行きとは別のルートで帰ろうとしたら、考えていた事は同じだったみたいでまたこうして顔を会わせた。帰宅ラッシュにわざわざ新宿経由で帰るのは自殺行為でしかないからね。
それでもこの時間帯はどこも混んでしまうのが日本の首都。幾らか身体の自由が効くとはいえ、車内は満員電車と言っても差し支えないくらいに混みあっていた。
「混んでんな……」
「そうだね」
「まあ、仕方ないか。ほら、ドア横取っとけ」
「あ……うん。ありがとう」
混雑に巻き込まれない様に牛込を誘導し、俺はその横に立つ。多分この混雑も上野までだし、牛込にはそれまで我慢してもらおう。
──と、思っていた時もありました。
「んっと、悪ぃ」
「えっ、いや……気にしないで……」
上野を過ぎてからも乗ってくる客に押されてバランスを崩し、牛込の方に凭れかかるのをドアに手を突く事で何とか逃れる。
突いた手がちょうど牛込の顔の横にいってしまい、不可抗力とはいえ俺は電車内で牛込に壁ドンしてしまっている。何このベタ展開。
「……」
「……」
カフェにいた時とは全く違う沈黙が俺と牛込の間を流れる。
「……最寄りどこだっけ」
気まずさに耐えきれず、苦し紛れに牛込に聞く。
「本当は池袋なんだけど、大塚から荒川線に乗り換えて花咲川」
「あー、この時間の池袋も地獄か」
「そう。てかさっきも言ったじゃん」
「そうでした」
そんな会話で幾らか緊張が解けた単純な俺達は、この混雑から解放されるまで取り留めの無い話で時間を潰した。
大塚駅を降りて都電荒川線に乗り換えると途端に乗客は減り、夕陽が差し込む車内に牛込は座り、俺はドア横に立って流れる街並みを眺めていた。
後ろに座る牛込を一瞥すると、誰かにメッセージを送っている様でスマホと向かい合っている。
視線を窓の外に移すと、咲き始めのバラがちらほらと見える。
俺と牛込が降りる駅まであと少し。俺は今日一日を思い返した。
まさか牛込と会うとは思わなかった。
学校という閉鎖空間で毎日の様に顔を会わせているのを除けば、休日の街中で、ましてや地元から離れた所でばったり出会すというのは中々レアな出来事ではなかろうか。よく一億三千万分の一と言うが、百分率に直せば0.000,000,77%。クソゲーのSレアガチャでももっと確率は高い。そう考えたら中々どころか奇跡にも近い確率とも思える。これが全世界となれば確率も天文学的になって更に希少性が高まる。
とまあ、そんな事を考えていると時間が経つのは早いもので電車は俺達が降りる駅に止まる為に減速を始めていた。
ホームに降り立つと冷たい風が吹き抜けた。最近は気候の変化が季節感を無視している気がしてならない。先週が夏日だと思えば今日は凍て帰りの寒さ。ホント地球さんもっと仕事して下さい。
「ねぇ」
寒さに身体を震わせていると、牛込が俺を呼んだ。見ると牛込も少し寒そうにしている。
「……家、どの辺だ?」
「え? えっと、あっち」
「了解……あとこれ。寒いから着とけ」
着ていたパーカーを脱いで牛込に投げ渡す。牛込は突然の事で何が何だか分からない様子。
「あ、ありがとう……え、どういう事?」
「近くまでだけど送ってくから」
「そ、そう」
「そういう事。んじゃ、道案内よろしく」
言って、俺は先を歩く。住宅街は夜の帳が降りようとしていて、上を見上げれば、西の方だけ僅かにオレンジ色を残すのみ。
もうすぐ今日が終わる。かりゆし58の曲を脳内で再生していると、さっきから何かを考えている様だった牛込が声をあげた。
「……ねぇ、羽沢君」
「ん?」
「今日は、ありがとね」
「う……ん? 俺今日なんかしたか?」
「うん。新しいギターも買えたし、抹茶ラテも美味しかったし」
「お、おう?」
「それに私、今まで音楽の話が出来たのりみくらいしかいなくて、今日こうやってりみ以外の人と話せたのが初めてだったから」
そこまで噛み締める言うと、後ろで牛込の歩く音が止んだ。振り返ると、俺のパーカーを着た牛込が後ろ手を組んでニッコリと微笑んだ。
「だから、今日はありがとう」
その表情はとても魅力的で、薄暗い住宅街の中でも一際輝いている様に見えた。
「……おう」
俺はどこか照れくさくなって、そっぽを向いて答える。それを見た牛込は満足気に笑うと、俺を追い越して歩き出す。
その後姿は、どこか俺の親友を彷彿とさせて──。
「それにしても、羽沢君がギターをやってるなんて。一緒に弾いてみたらどんな感じになるんだろうね」
「……さぁ。どうだろうな」
頭の中では相変わらず同じ曲がリピートされている。
──かけがえの無い時間、か。
牛込は今日をどう思ったのだろうか。
一生忘れない様な出来事、とは言わずとも、少なくとも牛込の記憶の中に印象的な出来事として胸に刻み込んで貰えれば。
日が落ち、宵闇が辺りを包む道を俺は歩く。
せめて、前を歩く彼女が今日にやり残した事が無い様に。
24話でした。
ニューヒロイン誕生の予感回でした。
これからちょくちょく出てきますよ。何気に重要キャラだったり。
さて、次回でこの作品も25話です。何かとキリのいい数字という事で、もう少し牛込ゆりちゃんには頑張って貰おうと思っています。
毎度の事ながら、感想、お気に入り登録、高評価等々、ありがとうございます。
次回をお楽しみに。
ではまた25話で。