転生してみませんか? 作:RyuRyu(元sonicover)
10連1回でハロウィンありさあやが出てきて外出中だったのに関わらず割と大きな声で「ふぁっ!?」と言ってから数分間思考停止した、どうもRyuRyuです。
めちゃくちゃ嬉しかったけどめちゃくちゃ恥ずかしかったです。
作者の自慢はここまで。
では、本編です。
牛込ゆりと結成したバンドは、二ヶ月後の文化祭に向けて順調に練習を重ねていた。
初ライブを文化祭でやりたいと言い出した牛込には初め何を馬鹿な事をと思ったけれど、ウキウキ顔でギターのチューニングをする姿を見て何も言えなくなってしまった。
先日、SPACEで互いの音を聴きあった時に、牛込にはベースも持ってきて貰うように頼んだ。
牛込はギターに関しては全くの初心者だから念の為、と思ったけれど、杞憂だった様で、最初の三十分くらいは本数の増えた弦に苦戦したものの、俺の予想以上に早く克服してくれた。同じ竿物という事で親和性が高かったのか、それとも牛込にそういった音楽センスがあるのか。
あと二ヶ月、されど二ヶ月。まあ何とかなるだろう。
何はともあれ、バンドの出だしとしては好調の様に思えた。
そして、今日は次の問題を解決するに当たって弦巻邸に向かっている。
その問題曰く──
「ねぇ、本当にその人って曲作ってくれるの?」
「ああ。昨日電話して聞いてみたら二つ返事でOK貰った」
「凄いね。その人ってあの弦巻家の執事さんなんでしょ」
「まあ……
そんな会話をして着いた弦巻邸の門扉には、まるで出迎えてくれるかの様に一匹の猫が佇んでいた。
「おーニクス。元気してたかー?」
抱き抱えて顎を擦るとゴロゴロと喉を鳴らして手に頬擦りをしてくる。愛いやつめ。
ニクスを抱えたまま弦巻邸の庭を進む。
それにしても遠い。毎度の事ながらそう思う。あれかな。門から屋敷まで距離あるのってお金持ちの家あるあるなのかな。
そんな事を考えながら歩いて数分、漸く屋敷の玄関まで辿り着いた。
「やあ斗真君、待ってたよ」
玄関前で死神さんが俺達を見つけてヒラヒラと手を振るのに俺は軽く会釈で返す。
「どもっす。急に無理言ってすみません」
「いやいや、気にしないでいいよ。それで……そちらのお嬢さんが牛込ゆりさんかな?」
それまで弦巻邸に圧倒されていた牛込が、その言葉で我に返った様に慌てて自己紹介をする。
「は、はい! 牛込ゆりです。あ、あの、この度は本当にありがとうございます!」
「あはは、どういたしまして」
「そんなに畏まらなくてもいいぞ。なんちゃって執事だから」
「ひどいなぁ。僕はこう見えてもちゃんと仕事はしてるんだよ。……まあ、斗真君の言う通り、そんなに畏まらなくてもいいよ。もっとフランクに」
「は、はあ。よろしく……お願いします」
「うん。よろしくね」
「田中さん、そろそろ」
「そうだね。立ち話も何だし、僕の仕事部屋に行こうか。ちょうどさっき一曲仕上がったところだから」
そう言って死神さんは屋敷の中へ。なんだか聞き捨てならないセリフが聞こえた気がするけれど、俺と牛込は特に何も言わず、というか何も言えずについていく。
以下、死神さんの後ろをついて歩く俺の牛込の囁き話。
「ねぇ、今『さっき一曲仕上がった』って言わなかった?」
「ああ。言ったな」
「……まさか、オリジナル曲とかじゃないよね? ていうか、田中さんって元は音楽関係の人?」
「いや、一般大学の出で社会人三年目だぞ」
「よく知ってるわね」
「まあ、俺が赤ちゃんの頃からお世話になってるからな」
「へぇ、意外」
「どっちにせよ、あの人のハイスペックぶりには覚悟しておいた方がいいよ。……あと弦巻家の財力も」
「え? 最後なんか言った?」
「いやなんも」
ここで、俺達のひそひそ話に気がついた死神さんが振り向いて訊ねてきた。
「どうしたの二人して、内緒話?」
「いや、なんでもないっす。それより、今日こころはどうしたんですか」
「こころ様は今日は健太郎君と遊園地デートだよ」
「へぇ、なかなかやるじゃん……とはいかないからね。どうせ、こころがアイツ拉致ったんでしょ?」
「まあね。朝早くに彼の家に押しかけて車までドナドナだよ」
「……相変わらず容赦無ぇな」
流石こころ。バイタリティの塊である。
ともあれ、
「さ、着いたよ」
そんな会話挟みつつ、まるで迷路の様な弦巻邸を進んでやってきたのは屋敷内のとある一室。
そう言えば、俺も死神さんの仕事部屋に入るのは初めてかもしれない。
「ちょっと待っててね。お茶淹れてくるから」
言って、死神さんは部屋を一旦出ていった。
手持ち無沙汰な俺は部屋を見回す。
まず目に入ったのは部屋の中央正面の三面ディスプレイ。
十二畳位の広い個室の中にあって、それが途轍もない存在感を醸し出している。
その傍らにはキーボード。多分あれでさっきまで作曲していたのだろう。
壁には天井まで届くかというくらいに背の高い本棚が一面に広がっていて、文学小説から実用書、百科事典に外国の本、果ては六法全書までありとあらゆる書籍がピッシリと詰まっている。
「おまたせ。斗真君はブラックで、牛込さんは……はい、一応ガムシロも持ってきたから好きに使ってね」
数分後、トレイにカップを三つ乗せて死神さんは戻ってきた。
「ありがとうございます」と揃ってお礼を言い、一口コーヒーを啜る。
……うん、いつもの事ながら美味しい。
「さ、一息ついた所でそろそろ本題に入ろうか。早速だけど、聞いてほしいから……はいこれ、イヤホンね」
渡されたイヤホンを言われるがままに俺達は耳に装着する。よく見れば、ノイズキャンセリング機能付きのハイレゾ対応ワイヤレスイヤホンで、秋葉原のイヤホン専門店でこのイヤホンだけ桁が一つ違うのを見た。
最高級イヤホンを二つもポイッと……。もう何も驚かない。
「それじゃ、再生するよ」
俺達の準備が終わったのを見て、死神さんはマウスを操作して再生ボタンをクリックした。
流れてきたのは言わずと知れた名曲、『残酷な天使のテーゼ』。それのロックアレンジバージョンといった感じか。
許可取るべき所に許可を取ってるか今更ながら不安になったけれど、まあ弦巻家の事だ。やるべき事はやってあると信じたい。
そんな思考を隅に追いやり、曲に集中する。
ロックアレンジバージョンという事で、曲を支えるのがゴリゴリのギターサウンド。それなのに原曲の持つ雰囲気を損なわないのが流石死神さんのハイセンスぶり。
曲が終わり、イヤホンを耳から外すと死神さんがディスプレイから俺達の方に視線を向けてきた。
「どうだった?」
「いいと思います。俺は結構好きですよ」
「そう、よかった。牛込さんは?」
「私もいい曲だと思います。でも、聴く限りだとちょっと難しそうですね」
「確かに。難易度は少し高めだな」
牛込の言葉に賛同すると、死神さんは少し困った様な顔をして、
「うーん、僕もそう思ったんだよね。初めはここまで複雑にするつもりは無かったんだけど……」
と、零した。
「あー、分かります。どんどん調子乗ってきちゃうんですよね」
最近ガチャ運良いからって調子乗って課金して大爆死したりとか……違う? 違うか。
「そんな所だね……でも、このくらいなら斗真君なら平気だろうと思ったんだよね」
「まあ俺は何とかなると思いはしますけど……」
言葉尻に
「私なら大丈夫だよ」
しかし、当の本人はその目に決意を現していた。
「……本当か? こう言うのは何だけど、二ヶ月だぞ?」
その質問に、牛込は変わらぬ熱量を持って答える。
「うん。確かに初心者の私が二ヶ月でここまでやるのは難しい。けどさ……」
「……けどさ?」
「こうやって私が新しい事に挑戦していくのが楽しくて仕方ないの。ワクワクして、燃えてくるの」
そう言う牛込の表情は、本当にこの挑戦を楽しんでいるかの様な、煌めく様な輝きをその瞳に灯していた。
「……そか。なら、これでいくか……一緒に頑張ろうな」
「うん。よろしくねっ!」
そう言って笑う牛込を見て俺は少しの不安と期待を込めて頷いた。
なんだかんだ言って俺も牛込とする新しい挑戦にワクワクしているのだ。
26話でした。
少し短いですが、ここで一旦切ります。
高評価、お気に入り登録、感想ありがとうございます。
ではまた27話で。