転生してみませんか? 作:RyuRyu(元sonicover)
今、明かされる衝撃の真実。どうもRyuRyuです。
……聞いてない、聞いてないよ!リサに弟がいるなんて聞いてない!
ここに来てまた新たな家族関係を開示する運営は神か!じゃなくて!!
……設定イジる?このままでいく?どっちにしよう。
……あ、本編です。
春が終わり、GWが過ぎ、文化祭が過去の事となり、梅雨が明け、いよいよ夏が来る。
そんな七月。
初夏の風の匂い、降り注ぐ日光を鬱陶しく感じ、遠くからアブラゼミの鳴き声が聞こえ、夏の足音がすぐそこまで迫っているのを五感で感じる。
──端的に言って、夏キライ。
そんな中、俺はというとはぐみの所属する野球チームの応援に訪れていた。
会場は近所の小学校。青空の下、野球少年少女の元気な声がグラウンドに木霊する。
フェンス越しに展開されている試合は七回の表、相手チームの攻撃。七回までのこの試合で二点のリードを背負ったマウンド上のはぐみはこの回をゼロに抑えて無事に試合を終えたい所。ちなみにはぐみはピッチャーで四番。同学年の男子に混じってのそれだから如何にはぐみの運動神経が並外れているのかがわかる。
スタミナお化けの異名は伊達じゃない。
そう呼んでるのは俺だけだけど。
「ねえねえ」
相手の先頭打者を打ち取ったタイミングで隣で観戦していた明日香ちゃんが袖をクイクイッと引いた。その隣では香澄が無邪気に声援を送っている。
なんで彼女達がいるのかと聞かれれば、単純に俺がこの二人に誘われたからであって、そうでなければ夏休み直前の休日に直射日光の下で直立不動なんて目の前につぐみのブロマイドをぶら下げられても家から出ない自信がある。だって妹だもん、飽きるほどつぐみの笑顔なんて見てる。まあ飽きないけれど。
「どったの明日香ちゃん」
「はぐみちゃん、大丈夫かな……」
明日香ちゃんが心配そうにはぐみを見る。
視線の先のはぐみは先頭を打ち取ったもののどこか思う所があるのか、クリっとしたその眉尻を少しだけ下げていた。
別にピッチングの内容が悪かったとは思えない。寧ろ良かった方だ。前の回で勝ち越しのタイムリーを放ったのもはぐみだ。
なのに、試合が終盤に向かうにつれてはぐみの表情は活気づくベンチとは裏腹に萎んでいっている。
「……どうだかな」
例え俺がここではぐみが浮かない表情をする理由がわかっていても、今はどうする事もできないから少し濁して返す。
恐らくこうなんじゃないかとは思う所はあるものの、実際にプレイするのははぐみだし、第一今は試合中だからな。声をかけようと思ってもせいぜい「頑張れ」くらいしか言えない。
頑張っている人に「頑張れ」だなんてただの自己満足でしかないから。
心配気な明日香ちゃんの横では香澄が「いっけー!」とか「うぉー!」とか呑気に応援している。応援……なのか? とりあえず元気そうで何より。
「あっ……」
香澄を見て苦笑いしていると、はぐみが次の打者にヒットを打たれた。
甲高い打球音を聞いて明日香ちゃんが短く声を漏らした。
盛り上がる相手ベンチ。
相手チームは勢いそのまま、次の打者がヒットで繋いで一二塁。
「はぐー! 頑張れーっ!」
香澄を始め、チームメイトからもはぐみを励ます声が響く。
だが、いくら体力お化けのはぐみでもさすがに疲れてきたのか次の打者には
「はぐみちゃん……!」
「はぐぅー!」
思い思いの声援を受けてはぐみは迎えた打者に対して投球モーションに入った。
その表情は依然として冴えないまま。
そんな中はぐみの投じた一球は、少しでも野球を齧っている人なら誰でもわかるくらいの失投。
具体的に言えばベルト付近の抜けた変化球。
カキィィン……!
金属バット特有の耳に残る様な打球音を残して放たれたボールは、綺麗な放物線を描いて外野フェンスの向こう側へ。起死回生の逆転満塁ホームラン。
お祭り騒ぎの相手ベンチと静まり返る味方ベンチ。はぐみに駆け寄るチームメイトの励ましの声もなんだか空回りしている気さえする。
けれどそこは純新無垢を体現する少女、北沢はぐみ。
そんな味方の励ましに、
「くっそー! 次は抑えてみせるからね!」
と持ち前の弾けるような笑顔一つでチームの雰囲気を変えてみせた。
そこにはさっきまでマウンドで見せていた萎んだ表情はどこにも無い様に見える。
その表情の変わり様の違和感に気がついたのは細かな変化を目聡く察していた明日香ちゃんと俺だけだった。
はぐみはその宣言の通り、その後の打者を完璧に抑えてこの回は終了した。
相手チームが守備位置につき七回の裏、はぐみが所属するチームの最後の攻撃。ここで最低でも二点は取らないと負けてしまう。
それでもツーアウトながら一二塁のチャンス。ここでホームランが出れば逆転サヨナラの場面、バッターボックスに入ったのは、前の打席でタイムリーを放ったエースで四番のはぐみ。
なんともまあ、おあつらえ向きな展開だけれど、舞台は整った。
ベンチも聴衆もここぞとばかりにはぐみに声援を送る。香澄なんて「はぐぅー!」と「いっけー!」と「かっとばせー!」しか言っていない。
香澄の語彙力が心配になるレベル。
「……ねえ、斗真お兄ちゃん」
「ああ。そうだな」
明日香ちゃんの声に俺も頷く。
はぐみの
前の回にマウンド上で見せた、どこか寂しげな、悲しさを孕んだ
──というより、明日香ちゃんの観察力が小学四年生ではない。しょっちゅうはぐみと遊んでるとはいえ、機微を敏感に察せている。
姉妹でここまで性格面で変わるのか……?
……いや、あの姉してこの妹ありと言った所か。
反面教師様々だ。
まあそれはいいとして。
はぐみの中に雑念があるのか、打席に集中できていない様な気がする。現に簡単にツーストライクと追い込まれてしまった。
相手ピッチャーが恐らく決め球となるであろう一球を投じた。
「……!」
球場に訪れたほとんどの人が悟った。
──明らかなる失投。ド真ん中の力の弱いストレート。投げた本人でさえ瞬間的に苦い表情に変わった。
打席のはぐみもチャンスボールだと思ったのか、カッと目を見開いてバットを振りかぶった。
──
力強く振ったバットはボールの芯より下を捉えてしまった。
高々と舞い上がった打球は、ただ上に打ち上がっただけでセンターのグラブに収まった。収まってしまった。
今度ははぐみが苦い表情をした。相手ピッチャーははぐみが打ち損じてくれて安堵の息を吐いている。
二点差ではぐみの所属するチームは敗北を喫した。
△▼△▼△
翌日。
日曜日の今日は朝から店の手伝いに追われ、漸く一息つけたのはお昼のピークが過ぎだ二時過ぎだった。
「お待たせしました。ご注文のアフタヌーンティーセット四つです」
「ありがとう斗真ちゃん」
ピークを過ぎたタイミングでやって来たのはAftergrowのママさん組。
そこに母さんも混ざって井戸端会議に花を咲かすのが我が羽沢珈琲店の毎週末の昼下がりのお馴染みの光景だ。
繰り広げられる会話は娘自慢からこの一週間であった出来事、果ては日本経済の行く末や旦那の愚痴まで。コロコロと変わるありとあらゆる議題に俺も聞いていて飽きない。
飽きはしないけれど、ママさん達のマシンガントークについていける気がしないから参加はしたくない。
聞いてるだけで充分である。
……ただ、店番してる父さんの前で愚痴るのはやめようね母さん。父さん冷や汗ダラダラだから。
空調効いてるのにおかしいね。
「いえ、ごゆっくりどうぞ」
代表してお礼を言った巴ママにそう返して俺は踵を返す。
これから、厨房にて父さんと新メニューの試作をしなければ。
夏の新メニュー、何が良いだろうか。
父さんとああでもないこうでもないと話し合っている間、フロアの井戸端会議の様子がBGMとして耳に入ってくる。
曰く、巴が今年も夏祭りの和太鼓演奏を任された。
曰く、今年の花火大会は去年より規模が大きくなる。
曰く、増税して何か大きな影響があったか。
曰く、近頃オヤジ狩りが町内会で問題になっている。
曰く、巷で幼女に声をかけるロリコンオヤジが出没している、etc.
……三つ目と四つ目の間に何があった。
心の中でつっこみながら、父さんとの白熱した議論の結果出来上がった試作品をママさん達のテーブルへ持っていく。味見兼意見役だ。
「あの、これ夏の試作品です。タイミング的に遅くなりましたけど、食べてみて下さい」
そう言って母さんのも含めて人数分、テーブルの上に並べる。それぞれの歓声をあげて早速口に運ぶ様を見守る。
「……うん、とても美味しいわ! これは……ミントかしら」
「はい。夏ということで爽やかなのでいこうと思って、生地にミントを練り込んでみました。個人的には好き嫌い別れると思うんですけど……どうですか?」
「私は結構好きかな。こう、夏って感じもするし」
巴ママのこうした意見を始め、他のママさん達からも概ね好評を頂いた。
「ありがとうございます。それじゃ、これは新メニュー候補として検討しておきます」
軽く頭を下げて、足早に厨房に戻ろうとする。父さんとこの結果を共有して更なるものにしていく為であって、決してママさん達の井戸端会議に巻き込まれたくないからとかそういうのではない。
「あ、斗真君、ちょっとちょっと」
「……?」
一刻も早く父さんに報告しなければと体を厨房に向けた時、蘭ママに呼び止められた。
振り返ると、ママさん達が座るテーブルに一つだけ不自然に空席が残されている。さっきまで無かったのに。
……はて、誰か後から来るのだろうか? ありそうなのは沙綾ママだけれど──。
立ちすくんだままでいる俺を見て蘭ママが椅子をポンポンと軽く叩いた。
他の四人も同様に俺を見つめる。
……え、これってもしかして。
「……お、俺?」
その問いにママさん達は清々しい程の笑顔で頷き、蘭ママは再度椅子をポンポンと軽く叩いた。
え、ええぇ……。
なんつーか、ぶっちゃけ言ってあんまり行きたくないんですけど。
なんかめちゃくちゃいい笑顔で見られてるんですけど。
しかも、あの子供にしてこの親ありというかなんと言うか、皆さん揃いも揃ってルックスがずば抜けて高いからそんな笑顔で見つれられたら不覚にもドキッときてしまうからホントにやめてください。
際限無く振りまかれる笑顔の攻撃から逃れる様に背後に目を向けると、父さんがせっせと新メニューの準備をしているはずの厨房はもぬけの殻だった。
「ああ、父さんなら『試作ならまた後日な』って部屋に戻ったわよ」
死刑宣告にも似た母さんの通告を受け俺は瞑目する。
嗚呼、悲しいかな。我が羽沢珈琲店には俺の味方はいないようだ。
おのれディケイド……じゃなかったおのれパパン。
この恨み、いつかはらさでおくべきか。
周りに気づかれない様に小さくため息をついて、用意された席に座る。
「……それで俺に何か用ですか?」
「や〜ね、たまにはとーまくんともお話したいじゃない」
モカママがケラケラと笑いながら言う。
「はぁ、さいで」
「それで、最近どう?」
「どう、って?」
「決まってるじゃない。うちの夕弦とよ」
興味津々と言うふうにひまりママが尋ねてくる。というより決まってるんですね。
「最近は前みたいに一緒にいる時間が少なくなってきたじゃない? 二人とも寂しそうにしてないかしらって思っちゃって」
「まあ……アイツは部活やってますし、俺は俺で店の手伝いだったりで時間が合わない時は増えましたけど、お互い中学生ですし、こんなもんでしょう。俺もアイツも特に寂しいとか思ってませんって」
会う時間が減ったって言っても同じクラスだし、何なら毎朝一緒に登校してるから結局はアイツと毎日顔を合わせている。
ホント、何だかんだで腐れ縁なんだよなぁ。
「え〜つまんないの〜」
「どこに面白がる要素があったんですか」
「ウチの蘭は寂しがってたけど?」
「ああ、蘭は……うん。あの子結構ツンデレですから」
ついでにチョロインも追加で。
「べ、別にアンタの事なんか嫌いじゃないんだからっ」ってツンときて、自分の失言に気づいて赤面してから「……バカっ」って言われたい。
俺が最大級の慈愛の笑みで頭を撫でると一瞬ふにゃっとしてからハッてなってまた「……バカぁ」って言うの。頭撫でられたままで。
すごいかわいい。
「そう言えば、あんた最近あの子達と遊んでる? 部屋でギター弾いてるのしか私最近見ないけど」
「そう言われれば、最近まともに遊んだ事は無いかも。何だかんだ言ってあの五人で遊び行く事が多いし、今日だってそうじゃん」
「まあ、反抗期かしら。それとも兄離れ?」
「やめてくださいよ。そんな事されたら嬉しいのか悲しいのか分からなくなる」
「ホント、斗真ちゃんってシスコンよね〜。……あ、そうそう。ギターと言えば、この前の文化祭、見に行ったわよ。かっこよかったわぁ〜」
「え、見に来てたんですか? 全然気づかなかった……ありがとうございます」
「ギャップ萌え? って言うのかしらね。いつもはこうやって爽やかなのに、あの時はキリッとしてておばさんキュンとしちゃった」
「は、はあ……」
……こういう時はなんて言えばいいのだろうか。
「おばさん」発言を拾って「そんな事無いですよ〜」と謙遜すればいいのか?
「こんな歳下にキュンとこないで下さいよ」とマジレスすればいいのか?
「そんな事無いですよ。皆さんまだおばさんって言うほどでもないですし、第一中学生にときめいてたら旦那さんが嫉妬しますよ」
結論、オブラートに包めば万事解決(投げやり)。
案の定、「斗真ちゃんったらお上手なんだから」と機嫌を損ねなかったどころか機嫌良くなった。単純なのか? そうなのか?
「それより」
上機嫌の四人を他所に、「これだから無差別天然タラシは……」と呟いた母さんが話題の転換を図った。つか何、無差別天然タラシって。この前夕弦にも言われたんだけど、流行ってんの?
「文化祭で一緒にギター弾いてた子。あの子誰なの? 彼女?」
その言葉に色恋大好き、ゴシップが大好物のアラフォーレディーズが一斉に俺を見る。その瞳には一様に好奇心を宿していた。
……おのれママン。そのニヤケ顔が腹立つ。
「んなわけ無いじゃん、誘われたんだよ。周りに俺しか音楽やってる人いなかったから」
「またまたぁ。そんな事言ってぇ、浮気? 夕弦ちゃんという正妻がいながら〜」
「いや正妻て、この前クラスメイトにも言われたんですけど……流行ってんの?」
何故か頭にクラスメイトの佐藤のアホらしい顔が浮かんだ。
やめろ佐藤。チラつくな佐藤。……だからそのチラリズムをやめろ佐藤!
ニヤニヤ、ニマニマと性格の悪い笑みを浮かべて俺を見るママさん達。
だんだんと居心地が悪くなってくる俺。
「ちょ、ちょっと俺トイレ行ってきま──」
「はい、逃げないの。詳しく聞くまでアンタの膀胱は解放されないよ」
何と。これ以上特に話す事が無いというのに無慈悲にも俺の膀胱が人質に取られてしまった。いや、膀胱は人じゃないから膀胱質か。何それ汚い。
……まあ、ホントにトイレ行きたいって訳じゃないんだけれど。
「いや、詳しくって言われても牛込はただのバンド仲間だし、そもそも夕弦と結婚してないし付き合ってすらないし」
「あらまぁ、まるで優柔不断なラブコメ系ラノベ主人公のセリフじゃない」
「……言ってて俺も思いましたよ」
「でも、これで三角関係ね。昼ドラよ昼ドラ、ドロッドロよ」
「いや、うちの蘭も入れて四角関係よ。まさか年下まで射程範囲とは」
「……え、ちょっと待って。なんで蘭?」
「ん、そんなの斗真君ならウチの蘭を任せられるからに決まってるじゃない。旦那も『斗真君なら』って二つ返事でOKくれるわよ、きっと」
「えぇ……」
『そんな事無い』って言い返したいけれど、蘭パパなぁ……。
会う度に言外に「家に婿に来い」って言ってくるんよなぁ……。
「それを言うならウチの夕弦だって大歓迎よ。なんならひまりもどうかしら。今ならもれなくついてくるわよ?」
「いや、実の娘をバーゲン品みたいに言わないで下さいよ」
「それなら巴はどうかな? あこもセットで」
「いやだから」
「あ、じゃあモカも〜」
「いやだから!」
そうして我が羽沢珈琲店の週末の井戸端会議はどこの娘が俺の嫁に相応しいかを決める話題にシフトした。
まあ、話が微妙に逸れたからいいけれど……。
いい、けれど……。
……た、助けて(白目)。
そんな俺の願いが通じたのか、ドアベルがカランカランと来客を告げた。
その音を聞きつけた俺は流れるように席を立ち、居住まいを整え、
……お客様は神様って言葉、今なら信じられる気がする。
「いらっしゃいませ!」
「とーま兄ちゃん! 野球しよう!」
……。
……前言撤回。神は死んだ。
太陽の様な笑顔でそう宣った
いろいろありますが、羽沢珈琲店は毎日がラブアンドピースです。
店主の冷や汗とその息子の声にならない悲鳴などアクセントにしか過ぎません。
あ、ちなみにママさん達の斗真の呼び名はこんな感じです。
蘭ママ→斗真君
巴ママ→斗真ちゃん
ひまりママ→斗真くん
モカママ→とーまくん
ご参考までに。
という訳で、文字数の統一が図れない作者による28話でした。
最近は朝晩が冷え込む様になりましたね。
読者の皆様も、寒暖差による体調の変化にお気をつけください。
皆様からの感想、評価、お気に入り登録ありがとうございます。
ではまた29話で。