転生してみませんか? 作:RyuRyu(元sonicover)
先日、友人にいきなり「坂本と言えば?」と聞かれ、前までなら「勇人」や「龍馬」と答えていたのを、真っ先に「真綾!」と答えた辺りに時の流れを勝手に感じた、どうもRyuRyuです。
ちなみに、神谷は「明」、中村は「憲剛」、はやみは「沙織」、もしくは「奏」です。
基準が自分でもわからないっていう。
では、本編です。
パシーン……パシーン……。
グラブの乾いた捕球音が定期的に聞こえる。
夜毎に暑さも増していく今日この頃。
昨日遂に冷房を解禁してしまい、以来人工的な冷気以外身体が受け付けなくなった。八月までは頑張るつもりだったのに……。
そんな俺ははぐみと基地前の空き地にてキャッチボールをしている。
アフグロママさん達のマシンガントークからやっとこさ逃れられたと思ったら今度はこれだ。
……まあ、はぐみがこうなる事は薄々予感はしていた。
昨日の試合の戦犯は言ってしまえばはぐみみたいなもんだからな。言い方悪いけれど。
それでもへこたれないのが天真爛漫を地で行く少女、北沢はぐみだ。
いても立ってもいられなくなって誰かしらを野球に誘うのは読めてた。
はぐみの兄ちゃんが今日は店の手伝いだという事もわかっていた。
……のにだよ。あの野郎彼女と昼間っからデートに行きやがった。
お陰で俺にお鉢が回ってきたじゃねぇかよ。爆発しろよ。
バットのグリップにグローブはめてキャップ被って「斗真兄ちゃん野球しよう!」とかどこの中〇くんだよ。なら俺は坊主頭のカ〇オってか。
やかましいわ。
……それにしても暑い。脳内で愚痴垂れてる間になんかいつの間にかはぐみに座らされてキャッチャーにされてるし。あ、今肩の辺りがパキッていった。
どういう訳かキャッチボールが投球練習に変わったんだけれど、まああるあるだからいいけれどそれにしても暑い(二回目)。
「なあ、そろそろ休憩しないか。暑いんだけど」
「えー! もうちょっと! あと五球だけ!」
「それさっきも聞いたんだけどなぁ……おい、なんで離れてく」
ワインドアップで構えてたはぐみが急に背を向けてタッタと空き地の隅の方へ駆けていく。
その距離およそ五十メートル。
「いっくよー!」
「できればこないで欲しいかなー」
はぐみの投げたボールは緩やかな弧を描いて真っ直ぐ俺の構えるグラブへ。恐るべしはぐみの身体能力。
「おお……ノーバンとか」
「とーま兄ちゃん! ばっちこーい!」
「肩やらかしそうで怖いんだけど」
取り敢えず投げてみるも、やっぱりというかなんというかはぐみの手前でバウンドしてはぐみのグラブに収まった。
「へたっぴー!」
「えぇ……」
ワンバンで届いただけいいと思うんだけれどダメかぁ? ダメ? ダメなのかぁ……。
はぐみの基準が高すぎる件について。
向こうで「ばっちこーい」と両手を大きく振るはぐみに向かって抗議の声をあげる。
「なぁーはぐみー」
「何ー?」
「疲れたー」
「そうなんだ! はぐみはまだまだだよっ!」
「聞いてなーい」
尚も遠投は続く。そろそろ肩が疲れてきた。ツーバンで返球する俺に対してはぐみは球筋に鋭さが増してきた。
「なぁーはぐみー」
「何ー?」
「肩疲れたー」
「そうなんだね! はぐみはこれからだよっ!」
「天丼ー」
尚も遠投は続く。グローブをはめた左手もヒリヒリしてきた。ヘロヘロになって返球する俺に対して、はぐみは球に重さが加わった。バケモンかあいつは。いや、お化けでしたねそうでした。
「もう無理疲れた休憩喉乾いた」
バシーン、とはぐみの豪速球を受け止めて、無理矢理切り上げる。
はぐみは「ぶー」と膨れながらも大人しく小屋の方へトコトコ走り出した。そうだよ、最初からこうすりゃよかったんじゃん。
ペットボトルを傾け、麦茶を浴びるように飲む。
プハーっと一つ大きく息を吐いて冷たい麦茶が火照った身体に染み渡るのを感じる。
……くーっ! やっぱり運動の後の麦茶は最高だぜッ!
我ながらおっさん臭い。まだピチピチの中学生だというのに。
隣を見遣ればコクコクと可愛らしく喉を鳴らしながら水筒を飲み、「ぷはー」と俺と全く同じ行動をして、笑顔を輝かせる。はいかわいい。
「あぁー、運動の後のスポドリは最高だねっ!」
「そうだなー。やっぱ最高だよな」
「さあ、休憩終わり! とーま兄ちゃん、続きやろう!」
「え、早い。まだ息整ってない。つか、まだやんの?」
「もちろん!」
「……それっていつまで?」
「えっとね、はぐみがもう動けない! ってなるまで?」
「それって今日中に終わらないよね……ねぇ?」
そんな俺のの問いを無視してはぐみはタッタとまた空き地に戻っていった。
「……」
うーむ。
……なんかあいつ、焦ってないか?
少しだけ気になって、はぐみに声をかける。
「なぁーはぐみー」
「何ー? 休憩ならお終いだよ!」
「そうじゃなくて。なんかお前、焦ってる? まだ昨日の引きずってんの?」
その問いかけにはぐみの表情は一瞬固まり、すぐさま大声で否定してきた。
「そ……そんな事無いよ! 確かに昨日はとっても悔しかったけど、それは昨日の事だもん! また練習して、試合で活躍するもん!」
「それが焦ってるって言うんだよなぁ……」
はぐみに聞こえない声量で呟いて、立ち上がる。
暑さで少しだけ身体がふらついた。全く、暑すぎて適わない。
グローブをはめて閉じたり開いたりしたり、握りこぶしを開いたグローブに叩きつけたりして手に馴染ませると、はぐみと十メートル程の距離に立ち、両手を広げてはぐみに聞こえるように言った。
「おーら、ばっちこーい。とーま兄ちゃん直々の鬼の千本ノックだ」
ここではぐみに対して講釈たれても暖簾に腕押しな気しかしない。
なんだかんだ言ってはぐみもアスリートな一面もあるし、やるなら徹底的に自分を追い込みたいんだろう。俺は真っ平御免だけれど。
ならば、俺はそんなはぐみに徹底的に付き合う事ぐらいしかやってやれる事が無い。
できれば俺が疲れない方向性で。
ボールを前後左右、ゴロ、フライ織り交ぜてランダムに投げる。
それをはぐみは小学生とは思えない反応速度で回り込み、捕球し、素早く俺に返球してくる。
「お前ピッチャーじゃなくてセカンドとかショートとかやった方がいいんじゃね? 守備力高すぎだろ」
まるで忍者守備。カープのセカンドもびっくりだわ。
「んー、でもはぐみはピッチャーがやりたいな」
「そりゃなんで」
言いながら、ボールを向かって右側に投げる。
難なく捕球し、返球しながらはぐみは答えた。
「ピッチャーって、野球の中で一番大切なポジションなんだ。ピッチャーが打たれなきゃ、試合には負けないんだよ?」
「まあ、そうだな」
「だから、チームの中で一番野球が上手いはぐみがピッチャーをやって、みんなの為に誰よりも活躍しなきゃいけないんだから」
「お、おう」
まさかはぐみからそんな高飛車発言が飛び出すとは……。
この前何の気なしにはぐみに「お前が一番野球が上手いんだからもっとガツガツやっていい」って言ったのがいけなかったか……にしても真に受けすぎでしょう。
……まあ、それだけ自信があるって考えればいいか。
「それに」
ライナー性のボールをジャンプ。華麗に捕球して続ける。
「やっぱりチームが勝つのが一番嬉しいから! はぐみが活躍して、チームが勝てたらそれ以上に嬉しい事は無いよ!」
「……そか」
弾ける様な笑顔。これこそが北沢はぐみという少女の一番の魅力であり、その笑顔で誰かを元気つける事ができる。
その笑顔でチームメイトを助け、その笑顔はチームを勝利に導く事ができる力を持っている。
だからこそはぐみにはグラウンドの中心で、マウンドの上で太陽の様に勝利への道を照らしていて欲しい。
そんな事を思わないでもない。
なんだか似たような事をどっかの弦巻こころにも言っていた気がするけれど、それはこころとはぐみが同じ属性ということで。ベクトルは少し違う感じもするけれど。
眩しい。眩しすぎるぞハロハピ。
「まあ、はぐみは野球が上手いから、小さなミスとかは気にすんな。そんなもんすぐに取り返せるくらいの実力はあるんだから」
「もう、とーま兄ちゃんったら心配しすぎだよ!」
プンスカ。そんなオノマトペが似合うくらいにはぐみが憤慨している。
コロコロと変わる表情を微笑ましく思いつつ、そこまで直情的に喜怒哀楽をありありと表現できるはぐみを羨ましいと感じてしまう。
基地前の空き地に、乾いた捕球音が響き渡る。
野球が好きな少女が泥だらけになりながらも、それすらも野球の醍醐味の一つとでも言うように笑顔で、楽しそうに白球を追いかける。
そのひたむきな姿に俺は顔を綻ばせ、その太陽みたいな笑顔にいつも気付かされる。
──やはり、笑顔の似合う少女には、悲しい顔は似合わない。
──笑顔の似合う少女には、願わくばいつでも笑顔でいてほしい。
──笑顔で、周りを明るく照らしていてほしい。
照りつける太陽の下、暑さでやられたのか。
柄にもなくそんな事を思った。
29話でした。
ちなみに、斗真くんはその後調子に乗ってしまい、数日間腕が上がらない程の筋肉痛に悩まされたそうです。
自業自得ですね。
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ではまた30話で。