転生してみませんか? 作:RyuRyu(元sonicover)
そろそろ短編集話を投稿したいと思って早数ヶ月、どうもRyuRyuです。
なんて言うか、まあ言い訳なんですけど、ネタが集まらない。
気長に待って頂ければ嬉しいです。
では、本編です。
夏休み。
学生に与えられた、およそ一ヶ月の休業期間。
学校という名の牢獄から解放される少しばかりの仮釈放期間。
リア充の活動が活発化し、対照的に非リアの活動率がマイナスを記録する事も。
これは結果的に夏の外界はアキバとお盆休みのビックサイトを除いてリア充の跋扈する魔窟となりうる。
それなら今外に出てる俺はリア充なのかと聞かれれば決してそうでは無い。
近年出現しつつあるアクティブ系非リアである。
好きな物の為には夏の酷暑も厭わず外へ繰り出すフットワークの軽いタイプ。
そんな俺は、牛込との練習も店の手伝いも無く暇を持て余したので、池袋のメイトに新刊のチェックをした後、どこかで昼飯でもとサンシャイン通りを池袋駅方面に向かって歩いていた。
近年の異常気象で変に長かった梅雨も先週に明け、纏う空気もジメジメしたものからムワッと身体にまとわりつく様な暑さに変わって……大して変わってないや。
ともあれ、そんな不快指数が高まるばかりの日本の夏がいよいよ本格的に始まろうとしている。
往来の中、池袋駅周辺のマップを脳内に展開し、思考を巡らす。
来たる夏に心の中でうへぇ、と悪態をつきながら昼飯のメニューを考える。
やっぱり池袋に来たならラーメンか、油そばか。いや、それとも裏の喫茶店でも……。
「……ん?」
そんな時だった。
人混みの隙間から見覚えのあるワインレッドが見え隠れした。
半袖やら短パンやらすっかり夏の装いで闊歩する人々の中にあって、チラチラと見えるその特徴的な髪色は目立っている。
しかし、彼女が一人でいるのは珍しい。何かあったのかと思い少し近づいてみると、何かを探している様で必死に辺りを見回しながら歩いていた。
「よっ、巴」
「……! と、斗真!」
「おわっ……」
振り向きざまの巴に胸ぐらを掴まれ一瞬バランスを崩すもどうにか持ち堪えて巴を見ると、不安と焦りがごちゃごちゃに混ざった表情で捲し立てて来た。
「ひまりを見なかったか!? あいつとはぐれてさっきからずっと探してんだけど見つからないんだ! なあ斗真……アタシどうしたらいい……?」
言葉尻に向かっていくにつれ巴の声のトーンは下がり、服を掴む力も弱まっていく。
「まあ落ち着け。話聞くから、ここだと人目につく」
既に往来の目が「修羅場か?」と言っている。
そう言って、巴を道の隅へ促した。
「で、何があったんだ。落ち着いて、ゆっくり話せよ」
道の端へ巴を連れていき、落ち着く様に言う。少し気が動転していた巴は、一つ深呼吸をして話し始めた。
「あ、ああ。……今日はひまりと買い物に来てたんだけどな──」
巴の話をまとめると、こうだ。
数日後に迫った夕弦の誕生日プレゼントをひまりと買いに来たけれど、互いの意見が合わずにちょっとした言い合いに発展した。
議論が平行線だった為、二人は時間を設定し、別々にプレゼントに探す事にした。
が、時間になって巴が集合場所に行ってもひまりの姿は見当たらなく、ラインにも既読がつかない。
店内を探しても見つからなかったから外に出て辺りを見回すと、人混みの向こうに消えていくひまりの姿が。
慌てて追いかけるも見失い、途方に暮れていた時に俺に会った。
という事らしい。
「──なるほどな。状況はわかった」
「……アタシがヘタに別行動せずにひまりといればよかったんだ。アタシが意地になって言い合ったりしたから……ひまりに何かあったらアタシ……!」
「そう自分を責めんな。まずはもう一度ひまりに電話してみろ。それと交番に行って迷子を探して貰う様に頼んで、それから──そうだ、念の為夕弦と死神さんにも連絡しといてっと。……よし、それじゃ交番行くぞ」
こういう時は迅速に、正確にやるべき事とそうでない事との取捨選択をして、すぐに行動に移さなければならない。
交番でお巡りさんにも協力して貰って、再度俺と巴はひまりを探しに通りに出た。
夕弦からも返信が来たけれど、生憎部活の試合中だったみたいで『見つけなきゃ殺す』とまで言われてしまった。ったく、どっちがシスコンなんだか。
「まあそう気を落とすな。ひまりは見つけるし、お前らをちゃんと仲直りさせるから」
「わっ……ちょっ、やめっ、やめろよぉ! アタシはもう子供じゃないんだぞ」
そう言って隣を歩く巴の髪をわしゃわしゃと乱暴に撫でる。
反抗されてしまったけれど、俺から見れば巴なんてまだまだ子供で可愛い可愛い妹分だ。
妹分の落ち込んだ顔なんか見たくないし、もちろんひまりに心細い思いなんてさせたくない。
「……大丈夫だ。安心しろ。ひまりは必ず見つけっから」
一頻り巴のサラサラな髪を堪能してから、ポンポンと優しく摩って言い聞かせる様に呟く。ぶっちゃけ言ってもっとわしゃわしゃしてたかったけれどこれ以上は流石に巴も「真面目に探せ」と怒るだろうから止めた。
通りの左右を見回しながらひまりを探す。
ひまりの髪色からして割と目立つ方だと思うから、注意深く見てれば見つかるはず。
その予想に違わず通りの向こう側、路地に入る入口くらいの所で特徴的なピンク色の髪が見えた。
「……!」
──見えた、けれど。
「……あっ!」
巴もひまりを見つけて、その顔に安堵の色を浮かべている。
「巴、ちょっと待て」
今にもひまりの元へ駆け出そうとする巴の腕を掴んで引き留め、建物の陰に身を隠す。
訝しげな視線を横から受けながら人混みの中から辺りをキョロキョロと不安気な表情で見回すひまりを見ていると、ひまりの向こう、路地の奥から人影が見えた。
「巴、カメラ準備しろ」
俺のその言葉に半信半疑なままに巴は携帯を手に取る。
人影は徐々に大きくなり、ひまりの前で立ち止まった。
年恰好は背広を着た四十代くらいの男。どこにでもいる様なサラリーマン風な出で立ちだ。
男はしゃがみ、ひまりに目線を合わせて何かを話しかけている。
その目はとても優しげで、一人で心細い思いをしていたひまりにはまさに救世主と言った所か。見知らぬ人に怯えながらも男の言う事に耳を傾けている様に見える。
「……一応聞くけど、あの人は知ってるか?」
「いや、知らない……誰なんだあの人は」
巴の誰何の声に俺は答える。思い出すのは、先日の井戸端会議、その議題。
「近頃この辺りに出没するロリコン野郎……多分、だけど」
「なっ……! それって本当か!?」
「まだ確証は無いけどな。まだ話しかけてるだけだからなんとも言えないけど、手を出したら現行犯だ。動画は撮ってるな?」
巴がスマホのカメラを構えているのを確認して、俺は再度男とひまりに目を向ける。
ひまりには悪いけれど、ここはひまりをエサにロリコン野郎を吊し上げてやる。
ここで見逃したら次に誰が被害に遭うのかわかったもんじゃない。
それが身の回りの人──例えば、つぐみだったら。
そんな事を考えるだけで全身に悪寒が奔る。
俺の中で怒りをふつふつと沸かせている間にも、男はひまりに向かって粘り強く話しかけている。街中の喧騒から男の話し声は聞こえないけれど、恐らく言葉巧みにひまりを
「あっ、おい!」
そうした決意の最中、遂に男が動いた。
上原家のしっかりとした教育が功を奏し、ひまりは
誘いを受けないひまりにしびれを切らしたのか、その場を立ち去ろうとしたひまりの腕を掴んだ。
「よし、現行犯だ。巴、警察に電話しろ。したら男にその動画送っといて」
声をあげた巴に指示し、俺は建物の陰から飛び出した。
「ここにいたのか。探したぞ、ひまり」
何事も無かった様に、まるでたった今ひまりを見つけたかの様に近づいた。
「と……とーま君!」
見知った俺の顔を見て、その奥にいる巴を見て、緊張が解れたのかひまりは男の手を振り払い、俺の腰に抱きついて堰を切ったように涙を流し始めた。
「おう、とーま君だぞ。大丈夫だったか?」
よしよしと頭を撫でながら優しく問いかける。
ひまりは俺の腹に顔を埋めながら、二回頷いた。
「そかそか。……あ、ちょっとそこな人。ツレがいたからって立ち去ろうとしないで」
「な、なんですか」
コソコソと立ち去ろうとした男を呼び止める。
改めて男を近くで見ると、やっぱりどこにでもいるような中年サラリーマンが一番形容しやすい。
眼鏡をかけて、所々に白髪が見える頭髪をしっかりと整えている。
それなりの稼ぎを得ているけれど役職は多分この人一番苦労する中間管理職だなと勝手に思う。
白髪は恐らくストレスから来たものだろう。
まあそんな事はどうでもいいとして。
「おっさん、ひまりに何しようとした」
「何って……その子が一人で寂しそうにしているのを見かねて声をかけただけで」
「声をかけて? その後何しようとした」
「だから、私が一緒に探してあげようと……」
男の苦しい言い分に内心大きく溜息をつく。
「ダウト。普通に考えてみろよ。おっさんと幼女が互いによそよそしく街中を歩くだけで周りから見れば事案発生案件なんだから。通常だったら警察に電話して保護して貰うとか、携帯を持ってるか確認するとか、俺だったらまずそういった行動をとるんだけど」
強い口調で立て続けに正論をぶちまけ、男の反論の隙を与えない。
「それと、最近巷で女子児童を執拗に狙うロリコン男が噂になってんだ。目撃情報も、スーツを来た中年の男性が学校帰りの女子児童に声をかけている。『道を教えて欲しい』『アイスを買ってあげる』『洋服を買ってあげる』などと言って車に連れ込もうとしていた……実際に声をかけられた女子児童がそう証言したらしい」
「そ、それが一体……」
「なぁひまり。このおっさんになんて言われた?」
腰にしがみついて離れようとしないひまりに聞いてみる。ひまりは、顔をあげてボソッと涙声で答えた。
「……『一緒に洋服買いに行こう』って言われた」
それを聞いた男の顔色がスーッと青ざめた。
「あれ、『一緒に探そう』とは言われなかった?」
「うん……」
「おかしいなぁ、意見が食い違ってる」
「そ、それはその子が聞き逃しただけで……!」
明らかに取り乱した様子で男が弁明する。
そんな時、俺のスマホが軽快な着信音を鳴らした。
……そろそろか。時間稼ぎもこのくらいにして。
「──まあ、そんな事はどうでもいいんだけど」
「……え?」
急に話を切り上げられて男は呆けた顔をする。
「ここまではただの時間稼ぎ。もう警察も呼んであるから、大人しく捕まる事だね。ロリコンさん」
「なっ……だから、私は……!」
「やってない──とでも言うのか? これでも?」
俺は巴のスマホから送られた動画を表示して男に見せた。場面はちょうど男がひまりの腕を掴んだ所。男の浅はかな笑みとひまりの苦痛に歪む顔がはっきりと映っている。
「これを警察に見せたら……たとえその気が無くても言い逃れはできないよな?」
「ぐっ……!」
切羽詰まった男の顔がさらに歪む。チェックメイト、かな。
「──くそっ!」
「あっ、待て!」
男は踵を返し路地の奥の方へ逃げ出した。
それを見て巴が声をあげ、追いかける素振りを見せるが、俺はそれを腕で制した。
「おい斗真、なんで止めるんだよ! 追いかけなきゃだろ!」
「まあ待てって。大丈夫だから」
通りよりかは入り組んでる路地の方が俺達を撒きやすいと踏んだのだろう。
まあ、警察が来てる通りに馬鹿正直に逃げるよりかは賢明と言える。
──けれど、ここでロリコン野郎を吊るしあげると言った手前、そんな事はお見通しな訳で。
だんだんと小さくなる男の姿の向こうに、また新たな人影が。
「くっ、どけ!」
男はその人影に向かって声を荒らげる。
「……っていうより、逃げ出した時点で罪確定だからね」
奥の人影は諭す様にそう言うと、突進してくる男を相手の力を利用して投げ飛ばした。うわすげぇ、あれって合気道ってヤツ?
「よっ、と……。ああ、斗真君、大丈夫だった?」
嫌という程聞き覚えのあるそのいけ好かない声の持ち主に俺は多少の感謝を込めて返した。
「はい、まあ。助かりました、しに……田中さん」
「はいはい、どういたしまして。……にしても、こんな立派な大人が裏でこんな事していたなんてね。人ってものは相変わらず見かけによらないものだね」
やれやれ、と死神さんは肩を竦め、人間にしては妙に達観したセリフを吐いた。……あ、死神さんは元から人じゃなかったか。
「え、この人そんないいとこの人だったんですか?」
「うん。斗真君から電話が来て調べたら、この人は上場企業の部長らしくてね。部下からの信頼も厚かったみたいだよ」
「そうだったんですね。……まあ、そういう人に限って往々にして裏があったりするもんですからね」
「そうだね……っと、漸く警察のご登場みたいだよ」
死神さんの言う通り、通りの方から数人の警官がやって来て男の身柄を拘束。巷を賑わせたロリコン男はこれにて御用となった。
俺達は事情聴取の為、近くの警察署へ。簡単な質疑応答で済んだものの、解放されたのはお昼を大きく過ぎ、そろそろ夕方になろうかという時間だった。
ひまりと巴はそれぞれの母親が署まで迎えに来た。
特にひまりに対しては怖い思いをさせてしまった為に、ひまりの母親に謝罪したら、「ひまりが無事ならそれでいいわよ」と笑って許してくれた。
今度、何かの形でお礼をしなければ。そう心に誓って俺は帰途に就いた。
「夕弦ちゃんにもちゃんと説明しときなよ」
弦巻家の仕事を投げてまで来てくれた死神さんが、まるで俺の事なぞお見通しだと言わんばかりに、帰り際そう忠告された。
△▼△▼△
帰り道、辺りを住宅がひしめく交差点で夕弦に会った。このまま直進すれば商店街、即ち俺の家で、左に曲がれば上原家に辿り着く。そんな交差点の角の常夜灯の下で夕弦は俺を待ち構えているかの様にそこに立っていた。
既に陽は傾き、昼間と比べて幾分か涼しく、薄暗くなっている。
そんな中で一際熱いものを湛えた夕弦の佇まいに俺は背中に冷や汗を一筋流れるのを感じた。
エナメルバッグを肩に下げて、部活帰りそのままといった服装の夕弦は俺の姿を捕捉するなり、こちらに向けて静かに歩いて来る。ランニングシューズだから足音はそこまでしないはずが、心做しか夕弦が近づくにつれてまるで古びた床板を踏んでいるかの如くはっきりとした足音が聞こえる様な気がする。
夕弦の顔を見て、思わず立ち止まってしまう。
──無表情。
表情筋が活動を失ったかの様に夕弦の表情はピクリとも動かず、代わりに彼女の気持ちを代弁する様に、瞳に激しい怒りの炎を宿していた。
互いの距離が徐々に縮まっていく。
なんだかんだ十年強、腐れ縁と言いながら親友の間柄だった夕弦の、初めて見るその怒りの表現に俺は動く事も、声を出す事も憚られた。
「な、なぁ夕弦……っ!」
それでも、彼我の距離がゼロになる直前、なけなしの勇気を振り絞って俺は声を出した。
情けない、震えたその呼びかけを夕弦は気にも留めず、俺の胸ぐらを掴み上げ、傍のブロック塀に背中を叩きつけた。
一瞬のうちに奔る痛みに顔を顰め、夕弦を見遣る。
バスケをやっているお陰か、彼女の背丈は俺より数センチだけ低い。
殆ど同じ高さの目線がかち合い、その瞳の奥に、怒りとはまた別のナニかが有るのに気がついた。
数秒間、ターコイズブルーの瞳が射抜く様に、また責める様に、俺を見つめた後、フッと目線を逸らし、顔を俯かせた。
「……」
普段は見ない夕弦のその動きに声にならない声をあげる。
暫くして、夕弦はゆっくりと手を離した。
「ゆ、夕弦……?」
呼びかけるも、返答は無い。その顔も俯かせたままで伺い知る事はできない。
どうしたら良いか分からず、俺もその場に立ち尽くす。
「…………バカ」
漸く聞こえたその声は蚊の鳴くようなか細い声で。
それだけを言い残し、夕弦はその場を後にした。
彼女が交差点を左に曲がるまで呆然と見送り、姿が見えなくなって、一つ大きく息を吐いた。知らないうちに俺の中で張り詰めていたものがあったのかと、自分で自分に驚嘆する。
ブロック塀に背中を預け、中空をぼんやりと眺める。
さっきの夕弦の言葉が脳内で反芻される。
あの言葉は俺に対して言ったのか、はたまた誰に向けての声だったのか。
「……どうしろってんだよ」
そんな呟きに答えてくれる人なぞいないのは分かりきっていた事だけれど、口に出さずにはいられなかった。
空はオレンジ色が隅に押しやられ、濃い碧色が一面を支配している。
思い出したかの様にヒグラシの鳴き声が耳朶を撃ち、生暖かい風が吹き抜けた。
──夏は、まだ終わらない。
30話でした。
顔見知った女子が無表情で胸ぐらを掴みあげるって想像したら中々のシーンですね。
夏も折り返しです。……折り返したんです。
中学生編が始まって早十一話。まだ中一の夏です。
このままだとダラダラと続きそうで怖いです。
キリがいい所で進級させたいです。頑張ります。
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ではまた31話で。