転生してみませんか?   作:RyuRyu(元sonicover)

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こんにちは。

牛丼はすき家派、どうもRyuRyuです。

大盛りつゆだく生卵。ここ数年のゴールデンセットです。

今回は少しテイストを変えて、本作の登場人物である意味一番の役得な夕弦にフォーカスを充ててみました。
という事で今回は中学生になってからの彼女の心境の変化を感じてくれればいいと思います。

では、本編です。


30.5話 上原夕弦の独白

『羽沢斗真は、よく分からないヤツ』

 

 幼馴染で親友である私、上原夕弦が日頃抱く彼に対する印象である。

 私と斗真はそれこそ互いに言葉も発せない赤ちゃんの時からの付き合いであり、物心ついてからもほとんどの時間を彼と共にしてきた。

 だから、私は彼に対して家族に近い感覚でいる。クラスメイトや友人が「夫婦みたい」と私と斗真をからかってくる時があるけど、私は斗真に恋愛的な好意は抱いていないし、多分斗真もそう思っていると思う。

 そんな斗真とは現在親友という関係性を築いている。

 文字通り一番親しい友人な訳だけど、これじゃ私の感覚と矛盾している。けど、私はこの『親友』というポジションに案外しっくりきていたりする。

 家族とはまた違う、気兼ね無さや安心感。

 ──とまあ、私の価値観などは一先ず置いといて。

 

 そんな私をもってしても、羽沢斗真という人物はよく分からないヤツなのである。

 歳に似合わない大人びた雰囲気。保育園の時から目上の人にも丁寧に話し、時々難しい言葉や言い回しを使って先生や周りの大人達を驚かせていた。

 どこか達観した空気を纏わせながら、はしゃぐ時は歳相応のはしゃぎっぷり。寧ろそのギャップが激しい分、より子供っぽく見える。

 そしてなまじ顔と頭がいいせいで女子人気が年齢差問わず異様に高い。けれど、当の本人はラブコメ主人公並の鈍感なのか、はたまた元から女性に興味が無いのか周りのアプローチに全く気付いてすらいない様子。

 それは中学に進学してからも変わる気配が無く、入学から一ヶ月弱にして早速斗真にアプローチをかけた女子生徒をのらりくらりと躱す姿は最早前世に女性関係で何かトラウマレベルの何かがあったとしか思えない。

 私が思いつく限りの女性の知り合いと言えば、妹のつぐみを除いて私や、ひまり、蘭、モカ、巴、沙綾、あこ、こころ、はぐみ、香澄、明日香ちゃん、それと今は海外にいるけど七菜ちゃん、そのくらいか。

 ⋯⋯あれ、年下が八割以上もいる。

 まさかアイツ、ロリコンのなのでは⋯⋯? 

 ロリコンだから同年代以上の女性に興味が無いのでは⋯⋯? 

 ……いや、斗真に限ってそれは無いか。

 アイツは天然タラシの気があるから、強いて言うなら前世はホストだったりして。

 ともかく、斗真にはそう言った話を聞かない。

 

 だから、そんな女っ気ゼロの斗真が同年代の女子と二人で御茶ノ水のオシャレなカフェでお茶を飲むなどという事はその出来事があった次の日には天変地異が起きるくらいに滅多に無い事なのである。

 

 

 

「ねぇねぇ、あのカップル凄くオシャレじゃない?」

 

 バスケの試合が終わった帰り道。最寄り駅の御茶ノ水に向かって部活仲間とお喋りしながら歩いていた時の事。

 部員の一人が言う方を見ると、雰囲気の良いカフェのテラス席にそれはそれは物凄く絵になるカップルが座っていた。

 眼鏡をかけた彼氏の方は整った目鼻立ちに少し伸びたこげ茶色の髪。全体的にダウナーな雰囲気を纏わせながら小説を読んでいる。

 対して彼女の方はその豊かな黒髪を靡かせながら頬杖を突いて街並みを眺めているが、思い出したように手元のドリンクを飲んでは視界に入った彼氏の方を見て幸せそうに微笑む。

 見た所全く違う行動を取っている二人だけど、寧ろそれが気兼ねない雰囲気を醸し出していて、違和感を感じない。

 まるで一枚の風景画のようにそこだけが完成された空間を醸し出している。

 誰もが羨む、理想のカップルがそこにいた。

 

 ──と、言うより。

 

「むむぅ……」

 

 思わず私は唸ってしまう。

 男の方。あれ斗真だ。隣で友達が「うっわ超イケメン」とか言ってるけどあれ斗真だ。秋葉原帰りの斗真だ。

 読んでる本もカバーしてて表紙が見えないけど多分ラノベだし、下に置いてあるビニール袋の中は十中八九アイツの言う「戦利品」だろう。

 いや、幼馴染がイケメンなのは知っている。隣で「何何、雑誌の撮影?」とか言ってるけど、あれ君のクラスメイトだから。

 それよりも、だ。

 隣にいる女子ひとは誰? 

 ……字面だけ見ると束縛の激しいメンヘラ彼女だけど、そうじゃなくて。それほど斗真が知らない女子と一緒にいるのが珍しいってだけで……あれ? これじゃもっとメンヘラみたいになってんじゃん。って違う。ああもう、だから──

 

「ゆづ?」

 

「ふぇっ……? な、何。どうしたの?」

 

「や、何。ゆづずっとあのカップル見てるから。どっちか知り合いなの?」

 

 友達に呼ばれて我に返ると、そう聞かれた。そんなに凝視してたのか。

 とりあえず誤魔化す。

 

「い、いや。知り合いも何も、あれ斗真なんだけど」

 

「え……えぇぇ! 嘘! マジで!? 羽沢君!? メガネかけてる!」

 

「まあ、アイツいつもはコンタクトだし……って、そこまで驚く事?」

 

 ていうか、君クラスメイトでしょって。

 

「って……彼女の方は隣のクラスの牛込さんじゃん。何この組み合わせ。正妻が嫉妬するっての」

 

 友達がチラチラと私を見ながら言ってくる。

 チラッ、チラッと。うざったい。

 

「いや、しないから」

 

「またまたぁ。嫉妬しちゃってんじゃないの?」

 

「だから、しないって。そもそも斗真とはそんなんじゃないし。ただの幼馴染なだけだよ」

 

「出た! 私も言ってみたいなぁ。『ただの幼馴染なだけだよ』。でもそれって結構な確率でフラグだよね」

 

「何言ってんの。ほら、行くよ」

 

 隣で何か言ってるのを受け流して、ようやく二人から視線を外す。駅までもうすぐだし、今日は家族で外食に行くから早く帰らなきゃいけない。電車だって早くしなきゃ乗り遅れてしまう。

 ──だから、この胸のモヤモヤは嫉妬とかそういうのじゃない。

 

 ──それじゃあ、このモヤモヤはなんだろう。

 

「⋯⋯」

 

 ……とりあえず、明日斗真は呼び出し確定という事で。

 私は未だに隣で騒ぐ友達を無視して帰途についた。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△

 

 

 

 あー、あー、テステス。本日は晴天なり、本日は晴天なり。

 

 ……こちら上原。最近幼馴染みの周りで女の影がチラつくのが妙に気になりだした上原。

 只今、数学の授業中。観察対象の我が親友であり幼馴染み、羽沢斗真はペンを片手に黄昏ています。ボーッとしています。

 あの表情は十中八九妹の事を考えています。シスコンが。

 どうせ「つぐみに会いたい」とか思ってるんだろう。

 バカ、私もだ。ひまりに会いたい。

 

 おほん。

 

 とにかく、斗真に何か変化はないかと左巻きのつむじを凝視する。劣性遺伝なのかな。

 どこ見てんだ私。

 

 おほんおほん。

 

 この前、御茶ノ水での事を尋も……訊いてみた。

 カフェのテラス席で一緒に座っていた女子の名は牛込ゆりと言い、春に大阪から越してきたばかりらしい。

 元々大阪の方でベースをやっていて、東京では心機一転、ギターを始めようと明大通りの楽器店を訪れた時に斗真に会ったんだとか。

 あと、重度のシスコンらしい。お前が言うか。

 とりあえず、斗真には『ナチュラルボーン鈍感クソたらし』の称号を授けておいた。感謝しろよコノヤロウ。

 その後、私の視線に目敏く気がついた斗真と授業中というのを忘れて斗真をイジっていたら先生に怒られた。

 

 

 放課後、私と斗真は文化祭実行委員の集まりのために視聴覚室にいた。

 数十分前のHRで全会一致で、反論の余地も無く実行委員が私と斗真に決まってしまい、ぶつくさ文句を言う斗真を宥めつつ他愛の無い会話で会議が始まるのを待っていると、にわかに女子生徒の囁き声が目立つ様になってきた。

 新入生代表の言葉として入学式に全校生徒の前でスピーチした斗真は図らずも学校のちょっとした有名人になっている。

 廊下ですれ違えば、「あ、この人入学式で喋ってた人だ」と認識されるくらいには。

 それでいて斗真自身、無自覚で男女問わずに誑し込む天才だから既に学年で人気投票をしたら間違いなく上位に名を連ねると思う。

 だからこそ、斗真のこの人気っぷりは頷けない事は無い。……まあ、本人は変な所で鈍感だから気づいてすらいないと思うけど。

 

「……なあ、俺の顔に歯磨き粉でも付いてるか?」

 

「……っはあ。これだから……」

 

 ホンットに。ホントもう。いやもうホンット、マジで。

 

「この天然クソタラシが」

 

「唐突なキャラ変についていけない」

 

 隣でクソタラシが何か喚いているけどそんなのどうでもいい。

 大きく溜息をついていると、斗真の元に近づく人が。

 ウェーブがかった黒髪。間違いない、牛込ゆりだ。

 どうやら彼女も実行委員になったらしい。偶然か、それとも──。

 

「──!」

 

 な、ななっ、なぁっ!? 

 今この人笑った? 私見て笑った? ほくそ笑んだ!? 

 ちょっと、え、何。なんで笑ったの? え、待って……ええっ!? 

 

「……夕弦?」

 

 どういう意味よ。私に対して勝るものでもあったの? あったからあの笑み? ……はっ、もしかして『私、こんな奴に負ける気がしない』って意味の笑い? それって私に対しての宣戦布告……? 

 

「……」

 

 ……いいじゃないの。やってやろうじゃない。アンタなんかに絶対負けないんだからね! 

 

「ちょっ、無言で脇腹刺してくるのやめてくれない? お前下手したら俺より力強いんだから……って痛い痛い!」

 

 隣でクソタラシが何か喚いているけどそんなのどうでもいい。

 ここに、親友と新参者の戦いの火蓋が切って落とされたんだから! 

 

 

 

 私の燃えたぎる熱い想いとは裏腹に会議が恙無く進み、実行委員長の号令と共に第一回の会議はこれにてお開きとなった。

 

「……」

 

 現時点で私のタスクは、この会議終わりのざわめきの中、あの女がどう動くか。動いた場合、どのような対処をするべきか、短い時間で最適解を出す事。

 なるべく彼女にダメージが残る方法で引き離したい。

 

「……!」

 

 さあ、目標が席を立った! ここからどうする? 退出するか、それとも……おおっ、こっちに来た! でもここまではブラフ。話しかけずにそのままゴーアウトの可能性も……は、話しかけたぁッ!? そ、それに顔を赤らめているだと……!? なんだこの反応は……、想定していないよ……ッ! 

 ……はっ! そうだこういう時こそ周りを見なければ! 目先の出来事だけではなくて周囲も見た上での判断だ。バスケにおいてもそうだったじゃん! 周り周り……皆こっちに集中してる!? なんなのよこの周りの反応は! 気づいて牛込さん! アナタ今注目の的よ! 

 ……そ、そうよ。私ったらなんで牛込さんの肩を持つような事を……今、ここでしょ!? なるべくダメージが大きい所で──────ここよっ! 

 

「ねえ斗真、外につぐみ達待たせてるんじゃなかったっけ」

 

「え……え、ああ、そうだったな」

 

 よしっ! 話を逸らせた! 

 

「そういう訳で、ごめん牛込。話なら明日聞くよ」

 

「あ……う、うん」

 

 よしっ! ナイスよ私! 超ナイス! 

 斗真について視聴覚室を出て、一つ息を吐いた。

 

「夕弦?」

 

「ううん。なんでもない」

 

 今日の所は一先ずこれでよしとしておこう。

 変な神経使ったから疲れた……。

 早くひまりに癒されたい。

 

 

 

 

 △▼△▼△

 

 

 

 

 斗真がバンドを組んだ。

 

 まあ、小学校の時から斗真がギターやっているのは知ってたし、腕前も素人目だけど普通に上手い。

 ただ……斗真アイツは良くも悪くも一匹狼みたいな所があって、変に他人とつるんで何かをするというのがあまり無い。現に、学校の友達と休日にどこかに遊びに行くとかそういったのは私の知る限り数えるくらいしかない。

 かと言って果たしてアイツに友達がいないのかと言えば決してそうでは無く、寧ろ私より多いんじゃないかと思うくらいに、アイツの交友関係は男女問わず広かったりする。

 けれどまあ、そんな事を本人に言ったら「んなことねぇよ」と素っ気なくあしらわれるんだけど。アイツが認識してないだけで、広く浅くのつもりが要所で頼りになるお陰で周りからの信頼が厚いのはクラスメイトの周知の事実。

 その要領の良さと博識さでクラスの影の支配者とまことしやかに囁かれている今日この頃。

 何なの、最大多数の最大幸福って。中学生にベンサム持ち出されても分かる人いないって。

 

 閑話休題(それはそれとして)

 

 他人とつるまない斗真がバンドを組むなんて、天地がひっくり返っても有り得ないと思ってたのに、そのメンバーがなんとあの御茶ノ水で一緒にいたあの牛込ゆりだと言うのだから、私は別の世界線に迷い込んでしまったのではないかという錯覚に陥ったのを誰が責められようか。

 というより、私のあの苦労を返して欲しい。若干私の中で黒歴史になりつつあるあの高度な心理戦(私だけ)を何とかして清算したい今日この頃。

 私がトイレに行っている間に連れていくとは……してやられたわ。

 ……とにもかくにも、それ以来斗真と牛込さんのコンビはSPACEでの練習を重ねて来たる文化祭に備えていた。私は私で部活が夏の大会に向けて朝練が増えたりして忙しくて、斗真と顔を合わせるのも学校だけという状況が続いた。

 学校終わり、部活に向かう私とは別に牛込さんに連れられて教室を出るアイツを見て、あの時に感じたモヤモヤっとしたのがまた私の胸の中にやって来て、それを無理矢理に振り払って部活に行く。そんな日々が続いて、ついに文化祭当日が訪れた。

 

 三年生演劇部による喜劇『ロミ男とジュリ江』が終焉を迎え、講堂が万雷の拍手に包まれる。演劇部の面々は皆輝かしい程の笑顔を浮かべ、達成感に満ち満ちた表情をしている。

 幕が降り、この劇を目当てに来た人とそうでない人との観客の交換がそこかしこで行われている。

 つぐみ達とも合流して、観客席の中盤の辺りに腰を下ろした。今頃幕の向こうでは斗真と牛込さんが最後の調整をしていると思う。

 そうこうしているうちに開演のブザーが鳴り響いた。会場は、空席を探すのが難しい程の観客で埋め尽くされていた。正直言って想像以上でびっくりした。これほどまでに斗真は周りから注目されているのかと思って、誇らしい気もしたけど、やっぱりモヤモヤっとしたのが胸の中にいる。

 幕が上がり、足元から斗真と牛込さんが現れていく。

 幕が上がりきった時、会場に小さなざわめきが起こった。

 それもそのはず、斗真は今日のこの舞台の内容を明かしはしなかったのだから。それについての憶測が憶測を呼んで、一時期は斗真が落語をするという噂が持ち上がった時もあったっけ。

 真っ黒なギターを肩から下げ、斗真は会場を見渡す様に視線をさまよわせている。と、斗真の視線が私の座っている席に向いた。隣に座るつぐみが「頑張って」と口パクで斗真に向けて言うと、斗真の目の色が変わった。

 いつも斗真が纏っているダウナーな雰囲気もどこかに消え、張り詰めたものに置き換わり、その佇まいは気を抜けばすうっと惹き込まれてしまうようで。

 会場がしんと静まり返る中、牛込さんのソロパートから曲が始まった。そのうち斗真も入ってきて二人の音色が講堂内に混ざり合って、消えていく。

 観客は盛り上がり、それにつられる様に二人のエンジンもかかっていく。

 

「……!」

 

 心から楽しんでギターを弾く斗真を見て、私はあの御茶ノ水のテラス席で斗真を見てから感じていた胸の中のモヤモヤの正体が少しだけわかったような気がした。

 小さい頃から、それこそお互い物心つく前からの付き合いでいつも斗真とは一緒にいた。

 長所も短所も、魅力もシスコンな所も、斗真の全てを彼の隣で見てきた。

 斗真が私でも見た事が無い程に、楽しそうにギターに打ちこんでいる。

 それなのに、そんな斗真の隣に私はいない。

 小さな事かもしれない。でも、そんな小さな事が私にとっては日常の一部と化していて、欠けてしまうとどうしようもない違和感に襲われて。

 きっと胸のモヤモヤはその違和感が作り出したものだと思う。

 いつも隣にいた斗真が、なんだか遠い所に行ってしまったような気がして。

 いつか、私が手を伸ばしても、そんな事にも気がつかないくらいに遠くに行ってしまった気がして。

 ステージに立つ斗真と、観客席に座る私。

 目に見える所にいるのに、手を伸ばしても絶対に届かない距離。

 

「……」

 

 軽く眩暈がして、ギュッと目を瞑った。

 心臓を揺さぶる程の音楽に観客の歓声。その中で斗真の奏でるギターの音だけがやけに大きく聞こえた。

 




夕弦回でした。

独白(モノローグ)と言うだけあって、セリフが殆どありませんでした。
読みづらいと思います。すみませんでした。

実はもう一つ、夕弦視点の話を準備しているので頃合いを見てまた投稿しようかと思います。

ではまた31話で。
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