転生してみませんか?   作:RyuRyu(元sonicover)

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こんにちは。

ポピパの『Daydream café』で心をぴょんぴょんさせ、ハロハピの『回レ!雪月花』でエキスパ譜面のトラウマが蘇った。どうもRyuRyuです。

ちなみに、『奏』はfeat.高木さん派です。

では、本編です。


32話 自白と、それに準じたナニか

 クラッカーの破裂音が空気を切り裂き、火薬の匂いがそこはかとなく漂う。

 一拍の間の後、今日の主役を祝う声が店内に木霊した。

 

「誕生日おめでとうお姉ちゃん! これプレゼント」

 

「ありがとひまり。……これ何」

 

「〇カチュウ!」

 

「そ、そう。ありがとう……」

 

 既にピカ〇ュウらしきものの手づくりのぬいぐるみを始め、夕弦の腕にはいっぱいのプレゼントが抱えられている。

 そんな中俺はと言うと、厨房の方で追加の食べ物を作っていた。

 今日は店を貸し切っての夕弦の誕生日パーティー。テーブルには俺と父さん謹製の料理が並び、中央に鎮座するケーキはひまり達が盛りつけた。

 夕方から始まったパーティーは開始から時間が経ち、子供達は子供達で集まって大人は大人でアルコールが進んでいる。

 酔っ払いに厨房を任す訳にはいかないから、一先ずは俺が何かあった時の為に厨房に待機していた次第だ。

 ……あれ、なんだろう。割とデジャヴ。

 そんな事を思う間に父さん達の酒のツマミになる様にと作ったフロマージュは完成し、テーブルに持っていく。

 決して昨日二十騎がフロマージュフロマージュうるさかったからではない。なんなら新メニューフラペチーノもありだなとも思ってない。

 

「ちょっと斗真」

 

 大人組のテーブルに料理を置いて、また厨房に戻ろうとした時に母さんに呼ばれた。母さんは店の奥の方に俺を連れていくと、不満気な表情で言ってきた。

 

「あんた、いつまで逃げてんの」

 

「……は? なんの事」

 

 いきなり核心を突かれた気がして咄嗟に誤魔化してしまう。

 けれど、それもお見通しだと言わんばかりに母さんはため息をついた。

 

「はぁ、誤魔化しても無駄よ。聞いたわよ、夕弦ちゃんとの事」

 

「……」

 

 そこまで言われたらもう言い逃れはできず、沈黙する事で肯定する。

 

「まあ私はとやかく言えないけど、しっかり向き合いなさいよ。……ホントにそういう所、あの人に似てるわね……」

 

「え、そうなの」

 

「とにかく、男ならチャキっとして、つぐみにかっこいいとこ見せてやんなさいよ。そのために買ったんでしょ?」

 

 そう言い、母さんは俺のポケットを指さした。それは不自然に膨らんでいて、俺がいつ渡そうか、なんて言って渡そうか考えていたものが入っていて。

 

「……」

 

 だからといってそれがなんなのか俺しか知らないと思っていたから、やっぱこの人には適わないなと母さんを見遣る。

 

「なんで知ってんだって顔してるけどさ……」

 

 そんな俺を見て母さんは俺の頭に手を置いて、ニヒルな笑みを浮かべて、男勝りにこう言った。

 

「子供の変化に気付けなくて何か親だ。母親をナメるなよ」

 

「……うっス」

 

 やべぇ、ウチの母ちゃんマジかっけぇ。そりゃ父さんも惚れるわ。

 

 

 

 

 △▼△▼△

 

 

 

 

「……なぁ、夕弦」

 

 母さんに発破をかけられて意を決した俺は夕弦が座るテーブルに向かった。

 ぶっちゃけ言って超気まずい。何せあれ以来夕弦とは顔合わせすら合わせていなかったのだから。アイツの表情があの時以来上書きされずに脳裏にそのまま残っているのだから。

 

「……なに」

 

 俺と夕弦が醸し出すなんとも言えない雰囲気にあてられたのか、周りに座るひまり達がソワソワとしだす。

 

「その……なんだ」

 

 何か薄い膜みたいなものがポケットの周りにあるみたいに、俺の手がポケットの周りを彷徨う。

 ただポケットに手を突っ込んで、中に入っているものを出して、何か一言添えて夕弦に渡すだけなのに。

 ただそれだけの事なのに、どうしてだろう、それができない。

 

「……」

 

 夕弦は返事はしたものの、こちらに顔を向けようとはしない。それが俺の意思に更にブレーキをかけてくる。

 いつの間にか、店内は静まり返り、俺と夕弦の一挙手一投足を見逃さんとばかりに酒の入った酔っ払い共もこちらを見てくる。

 その奥にいる母さんはじっと俺を見据え、穏やかな表情をしている。

 目線だけを動かしてつぐみを見ると、つぐみも俺を見つめていた。

 その目は、俺と夕弦の今の関係を全てわかった上で、それでも俺を信じてくれている様な、そんな目をしていて。

 明らかに考えすぎだけれど、その目を見てさっきの母さんの言葉を思い出した。

 

「……ちょっといいか」

 

 唐突に夕弦の腕を掴んで、店の奥へと連れていく。

 階段を上って、俺の部屋の前まで辿り着いた時、夕弦から俺を呼び止める声がした。

 

「ね、ねぇ」

 

 いつの間にか彼女の腕を掴む力が強くなっていたみたいで、慌ててその手を離す。

 

「わ、悪い……」

 

「うん……」

 

 それからどのくらい、俺達の間を静寂が支配したのだろう。数秒、数分、実際はそのくらいの時間だっただろうけれど、俺にとってはその何倍、何十倍も長く感じる。

 

 ……いや、何やってんだよ俺。そうじゃないだろ。

 いつまでうじうじしているつもりだ、女々しいぞ。

 昨日は二十騎を利用して逃げようとした。それまでも何かと理由を付けて逃げていたじゃないか。

 それでも、母さんが、つぐみが信じてくれるなら。

 ⋯⋯俺は、それを理由に向き合ってみせる。

 手はすんなりとポケットの中に入った。中に入っている小箱にしっかりと掴んで取り出す。

 

『あ、あのさ』

 

「……」

 

「……」

 

 なんだよこのテンプレ展開! 恥ずすぎだろ! 

 

「……お前からでいいよ」

 

「いや、斗真からでいいよ。……何?」

 

「そうか……えっと、誕生日おめでとう」

 

「……うん」

 

「それと、これ。誕生日プレゼント」

 

 差し出した小箱を見て、夕弦は躊躇いつつもそれを受け取る。

 恐る恐る小箱から中身を取り出して、掲げる。

 

「それと……ごめん」

 

 頭を下げて、謝罪の意を示す。

 数秒後、頭をゆっくりと上げると、夕弦はこちらを驚きに満ちた目で見ていた。

 

「何を今更と思うかもしれない。けど、違う。そうじゃないんだ。もちろん、ひまりを危険な目に遭わせたのも悪いと思ってる。でも、それだけじゃなくて……」

 

 一つひとつ、言葉を選びながら夕弦に告げる。

 あれから、考えて、考えて、そうじゃないって思ったら取り消して、また考えて……。

 そんなトライアンドエラーを繰り返して、漸く見つけた一つの答え。

 最初は、一縷の光みたいな、触れればそれだけで壊れてしまう様な信憑性の無いモノだったけれど、一度そう思ってしまうとそれは俺の中で徐々に確信が持てる様になっていた。

 

「……俺はお前を裏切った。お前は、俺を信用してくれているからひまりを任せてくれた。でも、俺はそんなお前の信用を裏切ってひまりをエサに使った。……だから、ごめん」

 

 再度、頭を垂れる。今の俺ができる誠心誠意の謝罪。

 夕弦は、手に持つネックレスをギュッと握って、口を開いた。

 

「……許さない。って言ったら?」

 

 ──許さない。

 それまで巫山戯(ふざけ)て言っていたのとは全く違ったその言葉の重さに、背筋に冷や汗が流れる。口の中が乾き、頭が真っ白になる感覚を覚えた。

 

「……俺は、寂しかった」

 

 そこからは、あまりよく憶えていない。ただひたすらに頭に浮かんだ言葉を取り出して、継ぎ()ぎで台詞を紡ぐ。

 

「物心つく前からずっと一緒にいて、一緒に学校に行って、一緒に同じ中学に上がって……。だから、お前と一緒にいるのが当たり前だと思ってた。けど、俺はバンドを組んで、お前はバスケを始めて、だんだんお前と、皆といる時間が少なくなっていた。初めはそういうもんだと思ってたけど、結局そうじゃないんだって事に気づいて。俺は、寂しかったんだ。なんだかお前が遠くに行った感じがして、そんな漠然とした思いをギターにぶつけて無理矢理昇華させて……そんな時に、あの日になった」

 

 今でも鮮明に、嫌という程鮮明に脳裏に浮かぶ夕弦の顔。

 光を灯さないその目の奥にあるナニかにどうしようもなく恐れて、逃げてしまった。

 

「正直に言うと、あの時のお前が俺はとても怖かった。始めて見るお前のあの顔が、あの表情が、俺には何か異質なものに感じて、なんだかどうしようもなく怖くなって、目を背けて……そうやって怯えている自分が情けなくて、恥ずかしくて。……そのうち何に向き合えばいいのかもわからなくなった。ホントに、そういう所はずっと……ずっと前から変わらなくて、そんな俺に嫌気が差す」

 

 前世の俺も、似た様な人間だった。

 その先の関係に進むのを恐れて、情けなく目を背けては消えていくのをただ唇を噛んで見ているだけ。そうして生まれる後悔に身を(やつ)す。

 ……なんと情けなく、恥の多い人生だっただろうか。

 

「……でも」

 

 それでも、前世の(そんな)俺も今の俺も、等しく俺な訳で。

 弱い所も、醜い所も全部引っ括めて羽沢(酒井)斗真なのであって。

 

「そんな俺に、逃げ道を消してくれる人がいて、背中を押してくれる人がいる。そこまでされてやっと踏み出せる様な俺だけど、だからこそ、今度こそ、本当の意味であの時と向き合う事ができた──俺は、もうお前を裏切らない」

 

 ネックレスを持つ夕弦の肩が、少し動いた。

 

「うん……うん、わかった」

 

 噛み締める様に何度か頷いた後、夕弦はそう首肯した。

 少しだけ安堵したのも束の間、次に夕弦から発せられた言葉に俺は今度は目の前までもが真っ白になる感覚を覚えた。

 

 

 

「──やっぱり、許さない」

 

「──ッ!」

 

 ああ……そうか。

 もう今までみたいには戻れないのか。

 あれだな、やっぱダメだな俺って。

 たった一人の女の子に許してもらえなかっただけでこんなクるものがあるなんて。

 情けないとも思いつつ、それも結局の所俺なんだと開き直る俺もいて……。

 

「……ぅま。斗真!」

 

「ッ!?」

 

 気づくと、目の前で夕弦が心配そうに手を振っていた。

 

「……な、何?」

 

「いや、なんか斗真勘違いしてないかな〜って思って」

 

「勘違い……?」

 

 どういう事だ? 許す許さないに勘違いが介入する余地なんてあるのか?

 訝しげに夕弦を見ると、「そんな顔しないでよ」と呟いてから話し始めた。

 

「斗真の考えた事は合ってるよ。……私は斗真に裏切れたと思った。結果はどうあれ、ひまりに危ない思いをさせた。……まあ、勝手にそう思ってただけだから、今となっては何を思い上がってるんだろうとは思うよ」

 

「んなこと──」

 

 無い。

 自嘲気味に言う夕弦の言葉を否定しようとしたが、言い切る前に夕弦が更に続けた。

 

「私も、寂しかったんだよ」

 

「……は?」

 

 そこから、夕弦は訥々と、自白する様に話し続けた。

 

「私も、最近はずっとそんな思いだった。文化祭の時にステージに立つ斗真がなんだか遠く感じて、あんなに楽しそうにギターを弾いている斗真の隣には私がいなくて……。それで……なんだろう、すごく寂しくなって、けどそんな顔してたらひまりが心配するから必死に隠して、その思いをバスケにぶつけて何とかやってたの。そしたらあの事があって、なんか自分でもよくわからなくなって……ああ、私って裏切られたんだって思った」

 

 まるで自分に言い聞かせている様にも思えるその話ぶりに、俺の色んな所が抉られる様な、そんな気持ちがした。

 

「だから……私の方こそごめん。あの時ちゃんと自分をコントロールできてたら、こんな事にはならなかったし、勝手に思い上がるようなわがままな私だから、お互いに気まずくなった」

 

「いや、んな事ねぇよ」

 

「でも、そんなわがままな私だから、私は斗真を許さない」

 

 夕弦はいたずらっぽく笑って、

 

「勝手に思い上がって、勝手に傷ついた私だけど、傷ついたのは本当だから。斗真にはその罪を償うまで私は許さないよ」

 

「……何をしたらいいんだよ」

 

 その問いかけに、夕弦はずっと手に持っていたネックレスを掲げ、

 

「まずは、これを付けて欲しいな」

 

「あ、ああ……」

 

 夕弦からネックレス受け取って、彼女の首に腕を回す。

 セミロングの髪を纏め上げた夕弦からシャンプーのいい香りがして、コイツも変わったなあ、と年柄も無くそう思った。……あ、年柄はあるか。前世から合わせたらアラフォーだもんな。

 けれどまあ、そんな事を思うだけで今更トキメキも何も無いまま、彼女の首にネックレスを付け終える。

 

「終わったぞ」

 

「うん、ありがと」

 

 ……前言撤回。ちょっとカワイイと思っちまったじゃねぇか。そのハニカミはちょっとズルいと思います。

 俺の買ったそのネックレスはこれでもかという程夕弦に似合っていて、薄暗い家の廊下にあって首元の向日葵がキラキラと輝いている様な錯覚を覚えた。

 

「……これで贖罪は終わりか?」

 

「何言ってんの。終わりなわけないじゃん」

 

 まあ、でしょうね。

 

「じゃあ、何だよ」

 

 聞くと、今度は何故か言いづらそうにもにょもにょと口元を動かせる。

 

「……んだよ。早く言えよ」

 

 気分はさながら判決を待つ被告人だ。裁判受けた事無いけども。

 

「私を傷つけた罰、それと私を寂しがらせた罰として──」

 

 俺との数歩の距離を夕弦はゆっくりと詰め、ついにゼロ距離となった所でポスっと夕弦の額が俺の肩にもたれかかって来た。

 

「……夕弦?」

 

 さっきも香ったシャンプーの匂いが鼻腔を刺激する。

 

「……もう、私の傍から離れないで」

 

 蚊の鳴くような声のその言葉は、不思議な程に俺の耳にしっかりと入った。

 

「もう、あんな寂しい思いはしたくない。傷つきたくない。遠くに、行かないでほしい」

 

「夕弦……」

 

 ──おそらく、夕弦の今の本当の気持ちなのだろう。

 少し震えながらも、声にはしっかりと芯がある。

 ──おそらく、怖いのだろう。

 その恐怖に抗う様に、俺服の袖を掴む力が強くなっている。

 ──おそらく、夕弦は必死なのだろう。

 今のセリフの意味を客観的に吟味する余裕も無い程に。

 

 相手が焦っていたりすると、こっちは逆に冷静になるのはままある事で。

 夕弦の立っていた向こう側、廊下と階段の陰にひょっこりとこちらの様子を伺う顔が一つ二つ三つ四つ……八つ……多くね? 

 

「……わかった」

 

 あいつらの処遇は後にして、今は夕弦の告白に答えなければ。そう思って首肯の言葉を紡ぐ。

 

「親友……だからな。一番大切な親友の頼みを断る訳にはいかないだろ」

 

「親友、親友……そっか、親友だもんね」

 

 噛み締める様に何度も「親友」と呟く夕弦の向こうで、残念そうな目で俺を見るマイママンと上原ママン。……ちょ、これみよがしにため息つかないでくれない? 

 

「……もう一つ、いい?」

 

「まあ、誕生日だからな」

 

「ふふ、ありがと」と、夕弦は俺から離れると、気持ちの良い笑顔を浮かべる。

 そこはかとなく感じた違和感に冷や汗がタラりと流れる中、夕弦の口から最後の贖罪の内容が告げられた。

 

「親友なら、互いの悩みも打ち明けられるように、自分の事を隠さずに伝えるのも一つだと思うんだ。だからさ斗真、こんなわがままな私に教えてくれないかな」

 

 続いて発せられた言葉は、捉えようによっては今日一番の爆弾だった。

 

「──斗真さ、私に、皆に隠してる事があるよね。時々田中さんとコソコソやって……それが何か、私に話してほしいな」




33話でした。

思った事を素直に言い合える関係って良いですよね。

次回、割とピンチな斗真。大人しくゲロるのか、無様に足掻くのか、どうなるのか?
お楽しみに。

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