転生してみませんか?   作:RyuRyu(元sonicover)

36 / 44
こんにちは。明けましておめでとうございます。

ラーメンのスープは全部飲む派。
塩分過多?そんなの知るか。どうもRyuRyuです。

今回は前前前回の後編みたいな感じです。
殆どが一人語りなので、会話が少ないのをご了承ください。

夕弦が絡むと長くなる【定期】、では本編です。


32.5話 上原夕弦の独白

 ダン、ダンとボールが弾む音。

 キュッ、キュッとシューズと床が擦れる音。

 敵味方入り乱れる掛け声と歓声と熱気が会場を蒸し暑くさせている。

 今日は夏の地区大会の準決勝。三年生の先輩はとっては最後の大会。これに勝つと都大会に進出できるとあって、皆の気合いの入り方がいつもとは違っている。

 試合のメンバー入りした私はベンチで戦況を見つめていた。目まぐるしく変わる戦況に、私は珍しく興奮していた。

 私が推薦を受けた中学と比べたらレベルは下だけど、それでも羽丘の中等部は都大会の常連とはいかなくても部員の練習意欲や先輩達の技術は高い所にある。

 私はその中で期待の新入部員として入部した時から、顧問の先生と先輩達の期待を受けていた。

 その期待に応えようと、先月の一年生だけの大会で結果を残し、この大会でメンバー入りを果たした。この事に、ひまりも両親も手放しで喜んでくれて、今日だって観客席で見守ってくれている。

 そんな家族の為にもと、今日の試合でもこれまでに訪れた三回の出場で五つのシュートを決めてみせた。

 試合は羽丘のリードで第四クォーターの終盤、後数分で私達の都大会出場が決まる。試合展開としても理想的で、私は後は先輩達の試合を見ているだけだった。そのはずだった。

 

 ──アクシデントというのは得てしてこういう時に起こるものだと私は痛感することになる。

 

 相手チームの一人が少ない残り時間に焦って先輩を倒してしまう。その先輩はここ最近絶好調で、今日も攻守に渡ってMVP級の活躍を見せていた。そんな先輩の負傷交代に、こちら側のベンチは早急の対応を余儀なくされる。

 

「上原、行けるか?」

 

 顧問のその問いかけに私は迷わず「はい」と答えた。

 苦痛に顔を歪めた先輩とタッチを交わしてコート内に入る。

 でも、私自身、ここ最近の調子は代わった先輩と違って最低に近い。

 ……それも全部、あのいけ好かない親友のせいだ。

 思えば一年生の大会の時も、周りの期待に応えようと思ったのとは別の思いがあった。

 私は、逃げていたのかもしれない。

 御茶ノ水での一件以来、なんだか遠くに行ってしまった斗真に私はどうやってアイツに近づけるか考えてみた。けど、考えれば考えるほどその答えはわからなくなって、いつしかそれを考えるのすら諦めてよりバスケに打ち込むようになっていた。

 バスケを都合のいい言い訳にして、本当に向き合うべきことから逃げていた。

 逃げて、逃げて、目を背け続けた結果、適切な距離感すらもわからなくなっていた。

 そんな事を、先日の出来事で嫌という程思い知らされたような気がする──。

 

 ────

 

 ──

 

 その日は大会に向けての練習試合を隣町の花咲川でやっていた。

 ちょうどお昼ご飯の時に斗真から、池袋でひまりが迷子になったという連絡が入った。

 今すぐひまりを探しに行きたくなったけど、今は大事な時期だからと何とか自分を押さえつけて、『見つからなかったら殺す』とだけ送ってスマホの電源を切った。スマホがあるとどうしても気になって試合どころじゃなくなる気がしたから。

 それなりに効果はあったみたいで、その後の試合ではいつもと変わらないプレーができた気がする。

 試合が終わって真っ先にスマホの電源を入れると、母さんからひまりは無事見つかったといった内容の通知が来て、安心のあまりその場に座り込んでしまった。

 母さんからの通知はまだ続いていて、半ば放心状態でスクロールした。

 

「──!」

 

 それを見た私はとても言い様の無い感情に襲われた。

 

 ──ひまりが最近噂になっていたロリコン男に絡まれていた事。

 ──止めに入ろうとした巴を斗真が制した事。

 ──斗真はひまりをエサにしてその男を捕まえようとしていた事。

 ──男は無事捕まり、ひまりには怖い思いをさせたと斗真が謝りに来た事。

 

「……こんなの──ッ!」

 

 気づいたら私は走り出していた。

 試合が終わったばかりで身体は疲れているハズなのに、どうしてか疲労を感じる事は無かった。

 

「こんなの……こんなのって……!」

 

 この時の感情は私にも分からない。

 怒り、悲しみ、安堵、驚愕、喪失感……。

 色んな感情がごちゃごちゃになって、ドス黒い“ナニカ”が生まれようとしていた。

 なんでひまりがそんな目に遭わなければならなかったの? 

 なんでアイツは私の妹をエサにするようなことをしたの? 

 なんでアイツはその後謝ったの? 

 なんで私はアイツに任せたの? 

 なんで私はアイツを信じたの? 

 

 

 

 

 なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで──。

 

 

 

 

 

 ──なんで、私はアイツに裏切られたの? 

 

 

 

 

 

 

 気がついたら、私は斗真の胸ぐらを掴んでブロック塀に押しつけていた。

 アイツの端正な顔立ちが苦痛と困惑と罪悪に歪んだ顔を見て、私は彼の顔を見る事ができなくなって、下を向く。

 

「…………バカ」

 

 辛うじて口から搾り出せたその一言を最後に、あれ以来斗真とは顔すら合わせていない。

 

 

 ──

 

 ────

 

 

「……ぇはら! 上原!」

 

 誰かに大声で呼ばれて我に返る。

 手にはバスケットボール。前から相手が迫って来ている。

 咄嗟にドリブルして躱そうとしたら、審判の笛が私のプレーを止めた。

 ダブルドリブルで反則を取られたらしい。ダメだ、今まで私、どんなプレーしてたっけ。

 得点板を見れば、私がコートに入った時はまだ余裕があった点差も、この数分のうちに数点差まで肉迫されていた。

 たまらず顧問がタイムアウトを取り、ベンチ前にメンバーが集まる。

 私はどんな事を言われるのかビクビクしながらベンチ前に向かった。罪人ってこんな気持ちで絞首台に向かうのかと無神経な私がどこかで思った。

 でも、顧問やチームメイトから発せられるのは叱責ではなく心配と激励の声だった。

 どうやら私のプレーを見て、相手が私の所を重点的に攻め立てたせいでこの点差にまで迫られているらしい。言わずもがな、ここまで追い込まれたのは私の責任だ。

 皆から責められてメンバーからも外されても文句は言えない。いっそそうしてくれた方がありがたかったかもしれない。

 けど、皆はそんな事をせず、私の事を信じてくれているみたいだ。

 たかが個人的な事で気持ちを揺さぶられ、大事な試合にすら集中できていない私を「信じる」と言ってくれているのだ。

 顧問は笑顔で「行ってこい」と言って、私を送りだしてくれた。

 先輩達は「私達に任せて」と私を励ましてくれた。

 コートに向かう途中、観客席からはメンバー外の部員があらん限りの声援を送ってくれる。

 ひまりと目が合った。

 

「お姉ちゃーん! 頑張れー!!」

 

「ッ……」

 

 視界が潤むのを必死で堪える。

 もしこの世に神様がいるとするなら、その神様はとても残酷な神様だ。

 一体前世でどれだけの功徳を積めば、私にこんな仕打ちができるだろう。

 全く、この世は残酷で、薄情だ。でも──。

 

 試合終了のブザーが鳴り響く。

 三年ぶりの都大会出場の歓喜に沸く輪の中心に、私はいた。

 

 

 

 △▼△▼△

 

 

 

「お姉ちゃん、誕生日おめでとう! はいプレゼント!」

 

「ありがと。……何、これ」

 

「ピ〇チュウ!」

 

「あぁ……そう」

 

 とりあえずひまりの頭を撫でて誤魔化す。するとひまりは嬉しそうに身をくねらせた。……単純で助かる。

 都大会出場を決めた次の日、打ち上げ兼私の誕生日会という事で午前中からバスケ部でパーティーが開かれた。

 なんだか私が主役みたいな扱いを受けたけど、都大会出場に関しては先輩達の功績だから、先輩達も私を祝わず自分達を祝って欲しかった。

 とまぁ、そんな事があったのが夕方までの話。今は妹達からのプレゼントを両手に抱えながら羽沢珈琲店特製のパーティーメニューに舌鼓を打っている。

 そんな中でも、私の目線は厨房で追加の料理を率先して作っている親友に自然と向いてしまう。

 今まではなんだかんだで三日と置かずに顔を合わせていた親友。

 一週間合わないだけでこんなにも久しぶりに感じるのかと驚きに似たモノが私の中にあった。

 

「……ユヅ姉?」

 

「な、何? 蘭」

 

「いや、ずっと斗真を見てたから。……ケンカでもしたの?」

 

「あー……まあ、そんな所かな」

 

 これはケンカと言っていいものなのかな? 

 ケンカ、と言う言葉で収めていいものなのかな? 

 そんな疑問が浮かんだけど、これを蘭にどう説明すればいいのかわからなかったから、ぼかして答える。

 

「ふぅん、そう」

 

 それきり蘭は私に踏み込んだ事を聞こうとはせずに、テーブル広がる料理に手をつけ始めた。

 蘭と初めて会った時は引っ込み思案でおどおどしていたのに、今は無口でクールで少し不器用な女の子になって、成長したんだなぁ……とおばあちゃんみたいになる時がたまにある。

 けど、根の部分はあまり変わっていなくて、優しくて、繊細で、割とメンタルが弱い所に物凄く庇護欲をそそられて、守ってあげたいって思っちゃう。ほら、今だってクールを装っていながら料理を目の前に口元がニヤけてる。かわいい。

 しばらく蘭を見て癒されていると、視界の隅の方で斗真が斗真のお母さんに連れられて店の奥に消えていくのが見えた。

 なんだかそれが気になっていると今度は巴に心配された。

 ……ダメだな、私。最近は自分をコントロールできていない気がする。

 それも全て文化祭の時に自分の抱えるモヤモヤの正体がわかってしまったせいであって、これも元を正せば全部アイツのせい。Q.E.D──証明完了。

 ……私は何について証明してたんだろう。

 

 閑話休題(知るか)

 

 そんな下らない事を考えていると、全ての元凶(斗真)が彼のお母さんに続いて戻ってきた。

 そのまま厨房に戻ってくと思ってた斗真は、どこか思い詰めた顔で私達のいるテーブルに歩いて来た。

 

「……夕弦」

 

 斗真が私を呼ぶ。私にとっては久しぶりとも感じる斗真とのコミュニケーション。

 

「……なに」

 

 それなのに、思ってる事と行動が一致せずにこんな態度になっちゃって、私の天邪鬼さに呆れる。

 

「その……なんだ……」

 

 さっきから斗真の右手がジーンズのポケットの辺りを行ったり来たりさせているのが目につく。見れば、そのポケットは不自然に膨らんでいて、中身はある程度予想ができた。大方、私へのプレゼントでしょ。

 でも、その事をあからさまに指摘する程私はKYじゃないし、そこら辺の配慮もできる。具体的には見て見ぬふりをする。

 

「……ちょっといいか」

 

 すると、斗真は私の腕を掴んで歩き出した。これには私も、周りにいたひまり達もびっくりして、店内が一瞬ざわめいた。

 

「ね、ねぇ」

 

 三階の斗真の部屋の前で漸く私の声が斗真の耳に届いて、パッと斗真の手が私の腕から離れる。

 

 それから数分、いや数十秒くらいの間、私と斗真を気まずさが包んだ。

 斗真の方は何かを言おうとして、躊躇ってを繰り返している。

 ……私も私で斗真に言いたい事がある。

 なんであんな事したのかとか、何を今更とか、なんのつもりだとか。

 言いたい事かたくさんある。

 

『あ、あのさ……』

 

「……」

 

「……」

 

 何このラブコメ展開! ベタ過ぎて逆に恥ずかしいね! 

 

「……お前からでいいよ」

 

「いや、斗真からでいいよ。……何? 用って」

 

「……えっと、誕生日おめでとう。これ、プレゼント」

 

 渡された小箱の中には向日葵のネックレスが入っていた。私はそれを胸の前で掲げてみる。思えば、私自身持ってるアクセサリーの数が同年代の子と比べてかなり少なかったっけ。あってちょっとしたブレスレットくらい。

 ……ってことは、斗真は私がそういう類のものを持ってないってことを知ってて、そんな私のことを想って買ってくれたもので、それには私の好きな向日葵の花があしらってあって……。

 

 ……やばい、超嬉しい。

 

 口元がどうにかなりそうなのを必死で抑えていると、目の前の斗真がいきなりバッと頭を下げた。

 

「……俺はお前を裏切った。お前は、俺を信用してくれているからひまりを任せてくれた。でも、俺はそんなお前の信用を裏切ってひまりをエサに使った。……だから、ごめん」

 

 何を今更。

 思うがままにそういった感情をぶつけたくなったけど、そんな私がものすごく醜く感じてギリギリの所で思いとどまる。

 その代わり、こんな親友に少しの悪戯心が顔を出してきた。

 

「──許さない、って言ったら?」

 

 演技を織り交ぜて言うと、斗真は一瞬焦った表情を見せる。

 そこからは、まるで自分の罪を自白するように話し始めた。

 

「……俺は、寂しかった」

 

 

 ──ああ、なぁんだ。

 

 斗真も、私と同じだったんじゃん。

 遠くにいっちゃったような気がした斗真も、同じように私を遠くに感じていて。

 微妙になった距離感もどっちも向き合えずに逃げていたり。

 けど、逃げていた先でこうやって斗真が向き合ってくれている。

 

「──俺は、お前を裏切らない」

 

 そのことが、すごく嬉しい。

 

「うん、うん……そっか」

 

 いけない、顔がニヤけてしまう。お願い仕事して私の表情筋。

 そんな照れ隠しも含めて、私はさらに斗真にイタズラしたくなってきた。私ってばもしかしたらサドだったのかも。

 

「……でも、やっぱり許さない」

 

 途端に、斗真の顔色がサァーっと青ざめた。

 うわ言のように何かを呟いては、だんだんと目が腐っていく。

 

「斗真。斗真!」

 

 そんな斗真の前で手を振りながら何回か呼びかけると、やっと反応してくれた。

 その顔はまるで棄てられた子犬みたいな、私に縋るような顔をしている。

 

「……な、何?」

 

「いや、なんか勘違いしてないかな〜って」

 

 何言ってんだコイツみたいな風に斗真が私を見る。いや、そんな顔しないでよ。

 

「斗真の考えた事は合ってるよ。……私は斗真に裏切られたと思った。結果はどうあれ、ひまりに危ない思いをさせたし。……まあ、勝手にそう思ってただけだから、今となっては何を思い上がってるんだろうとは思うよ」

 

 自虐的に言う私を斗真は否定しようとするけど、それを遮って私は話し続ける。

 斗真が本音で向き合ってくれたんだから、私も同じように向き合ってやるのが友達ってもんだし、親友なんだと思うから。

 

「私も、寂しかったんだよ」

 

「……は?」

 

 私も、私がここ最近思っていた事を話した。

 文化祭で感じた『寂しい』という気持ちから逃げるようにバスケに打ちこんで、それであの日のこと。

 自分の感情をコントロールできずに斗真にあたってしまったこと。

 

「だから……私の方こそごめん」

 

「いや、んな事ねぇよ」

 

「でも、そんなわがままな私だから、私は斗真を許さない」

 

 そう。『許さない』。

 斗真の罪の重さとか、そういうのは今はどうだっていい。

『許す』か『許さない』か。要は、私自身の問題だから。

 

「勝手に思い上がって、勝手に傷ついた私だけど、傷ついたのは本当だから。斗真にはその罪を償うまで私は許さないよ」

 

 そんな都合のいい言葉を並び立てて自分を正当化させる。

 いつもの斗真だったら、「は? 何その自己満」とか言って聞いてくれないけど、今はそれを突っぱねるくらいの余裕が無いのは分かってる。

 

「……何をしたらいいんだよ」

 

 ほら。

 

「まずは、これをつけてほしいな」

 

 手に持ってたネックレスを斗真につけてもらう。

 私の首元にぶら下がった向日葵を見て、またあの嬉しい気持ちが湧き出てきた。

 

「ありがと」

 

「……これで贖罪は終わりか?」

 

「何言ってんの。終わりなわけ無いじゃん」

 

 バカなんだろうか。この鈍感クソタラシ野郎は。

 

「じゃあ、何だよ」

 

 ……えーっと、そう言われると。

 

「んだよ。早く言えよ」

 

 ああもう、じれったい。これも罪だ。大人しく罪を受けろ鈍化クソタラシ野郎。

 ゆっくりと近づいて、ゼロ距離となった所で斗真の肩にもたれかかる。

 ……決して恥ずかしいから顔を見られたくなかったからとかではない。

 

「……もう、私の傍から離れないで。……もうあんな寂しい思いはしたくない。傷つきたくない。遠くに、行かないでほしい」

 

 いざ口に出してみると思ったよりも小さな声で、とんでもなく小っ恥ずかしいセリフだと今更ながら思った。

 つかこれ、傍から見れば告白じゃん。重い女の愛の告白じゃん。

 やっば、超はずい。自分の顔がやかんみたいに熱くなるのがわかる。

 

「……わかった。親友……だからな。一番大切な親友の頼みを断る訳にはいかないだろ」

 

 斗真のその言葉が、私の中にストンと落ちた。

 心の中に空いた、最後のピースがハマった気がして、私は一瞬満たされたと思ったと同時に、ちょっとだけ、ちょっとだけだけど喪失感があった。

 

「親友。親友……そっか、親友だもんね」

 

 私と斗真の関係をもう一度、噛み締めるように呟く。

 そしたら、顔の熱も収まって、さっきよりも冷静に考えられるようになってきた。

 そうじゃん。今日は徹底的に斗真に罪を償ってもらうんだから。 

 

「……もう一つ、いい?」

 

「まあ、誕生日だからな」

 

「ふふ、ありがと」

 

 私は言い、斗真に笑って見せる。

 斗真の眉がピクりと動いて、一歩後ろに後ずさる。

 それを見て、私の中の何かがくすぐられた。

 やっぱり、私はサドの気があるかもしれない。

 

「親友なら、互いの悩みも打ち明けられるように、自分の事を隠さずに伝えるのも一つだと思うんだ。だからさ斗真、こんなわがままな私に教えてくれないかな」

 

 そうして告げるのは罪を償わせるのを建前に、ずっと前から気になっていた事。

 正直、ここで問いただしても何かが変わるって訳ではない。

 ……いや、むしろ、もしかしたら私が想像もしなかった答えが返ってくるかもしれない。

 でも、ここまで来たら引き返すことはできない。

 

「──斗真さ、私に、皆に隠してる事があるよね。時々田中さんとコソコソやって……それが何か、私に話してほしいな」

 

 瞬間、斗真の顔が青ざめた。

 それも一瞬の事で、すぐにいつもの仏頂面が戻ってくる。

 

「……別に、何も隠してない」

 

 直感で、嘘だと思った。

 

「……斗真ってさ、何か隠し事があると右手の人差し指と中指をクロスさせるんだよね」

 

 言われた途端、斗真は右手を後ろに隠す。その顔はポーカーフェイスを装っているけれど目線が泳ぎがちになってる。

 

「ま、嘘なんだけど」

 

「おまっ、……嵌めたな」

 

 恨めしげに斗真は私を見る。

 そう、嘘だと直感した私はカマをかけてみた。昨日の夜見たドラマを参考にしたけど、上手くいって内心ホッとした。

 ちなみに、本当は左手でズボンの縫い目をイジると斗真は何か隠している。

 現に、引っ込めた右手とは反対の手は縫い目をしきりに触っている。

 

「前々から不思議ではあったの。歳の割には大人っぽすぎたし、やけに田中さんと仲良かったり、それに斗真、時々田中さんの事『死神さん』って言うでしょ。さすがにあだ名で『死神』は失礼だと思うし、斗真と田中さんの関係も知りたいけど……」

 

「あと」と私は矢継ぎ早に斗真を問い詰める。

 

「時々さ、演技してる時あるよね」

 

 斗真の肩が、少しだけ動いた。

 

「ねぇ、教えてよ。斗真が私達に何を隠してるの?」

 

 私は確信を持って斗真に訊いた。

 斗真の目は泳ぎ、左手の指は忙しなくズボンの縫い目をいじっている。

 多分斗真の脳内ではこの状況を切り抜ける方法を模索しているだろう。

 でも、言い逃れするのは私が許さない。

 これまでの田中さんとの会話で断片的に聞こえた単語を並べてみる。

 

「死神。閻魔大王。……転生」

 

 改めて変な会話だと思う。けど、斗真はさらに表情を固くした。

 ……これで、話してくれるはず。

 そう思った私は同時に、あれ? これってもしかしてフラグ? とも思ってしまった。

 その時。

 

「とーまー! 迎えに来たわよ!」

 

 底抜けに明るい声が一階からした。

 はっきり聞こえたのはその一言だけで、それきりその声は聞こえなくなった。

 

とぉぉぉぉーーまぁああぁぁーーー!

 

 と思ったら、ドタドタと階段を駆け上がる足音と共にこころが飛び込んできた。文字通り、飛び込んできた。こころイズフライだ。

 これってなんて言うんだったっけ……ああ、そうだ。ドップラー効果だ。

 

「こころお前、何しに来て……っ」

 

「田中から聞いたのよ! 斗真があたしの家に泊まりに来るって!」

 

「えっ、待って俺聞いてない」

 

「さあ行くわよ斗真! 斗真とやりたい事がいーっぱいあるんだから!今日は寝かさないわよ!」

 

「いや、だから俺何も……あっ、待って引っ張らないでもげるもげる! 腕もげる!」

 

 あっという間の事だった。気がついたら、斗真はこころに連れ去られて、廊下には私しかいない。

 

「……あ、あれ?」

 

 その呟きも、しんと静まった廊下に消えていった。




閑話、という名のほぼ本編。32.5話でした。

え?KYって死語?……まぁいいじゃん。

一応、念の為というか、何と言うか。
夕弦は考え出すとどツボにハマるタイプなので、そうならない様にセーブをかけてます。中一なのに、賢いです。
そんな夕弦のベールを一枚剥ぎ取ったのが今回です。闇の部分を出させました。
かと言って、これ以上に闇深い所はありません。夕弦ちゃんはかなりのピュアなのです。

さて、次回からまた斗真視点に戻ります。
進級させます。斗真は中二です。

感想、高評価お待ちしております。

二週間も遅れましたが、本年も、どうぞよろしくお願いします。

では、また33話で。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。