転生してみませんか? 作:RyuRyu(元sonicover)
触らぬ
花粉で死にそうです。
では本編です。
ジャーン、というストロークがスタジオ内に響く。アンプから流れる余韻に浸っていると、ブースから首にヘッドホンを下げて死神さんが出てきた。
「お疲れ様。今日もよかったよ」
「ありがとうございます」
死神さんからのお褒めの言葉に素直に返す。こうやって褒めてもらえる事は誰からであっても嬉しいし、とりわけ死神さんのディレクションは厳しくかつ正確で、妥協を許さないタイプだから、死神さんにそう言って貰えるのは特に光栄だったりする。
「これで明日の本番もバッチリだね」
「そうだといいですけど。まあ、全力でやりますよ」
今は弦巻家のスタジオで、明日撮影する楽曲のリハーサル。俺自身、かなりお気に入りの曲で、間奏でギターを真上に放り投げたくなった。キャッチできる自信が無いからやめたけど。
「しかしまあ、結構な曲数をやってきたね」
後片付けをしていると、スタジオの隅のパイプ椅子に腰掛けてパソコンを見ていた死神さんがしみじみともらした。
「つっても、まだ四ヶ月ですけど」
俺と死神さんの共同で始めた動画投稿。
それを見た死神さんが良い気になって、「このビッグウェーブに乗り遅れる訳にはいかない」と、とてつもないペースで編曲をして俺に楽譜を渡してきた。まず、何のビッグウェーブかわかんないし、三日に一曲のペースでスコア貰っても俺が困る。
お陰で、俺の部屋には現在、古今東西あらゆるジャンルの名曲のギターアレンジバージョンのスコアが数十冊、手付かずの状態で平積みにされている。
「次は目指せ、登録者数百万人越えだね」
「改めて聞くと、気が遠くなりそうな数ですね」
その先を既に見据えている死神さんに少しばかりの尊敬を抱きつつも、俺とのモチベーションの差が現れた結果、死神さんの熱意に対して冷めた言い回しになってしまった。
動画投稿に於ける俺のモチベーションは偏に、グリグリの替わりになれているのかどうか。それに関して、現状首を捻らざるを得ないから、ここまでの差ができてしまっている。
とはいえ、こうやって他人から評価してもらえるのはなんかこう、むず痒い所があるし、新しい曲に挑戦できるっていうのは、俺としては演奏の幅が広がって楽しい。
「これで登録者数を増やして、広告収益でがっぽがぽ。新進気鋭のクリエイターとしてテレビに出て有名人と仲良くなって──」
「欲望ダダ漏れッスよ。抑えて抑えて」
つか、収益稼ぐより金持ってるでしょ、あんたの勤め先。
世俗に塗れた死神さんを横目に、この後の予定を確認。一時過ぎからSPACEに移動して牛込とのバンド練習。大体二時間くらいで切り上げて家に帰り次第店の手伝い。貴重な日曜日が予定で全て埋まってしまった。泣ける。
「……あ、そうだ。死神さん」
「ん? どうしたの?」
周りに誰もいないのを確認して、死神さんを呼ぶ。
こころは今頃ニクスと遊んでるだろうし、弦巻家の他の黒服さん達は見る限りここにはいない。
前々から俺達の他に誰もいない時に呼ぶ様にはしていたけれど、この前夕弦に指摘されてからはより一層注意する様にした。
「この前はありがとうございました」
「この前……ああ、夕弦ちゃんの誕生日の時か」
「はい。あれって言い方悪いですけど死神さんがこころをけしかけたんでしょ?」
「……さあ、どうだろうね」
確信を持って聞いたが、死神さんは何だか意味ありげに笑ってからまた視線をPCに戻した。
……まあ、誤魔化さなくてもあの場面で千里眼をも凌駕する死神さんの力が働いたのは自明だし、そもそもこころん家に泊まるとか一言も言ってなかった。
弦を軽く緩めながら、俺はその日の事を思い返した。
△▼△▼△
こころに
まあそれはたまにある事だから別にいいんだけれど、リムジンに言われるがまま乗り込んだ後が大変だった。
こころの親父さんがいた。
もう一度言う。
これまで、顔を合わせた事は何度かあったけれど、いつもは世界中を飛び回る親父さんが目の前で「やあ」と朗らかな笑顔で手を振っているのを見て誰が驚くだろうか、そう、誰もが驚く(反語ではない)。
これがどのくらいの衝撃かと言えば、かつて鹿島ア〇トラーズに
サッカーの例え話しかできないのか俺は。
リムジン内で俺を待ち構えていたこころの親父さんは、車が静かに走り出すなり俺に質問を投げかけてきた。
「娘とはどうだい?」
「え、や、まあ。仲良くさせてもらってます」
「そうかそうか。こころももうこんなに大きくなって」
隣に座るこころを撫でる親父さんは、慈愛溢れる笑みを浮かべている。
このシーンだけ切り取ると、莫大な資金力を持つ弦巻家の頭領だとは到底思えない。
というか思いたくない。こんな優しそうなおじさんが、ギター始めたからって三百万のギターをポイっとあげる人だなんて思いたくない。
動画投稿したいからって最新設備が整ったスタジオをポンと庭に作る人だなんて思いたくない。
……あぁ今日もいい天気だなぁ。(現実逃避)
「あのねパパ、今日は斗真が泊まりに来てくれるのよ!」
「そうなのか。こころは楽しみかい?」
「もちろんよ。斗真と何して遊ぶか、いーっぱい考えてあるんだから!」
「そうかそうか。こころは斗真君の事が大好きなんだな」
「ええ! あたしは斗真の事が大好きよ!」
「うわ、ちょっ、こころ、抱きつくなって」
「うんうん。こころはそんなに斗真君の事が大好きなのか……へぇ」
「……え、なんですか。その獲物を見つけた鷹みたいな目は」
「いやぁ、そんな物騒な事は考えてないよ。ただ、
「……ヒェッ」
あれぇ、おかしいなぁ。背筋が寒いぞ……?
「それはともかく。斗真君」
仕方ないからこころの頭を撫でていると、おじさんがまた話を振ってきた。あっ、ちょっ、こら、頭をスリスリしない。静電気が立っちゃうでしょうが。
「は、はい?」
「最近、斗真君の学校で君をよく思わない輩がいる、というのを田中から聞いたのだが」
「え、ええ、まあ、はい」
たどたどしい返事になりながら、運転席に座る死神さんを見る。
バックミラー越しに目が合って、ニコリと微笑みかけられた。それにいつもの笑みとは違う冷たいものを感じて、少し身震いした。
「一応、斗真君には聞いた方がいいかもしれないと思ってね。……どうする? 彼ら、消す?」
「……ヒェッ」
変な吐息が漏れたのを誰が責められようか。常ににこやかな親父さんから出た言葉からは、有無を言わさぬ圧を感じる。俺の返答次第で名も知らない先輩達の存在ごと消されてしまう。そんな選択、小市民の俺には荷が重すぎる。あぁ、胃がキリキリする。冷や汗が止まらない。
「い、いや。大丈夫ですよ。俺が変に調子に乗っちゃったからですし、妬まれるのも仕方ないと思ってますし、はい。だから大丈夫です。マジで、はい」
自分でもよくわからない弁解を述べると、親父さんは釈然としない風に頷いた。
「ふぅん、そうなのか……。わかった。今回は斗真君に免じて見逃してあげることにするよ。でも、次に同じ様な事をされたら遠慮なく僕か田中に伝えてね。その時は容赦しないから」
「は、はい。わかりました……」
怖い。弦巻家ちょうこわい。(白目)
おじさんの事だからマジでやるつもりだよ。笑ってるけどマジだもん。ちょうこわい。
「それにしても、斗真君は甘いね」
「え、甘いって?」
「気に入らない相手がいたらすぐに消さなきゃ。そのうちつけ込まれるよ?」
「いや、俺そこまで鋼メンタルじゃないですし。そんな事怖くて出来ませんて」
ハッハッハと快活に笑うけど、こっちはその笑い声が魔王の声に聞こえてブルってるんですよ。閻魔様でもこんなに恐怖を感じなかった不思議。
「……あ、着いたみたいだね。今日は田中に言って夕飯を豪華にしてもらうから、斗真君も楽しみにしててね」
「……はい」
言えない。実はお宅の田中さんの企みでこころに拉致られただなんて、言えない。
……後で母さんに電話しとかなきゃ。
△▼△▼△
「いや、でも助かりました。ぶっちゃけ言ってあの時は結構焦りました」
「だろうねぇ。斗真君すごくどもってたもんね」
「焦りますって。だって全てを察した風に言ってくるんですよ? どうやって言い逃れしようか、めちゃくちゃ頭フル回転させてたんですから」
「まあ、でも、夕弦ちゃんも君が転生者とは思ってないと思うだろうね。ケースがケースだから、流石の夕弦ちゃんでも予想だにしないでしょ」
「だと、いいんですけどね」
アイツは変に勘が良いから気が抜けない。ぶっちゃけアイツには隠し事ができないんじゃないかとか思いつつある。まあ、それでも意地で隠し通すつもりだけれど。
「あ、そうそう明日の事なんだけどね」
死神さんがどこから取り出したのか、某驚安の殿堂の袋を俺に見せてきた。
……いやホント、どっから引っ張り出したの? 音一つ無いってどういう事よ。
「じゃじゃーん。新しい衣装だよ!」
「その言い方が許されるのは可愛い女の子か子供か自分が可愛いと思ってるぶりっ子だけですよ。ぶりっ子さん」
「ちょ、酷いなぁ。僕はぶりっ子じゃないよ」
「年齢不詳の人外が何言ってんですか」
「とにかく。これ着てみてよ」
「わかりましたよ…………え゛」
ビニール袋の中に入っていたのは、全身タイツ。
嫌な予感がしながらも、ニコニコ笑う死神さんに背を向けて、部屋の隅でコソコソと着替える。……うっわコレ、履きづら。
「着ましたけど……これってもしかして」
「うん。ツェ〇ド」
「チョイスのセンス」
なんでよりによってツ〇ッド? いやまあ、意図は分かるよ。でもさ、もっとほら、いるじゃん。ザ〇プとか、ウォ〇チとかさ。あと……そう。
「もっといいのいたじゃないですか。デ〇ドロとか」
「チョイスのセンス」
「あれですか。技名を叫んでから演奏しなきゃダメですか?」
「そうだね。ちょっと試しにやってみてよ」
「えーっと、確か……『斗流血法シナトベ 刃身の伍 突〇槍』!」
アニメで見た記憶を頼りに技名を叫んでから技を繰り出してみる。ギターをそれっぽくして。良い子のみんなはギターをおもちゃにしちゃダメだかんね。お兄ちゃんとの約束だぞ。
「おおっ、いいね。それじゃ僕は……」
そう言うと死神さんは立ち上がって何やら目を閉じて集中しだした。
次第に死神さんを纏う雰囲気が変わっていって、背後になんだか蒼いオーラが現れて空気が凍って……え、待って何これ。怖い怖い。
「……『エスメラルダ式血凍道
「ス〇ィーブン!!」
冷気がァ! うぉあああ! 寒いぃ!
「おいコラてめぇ死神ィ! もうすぐで凍る所だったじゃねぇか! 末端の感覚がちょっと無くなったぞ!」
「ハッハッハ!」
必死の抗議も笑って返される。ホント何なんこの人、人外なの? 人外か。そもそも生き物ですら無かったね知ってました。
「……ホントに、アンタ人じゃないんだから。その気になれば物理法則だって捻じ曲げられんだから」
「いやぁ、なんだか楽しくなっちゃって。ゴメンゴメン」
「あぁー、マジで死ぬかと思った」
ようやく感覚が戻った手でギターをしまう。ネックを握ったらめっちゃ冷たかった。弦がキンキンに冷えてやがるぜ……!
思わぬ所で時間を喰ってしまった。とりあえず早く着替えてSPACEに行かなきゃ。
背中のファスナーを苦労して下まで下ろした時、スタジオの分厚い扉が開く音がした。鍵を閉め忘れた事に今更気付いても時すでにお寿司。
「し、失礼します……」
「えっ、誰? あっ、牛込……じゃない誰!? ちょ、待っ……ってうわぁ!」
いきなりの来訪者に慌てた俺は脱ぎかけの〇ェッドタイツに足を取られて派手に転んでしまった。
パンツは履いていたものの、見事に突き出した俺のぷりけつに赤面する闖入者の少女。
全てを見通して、必死に笑いを堪える死神さん。
少女にぷりけつ晒しながら、「これってタグ付けなきゃダメかなぁ」とヤケにメタい事を考える俺。
「失礼しまーす。羽沢君いますか……って、何やってんの」
控えめに言ってカオスがそこにはあった。
33話でした。
ましろちゃんが可愛いと思う人は怒らないので高評価ください。
八潮瑠唯さんに惚れた人は迷わずに感想を叫んでから高評価ください。
ではまた34話で。