転生してみませんか? 作:RyuRyu(元sonicover)
最近家に居すぎて時間感覚が狂いつつある、どうもRyuRyuです。
文章力が無いのは元からなのである。
繰り返す。文章力が無いのは元からなのである。
いいね?異論は認めない。
では本編です。
夏休みも、もう一週間を切った。
だと言うのに、気温は下がる事を知らず、未だに真夏日が続く。
あと何日寝苦しい夜を過ごさなければならないのかとカレンダーを見る度に辟易とする。
「あと一週間か……」
そして、カレンダーを見ると嫌でも向き合わなければいけない問題に直面する。
夏が終わるという事は、オーナーが出した、留学するか否かの最終決定まであと一週間を切った訳で。
「どうしたいんだろうか俺は……」
期限が迫る中で俺は未だ決めきれずに頭を抱えていた。
父さんも母さんも、俺の留学の話にそれ程抵抗感を見せなかった。留学資金もSPACEと何故か弦巻家がほとんどを出してくれるという事で、「後はお前がどうしたいか決めろ」と一言だけ言われた。
「なんだかんだ言って結局は全部俺だしなぁ」
オーナーも、死神さんも、両親も。みんな、最終的な決定権を俺に委ねている。
だから、もしかしたら感じる必要の無い責任感まで感じて、ここまで躊躇っているのかもしれない。
そう。俺はまだ、前世から何年も生きているのにも関わらず、未だに誰かに理由付けされないと行動できない愚か者なのだ。この一週間で痛い程思い知った。
──同時に、俺がそこまでギターに対して熱意を持っていない事にも気が付いた。
そんな俺には、留学する資格なんて無いのかもしれない。そんな気持ちでイギリスに行ったって得るものなんて何一つ無いから。
でも、期待してくれている。
オーナーが。
死神さんが。
両親が。
その期待を裏切る事は、ひょっとしたらもっと最低な事なのではないかと思う俺もいる。
「……あー」
このまま考えても思考のどツボにハマりそうだ。ていうか、もうハマっている。
「……はぁ」
ため息をつくと、背中に感じる重みが増した様な気がした。
……比喩とかじゃなく、物理的に。
「……あのさ」
後ろにのしかかるヤツに声をかける。うんざりとした声音や表情をしているが、実は満更でもなく、およそ久しぶりに感じる背中の重みに懐かしさと同時に大きくなったなぁ、としみじみ思う斗真なのであった」
「勝手にモノローグ捏造しないでくれる?」
「ダメだった?」
「ダメっつったらどうすんだよ」
「無視する」
「退路が元から無かった件」
「退路なんて言葉は元から斗真の辞書には無かったでしょ」
「いつの間にか俺の中の辞書が勝手に編纂されていた件」
久しぶりに夕弦が部屋に来たと思ったらこれだ。
夕弦の誕生日からこっち、部活が無ければこうやって俺の部屋でダラダラと過ごす時間が増えた。
その事については何も言うことは無い。わざわざ理由を訊く程でもないし。
それはともかくとして。
「……なあ、夕弦」
「ん、何」
「少し話したい事があって。聞いてもらっていいか?」
思わず出た真剣な声音に何かを察したのか、夕弦は俺に覆い被さるのを止め、互いに背中合わせになる様にベッドの上に座る。
「……いいよ。聞いたげる」
俺は話した。
オーナーにされた話の事。大人達は俺の判断に委ねている事。考えれば考える程自分がどうしたいのかわからなくなっている事。
夕弦はそんな俺の話を黙って聞いてくれて、少し瞑目した後、ゆっくりと口を開いた。
「……牛込さんには話したの?」
「……いや、まだ話せてない」
話せない。話したくない。そんな思いが先行してしまう。
「私より先に、そっちに言うべきだと思うんだけどな」
「うっ……、仰る通りで……」
「はぁ、まあいいけど」
しばらく、俺と夕弦の間を静寂が包む。その静寂は、夕弦といるには珍しく、とても居心地の悪い静寂。
「……これは私の独り言なんだけどね」
そんな静寂の中に、夕弦の落ち着いた声が響く。
「……」
「私には……ううん、私にも、斗真がどっちの選択肢を取ればいいのかわからない。斗真程ギターが上手いっていう訳でもないから、正直未だにピンと来てない」
俺だってそうだ。留学なんて思ってもいなかったし、自分のギターの実力がどのくらいなのか、まだよくわかっていない。
その時、ふと数年前の事が脳裏に蘇る。
──あれは確か、山間のキャンプ場で、天の川が綺麗に見えた夜だった。
あの時は立場が今とは反対で、それでいてコイツははっきりと自分の意志を言葉に乗せていた。
「でも、私は……行かないで欲しい。自分勝手に、そう思う」
「……!」
そして今度も、夕弦はオブラートに包む様な事をせずにありのままの想いをぶつけてきた。
「私はまだ、斗真の事を知れたとは言えない。まだまだ私の知らない斗真がいると思ってるし、わがままな私がそう思わせてる」
……あの夜から、夕弦ともいろいろな事があった。取るに足らない日常の事からつい先日の出来事まで。思い返せば、俺はいつもコイツに振り回されていた気もする。
「あのキャンプの日の夜にした約束の事も、この前の私のわがままも、……今思い出せば恥ずかしくて悶えそうなんだけど、でもそれも私の正直な思いだから」
背後の重みが無くなったと思ったら、今度はさっきみたいに覆い被さり、両腕を俺の首に廻してきた。
「だから、イギリスなんて行ってほしくない。斗真は私の傍にずっといてほしいから。……でも、これは私の勝手な願い。斗真は聞く必要無いし、斗真の選択を私は尊重したい。それが、斗真の人生だし、私が介入する資格なんて無いんだから」
今にも消え入りそうな声で、夕弦は自分の中に生まれた葛藤を告白する。首に廻された腕が少し強ばった様に震えていた。
コイツは、優しい女の子だ。身内にだけ甘い俺とは違って、夕弦は常に一歩引いた所から状況を見極め、誰にでも手を差し延べる。
コイツは、強い女の子だ。いつも自分の欲求に忠実で、ちょっとやそっとではブレないものを自身の中に持っている。
「……そっか。ありがとな」
「なんの事? 私はただ独り言を呟いただけだけど」
照れ隠しにそう言うのが背中越しに伝わった。
「……そっか」
──俺は、そんなに優しく、強くなれない。
△▼△▼△
背中から感じる温もりを享受する事暫し。いつもの心地よい沈黙を破って夕弦が言った。
「……さ、そろそろ出てきてもらおうかな」
「は、出てくる?」
唐突に意味不明な事を口走りながら、夕弦は扉の方を見る。え、何。誰かいんの。
「入ってきな。斗真に言いたい事あるんでしょ」
何事かと思い俺も同じ方を見ると、半開きになった隙間から二つの小さい頭がひょっこりとはみ出している。可愛い事この上ないけれど、今はどっちかというとそれどころじゃない。
少しして扉がゆっくり開き、つぐみと蘭が入ってきた。二人の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「つぐみに……蘭?」
どうしているんだ。そう訊く前に、蘭が湿った声で俺に問うてきた。
「斗真、留学するって本当……?」
「あ、いや、まだ決まった訳じゃないけど」
「そう……なの?」
頷くと、安堵の息を蘭が漏らした。その横でつぐみがなんだかおろおろしている。かわいい。
「つぐみ……」
「ち、違うの蘭ちゃん! 私、お兄ちゃんが留学するって聞いて、なんだか胸の辺りがギュッてなってよくわからなくなって……そ、そのまま蘭ちゃんに話しちゃって……」
涙目でつぐみに恨めしげな目線を向ける蘭に、涙目でアタフタと釈明するつぐみ。
俺の目の前では良くわかんない光景が広がっていた。とりあえず二人ともかわいい。
「ほら、二人とも。言いたい事あるなら、ちゃっちゃと言っちゃいな」
散らかりだした場を、いつの間にか俺の背中から離れた夕弦が収束させた。
二人の後ろに回り込み、肩に優しく手を添える。
先ず、口を開いたのは蘭だった。
「……斗真」
「な、何?」
「斗真は、本当にイギリスに行っちゃうの?」
「……まだわからない。俺自身、今も迷ってる」
「そう、なんだ……」
それきり蘭は俯き、黙りこくってしまう。
「ら、蘭……?」
呼びかけると、蘭は袖でゴシゴシと目元を擦って、意志の篭った、貫く様な眼差しを俺に真正面からぶつけてきた。
「決めた……アタシ、斗真を応援する」
「えっ?」
「それで、アタシもギター始める。斗真がイギリスに行ってる間に、誰にも負けないくらい上手くなってみせる」
「ちょっ、蘭?」
「だから、斗真はイギリスでギター頑張って。斗真がギター頑張ってるのを見れば、アタシも頑張れるから」
「……」
理論自体は跳躍もいい所だけれど、その赤く腫れた目の中に灯る熱いものは、そう簡単に消せる様なものではないということはすぐにわかった。
それ程までに、蘭は本気なのだ。
「……アタシから言いたいのはそれだけ。ほら、次はつぐみの番だよ」
蘭に促されて前に出たつぐみは、アタフタの度合いが凄い事になっていた。
「えっ、ら、蘭ちゃん!? ちょっ、まだ私っ、言いたい事まとまって……あっ、その、あ、あのねっ、お兄ひゃん!」
「つぐみ、落ち着け。深呼吸だ、深呼吸」
「う、うん。そうだよね……ひっひっふー……」
「落ち着けつぐみ。マジで落ち着け」
古典的なボケを素でぶちかますつぐみをどうにか宥めて落ち着かせる。
「……落ち着いたか?」
「うん。ありがとうお兄ちゃん」
「おう、気にするな。ゆっくり話せよ」
「うん……。わ、わたしね、最初にお兄ちゃんから留学するって聞いた時、あんまり何言ってるか分からなかったの」
ま、そうだろうな。
初めに打ち明けた時のポカン顔は両親含めて写真に収めて待ち受けにしたいくらいだったからなぁ。
「でもね。留学するって事は……海外に行っちゃうって事はお兄ちゃんがいなくなっちゃうって事なんだと思うと、なんだか胸がギュッて苦しくなって……」
「そうかそうか。でもな、海外に行ったからって別にいなくなる訳じゃないぞ? お兄ちゃんを勝手に殺すな?」
どうやら落ち着けていなかったと見た。つぐみの思考も蘭並に飛躍してやがる。
「ち、違うの! いなくなるっていうのは、死んじゃうとかじゃなくて、この家からいなくなっちゃうって意味で……」
「ははは、わかってる。冗談だよ」
「冗談って……もう、お兄ちゃん!」
「悪い悪い」
謝罪の意を込めて、つぐみの頭を撫でると、「……もうっ」と言って表情が緩んだ。ははっ、チョロかわ。
「と、とにかく! お兄ちゃんがいなくなるって思うとすごく寂しくなって、本当は行ってほしくなんかないの。でも、でも……!」
つぐみの目には躊躇いの色が見える。焦茶色の瞳が揺れ、自分の本心に嘘がつけない事にどこか苛立っている様にも見えた。
でもそれは、ここ最近自分自身に偽り続けてきた俺にはとても眩しく思えて仕方なかった。
「……ありがとな、つぐみ」
「え……?」
「つぐみのおかげで考え方が少し変わった気がする。もうちょっとだけ、俺も俺自身に正直になろうかな」
一つ、息を吐き、部屋の隅に立てかけてあるギターを手に取る。
「お兄ちゃん……?」
未だ不安気な表情のつぐみを横目に簡単なチューニングをこなして、ケーブルをアンプに繋ぎ、三人の方へ向き直る。
ピックを握り、頭の中でメロディーを構築する。フレーズを取捨選択し、繋ぎ合わせ、リズムを刻む。
ストロークすると、ピックが弦を弾く音と共に、アンプによって増幅された機械の音色が部屋を満たす。
俺に湧き出る喜怒哀楽をそのままギターにぶつける様にして弾く。
実際問題メロディーなんてあったもんじゃない。ただ感情の赴くままにかき鳴らし、悪く言えば、ギターに八つ当たりしているだけなのだから。
「はぁ……はぁ……」
いきなり始まった
乱れる呼吸をどうにか整えて、観客三人に問いかける。
「はぁ……はぁ、はぁ……どうだった?」
「……すごかった」
呆気に取られていた三人の中で最初に我に返った蘭が答えた。
他の二人も蘭に同意するように頷く。
「だろうな。……でも実際こんなの、音楽でもなんでもないんだよ。ただ単にギターに八つ当たりしただけ。こんなの牛込とかオーナーに聞かせたらめちゃくちゃ怒られる」
何ならオーナーからは拳が飛んでくるまである。それ程までに俺の今の八つ当たりだけの演奏は、音楽の体を成しておらず、そもそも演奏と呼ぶのも憚られるくらいにめちゃくちゃだったのだ。
「でも、でもさ……俺には、
昔はもっとあったかもしれない。運動して汗を流したり、カラオケで歌ったり……。
それが、いつの間にかギターに置き換わっていた。弾いてれば汗もかくし、弾き語りで歌えばストレス発散にもなる。そうしているうちに、感情の発露の場が限られてしまった。
「だからさ、もう少し考えてみるよ。時間は無いけど、ギリギリまで。考えて、悩んで、ああでもないこうでもないって。それで、見つけてみせる。俺が本当に何がしたいか。
息はまだ少し乱れていたけれど、内心は至って穏やかだった。あと一週間で俺が何をすべきかがわかった様な気がしたから。
表情に出ていたのか、黙って話を聞いていた三人も顔を綻ばせた。皆、本当にいい奴で、単なる自己満足でしかない俺の言葉にも笑顔で頷いてくれる。
──コイツらに対して、一抹の罪悪感が芽生えた俺は、やはり罪深くて業腹な人間なんだろう。
でも……それでも俺は足掻いてみせたい。
足掻いて、もがいて……その先で見つけたものこそが俺の本当にやりたい事。この世界に新たなる生を受けた俺の使命だと思うから。
「大事な事はギターが教えてくれる」。
いつだかオーナーがそんな事を独り言ちていたのを聞いた。
膝に乗せたギターを一撫でする。
照明に反射して輝く俺の
その姿は、どこまでも雄弁で。
そして、どこまでも誠実であろうとしている。そう感じた。
夏休みも、あと一週間を切った。
36話でした。
夕弦が思ったよりメンヘラで作者、ちょっと動揺を隠しきれません。
自分で書いといて、何言ってんだろうね。
感想、高評価待ってます。是非、ご意見などもお寄せくださいな。
ではまた37話で。