転生してみませんか?   作:RyuRyu(元sonicover)

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こんにちは。

StayHome以来、何故か食欲が激増したどうもRyuRyuです。
最近になって漸く収まりつつも、伸びきった胃袋のせいで何か物足りない感じがして、気がついたらご飯茶碗三杯目に入ったり……あれ、それって収まってない。

デブまっしぐら。本編です。


37話 邂逅、そして──(前編)

 ──これは、夢だ。

 

酒井(しすい)君がそんな人だと思わなかったよ』

 

『謝れ酒井。全てお前が悪いんだ。教師命令だ。謝れ』

 

 ──これは、夢だ。

 ──前世の記憶が断片的に流れ込む、タチの悪い夢だ。

 

『お前、運が良いんだってな。俺ちょっと今月ピンチでさ〜、三万だけ貸してくんね?』

 

『酒井君お願い! 私が彼に告白する時に近くにいてくれない?』

 

 俺の運がいい事をアテにして、色んな知らない人が近寄ってきた。

 周りから、俺はただ黙って左腕を挙げてればいいだけの招き猫としか見られてない。その事に気がついたのは小学校の高学年の頃だった。

 最初は、みんなが俺を頼ってくれるのが嬉しくて、誇らしかった。

 けれど、俺は百発百中の強運を持っている訳ではない。

 

『おい酒井。お前のせいで宝くじ外しちまッタじゃねぇかヨ。何運が良イトか嘘ついテんダヨ!』

 

『ねぇ酒井君、なんで私フラれたの? 酒井君がいれば成功するって聞いたのに……。謝っテよ……、酒井君のせいデ失敗したンダかラ!』

 

 反吐が出る程の理不尽な罵倒をされたのも一度や二度ではない。

 その誰もが勝手に期待して、勝手に失望していく。

 いつの間にか期待の噂よりも失望の噂が出回るようになり、知らないうちに「疫病神」と呼ばれ、俺に関係の無い不幸話もいつしか俺が原因だと言われる様になった。

 廊下を歩けば露骨に避けられ、どういう風に伝わったのか担任からは学外で問題行動を起こす不良生徒と決めつけられた。

 夢だとわかっていても、やっぱり思い返すには辛いものがある。なんかこう、控えめに言ってしにたい。

 

「……へぇ、酒井(羽沢)君って、そういう人だったんだ」

 

 

 突如現れた名も知らない女のセリフにノイズが走る。

 ……おかしい。これは夢だ。忘れ去ったはずの記憶だ。

 

 ──それなのに、どうして……。

 

「……そうやって、他人に隠し事して、のうのうと生きてて、楽しい? ()()()()()

 

 ──なんで、幼馴染と妹(コイツら)がいるんだ。

 

 気づけば、周りには夕弦とつぐみ以外にも、牛込が、蘭が、ひまりが、巴が、モカが、沙綾が、香澄が……。

 俺がこの世界に転生してからこっち、出会ってきた友人が一様にして俺を睨んでいる。

 ある者は蔑みの、またある者は憐れみの、怒りの、哀しみの……。

 

 違う。これは、夢だ。

 前世の記憶と今世の記憶が混ざりあった、偽りの記憶だ。

 

 だから、やめてくれ。そんな目で、俺を見ないでくれ──! 

 

 

 

 

 △▼△▼△

 

 

 

 

「……んぁ」

 

 微睡みから引き上げられる。

 徐々に意識が覚醒し、ゆっくりと目を開ける。

 

「あら、起きたのね斗真」

 

「だ、大丈夫お兄ちゃん?」

 

 金色と焦茶の瞳が俺を覗き込んでいた。

 

「ああ……、こころか……。……こころ? え、つぐみ?」

 

 時折軽い揺れを感じ、低いエンジン音が小さく聞こえる。

 ……ここが俺の部屋じゃない事はわかった。それでいて、多分ここが弦巻家の車の中だということも。寝ている間に拉致られるくらいでは動じなくなる程には慣れた。慣れちゃけいないんだろうけれど、慣れた。慣れって怖い。

 でも、今日はいつもと違う。

 普段拉致られるのは俺だけなのだが、何故かつぐみもいる。これまでこんな事無かったし、極めつけはさっきから後頭部に感じる柔らかい感覚……。

 

「────っ!!」

 

「斗真? どうかしたのかしら。顔なんか隠して」

 

 ……問。女子小学生に膝枕される男子中学生(中身アラフォー)とはこれ如何に。

 

「わかったわ。斗真はかくれんぼがしたいのね!」

 

「違うから。いや違うから」

 

「あっ……、アハハハッ! 髪の毛がチクチクして太ももがくすぐったいわ! 斗真はくすぐるのが上手なのね」

 

 ……答。事案です。諦めて大人しく捕まりましょう。

 

 ですよねー。……はぁ。

 

 

 

 

 △▼△▼△

 

 

 

 

 弦巻家所有の高級車が音も揺れも無く止まった。

 

「着いたみたいね」

 

「そうみたいだな」

 

 こころに返すと同時にドアのロックが外れる音がして、外から開かれる。

 ドアを開けてくれた黒服さんにお礼を言って車内から一歩踏み出すと、まず纏わり付く様な熱気が身体を包み、ミンミンゼミの合唱が耳を(つんざ)き、刺す様な直射日光のせいで眼球が明順応を起こして一瞬視界が真っ白になった。

 

「うぅ……暑いよぉ」

 

 つぐみが溶けだすのを横目に、肺の中の空気を入れ替える為に大きく息を吸う。

 ──微かに薫る、潮の香り。

 

「…………これって」

 

 その香りに幾許かのもの懐かしさを感じ、光に慣れた瞳で捉えた光景に空いた口が塞がらなかった。

 

「……お兄ちゃん? どうしたの?」

 

「っ! あ、ああ。いや……、なんでも」

 

 ここは、この街は……。

 

「──どうやら覚えてたみたいだね」

 

 横合いから聞きなれた、胡散臭い声が聞こえる。

 ……当たり前だ。忘れる訳が無い。忘れられる訳が無い。

 

「あら、田中! あなたも来ていたのね」

 

「おはようございます、お嬢様。斗真君の寝顔はどうでしたか?」

 

「とっても可愛かったわ! でも……少しうなされていた時もあったわ」

 

「そうでしたか。大丈夫だったかい、斗真君」

 

 どうせ知ってるクセに。

 いけ好かない顔して、演技だけは一丁前な死神に恨めがましい視線を送る。

 純度百パーセントの憎悪の眼差しでも目の前の人外はヘラヘラとしてて、それが一層俺のイライラを駆り立てる。

 

「……少し悪い夢を見てただけです。心配かけて悪かったな、こころ」

 

「……斗真?」

 

 この怒りを誤魔化そうとしてこころの頭に手を持っていったけれど、それは悪手だったみたいで、却ってこころに心配された。……情けない限りだ、全く。

 改めて、降り立った街を見回す。駅前広場は、夏休みの最終日を最後まで満喫しようという人達で賑わっていた。その風景だけ切り取っても、どうしようもない郷愁に駆られる。

 幼い頃はあの建物の屋上にあったアトラクションに両親によく連れていってもらったし、小中と同じ建物にある学習塾に通っていた。

 高校の時に向かいにできたショッピングモールには友達と良く遊びに行ったし、昔からある商店街の本屋で赤本を買った。

 賑わう街も、微かに薫る潮の匂いも、纏わり付く様な暑さも、その全てが俺の記憶の奥底に眠っていたものだ。

 

 だって、ここは、かつての俺──酒井斗真(シスイトウマ)が一八年間過ごした街なのだから。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△

 

 

 

 

 

 海からほど近い地方都市。取り柄と言ったら快速電車が停る事くらいしかないこの街に、前世の俺は生まれ育った。

 高校までをこの街で過ごし、大学入学と同時に上京。友達もできず正真正銘のぼっち暮らしも何とか慣れてきた夏の終わり、ちょうど今日みたいな暑い日、死神の差し向けた通り魔に襲われてその短い生涯を閉じた。

 だから、前世の記憶と言えばこの街での出来事が多くを占めている。楽しかった記憶も、忘れたい記憶も。

 

「⋯⋯懐かしいな」

 

 思わず独り言ちる。少し考えれば、時系列はどうなってんのかとか、なんでこの世界にこの街があるのかとか、死神さんに問いただしたい事はいくらでも浮かんでくる。でも、そう考えるだけ無駄だという事はこれまでで嫌と言う程思い知らされてきた。そうやって思考するうちに果たしてどっちが現実なのか、どっちが虚構の世界だったのか、虚構(リアル)なのか現実(バーチャル)なのか⋯⋯。ほら、もうすでにごっちゃになってきた。

 

「ねえ斗真。このお店のコロッケ、とーっても美味しそうよ!」

 

「へぇ、そうかそうか⋯⋯わかったわかった買うから。脇腹つつくな地味にくすぐったいから」

 こころも退屈そうにしてるし、もう止めよう。そういう事もある。死神が人間のフリをしていて閻魔大王が気さくなおじちゃんで、こころが可愛くて、つぐみが天使。それでいいじゃないか。横でコロッケを頬張るこころを見て、そう思う。

 

「それにしても、田中はどこに行ったのかしら?」

 

「さあ。『また後で』としか言われなかったからな。どうせまたどっかでなんかしらやってんでしょ」

 

「それもそうね。田中はいつもそうだから……あ、斗真! あそこのケーキ屋のショートケーキ、とっても美味しそうよ!」

 

「どんだけ食うんだお前は……わかった買うからそんな目で見んな」

 

 思えば、こうやってこころと二人でどこかに出かけるのは結構久しぶりかもしれない。

 前回は夏休みが始まった頃に、例に違わず黒服さんに拉致られて海まで連れていかれたんだっけ。普段から輝くこころの金髪が陽の光を反射して物理的に眩しかった。ある種の神々しさすら感じた。それ以来こころには帽子を被るのをおすすめした。

 そんなこころも今では学友も増えて、あからさまに後ろ指を指す人もいなくなり、学校でも笑顔が増えたらしい。この前大崎のけんちゃんから聞いた。

 こころに手を引かれて入ったケーキ屋には、町内会長も務める店主がにこやかに俺たちを出迎えてくれた。

 もちろんそれは俺の前世の話であって、今の店主は果たして町内会長を務めているのかは不明だけれど、この人の良さそうな店主の事だ。立派に務めあげているのだろう。知らんけど。

 シャツの裾をクイクイっと引かれる方を見ると、つぐみがもの欲しげな顔で俺を見つめている。

 

「……お兄ちゃん、私もシュークリーム、欲しいなぁ」

 

「任せろ好きなだけ買ってやるいくつ欲しい?」

 

「やったっ!」

 

 誰だうちの妹に上目遣いでおねだりすれば勝ち確だって教えたのは。

 ……俺でしたよねそうでした。

 

 

 こころにショートケーキを、つぐみにシュークリームを買い与え、駅前商店街をぶらぶらと歩く。幾つかテナントが変わってる所もあったけれど、この活気や雰囲気はやっぱり変わらない。さっきコロッケを買った肉屋では贔屓にしてくれてたし、この先の魚屋の息子とは同級生だった。

 俺についてはなんでも知っていると宣う死神さんのやる事だ。この時期に、この場所に俺を連れて来たのには何らかの意図があるはず。きっと俺の想像も及ばない、全てを見透かした上で最善の手を俺に取らせるべく行動しているのだろう。

 ……分かってはいるけれど、何もかもが彼の手の平の上というのが気にくわない。むかっ腹が立つ。あのスカした顔面に一発ぶちこみたくもなる。今度こころパパに隠れて人妻もののAV買ってたのチクってやる。

 と、しょうもない復讐を企んでいると、誰かが嗚咽を漏らしているのが雑踏の隙間を縫って聞こえてきた。

 

「えぅっ、うえぇ……おかあさぁん……」

 

 泣き声のする方を見ると、既にシャッターの降りた店の前で四、五歳くらいの男の子が溢れ出る涙を必死に拭いながらはぐれた母親を呼んでいた。

 

「あら? 迷子かしら」

 

「みたいだな……って、おい」

 

「どうしたの? お母さんとはぐれちゃったのかしら?」

 

 男の子が迷子だと分かるや否や、こころはてててとその子の元に駆け寄って話しかける。

 普通、親とはぐれて心細い時に知らない年上の女の子から話しかけられたら警戒し、さらに不安になってしまう。実際、俺も小さい頃に迷子になった時、見ず知らずの女子高生に声をかけられて、ものすごく不安になった。おねショタ厨の親戚の姉ちゃんの家でたまたま見た薄い本を思い出して幼いながら縮こまった。ナニがとは言わないけれど。

 なんて言うか……本能的な恐怖? 

 

「……うん」

 

 案の定、男の子も急に赤の他人に呼び止められて明らかに動揺している。この子も親戚の姉ちゃんの家でおねショタものを偶然にも見てしまったクチだろうか。だとしたら彼とはいい友達になれそうだ。いろいろと話が合いそう。

 例えば、それまでデフォルトだと思ってた姉ちゃんの舐めるような視線が意味を持つ様になった時の背筋の凍る様とか。

 

「そうなのね。なら、一緒に探してあげるわ!」

 

 でも、この子が自分の心を閉ざすには相手が悪すぎた。

 

「それに、泣いてばっかりいても仕方がないわ。笑顔にならなきゃハッピーになれないの。だから笑顔でお母さんを探しに行きましょう!」

 

 その宝石をそのまま埋め込んだかの様に黄金の光を湛える瞳に見つめられたら最後、彼女の持つ不思議な力にあれよあれよと巻き込まれて──。

 

「笑顔でいれば、なんだってできるわ! あなたのお母さんを見つける事も、世界中を笑顔にする事だって!」

 

「……うん!」

 

 ──いつの間にか、こっちまで笑顔になってしまう。

 

「さあ斗真、つぐみ! 一緒にこの子のお母さんを探しに行きましょう!」

 

「そうだね、こころちゃん!」

 

「……ああ。そうだな」

 

 

 

 △▼△▼△

 

 

 

「ところで斗真。あたし達はどうやってこの子のお母さんを探せばいいのかしら?」

 

「……まあ、そうだよなぁ。わかってた。わかってたよ。見切り発車なのは」

 

 迷子の男の子、アキラくんの母親を探し始めて約三分。

 ……早速、捜査は暗礁に乗り上げかけた。




37話でした。

こころのセリフやら考えていそうな事を考えるのがとってもむずかしかったです。(小並感)
書いてて気付いたんです。作者はこころと思考回路のベクトルが全く違う方向に向いてると。
眩しい。眩しすぎるぜこころん。思わず灰になってしまう所だったぜ。

という訳で(どういう訳だ)、続きます。

ではまた38話で。
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