ロミーVer.1:第1部-藤原Sisters   作:松村順

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第2話

 ボクが中学生になった春,母がアメリカ留学に旅立った。母はその頃40歳くらい。最後のチャンスだったのだろう。そして,それっきり,母は戻ってこなかった。家事と育児のあいまに夫を手伝うパートタイムの医者という生き方に納得していなかったということを後になって伝え聞いた。

 姉とボクにヒカルとヒロミという男女どちらでも通じる中性的というか両性的な名前を付けたのは母の意向だったらしい。母がどんな思いで姉とボクに命名したのか,知るよしもない。

 ともあれ,母がいなくなってからボクたちは分担して家事をこなした。朝食は3人分をボクが作った。といっても,トースト,目玉焼き,あり合わせの野菜,それに紅茶。昼は,ボクたちは給食,父は外食か出前を取っていた。夕食は,気が向けばボクとヒカルが一緒に何か作ったけど,総菜屋さんで買ったもので済ますことも多かった。

 掃除は,それぞれの部屋は自分で掃除して,キッチンやお風呂の掃除はヒカルが手の空いた時にやってくれた。ボクも手伝った。父は仕事人間で家では影が薄かったから,家の中はますますヒカルとボクの二人の世界になった。

 

 中学の部活。運動部など入る気もなかったし,そもそも外で日を浴びてはいけないボクにはありえない選択。天文部には興味があったけど,覗いてみて20~30人も部員がいるので,やめた。〔部員が一人もいない部活がないかな〕と思ったけど,それは無理なこと。でも,顧問らしい女の先生と部員が3人いるだけの部があった。化学部。

「3人とも3年生で,受験を控えてそろそろ部活に来なくなるから,自然消滅かなって思っていたんだけど,キミが入ってくれるなら存続するね・・・・あっ,でも無理しなくていいよ。自然消滅するならするんで構わないから」

という彼女の話がなんだかおもしろくて,入部することにした。

 放課後,ほぼ毎日,部室を兼ねている理科実験室に行く。3年生の部員が3人とも揃うことは稀で,ボクが一番熱心な部員のようだった。ボクの場合,日が長くなるこれからの時季,授業が終わる3時頃はまだ真昼同様に日差しが強いから,日が傾くのを待たせてもらう目的もあった。

 先生が来ないうちは,『化学実験事典』という分厚い本を読んでいる。そこに記述されている実験の中には中学にある試薬や実験器具ではできないものもあるけど,それらも含めて実験の解説を読むのはおもしろかった。先生が来ても,そのまま事典を読んでいることもある。そんな時,先生は「この実験は,そのままでは器具がないからここでできないけど,やり方をこんなふうに変えると,ここにある器具や材料でもできるようになる」みたいな解説をしてくれることがある。

 だけど,先生が来たら,ボクは準備室の鍵を開けてもらって,試薬棚に並んだ試薬の瓶を眺めていることの方が多かった。試薬が変化しないよう薄暗くされた部屋。かすかに酸っぱいような匂いがする。無色の粉や液体の間に赤,青,黄色などさまざまな色の試薬が元素名に基づいて命名され,化学記号を付けられ,瓶に入れられて並んでいるのを眺めるのが好きだった。水酸化ナトリウムNaOH,酸化第二鉄Fe2O3,硫酸銅CuSO4,硝酸銀AgNO3,クロム酸ナトリウムNa2CrO4,重クロム酸ナトリウムNa2Cr2O7・・・・ラテン語を勉強していたボクには化学記号の意味が分かる。FeはFerrum,CuはCuprum,AgはArgentum,SはSulphurから作られた。

 時には,ボクだけか,たまに3年生部員が来ている日なら2~3人でもできる実験をやらせてもらうこともある。試験管,フラスコ,ビーカー,ピペット,上皿天秤,ブンゼンバーナー・・・・。先生はボクを「実験がじょうず」と褒めてくれる。器具の取り扱いがていねいで,計量も手を抜かずきちんとやるし,実験経過の観察も入念・・・・そんなことボクにとっては当たり前だけど,「中学生の男子なんてガサツと相場が決まってる」と先生はあっけらかんと語る。

 化学反応の前と後で反応物の重さを量るのは化学実験の基礎の基礎だけど,反応式が分かっていれば,実験する前に計算して予想できる。

「アルミニウム1グラムが酸化されると何グラムの酸化アルミニウムができるか,藤原くんなら計算できるでしょう……」

「アルミニウム1グラムが酸化されると何グラムの酸化アルミニウムができるか,藤原くんなら計算できるでしょう。……」

 先生はちょっと考え込む。

「アルミニウムはふつうに保存しているとすぐに表面が酸化されてしまう。準備室にあるアルミニウムもそう。アルミニウム箔とラベルに書いてあるけど,表面を緻密で薄い酸化アルミニウムの膜で覆われているの。だからそれを1グラム秤量しても,単体アルミニウムが1グラムではない。でも,とりあえず今はそれは無視して,単体アルミニウム1グラムとして,反応式を書いて,それぞれの分子量を計算してごらん」

 ボクは反応式を書く。

4Al+3 O2→2Al2O3 ・・・・ 4x27+3x32→2x102 ・・・・ 108+96→204

「アルミニウム108グラムが酸化されれば,204グラムの酸化アルミニウムができる。なら,アルミニウム1グラム燃やせば,何グラムの酸化アルミニウムができるか? 比例式を立てて簡単な方程式を解けばいいのね・・・・あっ,でもまだ1年生だと比例式を習っていないのか」

「でも,知ってます。ヒカル・・・・お姉さんが教えてくれました」

「それじゃあ,計算してごらん」

ボクは言われたとおり計算した。

「1.8888・・・・になるから約1.89グラム」

「そういうこと・・・・」

 ここで先生は一息入れて,

「これが試験問題なら,高校入試どころか大学入試問題のレベルだと思うよ」

と感心してくれた。

「ヒカル・・・・姉に比例式を教わっていたから」

「そうね。お姉さんにお礼を言っておきなさい」

「はい。それにしても,比例式って使いでがあるんですね」

「うん。大学レベルはともかく,高校レベルの化学の計算問題はたいてい比例式を使って解ける。なぜなら,反応物のモル数の比や,同じモルの反応物の分子量の比が問題になるから」

 それから先生は,化学の基本というべきモルの概念を説明してくれた。説明が終わった時,もう夏の日が落ちて夕焼けが空に広がっていた。化学の個人授業。なんてぜいたくな時間。

「明日は,モルの概念の応用として,中和滴定をやってみようか? 今日の実験や計算問題よりずっと単純よ」

 家に帰って,ボクはヒカルにこの日のことを話した。

「役に立てて良かったわ。それにしても,そんなに使いでのあるものなら,数学の授業でそう話してくれればいいのにね。わたしも今日ロミーから聞いて初めて知った」

 

 翌日,先生は1モル=1規定の塩酸を適量取り,水を加えて濃度不明の塩酸10mlを調合してビーカーに入れてくれた。

「1モル=1規定の水酸化ナトリウム溶液を調合して,この塩酸を中和させ,塩酸の濃度を計算しよう。水酸化ナトリウムは湿気を吸って重量が変化するから,秤量は手早く正確にね。溶液は10ml作れば十分。塩酸の濃度が1モル以下なのは確かだから,10mlあれば間違いなく中和できる」

 まず塩酸溶液に少量のフェノールフタレインを加えておく。それから,水酸化ナトリウムを0.01モル=400mg秤量し,メスフラスコに入れ,水を加えて10ml(0.01リットル)の溶液を作り,ビュレットに注ぎ入れる。その水酸化ナトリウム溶液をビーカーの塩酸溶液に滴下する。滴下された水酸化ナトリウムが一瞬だけ赤く染まるけど,周囲にある塩酸に中和されてすぐに無色になる。やがて,滴下された液がしばらく赤いままに留まるけど,ビーカーを振って攪拌すると色は消える。最後に,攪拌してもごく薄いピンク色が残るようになる。ここで滴定終了。

「使った水酸化ナトリウム溶液の量は3.6mlだから,塩酸の濃度は0.36モル」

先生はうなずいてくれた。ボクは素朴な疑問が思い浮かんだ。

「ほんとうは,中性じゃなくて,アルカリ性になったんでしょう? 液がごく薄くてもピンクになったんだから」

「鋭いね。実は,そうなのよ。ただ,フェノールフタレインはとても敏感な試薬だから,ほんのわずかにアルカリ性になっただけで色が変わる。だから,ごく薄いピンクの時はほぼ中性と見なしていい」

「ふーん。意外とアバウトなんですね」

「アバウトとは,きついなあ」

と先生は笑った。

 こんな実験をやりながら,ボクはそれまで自分で知らなかった自分を発見した。理詰めに考えて計算するのもおもしろいけど,ボクは,力を使わない細かな手作業も意外と好きみたいだった。

「ロミーは料理も嫌いじゃないみたいだしね」

と,この話を聞いたヒカルが語る。

「それにしても,ロミーの能力を認めてくれる先生が一人だけでもいてくれて良かったね。学校はつまらなくても,化学部は楽しいでしょう?」

「うん」

ボクは明るく答えた。

 

 結局,この年の新入部員はボクだけ。2学期になり,3年生がまったく顔を出さなくなると先生と二人だけで理科実験室で過ごすことになった。秋になると日も短くなり早く帰ることもできたけど,先生と一緒にいるのはいやじゃなかった。

「藤原くんは不思議な子ね」

ある時,先生がつぶやいた。

「変な子だってことは,自分でも分かっています」

「変な子じゃないの。不思議な子なのよ」

と先生はボクの言葉を訂正した。

 2年生になると,新入部員が3人現れた。ただし,3人とも新入生ではなくてボクと同じ2年生の女子。先生とボクの小さな楽園は消え去ることになる。なりゆき上,ボクが部長になるのだけど,そんな仕事はしたくないし,そもそもリーダーなんて役目は務まるはずもないことは分かっている。

「立場上,ボクが部長になるけど,部長らしい仕事は期待しないで。みんな,自分のやりたいことを勝手にやってください」

と宣言し,それを実行した。ボクはそれまでどおり『事典』を読むか,準備室の試薬棚の前にたたずむ。ヒカルにこの話をしたら,

「ロミーの美しさを分かる女子が現れ始めたってことね。無理にその子たちを好きになる必要はないけど,嫌う理由がないのなら礼儀正しくエレガントに対応してあげなさい」

と言われた。それで,器具の取り扱い方とか実験のやり方について質問されれば,分かる範囲で答えるようにした。それ以上のことは・・・・。

 3年生になると,さらに7人の新入部員がやって来た。そのうち5人は2年生,2人は1年生。全員,女子。部員数は11人に増えた。ボクにとっては「大所帯」。3年生になったのを口実に部長は新入の2年生のうちの一人に代わってもらった。ただ,理科実験室は好きなので,放課後毎日のように顔を出した。ほかの部員たちからちょっと離れて静かに『事典』を読んだり,試薬棚の前にたたずんで試薬の名前をたどったり。もちろん,部員たちからアドバイスを求められれば,「礼儀正しくエレガントに」答えた。

 

 英語はあまり好きになれなかった。アルファベットをローマ字読みするラテン語に慣れていたボクは,英語の綴りと発音の関係が無秩序なのに戸惑った。“a”,“e”,“i”,“o”,“u”,5つの母音字すべてに2つ以上の発音があり,どんな時にどの発音になるのかがまったく不規則(この時のボクにはそう思えた)。子音字にも“c”とか“g”とか“s”とか“th”などは不規則な読み方をする。それに加えて,ボクは“cat”や“hat”の“a”の発音が嫌いだった。「美しくない」。ほとんどの国の言葉では,“a”は大きく口を開けて明るく発音する「ア」の音なのに・・・・。

 北国スコットランドへの憧れが消えたわけではないけど,それだけでは英語への違和感を乗り越えられなかった。その分,フランス語に熱を入れた。

 

 北九州の小都会では,生のフランス語を聞く機会はない。だからボクはフランス映画を見に行った。ロードショー館は中学生の小遣いには負担が重いから,二番館で古い映画を見た。ヒカルも,高校受験の年だったのに,たいてい付き合ってくれた。フランス語の勉強のためだから,名作,駄作を問わず,上映されていれば見に行ったけど,それでも印象深い作品にいくつか出会えた。一番印象に残っているのは『天井桟敷の人々』。上映期間中に2度見に行った。それから,『アデルの恋の物語』,『ル・ジタン』など。

 歌も聞いた。当時「フレンチ・ポップス」と呼ばれていたミッシェル・ポルナレフやフランソワーズ・アルディ。もうちょっと伝統的なシャンソンではバルバラやジュリエット・グレコ。バルバラの“Aigle noir"(黒い鷲)がお気に入りだった。

- 湖のほとりにまどろむわたしのそばに見事な1羽の黒い鷲が舞い降りる。ルビーの色の目,夜の色の羽。その嘴をわたしの頬に寄せ,その首をわたしの手の中に預けて・・・・突然わたしは思い出す。子供のころの夢の中,この大きな鷲に乗って白い雲を越え,太陽に火を灯し,雨を降らせたことを・・・・そして今,黒い鷲は大きな羽ばたきの音と共に再び大空に舞い上がる。-

 ボクは,黒い鷲に乗って空を飛べると信じるほどには幼くなかったけど,そんな夢をリアルに思い描くくらいには子供だった。

 

 フランス語を勉強していて,ラテン語からフランス語が生まれる言語史を勉強し,ついでにゲルマン古語からドイツ語や英語が生まれるプロセスも勉強した。かつては綴りと発音が一致していた古英語が,発音は時代とともに変わるのに綴りが変わらなかったために,今の英語のような綴りと発音が一致しない状態になった。そして,一見むちゃくちゃに見える英語の綴りと発音の間にもそれなりの規則性がある。このことが分かって,英語を少しは「許せる」気になった。

 それにしても,どうして中学の英語の授業ではこのことを教えないんだろう。綴りと発音が一致しない理由,そして,一見でたらめのように見えるけど,綴りと発音の間に一定の規則があることを,どうして教えないんだろう。理由と規則を分かって学ぶ方がずっと能率的なのに,とは思った。

ちょうどその頃,ヒカルが

「ロミーにぴったりの歌があるよ」

と言って,キング・クリムゾンの“Moon child”を教えてくれた。〔美しい〕と思った。旋律も,歌詞も。汚いと思っていた英語の発音が,音楽に乗せられるとこんなに美しく響くものか・・・・。

https://www.youtube.com/watch?v=q2DDv7mvFeA

「これって,一応ロックなの?」

「うん,一応ね」

ボクはこの時代のこの傾向のロックの曲をいくつか好んで聞くようになった。ドアーズの“Crystal ship”,ユーライア・ヒープの“July morning”,クリームの“Dance the night away”,マウンテンの“One last cold kiss”・・・・。英語も嫌いではなくなりそうだった。

https://www.youtube.com/watch?v=GKa1W4a_5mI

https://www.youtube.com/watch?v=l685JEwFPb4

https://www.youtube.com/watch?v=HBf5MviDSGM

https://www.youtube.com/watch?v=uQwldCpm91U

 

“One last cold kiss”の歌詞に

“Their love was like a circle, no beginning and no end”

「彼らの愛は円のようだった。始まりも終わりもなく」

というフレーズがある。「円のように始まりも終わりもない(=永遠だ)」,ヨーロッパ文化ではありふれた表現かもしれないけど,ボクにとっては新鮮だった。〔ボクたちの生活も円のように始まりも終わりもない・・・・〕この言葉,ヒカルに語ってみたかった。

 

 ヒカルの部屋のベッドに寝て,ボクはフランス語の本を読み英語の歌を聴くだけじゃなくて,ほかのいろんな本も読んでいた。そして,その感想をヒカルに語りかけることもある。

 ある日,高校受験の勉強をしているヒカルに,ボクは感動したような口調で話しかけた。

「よく『真理は単純だ』って言うけど,ほんとうは『真理は,分かってしまえば,単純だ』というのが正しいんだね」

ヒカルは「急にどうしたの?」というような顔でボクを見ている。ボクは『遺伝子の分子生物学』を読んで,DNAの二重螺旋(らせん)構造に感動してヒカルに話しかけたのだった。

「分かってしまえば,遺伝情報を保存し,複製し,伝えるのに,これほど最適の構造はないじゃない。4種類の塩基が必ず2つずつペアになるのなら,二重螺旋を引き離せば,それぞれ1本ずつの螺旋から自動的に二重螺旋が2本作られるんだから・・・・分かってしまえば単純な仕組みだけど,それに思い至るのが難しかったんだよね」

 ヒカルも話が見えてきたらしい。ボクをじっと見つめ,それからベッド脇に来て,ボクの髪を撫でる。ヒカルの指がボクの髪の間の滑っていくのを感じながら,ボクは話し続けた。

「相対性理論だって,そうだよね。分かってしまえば,それが一番シンプルでエレガントな説明だと納得できるんだけど,思いつくのが大変なんだよね」

ヒカルは,指を動かすのをやめ,手のひらをボクの頭に軽く乗せて,ボクの目を見ながら語りかけた。

「わたしはふつうの秀才だけど,ロミーは天才ね。ただ,中学のテストではロミーの天才を計れない。『生命形態学序説』とか『遺伝子の分子生物学』とか『動いている物体の電気力学』なんて本に書かれていることは,中学の理科のテストには出ないからね。世界の驚嘆“Stupor mundi”と呼ばれたシチリア王ことや,コルシカ生まれの砲兵士官がフランス皇帝に上り詰めることができた戦術史的条件なんて,中学の社会のテストに出ないからね。ラテン語やフランス語を勉強しても中学の英語の成績が上がるわけじゃないからね。でも,大人になったら,誰もがロミーの底知れぬ知性に驚くようになるよ」

 こんなことをボクに語ってくれるヒカルは,中学1年生の1学期から3年生の3学期まで学年でトップを通した人。ボクは学年で20~30番くらいだった。男尊女卑の風潮が色濃く残る九州の小都会。ボクたちに面と向かって「ヒカルとヒロミが男女逆だったよかったのに」と平気で口にする親戚もいた。父もそう思っていたかもしれない。

 

 ヒカルはボクたちの学区でトップの名門校に進学した。さすがに,その高校で学年トップを通すことはできなかったけど,医学部進学は十分可能な成績だった。

 ヒカルが医者になるのは,幼い頃から親を含め誰もが信じ,期待していた。本人もその期待を裏切るつもりはなかった。ボクは,特に医者になりたいとは思っていなかったし,周りも中学時代の成績から,さほど期待はしていなかった。ただ,ボクはずっとヒカルと一緒にいたかった。だから,ヒカルと一緒に仕事をしたかった。ヒカルと一緒でいられる仕事に就きたい,それがボクの願い。医者になるヒカルと一緒に働ける仕事。そんなことを話したこともある。ヒカルが高校生になって間もない頃。

「ヒカルは医者になるんだよね」

「きっと,そうなるね」

「ボクもヒカルと一緒に仕事したい。医者は無理だと思うけど・・・・化学が好きだから薬剤師とか臨床検査技師とか・・・・そして,ずっと一緒に暮らすんだよ。

“Our life is like a circle, no beginning and no end”

「ボクらの生活は円のよう。始まりも終わりもなく」

ボクは節を付けて歌った。そんなボクを,ヒカルは優しい眼差しで見つめ,両手で頬を包んでくれた。

「あと3年くらいしたら,ロミーが高校3年生になる頃には,きっと医学部進学を勧められるよ」

ボクは驚いてヒカルを見つめ返す。

「その頃には,ロミーの知性を誰もが認識するようになる。医学部の入試問題は,ロミーの知性にとって不足はないから」

そう言ってくれるヒカルの優しさがうれしかった。

「そうしたら,一緒の学部に行って,一緒に暮らして,一緒に勉強するんだね」

「そうよ」

 

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