「なーにじろじろ見てるのよクソ提督。」
「いんや、珍しいお前の姿を見たなって思っただけだよ。」
提督議会が終了し、数日。ここトラック泊地では総出で釣り大会が行われていた。
「で、なんで今日こんな出し物を考えたの?」
「深い意味はないさ。けれども強いて言うなら艦隊の士気を上げるため。こういうれくりえーしょんもたまには乙なもんだろ?」
「…まあそうだけどさ。」
曙は渋々と言った物言いだがその足どりは軽く、彼女が浮かれているのは一目でわかる。それは釣りが出来るからではなく提督とペアであるということも丸わかりだ。
「ところで一番釣った人には褒賞が出るって言ってたけどどんなもの?」
「大したもんじゃないさ。ただ間宮食堂でデザートが無料で付く権利を半年分進呈する食券さ。」
「…まさか、間宮アイス?」
「そりゃそうだ。名物だろ?」
その言葉を聞き曙は体を震わせて立ち上がった。
「行くわよ!クソ提督!一位取るわよ!」
「うおわぁ!?待て待て引っ張るな転ぶ!どわぁ!」
曙は提督の手を引くとそのまま全速力で走った。当然艦娘である彼女は小柄な見た目に似あわず力が強い。提督はなすすべなく引きずられていった。
「曙ちゃん、本当に楽しそうにしている…」
「本当に楽しそう。見てるアタシまで楽しくなりそう。」
潮と朧がそんな彼女の様子を見ながら談笑している。
「朧ちゃん、勝てば間宮さんのアイスが毎日夕食についてくるんだって。」
「これは負けたくないですね。よし、潮ちゃん。アタシたちが一位を目指そう。」
「うん!」
褒賞のことを聞き、特に駆逐艦たちの士気はまさに鰻登りだ。それほどまで間宮アイスは彼女たちへ人気なことが分かる。一方そのころ、曙と提督は…
「とはいえあたし、釣りなんてやったことないんだけど。ただ餌垂らして釣り竿引っ張ればいいわけじゃないんでしょ?」
「まあそりゃな。海釣りだしそれなりにやるべきこともある。けど安心しな、ちゃんと教えてやる。」
「…ふーん、クソ提督 釣りの経験あるんだ。」
「おいおいこんな時までクソ提督は勘弁してくれ…ああ、あるよ。孤島の生まれだからな。狩猟のやり方も漁のやり方も一通り親父から教わった。…将来はあそこで漁師をしてるものだと思ってたよ…深海棲艦があの島を襲うまではな。」
「…あ、ご…ごめん。…ごめんなさい…藪蛇だったわ。」
「いや、気にするな。言い出したのは俺の方だ。じゃあ始めるか。」
提督は曙の後ろに着き、彼女を腕の中ですっぽりと覆うように抱きとめるような形になった。
「あ、あの…えと…提督…」
「ん?どうした?」
「…ち、近いかな…って。」
「でも教えるならこれくらいじゃないとな。なんか不都合でもあったか?」
「な、ないわよ!いいからさっさと教えなさいクソ提督!」
その罵倒が照れ隠しであることは目に見えていたが、提督はめげずに彼女に釣りの仕方を教授しはじめた。
「まずは餌だが…さすがにミミズは無理か。」
「ぎゃー!?無理無理無理!!!近づけんな!!!」
「だよなぁ…」
分かっていたけどと提督は釣り餌を押しのけて、虫が詰まったものを外す。奥にある疑似餌などが詰まった箱をこちらにへと引き寄せる。
「これくらいならいけるよな?」
「ま、まぁこれくらいなら…」
「よし来た、初心者向けの釣りをしよう。とはいえ普通に上級者でも通用するくらい便利なものをな。」
提督は八段ある疑似餌を取り出す。そして曙の前に見せた。
「これは『サビキ』っていうもんだ。これを階層ごとにしかけて…」
彼は樽型のサルカンの下にサビキ仕掛けをつける。そしてその先に小さなカゴをくっつけてその中にコマセをいれて準備完了と言った。
「サビキで釣れるのは結構単純なものだけだ。アジとかイワシとかサバだな。」
「十分よ!さあ始めましょう!」
曙は提督に指南された通りに釣り竿を振り、海へと落とした。
「こっからは時間との戦いだな。あとはどれだけかかってくれるか…だが。」
「気長に待つわ。時間だけはたっぷりあるもの。」
「そうだな、釣りは根気が切れたらその時で負けだ。気長に構えていこう。」
数刻後、当たりがありという反応がブイへと現れた。
「来たなっ!さあ曙思いっきり引っ張ってみろ。」
「命令すんなクソ提督っ!」
と言いつつも全力で引っ張った曙。その釣り針の先にはしっかりと食らいついていた。
「これは…アジだな。どのアジかまでは知識が深くないと分からないが…」
提督がその魚を観察している。一方で曙は一瞬ぎょっとしながらも見比べた。
「これ…あたしが釣ったのよね?」
「そりゃあな、お前の手柄だ。」
「やった!」
思わずガッツポーズしたが、目の前に提督がいることを思い出すとすぐにふんと言った。
「こ、こんなんじゃまだまだ満足できないわよ。ほら次やるわよクソ提督!」
彼女も素直じゃないなぁ…と思いつつ提督は魚をクーラーボックスへと入れて彼女の元にへと戻る。
「仰せのままに、お姫様。」
「おひめ…!?」
赤面した曙に提督はげしげしと膝を蹴られていた。
「いた、痛い痛い。」
「うっさい!あんたのせいよクソ提督!」
それからというものの、曙は強運を発揮し、すぐに次から次へと魚を千切っては投げ、千切っては投げと釣りあげていった。制限時間が訪れるまでには持ってきたクーラーボックスの中身はパンパンになっていた。
「ま、まさかここまで釣れるとは…」
「ま、あたしの手にかかればこんなものね。当然よ。」
「ああ、見事だ。正直ここまで上手くやるもんだとは俺も思わなかったよ。さすがだ、曙。」
「で、でも…」
「どうした?」
「あんたのおかげであることも間違いないし、一応の感謝はしておくわ。…ありがとう。」
片目を閉じながら赤面してだが彼女は明確に提督へと礼を言った。
「…そうだな、じゃあ帰るか。結果発表が楽しみだな。」
「当然あたしが勝ってるに決まってるわ。」
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「さて、厳正な審査の末に優勝したのは…」
一堂に会する間宮の大食堂。そこで面々は緊張状態で結果発表を今か今かと待ち続けていた。
「優勝は47匹で、提督&曙ペアです!」
「や、やった…!」
心底うれしそうにガッツポーズする曙。本当に勝てたことがうれしいようだ。そんな彼女の様子を見てか優勝を逃した他の面々も彼女を微笑ましそうな目で見ている。
「ま、当然よね。」
そんな視線に気が付いたのか慌てて彼女はさも当然かのような態度を取った…が、にやにやしてるのは抑えきれていない。平常心のつもりなのだろうが彼女がうきうきしてるのは目に見えている。バレバレだ。
「優勝したお二人には間宮食堂 デザート無料半年券が贈呈されます。」
「あー、そのことなんだが、大淀 ちょっとマイク貸してもらっていいか?」
「…はい?」
疑問に思いながらも大淀は提督へとマイクを渡す。
「俺がこいつを貰っても意味がねぇっていうことで俺はこいつをこの泊地全員へと進呈する。喜べ、誰でもアイスは無料だぞ!」
提督の言葉に艦娘達から歓声が上がった。
「いよっ!さすが提督!粋っていうものを理解してるね!」
「北上さん、早速いただきましょうか…」
「お、いいねアタシも食べたいと思ってたところなんだ。」
「…アンタ、最初からこうするつもりだった?」
「いんや、それはない。俺が勝ってしまったからこそだ。俺が食っちゃさ企画した方として意味がない、だったら皆に平等に渡した方がマシって思っただけだよ。」
「ふーん…まあいいわ。あたしが勝ってあたしが食べれる事実は揺るがないし。」
「それじゃ、早速食べるか?」
「…ううん、それよりも提督…寝室、行こう…」
「お、おう…」
喧騒の食堂を提督の腕を引き、彼女は提督の部屋へとそのまま行った。
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はむ…くちゅ… と唾液が交わる音が部屋に響く。部屋は灯が消されており、わずかな月明りと星の光が照らしているだけだ。
「提督…もうあたし…我慢が出来そうにない…」
欲情に濡れた目で見られてはさすがの提督も興奮する。彼女の服を脱がせ可愛らしい下着をのぞかせた。そんな曙の頭を撫でる提督。
「…本当にこんな自分が嫌になるぜ。」
「…ていとく?」
「曙…俺は曙を大切にしたい。けど本能ではお前を滅茶苦茶に乱してやりたいという欲望が渦巻いている。だから時々嫌になるんだ。」
「…クソ提督のくせに我慢なんて生意気よ。」
「曙?」
「あんたに壊される程あたしは脆くないの。だから…その我慢なんてしなくていいから…あんたの欲望を全部、あたしに…」
その言葉に理性のたがが外れたのか提督は曙へと手を伸ばした…瞬間に部屋の電話が鳴り響いた。
「…何よもう…」
「悪い、すぐ戻る。」
提督はその受話器を取り会話を始めた。
「…ええ。…はい…えっ…? …………分かりました、すぐにこちらかも手配を。では…お悔やみ申し上げます。」
そして受話器を置いた提督は曙の元へ戻って来た。
「なんだったの?」
「…有名な艦娘が轟沈した…っていう訃報だ。」
「誰が?」
「横須賀鎮守府の秘書艦…『陽炎』が大破…轟沈 戦死した。」