艦これ世界の艦娘化テイトク達   作:しが

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激震

 

「…おい、嘘だろ…?」

 

 

横須賀鎮守府の提督は力なく椅子に崩れ落ちた。彼の目の前に居るのはボロボロの不知火である。厳しい面持ちで彼に向き合っていた。

 

 

 

「嘘ではありません。姉は…陽炎は 沈みました。」

 

 

そして厳しい現実を突きつけた。

 

 

 

「…何故、そうなった?」

 

 

「本来任務である輸送任務…輸送船の護衛中 不知火たちは潜伏情報のない艦隊と遭遇しました。空母水鬼です。」

 

 

「…何故そんな高位の深海棲艦が…」

 

 

「原因は不明です。そして陽炎を旗艦とする第一艦隊と交戦…空母水鬼は陽炎が討ち取りました。しかし、それと引き換えに彼女も大破。沈み際の抵抗に遭い轟沈しました。」

 

 

淡々と告げているつもりの不知火だがその声は激しく震えている。彼はそのまま力なく拳を握りしめた。

 

 

「司令官、陽炎からこれを。」

 

 

不知火に渡されたのはかつて渡したケッコン指輪だった。そして不知火は続ける。

 

 

 

「『最後に約束を守れなくてごめん。司令と過ごした日々は本当に楽しかった…愛しています。』…陽炎からの最後の言葉です。」

 

 

「…っ!!!」

 

彼は激しく歯を噛みしめた。震える手を握りしめて、目を瞑り、涙をこらえた。そして一度大きく息を吸って吐くと、彼は覚悟を決めた決意の瞳を現した。そして、勇ましい声音で不知火に言った。

 

 

 

「…想定外の事態が起きている。故にたった今から非常事態宣言を行う。それと、秘書艦が不在となった今、代理が必要だ。臨時秘書艦に不知火、お前を任命する。…やってくれるな?」

 

 

「全ては司令官の御心のままに。」

 

 

「よし、鎮守府全員に号令をかけろ。フタマルマルマルまでに全員、講堂に集まるようにへと通達しろ。」

 

 

「はい。…では、不知火は一度身支度を整えてきます。」

 

 

不知火は一度礼をすると執務室から退室した。提督は、彼女が残していった指輪を強く握ると目じりに浮かんだ涙を振り払った。

 

 

 

「…今はまだ悲しむ時じゃない…そうだろう、陽炎…!」

 

 

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

 

陽炎戦死の報は電報ですぐに他の鎮守府や泊地にも知れ渡った。横須賀鎮守府の切り込み隊長として有名だった彼女の死を悔やむ声は各地から上げられた…だが、それ以上にテイトクに想像を超える震撼が伝わった。

 

 

 

呉鎮守府

 

 

 

「…その報、確かなのですね。提督。」

 

 

鳳翔はいつになく強い語調で提督へと質問した。提督も提督で深刻そうな顔で答えた。

 

 

「他ならぬ横須賀からの電報だ。…あの誠実な若者がそんなデマを流すはずがない。だからこそ…間違いなくここに書かれたことは事実で、横須賀鎮守府の旗艦、陽炎は…戦死したのだろう。」

 

 

「…そ…うです…か…彼女が…陽炎さんが…」

 

 

「…彼女との親交も深かったお前がどれほど衝撃的かは分かる…けれども戦場に立っている以上こういうことは彼女も覚悟していたのだと思う…すまん、今の私には言葉が見つからない。」

 

 

「…そうですか…分かりました…  提督…少し失礼します。」

 

 

「…ああ、それは構わないが…ドコヘ?」

 

「今後の方針を話し合わなければいけません…場合によっては援軍を出すことも考えなければいけないかもしれません…」

 

 

鳳翔は力なく執務室を出た。そして電話を手に取り、何処かへとかけ始めた。

 

 

 

佐世保鎮守府

 

 

 

「…嘘…だよね?…提督。」

 

川内は愕然と呟いた。その視線の先でいつになく真剣な提督は首を横に振った。

 

 

「…どうやら真実のようだ。…彼女の武勇を知ってる身としては今でも信じられないが…だが横須賀鎮守府からの知らせだ。嘘偽りの類ではないのは間違いない。」

 

「…っく… 陽炎が…?あの沈めても帰ってきそうな陽炎が…?」

 

 

川内は声が震えているのが分かった。まだ新米だった頃、彼女を鍛えたのはあの小柄な体に見合わず大きな器を持つ陽炎だった。彼女こそが川内の先輩であり、師匠なのだと誇っていた。

 

 

「…そう…だよね…」

 

川内は噛みしめるように呟いた。

 

 

「…戦場では死は誰にでも平等に来るんだ…陽炎は運悪くそのルーレットに選ばれちゃったんだ…本当に…悪い夢だよ…」

 

 

「…川内…」

 

 

「ごめん、提督…今日はこのままここで寝かせて。…あなたの隣で…」

 

 

「…嗚呼。いつまでも、どこまでも一緒に寝てやる。」

 

 

川内の涙が一滴、床にぽたりと落ちた。

 

 

 

トラック泊地

 

 

 

「あの陽炎が…?」

 

 

「無敵の駆逐艦と言われた彼女がだ…本当に…惜しい人物を亡くした。」

 

 

「…嘘でしょ…」

 

 

曙はふらりと眩暈を感じた。つい先日、彼女とは顔を合わせた。そして、散々と世話を焼かれていた。だが、それだというのにこれからは二度と顔を合わせることは無くなり、二度と世話を焼かれることはなくなるのだという。それがたった今突き付けられた。

 

 

 

「…っ!しっかりするのよ、曙…ここで茫然自失とするのがあたしの仕事じゃない!」

 

曙は歯を食いしばると自分自身に思い切りビンタをくらわせた。そしてもう一度気丈な振る舞いを取り戻す。そして提督を見る。

 

 

「クソ提督、やることがあるんでしょう、あたしたちにも。」

 

 

「ああ、深海棲艦の動きが不可解らしい、何かが起きるかもしれん。まだその何かは分からないがこちらからも探ってくれないかと、そう言われた。」

 

 

「…そうね、そうと決まったら鎮守府近海へ哨戒へ出るわ。提督、第一駆逐隊借りてくわよ!」

 

 

「…ああ、俺もすぐに正式な命令として発令する。五分後に落ち合おう。」

 

 

「了解!」

 

 

力強く彼らは歩みを始めた。

 

 

 

 

ショートランド泊地

 

 

 

「その情報、間違いはないんですね司令官。」

 

 

「ああ。僕も今一度確認しなおした。確かな情報だ。」

 

 

「…そう…ですか…あの…陽炎さんが…」

 

 

一番あっさりとしたような反応を示す、吹雪。しかし内心では困惑が体中の全てを占めていた。

 

 

あの面倒見の良い姉の鑑のような人物が戦死した、つい先日に自分もたくさん世話を焼かれたばかりだった。そんな彼女が死んだという。

 

 

「…本当にあっという間の別れなんですね、陽炎さん…」

 

 

戦場の残酷さというものを吹雪はたった今、その身に刻み込まれた。皮肉にもそれを注意していた陽炎の死という衝撃的なニュースを持って。

 

 

「…吹雪、僕たちも呆けている暇はない。何にしろ、ここはまだ出来たばかりの基地だ。どのような事態が来るかは分からない。万全に備えなければならない…そのためには色々なことがある…手伝ってくれるね?」

 

 

「はい…司令官 やりましょう…やられたままでは終われません。」

 

 

この出来事はまず間違いなく悲劇だろう。けれどもその悲劇をどう乗り越えるか…こそが彼女たちの今後を文字通り左右していく。彼女たちに止まっている暇はない。

 

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

『そう…彼女が…それは残念だわ。』

 

 

「…はい…彼女こそが次の世代を率いて行く者だと思っていました。」

 

 

『それだけ目をかけていたものね、あなたは…』

 

 

「…いえ、そんなことを今は話している場合ではありませんね。」

 

 

鳳翔の電話の相手は叢雲だ。彼女とのこの電話にこそ意味が今はあった。感傷に浸るのは後だと鳳翔は気丈な一面を覗かせた。

 

 

 

「この後の嚮導艦を指名しなければなりません、お知恵をお貸しください。」

 

『そうね…とはいえ、もう決まってるんでしょう?』

 

 

「はい、私の独断ですが彼女とは決めています。しかしあなたの意見も聞いておきたいと。」

 

『なら単刀直入でいうわ。次の嚮導艦には長門を指名しなさい。』

 

 

「…やはり、同じ考えに至りましたか。」

 

『ええ、年功序列的にもそうだけれど一度あれにもそういうことを経験させておかなくちゃ。…それに、あれなら上手くやるから。』

 

 

「…はい、私もそう思います。…意見ありがとうございました。ではまた近いうちに。」

 

受話器を置くと鳳翔はふぅと一度ため息を吐いた。そして悲観した瞳で天井を見ていた。

 

 

「…やはり、私は死神なのでしょうか…」

 

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

 

暗い海の中で目が覚める。

 

 

…体が壊れていない それどころかまだ動く

 

 

 

海の中で彼女は目覚めた。そしてまだ自分の肉体が砕けていないことに気が付くと僅かな喜びを感じた

 

 

…課程はどうでもいい 結果でまだこの身が壊れていないのならばそれでいい

 

 

彼女は海水を掻き分けるように水面を目指し泳いだ。もがくような泳ぎであったが不思議と体は軽い、いつになく調子がいいのだ。やがてざばんという音とともに彼女は水面へと出た。そしていつもの如く、水面へと立った。

 

 

磯のにおいが鼻に通る。いつもは磯臭いと言ってはいたが今となってはこの臭いすらありがたく感じるようになった。向こう側に見えるのは漁船だろうか。危険だから立ち入り規制がかかっていたはずだ…が、おそらく密漁者だろう。

 

 

 

 

「…ん!?おいやべぇぞ!」

 

 

「げぇ幽鬼だ!おい、進路変更しろ!逃げるぞ!」

 

 

乗組員は彼女の姿を見ると大急ぎで進路変更をし、退散していった。恐れるのは分かるが不本意だと彼女は思った。だが、幽鬼という発言が気になった。

 

 

ふと彼女は自分の肌の色に異変を感じた。…はたして自分の肌はこんなにも色白だったか。

 

 

そして彼女は自分の髪の色に気が付いた。あれほど鮮やかな色彩を持っていた髪は…灰色へとなっていた。そして、彼女は海面に写るその姿を見た。 自分自身であるはずだ。

 

 

 

「ア…ア…」

 

 

うめき声が漏れる。

 

 

「アンタタチハ…」

 

 

かすれるような声から声量が大きくなる

 

 

「アンタタチハ…何処マデ…何処マデ人ノ想イヲ!!!何処マデ踏ミニジレバ…気ガ済ムノヨ…!」

 

 

 

そして絶叫が響き渡った。

 

 

「アアァァァァッァアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

 

その姿を人は深海棲艦と…そう呼ぶだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 




平気でメンタルを踏みにじっていくスタイル



ドロップ艦を覚えてるじゃろ?

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