艦隊これくしょんにおいて実装されていたあきつ丸は強襲揚陸艦という初の「陸軍」所属艦娘である。当然この世界にも海軍、空軍、陸軍が存在するためあきつ丸も存在することになる。
「本日付で陸軍から出向してきました強襲揚陸艦、あきつ丸であります。よろしくお願いするであります、提督殿。」
陸軍式の敬礼をする、あきつ丸。それに対して提督は着席しながらも会釈を返し、歓迎の意を示した。
「ああ、そちらの噂はかねがね聞き及んでいる。私がこの基地の司令だ。こちらは…」
そして提督の隣に立つ彼女に視線を向ける。その視線を受けて情報端末を持ちながら海軍式の敬礼を返したのはこの基地の補佐である秘書艦の…
「秘書艦の長門だ。第一艦隊の旗艦も務めている。脱帽時の敬礼でない無礼は大目に見てくれ。」
「はっ!彼のビッグセブンの長門殿に会えて感激の極みであります!」
一層萎縮したのかさらにビシッと敬礼をしたあきつ丸。そんな彼女に対して提督は和やかな雰囲気を保とうと言葉を続ける。
「ここは陸軍とは形式から様式まで何もかもが違う、それに生じる困惑もあるだろう。その際は遠慮なく私や他の艦娘を頼るといい。ここでは陸の出身だ、海の出身だととやかく言うものも敵対視するものもいない。気負う必要はない。」
「提督殿のご深慮に感謝するであります!」
とはいえ彼女の堅さもありすぐには打ち解けることは出来ないだろうと何となく提督は予想していた。それはその時かと彼は次の話題を言う。
「さて、このブイン基地を一通り見てもらおうと思うが案内役は…」
「提督、私に任せてもらおう。」
「おお、そうか。長門がやってくれるか。ならば安心して任せよう。彼女に分かりやすく説明してやってくれ。」
「任された。…さて、では時間も惜しい。早速案内させてもらおう。」
「よろしくお願いするであります!」
「陸軍では艦娘は他には?」
「自分のほかにまるゆという潜水輸送艇がいると聞き及んでおりまする。自分は顔を合わせたことはありませぬが。」
「ほう、つまり艦娘自体と向き合うのは?」
「式典などでは見かけたことはありますが、このように対面で話すのは初めてであります。それゆえにかつてないほど緊張しているであります。」
「成程、ならばこちらの事情を知らぬのも納得か。」
「何の話…でありますか?」
長門の独り言にも似た言葉にあきつ丸は疑問を呈した。が、彼女はそれを華麗に躱した。
「いや、何でもない。今はまだ関係のないことだ。今やるべきことはここを案内することだ。」
そして長門の先導を受けて、あきつ丸はブイン基地を巡っていくことになる。
「ここが調練所だ。砲撃訓練や雷撃訓練はここで行なっている。それだけではなく簡単な演習も行える。」
一部海を囲んで建設されている艦娘達の調練所、砲撃場所では大中小の的が用意されているし、雷撃場所でも的が常備されている。しかし、あきつ丸はそれよりも取っ組み合いを行っている艦娘達が気になった。
「長門殿、あれも訓練でしょうか。」
「ああ、あれか。あれは近接訓練だ。仮想訓練の一つだが、深海棲艦が砲撃すれば巻き添えを食らうような近い位置に来たような時に対抗する術だ。と言えば聞こえはいいが要するに格闘訓練だ。たとえ弾が切れようと殴る蹴るで敵を沈める意気でかかった方がいいのは事実だからな。 とはいえ空母や戦艦にはああいったことは向かん。やるのは軽巡や駆逐艦だ。」
「なるほどであります。…あ、投げたであります。」
あきつ丸の視線の先にはちょうど水面に投げ出された重巡の少女。そしてその少女を投げた戦艦の艦娘。その視線に気が付いたのか戦艦の艦娘は相手を引き起こした後こちらへと近づいてきた。
「あら、長門。その子が?」
「ああ、今日付けで陸軍からこのブインへ出向してきたあきつ丸だ。」
「き、強襲揚陸艦のあきつ丸であります!よろしくお願いするであります!」
「元気な子ね。私は長門型戦艦の妹の方、陸奥よ。よろしく。」
先ほど自分でも言っていた通り緊張しているあきつ丸と対照的に余裕のある態度の戦艦、陸奥。彼女のこのブイン基地の主戦力であり、長門と同じ同類でもあった。
「今は鎮守府を案内中だ。おそらく夕方にでも歓迎会が開かれるだろう。」
「あらそう、なら後で皆に伝えておくわ。今日は御馳走ね。」
「自分のために…恐縮であります。」
「いいのよ、これは毎回の恒例行事でもあるし誰かの時にないとそれは差別になってしまうもの。…それに、私も強襲揚陸艦を見るのは初めてだし興味はあるのよね。」
見定めるような視線、そして陸奥は何かに気が付いたように笑った。そんな様子を見て長門が彼女に声をかけた。
「今夜、会議を開く。他の面々を招集しておいてくれ。」
「成程、そういうことね。分かったわ。他の子にも声をかけておく。」
それじゃまた後でねと手を振りながら調練所に戻っていく陸奥に対してあきつ丸は首を傾げていた。何の話だろうかという顔をして。
次に二人が来たのは工廠だった。
「ここが工廠だ。建造、近代化改修、強化。全てがここで行われている。例外は修理だけだな。」
「ここが…文献などでは何度も読んだではありますがこの目で見るのは初めてであります…」
「む、陸軍にはなかったのか。」
「はい。自分も民間の工廠で建造されたであります。そもそもの話ですがあまり出撃の頻度も高くないため改修も受けてないであります。」
「ふ、なるほどだ。やはり艦娘に関しては海軍に一日の長があるか…だが、安心しろ。近代化改修を受ければ改修以前とは比べ物にならない数値になるからな。」
「それは楽しみであります。早く練度を積まないといけないでありますね。」
そしてそのまま隣の別棟へ移動する。そこには脱衣所がありまるで銭湯か温泉のような作りだった。
「ここがドックだ。入渠することで損傷を回復できる。」
「自分のいた陸軍基地では無骨な液体培養でありました。何とも粋な設計をしてると思うであります。」
「我らの数少ない娯楽の一つだ。このように温泉のような形を取ることで再生という暗いイメージを取り払う。ただの風呂ならば抵抗も少なくなるだろう。」
なおこの設計は他の鎮守府や泊地でも取られておりそこは提督の趣味があったり、艦娘達の意見が取り入れられている。
さて、次へ行くかという長門に従い、あきつ丸はそのまま足を進める。一度鎮守府棟に戻り、案内される。
「ここが食堂だ。おそらくこの後開かれる歓迎会もここで行なわれるだろう。」
「広い場所であります。皆がここで食事をとるのでしょうか?」
「基本的にはな。だが当然例外もある。提督のような多忙な方は秘書艦が食事をここで貰い執務室へ運ぶという事もある。後は外で食べたいというものいる。」
「なるほどであります。ここの食堂の運営は誰が?」
「給糧艦の間宮だ。彼女の料理は美味いぞ、期待しているといい。」
この私が保証するのだからなという言葉にあきつ丸は目を輝かせて頷いた。
「陸軍は男所帯でありました…それ故に料理も男の料理ばかりだったのであります。決して不味いわけではありませんが如何せん、味付けが豪快だったため繊細な料理というものとは無縁でありました。楽しみであります。」
遠い目をしかけたが気を取り直すように首を振った。そしてこの後も寮舎、娯楽室などを案内されて長門による基地案内が終わった。その後すぐに陸奥が呼びに来て言葉通り歓迎会が開かれた。
所属する艦娘達はあきつ丸に悪感情を持つことなく同じ仲間が増えることに歓迎していた。あきつ丸も緊張しながらその歓待を受けて警戒する必要はないのだと判断し、所属艦娘たちとの交流を深めていた。そんな中、時間を見計らったかのように長門が彼女に声をかけた。
「あきつ丸、構わないか。少々話がある。」
「自分にでありますか。問題ないであります。」
了承の意を示すと長門はあきつ丸を伴い、一団から離れたテーブルにへと着席した。そこには陸奥も座っていた。
「兎にも角にも座ってほしい。」
長門に促されて着席したあきつ丸。どうやら意図を計り損ねているようだった。
「あきつ丸、カンレキ…建造されてからどれほど経つ?」
「自分でありますか?まだ半年にも満たないであります。」
「それで艦娘…いいえテイトクへろくなコンタクトもない…か、なら知らなくても当然ね。」
「?…自分には何のことか分かりかねるであります。」
「まあ順序を立てて話していこう。あきつ丸、単刀直入に問おうか。お前は、平成の日本から来たな。」
長門の端的な言葉、それでいて核心をつく言葉にあきつ丸は驚愕の表情を浮かべた。
「当たりのようだな。」
「な、何故それを…」
「ふっ、簡単な話だ。一目見れば分かる。…何故ならば私達も同じだからだ。」
信じられないという表情のあきつ丸。
「まさか…自分以外にも同類が…」
「他の艦娘達とまともにあったことがないのならば仕方ないことだ。別段この世界で転移者など珍しいものでもない。こちらの世界に引きずり込まれてしまった者たちが手を取り合い協力し合う組合も存在する。」
「…そんな…全く 知らなかったのであります…」
「安心しろ、今から一から説明をしてやる。」
そして長門は説明を始めた。かつて一人のテイトクがこちらの世界に引きずり込まれた発端、それから艦娘である以上のメリットとデメリット、テイトクたちのこと、相互扶助のことなど
「お前も感じたことはあるだろう。自分が自分で無くなっていく感覚を。」
「…あります。その時には恐怖すら覚えたであります。」
「始めはそんなものよ。でもね…いつか抵抗がなくなった時があったら…その時は『あなた』の死だと思っていいわ。」
陸奥の言葉に思わずあきつ丸は震えた。
「あまり脅かしてやるな。私は十年もこの状態だが意外と何とでもなる。ただ明確な目標さえ持てばな。」
「明確な…目標?」
「平成日本へ帰還する ただそれだけの曇りなき一点を目指す。」
「な、なるほどであります。」
「だが先ほども説明した通りまだ我々には進展がない。何が向こうへ帰る条件なのかすらもな…忌々しいカミめ。」
「…カミ、でありますか?」
「そう、カミ。私たちをこっちへ引きずり込んだ元凶…長年の調査でね、あれが何かまでは分かったのよね。」
陸奥もあまり乗り気ではないようだが話をしてくれるようだ。
「ねぇ、あなたも緊急派遣任務というような内容が出て来たんでしょう?」
「はい。そして気が付いたら工廠であったであります…あれはいったい…」
そして陸奥はタブレットの写真を見せた。大本営にあるコンピュータージャングルだった。
「海軍統合参謀本部採用電脳機、通称カミ。これが私たちを引きずり込んだ原因なの。」
「こ、これが自分たちを…」
「そうそう、あとこれはもう一つの側面を持ってるのよ、分かるかしら?」
「…いえ。」
長門がそこへ口を挟んだ。忌々しそうに吐き捨てるように
「その機械が、艦隊これくしょんの運営だ。」
そして衝撃の事実を告げた。
「まず初めにカミはこの世界を模したゲームを作り出した。そしてどういう仕掛けかは知らんが私たちのいた平成日本に干渉した。…そしてブラウザゲーム 艦隊これくしょんとしてサービスを始めた。まるで人が振舞っているかのようにな。」
「し、しかしそれではどのように商談などを…」
「並行世界に干渉するような規格外よ、どんな手を使っても信じられるわ。複製の人間を用意したとか、人間を洗脳したとか…まあ、そういうこと。けどそこは重要じゃないの。」
「ああ。…そして利用者が増え始めるとカミは無作為抽出で、テイトクを選びこの世界へ引きずり込んだ。私たちに秘書艦の肉体を与えてな。」
「何故、そのようなことを?」
「滅亡の危機に瀕した人類を救い、そして深海棲艦を撃滅するため…これに尽きるな。」
「強力な兵器の人柱に私たちは選ばれちゃったってことね。」
一通り説明を終えるとあきつ丸はやはりショックを受けていた。
「まあ無理もないわよねぇ。」
「…いいえ、自分は知らなさ過ぎたのであります。世界に取りこぼされることでありました。感謝するであります、長門殿、陸奥殿。」
「いいんだ。私たちは戻るという目的の一致した同士なのだからな。…それとくれぐれもの警告だ。こちらの世界に未練を残すな、帰れなくなるぞ。」
「り、了解であります。」
そんな彼女を陸奥は面白そうに見ていた。
「でも、長門って随分と夜は可愛く鳴くのよね。ねぇ、提督と今度三人でヤりましょ。」
「台無しになることを言うな!…………それとそれは認めん!」