艦これ世界の艦娘化テイトク達   作:しが

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ぜろよんさんの死ぬほど仲の悪い第六駆リスペクト


第六駆逐隊(の皮を被った何か)

艦娘だって飲酒はする。

 

 

飲酒の習慣があったテイトクとてそれは同じことだ。駆逐艦だって中の人間の関係上飲酒を好む艦もいるし、逆に戦艦であろうとも飲酒は苦手な艦もいる。上戸だったり下戸だったりとそこに存在するのはまさに十人十色のカタチである。

 

 

 

だが考えて欲しい、飲酒に並ぶもう一つの嗜好品を。

 

 

酒に並ぶ大衆向けの嗜好品を。

 

 

そう、煙草である。

 

 

艦娘だって喫煙はするのだ。特に喫煙癖のあったテイトクならばそれが顕著に表れる場面もある。

 

 

鎮守府には備え付けの喫煙所がある。提督や整備士の男向けだがそこに艦娘がいることは決して珍しいことではないというのだ。これはそんな珍しいことではない鎮守府での一日の様子。

 

 

 

 

煙が空へ上る。ふぅと口の中に溜まった煙たちが大気へ放出されていきそのまま空にへと還って行った。そしてもう一度手にした煙草をくわえる。そのままスパスパと味わうように吸っている。そんな彼女の隣に一人の少女が座って来た。彼女はガサゴソと懐からモノを取り出すと隣の彼女へ問いかけた。

 

 

「ねぇ、響。火、貸してくれない?」

 

 

「ん。」

 

 

煙草を咥えたまま響は右手でライターに火をともした。しゅぼっとという音と共に付いた火に暁は葉巻を押し当てた。そして火が付いたのを確認したと同時に離れて、響もライターの火を消した。そして懐にしまうとまた右手に煙草を持ち、ふぅと息を吐いた。口の中からは同じように煙が大気に還っていく。火がついた煙草を持ったまま隣の暁を見ている。視線に気が付いたのか、葉巻を噛んでいた暁がそれを手に持ち直し、息を吐いて問いかけた。

 

 

「何?そんなに私のがほしい?」

 

 

「いや…まだ葉巻を吸っていたんだって思っただけだよ。」

 

 

特に深い意味はないと答えた後また響は自分の煙草を吸い始めた。

 

 

「当然、一人前のレディの嗜みだもの。」

 

 

そして暁はすぱすぱとそれを咥え吸う。ゆっくりと燃えるそれを噛みしめているようにも見える。

 

 

 

「紙の味を喫めなんて野暮なこと言わないでしょう?」

 

 

暁は響の持つ煙草と自身の葉巻を見比べてどちらが上かと言うような視線を向けていた。

 

 

「私はそんなこだわりはないんだ。ただ喫煙という手段を通してストレス解消にしているに過ぎない。」

 

 

ふぅと吐いた後、手持ちの携帯灰皿に吸殻をじゅっと押し付けた。そして消えたのを確認したのち、そのまま吸殻をゴミ箱へ捨てた。

 

 

「それにそこまで凝るような趣味はないんでね。」

 

「勿体ない。響もやってみればいいのに。」

 

 

葉巻にへ異常なこだわりを見せる暁にそれを飄々と受け流す響。そこへひょっこりと人影が現れて二人へ声をかけた。

 

 

 

「二人ともここにいたのですか。」

 

 

「やあ、電。私たちに用かい?」

 

「あら、電。貴方も一服しに?」

 

 

「特に用というわけではないのです。急ぎの用事があるわけではないので付き合うのですよ。」

 

 

電が喫煙所のベンチに腰を下ろし、懐から一式を出す。そして刻み煙草を取り出してそれを煙管に乗せて火をつけようとしたが、響からライターを差し出されてそれに甘えることにした。

 

 

「ありがとうなのです。」

 

 

そしてその隣で響が新たな煙草に火をつけていた。

 

 

「響ちゃんはまだ紙巻煙草なのですか。お金の無駄じゃないのですか?」

 

 

「それほどでもないよ。精々一日に数本程度だから。ヘビースモーカーというわけではない。一箱や二箱馬鹿みたいに吸っているわけでもない、だから支出としてはあまり痛くはないんだ。そういう君はどうなんだい?正直労力と手間に比べて恩恵が見合ってないようにも見えるが。」

 

 

「その手間まで乙なものなのです。煙管を使う以上必ず必要になってくるものなのですからあとはそれを楽しめればいいのです。」

 

 

と、煙管を武士の握り方で持ってる電が言葉をつづけた。煙草の香りを楽しんでいるようだ。それは普通の紙巻と違うらしい。

 

 

「やっぱり電は分かってるわ…ひと手間あると美味しく感じるのよ。ただ享受されるだけじゃ面白みというものがないもの。」

 

 

一方、こちらも葉巻を吸っていた暁。見事な一人前のレディと関心するがどこもおかしくはないな。

 

 

「物臭で面白みがなくて悪かったね。そこまで凝り性じゃないんだ。」

 

 

響は別段責められてるわけではないが二人の仲間に引きずり込みそうな視線から避けていた。ぽろりと手の煙草から灰が崩れ落ちた。それを靴の裏で消すと響は吸殻を捨てた。

 

 

 

「そういえば、雷は?」

 

 

「今朝から見てないわね。」

 

 

思い出したような響の呟きに同調する暁。彼女たちの話題は現在、暁型の三番目へと移ったようだ。

 

 

「ああ…雷ちゃんならヤニと酒が切れたと言って朝から買い出しに出かけて行ったのです。事情を知らない司令官さんはなんだなんだっといった様子であわてていたようです。」

 

 

「ありのままの真実を伝えたのかい?」

 

 

「まさか、そこは雷ちゃんの名誉を守ったです。司令官さんには買い出しと伝えておいたのです。どこまで誤魔化せているかは知らないのですが。」

 

 

 

暁は今この場にはいない三女のことを思いながら煙を吐き、面白そうに言った。

 

 

「司令官もあの雷が煙草や酒を買いに行ったっていうのは想像もつかないでしょうねぇ。」

 

 

灰皿にカスを落としながら普段の素行からは全く想像つきやしないものと付け足した。

 

 

「なのです。でも雷ちゃんもそういう面があった方が人間的なのです。」

 

 

「同感だ。とはいえ私たちも見た目上からは想像もつきやしないだろう…覚えているかい?最初に喫煙所でばったりと出くわした時のことは。」

 

 

「覚えているですよ。大量の吸い殻の隣で喫煙する響ちゃんの姿を見た時は思わず叫びそうになったのです。」

 

「それはこちらも同じセリフさ。今までにない形相で煙管を持っている電の姿を見た時は思わず顔を顰めた。」

 

 

 

まああれのおかげでお互いがテイトクということを知れたと考えると今はこれでよかったのかもしれないねと、響は煙草を懐にしまうと今度はウイスキーの瓶を取り出しそのままその場で煽りだした。

 

 

「あの当時は私も夢を見ていたものだ。艦娘達はブラウザの向こうに居る私の理想のままの姿であるとね。」

 

 

「確かにそれは体のいい願望なのです。けどこんな状況ならば夢くらい見ても罰は当たらないのです。夢見ても裏切られるのは自分だけで済むのですから、至って健全な思いなのです。」

 

 

「だが、そう考えたら矛盾も良い所か…私は艦娘達が理想通りであると思い込んでいたというのに、当人である私も艦娘だ。だが、駆逐艦響は少なくとも私の理想とはかけ離れていた。理想通りであるならば私も完璧な駆逐艦であったはずだろうに、何たる矛盾か。」

 

 

「何を言ってるのですか。完璧な響だったら今の響ちゃんは存在しないのです。そんなに自分を殺したいのですか?」

 

 

「そういうわけではないが…他人に理想の姿を押し付けて、自分自身もその理想の対象であるというのに、ただ他人へ理想像を押し付けるというのはひどく矛盾を感じただけ…」

 

 

「何を言ってるのかわからないわ。」

 

響が突然悩みだしたのに暁は一蹴に伏した。そんなことなどどうでもいいと

 

 

「響は理想像を艦娘に求めてたんでしょうけど自分自身も艦娘だからその理想が適応されなければいけないって思ってるみたいだけど」

 

「分かってるじゃないか」

 

 

「黙って聞く。別に理想じゃなくても良いじゃない。そもそも理想なんて簡単に変わるものなんだから今の状態を理想とでも思い込んでおけばいいのよ。」

 

 

そうすれば変なことで悩まなくて済むでしょと、言えば響からウイスキーを強奪し、ぐびっと呑んだ。

 

 

「大体、夢なんて見ない方が楽よ、楽。今の私たちに理想の艦娘像と重ね合わせてみなさいよ。暁はこんな風に葉巻は吸わないし、電だって煙管を使って煙草を味わったりしない。でも目の前の私たちはどう? 葉巻を美味しそうに吸ってるわ。つまりこの状態で響の理想は砕かれたわけ。いいから大人しく目の前の状況を楽しみなさいよ。」

 

 

そのままさらにウイスキーをあおって呑む。

 

 

「…私のものなのだが。 確かに、暁の言うとおりに私の理想の艦娘像はこんな光景を見せられては粉々に打ち砕かれるというものだ。君の方が一枚上手だな。とはいえ、私はもう悩んでいるわけではない。悩んでないからウイスキーを返してくれ。」

 

 

「ふふん、それは出来ない相談よ!」

 

 

ウイスキーを持ったまま、暁は葉巻を懐へ素早くしまった。そしてそのまま喫煙室から逃亡した…その彼女を追って響も全力で追撃を始めた。

 

 

ただその場に残された電は思わずため息を吐いた。

 

 

「二人とも自由気ままなのです。さっきまで悩んでいたと思ったら今度は…」

 

 

ちょっと自由過ぎるのですと思わず愚痴のように零してしまい嫌になってしまう。だが、軽くでも悪態をつけるのは遠慮のない仲の証拠だと思うと気分は悪くなかった。ふぅと息を吐くとそれに応じて大気に煙が還っていく。暫く静かな時間が流れる。

 

 

 

 

「…ん?電か?」

 

 

背後から聞き覚えのある声がした。慌てて電は煙管を懐へ放り込んだ。

 

 

「し、司令官さん。見つけたのです。」

 

 

「自分を探してたのか?だったら悪かったな、変な手間をかけさせて。」

 

 

「だ、大丈夫なのです。こうやって見つかったのですから。」

 

 

「そうか。…でも悪いな、今失礼なこと考えてた。」

 

 

「失礼なこと、ですか?」

 

 

「いや、電が喫煙してるのかなんて思ってさ。そんなことあるわけがないってのに…なんか煙が見えたと思ったけど気のせいか。」

 

 

「そうなのです。電は煙草の煙があまり得意じゃないのです…ここにいると思って来たのですが会えてよかったのです。」

 

 

「ん、悪いな。先に一本吸ってからでいいか?」

 

 

「はい、問題ないのです。電のことはお気になさらずに。」

 

 

 

それじゃあお言葉に甘えて、と提督はそのまま喫煙所で煙草に火をつける。吸殻が捨ててあることを疑問に思ったが他の誰かだろうと結論付けてそのまま吸い始めた。その様子を電がじっと見ているので嫌でも視線が気になった。

 

 

 

「ど、どうしたんだ?」

 

 

「何でもないのです。ただ司令官さんを見ていたいだけなのです。」

 

 

「そうか…」

 

 

気恥ずかしいことを言われてしまいそれきり黙っていた。…場を打開するためのジョークとして提督はあえて電に煙草を向けてみた。

 

 

 

 

「電も吸ってみるか?な、なんてな。」

 

 

 

 

「紙巻は嫌いなので遠慮するのです。ごめんなさいなのです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………えっ?」

 

 

 

 


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