艦これ世界の艦娘化テイトク達   作:しが

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オコトワリであっても嫌いではない

「…これは、ケッコンカッコカリの指輪、ですか?」

 

 

山城は、執務室に呼び出されたと思ったら、渡されたものに愕然とした。間違いない、それはよく見るあの指輪だった。提督もそれを肯定するようにつづけた。

 

 

「うむ。正真正銘の本物だ。大本営から供給されてな、誰に渡そうかと考えた末だ。」

 

 

「…ですか。」

 

 

「…む、何か不快なことでも言ったか?」

 

 

「どうして…どうして私なのですか!姉様にも渡しているのに!」

 

 

山城、キレた。憧れである姉様に対して既にケッコン指輪を渡しているというのにこの期に及んで自分にまで渡すのはどういう了見だというような意味合いで山城はキレた。だがすぐに提督は合理的な説明をし始めた。

 

 

「ふむ、不逞な輩のように思われるのは某も心外だが…山城殿、其方の練度は今いくつだ?」

 

 

「いくつって…それは最高の九十九ですけど…あっ。」

 

 

「某の意図を察してくれて結構。知っての通りこの泊地に所属する戦艦は其方と扶桑殿だけだ。故に九十九という練度で留めさせておくわけにはいかぬ。そしてだが、練度の上限を上げる方法はこれ以外に存在しない。某が嫌いなことは別に構わぬがこればかりは受け取ってもらわねば困る。命令という形で出してもいいが…」

 

 

「んなっ!?それは、パワハラですよパワハラ!!!」

 

 

「其方ならばそう言うと思った。それに他人に強制させるのは此方としても本意ではない。どうしてもというほど某が憎いならば断わっても構わんがその場合更に扶桑殿には動いてもらわねばならぬ。」

 

 

「ぐぬぬ…姉様を引き合いに出すのは卑怯ですよ…!」

 

 

「だが某の言っている意味を理解できぬほど其方も物分かりが悪いわけでは無かろう。」

 

 

「ぬぐっ…それは…そうですが…」

 

 

山城にはそれがしっかりと分かっていた。というよりもこの男は正論しか言わないのだ。故に彼が歩むのは常に正道であり、王道。その彼を慕う艦娘は多い…だが、山城は複雑な胸中を抱かざるを得なかった。まずこのハーレム主人公のような体質の提督が同じ男(であったもの)として負けた気がしてならない。そして何しろ、尊敬してやまない姉とケッコンしておきながらそれかというのが一番気に食わない原因だった。

 

 

 

「というよりもこんな欠陥戦艦なんか選ばなくても…」

 

 

「欠陥であろうと戦艦は戦艦だ。この戦時中にそのような贅沢は言ってられぬ。それに…某は其方たち姉妹を欠陥だと思ったことは一度もない。」

 

 

「んなっ…」

 

 

「ともあれ、受け取ってもらえると助かるが返答は明日まで待とう。それまでに考えてもらえると此方としても手間が省ける。」

 

 

 

話はこれで終わりだ、後は好きにしてくれて構わないという提督の言葉を聞いて山城はとぼとぼと歩き始めた。…自分はこれからどうすればいいのだろうか、救いを求めるように山城は盲目的に姉の元を訪れていた。

 

 

 

 

「…あら、山城。私に何か用…みたいね。」

 

 

「扶桑姉様…」

 

 

救いを求めるように見上げる視線はいつになく困惑しているような気がした。扶桑はそれを察すると彼女を部屋へ誘い込んだ。

 

 

「上がって、話を聞いてあげるから。」

 

 

「…ありがとうございます、姉様。」

 

 

 

扶桑は山城を上げるとお茶を淹れた。そしてそれを呑みながら山城の様子は少しずつ落ち着いてきた。それを見て扶桑が切り出した。

 

 

 

「…少しは落ち着けたようね。大丈夫かしら、山城。」

 

 

「…はい、ありがとうございます。姉様。」

 

 

「貴方の悩みは…そうね、何となく分かるわ。」

 

 

「…へ?」

 

 

「提督に指輪を渡されたのでしょう?」

 

 

 

図星をつく扶桑の発言に山城は力なくうなずいた。

 

 

「…やはり、というのかしら。貴方の様子、あの時の私にそっくりだもの。」

 

 

「…あの時?…姉様が申し込まれた時ですか?」

 

 

「そうよ…困惑、少量の嫉妬、そして何よりもどこかで悪くないのではないかと思っていることに対しての動揺。あなたも、そう思っているのでしょう?」

 

 

「…はい。」

 

 

そして姉の言葉にうなずいたが聞き捨てならない言葉に思わず聞き返していた。

 

 

 

「し、嫉妬ですか!?」

 

 

「ええ、そうよ。…どこかであの提督を妬ましく思う気持ち、あなたにも覚えがあるでしょう?…こんなにも男としての格差を見せつけれらることの理不尽への嫉妬が。」

 

 

 

「ね…ね………ね、ねね、姉様  姉様も…姉様もなんですか!?」

 

 

「あら、ようやく気づいてくれたようね。」

 

 

「姉さまもテイトクなのですか!?」

 

 

驚きの声を思わず上げてしまった山城。それに扶桑は困った子ねとだけ笑っていた。

 

 

「そうよ、私も元はあなたと同じ。…ブラウザに引っ張り込まれてこちらの世界へ引きずり込まれた存在。ずっと気づくのを待っていたのだけれど…」

 

 

「…もしかして、姉様はずっと知っていましたか?」

 

 

「それは当然よ。」

 

 

「ど、どどどどっどうして…?」

 

 

 

「そうね…あれはまだあなたが着任して来てから一日しか経ってないときに自室にいた時に『おお…本当にでけぇ…乳の扶桑、尻の山城とは言ったものの山城も十分にでかいじゃん』というような呟きが聞こえた時に…」

 

 

「わーーーーわーーーーわーーーー!!!」

 

 

 

山城は声をあげてかき消した。よりにもよって聞かれてはいけない存在に聞かれてしまっていたようだ。そのことだけでも十二分に彼女を赤面させるには効果的だった。

 

 

「…とはいえ、貴方が言い出せなかったのは仕方ないと思うわ。私もあなたに告げる勇気はなかったもの。」

 

 

「…ぜぇ…いえ、姉様を責めはしません。見抜けなかった私も不覚なのですから…でも、姉様 その一つ聞いてもよろしくて?」

 

 

「…?構わないけれど?」

 

 

「姉さまは…その、提督とのケッコン…カッコカリといえど嫌ではなかったのですか?」

 

 

 

「そうね…」

 

 

 

扶桑は一瞬考え込むとそのまま山城へ語り掛けた。

 

 

「山城、提督は素晴らしい人よ。」

 

 

「…それは…そうですが。」

 

 

 

清廉潔白の人柄、自己犠牲も厭わない慈しみ、決して先入観を持たず接する実直さ…人としてこれほどまで良くできた存在を山城は知らなかった。仕事大好きなのだが玉に瑕だがそれは勤勉さという良さの裏返しでもある。だが、完璧すぎる故に苦手意識を持っていた。

 

 

「…なるほど、そういうことね。」

 

 

「…姉様?」

 

 

「山城、ちょっと付き合って…あなたにとっても有益なものを見せられるから。」

 

 

「ね、姉様?」

 

 

 

山城は扶桑に手を引かれるまま部屋を飛び出した。辿り着いたのは提督の仮眠室である。電気がついてることからまだ起きているはずだが…

 

 

 

「…こんな時間に誰だ?」

 

 

「提督、扶桑です。」

 

 

「…お前か、入ってくれ。」

 

 

がちゃりとドアを開けるとそこには部屋着に着替えようとしていたのかシャツの提督がいた。扶桑だけでなく山城までいることに意外な顔をしていた。

 

 

「…何故山城までそこに?」

 

 

「この子が誤解をしていたようなので、それを解いてあげたくて。」

 

 

そう言うと、提督はベッドにそのまま座った。山城は困惑した声を上げる

 

 

 

「…あの、姉様。何故提督の所に?」

 

 

「山城、あなたは提督の完璧すぎるところに少なからず苦手意識を持っているのでしょう?」

 

 

「…それは…まあ、そうですが…」

 

 

本人を前に言うのは歯切れが悪いらしく提督から目を逸らして山城は答えた。扶桑はそのまま提督の方を向き、言った。

 

 

 

「…ということです、提督。貴方はいつも気張り過ぎていると苦手意識を持たれているようですよ。」

 

 

「…む、そうか…どうにも自らを取り繕っている節があるようだ。」

 

 

「…今も取り繕ってますよ。…提督、飾らないあなたをこの子に見せてあげてください。」

 

 

山城は扶桑のやりとりに困惑した。提督は一度だけため息をしたがその後、明らかに異なる声音で告げた。

 

 

 

「ったく…あんま無茶言わないでくれよ、ネエちゃん。」

 

 

 

「…えっ?」

 

 

山城にとって提督は堅物で面白みのない男であった。

 

 

 

「そうさ、俺は提督っていうお役目上飾ってるのは否定しねえさ。けどな、あっちの俺だって確かに俺の一面さ。…けれどまあ、扶桑のネエちゃん。随分と無茶言ってくれるじゃねえか。」

 

 

 

だが、目の前のこのおどけたような様子の男は普段の一面からは考えれないほど親しみがわいた。

 

 

「そこは笑ってお流しください。…ねえ、山城。このように提督も決して話しにくい、接しにくいというような人ではないの。…ただ、意図して艦娘と距離を置いているようには思うけれど…」

 

 

完璧な人間などいないのだ、と扶桑は今ここで証明をしてくれた。この屈託のない笑みを浮かべる男は、あまり嫌悪感も忌避感も湧かないのだ。

 

 

「ん…まあそりゃあ情が移らないようにって意識はしてるな。いざっていう時に俺は艦娘を兵器として使い潰さなければいけねえ時が来るかもしれない。そん時の決断を出来るように覚悟を持っておかなきゃなっていう俺の勝手な気概だよ。」

 

 

この人にも脆い一面があるのかと思うと、山城は自然とその言葉を口にしていた。

 

 

「…私は……私は、提督もいい人だと思います。…姉様と同じくらい。感謝しています。」

 

 

「そりゃあ嬉しい評価だねぇ。扶桑のネエちゃんと同じくらいっていうのはまさに最高評価だろうよ。」

 

 

いつものしわ寄せがなく提督はひどく愛おしく思えて…

 

 

 

「それにね、山城。貴方が女の幸せをつかむことは何の問題もないのよ。」

 

 

「姉さま…ですが…私は…姉様を…」

 

 

「いい?…親愛と、情愛を混同してはダメよ、山城。」

 

 

 

「…親愛と情愛?」

 

 

 

姉は言外でこう告げた、あなたの扶桑への想いは親愛…決して恋愛の類ではないのだと。

 

 

 

「それに…ね、悪いことばかりではないの。」

 

 

「…姉様?」

 

 

赤面しながら視線を背けた扶桑に山城は首を傾げた。

 

 

 

 

「…その、夜戦は…提督は凄く上手だから…悪くない…いや、むしろあなたも病みつきになるはずだから…」

 

 

「姉さまの可憐な口から何て言葉が!!!!???」

 

 

 

ぽっと赤面している扶桑に山城は絶句した。普段貞淑な女性の顔は今は情欲に濡れたメスの顔をしていたからだ。

 

 

 

 

「…いいでしょう。」

 

 

 

「…扶桑のネエちゃん、いつもより山城の様子が怖えんだが。」

 

「…あ…申し訳ありません。変なスイッチを押してしまったみたいです…」

 

 

 

 

山城はがばっと服を脱ぎ捨てた。そして男らしく宣言した。

 

 

「私の事を満足させてください!提督…そうすれば…私は指輪を受け取ります!!!」

 

 

 

「…なんで、こうなったんだかね…」

 

 

提督は思わず頭を掻いた。変な対抗心を燃やした山城に対して扶桑は期待する目を向けていた。

 

 

「どうか…私のことも愛してくださいね…」

 

 

 

 

「…これ、眠れんのかね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「女の体が気持ちよすぎるぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

 

「あらあら…山城ったら生娘とは思えないほどの感じ方…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、約束は約束です!ケッコンカッコカリは受けます。けれどもあなたのことを認めたわけではありませんからね!」

 

 

「某も別に心の底から認めてもらおうなどとは思ってはいないが…だがそれでも山城殿と扶桑殿に相応しき男になれるようにこの場で誓おう。…何、嘘はつかぬ性分だ。」

 

 

「んなっ…!!!」

 

 

 

「あらあら、山城ったら真っ赤になっちゃって…」

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに提督のモデルは某右近衛大将です

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