艦これ世界の艦娘化テイトク達   作:しが

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こんな時間に書いていると眠くなるのが常定め何ですって


今ばかりは溺れましょう

「提督、現在時刻マルゴーマルマルです。少々根を詰めすぎではないでしょうか。」

 

 

「自分だって詰めたくて詰めてるんじゃない。」

 

 

神威の問いかけに提督は嫌気のさした顔をしていた。だがそれも無理はない、今は朝の五時であり提督は夜通しで業務に取り組んできた。というかやらざるを得ないのだ。悲しいかな、それが軍人というものである。

 

 

 

「普通なら十時に切り上げてたはずの仕事をなんでこんな時間まで…」

 

 

「今回ばかりは不運だった、としか表しようがありませんね…先の横須賀鎮守府近海での大規模戦闘の際にここは増援を送らなかったのでそのしっぺ返しというような形で書類業務が…」

 

 

「こんななるんだったら形だけでも送っとけば良かった。でもどう考えても送る必要はねぇだろ。」

 

 

横須賀だけじゃなくて、呉に舞鶴、佐世保が送ったんだしという提督の愚痴を神威は苦笑して聞いていた。

 

 

 

「まあ向こうは向こうで後始末も大変だろうからそこはお互い様なのかねぇ…」

 

 

「そうですね、連日大変な様子を見かけます。戦後処理というのは毎度のことですが大変なものですね。」

 

 

 

そうこうと雑談をしているうちにも提督の手はひたすら書類へと続いていた。全ては次に楽をするために彼は今苦しんでいた。努力の方向性を間違えている気がしないでもないがその場を凌げるのならば問題はないだろう。

 

 

 

「こりゃあ、特別労働手当を貰わなければ割に合わんな…」

 

 

 

独り言で愚痴を漏らす提督。…神威は今でも時々思うことがある。彼とはそれなりに長い付き合いになって来たが何故この怠けたがる青年は提督になったのか…今までそれを聞いたことはなかった。だからこそ、彼女は今ここでそれを聞いてみたくなった。

 

 

 

「提督、つかぬ事をお伺いしてもよろしいでしょうか。」

 

 

 

「なんだー、差し支えないくらいなら答えるぞー。」

 

 

 

「提督はどのような経緯で提督になったのでしょうか。正直に申しますと自分から積極的になろうとは思えないのですが。」

 

 

「お前ストレートに言ってくるな…まあそうだよ、自分だってなろうなんて思ってなかったよ。けど今のご時世、戦時下だ。自分にも届いたんだよ、赤紙が。」

 

 

「…赤紙ですか?」

 

 

「そう、赤紙。まああだ名みたいなもんで正式名称は召喚書って言うんだがな。大本営に呼び出されてな、そこでお偉いさんに…つうか元帥に直談判だよ。あの時何かの貧乏くじでも引かされたんじゃないかって思ったぞ。」

 

 

「それは…また、何とも臭う話ですね。」

 

 

「まあな、けど恐れ多くもただの市井の人間がそんなこと言ってみろ、首がいくつあっても足りねえぞ。それからは簡単に事が進んでいった。適正アリと認められてから海軍学校に突っ込まれて、過程終えて、下級士官として前の提督の所に来て、前提督が退役して後継者に指名されてたらしい自分がこうやってこの席に座ってるんだよ。人から見ればエレベーター式の出世ってことで羨ましいっていうやつもいるけれどよ、自分はぶっちゃけ何もしてない。まるで決められたレールが勝手に動いて着いた目的地がここっていうか…まるで自分が提督になるのが決めれらてるみたいで少し不気味だな。」

 

 

いつの間にかペンを止めていた提督は少々考え込んでいた。その片手でペンが回っている、これは彼が熟考している証拠だと神威は知っていた。

 

 

 

「提督は、その不気味な席に何故?」

 

 

「おいおい…話の流れから察してくれよ…まあ、知ったら一生を海軍に使うしか許されないような秘密を知ったからやめようにもやめれないんだよ…やめたらいつか自分の溺死体が浮いてると思った方がいいぜ。」

 

 

ぶるっと神威は寒気を感じ身震いをした。提督の声音は冗談のそれではなく本気でそうなると確信している顔だった。彼が海軍をやめて民間に戻れば何者かによりその口を塞がれることを提督は予感していた。

 

 

 

「おっと、これ以上は口が滑っても言えやしない。この話はここで諦めてくれ。」

 

 

 

そして提督は牽制をしてきた。ここから先を知ってもお互い良いことはないとそう忠告をしてきた。それを察した神威は大人しくその身を退くことにした。だがその前に一つだけわざと聞こえるような声の大きさでの独り言を漏らしたのだった。

 

 

 

「元帥が言ってたカミが選んだっていうのはどういう意味かねぇ…あの人は無神論者だと思ったんだがな…」

 

 

 

それから提督は黙々と書類を潰していく作業に従事していた。神威もあれきり話すのも気まずくなり、黙り込んでしまった。提督から声をかけることもなく執務室には気まずい重い沈黙が支配していた。あとどれだけこの沈黙が続くのだろう。神威は居心地が悪かった。…とはいえ秘書艦なので傍に控えるのは半ば義務。彼が作業を終えるまで神威は一つの考察を導いていた。

 

 

 

(…おそらく、提督を選んだのも海軍統合参謀本部採用電脳機…カミであるはず。カミが提督を選び…テイトクと引き合わせた…何故。)

 

 

 

その疑問が彼女の心を掴んで離さなかったのだ。テイトクが出会う提督は十人十色だ。壮年の提督もいれば女性の提督も、そしてまだ歳若い少年の年齢の提督もいる。提督の選ばれる基準は妖精さんが見れることと聞くがそれは建前なのではないだろうか…神威の脳内にいくつもの考えが巡っていく。どれも鳳翔に届けておきたい情報だがまだ業務中、また確信もないために今は彼女の胸の中に仕舞われている。

 

 

 

「だぁ…終わったぁ。」

 

 

 

彼女の思考が打ち切られた。あくまでも優先度は提督が高い。

 

 

「お疲れ様です。現在時刻、マルロクマルマル…もう朝ですね。」

 

 

「結局完徹か…とりあえず自分は寝る。神威はどうする?」

 

 

「私ですか?私はまだ動けると思いますが…」

 

神威はそれほど疲労は溜まっていないように見える。けれども提督は何かを思いついたような顔にへとなった。

 

 

 

「神威、知っての通り今日は非番だよな?」

 

 

「はい、そうですね。所属艦娘達にもそのように暇をつたえていますが…」

 

 

「で、緊急で入った書類を終わったわけだ。ということは今の自分はもう何しようと自由だよな?」

 

 

「はい、問題ないかと。義務は果たしたはずですので…」

 

 

「それで、神威 お前のこれからの予定は?」

 

 

「いえ、特にはありませんが…私も仮眠しようかと思いましたが。」

 

 

よしっと提督はちょっとしたガッツポーズをした。その行為に神威の疑問は更に加速する。頭の上にいくつか疑問符が浮かんでいそうだ。

 

 

 

 

「…提督?」

 

 

「神威、自分はすぐにでも寝たいくらいには眠い。だからその安眠へと協力してくれ。」

 

 

 

「はぁ、構いませんが私は何をすれば…」

 

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

 

 

「…で、結局こうですか。」

 

 

神威は衣服をはだけさせながら呆れたような口調で彼女の乳房に顔をうずめている提督へ言った。

 

 

 

「ああ、この柔らかさには何事にも代えがたい…」

 

 

 

一方で提督は惚けた声音である。そう、彼は大きな胸が大好きなのである。けれども表立って手を出す勇気はないヘタレであった。…数か月前に神威が添い寝を申し出たことにより今も時々調子に乗った彼が神威を抱き枕にして寝ていた。

 

 

 

 

「…あの…提督…ちょっとむず痒いのですが…」

 

 

 

顔を赤く染めた神威が堪能している提督に控えめに申し出た。

 

 

 

「…悪い、どうにも気が昂ってるみたいだな…」

 

 

少しは落ち着いたのかやがて体から手を離した。そして神威へと謝罪の言葉を口にした。

 

 

「こんなことに付き合わせて悪かった。正直気安く触れすぎたと思ってる…もう、やらないから安心してくれ。」

 

 

 

気まずそうに彼は目を逸らした。断れない性格に付け込んでしまったと彼なりの葛藤があったようだ。…そして神威はそのまま提督の顔を自分の胸に抱き寄せた。

 

 

「あのー、神威さん?」

 

 

「もう…提督ったら何事にも早まり過ぎですよ…私は別に嫌ではないんです」

 

 

何故だろうか、といつか神威は思った。何故、神威は提督へと、この男へとこのような好意の感情を向けているのだろうか。神威は自分が自分で無くなっていく感覚に吐き気を覚えた。そして自分が壊れていくことを自覚して恐怖を覚えた。

 

 

けれどもそれは時間の問題だった。たとえ、提督を愛するように、好きになるように、好意を向けるように…そうなるのが予め決められていたことであっても沸き上がる感情というものはもう生まれて来た時点で彼女のモノだった。理性でどれほど不気味がっても感情は抑えられない。彼が愛おしくてたまらないように思うには時間もかからなかった。けれどもその自分をどこかで冷ややかに見つめる自分がいた。その自分は今の自分を侮蔑している。

 

 

彼女はひどく矛盾を抱えている。

 

 

 

「…神威?」

 

 

「何でもありません…けれども提督、あなたにこうやって甘えれるのは私はとても嬉しいんですよ?」

 

 

 

この感情が嘘偽りのモノであっても神威にとってはその身から溢れて来た変えようもない本物なのだ。だから彼女の矛盾は加速する。自分がもはや何かも分からなくなってきた…混乱する、脳が、頭が悲鳴を上げて激しい偏頭痛が彼女を襲う。けれどもそれからは逃れるすべは目の前にあった。

 

 

 

「…神威。言っておくけれど自分は怠け者だぞ、それに助平だし…」

 

 

「いいんです。そんな提督も全て含めて提督なんです。私は全ての提督を受け入れたいんです。」

 

 

「…神威…お前は…なんていう包容力の持ち主なんだ…」

 

 

 

——————違う ワタシハチガウ。ワタシハイマスグアナタニウケイレテモライタイダケダ

 

 

 

「…それにもう収まりを付かなくなっていますよね?」

 

 

「…まぁ…な。」

 

 

下半身に当たる存在に彼女は心当たりがあった。提督も言い逃れ出来ないと観念した。

 

 

 

「私を抱いてください、提督。」

 

 

 

「…ああ、光栄なことだよ、本当に…」

 

 

 

あの苦しみから、矛盾から、全てから逃れられる方法は一つ、この想いを本物にしてしまえばいい。

 

 

 

 

……今ばかりはこの甘美な快楽に溺れましょう

 

 

 

 




彼女たちは矛盾から逃れるため、愛欲へ走る

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