普通、こういう状況っていうのは無双するようなものだと元の世界じゃ相場は決まってたよな
それで、自分の前に敵はなくて、圧倒的な力で立ち塞がる悪を、敵を打ち倒して…そして味方に称えられて、評価されて、王道を進んでいく
そういう作風が圧倒的に多かった。そっちの方が見ていてすっきりするかは分からないがそのヒーローに自己投影すれば自分が賞賛されてる気分になれた。むしろ嫌われてたり、恐れられてるのを好き好んでやる人間ってのはあまり多くないと思う。自分でもやっぱりヒーローにはなりたいもんだ。悪役は見る分にはいいかもしれんがなってみるとたまったものではない。
だから、自分は間違いなくヒーローになるのだと、そう確信していた。数多くの勝利を重ね、自分こそがこの世界を救うカギとなり、最後には優しい世界にへとなり、この自分の功績こそが讃えられるのだと…本気でそう信じていた。
それが過信であるとは疑いもせずな。
「___さん!背後です!!!魚雷が!!!」
こういうピンチの時に、ヒーローは覚醒するものだ。超人的な能力や才能に目覚めてその圧倒的な力で脅威を退ける。そしてそれを機に味方が勢いづき、形勢が逆転する。それが物語の王道だ。…思えば人生だって物語みたいなものではある。
けれど、だったら、何故彼女はボロボロになっていたか。何故彼女の存在しているはずの腕は無くなっていたのか。そして、何故彼女は海の底へ沈んでいったのか。
「…わたしはどじで、まぬけで…どうしようもなく足を引っ張りますけれど…こういう時には役に立てて良かったです。」
おい、やめろ。これは悪い夢なんだろう?…悪趣味な夢だよ、本当に。自分を困らせようなんてひでぇ話だ。そもそも自分がこんな非現実的な状況に置かれているわけないだろう。こんなのは夢だ、夢に決まってるんだ。夢なんだろ?早く覚めてくれよ、いつまでもこんな夢を見せられるのは御免だよ。ああ、もう何してんだ、良い加減に目を覚ませ、もうこんな夢なんて見てる必要なんかないんだよ。
…チクショウ
「潮のことを、どうか覚えていてくださいね。」
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がばりと、カレは目覚めた。掛布団をはねのけたカレはひどく寝汗を掻いていた。
「…目が覚めたか?」
同じ部屋の、机にいる人物から聞こえる声。…そんな男性の声にカレはぶっきらぼうに答えた。
「…ああ、起きたよ。」
「随分とうなされてるようだったが、悪い夢でも見たのか?」
「…とびっきりの悪夢をな…今も夢を見てる気分だ…最悪の悪夢を。」
ふぅとカレはため息を吐いた。そして彼に向かって謝罪の言葉を述べた。
「悪かったな、勝手に寝てて。オレはお前の補佐だっていうのに。」
「気にするな。どうせ仕事をするのは此方だ。結局は形だけでしかないからな。」
「…分かってても面と向かって言われると腹立つ。」
「だったら私の代わりにやるか?」
「…遠慮する。」
ぐうの音も出ないというカレは、机の方の彼を向く。相も変わらず面白みのない男だった。口を開けば飛び出すのは皮肉なのはご愛敬なのだろうか。とはいえカレが彼の役に立ててないのは事実であってカレも強くは言い返せない。
「まあ冗談だがな。代わるなど死んでも言わん。驚くほど作業効率が落ちるからな。」
「…面と向かって言うな。結構オレだって気にしてんだ。」
ソファーから飛び起きたカレはふぁあとあくびをして体中を伸ばすように腕を天井に向けて背伸びした。だらしなさここに極まれり。
「目が覚めたなら飯食ってこい。お前のことだ、どうせ腹をすかしていることだろう。」
「……お前は本当に無礼だな。」
「素直な性分だからな。」
ホントいけ好かないやつ、と負け惜しみにも似た言葉を言いカレは部屋から出て行ってしまった。残ったのは彼だけである。…彼、提督はその閉まったドアをずっとにらみ見ていた。いつも以上に眼光が研ぎ澄まされていた。
「お前はまだあの時のことを刻み込んでいるということだな…」
寝言くらい何とかしてくれという呟きは誰にも届きはしなかった。
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そうだった、オレは長い夢を見ている。覚めることのない夢を。呼吸をして、食事をして、痛みを感じることが出来る夢を。
いつまでこんな夢を見ているのだろうか。まあ見ているだけならば楽しいもんだが。実際にずっと覚めない夢だとそれは苦痛であり悪夢でしかないのは語るまでもないことだ。もっとも当人しかわからねぇ話だが。
オレは夢の中で一日を過ごす。夢の中で寝て、起きて、飯を食って、遊んだり、夢の中の住人と話したり。夢ならば何でも思い通りの筈だが誰かが見せてでもしてんのか自分の思い通りにはならない。
けれどもそういう夢っていうのは結構新鮮味があって面白い。機械的な言動ではつまらないだけで意外性もない夢っていうのはあまり重宝しない。というよりもオレはそんなものはいらないと断じる。だからこの夢の世界は結構刺激的である。
刺激的すぎてまいっちまうこともあるがそれはそれ。なんだかんだで上手く行くので深くは考えてはない。オレは夢の中ではヒーローだ。敵を打ち倒し、その能力を讃えられて、最初から困難なんてない。
そう、オレは皆から誉め立てられるのだ…そういうのは好きでこの状況も悪くないと思ってはいる。
「…しなさいよ」
そう、オレは称えられている。その強さに限りはなく、ミスなど一つもない。完璧無比であるのだ。
「返しなさいよ!!!潮を!!!」
夢の中とはいえ美少女に褒められるのは嬉しいことだ。自分の欲を自分で満たすというある意味究極の自給自足であるが。ちょっとしたはねっかえりも長い目で見ればいいものだ。夢の中でツンデレと言うのはダレトクと思わんでもないが。
「…あんたのせいで…」
そう、オレはみんなの、この世界のヒーローだ。ヒーローなんだ。ヒーローでないはずがないんだ。
『どんくさいけれど、やっぱりわたし、艦娘であることは誇りに思ってるんです。こうやって深海棲艦と戦って、皆さんを守っていると思うと、こんなわたしでも守れるんだ…ってそう思うんです』
…それは立派な話だよな。
『__さんも、誰かを守りたいと思いますか?』
そりゃあ守りたいものくらいはある。けれどもオレにはできない…そういうことは艦娘に任せるしかないからな。
『じゃあ、___さんって何なんでしょうか?』
…決まってるだろ、それは…オレは…
『…どうして、自分を認めようとはしないんですか?』
うるさい、これは夢だ。こんな非現実的なことは夢でしかないんだ。オレがこんなありえないことになるはずが無い。夢でしかないんだ、これは夢なんだ。夢なんだから早く起きてしまえ。オレは気は長くないんだ。
『__さん…』
そいつは癇癪を起こすオレを蔑むのでもなく憐れむのでもなく、ただただ、心配そうに眼を向けて来た。周りの奴らが呆れる中でそいつだけはオレと話そうとするのをやめはしなかった。けれどそれも夢が作り出したものだったはずだ。
『__さん。あなたがこの手紙を読んでくれていることを願って書いています。厳しい戦いであることは自覚していますがわたしは思わずにはいられません。__さんのいっていることを現実逃避と笑う人もいますが、わたしは一概に嘘とも思えないんです。まるで本当に___さんが化かされたような顔をしていたのを忘れられません。…けれども、経緯はどうであれわたしはこの世界こそが現実であって存在しているんです。…もしもわたしがいなくなって少しでも痛みを感じてくれているのでしたらここは多分あなたにとってもの現実であるとは思います。夢か現実か、その決着がつく日が来ることを祈っています』
馬鹿な奴だ。こんなことで痛むはずもないというのに
でも、だったら何故オレの手は震えているか、何故オレは目から生暖かいものを流しているのか。何故オレはこの手紙を取り落としそうになったのか。そして何故こんなにも胸が痛んでいるのか。
いや、答えは出ている。けれども認めたくなかった。認めたら何かが壊れそうなんだ、オレが崩れてしまいそうだったんだ。なあオレはお前なんかに顔向けできるはずが無いんだ。
『けれども…やっぱりあなたはわたしの憧れですよ。』
オレが格好つけてただけでもか?
『格好つけていただけであってもそれを格好良く見せれるのはもう、一つの才能だと思います。…だから、憧れなんです。』
ガチャリと扉が開いた。そこにいたのは提督だった。
「…入るぞ…どうした?」
「…何でもない。」
カレは袖で瞳をぬぐうといつもと変わらない毅然とした態度で提督に臨む。
「なんか、いつもと違う雰囲気になったな。」
「そんなことを言いに来たわけではないだろうが、用件を言え。」
「それは失礼。…なあ、昔を覚えているか?いつか、お前が夢だと騒いでいた頃を。」
「…覚えているが言ってくれるな。」
「あれから私はその意味を考えていた。けれどもその答えを持つことは出来なかった。あくまで抽象的すぎたからな。けれども今ならばこの問いをすることが出来る気がする。」
提督はカレを正面に見据えていった。
「夢からは覚めたか
天龍。」
「…ああ、覚めたよ。冷や水ぶっかけられて目覚めさせられた最悪の寝覚めだよ。」
そして彼女は何事にも恐れない笑いを浮かべ、大胆不敵に笑った。
「オレは天龍様だ。さっさと深海棲艦をぶっ潰して夢の続きでも見ることにするからな。」
テイトクの中には自らの視界に映るものを夢だと言い張る存在もいる。けれども彼らはやがて気が付くだろう。ここが夢のやさしいせかいではないことに。そして痛みを知って彼女たちへとシフトしていく。それが、破滅の進歩であってしても。
——————そうだ、オレは天龍。お前の憧れた強い艦娘天龍だ。…天龍でなければならねえといけねぇんだ