艦これ世界の艦娘化テイトク達   作:しが

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ちとちよの姉妹百合は好きだよ


ほのぼの姉妹

艦娘の姉妹艦とは、実の姉妹にも劣らない魂の繋がりである。そこに血縁などはなくとも、彼女たちは魂の繋がった家族なのだ。

 

 

彼女たちの繋がりは強固だ。初対面であってもどこかで共鳴するとのことらしく、彼女たちはそのつながりを何よりも大切にしている。実際姉妹艦は仲が悪いなど滅多になく、戦場においてもお互いを信頼し合っていることを肌で感じ取れる。中には姉妹愛が行き過ぎてあれな艦娘もいるがそれは愛情の裏返しである。

 

 

 

…そう、だからこそ姉妹艦にあたるテイトク同士も邪険になることなどない。大元の意識が人間とはいえやはり彼らもそこは艦娘にあたるわけで、そのつながりを理屈で説明するのは難しいと述べた。自分と姉妹艦が仲が良いのは当たり前と、彼らは理屈ではなく魂にそう刻み込まれていた。

 

 

 

だからこそ、彼女たちもお互いに全幅の信頼を置き、戦場をかける。

 

 

 

 

では、自身が提督ラブと認知されている艦娘になるとしよう。そしてその姉妹艦もまたテイトクだったとしよう…それはそれでややこしい状況が起こりそうだ。これはそんな状況に陥ってしまった彼らのほのぼのとした日常の一幕である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督、深夜ですよ。…まだ起きていますか?」

 

 

 

千歳の問いに彼は渋々と言ったような形ではあるが頷いた。この時間まで仕事をするのは面倒ではあるがやらなければいけないのが宮仕えの悲しい定めである。

 

 

 

 

「そうですか、とりあえずお茶を淹れましょう。こんな状況で立ち往生していてもあれですので。」

 

 

ああ、頼むよという言葉に千歳は任せてくださいと頷き、手際よく茶を淹れている。その手つきは慣れたものだ。しかし千歳が懐かしむように言った。

 

 

 

「提督、覚えていますか?初めのころは私はお茶を淹れるのも不器用で、よく零していたことを…」

 

 

ああ、そんなこともあったなと苦笑する提督に千歳は未熟な自分を恥じていたようだった。

 

 

 

「水上機母艦だった頃は何もかもがぎこちなくてよく提督に助けられていました。本当に感謝の言葉もないくらいです…いえ、感謝してもしたりないと感じてしまうほど感謝してるんですよ。」

 

 

 

実際貴方は未熟な私を捨てずに長い目で見て、付き添ってくれましたからと、提督へと感謝の言葉を述べる千歳。提督は今更さ、と切り出すとお前と私の付き合いだ、そうかしこまるなと言ってきた。彼もまた面と向かって言われるのは恥ずかしいのかもしれない。

 

 

 

「貴方と出会えてよかったと思っています。」

 

 

そして笑顔で千歳は言い切った…瞬間、何かを察したのか扉の方を見た。

 

 

 

「…そこにいるのは分かってるわ、千代田。」

 

 

 

扉越しの警告に観念したのかその気配の主が扉を開けて中へ入って来た。

 

 

 

「お姉…」

 

 

 

「もう、千代田…就寝時間はとっくに過ぎてるのよ。ダメじゃない、こんな時間まで起きていたら。」

 

 

 

「ごめん、お姉。けれどやっぱどうしても気になって眠れなかったんだ。」

 

申し訳なさそうに謝る千代田。それに千歳はしょうがない子ね、と嘆息をした。

 

 

「私と提督ならば大丈夫よ。深夜帯の業務にも慣れているから。」

 

 

 

「…そうだね、そうだよね。千歳お姉なら大丈夫だよね。心配し過ぎかな…」

 

 

 

寂しそうに眼を逸らす千代田に千歳は優しく語り掛けた。

 

 

 

「確かにちょっとオーバーすぎるけれど…あなたのその気持ちはとっても嬉しいわよ、千代田。ありがとう。」

 

 

「ううん…妹が姉を心配するのは当然のことだから…だからこれも当然のことかな。」

 

 

「…ありがとう。」

 

 

一度抱擁すると千代田はそれに浸るように目を閉じた。そして放してもらうと元気よく立ち上がった。

 

 

 

「それじゃあ、心配だけれど私はちゃんと寝るね。千歳お姉も無理はしないでね。」

 

 

「…千代田、さすがにずっと無視することはないんじゃないかしら?」

 

 

 

「えー…あー…うん、そうだね。提督もお姉を無理させないでよ!」

 

 

 

それだけ言うと千代田は執務室から飛び出していった。相変わらず嵐のような娘だなと提督が呟いたのを千歳は拾った。

 

 

 

「すいません…本当に礼儀がちゃんとできてなくて…あとで私からきちんと言っておきますから。」

 

 

 

いや、気にするな。多少反抗心がある方が張り合いがある、と彼の言葉を受けて千歳はほっと安堵したように息を吐いた。

 

 

 

「ありがとうございます…しかし、悪い子ではないんですが…」

 

 

 

千歳が思い出すのは千代田が着任してきたばかりのころの事。彼女は姉を慕うあまり他が疎かになりがちだった。それだけならばともかく反抗心も強く提督に何かと反発をしていたのだったが、あることを機に彼女の提督へ接する態度は軟化していった。

 

 

 

「私、本当にあの時は解体されることも覚悟していました。」

 

 

 

多少じゃじゃ馬くらいならば手を焼くだけで済むが真っ向から反発すると苛立ちと言うのはかすかにでも募り始めるものだ。提督がいくら温厚な人柄であっても、息をするように刃向かう千代田に対して何事も笑って流していても…それはやがていずれは爆発してもおかしくない。

 

 

それはその日は、いつも何の変哲もない日だった。千代田が反抗し、千歳がそれを宥めている。そして、提督がいつもの苦笑してそれを聞き流していた。だが、千代田の発したその一言が、彼を豹変させた。

 

 

 

 

「そのへらへらした笑いが一番気に入らないのよ…男ならば、殴ってでも黙らせてみなさいよ!!!」

 

 

千代田のそれは明らかな挑発。千歳はまずいと思いながらも提督ならば流してくれるだろうとそう信じていた。…だが、彼はゆっくりと立ち上がると千代田の首元を掴み、壁に叩きつけながら聞いたこともないほど低い声で、言った。

 

 

いい加減にしろ、これ以上規律を乱すのなら解体も手だ。生殺与奪はこちらが持っていることを忘れるな、と。

 

 

確かに千代田の態度は上官にするものでは目に余る。しかも規律に厳しい海軍だ。彼女の暴挙を放ってはおけなかったのだろう。事実他の艦娘からも千代田へ批判が集まっていた。しかし、千代田はその脅しだけで怯むタマではなかった。

 

 

 

「上等よ、アンタの下でなんか——————!!!」

 

 

そして、仕返しと言わんばかりに、膝蹴りを彼に食らわせたのだった。…強烈な痛みを受けたのだろう。彼は怯み、その手を放した。そして提督を殺しでもするのかと、いう表情で更に千代田が迫った…そこに千歳が割り込んだ。そして彼女の頬にバチンと大きな音を立ててビンタをした。

 

 

「いい加減にしなさい、千代田。」

 

 

 

「…お姉…」

 

 

千代田のその眼は明らかに怯えていた。大切な姉からそれを受けることはないと信じていたがために、その瞳は恐怖の感情を含んでいた。

 

 

 

「貴方に謹慎を命じ渡します。懲罰房に入ってなさい。」

 

 

 

そして秘書艦の権限でそれを言い渡した。担当の艦娘達が千代田を拘束し、部屋外へと連れだしていった。許しを請う千代田の声は掻き消えた。床に膝をつく提督に千歳は肩を貸した。

 

 

 

 

「提督、すぐに医務室へお運びします。…どこか痛む場所はありますか?」

 

 

そんなものは明白だった。彼はわき腹を押さえているのだったから。…結局、彼はあばら骨を三本折られていた。暫くは杖で歩くことを余儀なくされている彼を見るのは痛々しかった。…そして原因である千代田の処罰を千歳は告げられていようとした…緊張の面持ちで。

 

 

 

 

「…提督、本気ですか!?」

 

 

 

千歳は渡された書類を見て思わず提督へと尋ねてしまった。…そこには衝撃の内容が書かれていたからだった。

 

 

 

「…本気で、もみ消すおつもりですか?」

 

 

その問いに提督はただ頷いた。書類の内容は『提督による艦娘千代田への暴行に対する報告書』、となっていたからだ。それによれば提督が千代田へ暴行を加えたこと、それに対する千代田の正当防衛で、提督は負傷したという旨の内容が書かれていた。

 

 

千歳は驚愕という感情に包まれていた。提督の行動は確かに荒っぽかったがやっていることに間違いはなかった。しっかりと上下関係を刻むのも艦隊運用では必要なことだ。だが、それでもなお反抗し、自分にけがを負わせた相手に提督は彼女の罰を不問にすると言った。それどころが自分が責を受けるとも。

 

 

「…何故、ここまで?」

 

 

 

千歳が悲しむだろうと思ったから… ただ提督はそれだけ言って笑った。その一件を聞いた千代田は後に土下座し、許しを求めた。そしてその後何とか態度も軟化して今に至るわけだが…

 

 

 

「本当にあの時は気が気ではなかったですね…でも提督の寛大な御心のおかげでこんな風に姉妹共々五体満足でいられています。本当にありがとうございました。」

 

 

 

改めて礼を言った千歳だったが提督の姿がなくなっていた。

 

 

 

「…あれ、いつの間に…提督はどこに行ったのかしら…」

 

 

 

きょろきょろと提督を探す千歳に対して控えめな声が聞こえて来た。

 

 

「…どうしたの?千歳お姉。」

 

 

「あら…また来たの?悪い子ね… それよりも千代田、提督を知らないかしら?さっきから姿は見えないけれど。」

 

 

 

千代田はそんな彼女に対して一度だけ静かに首を振って告げた。

 

 

 

「お姉、提督はもうここにはいないよ。」

 

 

 

「あら、じゃあ何処に…ああ、トイレに行かれたのね。一言言ってくださればいいのに。」

 

 

千代田は千歳の手を取って強く言った。

 

 

 

「違うよ、お姉…もう、提督はこの世に居ないんだよ…思い出して。」

 

 

 

振り絞るようなかすかな声、千歳はそんな千代田に対して

 

 

「千代田、冗談でも言っていいことと悪いことがあるわ…さっきまで提督はそこにいたの…に?」

 

 

千歳は言葉の途中で疑問符が出て来た。先ほどまで提督が座っていたはずの椅子には埃が積もっていた。これは暫く使われていない…その証拠であった。

 

 

 

「お姉…提督は私たちを逃がしてくれた

 

 

千代田は振り絞るように、弱く声を漏らした。…千歳の脳裏にある光景がフラッシュバックする。

 

 

 

太平洋を航海しているクルーザー、そこで笑い合う提督と千代田、そして千歳、火の上がる豪華客船、潜水カ級の浮上する姿、そして千代田と千歳の手を引き、そのまま海へ彼女たちを放り投げる提督の姿、その直後に爆発し、沈んでいく船…それらが一瞬のうちに千歳の脳裏に流れていった。

 

 

「あ、あら…?」

 

 

意識しないうちに涙が流れて来た。

 

 

 

「ごめんなさい…私が休暇を旅行に行こうなんて誘わなければ…私が、私が提督を殺したも同然だから…!!!」

 

 

千代田の悲痛な言葉が千歳に突き刺さる。

 

 

「あ…あああ…アアアアアアア…アアアアア…アア…」

 

 

 

ぽたり、ぽたりと赤い涙が千歳の足元に落ちる。視界の端に捉えていたはずの提督の姿が砕け散る。彼女の視界が赤く染まる。

 

 

 

 

 

 

彼女の左手の指輪が、砕けた。

 

 

 

 

 

 

 

テイトクはやがて提督を愛するようになる。そして愛ゆえに認めたくない現実というものが出てくる。…そう、提督だっていつ死んでもおかしくない。彼女がそれに気づけたのはまだ幸運だった。…永遠に気が付かないよりはましなのだろう。

 




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