艦これ世界の艦娘化テイトク達   作:しが

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初投降


きょうだいの絆未だ途切れず

「提督さん、艦隊が帰投したっぽい。」

 

 

「ああ、分かった。そうだな…今日はもう休んでもらっても構わない。明日にでも報告を受けるとしよう。」

 

 

時刻は現在11時過ぎ。最後の遠征艦隊がリンガ泊地に帰還した。そこの司令である提督はてきぱきと指示を秘書艦の夕立に伝えていた。

 

「はーい、じゃああたし、白露に伝えてきまーす。」

 

 

旗艦に報告の旨は明日やればいい、今日はそのまま休んでくれと言う伝言を秘書艦が伝えに行ったのを見ると息を吐いた。帽子を脱ぎ、近くにあった柱にかけた。そしてそのまま椅子にどさりと腰を落とした。今の彼を取り巻く状況に彼は思わず嘆息した。

 

 

「大丈夫だ…俺は上手くやれている。何も心配することはない、これからもオレは上手くやれる…。」

 

 

彼は本来勇気のある人間ではない、知略に優れているわけでもなく、武勇が凄まじいというわけでもなく、自信に満ち溢れている人間でもなかった。文字通り何処にでもいる一般人。そんな人間が戦場に身を置くためには少々自己暗示が必要だった。自分が才気に溢れる人間であり、自分が間違いをすることはない。そうやって思い込むことで彼は自らの心の安定を保っていた。いや、彼は正直自分のことは実際後回しでもよかったのだった。彼は彼の『弟』について気がかりでしょうがなかった。一般的な何処にでもいる家族思いの青年だった。

 

 

 

「提督さん、伝えてきたっぽい。そのまま休むって言ってたよ。」

 

 

「ああ、済まない。夕立にも手間かけさせたな。」

 

 

「気にしてないっぽい。あたし、提督さんもの役に立てるならそれで嬉しい。」

 

 

「…感謝する。」

 

 

この懐きようは、ああ、犬を想起させるな。本当にこういうところでも変わらない…弟は殆ど変わってなかった。いや、ただ一つだけ大きく変わってしまったことがあるのだが。

 

 

「なぁ…夕立。」

 

「ん?どうしたの、提督さん。」

 

 

「君が…俺のきょうだいだったっていう感覚はあるか?」

 

 

「急に変なこと言い出したっぽい?提督さん、大丈夫?」

 

 

「いや、オレは至って真面目のつもりだ…それで、どうだい?」

 

「んー、でも…お兄ちゃん…なんかしっくりくるっぽい。提督さん、お兄ちゃんっぽいから納得!」

 

 

しかし彼女は知らなかった。本当に、過去に彼女はこの提督の事をお兄ちゃんと呼んでいたことがあるのだ。しかしそれは彼女の記憶にとどまらない。彼女はそれを知らない、彼女は覚えていない。彼女は忘れてしまった

彼女は何も知らない、彼女は何も記憶していない、彼女はやがて彼と赤の他人へ陥った、彼女は忘れた、彼女は覚えてない自分の兄を、彼女はなってしまった、カレはなった、駆逐艦「夕立」に、カレは弟だった、目の前の提督さんと呼ぶ人間の。

 

 

 

 

————————————————7年前————————————————

 

 

 

「兄ちゃん、ゲームばっかやってないでこっちも遊んでよー。」

 

 

パソコンのディスプレイの前に座ってゲームをする青年とそんな彼の肘を引っ張る少年。

 

 

「引っ張んな、まあ待て、これだけ終わったらあとで死ぬほど構ってやるからさ。」

 

 

青年にとってこのイベントはかなり重要なものだった。今までの準備期間を経て華々しくデビューするということになるためだ。一方弟の少年はそういった類のゲームには疎いため兄が何が面白いのかがよく分からない。齢9歳の少年には兄と遊ぶ方が楽しいのだ。

 

一方青年も弟を蔑ろにしているわけではないし、疎んでいるわけでもない。ただただ今の優先順位が艦これの方が上なだけだからだ、あと五分もせずにやりたいことを終われるし終わった後は、拗ねる前に弟を構い倒してやるつもりだった。仲良しの理想的な兄弟と言えるだろう。

 

 

「あれ、兄ちゃん、画面がなんか光ってるけど。」

 

 

「ん…?何々…『緊急司令』?…妙だな今までそんなことなかった気がするんだが…『新たな泊地が開設、着任せよ!』…なるほど、ゲリラミッションか。まだ何かあるな…『この画面を押すと終わるまで母港には帰れません』…か、まあすぐに終わらせるか…」

 

青年は軽い気持ちでそのボタンを押した。その瞬間に画面は今までにない光を放った。

 

「うわっ!?」

 

「眩しっ!?」

 

 

青年とその弟はその激しい光に呑まれていった。

 

 

 

 

 

————————————————

 

 

青年が目を開けるとその景色は一転していた。青年が先ほどまで居たのはアパートの一室の荷物が積み上げられていた場所だった。しかし目を開けるとそこに映っていた景色は、清潔感のある木の…そう、まるで執務室のようだった。青年は疑問に思った。そして周囲を見渡すと…

 

 

「…まさか、本当に執務室!?」

 

 

そして青年は自分の格好が変わってるのにも気が付いた。先ほどまでラフな部屋着だった彼があるいはどういうことだろうかきっちりと襟まで絞められた海軍制服を着ていたのだった。その多大な変化に彼は大きく戸惑った。当然と言えば当然だがこんなことは生まれて初めてだった、というかあってたまるかという話だが。

 

 

「あ、あれ…兄ちゃん…変な服着てる…ていうかどうなってるの、ここどこ!?」

 

声がした方向を見れば、そこにはいつも青年が見慣れている艦娘がいた。混乱した。

 

 

「ゆ、夕立…?」

 

それは間違えるはずもない、艦娘夕立(一般的に知られている改二ではない)だった。

 

 

「おい、兄ちゃん、何言ってるの、僕だよ、ボク。」

 

 

その話し方は決して夕立の物ではなかった、しかし先ほどまで聞いていたその口調に覚えはあった。ついでに指示代名詞で何となく察していた。

 

 

「お前…まさか、……か?」

 

「そうだよ、兄ちゃん。僕の顔忘れたの?」

 

 

「いやいやいやいや、今、お前どんな状況か分かってるのか!?」

 

「分かんないよ、すっごい眩しくなったと思ったら訳の分からない場所にいるし…ていうかなんか背が伸びた?」

 

 

「…鏡、見てみろ。」

 

青年は夕立っぽい少女に姿鏡を持ってきてその容姿を確認させた。

 

 

「え…?」

 

少年っぽい人物はそこには自分の姿が映るであろうと確信していたが現実は非情である。そこに映った少女の姿に絶句した。震えながら彼は聞いた。

 

 

「兄ちゃん…これ、ボク?」

 

 

青年は何かを諦めたように頷いた。夕立となった少年の絶叫がその出来立ての泊地に轟いた。

 

 

 

 

————————————————

 

 

「いいか?…俺の予測に過ぎないがここは、俺のやっていたゲームの中だ。そこで俺はプレイヤーになって、お前はキャラクターになってしまったらしい。」

 

夕立となった少年は涙目になりながらも頷いた。

 

 

「正直なんでこうなったかは分からない。…けれど俺達は姿が変わってもきょうだいであった事実には何も変わりない。不安なのは分かる…正直俺も不安で押しつぶされそうだが…けれど、安心してくれ。俺が、お前を守る。だから俺の事をお前も支えてくれ。」

 

「…うん、分かった、兄ちゃん…僕、怖いけど頑張る。」

 

 

それから文字通り、提督となった彼と夕立になった彼との奮闘の日々が始まりを迎えた。やったこともない提督業に始まり、ここが戦場という事を思い知らされることもあった。夕立は夕立の方で、そもそも10にも満たない年齢で戦場に立たなければならないという残酷な話である。けれども彼らは奮闘した。ただ傍に、兄が、弟がいたから彼らは頑張れた。

 

 

最初の一年は落第だった

次の一年は及第点だった

次の一年は合格点だった

次の一年は最適解だった

 

 

四年も経てば彼らは変わった。人間は慣れて適応する生き物だ。だから彼らも慣れて、適応した。そして進化したのだった、これこそが人の持つ無限の可能性だ。

 

しかし弊害があるところで確実に表れていたのだった。最初の三年間は夕立は提督の事を以前の関係と変わりなく「兄ちゃん」と呼んでいた。だが四年目、些細な変化が起こった。

 

 

「ふぅ…何とか終わったか。」

 

 

「お疲れ様…最近忙しいね、提督さんも無理しないでね。」

 

 

そうホントに自然な流れで言っていた。彼も気が付かずにスルーしそうになっていた。

 

 

「おい…お前今…」

 

「ん?どうしたの、兄ちゃん。」

 

しかし彼女のこちらを指す言葉はいつも通りだった。彼も最初は気のせいかと思った、しかし変化はどんどんと彼女を蝕んでいった。

 

 

 

「お疲れっぽい。休む?」

 

 

「今…やっぱり…」

 

「何か変なこと言った?」

 

最初は少し言葉が変わる程度だった。しかしそのうち、口調に夕立の口癖が付き、提督を指す言葉も兄ちゃんから提督さんに少しずつ頻度が増えていった。彼女の変化に提督はまさに恐怖を抱いた。まるで弟が消えて、夕立になってしまうようにと。

 

 

そして五年目に入るころには口調は夕立のものに、提督への呼び方が提督さんで固定されてしまった。けれどもしばらくはまだ、自分が提督の弟であることはまだ覚えていた。

 

そしてその運命の日は来てしまった。

 

 

まず提督がその日、見つけた夕立は何故かうずくまっていた。

 

 

 

「お、おい、どうした!?」

 

 

「あ…兄ちゃん。…頭が痛い…」

 

 

その時呼び方が兄に向けたものだったのに提督は気が付いた、しかしそんなことは些事だった。彼女が頭を痛そうにしているのだ、心配しないわけがない。

 

 

「大丈夫か!」

 

 

「っ痛…割れそう…」

 

そして彼女は苦しみ始める。

 

 

「兄ちゃん…痛い…痛いよ…」

 

 

「ああ、クソ…チクショウ、明石を…」

 

 

「あ…ああ…なんで…」

 

 

更に頭を強く抱える。苦悶の表情が浮かんだ。

 

「ああ…やだ…兄ちゃん…忘れちゃう…」

 

 

「お、おい!?」

 

「僕が…ボクじゃなく…!?」

 

 

 

そして夕立はその時、一度大きく体を揺らした。そして荒い息遣いをしていた夕立が顔を上げるとキョトンとした表情をしていた。

 

 

「あれ?提督さん、どうしたの?あたしの肩を掴んで。」

 

 

「大丈夫なのか?もう痛みはないのか?」

 

 

「痛み?何の事っぽい?」

 

 

何かあったのかと首を傾げる夕立…提督は嫌な予感がしたのか色々と質問をした…

 

 

 

 

その結果、夕立は何も覚えてないことを彼は確信した。彼女は彼の弟だったという記憶を完全に失くしたのだった。それこそ欠片も残さず、一片すら残っていなかった。それは彼を絶望させるにはそう十分なことだった。やがて彼はどうにもできないと諦めざるを得なかった。諦めるしか方法は残されていなかった。

 

 

 

 

 

それから二年の月日が流れた。夕立はつい先日、改二へと至った。彼女の容姿は成長したようになり、発育の良さが増した。

 

 

 

 

 

そんなある日…提督は心身ともに疲れていた。そんな彼を癒してくれるのは睡眠と風呂と言う時間だった。だから彼は今晩は風呂を貸し切り、一人でザバッーとお湯を浴びていた。

 

 

 

 

「…ふぅ…」

 

何かと気を張っている彼がリラックスできる瞬間だった。しかしそんなとき、大浴場の扉が開かれた。

 

 

 

「あ、いたいた…提督さーん。」

 

 

 

「ゆ、夕立…!?」

 

 

それは彼の少女、夕立だった。突然の来訪に思わずフリーズした。

 

 

「提督さーん、一緒に入るっぽい。」

 

 

 

むにゅうと彼に抱き着いた。当然彼女は全裸だ。その発育のよくなった身体が提督の背に当たった。

 

 

 

「ゆ、夕立、少しはなれ…」

 

 

「提督さーん、そろそろ観念するっぽい。」

 

 

背後から聞こえてくるのはいつもの穏やかな声ではない。夕立の鋭い声だ。

 

 

 

「…いつまで自分を言い聞かせて我慢するの?…無駄なことって分かってるのに。」

 

 

そして語り掛ける。

 

 

「ねえ、提督さん、早く解き放っちゃいなよ、どろどろの欲望を…あたしに。」

 

 

 

 

そこにかつて弟だったものはもういない。

 

 

ただ食われるのを装っている肉食獣がそこに居た。彼の中のあるタガがちょきんと切れてしまった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、彼は、歪みな依存関係に至る。ただこれだけは言える、彼の弟は死んだのだ、と




あまりに性癖歪みすぎてないか?

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