「………ごめんなさい、司令官…あいつは…荒潮は沈んだわ。」
「…っく…」
帽子の下で見えないだろうが彼はおそらく顔を伏せたのだろう。ああ、泣いているのかもしれない。
「嵐であたしと…荒潮は分断されて、雷巡の奇襲に遭って…討ち取ったけど…アイツは…。」
「そ…う…か…。」
司令官、声が震えてるんでしょうね、その気持ちはわかる。それは「痛いほど」に良くわかる。
「…気の利いた言葉なんてかけられないけれど…ごめん…。」
「…い…良いんだ、霞…戦場に出る以上…こうなることは…分かってたんだ…」
「…声が震えてるわよ。あたし…出ておくから。」
「あ…ああ。すまない…一人にさせてくれ…。」
ばたりと扉を閉める。中から嗚咽が聞こえてくる。今は泣くといいわ。
ねぇ、皮肉なものよね。あんたとあたしは…俺は愛を誓った仲だっていうのにあたしがあんたを殺すってのは実に皮肉が聞いてるわよね。
―――――――
「ねぇ、■■くん!せっかく彼女が遊びに来たのにゲームっていうのはどうなのかなぁ。」
「いやそうは言ってもアポなしで来たのはそっちだろうし…特にもてなす用意とかも出来ねぇしなぁ。」
「あまりゲームの女の子に構ってると私が拗ねるわよー。」
「わかった、あと数分で終わるからそれだけ待っててくれ。」
おそらくそこはとあるアパートの一室。そこには恋人関係と思わしき男女がいた。どうやら女の方が男の部屋にアポなしで来たためゲームをしている最中であったため仕方なく続行しているようだ。
「ところでこの娘、何ていうの?」
「ああ、これか?彼女は駆逐艦の霞っていうんだ。」
「こっちは?」
「同じ駆逐艦の荒潮だな。二人は姉妹なんだ。」
「へぇ、この子たちが姉妹ねぇ。…で、どっちが「俺の嫁」かしら?」
「あのなぁ…からかうなよ。」
そんな彼らの前のPCがある知らせを表示した
「『遠征任務』…?初めて見るなこれは…」
「なになに、どんなことが始まってるの?」
「おわっ…ちょっ勝手に押すな…」
「うわぁ!?」
女が勝手にマウスをクリックしたことによりパソコンは急に発光し始め…激しい光が包んだのちに…彼らは居なくなっていた。
「っちちち…どうなったんだ……どこだここ?」
彼は目を覚ました。そして目が覚めて見えた光景は見覚えのない所だった。先ほどまで安アパートの壁を見ていたはずだが今はどこか機械じみた無機質な部屋にいた。そんな彼の隣で彼女はまた同じく目を覚ました。
「いつつつつつ…」
そんな起きた彼女の姿を見て彼は眼を見開いた。
「…あ…荒潮…?」
先ほどまでディスプレイに映っていたその艦娘の姿だった。ゆえに彼は衝撃を覚えた。
「…え、あ、あんた誰よ!?ここ、何処よ!?」
そして荒潮?は口を開いたが彼は確信した。違う、と。そして推測の域を出ないが彼は理解した。
「…もしかして…●●か?」
「…その呼び方って…まさか■■くん?」
やはり間違いないのかと荒潮の喋りは彼女へ酷似していた。そして事実、間違いではなかったと思案する彼。そして無情な事実が彼女から告げられた。
「…■■くん。女の子に、なっちゃったの?」
そしてふと見た鏡に映った顔を見たとき、彼は絶叫した。その絶叫が響いた…かなり可愛い声で、だったが。
―――――――
そう、それがあんたとあたしの始まり。司令官との最初の出会いでもあったわね。
俺は正直その当時は狼狽してたし驚愕してたよ。異世界転生というものをまさかこの身で経験することになるとは思わなかったからな、そういうジャンルがあるのは知っていたが誰もその当事者になるとは思わねぇだろう?いや正確には異世界転移か…どっちでもいいな。
「…●●。俺は…こんな姿になっちまってけれどよ、お前のことは今でも好きだ。ちゃんと愛しているって言えるよ。」
「■■くん…うん、私もあなたのことが好きです。」
「だから…これからもその…よろしくな、こんな姿だが…それに、いつか一緒に帰ろう。まだまだ分からねぇ事ばかりだが…。」
「…うん、約束しよう。」
これはまだ来てから一週間も経ってない頃のことだったわね。他のテイトクがいるなんて夢にも思わず世界にたった二人しかいないと思ってたそんな時あたしたちは約束したわね。
「■■くんって司令官のことどう思ってるの?」
「ド素人だな。なんであんな若造が提督になれてるのかもわからねぇし、それにいろいろ下手くそだ。俺でももう少し上手く出来たぞ。」
「あははは…手厳しいね。そういう意味では■■君は司令官の先輩なのかな?」
「もっと口出すか?」
懐かしいわね、これは確かここに来て2週間くらいだったかしらね…こんなにボロクソ言ってた司令官のこと、まさかこうもなるなんて思ってもみなかった、わよね?
「一年か、大分この生活にも慣れてきたな。」
「■■君もだいぶ演技には慣れてきたかな?」
「まぁ一年もやってればな…正直慣れたくないことの方が多かったが…」
「あはは…気持ちは分かるよ…仕方ないことだから割り切っていくしかないね。」
「まぁ…そりゃあなぁ…しかしこの一年でもかなり成果はあったな…まさか俺たち以外にもいたとは…」
「確か、テイトクだっけ?あんなに沢山いてびっくりだよね。」
そうね、これは一年くらいの頃、ここまではあたしたちはまだ元通りの関係だったかしら?でもここからよね。
「鳳翔さんの言っていたことは本当なんだなって実感してきたよ。駆逐艦『霞』の記憶がしっかりと俺にも染み付いていた…それに…いつもは演技でやってたことが…いつの間にか…」
「■■くんも…?正直に言えば…私も…だよ。これから…私たちどうなっちゃうんだろうね…。」
「どうにもならねぇさ。…俺たちは恋人、だろ。」
「うん…そう、よね。」
そうそう、あたしたちは厳しさを思い知ったのよね。けれどまだ変わらない、そう言ったんだったわね。
「二年…もうそんなに経ったのね。あんたは最近どう?荒潮。お互い別行動なることが多いけれど。」
「そうねぇ、異常はないけれど…私たちは異常アリになっちゃったみたいねぇ?」
「…意識しないとすぐこうなるんだ。俺…どうなるんだろうな。」
「忘れてない限り大丈夫だよ。■■君は消えてないでしょ?」
「…そりゃあな。●●を残して消えるわけにもいかねえ。」
二年目になったらほとんど艦娘のあたしとしての振る舞いにも違和感を覚えなくなって…それにあいつも荒潮として自然に振る舞ってしまうようになって。けれどまだ恋人関係だったわね?滑稽ね、今思い出せば。
「ねぇ、荒潮…あんた最近司令官にべったりらしいけれど。」
「そうだったかしらぁ。秘書艦って立場上しょうがないわねぇ。」
「まぁ別にいいけれど…それよりもあんた、忘れてないでしょうね。」
「えぇ、大丈夫よぉ。ちゃんと覚えてるわ。…それに今日で3年目ね。」
「…すっかり慣れちゃったけれどあたしは男だし…あんたの恋人だったのよ。」
「……大丈夫よ、■■君。覚えてるし、忘れてないよ。」
「…ならいいんだよ。少し安心したよ。」
三年経った頃にはあんたは司令官の秘書艦、べったりだったわね。多分、この時から気持ちが揺らいでたんでしょうね。
「…ねぇ荒潮、あんたと二人きりになるのは久しぶりね。」
「そうねぇ…想定外のトラブルだったけれどこうして直で話し合うのは久しぶりねぇ。」
空模様は最悪。雨が降り続けていてあたしたちはほかの面子と分断された。直で話し合うのは一年ぶり。しっかり覚えているわ。ええ、あたしにとってはついさっきのことだもの。
「一応確認しておきたいんだけれど、あんた…テイトクであることは忘れてないわよね。」
「えぇ、そこは流石に忘れないわぁ。」
「じゃぁ…あんたとあたしがどういう関係だったかは?」
「……えぇ、忘れてないわぁ。」
「分かってんのよ。あんたの気持ちにあたしなんかとっくにないってことは。」
あいつは間違いなく司令官のことが好きだったのだろう、あたしが恋人だったという事実も覚えながら過去のように扱い、新たな恋を見つけてしまったのだろう。
「丁度いい機会だったから言わせて貰ったけれど…もう俺たちの関係、清算しようぜ?」
「…だけれど。」
「分かってるんだよ、俺にお前の視線が向いてないことは、な。だから余計な関係は終わりにして、さっさと清算した方がお互いのためだろ?」
「…それは…そうだけれど…。」
「だからな、別れようぜ。●●。」
「…ごめん、■■くん。」
それは間違いないんだろうなって思ったわ、その視線は俺には向かってなくて司令官にただ一直線に向けられてるって確信したよ。
「良いんだよ、こんな関係いつまで続けてたら俺にも苦痛だしな。…それで、一つだけ聞きたいんだ。」
「なに、かな?」
「アイツから…指輪を貰うっていう話は本当か?」
「………。」
その時のアイツの顔は言っていいのか迷っていた。まぁ気を遣ってることは分かった。
「………うん。」
その声は嬉しそうだったよ。この時に俺は覚悟が決まったよ。その嬉しそうな気持ちは良く分かったよ。
「…嬉しそうだな、やはり少し妬けるな。あいつのこと、好きなんだな。」
「………うん。」
何だか寝取られたような気分だったが俺の気持ちも冷めてしまったしそこまで感慨はなかったよ。あきらめも簡単につくって言うものだ。
「まぁ…気持ちは分かるわよ。あんたのその気持ちはね。」
「…え?」
そして砲撃音。それは至近距離でなり…そしてあいつに…
「…ど…どうして…?」
艤装は全壊、損傷は激しく彼女は今すぐにでも沈んでいく。その最後の視線は俺に向けられていた。まぁそうなるだろうな、味方に、後ろから撃たれれば。
「あんたが司令官を好きっていう気持ち、痛いほどわかるわ…だって、あたしも同じものだもの…だからこそあんたが一番目障りなのよ、荒潮。」
「な…ん…で…」
「最低最悪なことは分かってるわよ。地獄に落ちる覚悟もできてるわ。恨んでくれてもいいわ。それだけのことをあたしがしたんだから。許しも乞わないわ。だから、死んで。」
その最期の瞳は怨嗟に塗れたものだった。ああ、あたしを呪いながら死んでいくんだろうなって分かったわ。でも覚悟の上よ。いくらでも呪えばいいわ。
ねぇ、皮肉よね?かつて恋人だった人を殺してでも欲しいものができちゃうなんて。
「…司令官。」
扉を開けた先の彼は泣いていた。その口で愛を囁いていたんでしょうね。
「…か、霞…か。ど、どうしたんだ…?」
「あたしじゃ…荒潮の代わりにはなれないけど…」
司令官の顔を抱きしめる。腫物を扱うように丁寧と。こうやって夢見たまでの感触を楽しめるとは思わなかったわ。…最低最悪だろうと地獄に落ちようとも、それでもあたしは…
「今は泣いていて良いから…胸ぐらい貸してあげるわ。」
「………あ、ありがとう…。」
あんたには感謝してるわ●●。あんたのお陰であたしは今、最高に幸せな気分よ。いつか地獄で会うことになったらその時に何度でも殺されてあげるから。
「これだけは…あたしが貰うわよ、荒潮。」
最近感想返ししてませんが見てます。うれしいです