艦これ世界の艦娘化テイトク達   作:しが

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正あれば負あり


掲示板/zero


第十五回 提督議会 

この世界はいくつもの鎮守府が存在している。そこに着任しているだけ提督の数があるため当然のことながらそれぞれの運営方針がある。

 

 

一年に一度、すべての提督が一堂に介し、集会を行う提督議会というものが結集される。その時に同行を許されるのは護衛を兼ねた秘書艦 ただ一人のみである。そして提督たちが堂々巡りの議論をしている間、彼女たちもまた新たな議論に頭を捻らせていた。

 

 

 

「それじゃあ、また四時に迎えに来るから またね、提督。」

 

「あ、ああ…」

 

公衆の面前であるが気にしたことではないのか、川内が提督の頬に口づけを落として立ち去って行った。

 

 

 

「随分と仲が進展したようだね。」

 

そんな彼の後ろから声をかける四十代の男性がいた。

 

 

「これは、准将。ご無沙汰しております。」

 

 

「ああ、久しぶりだね、中佐。いや、今は大佐か。まずは昇進おめでとうと言っておこうか。」

 

「これはこれはご丁寧に痛み入ります。」

 

 

呉の提督に頭を下げる横須賀の提督。呉の提督は深海棲艦との戦いに身を投じ二十年の大ベテランであり、提督であれば彼を知らないものはいない、まさに生ける伝説と語り継がれていた。

 

 

「これは、お二方。お久しぶりです。」

 

 

そんな彼らに見知ったように声をかける佐世保鎮守府の提督。

 

「君も息災のようで何より。」

 

「お互い、変わりはなさそうですね。」

 

 

「いや、そうでもないようだよ。遂に彼も恋仲を作ったようだ。」

 

「ほう、そりゃあまた。これは今夜は奢らないといけませんな。」

 

「お、お二方、そろそろ始まる時間ですよ!」

 

 

わいのわいのと話す彼らに会釈する女性が一人いた。

 

 

「舞鶴の彼は今回も欠席か…」

 

 

「聞く話によれば半身不随のけがを負ったとのことです。これも致し方ないことでしょう。」

 

「しかし、まあ 赤城女史も立派なことですな。自分自身が艦娘として前線に立ちながら提督代理として鎮守府を運営するなど忙殺されるような日々でしょうに。」

 

 

 

その噂である舞鶴提督代理の赤城は一人の女性とすれ違っていた。

 

 

「…これは、鳳翔さん ご無沙汰しております。」

 

「まあ、赤城さん。お久しぶりです。お変わりはないですか?」

 

「はい、小生はこの通り。…今回もやられるのですね?」

 

「ええ、新顔がいるという事なので。それに恒例行事ですからね。」

 

 

「分かりました、また明日 うかがわせていただきます。」

 

「ええ、お待ちしております。」

 

 

 

そして赤城と別れた鳳翔は自身の主人の前へ立つと他の面々へと会釈をし、会釈を返された。

 

 

「それでは提督、私も行ってまいります。」

 

「嗚呼、そちらも頑張ってくるがいい。年長者として彼女たちを導いてやってくれ。」

 

「当然です、お任せください。」

 

 

そして深々と頭を下げると鳳翔も立ち去って行った。彼女が行く先は提督議会が行われている本館とは逆方向に位置する別館…その一つの会議室だった。

 

 

「皆さん 既にお揃いでしたか。」

 

そこに着席しているのは年齢は分かれているがその姿が全員女性…艦娘だった。そして辺りを見渡すと居心地が悪そうにしている一人の少女がいた。彼女と目が合うと鳳翔は柔和な笑みを浮かべ、会釈した。そして中心となる席…議長の席に鳳翔が座るとにこやかに切り出した。

 

 

 

「そうですね、まずは新顔もいるようですし自己紹介から始めましょう。」

 

そして自分が起立すると全員に向かって自己紹介を投げかける。

 

 

「私は呉鎮守府の鳳翔です、カンレキは今年で二十五年目になります。よろしくお願いします。」

 

鳳翔が着席すると隣の川内が立ち上がり自己紹介を始めた。

 

 

「佐世保鎮守府の川内!カンレキは五年目、よろしく!」

 

 

入れ替わるように挨拶する陽炎

 

 

「横須賀鎮守府の陽炎。カンレキは十四年目。よろしく。」

 

 

着席と同時に渋々立ち上がる曙

 

 

「…トラック泊地の曙よ。カンレキは二年目、まあ一応よろしく。」

 

 

中でもひときわ小さい少女が挨拶する。

 

 

「タウイタウイ泊地の電なのです。カンレキは七年目です、よろしくお願いするのです。」

 

 

ぺこりと頭を下げた電に代わり、続きの少女が自己紹介する

 

 

「ブイン基地の長門だ、カンレキは十年目だ。」

 

 

そしてがちがちに緊張している少女が立ち上がり挨拶をした。

 

 

「し、ショートランド泊地の吹雪です。カンレキはまだ着任し立ての一月です。よろしくお願いします!」

 

 

そして勢いよく頭を下げた彼女を見て鳳翔は笑った。

 

 

「これに舞鶴鎮守府の赤城さんも加え、貴方も含めて八人でこの議会は構成されています。」

 

そしてフッと鳳翔は微笑み彼女に歓迎の言葉を発した。

 

 

「ようこそ、提督議会の裏側…テイトク議会へ。」

 

 

 

 

————————————————

 

 

 

「まずこの会の基本理念として取り込まれた原因を探り、『平成日本』へ帰還することを目標として二十年前に設立されました。」

 

「…二十年前…」

 

 

その長さに吹雪は絶句と言った反応をしていた。

 

 

「しかし、近年ではその基本理念すら揺らぎ始めています。」

 

 

「…ど、どういうことですか?皆さんは帰りたくて集っているのでは…」

 

「当初の目的はそうです。けれども…私たちも人です。長い時間の流れはヒトに情を持たせてしまうのです。…改めてお伺いします。皆さんの中で平成日本へ帰りたいと思う方は挙手をお願いします。」

 

 

それに対して明確に手を上げたのは長門と吹雪だけだった。曙が上げるかどうか迷っているようだ。

 

 

「…二人、減りましたね。」

 

鳳翔が時間とは残酷なものですと呟いた。

 

 

「ど、どうしてですか!?皆さんは帰りたくないのですか!?」

 

 

「…吹雪さん、時間とは恐ろしいものです。長く時間が経ってしまったものは当たり前すら揺らぎます。…挙手をしなかった人の理由は左手の薬指を見ていただければわかりますよ。」

 

 

そして吹雪は、鳳翔、陽炎、川内、電、曙と彼女たちの手を見た。そこには銀色に光る指輪がはめられていた。それがまるで輝きで照らすように光っていた。

 

 

「…それは…」

 

 

「これはこの世界で築いてしまった深い絆の証です。そしてそれを受け入れてしまった証拠、というわけです。」

 

 

それまで黙っていた川内は口を開いた。

 

 

「去年まではさーわたしも帰りたい派だったんだけれどね。もう後に退けない所まで来ちゃったからね…夫婦の契りを交わすってそういうことなんだ。…曙は意外だったね 去年はあんなに帰りたがってたのに。」

 

「なっ…わ、あたしはあのクソ提督にちゃんと責任を取って貰わないといけないからで!アレが無責任にやるから…!」

 

 

「まぁまぁ…さっきも意思表示した通り私も帰らなくていい派、かな。ここでの居心地も悪くないし…向こうに戻ってまでむなしい自分を見つめるのは嫌になっちゃうから…」

 

「なのです。元の自分を失うのはもう怖くないのです。」

 

 

彼らは受け入れてしまった。故に元の世界への未練はなくなってしまった。補足するように鳳翔が言う。

 

 

「勿論 受け入れてしまった方が少数です。この世界に幾多も見受けれる『テイトク』たちは元の世界へ帰還を望んでいます。だからこそ彼女たちの声に答えてこの議会は開かれているというわけです。」

 

 

沈黙を保っていた長門は斬り捨てるように強い口調で言った。

 

 

「下らんな、この世界で見ているものなど所詮幻想だ。夢でしかないものにうつつを抜かす趣味はない。」

 

 

「けれども長門さん、その夢が七年続いています。それはもはや夢とは呼べないのではないでしょうか。」

 

「…鳳翔さん、私にとってはこの世界での出来事は夢だ。何年経とうともそれは揺らがない。」

 

 

「…そうですか。」

 

 

鳳翔は息を吐くと吹雪へ向きなおった。

 

 

「と、このように私たちも一枚岩ではありません。ですが私に『テイトク』の記録が残り続ける限り貴方たちの帰還のお手伝いをさせていただきます。そのためにこの議会が開かれていると思ってください。」

 

 

「は、はいっ!よろしくお願いします!」

 

 

 

—————————————————

 

 

 

「この世界に囚われているテイトクの数は正確なものは私たちにも把握できていません。100とも1000とも言われています。ただ共通しているのは必ず全員が最後にやっていたのはブラウザゲームである艦隊これくしょんだったこと、そして最後に秘書艦に設定した艦娘になっていることでした。」

 

 

「そしてね、性格やら言動も最初は自分の意志と同じものを保てるけれど時間と共にその艦娘と同じようになって行っちゃうんだよ。」

 

「それだけじゃないわ。時間がたてばたつほど艦の侵食は早まっていく。自分が何処のだれであったかすら最後には思い出せなくなる。ただ唯一思い出せるのは自分がこことは別の世界に居たという事実だけ。」

 

 

「親しかった友人や家族の顔が思い出せなくなるのです。そして、その時間が経てばたつほどその世界の家族は他人となり、この世界の新しい仲間が家族になって行ってしまうのです。」

 

 

「…私はもう自分が何者であったかも思い出せない状態です。それに帰還も望んでおらずただ後の子たちが困らないように…そんな情だけで動いている結果です。いつしか私は向こうの世界の記録すら持ち合わせなくなるかもしれませんね。」

 

「そ、そんな…回避する方法はないんですか!?」

 

 

吹雪の悲鳴にも似た叫びがこだまする。

 

 

「己をしっかりと保つだけだ。後は艦の記憶に抗う事だ。」

 

長門の言葉が吹雪に疑問を生じさせた。

 

 

「艦の…記憶?」

 

 

「かつての世界大戦で沈んでいった船の持つ記憶ですよ。日本には八百万の神という考えがあるように艦船にも魂が宿っていたんです。名づけるならば『艦魂』でしょうか。」

 

 

「カンコン…」

 

「純正の艦娘ならそれが記憶として受け入れられて普通にふるまうことが出来るわ。けれども私たちは違う。テイトクという異物が紛れ込んでいるため二つの記憶が削り合って行き場のないものを私たちの脳内で行なう。…だから少しずつ摩耗してくの。」

 

「それで船の記憶に抗うっていうのは…」

 

「大したことじゃないよ、ただ自分が何者か普段から自己暗示していけばいざという時は耐えられる。けど完全には防げなくてやっぱり少しずつ削られていく。」

 

 

「だからあたしたちは艦娘になりました はいそうですかって放っておける状況ではないってことよ。無害な二次創作とは違うってこと。」

 

 

「そのために原因究明を進めていますが…進展はお察しの通りです。」

 

 

鳳翔はため息を吐いた。そして次の議題へと移っていく。

 

 

 

「ご存知の通りこの世界は深海棲艦との戦争中です。二十年前の戦況は人類が生存圏を奪われて二割数を減らしているというまさに絶望的な状況でした。…しかし、テイトクの出現により事態は好転しました。」

 

 

「…何故?」

 

「私たちが通常の艦娘よりも優れているという事です。耐久度は段違い、補給も最小限で済み、何よりも装備できるものの制限がない。だから軽空母である私でも戦艦の主砲を積むという頓珍漢なことも出来ます。」

 

 

「おそらく私たちは人類の生存圏を取り戻して押し返すために呼ばれた存在。けれどもやっぱりというか、何が私たちを呼んだかは分からずじまいなのよ。」

 

 

補足する陽炎。その中で吹雪は疑問に思ったことを言った。

 

「人類は艦娘に任せきりだったんですか?その…対抗とかは…」

 

 

「当然人類だってただやられていたわけではありません。反撃していましたよ。けれどもそれでは深海棲艦は殺しきれないんです。」

 

 

「あれに対しての切り札は『艦娘』。つまりわたしたちしかいないってこと。」

 

 

「…それを実感したのは人類が禁忌に手を染めても倒しきれないと悟った時です。」

 

 

「…禁忌?」

 

 

「核爆弾ですよ。原子力を持っても深海棲艦は殺しきれずに再生したんです。だから…」

 

 

「下らん。」

 

バンという大きな音共に長門が机をたたいた。

 

 

「大体力のないものなど後ろで怯えて怯んでいればいいだけのものを。余計なことをするから無駄な犠牲が増えたのだ。」

 

 

「…ちょっと、長門さん。それって凄い失礼だと思うケド?」

 

突然の鋭い言葉に陽炎が眉をしかめた。

 

 

「ふん、あれを無駄死にと言わず何と言う。核の灰にまみれて自滅していった者たちなど…そうだ…誰が…誰があんなものを…!」

 

 

それと同時に長門が豹変した。今まで嘲っていた態度から急に息を切らし始めた。

 

 

「目が灼ける──体が崩れる──ダレガ…ダレガワタシヲアノジゴクヘホウリコンダ!!!ダレガワタシヲイクサバデチラセナカッタ!!!ダレ───ガ、ダレガ!!!」

 

 

彼女は瞳を押さえた。その眼からは血の涙がドバドバと流れ出ていた。その光景に思わず吹雪は度肝を抜かれた。

 

 

「…失言しましたね、陽炎さん、川内さん、彼女を。」

 

「りょーかい」

 

「分かりました。」

 

 

 

「キサマカ…キサマガワタシヲ───!」

 

 

今にも誰かに襲い掛かろうとしていた長門を川内が背後から押さえて、陽炎は彼女の腹に強烈な拳を叩き込んだ。

 

 

「…彼女はアメリカじゃないわ。」

 

 

そして意識を失った長門はその場で寝かされていた。その一連の流れに吹雪は唖然としていた。

 

 

「…あ…え…?何…今のは…?」

 

 

「…先ほど話しましたね、あれが艦の侵食ですよ。艦の記憶に蝕まれるとあのように苦しむこともあるんです。先ほど私が核兵器の話をした途端に長門さんはああなりましたね。…それは戦艦長門の最後がビキニ環礁での標的艦だったことに由来します。多くの同胞が散って行く中長門さんは終戦まで生き延びて最後には核によって沈み行きました。…それを艦魂は戦場で散れなかったことを無念に思い続けていたんです。そして…行き場を無くした恨みが今となって具現化したんです。」

 

 

「そんな…」

 

「気をつけなさいよ、アンタも。…最後に怒りを感じる船もいれば、恐怖を感じる子もいるんだから。いつアンタにもそれが来るかはわからない。だから自己を確立しておきなさい。」

 

 

あたしは無理だったけど、と曙は自嘲するように言った。

 

 

「…ともあれ今日はもう何かを議論する雰囲気ではありませんね、一度お開きにしましょう。大丈夫です、提督議会は三日続きます。それまで何か一つでも議論が進めばいいのですが…」

 

 

「無理だろうねー 今までもずーっと堂々巡りだったもん。」

 

「楽観視も良くないですが悲観視もダメなのです。希望を捨てたら電たちに明日はないのです。」

 

「…戦場に身を投じてるから明日を迎えれればそれでも幸運なのよね、私たちは…」

 

 

 

陽炎の呟きが吹雪の耳によく残った。

 

 

「まあ覚えていても損はないわ。この世界は、はいそうですかって手放しで喜べるほどお気楽な世界じゃないのよ。」

 

 

「…だからこそ、大切な人を作ってしまう皆さんの気持ちはよく分かりますよ。」

 

 




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