なお作品の主題を掲示板からチェンジ。勿論掲示板は出て来ます。ただメインがそれだと自分の思い描く書きたいものが書ききれないので主題は交流になると思います
「目から血が流れたらそれは艦からの記憶がフラッシュバックしている証拠。あまり長くその状態で放っておくと脳が焼ききれちゃうからそういう子を見かけたら多少乱暴でもいいから意識を刈り取ってあげて。」
じゅっーと煙が上がる。陽炎が焼肉を焼きながら吹雪に対して説明をしているさなかだ。
「脳が焼ききれ…!?」
「誇張表現じゃないよ、私達…というよりも通常の人間であるテイトクにとって艦の記憶っていうのは相当強烈なものだもん。特にそれが厳しい境遇にいた艦だと尚更にね。」
長門なんかもそうだけれど雪風とか時雨とかも相当つらいと思うよという陽炎は思い出しているようだ。
「…私もああ、なってしまうのでしょうか。」
「多分ね、艦娘になっちゃった以上避けられないことだし。」
長門の姿を思い出す。自分もああなってしまうのかと思うと吹雪は恐怖すら湧いてきた。
「それでだけれども艦魂に負けてしまうと自分が何者かすらも思い出せなくなるから気を付けてね。」
「…ありがとうございます。気をつけます。」
せめて自分の中で自分が何であるかを見失わないようにと吹雪は誓う。
「じゃあこの話は終わろ。ほら、焼けたよ。」
「あ、ありがとうございます」
良い感じに焼けた肉を陽炎が渡してくれる。吹雪はそれを皿で受け取ると冷ますのもほどほどに折りたたみ口の中へと放り込んだ。
「…美味しい…」
「とーぜん、ここは鳳翔さんの店だしね。」
現在彼らが卓を囲んでいるのは居酒屋鳳翔(特別出張店)である。何故居酒屋に焼肉一式があるかどうかは疑問に思ってはいけない(無言の腹パン)
「ちょっと!川内!あたしのタン取らないでよ!」
「ふっふーん、曙も遅いよ それじゃあ駆逐艦は務まらないよ!」
「なんですって!?」
ひらりひらりと避けて逃げる川内とそれをギャアギャア言いながら追いかける曙、必死に止めようという電の光景がそこに広がっていた。
「皆さん、楽しんでいますね。」
「当然ね。せめて明るく振舞っていなければやってられないし。」
「いけないねぇ こんな時まで辛気臭い表情していちゃぁ」
「ひゆあ!?」
吹雪へと絡みつく一人の女性。彼の有名な吞兵衛空母 隼鷹である。
「こんな時だからこそぱっーと行こうぜぱっーと!ほらほら、吹雪も呑んだ呑んだ!」
「隼鷹、新人に対して絡み酒しないの。吹雪もどうしたらいいかわからない顔してるでしょ。」
「あ、あの…まだお酒の味は分からなくて…ごめんなさい!」
「なんだって!?そいつは損してるなぁ…」
「ジュンヨー こちらに来て乾杯をしましょー!」
やたらとテンションの高い隼鷹の後ろに更にテンションの高い重巡、ポーラが現れた。
「んぁ…そいつはいいねぇ!かんぱーい!」
「かんぱーい!」
陽気なままに乾杯する二人。吞兵衛が二人集まればそれはもう地獄である。
「ん…でも何に乾杯してるっけあたしたち…。」
「何が何だかわかりませんがかんぱーい!」
「なら酒が美味いからかんぱーいしよーか」
「今日もお酒が美味しいことにかんぱーい!」
「かんぱーい!」
陽気な酔っ払い二人を尻目に那智は一人盃を傾けていた。いつの間にか盃が乾いていたためお代わりを注ごうとしたが…
「よろしければご一献、どうですか?那智さん。」
「鳳翔か…有難くいただくとしよう。」
乾いた那智の盃に鳳翔が一升瓶を傾けていく。みるみる満たされていく盃をこぼさないように上まで持って行くと
「では、こちらからも。」
「ええ、有難く。」
同じように鳳翔の盃にもなみなみと酒を注いでいく。そして一升瓶を置くと互いに盃を交わす。
「乾杯。」
「はい、乾杯です。」
そして互いに盃をあおりその中身を飲み干す。その関心すら覚える飲みっぷりに鳳翔は感嘆の言葉を贈る。
「相変わらずほれぼれするほどの呑みっぷりですね。お見事です。」
「…いや、何。これも全てあなたが作る酒が美味いからこそだ。」
今日出されている酒は全て鳳翔が自分で作ったものである。居酒屋鳳翔門外不出なだけありその味は保証されている。
「身体の芯から温まる、これならば何杯でも傾けられそうだ。」
「ふふっ、ありがとうございます。一年間やった甲斐があるというものです。それにこの子たちも美味しく呑まれるならば本望でしょう。」
そして鳳翔は騒乱に包まれている店内を見渡す。そこには駆逐艦から戦艦、空母…関係なしにみんなが思い思いのままに呑んで、食べて、そして騒いでいる。はた目から見ればバカ騒ぎに見えるかもしれないがその光景は平和だ。
「…本当にあなたは慈愛に満ちた瞳をするな。」
「はい、みんな 私にとって大切な子たちですから。」
テイトクがこちらの世界に取り込まれた黎明期からいる鳳翔にとって同じ境遇の彼女たちに昔の自分の面影を重ねている節があった。
「私もお酒の勢いに任せて少々愚痴でも言いましょうか…」
「言うと良い。聞き役くらいにはなろう。」
「ありがとうございます。…これはもう二十年前の話です。…当時の私は幾人ものテイトクとの交流を持っていました。黎明期を共にした同志です。」
彼女の脳裏に思い浮かべるのは五人の艦娘…になったテイトクたち。
「当時の情勢は人類が追い込まれているまさに絶望の時代でした。そんな世界へ突然飛ばされたもので困惑の声も当然上がりました。」
「…だろうな。私もその立場なら困惑するのは分かる。」
「けれども矢面に立ち私たちを先導してくれた方がいました。…そして私たちは右も左もわからないまま深海棲艦との戦いに身を投じていました。」
鳳翔が懐かしそうに眼をつむる。黎明期は今ほど余裕はなかったはずだ。
「共に戦った勇士の殆どは戦場で散りました。私たちが通常の艦娘よりもスペックが高いとはいえ無敵ではありませんからね…戦艦の全砲門一斉掃射による飽和攻撃によって散って行った方もいます。仲間を庇い沈んでいった方もいます。…ただ、テイトクがなくなったのは戦場だけではありませんでした。」
「…艦の記憶によるものか。」
「はい。…テイトクとしての自我が消え去り、そこにいるのはただの艦娘…そうなってしまい死んでいったテイトクもいます。…そして私は今も思うんですよね。」
かたりと鳳翔は盃を置いた。
「彼女たちは元の世界へ帰れたか…と。暗い海の中に沈んでいった彼女たちはドコヘ行きついたものだと…」
「…きっと帰れているさ。そうでなければ不公平だろう。」
「…そうですね…そうであると…願いたいです。」
鳳翔はふぅと息を吐くと気を取り直したのか再び一升瓶を持った。
「柄にもないお話を聞かせてしまいましたね。このことは酒の席の失態として酒で流しましょう。」
「…ああ、どうせならば今夜はとことん付き合ってもらおう。」
那智は楽しみだと笑いながら盃を彼女に向けた。
—————————————————
「ふう…良く食べました…」
「…吹雪は見た目に似あわずよく食べるのね…」
「ハラショー こいつは力を感じる。」
「凄いのです…」
吹雪の横には積み上げられた皿。向かい側の陽炎の約三倍はある。
「…駆逐艦は燃費の効率がいいはずなんだけれど…」
「…はっ、す、すいません。お見苦しい所を見せました。」
「いや、まあ 別に大丈夫よ。見ていて気持ちいいくらい美味しそうに食べてたし。」
「…でも満足出来ました…」
頬が緩んでいる彼女を見れば吹雪もここに馴染むことが出来た証拠だろう。陽炎は立ち上がるとお茶を貰ってきた。
「ほら、お茶。」
「あ、ありがとうございます。陽炎さん…陽炎さんってこういうことになれているんですか?やる行動に迷いがないというか…」
「まあね。妹が多いし世話を焼くのは慣れてるのよ。生意気にも呑んだくれてる奴もいるし。」
陽炎の脳内には誰を思い浮かべているのかはわからないが多少ふてくされているようだ。
「でも私はてんで酒に弱くてね。アイツは妹のくせにやたら強いし…で、見せつけるか如く呑んでくるし。それで睨めば『何か落ち度でも?』って言ってるから腹立つのよねー。」
まあそれを除けばいいやつだから別に恨んではいないけどさ、と陽炎は付け加えた。…そして改めて店内の大惨事を見渡した。
「やせーん…ぐへふふぇ てーとくー やせんー」
「このくそてーとく…だぁーいすきなんだから」
いつの間にか酔いつぶれている川内と曙。それを何とか起こそうと奮闘している電。
「かんぱーい!」
「何だかよくわからないものにかんぱーい!」
まだ呑んでいるポーラと隼鷹。そんな光景をニコニコと見ている鳳翔。
「大体だ…足柄も提督も、私を誤解している…私だって…私だってもっと提督に甘えたいのだ!」
そして泣き上戸になっている那智。その隣には日本酒の空き瓶、ビールの空き瓶、ワインの空き瓶、シャンパンの空き瓶と転がっている。どれだけ呑んだ。
「…こりゃ明日は大惨事ね。…誰が片付けやると思っているんだか。」
「ははは…でも…こういうの悪くないかもしれません。」
「そうね… こうやって皆でばかやって騒げてるのは…いつまで出来るか分からないから…今やっていて楽しまなくちゃね…。」
次に私もこの場にいる保証はないんだし…という言葉を陽炎は飲み込んだ。
—————————————————
「ふぅ…閣下の絡み酒にも困ったものだ。」
ブイン基地の提督は疲れたように部屋の明かりをつけた。そして先客がいることに気が付いた。
「ん…なんだ、長門。既にここに居たのか。」
「…ああ、提督。おかえりなさいだ。少々物思いに耽っていた。」
「珍しいな。いつも凛々しく立つお前が呆けているとは。」
「…なに、私だって感傷くらいはある。」
長門は椅子から立ち上がると提督の前へと歩いてきた。
「それで、用件はなんだ?ただ私に会うために来たわけではあるまい?」
「…ああ、そうだ。」
しゅるりと布が擦れる音が鳴る。長門は着ていた簡素な部屋着を脱ぎ下着へとなった。
「…そちらのお誘いか?」
「…そういうことだ、察してくれ。提督。」
提督は長門をダブルサイズのベッドへと座らせた。そしてシャツを脱ぎながら彼女に言った。
「しかし珍しいなお前から誘いがあるとは。」
「…たまにも私は溺れたいのだ。忘れたくなるほど嫌なことがあった時…などはな。」
「そうか…ならばその気晴らしの相手に付き合おう。」
「…ああ、貴方はやはり私を見てくれる。長門ではないワタシを… やはりあなたこそが…俺の…私の安息…」
賛否両論があるのは分かってますが自分はこの作風を突き通しますぜ。
この作品の副題は
『ご都合主義で終わらない』
だからな!