闇の隣に虚あり   作:ジャンボどら焼き

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未来へ繋がる出会い

 ヤミとレイが同居してからそれなりの月日が流れた。

 漂着者のヤミと海岸暮らしのレイは町の誰もが知る存在となり、また喧嘩相手を片っ端からボコボコにしていく様から『海岸の双子悪魔』と呼ばれている。

 町を歩けば誰もが目をそらし、話しかけてくるのは腕試しとばかりに挑んでくる物好きだけ。そんな相手を返り討ちにする生活を送る二人は、瞬く間に町のトップに上り詰めた。

 

 そんな彼らは現在、太陽の昇ったばかりの海岸で互いの獲物をぶつけ合っていた。

 

「おらぁ!」

「おっとと!」

 

 カンッ──甲高い音を立ててぶつかり合うのはヤミお手製の木刀。

 刀を持っていただけあり、剣術に関してはそれなりに心得のあるヤミが若干優勢ではあるが、レイもまたその身体能力を生かして互角に戦う。

 

 町のトップに上り詰めた後、彼らに挑むものはいなくなり。体を動かさないと鈍るというので、こうして二人で修行を兼ねて戦っているわけだ。

 

「よいしょ!」

「チッ、また目眩ましか!」

 

 砂浜の砂を巻き上げヤミの視界を奪うレイ。相手の姿を見失い舌打ちするヤミだが、

 

「──そこか!」

 

 右側に木刀を突き出すと、カンッ、という音が響く。煙が晴れるとそこには、ヤミの木刀の切っ先を受け止めるレイの姿が。

 

「気配は完全に消したと思ったのに……やっぱりヤミの”氣”を読む力はすごいや」

「見よう見まねでモノにしたテメーに言われたくはねぇよ、この才能マンが」

 

 ”氣”。それは人から発せられるエネルギーで、ヤミはこれを感知することで視界を塞がれた状態でもレイの居場所を突き止めたのだ。そしてそれはレイも同様で、彼の場合はヤミの真似をしていたら手に入れたモノで、精度ではヤミには数歩劣っている。

 しかし本来”氣”を感知する力はヤミの祖国である日ノ国の技術で、それを真似ただけでやってみせたレイは確かに戦闘に関する天賦の才能があるのだろう。

 

 互いに一歩も譲らない攻防の中、この均衡を破ったのはヤミだった。

 ヤミは自身の木刀に魔力を込めると、その刀身を黒い魔力が包み込む。

 

「ちょ、ヤミそれは反則だよ!」

「うるせえ! いい加減くたばれや!」

 

 魔力を帯びた木刀を振るうヤミ。レイも咄嗟にその一撃を木刀で防ぐが、なんの魔力も帯びていないただ木刀は無残に砕け、喉元に切っ先を突きつけられる。

 

「はい、俺の勝ちー」

「もう、それ使うのは卑怯だよ」

「知るか、勝てばいいんだよ勝てば。というわけで、今日の食料調達よろしく」

 

 負けた人がその日の食料を調達する。そのルールに従い、渋々ではあるが朝食の食材を取りに、レイは森へと向かうのだった。

 

 現在126戦。

 戦績:ヤミ 54勝50敗22分け──レイ 50勝54敗22分け

 *ヤミの敗北と引き分けは魔法使用無し

 

 

 

 

 

 

 レイの住む海岸の近くにある森の中。視界を埋め尽くすほどに生い茂る樹々、その枝から枝へと飛び移りながら移動するのは食料調達に出かけたレイだった。身軽に樹々の間を飛ぶその様はまるで忍者を連想させる。

 現在レイが森に入って大体10分が経過した。しかしおかしなことに鹿や猪といった動物はおろか、鳥のような小さな生き物すら視界に収めていない。

 

「……おかしいな。普通なら鹿の一頭や二頭は見つけられるはずなのに」

 

 なぜか森の動物たちが姿を消してしまっている。

 いったいなぜ、レイが疑問を抱きつつ森を移動していると、少し先の場所で火柱が上がる。

 

「うわっ……とんでもない魔力だなぁ」

 

 ヒリヒリと肌に感じる魔力に呆然とするレイ。あれほどの魔力量を持つ魔導師がなぜこんな森の中に来ているのか。

 一目見ようとレイは走る速度を上げ、炎の上がった場所へと向かうとそこには

 

「……女?」

 

 橙色の長髪を靡かせ、巨大な炭の塊の上で腕組みをする一人の女性が。よく見ればその塊は獣のなれの果ての姿で、先ほどの炎はこの獣を炭に変えたものだったのだと理解する。

 後ろ姿しか見えないが、彼女がまとっている赤いローブ、そして背中に描かれた獅子の紋章。あのローブと紋章は確か、クローバー王国 魔法騎士団の一つ

 

「……紅蓮の獅子王」

「──誰だ!」

 

 咆哮。獅子のそれを思わせるような一声とともに、女性はヤミよりも鋭い双眸でレイを射抜く。

 あまりの威圧感に、つい逃げ出しそうになったレイはなんとかその場に踏みとどまり、女性の前へと飛び降りる。

 

「何者だ貴様。もしや他国の刺客か?」

「えぇと、僕は『平界』の海岸に住んでいる者です。貴方は紅蓮の獅子王の団員ですよね? なんでこんな森の中に?」

「なに、『王貴界』は居心地が悪くてな。自然世界の方が過ごしやすいから、こうして足を伸ばしているだけだ」

 

 なんとも野性味にあふれた言葉を口にする女性に、レイは心の内で苦笑いをする。

 すると女性はレイを観察するかのようにつま先から頭まで眺め

 

「……どうかしましたか?」

「いや、なぜ『平界』の人間が、しかも早朝に森にいるのかと思ってな。なんでだ」

「それはその、朝食の食材を狩りに……」

 

 レイの言葉に女性はさらに視線を鋭くさせる。

 

「見た所魔導書(グリモワール)も所持していないが、その歳で狩りをしているのか?」

「まぁそうですね。獣程度なら素手で十分なので……それがどうかしましたか?」

「……なに、ただ気になっただけだ。では私はまだ行く所があるのでな」

 

 そう言うと女性は踵を返し、森のさらに奥へと向け走り出す。走る、といってもその速度は相当な速さで、瞬く間に女性の背中は見えなくなってしまう。

 なんとも不思議な女性にしばらく呆然とその後を見つめるレイだったが、すぐに我に返り朝食の捕獲へと移った。

 

 

 

 

 レイと別れ、森のさらに奥へ奥へと進んでいく女性。鳥よりも早く森の中をかける女性は、走りながら先ほどの少年のことを思い浮かべていた。

 

(それにしても背後に寄られたのは久しぶりだったな)

 

 魔力の探知には自信がある。しかしあの時、少年が口を開くまでその存在を認識できなかった。

 正面で話し合うと魔力は確かに感じられた。だがそれまでは少年からはなにも感じ取ることができなかった。まるで魔力そのものが空虚な存在であるかのような、そんな不思議な魔力を秘めた少年。

 

(もし魔法騎士団を目指すのなら……数年後が楽しみだな!)

 

 ニタリ、鋭い八重歯を覗かせ獰猛な笑みを浮かべる女性。

 彼女の名前はメレオレオナ・ヴァーミリオン。紅蓮の獅子王の団員にして、若くしてクローバー王国女魔導師の最強の一角と噂されている女傑である。

 

 

 

 

 

 メレオレオナが森を去ると、隠れていた獣たちも姿を現しようやく朝食の食材を狩ることができたレイ。

 イノシシを担ぎヤミの待つマイホームへと戻ると、ヤミは退屈そうに砂浜に寝転がり空を見上げていた。

 

「ヤミ、ただいまー」

「おぅ、随分遅かったじゃねーか。どうした、野糞でもしてたか?」

「それがさー、聞いてよヤミ」

 

 レイは先ほど森であったことをヤミに話す。

 

「獣を黒焦げにした女性騎士団員のせいで、獣が怯えて姿を隠していたと。んでそのせいで遅れたと」

「そうそう。いやーすごかったよあの炎の魔法、そりゃ動物たちも隠れちゃうよね」

「世の中おっかねー女がいたもんだな」

 

 処理を終えたイノシシ肉を串に刺し、焚き火にかける。焼きあがるまでの間、どうしようかと話し合ったところ

 

「んじゃもう一戦やっとくか?」

「いいよ──負けた方は?」

「街に行って水の買い出し」

「おっけー!」

 

 二人は木刀を手に、再び模擬戦を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 

 その頃、レイたちのいる街の中では。

 

「ねぇねぇ、あれって!」

「うん、間違いないわ! 『灰色の幻鹿団』団長のユリウス様よ!」

 

 街ゆく人の視線を奪うのは、柔和な笑み浮かべる男性。そんな彼に人々は手を振り笑顔を向ける。

 そして彼が魔法騎士団であることを証明するように、鹿の紋章が刻まれた灰色のローブ──灰色の幻鹿のローブが。

 

 男の名前はユリウス・ノヴァクロノ。灰色の幻鹿の団長にして、次期”魔法帝”に最も近いと言われている魔導師である。

 ユリウスは人柄もよく、差別や偏見といったものを持たず皆平等に接する、つまりは国民からの人望厚い魔導師なのだ。そんな彼が『平界』の街中を歩いているのだから、街はちょっとしたお祭り騒ぎになっても仕方のないことだろう。

 

 話しかけてくる国民一人一人に挨拶を返しながらパトロールを続けるユリウス。街を抜け、海岸へと向かったユリウスは波の音をに耳を立て一つ深呼吸をする。

 

「いやぁ、今日もみんな元気そうで何より何より! ね、君もそう思うだろう?」

「はい!」

 

 付き人の団員に何気ない会話を振るが、返ってくるのは堅苦しい返事だけ。もう少しフランクに接したいユリウスは

 

「固い固い。そんなんじゃ国のみんなも話しかけづらいよ。もっとフランクに、ね?」

「は、はぁ……善処します」

 

 はははっ、と笑いながら海岸沿いを歩くユリウスと団員。

 その途中、

 

「──せぃ! そりゃあ!」

「──チッ、おらぁ!」

「……ん?」

 

 どこからか聞こえてくる若い少年の声。キョロキョロと辺りを見渡し声の主を探し、砂浜へと視線を向けると

 

「まだまだっ、行くよヤミ!」

「ったく、相変わらずしぶてーな!」

 

 そこには二人の少年が木でできた剣を手に戦っている光景が。

 そんな少年たちを目にしたユリウスは思わず彼らを凝視してしまう。

 

「あぁ、あの子供達ですか。この付近では結構噂になっているそうですよ、彼ら」

「へぇ、どんな噂なんだい?」

「なんでも、彼らは捨て子と異国から来た子供だそうで。住む場所もなく、この海岸に自ら家を設けて暮らしているそうです。ただ喧嘩がめっぽう強いらしく、この街の荒くれ者の殆どは彼らに負けて大人しくなったとか」

「なるほど、捨て子と異国の子供かぁ……」

 

 団員の話を聞き、再び少年達へ目を向けるユリウス。その瞳はどこか悲しげで、憂いを帯びたものだった。

 それは偏にあの年の子供が、ちゃんとした場所に住むことができないことに対してだった。捨て子や異国の民といったものは、この『平界』においては差別するものに当たる。

『差別ない世の中』を目指す彼にとっては、砂浜で剣を打ち合う二人の姿はとても居た堪れなかった。

 

「さぁパトロールを続けようか。少しでも早く、彼らのような子供を出さない世の中にするために」

「はい、ユリウス団長!」

 

 これが後の団長と団員の一方的な出会いだということを、目の前の相手との戦いに夢中な異国の少年は知る由もなかった。

 

 

 

 

 




次回は時間は飛んで魔導書(グリモワール)授与になる予定です。

それにあたり、カルテットナイツをプレイした方はわかると思いますが、若ヤミさん(14歳)のストーリーは無しで行きます。

理由は──PS4家にないんで……。


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